2024/09/27 のログ
緋月 >  
「それはないです。」

肉親では、という話にはすっぱり一言。

「…私の家に伝わってる流派は中段や正眼の構え…こんな感じのです…それが基本の構えでした。
あの狼の面の人の基本の方は、「居合術」だった。
私も居合を使わないではないですけど、得意と言う程ではないですし。」

軽く構えを取りながらそう説明。取った構えは、よく時代劇で見そうな構え方。
つまり、基本の構え方が既に違っている。
扱う技が同じだが、構えの違いで、大元から分かれて行ったものであるのだろう。
少なくとも、少女はそう考えている。

「…ええ、其処は色々と助けがあって、何とか。
最後に少し、いけない事をしてしまったので、先輩にお叱りを受けて……
暫く、道と信仰の見つめ直しもあって、「あの活動」は休止になりました。」

いけない事、とは言いつつも、其処に後悔の類は全くない。
むしろ、それをやらなかった方の後悔が大きかっただろう。
――実際には罰も受けたのだが、あれで済ませてくれた先輩と御神には、頭が上がらない。

ご飯が来れば、いただきますの言葉と礼。
口にする前に、先生の事を思い返す。

「……「黒いこと」がどんな真似か、詳しくは知りませんし、先生も話してはくれませんでした。
それでも、裏で何かしら危ない事をしてるのだとは…何となくは。
さっきも言いましたけど、私自身、一度顔を隠したあーちゃん先生に
辻斬り紛いの真似を仕掛けられましたし。」

言い終えると、とりあえずロールパンを口に。
おいしい。シンプルにおいしい。

「――――――――。」

血の髪をした目の前のひとからの言葉に、ただ無言で耳を傾ける。
その言葉が終われば、まずはサンドイッチに手を伸ばし、がぶりと、やや品の無いかぶりつき方。
――敢えて形容するなら、狼。

そのままむしゃりむしゃりと咀嚼し、悩みと迷いと一緒くたにしてしまうように、ごくりと飲み込む。
こんな時でも人間というのは現金だ。おいしいものは美味しいのだから。

「……あーちゃん先生が倒れた時。」

ぽつり、と最初にそう切り出す。

「血を吐いたは、吐いたんです。
ただ、その前の咳は本当にちょっとしたものだったし、血の量も、
確かに派手ではあったけど、袖が血染めになる程度でした。

――あれくらいで「出血多量」なんて言葉にはならない。
「誰か」が「何か」を仕掛けた、と、考える方が、当たり前です。」

その事実を、先に伝えて置く。
そこから更に言葉を続ける。

「先生には、本当にお世話になりました。
それこそ、今こうしてまっとうに学園で生徒をやってられるのも、先生の根回しがあったからです。
あのひとはきっと、気にするな、と言うかも知れない。

でも、気にするなで流して、見なかった事にするには、私はあのひとから、
あまりにもたくさんを、貰い過ぎた。

その先生が、危険だと分かっていながら、私に「第二方舟」の言葉を残したんです。
――ここで見なかった事にしたら、私は「楽な方に流される」。」

つい、と、狼の瞳が、向けられる。

「――話して貰えますか。
件の施設で、一体何が起きたのかを。」

無論、ただお話を聞いてハイ終わり、では済まされないし済ませる気も無い。
明確に、「関わる」事を決めた、覚悟の言葉。
 

紅音 >  
そう(肉親)だったら挨拶しとこうかと」

玉ねぎとポテト、あさりの溶け込んだシチューは、ミルクもコンソメも濃くて少しジャンクな味。
ロールパンもそうだ。おうちで作る、満足感の強いもの。

「……アレだ。鞘から抜きながら斬るヤツだろ。
 話聞く限り、むしろ両方あって完全体になる感じがするケド。
 武術とかはサッパリだからな……源流(ルーツ)が同じだけの、遠い遠い親戚?
 不思議なめぐり合わせもあったもん…いや、いまさらか」

