2024/12/28 のログ
ご案内:「スイーツバイキング「デザートヘヴン」」に桜 緋彩さんが現れました。
ご案内:「スイーツバイキング「デザートヘヴン」」に追影切人さんが現れました。
桜 緋彩 >  
今日は12月24日である。
誰がなんと言おうと12月24日なのだ。
学生通りの一角にあるスイーツバイキングの店の前。
いつもの制服や道着ではなく、ちょっと余所行きの服装で待ち合わせ相手を待っている。
もうそろそろ雪でも降るのではないかと言う寒さだが、それに震えることなくピシッと姿勢を正して。

「変、ではないですかね……?」

買ったばかりの私服とコート。
店員に勧められるままに買ったのだが、おかしくはないだろうか。
自分の格好を確かめる様に、視線を落としたりしている。

追影切人 > 時は少し遡って――現在クリスマスど真ん中。
私服姿に何時もの刀剣の携帯も無く、ブラリとその店の前に訪れる。
隻眼の視線の先、遠目からでも分かるくらいに背筋がピシっとした姿が見えた。

「…よぅ、桜。…何か制服姿とかしか見た事ねぇから新鮮だな。」

ローテンション…いや、何時もこんな感じでややダウナー気味ではあるか。
とはいえ、きちんと待ち合わせ時間に遅れる事も無くご到着である。
そのまま彼女の近くまで歩み寄れば、適度な距離で足を止めて彼女の格好をザっと眺めて。

桜 緋彩 >  
こちらも声を掛けられる前に彼の姿に気が付いた。
その姿を認め、そちらの方に駆け寄っていく。

「おはようございます追影どの。
 追影どのも、あまり私服姿は見た事ありませんでしたね」

見たのはいつかの慰安旅行の時か。

「外は寒いでしょうから、早速参りましょう。
 ここの二階のようです」

そう告げて階段へ向かう。
エレベーターもあるのだが、そちらには目もくれず当然であるかのように階段を。

追影切人 > 「…そうか?…割と非番の時とかはこんな感じだけどな…。
…まぁ、俺は兎も角。落ち着いた感じのコーディネートはオマエに合ってるな。」

彼女を始めとしてプライベートで知人友人同僚にあまり会わないので無理もない。
ちなみに、きちんと相手の服装に対しての感想は述べる…勿論、普段そこまで空気は読めない。
周りの風紀女子+αに、恥を忍んでアドバイスを頂いた結果、男なりに頑張った。
彼女の促しに頷いて、そのまま階段へ…エレベーターじゃないのは何となく予測してた。

「…つーか、入門祝いとはいえよく俺なんか誘う気になったな…オマエ、普通に他に仲の良い同僚とかダチは居るだろうに。」

なんて言いつつ、二人して階段を登って二階の目的の店へと辿り着く。
店の看板は――【デザートヘヴン】…甘味天国か。オブラートに包んで言うとストレートに分かり易い名前だ。

桜 緋彩 >  
「それはどうも、ありがとうございます。
 いやあ、店員さんに勧められるがままに買っただけなのですが」

もこっとしたセーターは暖かいし、厚手の生地のロングスカートも袴と感覚が似ていて違和感がない。
テンポよく階段を上がる足は、ほんのちょっとだけ踵の高いブーツ。

「凛霞さんを誘おうとも思ったのですが、どうやらインフルエンザにかかってしまったらしく。
 他の友人も皆恋人とのデートだとか、地元に帰っている人だとかが多くて」

とは言え別に消去法と言うわけではない。
彼も十分仲のいい友人だと思っているし、言ってしまえば連絡先を上から順に声を掛けて行った、みたいなものだ。
そうして着いた店に入れば早速店員さんがやってくる。

「すみません、このチケットを使いたいのですが」

そう言って出すのは例のペア無料券。
まだ未開封のそれを封筒ごと渡せば、店員さんはそれを開いて中を確認し、

店員さん >  
「――はい、カップルペアチケットのご利用ですね。
 では確認のためにハグをお願いします」

桜 緋彩 >  
え゛

思わず汚い声が漏れる。
ぴしり、と固まり、そのまま微動だにしなくなってしまった。

追影切人 > ――ちょっと待てや

おい、聞いてないんだが?…あ、ペアチケット云々はメールで聞いてたけど。
ちらり、と隣の同僚を見たら固まって微動だにしない…待て、しっかしろコラ!

