2024/08/13 のログ
Dr.イーリス > 悪神なる大熊を滅した刀による一撃。
その一撃が“王”にまともに直撃してその苦悶の咆哮を聞いた時、イーリスは“王”の討滅を確信していた。

「や、やりました……! みんなが私に力を貸してくれたか……ら……。……!?」

だが、《月輪の王》は倒れなかった。

「ど、どうして…………」

表情が一瞬青ざめる。だがすぐ首を横に振り、冷静さを取り戻す。
一撃で仕留めきれなかっただけ。
イーリスにはまだ余力があるので、次の一撃を入れて次こそ“王”を討滅すれば済む話。

イーリスは眼前の“王”との戦いに集中していた。
油断はせずとも優位は変わらない、そう思っていた。
だが、突然、イーリスは熱と痛みを覚える。

「え……?」

気が付けば、イーリスの下半身が丸ごと吹き飛んでいた。

「ああっ…………ああああぁぁあぁっあぁ!!!!」

あまりの熱さ、激痛で絶叫してしまう。

「う……ぐ……ううぅ……」

しかし、悲鳴を上げるも、痛みの色を見せつつ凛々しい表情に戻る。

「エルピスさんには……本当に、助けられてばかりですね」

その痛みも感情だ。それも下半身を丸ごと溶かされる程の熱線。人が一生の内に、どう頑張っても一回しか体験できない痛み。
そんな痛みの感情が、《感情魔術混合炉》で膨大なエネルギーを生み出す。
エルピスさんより、痛みのコントロール、そして痛みによりエネルギーの技術を教わり、そしてこの日のために特訓していた。

「そちらもその気でしたら、こちらもデートを台無しにしてあげましょうか。ふふ」

メカニカル・サイキッカーが《甕布都神(ミカフツノカミ)》をかざす。

すると、先程の広範囲に渡る光線。それが天空に舞い上がる。
甕布都神(ミカフツノカミ)》には、悪神なる大熊の毒気により倒れた者が起き上がった逸話があるのは先程説明した通り。
毒気の消滅、《紅き月輪ノ王熊》の場合はその毒気とは感染や呪いになるだろう。

「希望よ、降り注いで! うぐ……ッ!!」

引き続き《神話顕現》を行っているので、《パンドラ・コア》の負荷が辛い……。

上空に舞い上がった光線が無数に拡散し、雨のようにして落第街やスラムの広範囲に降り注ぐ、がそれは多くの人々が目視できないかもしれない。霊視などがあればあるいは目視も叶うかもしれない。
しかし、直接ターゲットになっている者達には見えるだろう。
落第街やスラムは広いのでその全域には及ばず、光が落ちてこない地域もあるだろう。

その光は、《紅き月輪ノ王熊》により感染した者、あるいは《紅き月輪ノ王熊》より感染した者からさらに感染が広がった者のみに落ちる。
さすがに全員に落ちるわけではないが、多い数の不完全感染者、完全感染者を呑み込むだろう。
不完全感染者は正常に戻り、そして完全感染者は体ごと浄化する。
もしかしたらまだ判明していないネームドの怪物をも巻き込むかもしれない。強力な屍骸なら、消滅まではならずダメージのみで済むかもしれない。
あるいは光は彼等には目視できているので避けられるかもしれない。
特筆すべきは、目の前の《紅き月輪ノ王熊》以外に熊の屍骸がいるなら、そいつは必ずこの光に巻き込まれる。

