2024/07/24 のログ
ご案内:「常闇の水平線」に橘壱さんが現れました。
ご案内:「常闇の水平線」に伊都波 悠薇さんが現れました。
水仙 萌音歌 >  
常世学園 某日。
夜のさざなみが静かに響き満月の夜。
月明かりが満天と砂浜を照らし、仄暗い海に乱反射する。
くるりと回るは一人の少女。花文様に黒の着物。
ちょっとおしゃれなハットと旧時代めいた姿をした祭祀局の少女。

「此れは此れは、お越しいただきありがとうございます。
 風紀委員会の橘壱殿。並びに伊都波悠薇殿とお見受けいたします。」

(わたくし)水仙萌音歌(すいせんもねか)と申します。
 兄様とその女のケツを追っかけてやってきた"天才"退魔師でございますので、どうぞよしなに。」

ぺこり。二人に頭を下げる。

橘壱 >  
「(クセ強いなコイツ……。)」

一方呼びつけられた方の少年。
レンズの向こうで中々の癖のある自己紹介をされて面食らった。
今回は祭祀局の手伝いということで、三人での仕事内容となる。
橘壱という企業の広告塔が仕事に絡むだけで、視線は幾つか増えるもの。
夜の闇に解ける静音ドローンが、三人の行くすえを上空で見守っていた。

「どうも、橘壱です。よろしく……にしても、なんだ……。」

一緒に連れてこられた少女、悠薇の方を一瞥した。
正直最後に出会った時があんなんだからまさか会うとは思わずやや気まずい。
あの時と、あの時とも違い、明らかに気まずそうにしてる辺り
随分と雰囲気が丸くなったことが既に空気で伺えるだろう。

「悠薇"先輩"も、今日は僚機(ウイングマン)として宜しくお願いします。」

おずおず。ちょっと慣れない感じで彼女にも頭を下げた。

伊都波 悠薇 >  
「よろしくお願いします」

お辞儀を返す。

――自分が指名されるなんて

正直、話が来たときは、不思議だった。
一人なら、あの時と違って断る予定だった。
焦ることはないし。ゆっくりと、でも思っていた。

けれど。

もう一人、組む予定の人物がいたから引き受けた。
なにせ、心配すると、告げた手前、一人で行かせる択はなかった。

「はい、足を引っ張らないように、しますね」

何かあったのかなと首を傾げながら。

「このあと、どうすればよろしいでしょう?」

今回の件の先を促す。

水仙 萌音歌 >  
「あ、それと(わたくし)目が見えないのでこういった手助けが必要な次第。
 ぶっちゃけ暇そうな方なら誰でも良かったので気負う必要はありません。」

「お二人共、私の手足となり、目耳となり、どうか馬車馬のように働いてくださいまし♪」

笑顔でそう告げる少女。
物腰の柔らかさとは裏腹にしれっと言葉は中々苛烈。
傲慢、不遜。これから手伝って"もらう"というのに中々肝が太い。

「ええ、ええ。悠薇様は私と共に船で軽く沖まで出てもらいます。
 壱様は自前のその鉄くずか泳いでくださいまし。申し訳ございません、男子禁制で……。」

「それはそれとして、今宵はお祓いです。
 斯様、大海原とはひと繋ぎ。此の常世島にも"(けがれ)"は流れ込んで来ます。」

「俗に言う"怪異"たるものがそうですね。
 今宵は、それを"祓う"お手伝いを、と。
 ああ、ご安心を。基本壱殿を盾にし私がやります。
 悠薇殿は、私の指示に従い道具をとってくださいな。」

「執刀医の言葉を聞く看護師。そのようなものです。
 ささ、怪異はまってくれませぬ。参りましょう。さささ!」

ペラペラとマシンガンめいた言葉の数々だ。
悪意があるのかないのかわかりはしない。
さささ、と抵抗しなければ悠薇の手を取り行くだろう。
悠薇の腰程度の身長差。思ったよりも早い。

向かう先は浜辺に止めてある船。
所謂小型船に該当し、自動で動いてくれるタイプの船だ。
船体にはデカデカと「鉄道委員会」の文字があり、何処が造ったか明白だ。

橘壱 >  
「(だからなんか向こう側に鉄道委員会っぽい人いるんだな……。)」

自分たちの造ったものが無事出向するのみたいよな。そりゃそうだ。
砂浜のさらに向こうで、某外人4コマみたいに待機する人影を一瞥した。

「誰が泳ぐか!!普通にAF使うよ!まったく……。」

声を荒げ、呆れたまま顔を横に振った。
なんかとんでもない奴の依頼を引き受けてしまった気がする。
本当に大丈夫なのか、と不安に思う一方、此れは新装備のテストも兼ねている。
最も、彼女の実力が本物なら、"緊急用"の方は使うことはないかも知れないが。