自分たちの出会いも似たようなもんだった。
双方極むるのは時間が足りなかったり、体や技の冴えに問題が出るのかも。

「信仰とか先輩だとか神様だとか。
 あの仮面(アヌビス)の話?エジプトの?いったいどんな宗教に染まったんだキミは。
 ……ボクのあげたほうじゃないお面、見せびらかしといて」

あ、ちょっと恨み言が出た。じとー、と顔を向けて言い募る。

Okey.(わかった)

話せと言われれば、一も二もない。
警告はしたので、あとは二人の責任になる。

「あれが悪人かどうかってのはさておいて、やりたいからやる。それならいい。
 まあぶっちゃけた話、ボクやキミみたいな子供(ガキ)にさえ……
 SOSを発するような状況ってのは間違いないんだろうな。
 つまりここで恩を売っておけば『好き!抱いて!』ってなるワケだ。やる気出る」

クラムチャウダーを一口。……美味しい。
何があったか、を聞かれると――少し顔が鈍るんだけど。

「話すケド、そのまえに」

顔を向けて。

紅音 >  
「――って名前に、聞き覚えは?」
 
まず、一応の確認事項。

緋月 >  
「一番それらしい可能性は「分派」、ですね。
どっちがどっちから分かれたのか、あるいは私の剣も、あの人の剣も、
最初の起源という「大木」から分かれた「枝の先」なのかもですけど。」

最も分かり易い、そして可能性が高いのがそれ。
そして多分、双方とも「枝の先」であるのが正しい気がする。
……悔しい事に、習熟度も、技の切れも、根本的な実力も、総て上を行かれていたけど。

「あのお面は壊したら嫌なので、大事に取っておいてます。

――もし詳しく知りたいんでしたら、博物館のエジプト文化遺物展示エリア。
其処の…確か『聖遺物の展示』っていう、人気(にんき)人気(ひとけ)もなさそうな
展示コーナーに、全体的に白っぽい小柄な女の子が居たら、訊ねてみてください。

その人が、私の「先輩」ですから。」

さらり、と、先輩に詳しい事の説明は押し付ける事にした。
ごめんなさい、でも詳しい説明は私よりもずっと得意でしょうから、もしもがあったらよろしくです。

「最後の不謹慎な発言は…まあこの際流して置きます。
あなたが「恋多き人」なのは、薄々分かってきましたので。
――私が忙しい間、他の誰かさんと危険な賭け引きでもしてたんじゃありませんか?」

軽くジト目を送る。冗談で流せそうにないような気がするので、発言しておきながら複雑だ。

そして、前置きに対して怪訝な顔を見せるが、
続いた言葉には目を見開く。

気を落ち着かせるように、クラムチャウダーを一口。
 

緋月 >  
「……。」

伝える事を伝えれば、小さく息を吐く。
また、クラムチャウダーを一口。
ちょっと、落ち着いた。
 

紅音 >  
「…………そんな顔できるんだ」

不意に。爛々と輝く目で、緋月という少女の顔を視た。
その面差しに僅かに翳る――悔しい、という感情を見て取ったのか。
黄金の狼は、それをいたく気に入ったらしい。

「いいね、ぞくっとする。ぎらぎらしてて。その感情、大事にして?
 枝――……大木、たとえばなしとしても、悪くない。
 じゃあ、剣を磨くってことはどっちに向かってるんだ……?」

