2024/10/18 のログ
■伊都波 凛霞 >
「──すごい」
一発でも当たれば、という目論見は淡く消える。
命中していれば──機界魔人に用いたものと同じ超酸による関節部の溶着によって機動力を鈍らせる算弾だった。
当たったところえ大した損害でない、とタカを括らず全弾を回避仕切った、賞賛以外の言葉がでてこない。
…しかし褒めてばかりもいられない。
彼のAFの機動力、それだけに頼っていると思っているなら、こうも悠長にはしていない。
銃弾を放った後も、その回避行動を、対応をしっかりとその双眸へと収めていた。
回避のクセ、タイミング。
それらを覚えるために。
AFはパワードスーツ、人間の駆る機甲だ。
AIや人工知能といったものの動きではなく、操縦者独自のクセが必ず在る。
素早くマガジンチェンジをしつつ、視線でその動きを追う。
彼の翼が動くと共にキリ、キリ……、と軋む音が周囲に響く。
その正体は未だ見えず、しかし───。
再びの白兵戦を匂わせての急加速、上空へとバーニアを吹かすその姿はまさしく蒼銀の翼。
こちらに向けられる砲身が陽光を反射し、その姿を誇らしげに晒せば……。
「──! 不味…っ」
咄嗟、地を蹴る。
此処に来ての面制圧、反射的にその場を離脱する。
直後、爆音と共に撒き散らされた大量のペイントの海。
飲み込まれる、と判断した瞬間、跳ぶ。
どの道、そのまま落ちるだけだろう──そう思うのが自然。しかし。
少女の姿はなぜか、中空に留まる。
……やや、その表情は罰が悪そうに。
少女の手から、上空に飛んだ橘壱のAFに向けてキラキラと陽光が照らす、一筋の銀糸…。
「はぁ……種明かし前にバレちゃった」
髪を解いた瞬間から。
円の軌道で弾幕を展開していた、その時から。
まるでその感触すら与えずに巻きつけられていた──それは視覚に至らない強靭なる複合繊維。
もう少し地上で動いていてくれれば、雁字搦めに出来ていたところ。
それで動きを鈍らせたところに…という二重の策が、まんまとこれでバレてしまったわけで。
■橘壱 >
砲身から伸び立つ白い硝煙。
此の一撃も避けられることは知っていた。
何せ、あの時の無茶苦茶な行動力な時に見せられている。
AFの機動力に追いつき、剰え飛びついてくるその身体能力を。
『流石の反射神経ですね。
……まさか空中浮遊も……、……?』
キリキリとなにか音がする。
心無しか、左腕を上げる動作が鈍いか。
そう思った途端、陽光に照らされる銀の糸が漸く見えた。
注視してもギリギリわからないほどの複合繊維。
ハハ、思わず乾いた笑いを漏らさざるを得なかった。
『抜け目ないとは思ってたけど、
もうあの時に仕込んでるなんて、驚きだよ。
……けど、空は僕の領域だ。それでも優勢とはタカは括らないけどね』
末恐ろしい。
わざわざセンサー類を潰したのも、此れのためか。
種明かしと空戦まで持っていって五分、と見積もったほうがいい。
此方も後はマシンガンとグレネード、左手甲の電磁ロッド。
そして、残る武装はあと僅か。……恐らく、勝機は"ここ"。
電磁バリアの出力を上げ、弾ける電流が複合繊維を焼き切った。
此れでもう同じ手は食わない。畳み掛ける。青白い一つ目が強く輝いた。
『だから、そろそろ終わらせに掛からせてもらうよ……!』
バックパックが展開すると同時に、数機の影が頭上に飛び出す。
小さな両翼を模したビット。アイツのナノマシン技術を応用した、新兵装のお披露目だ。
『行け、ストライドフェザー!』
全部で八基。
脳波によるコントロールで素早く、錯乱するようにバラバラに動き、
文字通りの四方八方、演習用の赤いマーカーレーザーが飛び出す。
当たれば衣服に赤いマーカーペイントを付けられ、当たりどころによってはアウト判定だ。
脳が圧迫される負荷に奥歯を噛み締め、メインバーニアが火を吹く。
装甲の全身が風を切り、マーカーレーザーの雨を潜って、今度こそ白兵戦へと突入する──────!
