2024/10/17 のログ
ご案内:「転移荒野-Determination for Fight-」に橘壱さんが現れました。
ご案内:「転移荒野-Determination for Fight-」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■橘壱 >
常世島 未開拓地区 転移荒野。
太陽が頂点を差す快晴日和。
今日の時空安定度は安定気味。
妙なトラブルはそうそう起きることも無いだろう。
此処転移荒野の一角には、静音性の回転翼を振り回す無数のドローンが飛んでいる。
『────いいですか、今回は我々企業のテストに付き合って頂く形になります。
アナタは死亡判定を二回受けるか、壱様はFluegelを戦闘不能になればテスト終了です』
『貴女様の活躍は聞き及んでおります。
この度は学園の方からも許可を頂いておりますので、
どうぞお好きなだけ暴れていただいて結構。報酬も勿論支払います』
『そういう契約です。さぁ、此方にサインをどうぞ』
凛霞の前の如何にもなキャリアウーマンがスラスラと説明する。
差し出されたタブレット端末には様々な文面が書かれている。
文面には諸注意事項や契約内容…要するに、"万一"の事に同意出来るか否か、だ。
今回、橘壱との実戦形式の模擬戦に当たって、それは試作型AF、
及び新武装のテストと言う体で行われる事になっている。
敢えて私闘で終わらすのではなく、その貪欲さが見て取れる。
「すみませんね、思ったより派手な事になってしまって……。」
女性の隣りにいる壱が、申し訳無さそうに頭を下げる。
本当に個人の話で終わらせるつもりだったが、
企業の社長ったら、すぐこういうことするんだから。
「けど、だからといってお互い手を抜くなんてことはないですよね?
僕は、此の日を楽しみにしていた。先輩はどうですか?」
レンズの奥、碧の瞳が彼女を見据える。
その表情は幾分か、何処か"吹っ切れた"感じがする。
■伊都波 凛霞 >
「風紀委員同士の模擬戦くらいに思ってたんだけど」
あえていつもの制服姿で訪れたのもそういったつもりでのこと。
苦笑しつつも、提示された契約内容に目を通し、サインをする。
周囲にドローンが周回する、ややすれば物々しくも見える光景。
「私は楽しみにしてた、とは言えないかな。
キミがどうして本気の私と戦いたい…なんて思うのか、理由もあんまりわからなかったから」
「でも」
「それはそれとして、ね。
今日はよろしく、お願いします」
ぺこり、大きく頭を下げる。
戦う理由はそれぞれあれど、やると決まっているのなら覚悟は決める。
生半可な覚悟は不要。さらりとサインを記した態度からもそれは伺える筈だ。
■橘壱 >
「僕もそのつもりだったんですけどね……すみません。
嗅ぎつけられちゃったら企業には逆らえないので……」
企業の子飼いの辛い所。
観測用のドローンが忙しなく空を飛び回っていた。
「因みに着替え用意してきました?
汚れますよ。……まぁ、多分秘書さんに言えば持ってきてくれるかも」
模擬戦だからね、当然だね。
手に持っていたトランクをどさ、と地面に投げ捨てる。
土煙が舞い、眼鏡を外して懐にしまえばふ、と笑みを浮かべる。
「アナタに認めてもらいたいから……という気持ちもあるけれど……」
そのつもりで此処に来たし、言った時はそうだった。
けど、本音はそうじゃない。もう、今更だ。
隠し通すことも煩わしくなってきた。何処か好戦的な雰囲気は、
"初めてであった時"のぎらついた雰囲気と似ている。
「僕が楽しいと思ったから。それ以上の理由はない」
思い切りトランクを踏み潰せば、グシャリとひしゃげ金属が飛び散る。
瞬く間にそれは壱の姿を包み込み、あっという間に蒼白の機人へと姿を変えた。
戦うための鋼鉄の翼。青白い一つ目が光輝き、後方に飛ぶ。
砂煙を巻き上げて規定位置に着地。その全身には、あらゆる部位に装備がマウントされている。
『──────此方こそ。それじゃあ、行きますよ……!』
<Main system engaging combat mode.>
無機質なCOMの声が開戦の合図だ。
即座に右手に持っていたライフルを構え、連射。
破裂音と共に空を裂くのは訓練用特殊ペイント弾。
着弾して粘着後、"数秒後"に破裂し、インクが飛び出す仕組みだ。
何故、数秒後に破裂する仕組みなのかって?
