2024/10/22 のログ
ご案内:「『Gibson House』201号室」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
針を刻む時計のない部屋には、生命の音だけが静かに、確かに響く。
それはたったひとつの鼓動を力強く打たせ、ただ眠っていた。
■ノーフェイス >
発熱と昏睡。
しばしば内在する生命力の消耗によって起きる症状。
集中的な回復を行うための休眠状態だ。
全身に突き刺さっていた黄金の破片はいつしか術者に吸収されていた。
一昼夜明ける頃には傷もなく、呼吸も落ち着き始めている。
命にも何にも別状はない。――能動的な眠りだった。
人智の癒しは神の奇跡などではなく、ただただ非効率な人の仕業。
それでも直しきれない相手の脳疲労と同様、
オーバーヒート直前まで行った脳の休息も兼ねて。
■ノーフェイス >
――なによりも。
ずっと続いていた、気がかりが。
ひとつの心の重荷が解消され、緊張の糸が切れたのが大きかった。
我知らず蓄積していたものが一気に押し寄せただけ。
言ってみれば、若々しく生命力を漲らせていた無謬の玉体が、
常人の数倍に留まらぬ疲労を重ね重ねて――ようやく無理が祟った、というだけ。
ひとときの休息、それだけだ。
誰かの気苦労をよそに、心地よく眠っているだけ。
■ノーフェイス >
それでも安堵の眠りには、まだ浸らない。
休息も慰めも、次なる戦いに向けての行為だ。
ただ崩れかけた膝を立ち上がらせるためにだけのみ許されるもの。
いばら姫を名乗るには、色気も神秘も足りぬ寝所で、
接吻を待たぬ唇が、不意に、ひらいた。
「………♪ ……♪」
あえかな音で紡ぐのは、あの試練の時に浮かんだ旋律。
鼻歌で紡がれるものを、この眠りのなかで必死に離さぬように。
――そう、離してなるものか。
みずからの混沌はすべてを取り込み、完全に近づいて、
その痛みや苦しみや快楽から生じるものに秩序を与え、歌として解き放たれる。
「…………、……♪」
あの極限に、あの刃に、あの舞台に、あの衝動に、あの恋と愛に。
喚起させられ、誕まれた音を――紡いで、編まなければ。
唇は、薄っすらと綻んだ。
筋金入りだった。
■ノーフェイス >
――恋ひむ涙の 色ぞゆかしき
ずいぶん悩ませてくれたあの詞の意を、なにより実感が教えてくれた。
あのとき捧げられた叫びも涙も、自らを責め立てる悔いと未熟も。
31。割り切れない数。五つに分かれる素数の韻律。
……また、ひとつ。
階段をあがるように。
「よも、すがら……」
短い笑い声。寝言は散発的に、しかし。
続く旋律はまた、契りを忘れぬように繰り返される。
もうすぐ、起きなければ。
「………S■■e■ Ha■n■■■ ■a■■■ni■■■」
だって、そういう時期だから。
その時のための、これは、無垢なる嵐の予兆。
一粒の砂に、世界を。
一輪の花に、天国を。
永遠を刹那に、無限をこの掌に。
ご案内:「『Gibson House』201号室」からノーフェイスさんが去りました。