2024/12/27 のログ
■杉本久遠 >
「あぁー、いやあ、あの日の事はちょっと忘れてほしいぞ。
流石にちょっと、自分で思い返しても大人げなくて恥ずかしいんだ」
なんて言いつつ、困った顔をする。
けれどきっと、この恋人はそんな久遠の一挙一動をしっかりと覚えていてくれてるのだろう。
その確信が、恥ずかしくあり――とても幸せに思えた。
「かわいい、でもまあ、確かに今思えば可愛い程度のもんか。
まあ喧嘩の一つや二つ、血の気のあるやつなら――ブッ」
のんびりとしたスローテンポの会話に、突然混ぜ込まれた、強烈な剛速球。
久遠は咽つつ、顔を真っ赤にしていた。
「いや、その、そんなふうに言われると、オレもどうなるか、わかんなくなる。
その、虎になるのは、なんだ、その、酒の勢いで、なんていうのは、正直嫌だし――って何言わせるんだ」
久遠の顔は、熟れたトマトのように真っ赤になっていた。
久遠もまあ、枯れているほうとはいえ、まったく考えないわけじゃない。
特に、目の前の恋人の体温や、身体の柔らかさ、蠱惑的な魅力と、よくよく知っているからこそ、自制心を総動員しているくらいなのだから。
「ンンッ、そうか魔法なのか。
面白い魔法だなぁ。
オレは結局、魔法の才能はまるっきりなかったから、身近で見るとやっぱり不思議なもんだなぁ」
なんて話しているうちに、しっかりとベタな――なんの変哲もない、ささやかなクリスマスの準備が出来た。
ワインを互いのグラスに注いで乾杯して、ゆっくりと語らう、そんな時間が楽しみで――
「――あっ!
すまん、そのまえに、だ!」
危うく、この日最大のイベントを忘れてしまう所で、久遠は袋の中ではなく、サンタ服の内ポケットを探った。
■シャンティ > 「あ、ら……私、は……面白、か、った……けれ、どぉ……? 違う、面、という、のは……特に、ね?」
恥ずかしがる男に、くすくすと笑いかける。人はいい面ばかりではない。それだからこそ、面白い、と女は思っている。
「可愛い、かわいい、坊や、よ……ね。ふふ。」
喧嘩くらいであれば、男も女もする。手を出して誰も彼も、となると違うだろうが。ただ、その程度ならありがち。可愛い、といえるだろう。
「さ、あ?久遠、が……言った、の、よぉ……? 酔って、暴、れる……人、を……虎、と……言う、の、だけれ、ど……久遠、は……なに、を、想像……し、た、の……か、し、らぁ……?」
咽て、顔を赤くする相手に、からかうように笑いかける。自分の意図は違うところにあったのよ、と
「才能……ね。ええ。才能……なの、でしょう、ね。たまたま、なの、だけ、れど」
本を愛した。それ故に、だろうか。本が関わるものであれば相性がよかった。それだけといえば、それだけの話である。
「……?」
準備は整い、のんびりと過ごす。想定よりはだいぶおとなしい流れではあるけれど、これはこれで一つの形だろう。それなら、もう始めるだけだ、と思った矢先に止める男。
思わず、小さく首を傾げた
「なぁ、に?」
■杉本久遠 >
「ぐ、ぐおぉぉぉぉぉ――!」
墓穴を掘った、それも全力で。
そして当然、恋人は久遠が何を考えてしまったのか、恐らく『読まなくたって』お見通しだろう。
いやまあ、久遠も健全な男子であるからして、これだけ魅力的な恋人がいれば、考えないというのも無理な話ではあるのだが。
「はあ――その、君を抱きたい、と思った。
