2024/10/23 のログ
ご案内:「第二方舟-黒風の記録-」に芥子風 菖蒲さんが現れました。
■芥子風 菖蒲 >
【9/25 10:30】【適合値:10%】【浸食値:2】【エントランスホール:警備室】
警備依頼を受け、応接室で待たされて異常事態発生。
人一人"溶けた"と思えば、既にそこかしこに惨状が広がっていた。
明確に漂う死の匂い。夥しい黒い液体を乗り越え、
今回の同僚のなるべく人物たちの安否を先ず確認しにきた。
液体に沈んでいたDクラスのリストバンドを拝借し、
警備室の電子キーを使って今、此の場にいる。
勝手に借りたのは申し訳ないが、仕方ない。
そうでもしなければ、入れなかったから。
「…………」
手遅れだ。
そこに残っていたのは、表と同じ黒い液体と、警備服。
せめて、とその二つの液体に両手を合わせて黙祷を捧げた。
ゆるりと開く、青空の双眸。顔色はすぐれない。
「……気持ちが悪い……」
リストバンドに触れた時から、妙に頭がふらつく。
あの液体に触れたせいなのか。理由はわからない。
とにかく、生存者を探さなくちゃいけない。
片手で強く、こめかみを押さえつける。
今日はやけに、"同居人"の声も煩かった。
■芥子風 菖蒲 >
そう言えばそもそも付けられてる此のリストバンドは何なんだ。
渡されたときより数値が増えている。何を意味するかはわからない。
ただ、良いものではなさそうだ。早く、皆と一緒に脱出する方法を探さないと。
揺れる青空を何とか定めて、見据える先は監視モニター。
「……ええっと……」
事前に警備の仕事に回される際の予習は受けている。
此の操作方法で……あっているようだ。モニターには、
『研究エリア』方面の通路の様子が確認できる。
……なんだか妙に画質が悪いのは、機械の故障か。
生存者らしき人影も確認できるが、別の"何か"もいる。
「……なんだ?」
何かが高速で動き回っている。
それが何かは確認できない。
飽くまで、いることがわかるだけ。
とにかく、やることは決まった。
「研究エリアって確か、アッチだったよな……」
確か向こうにゲートがあったはず。
自分に出来る事を、やれることを全うする。
トントン、と漆塗りの鞘で肩を叩けば深呼吸。
「……よし」
足早に、ゲートへと向かうのだ。
■芥子風 菖蒲 >
【9/25 10:45】【適合値:24%】【浸食値:3】【研究エリア:通路】
途中、余りにも大きな黒い水たまりが出来ていたが、"突っ切った"。
急いでいるんだから当たり前だ。黒い泉を、黒い風が吹き抜けた。
その結果、全身にあちこちに付着したせいか、余計に気分がすぐれない。
おまけに、脳内に響く"同居人"の声が余計に煩くなった。
─────────
「……何時もより、煩いな。星……何?」
気だるそうに手で頭を抑えつけたまま、研究エリアへの扉が開く。
そこに広がる景色もまた、惨状である。そのせいで、脳内会話も吹き飛んだ。
「そういう事か……」
獣のような声に成らない声。
徘徊する人影は、異形と化してしまった人々だった。
そして、足元には黒い液体以外にも、黒に色彩を齎すためにと、
肉と血をコントラストとした死体が点々としていない。
此処で何があったかなど、想像に容易い。
無意識に奥歯を噛みしめていると、一人と目が合う。
頭を巨大な瘤に変質させた、一人の研究者と。
■芥子風 菖蒲 >
モーター音めいた唸り声とともに、一直線に向かってくる。
丸太のように太い足が床を踏み鳴らし、むき出しの歯茎から体液が飛び散る。
最早人ではなく獣であるが、青空に映るそれは正しく"人"である。
「……ごめん」
一瞬だ。すれ違いざまに漆から銀の刃が飛び出した。
すれ違いざまに黒風が吹き抜けた。黒衣を靡かせ、
刹那の間に吹き抜けた斬撃が、異形の体を斬り裂いた。
全身の至る部位がズルリと斬り落とされ、人は倒れる。
重々しい肉の音。ベチャリと滴る、赤の液体が生々しさを感じさせる。
救いを手立てる手段も考えるほど、余裕がない。