「足を引っ張らないようにするのは、僕の方っす。
 ……二人のことは必ず僕が護るんで、その人のお守りお願いします。」

今回はそのために呼ばれたんだ。
盾と言う呼ばれ方は癪だが、AF(コイツ)の機能を試すには丁度いい。
元気だなぁ、とはしゃぎ気味の水仙の背中を見ながら壱もついていく。

伊都波 悠薇 >  
「……――」

ふぅっと息を吐く。
足を引っ張らないと口にする後輩。
妹が、ほぼ、一般人であることを知っているだろうに。

「わ」

引っ張られる。
目が見えない、というのに、行動ははっきりしている。
手を取って、先導する姿は、とても、そうは見えない。

けれど。

引っ張る少女の手を、ぐいっと、引き寄せて。

「目が見えないなら、ダメですよ。怪我、しちゃいますから。一緒に行きますから。ゆっくり、転ばないように。だから、慌てないで。行きたい方や、知りたい景色、言ってくださいね」

その調子で前を行けば、転んでしまうことだってある。
それは、嫌だった。

だから、そう、意気揚々と歩く依頼人に告げて。

「いきましょう。真っ直ぐでいいんですか?」

手、ではなく。腕を差し出し、絡ませるように先導する。

引っ張ること、は目の見えない者にとって、不安の種になる可能性があると本で読んだことがあるから。

体全体で、支えることにした。

恥ずかしくて、耳が熱くなるのを感じるが、気付かないこととする。

これは、職務、なのだから。

水仙 萌音歌 >  
「おや。」

ぐい、簡単に引き寄せられた。
その体は実際綿のように軽い。
引き寄せるのも、抱き寄せるのも、自由自在。

「ほほう、ほほう。此れは中々役得役得。
 あの女よりかは些か足りないですが良い肉質。
 此の調子ならばさぞ胸部も豊満でしょうね。羨ましい。」

(わたくし)も後十年経てばせめてこう、ぼいん、には……。」

目が見えない分、少女は他の感覚が鋭かった。
絡む腕だけでもその体型が暗闇の中にぼんやりと映し出される。
恐れ知らず、大胆不敵。仕事前だと言うのにひょうひょうと、自身の胸の前で弧を描く指先。

「─────くす。ご緊張なさらずともご安心を。"とって食いやしませんよ"?」

囁く言葉は艶っぽく、波風と共に悠薇の耳朶に染み込んでいく。

橘壱 >  
「おい仕事だぞ、ちゃんと僕にも聞こえてるからなセクハラ女!」

ぴしゃり、そんな空気を少年が絶った。
水仙も思わず"冗談ですや~ん"と戯けてあっかんべー。
妙な雰囲気に既に先が思いやられる。
頭を手で抑えながらもぽい、と捨てた金属製のトランク。
容赦なく踏み潰せば金属はひしゃげ、広がり、液状のように少年の体を包んだ。

その体は瞬く間に包み込み、蒼白の鋼人へと姿を変えた。
但し、今回は特別な装備なのか全身を真っ黒な布が覆っている。
鋼鉄の体を隠す宵闇は、月明かりさえ吸い込んでしまいそうだ。

『……とりあえずさっさとその女と一緒に船に乗ってください。
 何時までも浜辺であーだこーだ言ってたら、多分コイツヘンな場所連れてきますよ。』

青白い一つ目(モノアイ)越し、モニターの向こうで呆れたように二人を見た。
当の水仙は目をそらしてなんのことやら、と。
……絶対ちょっと遊ぶ気入ってたな、コイツ。
内心呆れながらこっち、と船を指さして鋼の足音が砂を巻き上げた。

伊都波 悠薇 >  
本当に目が見えていないのだろうか。
すごくリアクションが適切だ。

なにか『ある』のかなと思いながらも。

「……ふぅ」

息を整える。

「行きましょう。早く帰れるに越したことはないですしね」

切り替え。

そして、早すぎず、遅すぎず。
歩調を合わせて、船へと向かった。

水仙 萌音歌 >  
そうして乗り込んだ船の大半は甲板である。
緊急用の帆以外に船としての装備はない。
自動で運転するのだ、船頭など必要としない。
船首の先には既に仕事道具と思わしき"座"が用意されていた。
数々の色で引き出しがマーキングされている棚と、二人分の座布団。
その中には何に使うかわからない円鏡に、明らかに此の場に似つかわしくない現代的タブレット端末がといてあった。