眼の前に弾けるような人物がいるから、それを想定しているんだ。
■伊都波 凛霞 >
「うん。この格好、一応戦闘用だからね」
刑事課故に風紀委員の制服ではなくこの制服を着用し、腕章を添える。
仕事に赴く時は大体このスタイルだが、この制服もその実、ただの制服ではない──。
「──、橘くんのことを私が認めてない、って思われてる?」
もしくは…彼にとっては『そうじゃない』ということなのかもしれないけど。
楽しいから、戦う。
それが彼の本質。
その気性は、必ずしも秩序機構として存在する風紀委員にそぐうものではないかもしれない。
しかしそれも、飼い慣らせるのか否かで話は変わってくるもの。
今の彼ならそれが出来る───、と思っている。
買い被りでないのなら。
「(──さて)」
それなりに離れた距離、彼がAFを展開し、装着する様子が見て取れる。
あの翼のスペックは調査済み。平均的なAFの2.5倍~4倍近くの性能を誇る予算度外視の試作機。
その桁違いの性能を十全に発揮するのが、彼…橘壱の性能。
「(──もし、カタログスペック以上のものを出せるようなら、要警戒かな)」
彼がライフルを構え、銃口をこちらへと向ける。当然射程の問題で先手は譲ることになる。
直撃は多分、アウト判定だろうな…とちらり、キャリアウーマンを見やり。
銃口の角度、引かれるトリガーの角度、それから──弾道計算。
伊都波凛霞のフルスペック。それは主にその『脳の性能』の起因する。
人間の持つ脳神経伝達速度を遥かに凌駕するそれは、指先を伝い脳に流れる信号から僅かな残留思念の映像化・音声再生にまで至る。
ぐ…と姿勢を深く沈み込ませると同時、地を蹴り砕く。
一般的なトップアスリートの肉体性能は、おおむね一般的な人間の1.3倍とされる。
そんな中──運命の皮肉とはいえ、元々の性能に加えて天才"二人分"の伸び代と基礎性能を備えた…文字通りの、超人。
ライフルの連射、その弾道を事前予測済みだとばかりに最適解の回避ルートを疾走り、一瞬で彼の目の前へと肉薄するのだ。
「───せっ!!」
袖口から覗いた鈍色の鉄杭。
スタンロッド仕込みのトンファー。十分に勢いづけたそれをAFの右腕部パーツ関節部、サーボモータを狙い、叩く!
■橘壱 >
世の中には様々な強者がごまんといる。
島の内外問わず、その強さの起因こそ十人十色。
あらゆる神秘が当たり前の世界では、漫画のような人間が数多く実在する。
そう、己の身一つで全てをなぎ倒す"超人"さえも。
『(────…来る!)』
モニター越しに拡大される凛霞の姿。
僅かな姿勢の変化から即座に左腕に黒い銃を握った。
瞬間、轟音。文字通り"地が砕けた"。岩の欠片が宙を舞い、
一瞬の砂嵐を巻き上げ凛霞が迫る。
直線上、弾道を完全に見切ってほとんど横に動かない理想的な回避。
『データ上では知っていたけど……っ!』
その超人的な肉体の他に、それを更に支える彼女の異能。
脳の処理能力に"目の良さ"。弾道さえ見切れ、あんな回避を可能にする超人的肉体。
天は二物を与えずとは言うが、運命のイタズラ、傾いた天秤がそれを許さない。
照準がその肉体を追いきれずに僅かにブレる。
データだけでは測れない、彼女の実力─────!