なお《紅き月輪ノ王熊》由来じゃない感染者、屍骸については光が降り注がないし、何の効力もない。

紅き月輪ノ王熊 > 「死ぬかと思った。」

率直な感想を告げる。
悪神を葬る斬剣。
悪神、悪神か。

「言ってなかったよねぇ」
「おじさん、アレなんだわ」
「《邪神殺し殺し》とか言われてたらしいよ。死んだあとだけどねッ!」

体から煙が上がる。
随分とまぁ手酷いダメージを受けた。

更に次のイーリスの行動に王は、

更に更に追い詰められていく。

「―――いやぁ、参った参った……」
「ここまで、やるとは、ねぇ……」

落第街を覆わんばかりに注ぐ光。
ソレは。
多くの屍骸を焼き果てた。

そして。

《甕布都神》の光が、
紅き月輪ノ王熊の■■を撃ち抜いた。

なんという事だ……!
重ね重ね思ったが、
こいつはもう生かしてはおけない。


「悪いけど……ここで死んでちょーだい、イーリス。」
「やっと月夜を取り戻せるよ。」

漸く
翳った月蝕から紅き月が元に戻り―――

「夢幻の夜。されど月光を遮るものはない。」

紅き月輪ノ王熊 >  
「月に叢雲非ず
 花に風吹かず」
 

紅き月輪ノ王熊 > それは月を翳らすモノを崩し、
顕現するのみならず、

風すらも通さず、
雲すらも許さぬ魔術。

この月夜を、永遠とするための忌まわしき魔術。

「ふううううう…………」

「これで」

「終わりだ―――!!!」

紅き月輪を背に、

半身を喪ったイーリスへ向かう。

息も絶え絶えに。

だが

殺害欲は、決して絶やさない。



…決着は、如何に。

ご案内:「永遠夜の幻終」から紅き月輪ノ王熊さんが去りました。
Dr.イーリス > 「《邪神殺し殺し》……。そ、そんな…………」

イーリスの声が震えていた。
神話由来の武器から《神話型魔術生成AI》で《神話顕現》する事は万能でもなく、弱点が存在している。
それは、対抗神話だ。
例えば、《竜殺しの剣》は竜に対して有効だ。だが、その竜に《竜殺しの剣》を以てしても倒せなかったという逸話があるなら、《竜殺しの剣》で《神話顕現》しても何の効力も及ぼさない、あるいは効力を落としてしまう。

悪神を葬った《甕布都神(ミカフツノカミ)》。
だがその悪神の熊に、『邪神殺しを殺した』という逸話があればどうだ。
甕布都神(ミカフツノカミ)》はいわば邪神殺しに該当するもので、それを殺してしまうという逸話が《神話顕現》されてしまう。
これが、《神話顕現》の明確な弱点……。

つまりは、熊を倒した逸話があるので“王”にとても有効だと思っていた《神話顕現・甕布都神(ミカフツノカミ)》は、邪神殺しを殺した逸話がある“王”に通じ辛いという事だ……。

弱点を明確に突かれた。
おそらく、先程降り注いだ光は大して紅き屍骸に被害を齎していないだろうし、“王”にも言うほどダメージを与えられていないかもしれない。

「ど、道理で、全然倒せないはずですよ……。素晴らしい武器を貸していただけたのですが、よもやこんな事になるなんて……」

優勢でもなんでもなかった。
その上、ビルよりも巨大な大蝮……。
湧梧さんはとても素敵な武器を貸してくださった。熊が相手なのだから、熊殺しの逸話がある《甕布都神(ミカフツノカミ)》を選んでくださるのは有効な選択なのは間違いなかった。
だが、“王”はあまりにイレギュラー……。よもや対抗神話で覆されるなんて、考えもしなかった……。

そして蘇る紅き月。
こちらに迫る“王”。
イーリスは予想外の出来事による焦りで、隙をつくってしまっていた。

続く……。

ご案内:「永遠夜の幻終」からDr.イーリスさんが去りました。
ご案内:「永遠夜の幻終 - fin」に紅き月輪ノ王熊さんが現れました。
ご案内:「永遠夜の幻終 - fin」にDr.イーリスさんが現れました。
紅き月輪ノ王熊 > 「―――?」
「あれ?」

先ほどまで死ぬ程かと思っていたダメージが。
かの神の気を放った忌まわしき剣によって顕現していたダメージが。

まるで嘘の様。

丁度それは邪神殺し殺しの名を呟いた時だった。

理由はわからない。

わからないが―――恐らく、
神話という概念に、神話を潰した概念が何らかの形で効いたようだ。

堪えぬ殺害欲。

放たれるは、
月の加護を殺戮に変ずる一撃。

紅き月輪ノ王熊 >  

    「月王絶命爪ッッ!!」

     命を、絶やす、一撃。

 

Dr.イーリス > 甕布都神(ミカフツノカミ)》が王熊に有効な武器、とても有効な《神話顕現》を起こせる。
そう思っていた……。
よもや“王”に、邪神殺しを殺したという逸話で《対抗神話》として《神話顕現》されてしまった。

全く予想だにしていなかった出来事。故に、その焦りでイーリスに大きな隙を作ってしまっていた。

「……しまっ…………!?」

イーリスの腰に差している《加牟豆美之刀》は、もしもの時にお守りとして湧梧さんから授かったもの。
イーリスの手が《加牟豆美之刀》に伸びはするが、間に合わない……。

せめて、隙さえつくらなければ《加牟豆美之刀》で対抗できた可能性はあっただろうか……。

(また……私は“王”に負けてしまうのですか……。皆さんから借りた力はとても強大なのに……私自身がとても弱いから……)

