2024/11/25 のログ
ご案内:「Free1 未開拓地区 正面封鎖ゲート前-」に橘壱さんが現れました。
橘壱 >  
不意に周辺の大気を揺らすのは轟音。
青白いバーニアの熱音が周囲に響き渡り、
周辺防壁拠点へと着地する青白い鋼の機人。
着地と同時に全身から白い煙が排熱され、専用の整備台へと誘導される。
突然の生物災害において、殲滅力は何より重宝される。
特に感染の危険性を考えても、機械(マシン)はうってつけの兵器だ。

「……ハァ……!」

蛹から出るように背が開くと、よろめいて出てくる装着者(パイロット)の少年。
長時間における前線の戦闘により随分と疲弊している。
機体の方も損耗が見られ、全身に装備されている重火器も当然激しいものだ。
整備が忙しなく動く中、渡されたペットボトルを受取力なくコンテナに座り込んだ。

「思ったよりもハードですね、波都先輩……何徹目ですか?」

なんて力なく笑みをこぼして訪ねた。
お互いこの顔合わせも何回かわからない。
それくらいこの防壁拠点と前線を行ったり来たりしているのだ。

鶴博 波都 >   
「偶然にも、緑桜(この子)を動かせた経験が活きました。
 ……3ですが、たぶん4になります。軌道に乗るまでの勝負です。」

 冗句や皮肉ではなく、どう考えてもそうなる。
 今夜も休めぬであろうことを力なくとも告げ返し、
 他愛も無い会話で精神的な活力を得る。
 
 極限状況では、そうまでしてでも正気を保つ事が肝要。
 彼女はそう認識している。

「AFおよび各種機動兵器用の物資は第三車両になります。
 私が運搬しているので(十分な数は約束されている)物資は十分、とのことです。」

 鶴博波都が有する異能、⦅物資確保⦆。
 開花したばかりの異能ではあるが、必要な物資を喪うことなく潤沢に確保出来る補給に特化した異能。
 それは物資が満たされるまで、無尽に増えて減らぬことを意味する

 平時に於いてはコントロールの効かぬもので、時折物資を増やすに留まっていたが、
 この緊急時に於いてはその異能を遺憾なく発揮し、各委員への補給を潤沢なものへと変えている。

「……流石にこの状況だと、私も私の異能を実感出来ます、ね、」

橘壱 >  
ペットボトルの中の水には様々な栄養素が入っている。
此れだけで携帯食料の変わりにもなるというわけだ。
ただ、味は"保証されない"。こんな状況だ。
味なんて気にしてられないものだ。

「お互いハードですね。僕は、幾つだったかな……。
 何にせよ、こんなタイミングで駆り出されるなんて不運ですね」

前線に志願して間もないというのに、此の扱い。
いや、有能だからこそ重宝されているのかもしれない。
実際こういった長期戦において物資確保が出来る力は、とても頼りになる。
漸くそれも彼女も自覚し始めたらしい。
空元気だからこそ笑みを浮かべて、ペットボトルの水を一気飲み。

「……やっぱり慣れないな、この味。
 波都先輩も自分の凄さを自覚始めたようで何よりです。
 どうですか?自分の異能(チカラ)が役立ってる感想は?」

なんてちょっとからうかうように言ってやった。
ちょっとした意地悪のつもりだ。
こうでも言ってないとやってられない。
そうして壱が懐から取り出したのは、一本の注射器。

鶴博 波都 >  
「それでも完全封鎖にこぎつけたのですから、不幸中の幸いです。
 私もちょっと水飲みます。喉が……。」

 自分用のペットボトルを取り出す。
 味は気にしていられないし、喉が潤えばそれでいい。
 栄養もこれと糧食で何とかなる。

「ううん……実感はあっても、感想としてはわかりません。
 私の異能がなくとも、物資を運ぶ事には変わらないですから。
 異能が作用しているとしても、大きな流れの中のひとつです。」

 異能がなければ運搬する回数は増えるし、より高いコストを支払うのだろう。
 裏を返せばいくら自分の異能が強力であれど、それで済む話である。

 数ある鉄道委員の一個人がハードワークによって、部分的に貢献しているに過ぎない。
 少なくとも鶴博 波都は、そう認識している。

「インフラは、機能してこそのインフラですから。
 封鎖が維持できていて、何も起こらないことが一番の安心です。
 ……そのアンプル、安全なものですか?」

 状況的にカンフル剤の類だろうか。
 不安な内心と共に、注射器へと視線を移す。
 

橘壱 >  
「ふと気づく頃にはってなりますからね、適度に補給してください」

こうも激務だとこういうのは"忘れやすい"。
何よりも身体は資本だ。自らの体調を蔑ろにすることは、
作戦の流れ自体の迷惑に成りかねない。だからこそ、体調管理は万全に。