■伊都波 凛霞 >
彼の翼を楽に抑えられる方法は、全て折られた。
やっぱり等身大の人間相手とは勝手が随分違う。
繊維も焼き切られ、自由落下。
勢いを殺し、羽根のように着地すれば、上空を見上げる。
「───……」
煙幕が晴れ始めている。
チャフの効果もそう長くは保たない。
このまま上空を逃げ続けていれば、より戦況は彼の優位に傾く筈だ。
──しかし、彼の気性がそれを許さない。
背部ユニットから展開されたのは──ビット?
「それは聞いてないんだけど」
思わず苦笑い。
こんな武装は調べた上では存在しなかった。
新型の装備と見るべき──その挙動からどういった兵装なのかはある程度推察がつく。
ぱん!と両手で頬を貼る。
オールレンジから迫る紅いレーザーポインタ。
あれに当たってもアウト判定。
「───それは」
「…ちょっと、燃えるかも」
くす、と浮かべた笑みは苦笑…ではなく。
しばらくなかった、少女の『挑戦』に他ならない。
「どうぞ、頑張って当ててみて!」
全部避ければいいんでしょ?と、風切る鋼の翼に向け、前傾姿勢を取る──。
本気でその全てを掻い潜り、接近するつもりである意思の現れだ。
クラウチングスタートにも似る姿勢。
地を蹴った少女は疾風が如く、現実にそれらを完全に避けながら近づく──紛れもない、超人の姿。
■橘壱 >
当然此の兵装にもある程度Aiの補助も入ってはいる。
だが、基本的な大元は装着者のコントロールだ。
ただでさえAFの操縦に思考を、パフォーマンスを割いている。
そこに8基分の容量を更に追加するのは、想像以上に"重い"。
『ぐ、うぅぅ……!!(アイツが機械ってのを除いても、こんなにか……!!)』
血管が千切れる音がするって比喩で言うけど、
まさにそんな感じの鈍痛めいた負荷が掛かる。
非異能者の処理能力は、眼の前の少女に圧倒的に劣っている。
だから、何だというのだ、と口元はにやりと笑った。
『はっ……!そうこなくちゃ灰被り!
……最後の仕掛けと行こう……!』
そういうときこそ、"笑う"。
どれだけ苦痛や痛みに苛まれても、
今、この闘争ほど楽しいものはない。
笑う凛霞も前駆姿勢のまま、四方八方かたボイ掛かるレーザーを掻い潜る。
舞い上げる砂塵はさながら灰被り、どころか灰を巻き上げる側だ。
まだそんな余力を残していたのか。本当にこの先輩は……楽しませてくれる。
蒼白の機人が肉薄する距離に迫るとともに、急速に後方噴射。
同時に胸部からぼ、と溢れ出して膨らむのは無数のFluegel。
正確には偽物だ。ぷかぷかと不規則に浮かぶ偽物風船。
目まぐるしい勢いで変わる白兵戦の中で、不意に出される此れは"効く"。
使い古された戦法ではあるものの、効果はある。
が、相手はあの伊都波凛霞。その目をこれで欺けるとは思っていない。
『───────!!』
偽物風船に紛れ、一直線に全速力。
残された左腕の電磁ロッドを胸部目掛けて振り抜く……偽物。
このバルーンとは違う。偽物風船を展開すると同時に、
陽光に隠すように背部ユニットから展開した、映像記録を再現する幻影だ。
偽物風船と違い、それはまさに精巧な本物と変わらない。
言うなれば最新技術の偽物。新旧技術を用いた二重の不意打ち。
本体は……幻影の二歩、奥。
幻影を盾に更に低姿勢。
一直線にその腹部目掛けて電磁ロッドを振り抜く算段だ。
その"目の良さ"を欺かんとするために用意した壱の奥の手だ。
ビットによる多重攻撃で逃げ場をなくし、目を欺いての一撃必殺。
だが、穴がないわけじゃない。幻影は形だけであり、音はない。
つまり、本体との"音ズレ"が存在する。
その気を紛らわすための、偽物風船でもあるのだが、効果の程は……。
何にせよ、最後の勝負。通った方が勝つ───────!