焦りで隙を見せたのは、イーリスの弱さが招いた事……。
巨大な蝮の不意打ちがあったとは言え、イーリスはみんなに支えられてここまで来たというのに、あまりに不甲斐ない……。

(生きて帰ってくる……そう誓ったのに…………)

込み上げてくるのは、罪悪感。
生きて帰ってこれなくて……。

(……ごめん…………なさい……)

イーリスは死を覚悟できないまま、だが何の抵抗もできなかった。

ご案内:「永遠夜の幻終 - fin」にワイルドハント・エルピスさんが現れました。
ワイルドハント・エルピス >   
 今まさに死が振り下ろさんとされる、永遠夜の須臾。
 
 王と少女の間を遮るように、異界の大嵐が立ち昇る。

 月光の届かぬ大嵐の中、嵐で見えぬ何かが爪を弾いた。
 嘶きのような金属音が、防ぎ切った誰かの存在を報せる。

「イーリスのためなら、何度だって、信頼だって曲げて立ち上がる。」

 死を与える筈の一撃は、嵐の中の死の象徴が受け留めた。
 
 死を爪弾きにしたものの正体は、"それ"の左手にある機械の棺だ。

 

ワイルドハント・エルピス >  
 『赤き月』が再び登った時、彼女の窮地を理解してエルピスは『残るすべての札』を切った。
 最悪の最悪の斜め下を確信して、日常を取り戻すためになりふり構わず全て切った。
 事務所をひっくり返して、使えるものを搔き集めた。
 
 『想い人が』残していった、 《試作型感情エネルギー砲》(イーリスのユニット)
 『お姉ちゃん』より授かった、《剣帝魔王としての力》(剣帝魔王アスモディス)
 無意識から掬い上げる事の出来た、《自我を得た殺害欲》(ロッソルーナ・エミュレイタ)

 過積載な英雄再現で壊れそうな、彼の自我を繋ぎ留めるのは《混沌の魔力の残滓》(ナナの声)

 こうでもしなければ彼は戦えない身体であった。強引に戦える身体を用意した。
 語るも無粋なロジックで、この場で戦えるだけの身体をギリギリ成立させた。
 纏う気配は異質を極める。王であっても、嗤うにはおかしすぎる異質がある。

「助けにきた。いーりす。」

 右手、異邦の魔王の剣。未知の合金で鋳造された鋼色の剣は『魔王の剣』。
 左手、機械の棺に取っ手を付けた様な形状の大盾。
 背中、イーリスが置き去りにしていた、《試作型感情エネルギー砲》(僕のためのユニット)
 それは、羽織った学ランごと鎖で括りつけられている。

 普段羽織っている学ランも、今は何故か少し小さく見える。
 魔王の力を得た代償として得た大人の女性の体と全身の烙印は、学ランを羽織るだけでは隠せない。
 

紅き月輪ノ王熊 > ―――妙な気配だ。

多分、この男はきっと来るだろうと思っていた。
恐らくここ一番のタイミングで。
爪が嵐に弾きあげられて、後退る。

現れるその身に纏うものは、
幾多の異質さ。



殺害欲
魔力


妙。

妙としか言えない。

それが猥雑で混沌を極めているのはわかる。
王にその多くは理解できなかった。


「うぅん……」

それに―――なにかがチラついた気がした。気のせいだろうか。



それは、良い。

「……」

あれ程おどけた王が、

なんと




黙った

Dr.イーリス > 刹那の時で《加牟豆美之刀》を抜こうとはするが、刀を使い慣れていない事もあってそれも間に合わず“王”の爪の餌食になるのを待つだけに思われた。
突如、目の前に発生する大嵐。

「…………!?」

嵐が“王”の一撃を受け止めた。
その嵐から聞こえて──。

「──エルピスさん!!」

イーリスの形相がぱぁっ、と無垢に明るくなる。

これまでイーリスは屍骸に幾度も殺されかけた。
“王”との初戦の敗北、イーリスを苦しめた呪縛、工場跡の花畑での戦い。
幾度も死にかけて……。
イーリスが死に直面した時。
助けてくれるのはいつも“彼”だった。