「……ふふ、中々肝は座っておられるご様子。
 ですが、此処からです。ささ、どうぞあちらに。私の隣に座ってください。」

悠薇を誘導し、座布団へと向かえばするりとその場を離れて腰を下ろした。
丁寧に膝を曲げ、正座。一切合切曲がらぬ背筋、凛然とした雰囲気が漂う。
どうぞ此方へ、と棚の近くの座布団に座るように促すだろう。

「私達は壱殿を盾に最前線、清めの儀式を行います。
 悠薇殿は私が色を申し上げますので、棚の中身を私に渡してください。
 ……私ではなく、"他人にやってもらわねば意味がない"行為なので、よしなに。」

目が見えぬ割には事を把握する女。
ならば棚の中身を暗記しても然るべきと疑問に思うだろうが
その口ぶりからしてそうではないらしい。
何処となく怪しく笑うと人差し指を口元に立てた。

「ああ、それと……。」

水仙 萌音歌 >  
 
                 「"この先、何があっても彼の声との問答は無用。答えず、聞かず、視ず、無き者としてみるように"」
 
 
 

橘壱 > その言葉を最後に船は出港する。
ゆるい速度で、エンジンに音を立てて沖へ、沖へ。
砂浜が徐々に小さくなり、鉄道委員会諸兄は自らの船が無事動いたことに向こうで歓喜している。
その船の傍を翔ぶのは蒼白の鋼人。
黒いマントをはためかせ、青白いバーニアでの平行移動。
橘壱自身に霊的耐性や術は一切ないし使えない。
ただ、このAF(マシン)は怪異との戦闘も想定しており、計器の類も積んでいる。
魔力計器とは違う、霊障計器が強くモニターに反応していた。

『……何か来るぞ……気をつけたほうがいい。』

少年のノイズ混じりの言葉とともに、周囲の空気が、"淀む"。

??? >  
ちりん、ちりん。
鈴がなる。汽笛が鳴る。周囲は徐々に霧に包まれていく。
視界が閉ざされた海の上。肌纏わりつく湿気は夏のせいではない。
どろりと重くなった空気が肌を撫で、その場の"異質さ"を空気で物語る。
ぴちょり、ぴちょりと霧に紛れて"何か"が歩く。
何かは分からない。人の形をした何かだ。
その水面を歩く某の足音を聞くだけで、背筋が凍えるような悪寒が周囲を取り巻いた。


"直視"してはならぬ。


その場にいる全員の本能に告げさせた。

『……"口開け"』

まるで耳を、口を(ねぶ)り回されるような不快感。
人の声ではない。雑音めいた不快感であるが言葉の意味を否応なく理解してしまう。
ただ、言葉を聞くだけで心に手を突っ込まれ、かき回されたような不快感さえ感じる。
逃れるために従うか。或いはそれに耐えるのか。
その返答や、如何に。

伊都波 悠薇 >  
コレが一人であったなら。
きっと声を上げていたに違いない。
けれど、一人ではないため。

「――……」

ふぅっと、もう一度息を吐いた。

座禅、精神統一。

武を、嗜む程度の力量しかないが。
それでもやってきた『量』だけは、誰よりも多いと自負している。

だから。

――聞こえない、とした。

ここからは。

隣の少女の、『手足』となることに徹するとする。

水仙 萌音歌 >  
「ふふ、良い集中力です。
 そうそう、"そのまま"お願いします。」

勿論仕事である以上適当な人選選びはしていない。
非異能者の鋼の鎧の少年と、持たざるものの少女。
実のところ、不安はあった。その人としての気質。
問答一つ、"答えてしまうことも視野に入れていた"。
しかし、その精神統一から"禅"の心、"武"。
此れなら心配はあるまいと、袖で口元を覆いくすくす笑う。

「……萌黄と小豆の棚を。」

徹すると言うなら動いてもらおう。
指定した棚を開けば、ピカピカの書道用紙と筆と墨一式。
一見すると、とてもじゃないが退魔用の道具には見えない。

??? >  
ちりん、ちりん。
鈴の音が鼓膜を叩く。
出せと言わんばかりに戸を叩く。
人の口に戸口は立てられぬと言うが、お構いなしにちりん、ちりん、と叩く。

『手を出せ。見よ。』

おどろおどろしく、泥土のように纏わりつく不快な雑音。
ぴちょり、ぴちょり。足音が大きくなるそれは姿を霧より姿を表した。
直視してはならぬ怪異。一見それは琵琶法師と思える風体だろう。
右手に杖を持ち、ぴちょり、ぴちょりと水面(みなも)を歩く。