というか、もう、この際だ。
そういうふうに思ったことは、一回や二回じゃない。
ただ、もしそうした関係になるなら、勢いや熱に浮かされてじゃなくて、その。
出来る限り大事に、大切な思い出にしたいから」
勘違いして言ってしまった手前、全部ぶっちゃけてしまえとでもいうように。
それだけ彼女は魅力的な女性なのだから。
「たまたま、こんな不思議な魔法がつかえるようになるものなのか。
やはり魔法も奥が深いなぁ」
――さて。
そうしてささやかな準備が整った場で、待ったをかけた久遠。
その懐から出てきたのは、一つの小さなケース。
「今日は、だな。
これをどうしても君に贈りたかったんだ。
その、受け取ってもらえるか?」
そうして差し出された小さなケース。
恋人が手に取り蓋を開けば、宝石類の飾りはないが、白金で出来たとてもシンプルな指輪が入っているだろう。
その内側には、彼女の名前が丁寧に刻印されている。
■シャンティ > 「あら、あら。」
誤魔化したり、訂正したり、黙ったり。
そういう対応は想定していたが、此処まであけすけに吐き出すとは思っていなかった。思わず、くすくす、とではなく。普通に笑ってしまう。
実に、泥臭い。
「……あぁ」
差し出されたケース。内容を確認すれば、シンプルな白金の指輪。
内側の刻印も、認識する。
「……」
なるほど、そういうことか、と女は妙に納得した。一足飛び、とはもう言えないのかもしれない。それでも思ったよりは性急な感じもある。
まごつくときはまごつくが、動き出すと一直線を飛び越えてくる。
いかにも、この男らしい。
「気、が……早い、わ……ね、え?」
そもそも指のサイズは分かっていたのだろうか。
読んだ感じでは、合っていそうではあるが。
つい、と指先で指輪をつまんでみる。
「……サイズ、は……良さ、そう……ね?」
指に軽く差し込めば、サイズ的に問題はなさそうだった。
その辺りはぬかりがないようだ。
「 明日、には……どう、なって、いる、かも……わか、ら、ない……のに。強引、と、いう……か」
こういうときの押し、というか勢いはずいぶんである。
「い、や……って、いった、ら……どう、する……つも、り……なの、かし、ら……ね?」
指輪をつまんで、軽く弄びながら意地悪く笑った。
■杉本久遠 >
「――一応、ちゃんと考えたんだ。
だからこれは、婚約指輪」
また気が早かったかな、と、真面目に、けれど恥ずかしそうに。
「指のサイズは、その、以前に手に触れた時にわかってたからな。
口約束だけじゃない、形にしたかったんだ。
まあこれは、オレの我儘なんだけどさ」
そしてもう一つ、自分の前にも同じケースを出して、開ける。
中身は全く同じデザインの指輪。
こちらには久遠自身の名前が刻印されていた。
「明日どうなってるかもわからないから、少しでも、繋がりを増やしておきたかった。
だから嫌なら着けないでくれても――着けてるーッ!」
自分も大概だが、彼女も本当に変な躊躇をしない女性だった。
「いや、って言われたら――いや変わらないな。
また時間を重ねて、またリベンジする。
それだけだ」
躊躇わない。
悩んでばかりだった自分を振り切って、彼女と並んで歩く道を選んだのだから。
そこに躊躇う事も、悩む事も、諦める事もなかった。
「ただまあ、婚約指輪だから。
嫌なら外してくれていてもいいし、婚約なんか破棄だ!