エルピスさんの救援に喜びたい、エルピスさんの姿も気になる、だが今は戦いの最中。
花畑の時と違い、イーリスはまだ継続可能な状態だ。

すぐに凛とした表情に戻り、エルピスさんがつくってくれた隙を逃さない。

「ええいっ!!」

今まさに小太刀《加牟豆美之刀》の柄に触れて鞘から抜き、そして投擲した。
イーリスがただ投げるだけでは狙いは定まらない。だが、小太刀の柄には機械仕掛けの輪っかがはめ込まれている。
その輪っかが小太刀を操り、そして後退る“王”の胸部を突き刺そうとしていた。

《加牟豆美之刀》は、日本神話に語られるオオカムヅミのご加護を受けた刀。
黄泉の国にて、イザナミがイザナギに差し向けた黄泉醜女ヨモツシコメや黄泉軍ヨモツイクサ。冥界の軍勢から逃げるイザナギが、黄泉と現世の境目に立っていた桃の木から桃をもぎ取り、軍勢に投げ付けると、黄泉の軍勢はその霊力に逃げ帰って行った。その桃の木にイザナギが名付けた名がオオカムヅミだ。
その逸話に従い、黄泉の者、つまり紅き屍骸のような死者に強烈な一撃を放つ。

「私がもうだめとそう思った時、いつもあなたが傍にいてくださいます。エルピスさん……本当にあなたは……私の“希望”でございますよ」

そう口にして、イーリスは瞳を細めて微笑んだ。

ワイルドハント・エルピス >   
 王の考えは当然だ。この男はやってくる。
 違和感は、彼の姿が"何処から"来ているか。
 その違和感も、王ならば程なく理解できるだろう。

 イーリスが投げた小太刀が届く迄には、理解できる。 

 "王が討伐されていないのに終わる永遠夜が他にもあるとすれば、"
 "どんな道を辿っても、必ず彼がやってくる。"
 "紅き月輪ノ王熊が、討伐されていないのに終わった永遠夜から産まれたように。"

 ──『イーリスのすべて(運命のお相手)を取返しに、王熊の宿敵(最期の希望)』が、やってきた。

 彼が再現したカタチは、認めたくない結末(悲劇の先)からやってきた。
 彼の貌と機械の棺が、象徴として事実を語っている。

「希望になれたなら、よかった。
 でも、信じて待てなかった僕をきらわないで。……できれば、ぎゅーしてほしい。」

 機械の棺を地に落として、真っ先に抱擁を求めた。
 炉への力の供給以上に、過剰な力で壊れそうな自我を支えて欲しいが為に、イーリスを求める。

 戦意を取り戻したイーリスとは対象的に、
 エルピスが不安定な状態であることは確かだ。

ワイルドハント・エルピス >  
 それは、王にとっては嗤うに嗤えない同類(哀しみ)かもしれない。
 あるいは、理解できない異物(執念)かもしれない。
   

紅き月輪ノ王熊 > 「…なぜ?」

純粋な疑問。
そいつは。
目が狂ったのでなければ。
月光が定かであるならば。
"王の慈悲を受け取らぬ"と明言した男の影。

なぜ
なぜ
なぜ
なぜ…


理解できぬ。
理解できぬ。
理解できぬ。
リカイデキヌ。


いや。
それが。
かりに。
ただの真似事であったとしても。

何故あの剣聖の

王と同類の気がある…?

互いに気に入らない。
故に退け合って
全く別の場所にいる。
奴はまだ活動すらしていないはず。


そのはず。


「なぜだ。」

「…ッ…なぜ、だ…?」

「お前は…何者だ…?」


王は、その姿に混じった同類を目にした。
よりによってあの男(■■■■)に、この男(エルピス)か。
更に加えて―――まさか。

その姿を目にした王は何故だと繰り返し続け。



《加牟豆美之刀》を胸に受けた。

途端、崩れ落ちる王。




何だこの感情は…?

なんだ。
理解できない…


何だこれは…何が起こっているんだ…??

突き刺された胸部から王の姿が
まるで幻影のように融解していく。
明らかにそれは、

効いている。

Dr.イーリス > 「黄泉の者を追い払ったとされる桃の神様のご加護が授かった刀です! あなた達には手痛いでしょうね!」

“王”の姿が幻影のように融解していく様子には、疑問を抱いた。
何かが……おかしい……?
“王”は、他の屍骸とはまた別の形でゾンビと化している……?