店員さん >  
「え、いえ、ここに書いてありますので……」

示すチケットには「条件:入店時にハグをすることで使用可」と書いてある。

桜 緋彩 >  
「――はっ。
 い、いえ、す、すみません。
 あの、わたしがわるいので、おご、おごります」

わたしはしょうきにもどった。
ともあれ貰ったものを確認しなかった自分が悪いのだ。
無料券を使うことは諦めよう、と。
幸い資金に余裕はある。
顔を真っ赤にしながらわたわたとしどろもどろ。

追影切人 > 「――いや、割り勘でいいだろ別に…。」

隻眼を半目にして狼狽えてる桜にツッコミを入れる。
正気に戻ったぽいけど、何か挙動不審になってるんだが…?
ちらり、と店員が示したチケットに改めて目を向ける。

確かに条件に【入店時にハグをすることで使用可】と書かれている。
流石の男も、ちょっと躊躇するような間を置いて黙り込むが、やがて小さく息を漏らし。

「郷に入っては郷に従えみてぇなもんか。…桜、ちょっとこっち向け。」

隣のわたわたしてる同僚の肩を軽く叩いてこちらに向かせようとする。
そうすれば、これまた一瞬だけ躊躇する間が有れど真正面からハグ…抱擁しようと。

――何だこれは。羞恥プレイというやつか?知り合いに見られたら色んな意味で地獄だ。

桜 緋彩 >  
「はい――ふぁ?」

肩を叩かれて振り向けば、急に引き寄せられる。
そして何か暖かいものに包まれた。
これはつまり……?

店員さん >  
「はい、ご協力ありがとうございました。
 それではご案内いたします。」

桜 緋彩 >  
という店員さんの言葉でハグされたのだとわかった。

「――ひぁう」

ぽしゅん、と自身の頭の上から何かが噴き出た様に見える――かもしれない。

追影切人 > 「……ほら、桜。取り敢えず入店条件クリアしたし入るぞ。」

流石にずっとハグするほど助平でもないので、店員の言葉と共に身を離して彼女を促す。
それはそれとして、何だ…やっぱデカかった。何がとは言わない。真正面からハグしたらまぁそうなる。

こういうの鈍い男でも分かる…桜、こういうの免疫ねぇな、と。男も男で慣れてないが。
まぁ、一先ずは店員の案内に従って店内に入るとしようか。

(…前に担いで保健室運んだ時から分かっちゃいたが…分かり易いなコイツ)

彼女と違い、この男の態度はまだ平静というか何時も通りに近い。所々に不慣れが見え隠れしているが。

桜 緋彩 >  
「ふぇぁい……」

頭から湯気が出るくらい顔が真っ赤になっている。
身体を離され、よろよろとふらつくが、何とか崩れ落ちずにはすんだ。
そのまま待っていた時の姿勢はどこへやら、猫背でうつむいたまま大人しく彼の後に着いて行く。
席に通され、利用の際のルール――残したらダメだとか、何がどこにあるかとかそう言うよくあるものだ――を聞いている時もずっとうつむいたまま上の空。
当然店員さんが去った後もそのまま椅子に座ったままテーブルを見つめたまま動かない。

追影切人 > (…おい、予想以上に深刻じゃねぇか?これ)

彼女がこの手のあれこれに免疫が無いのは改めて分かった。
が、歩く時にふらついてたし、あれ程ピシっとしていた背筋も何か猫背気味だ。
おまけに、俯いて大人しく…なんて、コイツらしくない。何処か上の空に近いし。

「……一応聞いとくが、大丈夫か?」

大丈夫じゃないのは分かってるけど、まぁ社交辞令として聞いておかねば。
席に案内されて二人向かい合って座るも、テーブルを見つめたまま微動だにしないのは心配にもなる。

(…っていうか、男慣れしてないのに男を誘うのは自爆だろ!)