然るに、決してそれは"人ではない"。
腐臭。爛れ、蕩けた顔は形を成さぬ。
四肢は肉の意味を成さず、どろりと海面へと沈んでいく。

六根、六魔。この世非ざる怪異也。

橘壱 >  
当然、少年のモニターにもそれは映り込んだ。
但し、"映像処理"がされているため、その姿は"ぼんやり"認識出来るだけ。
ただ、それでもこの世非ざる存在に目を見開いた。
全身から溢れる脂汗。自然と息を呑み、思わず後退しそうになる。

『……っ。』

だが、踏み止まったのは船の上。
せっかく背中を押した人物が見ているのだ。
此処で一人ビビっていたら、意味がない。

『(やるぞ、Fluegele(フリューゲル)……!)』

内心の決意とともに、一つ目(モノアイ)が光り輝き、船首の二人。
少女二人の盾になるように、鋼人が前へと躍り出た。

伊都波 悠薇 >  
――え、と。

言われたものを探す。
すぐに覚えるなんて天才ではないから、間違えぬように。

集中して、棚を引く。

その中のものを、どうするんだったか。

隣の少女に中身を『渡す』。

ソレが終わったなら、また。息を吐いた。

声は出さなかった。
いいや、出せなかった。

手渡した少女にはわかる。

妹は、震えていた。

つまりは――

やはり、ただの普通の、少女なのだ。

水仙 萌音歌 >  
震える手には気づいていた。
なんとまあ、か弱きもの。お可愛いことで。
とは言え、万一の失敗は許されない。
"相手が相手"。失敗すれば三人仲良く水底行き。
道具を手渡された時に囁いた。"大丈夫、我等がおります"、と。
それは、(うろ)にどよめく怪異の声とは相反するもの。
穏やかで(ほが)らかで、太陽のように優しく温かい。
自然と人の気を落ち着かせる"言の葉の力"を持っていた。
自称天才退魔師、祭祀局所属生徒、水仙萌音歌の本領。
それは、"言の葉"に有り。

「"お借りいたします"。悠薇様」

にっこり笑顔で受取、墨を擦る。
さざなみに攫われる削音。
削った墨をすずろのままに筆に流し、紙に流す。
言の葉とはその声に、文字に(まじな)いを宿す事。
古来より伝わりしものではあるが、水仙はそれの使い手だ。

「"海座頭(うみざとう)"。それが、貴方様の真名。
 さぁ、来なさい。我等三名。三者三様を以て祓って魅せましょう」

乱れ無き墨の文字。
怪異にとっての真名看破とは、彼らの立場を"対等"にする意味を持つ。
此れにより、漸く此方が祓う準備が整った。先ず、ここからだ。

「さて、先ずは此れで互いに声が使えます。もう喋って頂いて結構。
 ……時に悠薇殿。習字の心得はございますか?」

海座頭 >  
『……!』

名を、呼ばれた。
水底よりて、数多の魂と船を沈めて来た伝承の名。
畏れを呼ぶとは即ち、其の存在を呼び、注意を向けさせる事。
不意に風が、吹きすさぶ。嵐の如き暴風。雨風。
霧を巻き上げる情景はまさしく嵐。
あらゆる海難を起こしてきたおぞましく怪異が一つ。

水面(みなも)に浮かび上がる残骸。
木片、鉄くず。それは数多の船の残骸。
それより手招く薄らな遍く腕がこちらへ、こちらへ、と誘う。
目を合わせてはなぬ。聞いてはならぬ。
聞けば瞬く間に、"(いざな)われる"。

『聞け、答えよ。其の名。其の声。』

泥土とした肉を零して、船へと迫る。
海難を起こす畏れ、其の意味を示すための涅槃の歩み。
然れど、ぴちょりと足は止まる。

橘壱 >  
『…………一応、聞いた通り、か。』

その歩みを止めたのは、他でもない鋼人だった。
作戦前に聞いたことは在る。
何故かは知らないが、"水に関わる怪異は鉄に弱い"らしい。
発祥は何処かわからないが、あれもまた人の畏れ、伝承と悪意が生み出したものだ。
つまり、水仙の見立通り。AF(マシン)が盾となるのは非常に合理的なのだ。

