2025/12/25 のログ
シャンティ > 「そ、う」

男の言葉に返したのは素っ気のない一言。

「これ、で……少しは、落ち着いて……話せるの、かしら……ねぇ」

気だるく、のんびりとした声音が漏れ出る。
平素のとおりといえば、そのような雰囲気であった。

「ん……ああ」

男の少し困ったような様子に小さく首を傾げたが……
差し出されたプレゼントを確認して、小さく頷く

「あなた、が……着る、わけではないから……いいの、じゃないか、しら」

ちょうど間が良かったともいえるし、間が悪かったとも言える
ただ、話が被っただけ、といえばそれまででもある。
しかし、結果としては賢者の贈り物のような話でもないので、支障はないだろう。

「会いた……かった……ね……? 会って……なにを……する、つもり……だったの、かしら?」

雨に打たれて立ち尽くしていた男のそれは、何か意味があったのだろうか。

「あぁ……それ、とぉ……」

くすり、と笑う

「着たほう、が……いい?」

袋を指し示した

杉本久遠 >  
「ネタが被ると、それはそれで何とも言えないんだが。
 ――いや、ほんとに会いたくて、なあ。
 気づいたら衝動的に飛び出していたというか」

 たはは、と困ったように付け髭を撫でた。
 本当に何も考えてなかった、というような様子だろうか

 とはいえ、しっかりケーキとプレゼントを用意してきたあたり、元々クリスマスに会いに来るつもりだったのかもしれない。

「わはは、何かするつもり、というならまあ、なあ。
 会って話ができればそれでよかったというか。
 実際になにかするつもりだったとしても困るだろう?」

 ここで動揺しなくなったのはある意味成長なのかもしれない。
 彼女と恋人の真似事を始めた頃なら、顔を真っ赤にしていたかもしれないが。
 今はさらっと流しつつ、平常心で返すくらいには余裕を持てるようになっていたのだった。
 まあそれはそれとして、

「もちろん――着てもらえると、めちゃくちゃ嬉しいが」

 なんて言う時にはしっかりと、照れるのだが。
 

シャンティ > 「ふぅ、ん……?」

小さく首を傾げる。
衝動的、というのはこの男なら頷けるところではある。
なんの衝動だったのだろう、という疑問は在るがわからないからこそ衝動、ともいえる。

「そう、ねぇ……濡れ鼠、なのは……少し……困った、かもしれな、い……わ、ね?」

何が困るのか、それには触れず
そもそもどうして困るのか、も……多くは語らない

「ふふ……じゃあ……なに、を……話そう、かし、らぁ……?
 愛、と……平和……なん、て……わけ、でも……ない、でしょう、し」

お互いそんな壮大な話題をするような人間でもなし、と笑う。
男の方は、あるいはそういったことも話にするやもしれないが。
少なくとも今語ることでもない……のではないか、と思う。

「そ、う……着る?じゃ、あ……」

するり、と衣擦れの音がした

杉本久遠 >  
「それは――すまん、ちょっとぼんやりしててな」

 腕を組む。
 自分でもどうして書店に入らなかったのか不思議だったのだ。
 彼女に会いたい、話したいと思っていたのに、なぜかその手前で動けずにいたのだから。

「愛と平和に語ってもいいぞ?
 オレと君では、随分と解釈に違いがあるだろうし、それはそれで面白いと思うし――ぃっ!?」

 なんて冗談に真面目に返すいつものやり取り――と思えば。
 目の前で着替えようとされれば、慌てないわけがなく。

「まった、まったタンマ!
 えっ、今着替えるのか?
 そのまま?
 ここで?」

 当然、待ったをかけるのが久遠である。
 役得とか思わないのは、少々、草食が過ぎるかもしれないが。
 とはいえ、顔を赤くして慌てふためく、じゃなくなったのはやはり成長なのかもしれなかった。
 

シャンティ > 「……望め、ば……見える……求め、ば……在る……迷い、でも……あった、の、かしらぁ……?」

小さく首を傾げる。人払いの一種でもある結界が悪さをしたか。
それとも、本当に心理的な何かが働いたか……

「そう、ねぇ……解釈、は……だいぶ……違い、そう……だ、けれ、どぉ……」

思いをかける熱量も、信心も、だいぶ異なるであろう。
それこそ、致命的に何かが異なる……ということさえ、あるかもしれない。
そんなことを思って……

「あら?」

くすり、と笑う

「着替えて、欲しい……と、いったのは……久遠、だけれ、どぉ……?」

肩を顕にしながら、くすくすと女は笑っている。

「なれない、服……は、着るの、も……大変、だ、しぃ……手伝い……が、いるか……も?」

女の虚ろな目は、光を映さない。
くすくすと、くすくすと小さな笑いだけが部屋に響く

「なん……て。期待……した、の……では、なく、て……?
 もちろ、ん……しても、いい、けれ、どぉ……」

笑いが穏やかに収まる。脱ごうとした手も止まっている。

「それ、も……面白、そう……だけれ、ど。私、と……して、はぁ……久遠が……なにか、話し、たい……ことが、ある……なら、そちらが、気になる……わ、ね?」

杉本久遠 >  
「期待したか、しなかったで言えばしたとしか言えんが!
 言えんのだが!
 君なら悪乗りしてくれるって期待はしたんだが!」

 凄まじく葛藤している。
 ここで手伝いたいです、と言える積極さは、そろそろあっても良いのではなかろうか。
 婚約までしたのだから、もう少し積極的でもいいのではなかろうか。
 なんて考えられるなら、葛藤などしないのであった。