って思ったら投げ捨ててくれて構わないさ」
そう言って苦笑しつつも、着けて着け心地を確かめているような様子を見て、嬉しくなってしまう。
少なくとも即断即決で切り捨てられる事はなかった。
「何にするか凄く悩んだんだけどさ。
君はそのままが美しいと思うし、過度な装飾はむしろ邪魔になりそうで。
だから、一番シンプルなヤツをえらんだんだ。
確か商品名は、ヴィシュヌ、だったかな」
そんな事を話しながらも、久遠もまた自分の左薬指へと指輪を通す。
なんだか奇妙な感じがして、ほんの少し落ち着かなかった。
■シャンティ > 「あぁ……そう、いえば……そう、いう……”力”……だった、か、しらぁ……じゃ、あ……サイズ、も……まる、わ、かり……?」
五感の強化――
感覚を研ぎ澄まし、情報を取り入れることも可能とする。
つまりは、そういうことも可能であろう。ぺたぺた、と自分の体に触れる。
「ま、あ……どち、ら……で、も……いい、の……だ、けれ、どぉ……」
差し込んだ指輪を一度外して、品定めするように弄る。
把握した通り、本当にシンプルな作りの指輪であった。
「ふふ。らしい、答え……ね」
ある種の潔さと迷いのなさ。それが凝縮された言葉。
いかにも、この人物らしい。新鮮さはないのかもしれないが、それが面白い。
「……コッペリアは、ね。壊れ、た……お人形。
人、の……ふり、を……して、みた……でき、そこ……ない。
真実……人、に……なれ、ない……の、かも……しれ、ない」
指輪を、手のひらの上に乗せてつつく。
「未来、は……わか、ら……ない、わ」
どこにとも無く吐き出された女の言葉が、小さく部屋に響く
「"遍く満たす"……大胆、な……名前、ね?」
シンプルだからこそ、あらゆるものに合わせられる。
そういう意図なのかもしれない。
「わがまま、ね……唾、を……つけ、た……感じ?」
くすり、と笑った
■杉本久遠 >
「まあ、わかる時もあればわからない時もある。
俺の場合は見聞きしたり触ったりしないといけないんだが、それが衣服の上からとかになると、どうにも」
その点で言えば、妹の異能の方が凄まじい精度だ、
「ただまあ。
最近、正直、少し肉がついたみたいでほっとしてる」
細くてインドアな恋人。
太って欲しいとまでは言わないが、もう少ししっかりと食べて欲しいのが本音だ。
「――らしいかな?」
最近は、いや、いつの頃からか。
具体的に何を示しているかわからずとも、彼女に言われる『らしい』という言葉が嬉しく感じるようになっていた。
もちろん、なにが『らしい』のかは、未だにわからないのだが。
「ん――」
お人形のコッペリア。
いくら鈍感な久遠でも、彼女が自分をそうやって例えるのはすでに記憶に刻んである、
「壊れたなら、一緒に直すさ、
人のふりをしてみたいなら、一緒に人間らしい事をしよう。
どうしても人に成れないのだとしても、オレが最後まで一緒にいる」
一つ一つ、真剣に答えながら――
「未来が分からなくても、現在ならわかる。
過去と現在を、何回でも何度でも積み重ねていけばいいんだと思う。
そうしたら、いつかは、今日の未来までたどり着けるはず、だろ?」
そう、静かで穏やかなバリトンボイスが響く、
彼女への気持ちに、一片の迷いも曇りもない。
愚直すぎる久遠の、あまりにも真っすぐな愛し方だった、
「あまねくみたす?