『二人の所に寄らせはしない。僕が沈んでもな……!』

腰のハンガーにマウントしてあるライフルを握り込み、容赦なく発砲。
爆音と共に鉛玉が空を裂き、着弾した海に水柱を巻き上げる。
勿論、此れで倒れるなら苦労はしない。弾は全て、悉く怪異の体を通り抜ける。
物理的に倒せる存在ではないことを証明しているが、"効果"はある。
事実、海座頭が怯んでいる。時間稼ぎだ。二人に近寄らせなければいい。

伊都波 悠薇 >  
誰かがいる。
それは安心できるときと、そうでない時がある。

今は、安心――仕切ってはダメなときに思えた。

「いいえ。習字は、習ったことはないです。小学校の授業でした程度で」

話せる、と言われれば応える。

そして、海座頭、と呼ばれるものはどんなものなのか。
あとで調べようと、少しだけ好奇心を出したようにして。

恐怖を隠した。

水仙 萌音歌 >  
「結構。字が書ければ充分です。
 (わたくし)の退魔術は言の葉の力。
 言葉、文字、如何なる方法でそれを現実にします。
 早い話、(わたくし)が飛べと申せば壱殿は吹き飛ぶでしょう。」

「特に、"他者"に借りることでより力を発揮する。
 お筆と墨。おかげで簡単に"対等"になれました。」

だからこそ、誰かに手伝わせる必要があった。
不遜、傲慢。そんな態度とは裏腹に真価は手を取り合う事。
相手は伝承の中の怪異の形。恐らく、自分一人ではもっと手間だっただろう。
三つ指立て、先ずはぺこりとお辞儀を一つ。
そして、顔を上げればにっこり。なんだか満面の笑み。

「それでは、"悠薇殿の言葉で精一杯の罵倒をお書き上げください"。
 攻撃的な言葉は攻撃的に。悪意には悪意を以て滅する。」

「それが、(わたくし)がお家元を離れて練り上げた術で御座います。
 書いては流して、書いては流すだけ……どうぞ、宜しくお願いします。」

時代が変われば、その全貌も変わる。
彼女がたどり着いた場所は即ち、"現代式退魔言葉責め"である。
くるりと船首、向かい合うは海座頭。

「────お聞きしましたか?生臭坊主。
 美少女二人とおまけの言葉に感謝して昇天しろ腐れ野郎♪」

傲慢、不遜。この態度の意味はこの術の為にあり。
余りにも雅さ風体だけ飾ったストレートな言葉責め────!

海座頭 >  
『おぉ……おおぉ……!!』

如何ともし難く、余りにも俗っぽい退魔術であろう。
然れど効果覿面。御言葉一つ。腐れの肉体が水面(みなも)を後ずさる。
はぁー、と吐き出す苦悶の吐息は空気を淀ませ、悪臭を漂わせる。
腐臭。それも、人の腐ったような度し難き臭い。
一歩、また一歩。怪異は水面を後ずさり。

橘壱 >  
それを更に手助けるように、鉄鋼弾が水柱を上げる。
でしゃばえりはしない。その背中には二人分の命がかかっている。
海座頭の所業であろう、水底から伸びる腕。
時にそれは、悠薇や水仙を掴まんと四方八方、伝承どおりに引きずり込まんとする。
だが、それは叶わない。自在に飛び回る守護の翼。
鋼人の手の甲から伸びる実体剣、高周波ブレードが薙ぎ払う。