『けど、そう簡単には……!』
サブブースタが青白い火を吹き、瞬間的加速。
確かに速いが、まだ追いきれない速さじゃない。
そういった物に対抗するための平気だ。トンファーは空を薙ぎ、機体は大きく横にそれる。
同時に、左手の銃口が破裂。拡散する細々としたペイント弾。
そう、ショットガンだ。その速さも目の良さも想定している。
だからこそ、"避けづらい"武装を幾つかチョイスしてきた。
今度は流石にそのまま真っすぐは進めまい。
メインブースタが轟音を立て、乾いた大地を素早く滑る。
『さぁ、追って来い……!!』
凛霞に倒す為に、あらゆる装備と研究をしてきたのだ。
モニターに照らされる壱の口元は、不敵な笑みを浮かべていた。
■伊都波 凛霞 >
「(よく視てる、流石)」
連射の隙につけ込んで、と初手をヒットさせる腹積もりだったけど、そう簡単にはそれを許してはくれない。
でも、そのブースターの点火のおかげで瞬間的に回避方向が"見える"
相手の視線誘導や筋肉の動き、重心まで、なんて細かく見なくて済む。
操作に対して然程ブレなく、完璧に近い精度で"素直に動いてくれる"それが機械のわかりやすくて、良いところだ。
次の瞬間こちらに向いた銃口が、爆ぜる。
───散弾!
これなら掠ったところでアウト判定にはならないだろう、けど。
実戦を想定するなら、多少掠めても後々への影響が出てしまう、ならば。
「──"流石にそのまま真っ直ぐ進めない"、って思ってる?」
細やかなペイントの雨──と形容しては見ても。
─ハッキリ言えば、雨よりはよほど"避けやすい"
髪も長いし、濡れるのって結構苦手。
瞬間、モニタの中の彼女の像は無数にブレ──を見せる様にも見えたかもしれない。
"造作もなく"すべてを避けきった少女が、再び獲物を手に迫る。
滑る様に大地を駆る翼をへと徐々にその距離を詰めてゆく。
その追い方はジグザグに、下がる相手を追い込むための動きを見せる。
「(──射程距離、捉えた──けど)」
まだ、行かない。
一つは彼の予想を覆したかもしれないが、きっとまだ次がある。
■橘壱 >
その目の良さ、脳の回転、身体能力は研究したつもりだが……。
「おいおい……!」
弾く、回って避けるはまだしも、散弾の"中"を避けるとは。
つくづく化け物だな、と内心失笑してしまった。
コンピュータバグのようなブレの連続には、呆れの感情さえ持ってしまう。
「(けど、まだだ……こんなモンじゃない……!)」
だが此の程度とは決して決めつけない。
あの苦渋を舐めされた双炎舞踏と肩を並べるほどの相手だ。
決して侮らず、実力の終着点を決めつけず、一切の油断もない。
装甲越しに追い詰められるようなひりついた感触。楽しい────!
「Fluegelのスピードにも付いてこれるか……!