自らの余裕の無さに手段を選ばず刃を振るった。
身勝手さだ。余りにも身勝手な自分の考えに、反吐が出る。
きゅっと、胸を締め付ける感覚を今は無視して、衣服の裾で刃を拭う。
「償いは必ず……」
死した魂を必ずあるべき場所に供養しよう。
その場にしゃがみこみ、両手を合わせる。
─────────
黙祷は出来ない。
それを遮るように"雑音"が脳内に垂れ流しだ。
「……っ……本当に今日は、よく喋るな……、……?」
丸々と膨らんだ異形の腕にも、リストバンドがついている。
【クラスC 霞ヶ丘花梨】
「…………」
やはり、確かに人だった。
それを一つ拝借すれば、沈痛な面持ちをゆるく振った。
今は前に進むんだ。足を止めるな。とにかく、人がいそうな場所に行こう。
頭の中に見取り図は入っている。この先なら、確か休憩室があったはず。
これ以上、"人"に見つからないように進んでいこう。
■芥子風 菖蒲 >
【9/25 10:55】【適合値:27%】【浸食値:3】【研究エリア:休憩室】
"人"の目を掻い潜り、入った先には二段ベッド。
コーヒーメーカーに菓子棚。まさに文字通りの憩いのエリア。
今はそんな暇すらなさそうだ。此処でも何かったらしい。
ベッドのシーツにさえ、"黒い沁み"があるのだから。
「…………」
それでも祈りは手向けなのだ。
せめてとぐらつく脳内を無視し、軽く手を合わせて一礼。
左側のベッドへと寄りかかり、二段目へと上がった。
此処にも案の定、黒い沁みとリストバンド。
「クラスB。名前は……、……染みで見えないや。
……ん、なんだコレ。メモ書き?……此の人のかな」
躊躇なく、メモ書きを拾い上げる。
そこには数列が書かれており、何かのパスワードなのだろう。
何なのだろうと訝しんだ矢先、鈍痛。
脳内を思い切りぶっ叩かれたような、気分の悪さ。
思わずメモ帳を手放し、なし崩し的に床に落ちた。
着地もおぼつかず、よろけながら、ベッドに凭れ掛かる。
「……まだ、まだ動ける」
止まるわけにはいかない。
まだ、誰かいるかも知れない。ベッドにあったリストバンドを握りしめ、
揺れる青空を見開き、深呼吸。改めて歩を進めた。次は……。
■芥子風 菖蒲 >
【9/25 11:10】【適合値:35%】【浸食値:4】【研究エリア:資料室】
早速拾ったリストバンドが役に立った。
確か此処はセキュリティが高めの部屋だ。
本当なら、向こうの事務室から鍵を借りて入ることになっていたんだろう。
開いた扉の中にはまさに無数とも言えるほど棚があった。
とても既視感がある。そう、確か……。
「風紀本庁の資料室といい勝負だな……」
そう、風紀委員会に資料室だ。
あそこも大分狭っ苦しい。正直、苦手だ。
とは言え、今はやるしかない。
これだけ膨大な資料、そこから選別なんで細かい作業は出来ない。
ぱちん、と両手で頬を叩き、気合を入れて思考を定める。
「──────よし」
どうせやるなら、片っ端から調べてやる。
早速菖蒲は、付近と棚を次々と漁っていく─────。
■芥子風 菖蒲 >
……─────凡そ4時間以上経過。
流石に無茶苦茶やったと思う。
ただ、此の研究所が何をしていたのか、
なんの研究をしていたのかはざっくりわかった。
恐らく、これだけが全てではない。その証拠に、コレだ。
「……読めない」
Aクラスリストバンドと一緒にあったファイル。
【第一方舟:星骸計画】と言う名前らしい。
その内容は……わからない。というか、何だこれは。
恐らく、何かが書いてある事には違いない。
ただ、今の菖蒲には"さっぱり"理解"出来なかった。
この重たい脳みそが、まるで理解を拒んでいるかのようだ。
拒んでいると言えば、似たような資料が幾つか散見している。
あちらの棚、Aクラスのロックが掛かっていた棚の資料もまた、
多くの資料があった。黒杭だの、適合者リストだの、鍵だの。
どれもこれも、何もわからない。そもそも、あそこに書いてあるのは字だったのか?