『……なんか思ったよりもあれな術みたいだけど効果はあるんだな。
 周りは気にしないで。僕は絶対に届かせないから。頼んだ。』

背後の悠薇へとそう告げると、更にライフル弾を水面へと撃ち込んだ。
一人の指揮官の下動く二人の手足。実に流れは順調だった。

伊都波 悠薇 >  
「ば、罵倒?」

なにを、どうしてそうなったのかという疑問は浮かぶが、口にはしない。

しかして、困った。

生まれてこの方、罵倒はあんまり、した覚えがない。
なんとも難しい、指示だった。

頭。頭と浮かんだので。

習字。

するりと書いた言葉は、

『オハゲ』

それくらいしか、思い浮かばなかった。

生まれてこの方、誰かをハゲ、なんて言ったことがない。

言ったことがない、『初めての罵倒』。

さて、それにどんな価値が出るかは――

「お、お願いします」

書いた習字を渡し、その結果を待つとする。

橘壱 >  
当然モニターにも見える。その習字の文字。
モニターに見える『オバケ』の文字に流石の壱も顔をしかめた。

『小学生の罵倒かよ……。』

水仙 萌音歌 >  
「小学生の罵倒で御座いますね。」

意見が一致した─────!
ともあれ、受け取ればそれを突きつけ、口元を袖で隠す。

「数多の船を沈めし畏れでしょう。
 しかし、しかし。所詮はオバケ、貴方様はその程度の価値しか無いのです低能怪異♪」

誇張表現、ハッタリとも言う。
舌先三寸。しかし、効果はある。
怪異は苦悶の声を上げ、少女はにんまり、ほくそ笑む。

「ささ、なるべく丁寧な字でどんどん書きましょうや。
 それこそもう、目一杯、憎たらしい気持ちを筆に乗せ、どうぞ」

伊都波 悠薇 >  
「うえ!?」

まだ書くのか。
大変だ。

「え。ぇぇっと……」

小学生の罵倒、と、言われても。
そんな人の悪いところを見ることが少ないから、そもそも、出てきにくい……

「あ、あばれんぼう? これって罵倒なのかな……えぇっと?」

とりあえず、書いていくこととする。知っている単語を。

『あんぽんたん』

『おたんこなす』

『めいわくやろー』

『でりかしーなしやろー』

必死に頭を捻って。

「……こ、これくらいでいいですか?」

出てきたのはコレくらい。書いたものを、手渡した。

水仙 萌音歌 >  
「当然、数が必要なのです。数が。
 怪異(あれ)は中々の大物です。それだけ数が必要なのです。」

小物なら一言あれば充分だが、そうとは行かない。
あれは海座頭。数多の噂が形となった怪異だ。
書き上げられた言葉を受け取っては罵倒し、受け取っては罵倒し。
まさしく阿吽の餅つき也。なんて嫌な言葉の餅つき。

「(しかし……ある意味人選間違えましたねぇ……。)」

想像の五倍くらいいい子だった。
次はもうちょっと人を罵倒するタイプのお手伝いさんを用意しよう。

海座頭 >  
然り、流れは順調。
ともすれば侮ること無かれ。
目の前にいるのは、怪異である。
遍く船を沈め、怨恨引きずりては練り歩く畏れの一つ。
それは意図せずとも不条理であり、不都合であり、故に、怪異なのだ
背の琵琶を手に持った。べん……耳朶に染み込み琵琶の音。

『聞け。聞け。聞け……。』

べん、べべん。
不気味な不協和音。心を淀ませ、耳を腐らせるような、酷い音色だった。
とてもではないが音楽とも呼べない。一切合切の律はない。
故に、畏れである。不協和音が、牙を剥く。
音を、空を揺らし、水面が空を割いた

水仙 萌音歌 >  
「……!」

それは刹那の反応。
目を見開き、悠薇を強く押した。かばったのだ
瞬間、打ち上がった海水が突き刺さった。
喉を、腕を、肩を、血潮となって甲板を染める。
水の刃。これは"予想外"だ。壱と悠薇のせいではない。
此方の準備不足が怠った結果なだけ。
侮っていた訳では無いが、そのような術まで使えるとは予想外だ。
成る程。沈めるための手段は選ばない。怪異らしい節操のなさ。
全身を切り刻まれ、血の海に沈んだ瞬間だと言うのに、ひょこりと半身を起こした。
手足はまだ、繋がっている。指先の血の紙になぞり、悠薇に微笑む。

『申し訳有りません。喉を潰されてしまいました。
 致し方ないので、奥の手を使わせて貰いますので、お手伝い願えますか?』

橘壱 >  
『……!?何だと!?二人とも……!!』

計器に反応しなかった。
いや、反応する時間もなかった
なんという速さだ。盾になると言った手前、その仕事すら果たせなかった。
だが気落ちする暇はない。機体を船へと寄せ、覆いかぶさるように二人の盾となる。
それでも怪異は手を緩めない。水が、爆ぜる。
霊視防御用のマントは、物理的攻撃には意味がない。
布はたやすく切り裂かれ、装甲にダメージが嵩む<危険(レッド)アラート>