だが疑問の答えはひとまず置いておき、エルピスさんに向き直る。
エルピスさんはどこか不安な表情をしている……。

メカニカル・サイキッカーの四本ある内の下部左腕に、イーリスの下半身が抱えられている。
漆黒のアンドロイドが下部左腕のイーリスをエルピスさんに近づける。
イーリスは両手を広げた後に、エルピスさんをぎゅーっと抱擁した。

「エルピスさん……ありがとうございます。嫌ったりなんてしません。あなたが来なければ……私は死んでいました……」

そうして、イーリスはエルピスさんに愛情を注いでいく。

「エルピスさん……私の想い…………受け取ってください……。私は……いつでもあなたの事を愛しています……」

ほんのり頬を染めて笑みを浮かべつつ、エルピスさんの唇に、自身の唇を重ねようとする。
エルピスさんにとてつもなく愛情を捧げる。
《感情魔力混合炉》を通じて愛情をエルピスさんの継ぐ力で注ごうとし、それが膨大なるエネルギーになると期待して。

ワイルドハント・エルピス >  
「僕は、僕。」

 辛うじて、それでも確信を持って答える。
 性格こそは重なるものと似ても似つかぬ。

 だが、

僕もイーリスも、おまえは要らない(王の慈悲を受け取らぬ)。」
 
 この一点では、明確に合致する。
 向けられる瞳の奥にも、抑圧された面影がある。

 明確な拒絶の後、背を向けてイーリスを見つめる。
 背を向けた姿にも隙はない。
 混沌の気配が邪魔をするなと威嚇し続ける。

「何度だって駆け付ける。けど……もう、死なないでね。」

 幾種もの愛が籠った、優しい声色。
 喜びを示すように、第三の腕が揺れる。

「……僕も、ずっと愛し続ける。何度でも。何時だって。
 どんなことがあっても……最後には必ず愛する。」

 抑えきれぬ感情が、泣き笑いとして顕れる。
 捧げた愛情を確かに受け取りながら、口づけを交わす。

 とても甘く。されど熱く、そして微かに塩辛い(涙の味)

 口づけが終わると同時に、エルピスを縛る鎖が緩んだ。
 縛ってまで背負ってきた獲物は、イーリスの記憶に新しいものだろう。
 

紅―――ノ―潰― >  

   「お前の慈悲は要らん」


 

紅き月輪ノ王熊 > "王の慈悲を受け取らぬ"

その言葉は、

どう考えても…。

王は黙する。
気付いたかもしれないが、
王は窮地に至る時、口数が目に見えて減る。
おっちゃらけた態度が崩れ、残忍な本性が表に出る。

「……」





わからない。
なぜだという明確な解もない。

見せつけられるソレを茶化すでもなく
見入るでもなく

王は消え逝く体にて、

最後の一撃を備え始めた。

疑念
憤怒
殺害欲

入り混じる感情の中

この劣勢を覆し得る
正真正銘
最強最後の一撃

胸から広がる死者を滅する刺激は、この間にも広がる。


それは、断末魔の最後っ屁?

否。
断じて否。


目に
物を
魅せてやろう


さあ
全てを済ませたなら

王手をかけよ。
向かってくるが良い―――!

紅き鋼鉄ノ大蝮 > じゃ、その間"ちょっと邪魔"させてもらいますよっ?
紅き鋼鉄ノ大蝮 >  

   消滅光線(イレイザーレイザー)

   LOCK ON!


 

紅き鋼鉄ノ大蝮 > ビル程の巨体から繰り出される、
超威力の光熱の閃々。
常人であれば、

常人でなかろうと、
巻き込まれればその名が示す通り悲惨な結末を迎えよう威力。

邪魔をするな?

いーやするね!

なんなら

紅き鋼鉄ノ大蝮 >  


 死 ん で く れ て も い い ん だ ぜ ?

ワイルドハント・エルピス >   
「キミの魂は要らないから、退いて。」
「殺害欲は喜ぶだろうけど、僕はあいつ以外には興味はない。」
 
 機械の棺の蓋が外れ、中から『エルピスと同じ剣を持つ隻腕の機械達』が溢れ出た。
 同時に、魔剣を持っていたエルピスの義腕も切り離される。

 それらの幾つかは熱線の盾となって焼き切られる。
 それでも有り余る数の『魔剣を持つ隻腕の機械』が襲い掛かった。
 否、焼かれた機械も構造を無視して動き出す。

 一振り一振りが流れを読む、計算尽くしの理によって奮われる剣。
 魔力に因って壊れても尚動く、死せる機械の行軍。

 すべてが壊れたエルピスの義腕で、剣帝魔王の魔力(《アスモディスの契約》)によって動かされている。

 ……もしもこの剣に因って何かが斃れたのならば、ここに機械が一つ増えることとなる。
 この剣達は、エルピスが継いだ遺志と、命を奪う罪悪感と、心の傷の顕れ。
 
 これらの正体は、魂を継ぐ奪う(魔剣)。『数ある魔剣』。
 『このエルピス』が選択した、3回の内の1回目の権利の正体。
 所有者が彼でなければ、軍勢はまた別の形であったかもしれない。
 
