2024/08/14 のログ
エルピス・シズメ >  
 演算を請け負う前に、『イーリスの前』に立っている。
 それでも、全てを覆うには至らないし、彼女の身は焼かれ続ける。

 嵐が晴れる。
 請け負った負荷によって魔剣が砕け、成立させる要素が喪われた。
 それ以上に体力もギリギリだ。

 ただのエルピス・シズメに戻る。
 その間にも状況が二転三転している。

「……なにが起こっているか分からないけど。」

 少しでも多く彼女の負荷を肩代わりしたい。
 だから、この《試作型感情エネルギー砲》の機能は使わない。

「イーリス。僕はイーリスを信じる。」
「今から隙を作るから──全力で、イーリスの信じる道を進んで!」

 言葉と共に駆け出して、取り付けていた《試作型感情エネルギー砲》を担いで──
 

エルピス・シズメ >  

「お前のラストワードは、聞いてやらない!」
 
 

エルピス・シズメ >  
 ありったけの感情と気合を込めて、
 王が動く前にその頬を《試作型感情エネルギー砲》でぶん殴る!

 そして──

「今だ、イーリスッ!」

 隙だらけの王にとどめをさせと、好機を告げる。
 

Dr.イーリス > 消える直前の《太陽の如き美しき女》シスター・ヒガサが齎した“王”へのもう一つのプレゼント。
それは、朝日を登らせる事だった。
《太陽の如き美しき女》は、月を沈めて日を出せる。

「お義母さん……!! お義母さあああぁん!!!」

消えていくその存在に、涙ながらに、炎の中で叫び声を上げた。
気が付けば月が消えて、朝日が昇っていた。

思ったよりも朝になるのが早い……。それ程まで、長く戦っていただろうか……?
ともあれ、朝になったなら“王”は弱まっている……!!
悲しみに暮れている場合ではない。

「エルピスさん……!!」

《不落ナル太陽》により生み出した太陽の炎が移ったのか、“王”は燃えていた。
そしてその“王”にエルピスさんは《試作型感情エネルギー砲》でぶん殴って、隙を作ってくださっている。

勝負を決めるなら今!!
その時、破壊されそうになっている《パンドラ・コア》にメッセージが表示される。それは──。

「感情覚醒人造異能!! 《太陽ヲ信ズル夜明ケノ奇跡(ロッソルーナ・エンディング)》!!

イーリスとメカニカル・サイキッカーを包み込む灼熱なる太陽。
それがだんだんと降下していく。

「エルピスさん、逃げて……!!」

その攻撃は、エルピスさんを巻き込むかもしれないので、退避してほしい事を伝える。
太陽は隙のある“王”に降り注いでいるが、エルピスさんが逃げられるぐらいの有用がある速度。

やがて太陽が決戦の舞台、ビルの屋上へと到達すると、そのビルが溶け始める。
周囲のビルをも巻き込み、炎の海と化していく。
この辺りの周囲のビルに誰もいないというのは調査済みだった。巻き込まれる人はいないだろう。
このあたり一辺、何もかもを熱で溶かす太陽。
太陽が地面に落ちた時、凄まじい大爆発を起こした。
そして、直径五十メートル程のクレーターを形成してしまう。

太陽は、何もかもを溶かしてしまっていた。

紅き月輪ノ王熊 > 昇る朝日。

落ちるイーリス。
王は動きを頬を叩かれて動きを止め、

その中で無防備を晒しながら
降りて来た朝に焼かれる


そう。

朝に。

朝日に焼かれる―――

紅き月輪ノ王熊 >  


    夢幻の月夜。
    永遠夜の幻終が、ここに成った。


 

紅き月輪ノ王熊 > そこに、王の痕跡は何も残らなかった。
用意された舞台でさえも、潰えて――

悪夢から覚めたように
清々しい日差しが注ぐ

エルピス・シズメ >  
 殴り切ってひしゃげた《試作型感情エネルギー砲》をパージ。
 声よりも早く、エルピスは行動を起こしていた。

 溶解するビルの隙間を縫って走り、落下するイーリスの下へ向かう。

 少しでも早く。絶対に間に合わせる。
 腕は軋むし息は上がる。当たり前の疲労を背負いながら、愚直に走る。

 それでもどうにかして間に合わせて、落下するイーリスを片腕で受け止める。
 

ご案内:「永遠夜の幻終 - fin」から紅き月輪ノ王熊さんが去りました。
Dr.イーリス > (やりました……。やりましたよ……。エルピスさん……。ナナさん……。湧梧さん……。ギフターさん……。蒼さん……。手紙さん……お義母さん……。私……“王”を倒しました……)

これまで色んな人達に支えられて、ついに、“王”に引導を渡す事ができた……。
念願の“王”の討滅がついに成った……。

だけど……。

(熱い……です……。全力を出し切りました……。約束した……のに……。私……生きて帰れそうに…………)