やっぱり武術は、さっぱりだけども。

「……ならいいケド」

ぷい。大事にしてあるなら、ちょっと機嫌は上がった。
聖遺物の展示。白っぽい小柄な女の子。白っぽい――小柄な――

「その娘さ……
 えらく口が悪くてー、『か』ではじまって『な』で終わったり……」

どこにでもあるような特徴ではあるけど、知り合いな気がするので一応確認しておいた。
エジプトと関係がある人間には視えなかったが、果たして。

「――――――」

ちら……。
危険なかけひき、といえばそう。まさに。
このソファで……寝室に視線。した……けど。

「死にものぐるい我慢したんだよ。むしろ褒めて」

指先が、ペン立てで主張するクマに軽く触れて。

舞台(ステージ)以外で、自分を抑えきれなくなるって……そうないことだから。
 ボクがひとにそういうとこ見せたくない人間だって知ってるだろ。
 ……だから、キミはとくべつ。業腹だけど」

お茶を飲んで、唇を湿らせて。感情を飲み込んだ。

「……あの夜の、朝。大丈夫だった?」

そう。途中から、抑えが効かなくなってきていた、自覚はあるので。

紅音 >  
こうして。
ふたり分の真実(なまえ)を一方的に握ってしまったわけだ。
少し居心地悪そうに視線を逸らしてから。

第二方舟(セカンドアーク)がやってたのは人間の改造実験。
 神性をぎゅっと圧縮して人間に移植してるんだって。
 ……彼女の不可解な心臓の異変も、おそらくはそこらが関わってる」

グラスを置いた。

「……護衛(ボディガード)を探してるんだよね。
 今後、鉄火場(あぶないトコ)に踏み込むときに、
 か弱いボクひとりじゃ心細いから」

横目に、炎の色が見つめる。

緋月 >  
「……そりゃ、悔しかったですから。
技も、地力も、何もかも相手が上。手も足も出せずに叩きのめされて。
しかも「本当の流派名」を容易く出せたから……
――多分、あの人は「自分の魔剣」を持っている。

悔しがるなってのが、無理ですよ。」

思い出したら、また悔しさが来た。
だが同時に、あのひどく過酷な一日を思い出し、得難いモノに一時触れた時の、
何とも言えぬ感情…それに触れて、僅かなりとも己の物に出来た小さな歓喜も甦る。
勿論、其処で足を止める程に満足できた訳などないが。

と、やけに具体的な特徴と名前の事が。
何だ、と小さく一息。

「知ってるんですか、椎苗さんの事。
はい、口調が荒くて、『「か」みき』が苗字で、『しい「な」』が名前です。

確かに口調は荒い…ですけど、いい人ですよ。
まあ、私が後輩だから…というのもあるのかもですけど。」

そう言いつつも、もふ、とまたロールパンを一口。
実際、他の人にはどうあれ、書生服姿の少女にとって彼女は厳しくも善き先輩である。

「―――――――。」

じ、と、視線が向けられる。
暫しの圧の後、大きな息と共に視線の圧が緩む。

「……信じます。
詳しい事は訊かないですけど、大変でしたね。

――もし変な事になってたら、相手の方が心配でした。
私は鍛えてますし、体力有るから平気ですけど。」

強がりではなく、割と本音。
 

緋月 >  
そして、話はまた真剣なものに戻る。
聞かされた事は――とんでもない話だった。

「……何という、神をも恐れぬ暴虐を…。」

最初に出て来たのは、それだった。
今は手放せども、自身も神の力の宿る神器を継承する身だからこそ、分かってしまう。

「……第二方舟で扱われていた「神」は…恐らく、私の知る御神とは
別の存在でしょうが…それでも、その真似がとんでもないものだとは、分かります。
私が大きく力を扱った時は、相応の「代償」を支払う事になりました。

御神器に宿る力でさえ「それほど」なのに…圧縮した「神性」を人の身に押し込むなど…!」

一度食事を止め、「護衛」の話に小さく瞑目。
眼を開いて、最初に断って置くべきことを告げる。

「――護衛そのものは吝かではないです。
ですが、先にお話した、私が信ずる「御神」の禁忌がひとつ。

私は、怒りや憎しみ――あらゆる「私心」で「死」を与える事を、禁じられています。
使徒としては活動停止中ですが…それでもこれは、私が己の意志で守る「禁忌」です。

なので、襲って来た相手に対しては「殺害」は基本出来ません。
飽くまで「無力化」…気絶させたりに、留まります。

それでも構わないというのであれば、喜んで。」

赤い瞳が、返答と共に向けられる。
 

紅音 >  
「敗けて悔しがらないヤツに見込みはないからね。
 先んじて理想にたどり着いてみせた先駆者の背中、
 さぞキミに火をつけてるはずだ……ボクも感謝しないとね、そのヒトに」