 紅き鋼鉄ノ大蝮へ、数ある魔剣の軍政が殺到する。
 何度も、何度でも、鋼鉄の大蝮を斬り続け、斬鉄を成する。
 

Dr.イーリス > 「そうです! あなたの慈悲なんていりません!!」

エルピスさんにこくこくと同意して、“王”に言い放った。


「……死なないように……はしたいです……」

その言葉は、少し自信がなさそうなものでもあった。
ちらり、メカニカル・サイキッカーの鞘に納められた最後の一本に目を向ける。湧梧さんから借り受けた武器の一本。その剣の鍔の中央には黄金の宝玉がはめ込まれており、まるで太陽のように煌めいている。
切り札なる剣。だが、その切り札をここまで抜かなかった事には理由がある。
死を望むわけがない。しかし、もう躊躇っている場合ではない……。

互いに唇を重ね合う。
エルピスさんの唇は、いつも、心地よくて、ぽかぽかと幸せな気分になれる。
その幸せにかられてイーリスの瞳から、雫が頬に落ちていく。

エルピスさんへと愛情を注ぐと同時に、イーリス自身、深き愛情により《感情魔術混合炉》から生み出された膨大なエネルギーで《パンドラ・コア》を動かしていた。

《パンドラ・コア》は、様々なリミットを外したコンピューターであり、一度激しい演算に使えばだんだんと自壊していく。その自壊は、昼にエルピスさんを《甕布都神(ミカフツノカミ)》で解呪した時から始まっていた。
元々、《パンドラ・コア》は“王”を討つために開発したものだ。だから、一度使えば短期間だけでも、強力な力を発揮できるように設計されている。
自壊しても動力の《感情魔術混合炉》だけは無傷な仕組みとなっている。だが、もう《パンドラ・コア》は持たないだろう。

やがてどちらからともなく、名残惜しく思いながらも唇を離した。
その時に、エルピスさんが持ってきたイーリス自身の発明品に目がいく。

「エルピスさん……それは、《試作型感情エネルギー砲》……!? それは、失敗作です……! 《感情魔術混合炉》とあなたの継ぐ力により、感情をエネルギーとして強大な光線を発射する兵装……。具体的には、あなたの感情を《感情魔術混合炉》でエネルギーに変えてあなたの継ぐ力により《試作型感情エネルギー砲》より注がれビームを発射します。破壊力は確かに凄まじいもの。しかし、私の設計があまかったせいで、際限なく感情のエネルギーを吸い取るとても危険な兵器です!! 感情のエネルギーに耐えかねて《試作型感情エネルギー砲》が自壊してしまうのはともかく、あなた自身にとっても危ないものです! 使わないでください……!」

鋭い剣幕で、エルピスさんにそう告げる。
確か、応接間に置き去りだったもの……。しまった……。
《感情魔術混合炉》からエルピスさんの感情のエネルギーを際限なく吸い尽くす危険な兵器だから、エルピスさんの身に何が起きるか……。

そんな時、巨大すぎる大蝮が光線を放とうとしていた。
先程、イーリスの下半身を消滅させようとした光線……。

「エルピスさん、あの大蝮から光線がきます……!!」

熱線はエルピスさんに任せて、メカニカル・サイキッカーはイーリスを抱えて天高く飛び立つ。

湧梧さんから受け取った剣、その一本。それでいて、最も危険な剣。湧梧さんから、その危険性は重々警告されていた。
だけど、躊躇っていては“王”は倒せない。“王”を倒せなければ、またエルピスさんが狙われるかもしれない……。
もう、エルピスさんにあんな思いはさせない……。