■伊都波 凛霞 >
合計八基のビット展開。
自動操縦でないことはその挙動から明らかだ。
──、一般人の処理能力でそう保つ筈はない。
事実、少しずつレーザーの狙いの精度には僅かずつ鈍りらしきものが見えはじめた。
…正直余計に読み辛くなった。
己の持てる運動能力、反射能力。全てを出し切ってでもそれらを掻い潜って見せる。
同時に、それだけで終わる筈がない。
確信は判断を鈍らせる──露骨に視覚させられるものは──疑え。
空転と跳躍を繰り返すポイントムーブ。
その隙間に抜き打ちの銃撃。
よく狙わなくとも相手が大きくて当たるのは助かるところ──。
「(! バルーン!)」
銃撃を受けた時の揺らぎが違う。
小細工を弄する余裕は、まだ在るということ。
それだけ貪欲に、己の勝利を狙っている。──ことさら、冷静に。
「その呼ばれ方、あんまり好きじゃない、かもっ…!!」
突き進む、己を狙うビットすら蹴り、足場にしてバルーンの奥から迫る本体へ。
避けに徹する作業も終わりが近い、このまま突き進み、すれ違いざまにめがけて渾身の一撃を見舞う──。
「(──、違う!!)」
直前に感じた違和感。やや身体に無理を効かせることになるが、急制動──そして転身。
「本体!!見えたッッ!!!」
ダミーに隠された本体、そのコックピットブロックへ──。
雲心・鎧通し───瞬間に数撃、叩き込まれる浸透勁。
AFの装甲を素手で破壊することは少女の腕力では難しい。
故にただの衝撃ではない、内部構造に反響させる様な攻撃を選択した。
僅か一瞬の攻防、
最後の一撃を蹴りに乗せ叩きつけ──橘壱の翼の後方へと大きく回転しながら着地する。
「───……」
すぐに姿勢をなおし、後方へと振り返れば。少女は大きく溜息を吐く。
「……アウトかな」
少女の胸元は電磁ロッドが掠め、大きく焼け焦げ開けた状態。
更に、剥き出しになった右の胸元には紅いレーザーポインタが遺されていた。
ダミーに気を取られたほんの一瞬、ストライドフェザーの一つが確実に、狙いをそこに定めていた。
■橘壱 >
『(! クソ、反応してきた!!直感!?こんな直前で……!)』
完璧な作戦ではないとは言え、
そんな直前で気づけるのか。つくづく超人だ。
今更止まることは出来ない。電磁ロッドを振り抜くと同時に、
強い衝撃が走った。装甲を殴りつけた?違う、徹し。武術だ。
強靭な一撃が胸部に叩き込まれ、装甲の内部の電子系統、
及び装着者に強烈な衝撃が走った。
不自然なくらい鋼鉄の体ががくんがくん、と揺れ動き、
一つ目の光が消え、膝をついた。
そして、直後背面が開くと同時に、白衣の少年が、
壱がまるで不味いものを口に含んだように吐き出される。
装着者の安全を考慮した強制脱出機能。
操作するものの脳波を受け取らなくなった羽も、自動でバックパックに格納される。
差し込む日差しがやたら眩しく、なんとも言えない表情。
「終わり、か……」
勝敗の有無ではない。
戦いが終わったことによる虚脱感。
楽しい時間は、何時も不意に終わる。
それが戦いなら、尚更のこと。橘壱の本質をありありと示す呟きだった。
「……いや、相打ち、か。僕の負けかな
再起動してもFluegelの稼働時間は精々3分……。
応急用のナノマシンにより自己回復も、多分間に合わない」
ゆっくりと半身を起こせば、軽く首を回す。
「それに、先輩は二回までアウトが許されるなら、これで一回。
ルール的には僕の負けって事にはなる……かも?まぁ、なんにせよ
これ以上動かせないし、お互い出し尽くしたでしょうし、ね」
立ち上がり、砂を払えばゆっくりと立ち上がる。
向ける表情は何処か清々しいはにかみ笑顔。
「噂に違わぬ強さでしたよ、凛霞先輩。
色々コッチも対策してきたんだけど、まさか見切られ……」
歩み寄ろうとした途端、足がもつれた。