「謙虚ですね。少しは胸張っていいのに。
 ……まぁ貼るならもう少し大きいほうが好みかなぁ」

なんて叩く軽口もノンデリ気質。
寧ろこんな状況だからこそ余計に気を使えない。
彼女の胸をちらりと見やれば軽くはにかんだ。

「でも、魅力的ですよ、そういう人。彼氏とか作らないんですか?」

謙虚で可愛げのある女性。
結構人気がありそうな気もするんだけどな。
くるくると回した注射器(アンプル)の針を腕に突き立てる。

「どっちだと思います?」

再び掛ける意地の悪い質問。
そんな事を言って腕にぷすりと突き刺さった。
瞬間、血管を、全身を駆け巡る妙な感覚に思わず表情を歪めた。

鶴博 波都 >   
「はい。雑に配っても帳尻が合うのが私の異能の良い所です。
 補給しないと損ですから、ちゃんとやります。」

 数ある消耗品なら、適当に配っても帳尻が付くのが自身の異能らしい。
 ペットボトルを飲み干した後、仮設ゴミ置き場に放り込む。
 
「わたしには、張れないぐらいが丁度良いです。
 ……そっかー、壱さんは大きいのが好みなんだー。」

 らしからぬ軽口を叩いて空元気をつくる。
 大分棒読みなので、意識してなさそうなことも丸わかり。

「ありがとうございます。彼氏は……私には過ぎたものかな、って思います。
 ……実際に作った時にどうなるか分からなくて、ちょっと"怖い"です。」
 
 怖い。
 色恋沙汰にはやや似合わぬ、奇妙な表現を用いて否定をした。

「じゃあ、胸が大きくなる薬ってことにしましょう。」

 気を取り直すかのように冗句を口にする。
 もしも本当にそうだったら、色々と突っ込みどころが満載。

 内心で自分で言った事がツボに入ったのか、ちょっとだけ笑顔が浮かぶ。
 極度の疲労は笑いのツボも狂わせる。

「って……大丈夫ですか?」

 やっぱり宜しくないものらしい。
 差し込んだ時に彼が浮かべた苦悶の表情を見れば、真顔になる。
 

橘壱 >  
"目が冴える"。
全身に血流が急速に上がった気がする。
一応合法ではあるが刺激の強いパイロット強化薬(カンフル剤)
全身から力が抜けるとふぅ、と一息。

「寧ろ細かい物資のが不足しがちですからね。
 そういう所に手が届くのは本当に便利だと思います」

「ほんと、波都先輩にも皆さんに感謝してるんですよ?」

縁の下の力持ちとも言うのか。
寧ろ社会を動かしているのはそういう人達だ。
装着者(パイロット)や異能者だけではこの前線も維持できない。
こうして帰る場所を用意してくれる彼等あってこそだ。