イーリスの体内コンピューターの指示で、メカニカル・サイキッカーはゆっくりと最後の剣、《不落ナル太陽》を抜いた。

「《神話型魔術生成AI》起動! 《神話顕現・不落ナル太陽》!!」

全長一メートルを超える大剣《不落ナル太陽》から灼熱の火炎が溢れ出し、イーリスとメカニカル・サイキッカーを包み込んでいく。

「……ああぁっ!! 熱ッ!!! ぐぐぐうぅ……!!! あああぁぁっああぁ!!!」

やがて少しずつ形成されていくのは、太陽。
その太陽をまず焼くのは、イーリスとメカニカル・サイキッカーだった。
熱で苦しむイーリスの悲鳴が響き渡る。

紅き鋼鉄ノ大蝮 > 大蝮に向かうは、
熱線にて壊れてもなお動く機械。

溢れ出る無数の斬撃。

何故動くかといえば、
魔力で駆動しているらしい。


ただ、
斬った部分へのダメージが、薄い事に気付くかもしれない。

一瞬だけ損傷が見え、それが瞬く間に全身に分散する。

分散しては、修復する。
その巨体で以て。


"だが"
"もう一発撃って引く"事を選択した。
"仮にこれで全身を覆われたら分散しようがない"からだ。
"今は手札を晒し切るべきではない"からだ。

そして

"アレを相手取るリスク"と
"現状で引くリターン"は―――

概ね一致するッ!


拡散する光熱の波動。

周囲を埋め尽くすほどの波動。

"わりぃな、時間は稼いでやったから、後は頼むぜ!"

白閃の後、
ビル程の巨体が瞬く間に消えうせた―――

紅き月輪ノ王熊 > 異常気象。

熱線の後に晒される夜空には、

月と小さな太陽が浮かんでいた。

太陽の中央には、そう。
かの少女。

「!!!?!?!」

うつく、し、い……

「―――太陽の如き」

「美しき」

「女」

それを見た、
王は、狂った。
焼かれた姿すら美しい。

呆然とした風に、呟いた。

あれは。
あれはァ……!!!!


「……なん……だ…」

「今日は、今夜は」

「どうなっている……?」

「何がどうなっているッッ!!?」

王の慈悲を受け取らぬ奴が現れ。

太陽の如き美しき女が現れ。

天には月と太陽が同時に浮かび。

そして最後の一手を打たされかけた。



なんという、夜だ。

王の体はみるみる融けて逝く。



この永遠(よる)も、

あと、僅か、か―――?



王の前に二つのイレギュラーが、並んだ。


そのイレギュラーに対して、
王が繰り出す

最後の一撃―――

それは―――

ワイルドハント・エルピス >  
 王が動く、刹那。 
 分かっていたかのように力を奮い、イニシアティブを強引にもぎ取る。

「《異界の嵐》《嵐の夜》。」

 魔王としての魔力が、再び大嵐を引き起こす。
 埋め尽くされる熱戦と波動は、一つの大嵐の中へ掻き消えた。

「ねぇ、イーリス。」

 持ち出した砲の危険を説明する彼女の言葉を全て聞く。
 太陽を産み出す過負荷で苦しむイーリスを認める。
 
 陽光に焼かれるイーリスの前に立つ。
 少しでも彼女の痛みを和らげようと。

「焼かれる傷みも受けるし……演算を手伝う。僕にも、分けて。」

「どうしても喪いたくないから、ちょっと我儘する。」 
「僕だって男の子だもん。」

 異能と炉を通し、イーリスが持つ演算の負荷を強引に受け持つ。
 彼女は優しすぎるから、ちょっとぐらい我儘になった方が良いと思った。
 
 過度な演算の負荷は、魔剣を通して機械の軍勢に分散させる。
 魔剣の理からは外れるけれど、それでもできないことはない。
 この魔剣は打ち止めになるかもしれないけど、それでも彼女を喪うよりは良い。

Dr.イーリス > 《不落ナル太陽》を抜く前には、熱で焼かれないよう他の剣を鞘事地面に置いていた。

“王”の体には先程から違和感が多いが……大技を繰り出す様子……。

「……うぅ……。太陽の神々の灼熱は……これ程……ですか……!!」

《不落ナル太陽》は、北欧神話のアース神族、豊穣の神フレイが持つとされる《勝利の剣》。正真正銘の神話の剣だ。
太陽の神様ともされるフレイが持つその剣は、太陽の力が込められている。
さらにこの《不落ナル太陽》は恐ろしい事に、ラー、アポロン、ヘリオス、ルー、八咫烏、スーリヤなど様々な「太陽や太陽神」に関わる物品を集め、勝利の剣と共に鋳溶かして新しい剣に鍛えた物だ。
さらにさらに、極小の太陽まで埋め込まれている。太陽を凄く混ぜてる。
あまりに太陽に纏わる力が集合しすぎて……その灼熱は持ち主をも焼いてしまう……。