俺も別に女慣れしてないが!…こっちがリードするべきなのか?気遣いとか配慮は苦手だがどうするか。

桜 緋彩 >  
「――っ、は、はいっだいじょ――うぶ、です……すみません……」

思わず大声を上げてしまった。
店内の客や店員がこちらを見るので、慌ててそちらに頭を下げておく。
ぺこぺこ。

「――ふはぁ、申し訳ありません。
 男性に抱きしめられるのは、初めてだったもので……」

もちろん稽古の時に密着したり、ぶっ倒れた時とかに抱きかかえられたりと言った経験はあるが、それはそれ。
今みたいになにもないのに抱きしめられる、と言う経験は初めてだったのだ。
まだちょっと顔が赤いまま、すみませんと頭を下げて。

追影切人 > 「…まぁ、アレだ。いきなり悪かったな…つっても入店条件だからそこは大目に見てくれや。」

男も男で、別に平静のままハグした訳ではない。まぁ一応は男子の端くれだ。思う事は流石に色々ある。
…感情を学んだからか、その辺りが昔よりハッキリ感じるようになったのは良いのか悪いのか。

周囲からの視線は敢えて無視する。そっちまで気にしてたらキリが無い。
取り敢えず、何時もの調子…にはまだ遠いが、落ち着きは取り戻したようだ。

「…まぁ、俺もハグなんてほぼした事ねぇけどよ。
…ペアチケットって時点でこういう可能性考えておくべきだったわ。」

まぁ、お互い良い(?)経験になったというか学んだというか、そんな落し所で。
取り敢えず、桜が落ち着きを取り戻しはしたので、ぼちぼちスイーツを――

「…で、ここバイキング形式だよな?じゃあ自分たちで好きなモンを取ってく感じか。」

実はバイキング形式の食事とかあまり経験が無いのだけども。

桜 緋彩 >
「い、いえ、そんな!
 私の方こそちゃんと開封して確認していれば、追影どのに要らぬ恥をかかせることもなかったわけですから!」

そもそもペアチケットと聞いて「二人で使えるチケットなのだな」と思い込んで確認もしなかった自分が悪いのだ。
そこでさっきの一瞬を思い出しそうになり、ぶんぶんと頭を振って思考から投げ捨てる。
ええい思い出したらまたへにょへにょになる!

「は、はい。
 好きなものを好きなだけ――まぁ限度はありますが。
 とにかく好きなものをあそこで皿に取って持ってくる形式ですね」

店内の一角にはスイーツとか軽食とかがこれでもかと並んでいる。
バイキングと聞いて思い浮かぶような料理は大体あるようだ。
因みにドリンクは別料金で、卓に備え付けのタッチパネルから注文できるらしい。

追影切人 > 「別に恥とかじゃねぇからそこは気にすんな。…知り合いに見られたら死ねるけどな。」

まぁ、幸い知り合いに見られた訳でもないし。この話を掘り下げると、また桜がオーバーヒートしそうだから程々にしよう。

「…成程、で、飲みモンは別料金か。先にあっちから取ってきてから注文するか。」

流石に飲み物はお互い必要かもだし。一先ず、桜を促してその一角に向かおうと。
ちなみに、コートは脱いで席に置いてあるので、店員が間違って案内したり誰かに勝手に座られる事も無いだろう。

「…ドーナツはあるといいんだが――お、チョコあるじゃねぇか。」

ちょっぴり男が嬉しそう。何せ好物がドーナツ…特にチョコドーナツが好きなのだ。
切欠は、監視役の同僚兼友人から貰ったドーナツだ。…アレが初めて食べた甘い物だったから。
あれから、割とドーナツ以外にも甘味に手を出してそこそこ甘党になりつつある。

桜 緋彩 >  
「かしこまりました、じゃあ先に食事を取ってきてしまいましょう」

二人で連れ立って食事が並んでいるところに歩いていく。
大小さまざまな皿が積まれているところから手に取るのは、迷いなく一番大きい皿。
自分の顔よりも大きいそれを持って、パスタやらお肉やらをひょいひょいと次々盛っていく。