そんな胸部備えて走れる秘訣が知りたいモンだね!」
口プレイはゲーマーのクセ。
自らを奮い立たせる意味もある。
どうやら油断しないのは、向こうも一緒らしい。
距離を詰めるが、仕掛けてはこない。ならば……。
「──────コッチから!!」
両肩のコンテナハッチが開きされると同時に、
爆煙を吹き出し飛び出す連装ミサイル。訓練用のため、感知式であり、
付近に何かが近づくだけでペイント液をぶちまけ爆発する代物だ。
扇状に広がり凛霞に迫るミサイルに加え、両手のライフルとショットガンも乱射。
まずは弾幕と同時に反転。メインブースタが轟音を上げ、更に距離を詰める。
■伊都波 凛霞 >
「それは重心移動の賜物、ってコトで。
AFだとオートでやってくれる、のかな?」
くす、と小さな笑みを口元に。
まだまだ、余裕はある口ぶり。
──と、次の手は。
「(──! バラ撒いてくる)」
両肩のランチャーの展開を視認。
頭の中に叩き込んだデータから、発射される武装の種類を瞬時に特定。──逆手に取れる。
「──、えぇいっっ!!」
ジャキッ、と走りながら構えたトンファー。
それを振りかぶり、地面へと叩きつけ──抉り返した
今回は可能な限り小道具はあまり身に帯びていない。
ただ…この球数、手数を補うには多少の小技くらいは已む無し。
巻き上げられた小石と土塊のカーテン、感知式だったのはむしろ僥倖。
炸裂した連装ミサイルの無数のペイント液が、いい目眩ましになってくれる。
そのカーテンを食い破る様にして、距離を縮め接近する"翼"の目の前に、躍り出る。
乱射が僅か、制服の端を掠める。内心ヒヤリとしなくもないけど、そもそも生身で戦うには無理を通す必要がどこかで出てくる。
跳躍、回転による遠心力、それを伴った強烈なスタントンファーの振り下ろし。
破壊力は勿論、当たれば強烈な電磁ショックを同時に与え運動性能を一時的にとはいえ、奪える程の威力がある。
「──これは」
「どうっっ!!!」
■橘壱 >
誤差修正。標的情報更新。
AFの凡そのシステムは脳波での操作。即ち思考力だ。
故に如何なる状況でもその思考を目出さないメンタル力だ、
操作の精密性に綿密に関わってくる。機械の強み。
その機動力の情報も更新した。今度は照準もズレない。
此の弾幕は精々の時間稼ぎ。雨を避けるような女だ。どうせ────……。
「ご覧のとおりですよ、っと……!何でもありだな……!!」
振りかぶったトンファーが地面をえぐり出した。
さながら土砂の煙幕だ。此方の武装特性を逆手に取り、
感知式ミサイルは遮られるかのようにその場で爆発し、
カラフルなピンク色の液体を撒き散らす。その気になれば、
小石一つ飛ばして迎撃しそうな勢いだ。冷や汗ものだよ。
だが、此れくらいが何だって言うんだ。
確かに視界は閉ざされたが、モニターには土煙ばかりだ。
だが、機械の強みは目だけじゃない。
各種感覚が、見えない場所からでもその動きを教えてくれる。
『来る……!そこか!』
<ALERT>音声とともに、煙幕から飛び出す凛霞。
目前、飛び出すスピードは想定よりも速い────!
だが、反応出来る。即座にライフルを投げ捨て、
右腕にマウントしてしてある外付け電磁ロッドを伸ばし、トンファーを受け止める。
バチィ!と互いの電流が鑑賞しあい、
凄まじい稲光が弾け合う。
『ぐっ……!!』
見た目によらず、攻撃力がある。
人工筋肉の補正込でも、
受け止めた途端、僅かに後退りしてしまった。
可憐な少女の肉体に宿した、超人的なパワー。
完璧超人なんて言葉もあるが、二人分の才能とは恐ろしいものだ。
想像以上に高い壁が、そこにはあった。だからこそ……。
『より高く翔ぶのは─────僕だ!!』
楽しいんだ。ニヤリと口元が笑みを浮かべ、
メインブースタが火を吹いた。鍔迫り合いのまま、
このまま押し切ると同時に、この至近距離で遠慮なくショットガンを発砲する。
射撃戦で決着が付く相手は、
実力差かなにかの要因がなければ早々にない。
つまり、白兵戦が本番。一瞬でも気を抜けば間違いなくやられる。
相手は格上。数ある超人の中の一人。その懐の中でさえも、翔んで見せる────!