「…………」
考えが定まらない。頭も重い。
おまけに耳には、雑音以外にも別のものが聞こえる。
自らを称えるような拍手に、それらを取り巻く信者の姿。
そして、その背後には母親の姿。かつての光景。そう、幻覚だ。
そう理解できるからこそ、自らのリミットが迫っている事を理解する。
全身を撫でるような嫌な脂汗。僅かに息を呑み、首を振った。
それでも、進まねばいけない。
「帰るんだ……皆の場所に……先輩のいる場所に……」
自らの陽だまりに、戻らなければならない。
喧しいほどの喝采の振り払うように、早足に資料室を後にする。
■芥子風 菖蒲 >
【9/25 15:30】【適合値:42%】【浸食値:5】【研究エリア:通路[防護壁]】
未だ自らを称える声と、貶すような雑音。
忌々しい母の声と姿を振り切りながら、記憶を辿る。
確かこの下は地下に続いていたはずだ。この隔壁なら、
もしかしたら上手く逃げ延びた人もいるかも知れない。
ただ、目の前には広大は黒い水たまりが広がっている。
同時に犠牲者の数を物語っている。これに触れれば、
どうなってしまうかも理解できるが……。
「……いかないと」
止まる選択肢など、とうに無い。
黒い水を踏みしめ、防護壁の前に立つ。
確かセキュリティレベルはA。鍵はある。
後は、合言葉だ。多分その5つの数字は……。
「……開いた」
あの、五桁の数字だ。
重々しく開く隔壁。今はただ、前に進むだけ。
より大きく、鮮明に聞こえ、見え始める過去の残響。
それらを振り払うかのように、早足で階段を駆け抜ける。
■芥子風 菖蒲 >
【9/25 15:30】【適合値:56%】【浸食値:6】【研究エリア:B1 保管室】
重厚なスライド式のドアを開けば、そこには様々な物がおいてあった。
倉庫、保管室。整頓はされているが雑多な程に色んな物が置かれている。
自身の中にいる同居人も、なんだかやたら煩い。
勘弁してくれ、今はただでさえ煩いんだと溜息を吐いた。
役に立ちそうなものはないが、偶然手をかけた扉が開いた。
そこにあるのは、杭。いや、兵器と言っていいほどの3m近いもの。
ああ、なんでだろう。今なら何となく理解できる。
多分これ、資料室にあった──────……。
「……けど、オレには使えないな……」
使い道も今のところ無い。
そんなものに用意はない。ただ、
傍らにあった電子キーには用がある。
厳重なセキュリティの施設だ。鍵はあるだけに越したことはない。
電子キーを手に、進むべき道は一つ。後は……。
「此処に人が見えないなら、多分……」
残るは、付近の部屋。
■芥子風 菖蒲 >
【9/25 15:34】【適合値:-%】【浸食値:-】【研究エリア:B1 所長室】
扉のロックが開けば、執務室だ。
確か、此処の責任者の部屋のはず。
ここにも生存者の姿が見えない。
もしかしたらもう、この研究施設には──────……。
「…………」
考えを振り払うように、首を振った。
おぼつかない足取りで、一歩、二歩と歩いた矢先……。
「……あ」
ぐらりと景色が揺らいだ。
無茶な直進を繰り返し続けた"ツケ"だ。
休憩も取らずに進んだ結果、限界が来てしまったらしい。
鳴り響く喝采も、囁く母の声も、全て現実みたいだ。
「──────まだ、止まれ……」
誰かが生きているかもしれない。帰らなきゃいけない。
此処で止まっている暇はないんだ。進まなければいけないんだ。
確かに唯一の残った意思。体だけでも、と思えど、
何時ものように糸が出てくる事はない。自らを称える喝采の中、
青空は静かに、目を閉じた。
■芥子風 菖蒲 >
──────……気づけば、見慣れた天井がそこには広がっていた。
あの後、随分と長い間意識がなかったらしい。
誰かに助けられ、医療施設のベッドの上。
結局、あの後何がどうなったかはわからない。
ただ一つわかるのは、自分は生き残ったようだ。
結局何も分からず、誰も救う事も出来なかった。
心残りだけを残し、日常の営みに帰るしかなかったのだ。
ご案内:「第二方舟-黒風の記録-」から芥子風 菖蒲さんが去りました。