「ドーナツ、お好きなんですか?」

そして彼が嬉しそうに手に取るのはチョコドーナツ。
こう言うとアレだが、彼のような背が高くちょっと怖そうな男がドーナツで喜んでいるのはなんとなくかわいらしい。
失礼かなと思いながらも、笑顔が漏れてしまった。
自分の持つ皿も育ち盛りの男子高校生かなと言うぐらいに盛れてしまっている。

追影切人 > 男も彼女と同じく、手に取ったのは一番大きい皿だ。
一先ず、肉…主に揚げ物やポテト、あと一応申し訳程度にサラダも乗せておく。
そして、別の皿にドーナツを数種類と、マフィンとかもついでに乗せておこうか。

「――あン?…あぁ、初めて食った甘いモンだからな。印象に残ってるつぅか…。
最初に食ったのはプレーンの奴だが、個人的にはコレが気に入ってる。」

と、チョコドーナツを軽く指で示して。…何か笑顔を向けられているが何故だ?
一方、桜の方は――育ち盛りの男子みたいな量とチョイスだ。男も似たようなものだが。

(…まぁ、桜の日頃の鍛錬の量とか考えるとこのくらいは余裕そうか。)

健啖家だろうし。二人で一通り、それぞれ食べ物をチョイスすれば席へと戻ろう。

「――んで、飲み物はこれで注文か…桜、オマエ何飲む?」

タッチパネルを操作しつつ。自分の分も含めて纏めてこっちで注文するつもりらしい。

桜 緋彩 >  
「初めての経験は記憶に残ると言いますからね。
 ドーナツ、作るのは大変ですが、揚げたては特に美味しいですよ」

なんせ揚げ物だ、家で作るのは中々にハードルが高い。
とりあえず一通り欲しいものを皿に盛り、テーブルに戻る。
すれ違う人たちが皿を見てくるが、そこは気にしない。

「ん、どんなのがあります?」

席に皿を置き、椅子に座る。
そこで飲み物を聞かれ、タッチパネルを覗き込む。
顔の距離がかなり近くなるが、今度は気にした様子もなく。
「そう言う行動」と意識するかしないかで、かなりその辺の感覚が変わるタイプだ。

追影切人 > 「…一応、自作もするにはするが…やっぱ市販品にゃ届かねぇな。」

この男、ドーナツは一応作れるらしい。家事能力はいまいちに見えそうだが、意外とこなせるようだ。
あと、彼女の言う通り、それなりに手間なので好物とはいえ面倒な気持ちも正直ある。

「…見た感じ、コーヒー、お茶、炭酸系と一通りそこらにありそうなのは抑えてるぽいな。」

一部の自販機とかにありそうな変わり種とか尖った飲み物は流石に無いようだ。
それはそれとして顔が近い――さっきの挙動不審は何だったのか。

(…あぁ、もしや…自分の行動の意識の有る/無しの違いか?)

今、顔を近づけてタッチパネルを覗き込んでるコイツはどんな飲み物があるか、に意識が割かれている。
多分、こっちが指摘したらまたさっきみたいになりそうだな…とか思いつつ敢えて黙っておこう。

…あと、この同僚…スタイル良いから画面覗き込むように前のめりな姿勢になると一部が強調されるんですが?

桜 緋彩 >  
「おっと、これは失礼しました。
 自炊、なさるんですね」

ついイメージで自炊しないものと思ってしまっていた。
揚げ物、今日は唐揚げでも作ろうかなぁ。

「ふむ。
 では私は暖かいミルクティーでお願いします」

寒い時期なので暖かい飲み物がありがたい。
強調する形になっているなんて微塵も思っていなかった姿勢を戻して座り直す。

「飲み物、待ちましょうか?
 それとももう食べちゃいます?」

追影切人 > 「――昔、世話になった【恩人】から多少叩き込まれたんだよ…頻繁にはしねぇけどな。」

外食とか適当に済ませたりが矢張り多くなるのは否めない。
ただ、それなりにこなせはするようで。

「――ミルクティーね…んじゃ俺はコーヒーで。」

勿論ブラック。口直しとか甘い物食べた後には苦いコーヒーが一番。
タッチパネルを操作してミルクティーとホットコーヒーを注文し終えつつ。
桜が姿勢を戻せば、安心したような少し残念なような…何だこの感覚。