イーリスは太陽と共に落ちている。
そのイーリスを受け止めようと動くなら、エルピスさんは太陽に焼かれる事になってしまうだろうか……。
イーリスと共に死を選ぶことになる……。

エルピス・シズメ >  
「ぐ……っ!」

 後先考えずに飛び出していた。
 太陽に焼かれることになった事実も、受け止めてから気付いた。

 ……気付いていても同じ選択をした。
 悔いはない。

(……イーリスと一緒なら、いっか。)
(誰にも、この気持ちを継がせたくないなぁ……)

 眼を瞑る。彼もまた、諦める。
 自分の中の"独占欲"をかみしめながら、意識の薄れを認める。

 薄れゆく意識の中、
 愛おしそうにイーリスを抱きしめた。
 

Dr.イーリス > 太陽の中で消滅しようとしていたイーリス。
もう両腕は溶けて存在しない状態。
辛うじて生きている。そんな状態だった。

この灼熱の中、イーリスを抱きしめる存在に気づき、目を見開くと共に周囲に涙の雫が弾ける。

(……エルピスさん…………。私と共に…………)

愛した人が、自分と死ぬ事を選んでくれた……。
エルピスさんにはもっと生きていてほしいと願った……。だけど……それでも……ずっとイーリスと一緒にいてくれる事を選んでくれて……たまらなく嬉しい……。

(死ぬまで……一緒にいてくださる……最愛の人……)

イーリスは、エルピスさんの体を優しく抱きしめる。

(私の……《希望(エルピス)》…………)

エルピスさんに託された《感情魔力混合炉》を動力源とする《パンドラ・コア》がイーリス、イーリスの心臓近くで砕け散る事になる、その直前。《パンドラ・コア》は最後に、イーリスにメッセージを残した。

(……!? 感情覚醒人造異能《神話顕現・希望の想いを継ぎし奇跡(ラスト・パンドラ・エルピス)》……!)

パンドラの箱、開けてしまうと絶望を振りまくとされている。
世界を絶望に包む恐ろしき箱。
だが、そんなパンドラの箱が絶望を吐き出した後に、最後の残るのは“希望(エルピス)”だった。

エルピスさんの想いを幾重も注がれた《感情魔力混合炉》……。一時的な持ち主がイーリスに写っても、希望を継がれて、愛を継がれて、他にも呪いや痛みなんてものを継いだ事もあった。
そのような《感情魔力混合炉》を動力源とする《パンドラ・コア》は、イーリスの知らない内に、異能が発現していた。
感情覚醒人造異能、人造異能と言っても、パンドラ・コアを造った時に、イーリスが気づかない間に奇跡的に宿った奇跡。それに加えて、さらに《神話型魔術生成AI》を幾度か使った事により、《神話顕現》に昇華したもの。

パンドラの箱とは、この場合は《パンドラ・コア》の事だ。それが最後まで使い潰されて、そして最後に残った“希望(エルピス)”。

その希望の奇跡が起きる。

崩壊した《パンドラ・コア》の中から眩い光を放った。
その光がエルピスさんとイーリスの抱きしめ合う二人、メカニカル・サイキッカー、どこかに落とした四本の剣を包み込む。
光が、それ等を太陽の大爆発から守っていた。
そして、エルピスさんとイーリス、メカニカル・サイキッカーの傷、負傷といったものがだんだんと癒えていく。
それは太陽による傷や火傷だけではない。イーリスの欠損した下半身をも元に再生させるほどの治癒。
最後の“希望(エルピス)が、最後の奇跡を齎している。

エルピス・シズメ >  
 奇跡が起こっている。

 治癒や回復の魔術は、既に人の手にある。
 復元や再生の異能も、持っているものは持っている。

 事象ひとつひとつを紐解けば、この世界に於いてはあり得る事象。

 ──その様な世界でも尚、この事象は奇跡と呼ぶ他にない。
 彼と彼女が歩んだ旅路と経験の果て、最後まで絶望に向き合いきった(走り切った)故に起きた奇跡。
 
 イーリスが未来を諦め、SOSを送らなければ。
 エルピスが過去に向き合わず、諦めていれば。

 パンドラの箱は開かれず、この奇跡(希望)を見ることは能わなかった。

 白夜のような眩い光が二人と一機を癒せば、
 彼は彼のまま目を覚ます。

「……イーリス?」

 真っ先に、彼女の名を呼んだ。
 

Dr.イーリス > 文字通り死ぬ程扱った……。
だが、その熱が一切感じなくなり、とても温かい光に包まれる。

熱さだけではない、痛みすらも全て消えていた。
“王”を倒したからだろう、呪いも消滅していた。
消失した下半身も再生されている。

灼熱の中、イーリスはその輝かしき奇跡にぱぁっ、と表情を明るくさせた。

パンドラの箱は、開ければ絶望を振りまく。
“王”と戦った事が絶望の始まりで、その後も幾度も絶望を味わった。
辛い思いもいっぱいした……。
だけど、助けてくださった人、いっぱいいた。
そして、隣にはいつもエルピスさんがついてくれていた。