■伊都波 凛霞 >
「君ならそうすると思ってた」
激しく火花を散らした押し合い。
或る意味信頼にも似た、彼の『負けん気』。
正面衝突から、引く筈がない。
そして、そのタイミングは──メインブースターの"音"がハッキリと教えてくれる。
AFは脳波コントロール。
最速であると仮定して、人が思考し手足を動かすその速度に加え、モーターの駆動による僅かなラグ。
そこへの補正をかける必要はあるにしろ…人と同じく扱うことが出来る──人型の兵器に対してはむしろ賞賛に近い。
押される、そのタイミングに合わせ、重心を"崩す"
ガクン、と──その操縦者にも何か、踏み外したような感覚が伝わる筈だ。
加えて、AFの腕関節の駆動限界。その関節構造から人のものと違い左右にはやや狭い。となれば力の分散する方向も狭くなる。
───十分、やれないことはない。
「──は、ぁぁッッ!!」
力の流れを、己の身体の重心を操作することによって一瞬支配下に置かせてもらう。
その一瞬で負荷のベクトルをAFの腕部関節構造へと送り込み、───
至近距離でのショットガンの炸裂よりも僅か速く!
裂帛の気合と共に繰り出したのはその腕部関節の破壊を含む、合気による投げだ。
翼たるAFの、他のAFに比べて圧倒的に強い出力があるからこそ、その重量に対して実行出来る──!
ぴ、と散弾の一部が頬を、太腿を掠めながらも、それを決行した。
■橘壱 >
極限まで動きを見切れるほどの眼力の異能なのは知っている。
つまり、此方の動きは全て見切られる想定で動いている。
そのうえで幾つか対策を講じては来たが……。
『! 重心……!?こっちの加速のタイミングで!?うわっ!?』
視界が一瞬揺れる。その瞬間、強い衝撃と共に大きく揺さぶられた。
この距離なら動きを見切られても関係ないはずだった。
そのために最も勝算が高く、リスクが高いのも白兵戦だ。
まさか、加速のタイミングさえ完璧に見えていたのか?いや、違う。
『(まさか、"音"で!?想像以上だな……!)』
日本には後の先という言葉があるが、
確かにそこまで見切れるなら、実行出来るなら、
それほどまでに強力無比な事はない。
急激な負荷がモニターに<ALERT>という形で移り、
ベキベキと金属が悲鳴を上げ、破片を撒き散らしひしゃげていく。
AFはパワードスーツであり、その裏の"直"に腕も曲がる。
痛みに奥歯を噛みしめるも、まだ終わらない。
機械の強さだけが、壱の強さじゃない。
『こ、のぉ……!!』
此方の推力を利用した投げだろうが、
人間と違った瞬発力。その推力を残したまま、
サブバーニアが逆噴射し、投げ飛ばす力を相殺する。
強烈なGの負荷に顔を顰めながらも、左腕の電磁ロッドを間髪入れず、
展開と同時に投げ飛ばした凛霞の胸部目掛けて突き出す!
この一瞬の動作を淀みなく、咄嗟に出来る決断力と反応速度。
右腕位はくれてやるけど、一本はもらってやるぞ──────!
■伊都波 凛霞 >
ただ大人しく投げられてくれる程、大人しい性格の後輩なら…そもそも挑んでこない。
何か仕掛けてくる、それは織り込み済み。
読めない要素があるとすればそれは人間相手と大きく違うところ…空中での姿勢制御だ。
お見通し、とばかりに電磁ロッドにトンファーを叩きつける。
大きな火花が再び散り──さすがに、衝撃に大きく跳ね飛ばされる。
羽毛のようにふわりと着地すれば、おのずと互いに距離が開く。
「──ふぅ…っ」
右腕に、結構な痺れ。
旋根に視線を落とせば、スタン機構は破壊され、僅かだが溶解も見える。
スタンロッドを兼ねる鎮圧用装備だけど、さすがにAFの電磁ロッドと打ち合うには出力が違いすぎる。
まだ息は上がっていない。いい緊張感を維持している。集中力もまだまだイケる。
──彼は本気で来てくれ、と言った。…殺す気で、と。