情念を抱える姿を、さも愛しそうに見つめるのだ。
怒りでも、憎しみでも、悔しさでも苦しみでも構わない。
……大切なのは、それでもって前に進むこと。
その先に至る剣を受けると約したのだから、なおのこと。

「ボクからしたら、報われない想いに身を焦がす。
 ちょっとかわいそうなコ、って感じなんだケドな。
 ……ボクはきらいじゃないケド、あっちはボクのこときらいだと思う。 
 あの娘のお姉さんとボクがちょっといい仲だから」

嫉妬してんだよ、なんて楽しそうに笑った。
悪しからず思ってはいるが、遠慮して距離を取ってはいたのだけれど。

「今度冷やかしてみるかな」

共通の知り合いが出来たのなら、話には事欠くまい。

「……………」

――あっ、疑われてる。苦しいくらいの圧を感じる。ちょっと肩が縮こまる。
まあそうだ。自分が我慢した、ということを信じてもらえる根拠がない。
正直えっちなカラダしてた女の子を前に我慢し続けたのが異常事態。
もったいないことしたな~~~という感情もないでもなくも。
圧が緩むと、こっちも力が抜けた。

「………出かけてるうち、朝ご飯食べて出てったよ」

無事でした。お互いに。
……体力を槍玉にあげられると、そんなだったかな、とばつの悪そうに。

紅音 >   
そうでもない
 人間社会が神を個人として扱うようになった以上、そうなるのは必然だよ。
 神を暴き、神を明かし、神を喰らい糧とするコトは……人間の義務といえる。
 これは――……キミの世界で、『大変容』が起こっていないなら。
 世界単位のカルチャーギャップだろうな。この世界、神様の立場がそんなよくないんだ」

悪くもない気はするけど、とは考える。人間の立場からはわからない。

「それにしたって人間と神性、双方に非人道的行為が行われてるのも事実だ。
 神性は果物みたいに搾られて、ジュースを飲まされた人間は、まあ壊れる。
 ……ボクもちょっと浴びたんだ。研究所で神様が漏れちゃってたから。 
 それだけで、相当参った。直接ブチ込まれたらどうなってたかな」

若干顔に、疲労が滲む。押し隠してはいる。
弱いところをヒトに見せてはならぬ、と誓っている人間だ。

「私心で」

なるほど。私心でなければいい。
過日の落第街での神事の有り様に合点がいく。
―――いく、が。

「ボクも無益な殺生とか、あとあと面倒そうなことは避けたい。
 社会的にマイナスがつく殺人は避けたいから、それは別にいいんだケド」

問題は、そこではない。

「そもそもボクは弱者(ザコ)とは組まないから」

食べ終えて、片膝を抱えて。
聖哲の瞳が、少女を射抜く。

「こんど()ろうか。キミの性能を確かめたい。
 ボクの護衛足るかどうか、試験(テスト)をさせて。
 使用に堪えないならおとなしくしててもらう……そのために、だ」

限りなく実戦に近い形式での、文字通りの腕試しと。
そのための前提条件――長い指を立てて、唇にそっと触れた。

緋月 >  
「――ええ、そうですね。
悔しいのと一緒に、感謝もあります。
あの剣を貰ったのも、ですけど……何より、「同じ技」を使う、遥かに上の実力者です。

あの時に得られた(盗めた)ものは、多分ほんの少しですけど…
また、叩きのめされる機会があったらどうするか、と言われれば…多分、
少しでも追い付いて、追い抜く為に、叩きのめされに行く、と思います。」