そのまま意図せず凛霞の胸に飛び込む形で、倒れ込んでしまう。
初披露の負荷の高い兵装に、慣れてきたとは言え遠慮ない高速起動。
訓練しているとは言え、超人足り得ないその体は、当然限界だった。
全身から嫌な脂汗が吹き出し、呼吸が荒い。しかも僅かにかすみ、顔色も悪い。
限界までの、疲労困憊。
■伊都波 凛霞 >
目の前で排出されるパイロットに駆け寄る。
終わりか、と呟く様子を見れば、無事なことに一安心、胸をなでおろした。
「私だって思いっきり下調べと予習はしてきたもん。
仕掛けはバレちゃったし、結局場当たりでやることになっちゃった」
この模擬戦の本筋としては、それで良かったのかもしれないけれど。
自分にも得られるものは多くあったと同時に、彼の実力と精神力には感嘆する他ない。
「模擬戦だから2回だけど、実戦だったらこの1回でアウトだしね…。
…私が生身だからってことでそう設定されたんだろうけど」
ちら、と模擬戦をしっかり見ていただろうキャリアウーマンをチラ見。
立ち上がる彼に視線を戻せば、なんともまぁ、さわやかな笑顔だ。
「橘くんこそ。
そんなオーバースペックのAFをここまで動かせる人、探したってそういな───」
疲労困憊か、足がもつれた彼の顔がぽすん、と胸元に収まる。
実に収まりがいい…ではなく、電磁ロッドで丁度衣服も焼け焦げ派手に開いた胸元にインだ。
「ちょ…っ───ほら、しっかりして」
その背に手を回して、支える。
こんなに憔悴するまで戦った相手を無碍に扱うことも出来ない。
さすがに少し恥ずかしいし、頬に朱は差してしまうけれど、慌ただしく寄ってきた彼を起用する企業が手配した医療スタッフ達。
その後は救護班によって彼に処置が施され、模擬戦は一応の終了を見ることになるのだろうが──。
どこからともなく今日の橘壱の勇名と共に"伊都波凛霞の生乳に顔面ダイブした男"という名誉なのか不名誉なのかわからない名も生まれてしまうのだった。
■橘壱 >
秘書さんは何も言わない。ただ、何やら誰かと話しているように見えた。
鍛えているはずなのにまだ体が追いつかない。
此れが恐らく決定的な超人と非異能者である少年の格差。
一歩ずつ埋めていっても、才覚の壁は未だ高い。
「……僕は、やっぱり戦うことが楽しい。
コイツを、Fluegelにいるときが、"生きてる"って実感する……」
倒れ込んだ胸の中が、よもや生乳とは思っていない。
それを認識できないほどに疲弊し、うわ言のように
ぽつり、ぽつり、と言葉が漏れる。
「戦うことは……多分、やめれない……けど、
それと同じ位、先輩や、悠薇先輩や……環菜ちゃんが……
皆がいる日常が好きに、なってる……だから、これを……」
「守った上で、僕は戦火にいたい」
なんとも二律背反とした願いだ。
本来あるべき方向性が逆に向いているが、
それらを両立する道を選ぼうとしている。
どれだけ苦難でも構わない。一度決めたら、止まりはしない。
ただ一つ、間違いないのは、凛霞達の交流が、
闘争を運ぶだけの翼になることはなかった。
その温かみを知ったからこそ、渡り烏は別の翼を選んだのだ。
「……戦いは、やっぱり生き甲斐、だ。
ごめんなさい、やめれは、しないです……」
叱ってくれても構わないし、軽蔑してくれても構わない。
歪と謗られても、この二律背反の両翼が自分の翼なんだ。
新たにその決意を文字通り、その胸中に吐露し、目を閉じた。
もはや慌ただしくよってくる医療班にも気づかない。
……目が醒めた時にとんでもない称号に暫く頭を悩ませるのは、別のお話。
ご案内:「転移荒野-Determination for Fight-」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「転移荒野-Determination for Fight-」から橘壱さんが去りました。