『何度も受け続けれないな……!
 僕が前衛を張っておきながらなんてザマだ……すまない、二人共……!』

伊都波 悠薇 >  
「水仙さ――!?」

声が、出なかった。
当たり前だ。
眼の前の惨状はひどいものだ。

でも、何故か、笑っている眼の前の少女。

あぁ……怖い……――

震えながら。

「なにを、すれば……?」

足手まとい。やはり、足を、引っ張った。

そう、思いながらも。

それでも、手伝うことはやめなかった。

水仙 萌音歌 >  
けほっ。軽く咳き込んで血を吐いた。
元々痛みを感じないが、此れは中々に重傷。
指は動くが、足は動くが、喉はざっくり切れて声も出ない。
正直動く事も億劫だ。思ったより傷が深い。
生命の危機なのは何より理解している。
勿論、こうなっても奥の手を持ってきた。
そのために橘壱、正確にはそのAF(マシン)を連れてこさせた。
しかし、これはまずい。"恐怖に呑まれている"。
何よりも怪異相手にはあってはならない自体だ
より相手を強くするだけだ。さて、どうしたものか。
と言っても、遣るしか無い。どうするか。真顔のまま一思案。

橘壱 >  
────その肩を先に手を取ったのは鋼の手。
冷たく、人より少し大きな鋼人の(マニュピレーター)
鉄仮面が開き、少年の顔が悠薇を見据える。

「失敗した僕が言えた立場じゃないけど、落ち着いて……!
 怖いのは僕だって同じだ!多分、水仙だって……。
 だから、落ち着いてくれ。頼りない背中かも知れないけど
 アンタは僕に沢山声をかけてくれた。背中を押してくれたんだ。」

最初に出会った不遜さも、慇懃無礼な態度も無い。
多くの経験、縁、絆が少年の態度を変化させた。
それが良し悪しかはわからないが、今の状況においては良しなのかもしれない。
不安を、恐怖を押し殺し、必死に彼女を震える声で鼓舞する。

「……先輩には感謝している。アンタが震えるなら、今度は僕が支える番だ。信じて。」

今出せる、少年の精一杯の言の葉。真摯な眼差しだ。
強大な怪異にはちっぽけな勇気かも知れないが、人を支える言葉は真摯で温かいものだと、彼女が教えてくれたものだ。

「水仙……多分、"アレ"だな?」

使うことはないと思っていた、一発限りのアレだ。
背中のハンガーについた、大きな御柱めいたそれを一瞥した。

水仙 萌音歌 >  
恐れはともかく、二人共やる気があるなら掛けるしか無い。
くすり、笑みを浮かべてすらすらと血文字が紙を染める。

『然り。此処へ来る前に鉄道委員会の方々と共同して開発致しました。
 名付けて、「試作型祓砲(しさくがたしゃくほう)」』

『此処に至るまで、精一杯、祭祀局より霊力を賜りました。
 威力が未知数のため、なるべく使用すべきではないと思いましたが、使います。』

『要するに、ぶっつけ本番。成功するかも上手く起動するかもわからぬ兵器です。
 そして、その引き金は悠薇殿に引いてもらいますが……出来ますね?』

伊都波 悠薇 >  
無理だ。
恐怖は払拭なんてされない。

そういうものだ。でも――『それがどうした』。

いつも。いつも。よくある話。

「うん」

信じてと言われる。最初から信じている。

そも――ふたりとも、勘違いしているのだ。

それはそう。妹は、ここにいる一般人は、『わかりにくい』。

「もちろん」

声は震えながら。

体も震えながら――

恐怖とともに、前に進む。呑まれても、止まらない。

「まかせて、ください」

恐怖を感じながら、笑って。
できる限り、水仙を安心させたいという優しさを見せて。

――恐怖と、正面から、戦うために。

しっかりと怪異を見据えた。

水仙 萌音歌 >  
よろしい、良い返事だ。

『……そこのタブレット端末を手に取ってください。
 それは、そこの鉄クズのカメラ?と繋がっています。
 桜色の棚。眼鏡があります。霊障をある程度和らげることが出来ます。』

(わたくし)、ご覧の通り目が見えませぬ。
 故に、私では引き金は引けませんそこで……。』

ぽすん。許可もなく 悠薇の膝の上に乗りかかった。
最早体裁を気にしている暇もなく、だらりと、どろりとだらしなく血が塗れる。
タブレットの液晶画面には、今Fluegele(フリューゲル)が見ている景色が見えており
発射ボタンと思わしきタップボタンが映っていた。

『此の兵器は、霊力を持つものでしか引けません。
 当然、見えなければ狙いも定めることは出来ません。』

単純明快、試作品だから躊躇っていたのではない。
そんな素養もない壱単独では使えず、目の見えない水仙では使えない。
そう、二人では使えない。此の場で唯一使えるのが彼女だけなのだ。