「…別に先に食ってもいいんじゃねぇか?ぶっちゃけ朝食ってねぇから腹減ってんだよ。」

なんて言いつつ、既にポテトをつまんでいる男である。
飲み物も、そう時間は掛からずに店員が二人の前にそれぞれ運んでくるだろう。

桜 緋彩 >  
「前も仰ってましたね、恩人がいると。
 差し支えなければ、聞かせて頂いても?」

何度か彼の口から聞いた「恩人」と言う言葉。
興味本位、と言うわけではないが、どんな人物だったのか気になって。

「ふふ、では先に頂いちゃいましょうか」

既にポテトを頬張っている彼。
待ちきれずに作っている最中のご馳走をつまみ食いしている子供のような感じがして、少し笑ってしまった。
こちらは手を合わせて頂きます、と言ってからパスタを口に運ぶ。
特別美味しい、と言うわけではないが、バイキングだからと言って手を抜いているような残念さはない。
むしろちゃんと作っている味がして充分に美味しい。

追影切人 > 「――んぁ?…まぁ、身寄り無しで監視対象の俺に”追影”の苗字くれたり、俺が正規学生になる時に便宜を図ったり色々してくれたんだよ。
…年齢はそれほど離れてねぇから、戸籍だけで見るなら義理の姉みたいな感覚だな。
――ちなみに、理不尽なくらいに強かった。」

最後の一言は、当時を思い出したのかポテトをつまむ手が一度止まる。
この男もそれなりに強いが、その男から見て理不尽と言える強さを持っていたらしい。

「…つぅかぶっちゃけ反則級(チート)だったな…。」

やや隻眼が遠い目になる。それなりに”揉まれた”らしい。
それから思い出したように付け加える。

「…ちなみに、現在行方不明…つぅか生死不明。俺も詳しい経緯は知らんから、そこは悪いな。」

暗に彼の【恩人】については情報統制が敷かれているらしい事を伝えつつ、再び食事の手を進めて。

「…つぅか、こういう話聞いてて楽しいか??」


桜 緋彩 >  
彼の話を黙って聞く。
食事中だから、と言うのもあるが、口を挟むよりは聞いていたかった。
ただ、反則級に強いと言うところだけは、

「――ほう」

と目を輝かせて一言だけ言葉を発したが。

「なるほど、生死不明、ですか。
 追影どのの語る内容の限りでは、亡くなってはいなさそうではありますね。
 とは言え一度ご挨拶ぐらいはとは思ったのですが」

なんとなく、殺しても死ななさそうぐらいは思って良そうだ、と感じた。
何にしても彼が門下生となったのだから、挨拶に伺うぐらいはしておきたかったところではある。
他意はない。
決してない。

「ええ、楽しいですよ。
 友人のご家族の話を聞くのは――?」

とそこまで語ったところで、自分の言葉に首を傾げる。
別に友人とそんな話をしたことはなかったな。
はて?

追影切人 > 「――オマエ、一度手合わせしてみたいとか思ってるだろ…?」

半眼になりつつ、肉を頬張る。目を輝かせてるからとても分かり易いぞ。

「…ぶっちゃけ殺しても死ななそうなタイプだったからのらりくらりと生きてそうではある。」

彼女が感じた印象と全く同じことを身内である男本人が口にした。
強さ、といっても色々あるのだが――男が言えるのはただ、反則級に強かった。それだけ。

「――あぁ、そういやオマエと斬り合いした時に使った”鞘無しの抜刀術”…ありゃ俺の【恩人】の技だ。」

空間そのものを鞘に見立てた、原理不明の抜刀術――『空間抜刀』。
彼の【恩人】の”基本技”だ…もっとも、【恩人】は無手でもこなせたし無拍子(ノーモーション)でかましてきたが。
他にも無数の技があったが、この男に才能が無かったのか、会得したのは『空間抜刀』だけだったが。