得難い機会がまたあれば、再び埃塗れになって大地に転がろうが、
再度向かっていくことは止められないと、自分でも思う少女。
聞きようによっては危ない発言にとられかねないが、気にした事ではない。

「成程、そういう関係。」

「いい仲」という言葉には軽くジト目を向けつつ。
といっても、すぐに解ける程度のものだった。

「まあ、「教え」に興味があると素直に伝えれば…教えて下さるとは思いますよ?
――その前に「あるモノ」をどう思うかについて、訊ねられると思いますけど。
教えを知るだけなら、質問の答えは気にしなくていいと思うので、
素直に答えればいい筈です。多分。」

詳しい事はちょっと伏せて置いた。其処は実際に言葉を交わしてからにして貰いたい。

「――信じる事にします。」

何事か起こりかけたらしい事案には、それだけを一言。
 

緋月 >  
「……そうですね。
私の元居た世界で、そんな大事は起きてはいません。
精々――人里から遥かに離れた山奥に、奇妙な剣術を伝える小さな隠れ里があって、
其処ではひどく前時代的な暮らしがされていた、という位です。

あの里の生活が、時代一つ違う程の「昔」だと知ったのは、人里に降りてからですけど。
だから、私にとって「神」とはまだ……数多のものに存在し、畏敬の念を向けるべき存在なんです。」

所謂、八百万の神の思想。

「………本当に、件の研究所は凄惨な有様だったんですね。
神にとっても、人にとっても…惨い事です…。

……そんな所から、生きて戻って来れたのは本当に…立ち回り方が上手かったんでしょう。
私だったら迂闊な真似をして、大変なことになりそうです。」

ジュースにされた神と、それを飲まされた人間。
それを想起し、小さく戦慄を覚える。
目の前のひとには危険な橋を渡らせてしまったが、
今回ばかりは、情報を得るのが遅れた事が良かったと思う。

そして、「戦い」の話となれば、すい、と眼が鋭くなる。

「分かりました。互いの実力の確認は大事な事ですからね。
……学校の施設は、ちょっと気が引けるので、青垣山の廃神社でもお借りしましょうか。」

場所の提案をしつつ、唇に指を当てられれば、軽く目を細め、

かじ、と、ほんのり軽く、齧りつく。

――甘く見てると、食い破られますよ、と言うかのように。
 

紅音 >  
汎霊説(アニミズム)か。あらゆるものに精神が宿ってるっていう世界観……。
 ボクは、いまでこそ違うケド……そもそもの出身が一神教、クリスチャンだからな。
 神が複数いるとかいわれたり、目の前に来られても、そもそもピンと来ないのかも。
 ちょっと不思議な力を持ってる個人……と認識しちゃうんだ」

なるほど、と考えた。あらゆるものに神を視て、敬意を払う。
ちょっと前時代的な見方も、彼女の生まれ育った境遇を鑑みれば頷ける。
……ほんとうにどんな場所なんだろう。

「実験ってそんなもんだとは思うんだケドな。
 ……むかーし、そういうノリでカラダをいじくりまわされたことがあって。
 それが人間のためだとして、必要なことだとして、
 それでも……ポーラが承知の上でやったのかどうか。
 んでもって、恋人が暴走しないかリードも引いて。
 共通の知人(かのじょ)がなにを求めてボクらを頼ったのか、確かめないとね」

なにより大事なのは、それ。
悪逆を暴くでなく、非道を正すでなく。
ポーラ・スーと名乗っている女性への、義理のおはなし。

「………んふ」

噛まれちゃった。――ぐっ、と指を押し込む。

「さいきん、ずーっといろいろ考えてるだろ。不器用なお嬢のくせに。
 その狼面(ウルフマスク)のまえでも、張り詰めてそうだったと聞こえたよ。
 もちろん、そういうのも必要ではあるんだけど……さ。
 ……どっかで、一日休みとって。その日だけでいいから。
 ボクのことだけ考えて、ひたむきに剣と向き合ってみて」