へえ、そんな意味だったのか」
デザインだけを見ていて他を何一つ、値札すら見ていなかった男である、
デザインの名前など、覚えていただけで奇跡的だった。
「だっはは――そんなつもりじゃない。
ただ、一緒にいなくても君を感じられるものが欲しかった。
それと、あの時の婚約の言葉をちゃんと形にしておきたかったんだ」
そう、少し恥ずかしそうに言った。
■シャンティ > 「あら……太った、かし、ら?」
此処最近、色々あったために食事をちゃんととる機会が増えたからだろうか。
特に気にしているわけでもないが、変化という事態そのものは少しだけ気になる。
「元々……欠けて、でき、ちゃった……お人形、だけ、れど……そう。一緒、に……いる、つも、り……なの、ね。
積み、重ね……で、未来、へ……ね。」
小さく吐息を吐き出す。
「創り手、の……好み、では……なか、った……みたい、だけ、ど。
そう」
くす、と笑った
「神、の……名。『どこにでもある』、『枷から離れた』存在、という意味を、もつ。万能の、最高、神。大した、もの……よ」
説明を補足しながら、あらためて指輪を確認する。
どんな思いで、その名をつけたのか。
「そ、う。なら……好き、に……すれ、ば……いい、わ。」
一度、指輪を箱に収めた
■杉本久遠 >
「むしろ太ってくれた方が安心するんだが、まあ、少し健康的になったくらいじゃないか?」
この恋人にも、変化変化を気にする一面があると思うと、ますます愛しくなってしまう。
「ああ、一緒にいる。
一緒に、一歩ずつをいつまでも積み重ねていきたい」
彼女の吐息の意味するとこは知れなかったが。
彼女が暗中を往くのなら、いつまでもその道行を照らし。
彼女が燃えるような日差しの元を往くのなら、いつまでも日傘を隣で傾けよう。
ただまあ、いつだって久遠は彼女の言葉の半分も分からないのだが。
「へえ、随分と大それた名前だったんだな。
んー――ああでもそうだな。
いつでも、君の傍にいる。
うん、オレからはそんな思いを込めて贈らせてもらうよ」
そう言って笑ってから。
ようやく一息を着いて。
「すまん、随分待たせちゃったな。
今度こそちゃんと始めよう、ささやかなお祝い」
そう言いながら、グラスをそっと彼女の側へ傾け――
「メリークリスマス」
■シャンティ > 「……そう。気長、な……もの、ね」
一緒にいる
その言葉を、宣言のように述べた言葉に感想のような言葉を漏らす。
特に言葉を弄することもなく、僅かな中身を。
「待つ、ほど……でも、なか、った、けれ、ど」
それでも、確かに時は経っていた。
女もグラスを傾ける
「メリー……クリス、マス」
男の言葉に応える。
「……そう、ね。じゃ、あ……私、から……」
どこからともなく、女は一冊の本を取り出す。
それを、男に向かって差し出す。
「これ、くらい……は、読んで、おい、た……ら?」
タイトルは、クリスマス・キャロル
「……ふふ。これ、は……ヘンリ、みたい、には……なら、ない……かしら、ね」
ぽつり、と零して女は笑う
「教養、は……時に、大事……よ? 識る、ため、には……ね」
■杉本久遠 >
「うむ、オレは耐え忍び、穏やかに時を待つことだけは得意だからな」
などと冗談めかして笑い――
「――くりすますきゃろる」
すでに発音が怪しいが、聞き覚えはあるタイトルだった。
「教養は大事、か。
学問と教養は似て非なるものだもんな。
それじゃあ、ありがたく読ませてもらうな」
そう言いって本を受け取って大事そうに袋の中にしまうと。
ワイングラスの中の白ワインを、くいっと一気に飲んでしまう。
「おお、確かに甘くて爽やかな感じだ」
そしてローストチキンも齧り。
「んぐ、コレも美味いな!」
そんなふうに、対照的な二人の食事は、聖なる夜に穏やかに続くだろう。
これからの未来はわからずとも、今はただ、穏やかで優しい時間を楽しむために。
■シャンティ > 「有名、な……古典、よ。」
いくらか謎掛けもしたが、果たして気づくかどうか。
それもまた、面白いものである。
「ん……」
一息にワインを呷る相手を横目に、女はわずかに口に含む。
ほんのりと、褐色の肌が上気する。
「……かの、商人の……想い。わか、る……か、しら……ね」
ローストチキンを小さく齧り、呟く。
男と女。静と動。陰と陽。
様々に対照的な二人は、しかし同じ空間を共有していた。
この先はどうなるのか。その物語の先は見えないが。
精霊に導かれるまでもなく、今を、ゆっくりと過ごすのであった。
ご案内:「奇妙な古書店 居住スペース」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「奇妙な古書店 居住スペース」からシャンティさんが去りました。