「まぁ、僕はおっきい方が好みですね。
 せめて凛霞先輩位あると好みだけど、
 彼女にするって言うならそこまでこだわらないかなぁ」

性的趣味と彼女(パートナー)に求める条件は違うもの。
疲労と空気感による妙な冗談の飛ばし合い。
ハハ、と乾いた笑みを浮かべて肩を竦める。

「僕の胸おっきくなったってしょうがないでしょ。
 大丈夫ですよ。気合をいれるためだけのものですから」

御覧の通り、と両手を大きく広げてみせた。

「怖い、か。それはわからないからって感じです?」

鶴博 波都 >  
「あはは……お礼なんて、聞いている暇がないですから。」

 目の前のパイロット(橘壱)が活力を取り戻した。
 それが薬品による一時的なものだとしても、先ほどの疲れ切った様子で出撃するよりかは好い。

 そう思えばどこからか安心感が湧いてきて、ネガティブな言葉とは裏腹に気が緩む。
 みんなを帰すところまでが、鉄道委員のお仕事だ。

「凛霞先輩って言うと、慰安旅行の時のあの……。
 ……風紀委員って胸の大きいひと、多い印象です。体躯に優れている証でしょうか。」
 
 首を傾げる。
 遺伝的・生物学的に肉体的に優れているが故に胸も大きい。
 強者の証なのだろうか、なんてことを疲れた頭で考えた。

「私も欲しい位と言うのは置いといて、乱用はしないでくださいね。
 ……どちらかと言うと……あんまり言いたくないんですけど……」

 言い淀む。
 想像出来ない訳ではない。

 平時の鶴博 波都ならば適当に誤魔化していたのだろうが、
 この極限下に於いてはそれが出来ず、秘めたる本音を零してしまう。

……そもそも、幸せになるのが怖いんです。
 恋人が出来るのは、幸せなことじゃないですか。
 

橘壱 >  
「こんなに出入りが忙しいとね。
 けど、ちゃんと受け止めておいてくださいよ。
 それがきっと、何時か心の救いになりますからね」

嬉しい感情も悲しい感情も積み重ねだ。
それが何時か支えとなってくれることを知っている。
他でもない自分が、支えられている側なのだから。

「どうなんだろうねぇ、鍛えてはいるっぽいけど。
 どっちかって言うと遺伝(運ゲー)な気も……」

確かに言われるとそんな気もする。
いや、どうだろう。別に小さい子もいたような。
これを気にするのは闇な気がしたので軽く首を振って誤魔化した。

「…………」

幸せになるのが怖いと言った。
随分と妙な言い回しなのは此れか。
再出撃まではまだ少し時間がある。
見やった時計から目を離し、碧の双眸が彼女を見据えた。

「……じゃあ、楽しいって思うことも幸せだと思いますけど、
 波都先輩はそういうのも"怖い"んですか?先輩、どうして幸せになるのが怖いんです?」

鶴博 波都 >   
「そこに関しては……ほんとうにわかりません
 ただ、何となく自分は幸せになってはいけないような気がするんです。」

「楽しいことは……自分だけじゃないなら、そんなに怖くありません。
 むしろ、そうあってほしいと思います。」

 栗色の双眸が、碧を見つめた後に逸れる。

 幸福恐怖症(cherophobia)
 言葉以外に変調は見られない辺り、重度のものではないのだろう。
 
 だが、その起因が彼女から語れることはなかった。
 快楽や楽しいことを怖いとは言わなかった。

 ストイックな仕事への姿勢や謙虚で可愛げである辺りも含め、
 秩序や他者が幸福であることは強く望む様にも見える。

「出撃前に、ヘンなこと言っちゃいましたね。
 大丈夫です、壱さんと話しているのは楽しいですし、ちゃんと帰ってきてほしいと思ってますから!」

 分かり易く言ってしまえば、過度に謙虚で他者献身が過ぎる人。
 よくあると言えばよくあるし、異常と言えば異常と言える。
 原因は、不明。

「あっ、そろそろ次の補給に向かわないといけません。
 お喋りも一旦ここまでです。お互いに頑張りましょう?」
 
 カラ元気を見せて、送り出す姿勢。
 

橘壱 >  
原因不明の幸福恐怖症。
本人がわからないとなると、何とも言い難い。
医学的感的から言えば過去の出来事(トラウマ)か、或いはもっと……。

「(思い返せば、波都先輩の過去とか彼女の事よく知らないんだよなぁ)」

頼れる整備班、頼もしい先輩。
そんな彼女の肩書き(外側)は知っていても人物像(中身)は知りようがなかった。
そういう話題に成らなかったと言えばそれまでの話だ。
でも、だからこそ知る必要があるのかも知れない。
幸福になってはいけないなんて理由、彼女になんてありえない

「…………いえ、大丈夫です。
 こっちこそヘンな事聞いちゃってすみません」

よ、とコンテナから飛び降りれば愛機(Fluegel)を一瞥する。
外装も補充も完璧だ。これでまた、問題なく戦える。
そうして、彼女を横切る寸前でポン、と頭の上に手を置いた。

必ず帰って来る。まさか、先輩の楽しい時間まで奪いませんよ」

自分と話すのがそうであるなら、尚の事。
何時ものようにはにかんで、せめて空っぽを満たして本当の元気になるように。
そのまま振り返ることもなく自らの愛機へと装着(搭乗)
青白い一つ目(モノアイ)が光り輝き、出撃開始(スクランブル)
再び前線(居場所)へと鋼鉄の翼は羽ばたいていくのであった。

鶴博 波都 >
 鶴博 波都は、ほとんど身の上を語らない。
 断片的に得られる情報はいくらかあるが──。
 
「わっ……。」

 ぽふっと手を置かれると驚いたように目を丸くする。
 眼を閉じて、その手を確かに受け容れた。

 少しだけびっくりしたらしい。
 感情を覆う様に眼を閉じたものの、拒むことはしなかった。

「壱さんの相棒も、元気いっぱいですね。必ず帰ってくるって信じます
 このハザードが終わったら、学園のカフェにでもいきましょう!」

 愛機を装着した橘壱を認める。
 力強い言葉と再整備を終えた機体を見送った後、緑色の車両へと乗り込む。
 鶴博波都の主戦場は、最前線ではない。互いに互いの主戦場へと向かうだろう。

「私も頑張ります。少なくともみんなの幸福は、怖くありません(とてもだいじ)!」
 
 少なくともそれは間違いじゃないし、生きがいではある。
 リニア駆動で車両を飛ばし、次に必要な物資を確保するために列車を走らせる──。

ご案内:「Free1 未開拓地区 正面封鎖ゲート前-」から鶴博 波都さんが去りました。
ご案内:「Free1 未開拓地区 正面封鎖ゲート前-」から橘壱さんが去りました。