トンファーをその場にガラン、と落とす。
徒手空拳となり、改めて彼と向き合えば──。
「生身でやりあうのは多分火力が足りないかなと思って用意したけど、それでも役不足だったみたい」
そう呟けば、長く結われたポニーテールの結び目へと手を伸ばし──そのリボンを、解く。
さらりと長い長髪が風に靡き、キラキラと輝いて見えた。
「──ここからは全部出そう」
電磁ロッドの一撃は本当に際どかった。
それが、少女の本気中の本気を引き出すには十分過ぎる程に。
そして、そのスカートの裾からぽとりと、両手に落ちた長方形の物体が在る。
それを両腕をクロスする様に投げ放てば──左腕の袖から落ちその手に収まるハンドガンがそれを空中で次々に撃ち抜いた。
瞬間、連なる様にそれは炸裂。
───電子妨害手榴弾。
チャフとも呼称される。
殺傷能力はなく、爆発すると煙幕と共に大量の電波妨害フィルムをばら撒き無線・レーダー等の電子機器を一時的に使用不能にする。
明らかに人でなく、AFを標的とした武器の使用だ。
■橘壱 >
再び互いに間に火花が飛び散り、大きな衝撃と同時に距離が離れる。
『いてて……想像よりもパワフル女だったな……。
今のは合気……って、奴か?……僕の腕"は"動くが……』
最新式の強靭な装甲で出来てる合金だぞ。
それを、此方の力を利用した上でひしゃげされるなんて、
此れはもう言い逃れできないレベルのゴリラ女だ。
モニターに映る<右腕部損傷甚大>の文字に舌打ちだ。
現に、ひしゃげた関節からは電流が漏れ出し、だらんと垂れたまま。
可動部とエネルギー供給部分が切れた。使い物には成らないな。
機械の弱点でもある。重量負荷になる右腕部の電磁ロッドは即座にパージ。
青白い一つ目が光輝く。
『(あの腕にも充分負荷は掛かったと思うけど……。
思ったより余裕そうだな。いや、そうでなきゃ"選ばれないよな")』
対AFにおける、テストヘッドに。
この戦いにおける二人の挙動は、逐一ドローンが観察している。
『……漸く本命か……!』
リボンが解け、さらりと美しく艶やかな髪を風がたなびかせる。
輝くような美しさだが、同時に放つ言葉に背に氷を突っ込まれたような悪寒さえ感じる。
ここからが本番だ。そうだ。その気になってくれなきゃ、意味がない。
モニターの向こうでフン、と鼻を鳴らせば深呼吸だ。
『投擲物……ハンドガンによる射撃戦……じゃない!』
投げられた長方形は爆発物と判断し、
即座にライフルを構えたがそうじゃない。
独自にキラキラとした音とともに、粉雪のように舞い散るフィルム。
電子妨害だ。確実に機械を意識した対策だ。
薄々感じていたが、彼女は……。
『優しくて可愛いけど、いざって時は容赦ないな……!』
やるってなったら、本当に徹底的にやるタイプだ。
ゾクゾクと全身を駆け回る武者震いに近い歓喜に笑みが止まらない。
自分と本機で向き合ってくれる事、そして何より、今この瞬間が堪らなく楽しい。
各種センサーは<ERROR>の表記を出し、照準も外れた。
カーソル以外、此処からは全て自分の力のみで結果が出る。
当然、此の程度で怯みはしない。
残っていたコンテナのミサイルを一斉に掃射。コンテナを排除。
横並びに弾幕を形成し、円を描くように機動を描き、
粉雪を撒き散らし乍定期的にショットガンをばら撒き、距離を詰める。
今度は此方が徐々に距離を詰める番だ。
『(通常のハンドガン程度なら、AFの装甲は貫けない。電磁パルスのバリアもある。
アレは虚仮威しか、絶対に弾に何かある。全部と言ったんだ。もっと何かがある……!)』
■伊都波 凛霞 >
実際のところ少女にそれほどの怪力はない。
破壊に至ったのは、AF自体の出力が帰ってきた結果だろう。
パージされる電磁ロッド。