「…そういうもんか?…そういや、オマエはアレだ…卒業したらやっぱ本土に帰ったりすんのか?」

島の生まれ育ちで、監視対象として島を出る事は出来ない身の上からすれば、本土や実家の感覚がいまいち分からないが。

桜 緋彩 >  
「そんな――いえ、白状しますと思ってます。
 強い相手と言うのは、いわば「自分にないものを持っている相手」ですので。
 そんな相手と手合わせ出来ると言うのは、自分が成長する絶好の機会ですから」

一瞬誤魔化そうとしたがやめた。
バレそう、と言うか実際バレていたのだし。
唐揚げをムシャリ。

「あれですか。
 あの後何度かやってみようと思ったのですが、原理が一切わからず……。
 宜しければ今度教えていただきたいのですが」

流石の「盗人剣術」でも原理がわからないものはどうにもならない。
そもそも物理法則を無視し過ぎているように思えるので、今彼から聞くまで「技」だと思えていなかった。
サラダをもしゃもしゃ。

「卒業――そう言えばあまり考えていませんでした。
 いずれは帰ることにはなるかとは思いますが、どうしましょうか」

実家に帰ると言うことは、こちらの道場は誰かに任せるか、任せられる相手がいなければ閉めると言うことになる。
それはそれで無責任だろうと思う。
少なくとも任せられる門下生が出てくるまでは残ってもいいかもしれない。
紅茶をずずず。

追影切人 > 「…多分、あの人の技とか動きは参考にならねぇと思うけどな…いや、良い経験にはなると思うがよ…。」

何せ、真似しようと思っても出来ない。異能や魔術を持っていたのかも本人は笑って流してたから不明だ。
しかし、誤魔化そうとしたが矢張り正直に白状するのは桜らしいな、と思う。

「…あぁ?俺も原理知らねぇんだけど。そもそも恩人の教育方針が”体で覚えろ”だったからな…。
俺も何百回も喰らって体で勝手に感覚を覚えたようなもんだから教えようがねぇっつぅか…。」

そう、『空間抜刀』の詳細原理は肝心の使い手本人がさっぱり理解できていないのだ!!
ふざけていると思われるかもしれないが事実である。

「…それに、俺の奴は異能も上乗せしてるから、【恩人】が使ってたオリジナルとは少し毛色が違う。
だから、ぶっちゃけオマエに教えようと思っても無理な所はある。」

切断特化の異能の効果で足りない分を補って自分の技に昇華しているのだ。
なので、この男の唯一の【技】は残念ながらこの同僚には教えようと思っても出来ない。
同じくサラダをバリバリ頬張りつつ…お互い中々豪快に食べるタイプかもしれない。

「…いや、どうしましょうかと言われてもな…別に直ぐに帰らなくてもいいなら、こっちで自分のやりたい事を終えてからでもいいんじゃねぇか?」

まぁ、一応門下生にもなった身でもあるのでそこは少し気になったという話。
…さて、あっという間に食事を食べ終えれば、後はデザート…むしろこっちがメイン。

…だったのだが、一つ思い出した。ゴソゴソと懐を探って何かを取りして彼女の前に置こうと。

桜 緋彩 >  
「参考にはならずとも「そう言うことが出来る」「そう言うことをする者がいる」と知るだけでもだいぶ勉強にはなりますよ。
 少なくとも、それ以下の手合いには驚かなくなります」

強さを知ると言うのも十分糧になる。
そう言う意味でもやはり立ち合って見たかった。

「なるほど。
 では今度から私との立ち合いでは是非バンバン使って頂きたいです。
 無理かどうかは私の方で判断しますので」

身体で覚えろ、と言うことは身体で覚えられると言うことだ。
つまり彼と同じで何百回と受ければわかる、かもしれない。
少なくとも慣れることは出来る。
使う側に負担があるならどうにもならないけれど。

「やりたいこと、ですか。
 この島は強者との立ち合いには事欠かなさそうではありますが。
 ――ああ、あと、うん、父上どのから言われていたこともありました……」

はあ、と憂鬱そうな溜息。
そろそろ皿の上の料理がなくなりそうなので、そろそろ二周目に、と言うところで彼が何か出して来た。
注目してみる。