エルピスさんとイーリス、二人で支え合って歩んだ先……。
絶望の中を歩んだ二人が辿り着いた、希望。

目を覚ましたエルピスさんがイーリスの名を呼んでくれた。

「……エルピスさん!」

爆炎でこの辺りのビルが溶けている中で……。
灼熱の中で……。
ぎゅっ、とエルピスさんを抱きしめる力を強める。

「こんな所まで駆けつけてくるなんて、無茶しすぎでございますよ……! 私と一緒に、死んでしまうところでしたよ……!」

だけど生きている。エルピスさんと共に生きている。
その事を嬉しく思い、イーリスは涙を流しながら、エルピスさんの体の熱を感じていた。

(……私達、生きてます……!!)

エルピス・シズメ >   
「ごめん。でもそれ以外考えられなかった。」
 
 悪びれもせずに即答する。
 そのまま嬉しそうに笑ってみせた。

「……イーリスがいきてるってことは、僕もいきてる。」
「本当に、よかった。」

 心からの安堵。
 安堵と同時に、大の字になって転がった。

 張りつめた緊張の糸が途切れた。

「僕もイーリスも……とんでもない無茶をしたね。
 もう熊も呪いもこりごりかな……」
 
 終わったからこそ、軽口として叩ける。
 本心でもあるが、気はすごく楽だ。

Dr.イーリス > 「“王”が生きていたら、あなたにまた危害を加えようとしたでしょう……。……あなたに生きていてほしい……。そう、願って……いたのに……あなたが駆けつけてくださって……とてつもなく嬉しく感じました……」

死ぬかもしれない、いやもう確実に死んでしまう状況でさえ、エルピスさんはイーリスの元に駆けつけてくれた。

「ありがとうございます、エルピスさん。愛してます」

エルピスさんが大の字に転がる前に、灼熱の爆炎の中でイーリスは潤んだ瞳で微笑み、エルピスさんの唇に自身の唇を重ねようとする。
生きている、そう実感して、目の前に最愛の人がいて──。
その愛を感じたかった。愛を注ぎたかった。

エルピス・シズメ >   
「なんどだって、駆け付けるよ。
 ……どんな理由や感情よりも、そうしたいから。」

 そうしたい。
 それ以上の理由は付けれてたとしても、付けない。

「嬉しいな、イーリス。僕も愛してる。愛し続ける。」

 燃え盛る爆炎の中、イーリスと唇を重ね合う。
 力や異能のためではない、純粋な幸福と愛を伝え合う口づけ。

 暑さも疲れも彼方に置き去りにする程の、幸福感が全身に伝わった。
 十二分に味わってから、大の字に転がった。
 

Dr.イーリス > 爆炎の中で、二人は唇を重ね合い、そして愛を感じ合った。
“王”は倒された。
絶望と悪夢はもう終わったのだ。

これから待ち受けるのは、きっと幸福……そう願いたい。
長く続いた紅き月の夜が終わり、夜が明けたのだ。
だから、きっと二人で幸せの方向に歩みだしてくれる。

二人が唇を重ね合わせている間に、周囲の灼熱が爆発で弾け、やがて二人は爆心地、巨大なクレーターの中心にいた。

接吻を終え、大の字に寝転がるエルピスさんの隣に、イーリスはぺたんと座る。
月夜が終わって、朝日がとても眩しい。
イーリスは、明るい表情で朝日を眺めていた。
朝日を見ると、お義母さんを思い出す。

炎の中で見たお義母さんは、幻影だったのだろうか……。
十年間待ち続けている……。いつ帰ってきてくれるのだろうか……。

(お義母さん……私、想い人と幸せに暮らしています。幸せに暮らしながら……あなたの帰りを待っています)

先程、“王”がお義母さんの名を叫んでいた。だが、炎に包まれていたイーリスに、その声が届く事はなかった。
イーリスは、今もお義母さんの帰りを待ち続けている。

エルピスさんへと視線を戻した。

「少し休憩したら帰りましょうか。私達の家に」

にこっ、とイーリスは満面の笑みを浮かべた。

エルピス・シズメ >  
 いろいろあったけど、日常に戻れる。
 気になる事が無いと言えば嘘になるけど、今日の所はゆっくり安らぐ。

 今は楽しい未来の事を考えたい。

「そうだね。ちょっとだけナナを待たせちゃうけど、」

 響き合うように、エルピスも満面の笑みで応える。
 帰るべき場所があることも、強く思い返して、
 
「一緒に"ただいま"って言ってから、あやまろ。」

ご案内:「永遠夜の幻終 - fin」からワイルドハント・エルピスさんが去りました。
ご案内:「永遠夜の幻終 - fin」からDr.イーリスさんが去りました。