ああやって不要になった部分を簡単に切り捨てられるのは、機械の利点でもありそうだが。
──これで一定時間はレーダーの類が一切効かない。
この模擬戦を録画してるだろうドローンには少々申し訳ない気もするけど。
ハンドガンのマガジンを入れ替える。
特殊ペイント弾───中身は機界魔人の時に使ったものと同じものだ。
自分の腕力では、あの翼の装甲をブチ抜くことは出来ない。
使えたとして"浸透勁"…ただ、それを叩き込むにもまずあの機動力を抑える必要がある。
煙に紛れる様に、移動を開始。
相手が視覚に頼らざるを得なくなったのであれば十分な撹乱が可能。
解放された長髪を棚引かせながら、自ら煙幕の中へと飛び込む。
撒き散らされる弾頭、逃げ場所を絞る様なバラ撒き方。
「(───上手い。こういう状況にも慣れてる)」
ある種当てずっぽうになるとは言え、時折際どい弾道が掠める。
これは、彼の持ち得る経験値…当て勘に寄るものだ。
見えないこちらの移動先を絞って、一撃を叩き込むための弾幕。
時折掠める弾頭。発射口が見えない以上危険なのはこちらも同じ。
それでも、煙幕の中からハンドガンを一発、二発、三発───四、五、六。
とりあえずの全弾頭、都合六発。
移動中の脚部関節を狙い、発射する。
咄嗟に防御機構を展開したとしても、初撃と二発目くらいは当たってくれる読みだ。
■橘壱 >
世界が変容を迎えた後、あらゆる神話は現実になった。
空想が隣人と成り、全ての文明レベルが日常レベルに混在する。
そこに未だある、人間の叡智たる科学もまたそこに残っていた。
即ちそれは、現実となった超常に対抗し並び立つ証。
『牽制のつもりだとしても……』
放たれる弾丸はペイント弾と言えど特殊弾丸だ。
当たりどころが悪ければアウト判定。
企業は公平だ。決して贔屓はしない。
だから銃口が向く前に回避運動。
全身のサブバーニアをフル稼働させ、細かい瞬間加速を重ねる。
一発目、二発目、その身を避け、三発目、四発目、バレルロール。
五発目、六発目──────…!
『むざむざ当たってはあげられない!』
咄嗟に左手を振り払うと同時に、前面に電磁パルスの嵐が迸る。
シールドの出力を一時的に前面へと押し出した打ち消しとも言うべき技。
橘壱は、凛霞の持つ異能ほど精密に、機械的に全てを見切れるわけじゃに。
だが、研鑽を積み重ね、かつてゲームとは言え玉座を譲ることはなかった資質。
弾丸の軌道を見切る動体視力。その着弾に合わせる反射神経があれば難しい話ではない。
その連射の切れ目に、即座にメインブースタが轟音をたて砂埃を巻き上げる。
『僕が本当に、機械だけに頼っていると思わない事だ!』
その科学力が並み居る超常に拮抗するなら、
それを押し上げるのは装着者の技量。
碧の双眸を見開き、蒼白の機人が意趣返しのように、
鋭利なほどの直角な高機動で距離を詰める。
その間にも忘れない。弾の切れたショットガンを凛霞に放り投げ、
即座に後腰部にマウントしたサブマシンガンを左手に取り、連射。
閃光と共に無数のペイント弾が連射され、
標準がなくとも確実の標的に合わせて放たれる。
再び白兵戦───────。
『───────!』
───────ではない。
そのままの姿勢から、情報に急加速。
人間には出来ない、機械だからこそ出来る予備動作の無い急速機動。
急激なGの加速に内臓が、全身が押しつぶされそうになるも関係ない。
奥歯を噛み締め、空中へ飛び立つと同時に背部に折りたたまれていた砲身。
グレネードランチャーが肩から伸び、標的補足。
『……行け!』
強烈な破裂音と反動で機体が一瞬のけぞると共に、
大型炸裂式ペイント弾が放たれる。着弾と同時に、
辺り一帯をペイントの海に沈める一発だ。
範囲の広さは、ショットガンの比じゃない。
此の動きを、どう対処する。伊都波凛霞──────!