『どうぞ、私の指を取ってください。
 まだ撃つだけの霊力はあります。私の指を使い、それを押してください。
 しかと、定めて、押し付けてください。いけますね?』

橘壱 >  
その気概を買った水仙と違い、壱は別のことを考えていた。

「(…………)」

此の人は、"何時もそうなのだろうか"。
自分を押し殺すような気配を感じる。
いや、怖いのは自分も同じだ。だけど、これは……。

……違う、今考えることじゃない。

鉄仮面が閉じ、一つ目(モノアイ)が青白く光る。

『……合図は僕が出します。
 確実に当たる位置まで接敵する。だから、任せてください。』

トントン、と彼女の肩を(マニュピレーター)が叩き、そっと離れる。
後は彼女が良しと言えば、行動が開始される。

伊都波 悠薇 >  
血――

血なまぐさい。
吐きそうだ、気持ち悪い。何かが思い出される。

『殺戮』――でも、『まだ』。

彼女は、生きていてくれているから。

「はい」

できるかと、言われれば、頷いた。

いろんなものを内包しながら。いろんなものが、包み込みながら。

それでも――

「ごめんなさい」

イタいだろう、その手を、両手で包みこんで。
震えている、自身の身体。

それを隠すことなく。

「いつでも」

引き金を引く、準備を整えた。

水仙 萌音歌 >  
『ご安心を、痛みは感じませぬ。
 畏れに繋がる機能は、あらかじめ"切って"おります。』

だから、包まれても痛くもない。
それこそ幼子のように、穏やかに笑った。

『では、幸運を。』

一発限りの大勝負。
賽は投げられた。鋼人の姿が暗き水平線へと飛んでいく。

海座頭 >  
是非も無く、余りにも必定。
水底より這い出る手が、弾ける塩水が、一切合切の容赦なく跳ねる。
鉄を切り裂き、その四肢を捕まえる。
斯様なものだ。どれだけ抵抗しようと、暇が僅かに出来るだけ。
迫りくる鋼人の距離が縮まるはずもない。
見よ、徐々にその体は海へと沈む。
仄暗い海底へ、一入に─────!

『……?』

何故、まだ沈まぬ

橘壱 >  
モニターに全体に<危険信号;レッドアラート>が鳴り止まない。
専用の霊障防御も既に切り裂かれ、纏わりつく。
全身が重い。バーニアの推力を全開にしても、容赦なく水底へと引きずり込まれる。
成る程、そういうものなんだ。そういう伝承。
一度掴まれれば逃げることは出来ない怪異。そういう"畏れ"だ。

『だから……!』

だから、だからどうした
人が作った叡智の結晶、鋼の戦士が、両翼に乗せた覚悟を無駄に出来るものか。
歯を食いしばり、目を見開き、バックパックを切り離し、自爆により爆風で加速した

『そこ……だァッ!!』

展開した砲身を怪異の体にぶつけた。
ゼロ距離。決して外さない

橘壱 > 『先輩、今だ!!』
伊都波 悠薇 >  
あぁ……

罵倒、なんてなにも。

何も考えることはなかったんだ。

怖い、最悪だ。

うん――

「『オマエ、気持ち悪いよ』」

怪異、を、侮蔑するようにオマエ、呼ばわりし。

気持ち悪い、と称した。

それと同時、引き金を引いた。

――なんだか、頭が、スッキリしたような気がしたけれど。

身体の震えは、止まらなかった。

水仙 萌音歌 > カチリ、その言葉を実現するように、血濡れの指が押された。
橘壱 >  
砲身より放たれたのは眩いほどの白い光。
畏れを祓うための光だ。
その眩さは人を安心させ、ただ見ているだけで気持ちを落ち着かせるような穏やかさ。
天へと登る光の中に、怪異は呑まれた。跡形もない。
辺りの残骸も、手も、また水底に沈んでいく。
畏れをなくした伝承の破片は、最早海底の礎にしかならない。
モニター越しにただ沈んでいく姿を見るのは、何とも言えない虚しさが在る。

『……なんとか、成功、か。』

ぽつりと呟き、一つ目(モノアイ)が二人を見た。
キラキラと光子の粒が雪ように降り注ぐ。
仄暗い海を明るく染めるのは、さながらマリンスノーのように美しい。

水仙 萌音歌 >  
見事、怪異は祓われた。霧も徐々に祓われていく。
何一つ、何一つ噛み合わねば成し得なかったであろう。

『……お疲れ様でした。良い罵倒でしたよ、悠薇殿。』

へたり。疲れたかのように体を預け、その手に指先で綴る言の葉一つ。