顔を寄せて、間近に赤い瞳を覗き込む。

「ボクはそうやってどうにもならなくなったとき。
 全力で歌って、(はだか)のボクに戻ってる。
 ……キミが最後にそうなれたのは、いつ?
 つぎの公演がまだ先だから、悶々としてんだけどさ。
 せっかくだから。最高のコンディションのキミを見ときたい」

……ぬるり、と指を引き抜いた。

紅音 >  
そこで、ぽすん、と。
倒れ込むようにして、肩に顔を埋めた。

「……そう。ヤバくなったから引き上げた」 

うずもれるようにして、腕を背に回して、取り縋る。

「視えないはずのものが、視たくないものが、視たいように視えた。
 視せられたんだ。壊れちゃうかと思った。
 あのままいたら、戻ってこられなくなりそうな気がした。
 ……クラムチャウダーも、ロブスターロールも、ママに教えてもらったの」

ぎゅ、と、書生服の背を掴んだ。
熱い体温が、押し付けられる。

「……気づいたら、姉さんの背を、とっくに追い越してた……」

訥々と、つぶやいて。

「しばらくは、キミのことだけ考えてたい。
 ……部活の時間には、離したげるから。
 キミもそうなってしまうように……研いで、磨いたげる……」

顔を埋めたまま。引っ張り込んだ時点で、そういうこと。
待たせた分の『責任』は、とってもらう腹積もり。

緋月 > 「西洋の言葉だとそうなるんですか。
――まあ、私は、アレです。実際に、「御神」を目にしましたからね…。

あの御神の教えについては、積極的に伝えるつもりはないですが。
万人に受け入れられるものでもないでしょうし…私が、それを心に留めて、誓いを守れば、それでいいと。」

口内に更に突っ込まれた指を、引き抜かれるまま、あ、と離す。
これ以上強く齧って傷でも出来たらよろしくない。

「……そう、ですね。
所詮、ただの一人に過ぎない、何の後ろ盾も無い私が誰かを裁くとか、烏滸がましいにも程がある。
あーちゃん先生に、何があって、あんなことになって…
どうして私たちにそれを伝えようとしたのか。

黒幕か何かがいたとして、そんなのは風紀委員の皆さんの領分です。
私なんかの手には余ります。」

道を違えないように。息を吐いて、気持ちをリラックスさせる。

目を覗きこまれれば、その瞳には多少の疲れ。

「――幸い、一番重大な考え事と心配事、それに焦りの根源は、この間ようやく片付きましたけどね。
でも…確かに、それが片付いた結果のお話ですけど…燃え尽きては、います。
それ位しないと、片付かない大問題でした。」

……それだけをしないといけない相手だった。
劫火のように燃え上がり――今は、すっかり、とまではいかないまでも、燃え尽きた感触が抜けていない。
 

緋月 >  
「………。」

縋って来るひとの頭に、邪魔にならないよう気を付けながら手を伸ばして、ぽふんと撫でる。

「――――本当に、おつかれさまです。」

それしか、労う言葉が見つからない。
何も詳しい事情を知らない者が出せる、精一杯の言葉だった。

「それじゃ――そうなるように、してください。
情けないですけど……私も今言った通り、凡そ燃え尽きて、心の炉に焚べる火種が見つからないんです。

――私の()が、月白(あの子)よりも鋭く、力強くなれる位に。」

 

そのあと >  

――その言葉の後は、ふたりだけの秘密。
困った二人の、困った同士のお話は、ここで一旦おしまい。

 

ご案内:「誰そ彼、彼は誰」から紅音さんが去りました。
ご案内:「誰そ彼、彼は誰」から緋月さんが去りました。