灼熱がイーリスとメカニカル・サイキッカーを包み込んで、空に浮かび上がる太陽。その太陽は辺りを眩く照らした。
太陽の輝きは、月の輝きをも増すもの。太陽の前では、月すらも輝く事はできない。

「……体が……焼かれ……ます……!!」

焼かれる覚悟は出来ていたのに、全然想像通りじゃない……。
《不落ナル太陽》の灼熱は……これ程……!?

イーリスとメカニカル・サイキッカーの体は溶けていた。
メカニカル・サイキッカーは無残にも原形を保てず、細い体になっていく。
イーリスの肌が焼かれて機械部分が見えていく。

太陽の中で、太陽の熱で苦しんでいる時、イーリスの前に現れる人物がいた。
その人物は赤い髪でシスター服に身を包んで女性。霊体のように半透明な存在だった。
その女性は、ある者から《太陽の如き美しき女》と呼ばれている存在だった。

???『あら、太陽の力をきっかけに、私の意思が一時的にこの世に顕現したのね。久しぶりに会えたと思ったら、随分と無茶な事をする子に育ったのね』

イーリスは瞳孔を見開く。

「あ、あなたは……お義母さん……!? ずっと、待ってました……! 十年もずっと……。やっと、戻ってきてくださったのですね……」

流す涙も、灼熱で蒸発する。
焼かれてしまうこの状況で、それでも再開できてとても嬉しい……。
十年前のあの日、突然この島から離れていなくなった……。いつまでも、ずっと待っていたお義母さん……。

???『まだ、貴女はこちらにきては駄目よ。そうね、貴女はとても良き想い人に恵まれたようね。とても嬉しいわ』

そんな時に、エルピスさんの声が聞こえた。
太陽の如き女性が右手を動かすと、眼前の炎が開く。
そこには、エルピスさんの姿があった。

「エル……ピス……さん……」

エルピスさんが……イーリスのために……。
エルピスさんを潤んだ瞳で眺める。

熱暴走しつつ崩壊していく《パンドラ・コア》、その負荷がエルピスさんにより弱まっていく。
だが、一度始まった《パンドラ・コア》の崩壊は始まらない。
イーリスが焼けている原因は演算ではなく、《不落ナル太陽》によるもの。
演算を請け負うだけではどうにもならない。

いつのまにかに太陽が如き女性はイーリスの前から消えていた。


そして、“王”の傍らに霊体の《太陽の如き美しき女》が現れる。
その霊体は、“王”にしか見えていないものだ。

???『久しいわね、《月輪の王》。せっかくの再会なのに、貴方の“本体”ではない事は残念だけれどね。私を殺しちゃったばかりではなく、義娘とその想い人まで苦しめているようね。少し、おいたが過ぎるのではないかしら? 相変わらず大嫌いな熊ちゃんだこと。私はただちょっとだけこの世に顕現しちゃっただけだから大した事はできないけれど、久しき再会を記念してプレゼントよ、熊ちゃん。貴方の事は、あの子たちがやっつけてくれるわ』

《太陽の如き美しき女》がその場からふわっ、と消える。
すると、“王”にプレゼントが届く。“王”の全身がまるで太陽のように燃え出す事だろう。

紅き月輪ノ王熊 > 「な」

「な」

「なッ?!!??!!?!」

現れたその姿に。


「なんだこれはッッッ!!!!!!!!!!!」

王は錯乱する。

「どうなっている!!!!!!!!!!!!!!!」

王は混乱する。

「なんだ、なんだこれは?!」

王は狂乱する。



「おじさん、夢でも見ているのかッッッ?!?!?!?!?!!!!」

「キミは!!!」

「キミはあああああああああああ!!!??」

紅き月輪ノ王熊 >  



       「シスター・ヒガサァァァッッッ!!!」



 

紅き月輪ノ王熊 > 叫びを最後に。
王は、燃えた。




それと同時に

紅き月が沈んだ



朝日が昇る
その場には3つの太陽がある。


夢幻の夜を終わらせる最後の一手
それを導くかの様。


彼女と彼の勝利は今―――

紅き月輪ノ王熊 >  


    ―――ここに、約束された。