「はあ――いやなに、大したことじゃないんだ」

 なんて言いながら、しっかりと頭に載せていた帽子を脱いで、息を吐いた。

「うじうじしても仕方ないからな、単刀直入に言うが。
 プロスイマーになるのは諦める事にした。
 エアースイム自体はやめんが、指導者の道に進もうと思う」

 そう、以前、悩んでいた進路の事を彼女に打ち明ける。
 その言葉に深刻な様子はなく、ただ、感情としては大きな諦観、寂しさが滲み出てはいただろうか。
 

シャンティ > 「あら、素直……ね、ぇ?」

くすくす、くすくす、と女は笑う。
以前のことを考えれば、だいぶ慣れてきたのだろう、と思う。
人は変化をする生き物だ。
それを見るのは面白い
だからこそ、こういうのもやめられない、のである

『いやなに、大したことじゃないんだ――』

女は復唱した。いつものように、謳うように。

「ふぅ、ん……?」

以前にも、聞いた進路の話だった。その時は大いに悩みながらも、決めていたことは……
小さく、首を傾げる。ほんの少しだけ、人差し指を形の良い唇に当てて、考える。

「そ、う……諦め、た……の、ね?」

今度は、復唱ではなく。女自身の言葉として、口にした。

「……決め、て……ど、う? 気持ち、は。
 晴れた、の……曇った、の……それ、とも?」

特に迷うこともなく、直接的に聞いた。

杉本久遠 >  
「むう、難しい事を聞くなぁ」

 少し考えてから、唸りつつ、首を傾げる。

「なりふり構わず、全力を出し切った。
 だから、後悔はないし、晴れやかと言えば、晴れやかなのかもしれん。
 少なくとも、迷っていた間よりはすっきりとしている」

 ただ、と、やはりどこか情けないような、弱ったような様子で、ゆっくりと続けた。

「決めたら決めたで、情けないような、寂しいような、だなあ。
 記録としても、ぱっとしない。
 自慢できるような記録でも持ち帰れたなら、もう少し、自信をもってやり切ったと言えたのかもしれんがなあ」

 ぺりぺり、と付け髭を外し、ゆるく苦笑を浮かべる。

「だからまあ、なんと言うか。
 やり切ったクセに、どうにも中途半端な気持ちだ。
 とても大きなものを手放したような、不思議な気分だよ」

 未練はやはり大きい。
 ただ、曇っている、悔いている、というわけでもなく。
 なによりも大きかった夢や憧れを手放した、その身軽さと寂しさに、不安を覚えているのかもしれない。
 どこか足元がおぼつかないような、そんな心地ではあるのだろう。

 物語で言えば、間違いなく転換点。
 章や節の変わる選択だったことに違いなく。
 ぼんやりとしていたのも、その大きな選択の結果に、理性はともかく、気持ちが追いついていないからなのかもしれなかった。
 

シャンティ > 「……………」

女は忍び笑いもせず、ただ静かに男の話を聞いた。
いつもの復唱も、しない。

「ふぅ、ん……なるほ、ど……?」

ひとしきり話が終わると、ぽつり、と口にした。
概ね納得の中で決断をし、しかしどこか空虚なところがある。
実際、そうなのだろう。
少なくとも彼の人生のそれなりの割合を占めていたものを手放したのだ。
その感覚は、理解できる。

「そう、ねぇ……あなたの、決断……だ、もの。私、から……言うこと、は……ない、わ……ねぇ」

この決断がどのようなものであろうと、女は同じことを口にしたであろう。
それが、この女のあり方である。

「ただ、一つ……だけ。その、気持ち、はぁ……そう、ねぇ……ただ、の……空いた、穴……よ。おそらく……だ、けれどぉ。なんと、なく……ね?」

ほんの一瞬だけ、微笑む

「それ、なら……塞げ、れば……治る、し……無理、なら……一生、抱える……かも、しれない……わ、ねぇ」

それは本人のこれからに全てがかかっている。
そして、それもまた自分が手出しするものではない、と女は考えている。

「それ、に……して、もぉ……相談、したから……報告、かし、ら?」

関係性を考えれば報告くらい、してもおかしくはない話ではある。しかし、こんな報告の仕方をすることもない、とも思う。

「ん……」

人差し指を唇に当てて、少し考える。

「それ、ともぉ……よしよし、され、たり……慰め、られ……たり、したい……とか?」

よくがんばったね、とか、つらかったね、とか

杉本久遠 >  
「穴、かあ」

 言われてみれば、そんな感覚のようにも思える。
 この気持ちがどうにも落ち着かないのは、これまで自分を支えていた『夢』や『憧れ』という大きな地盤から離れたからなのかもしれない。
 心に穴が開いたような、という表現はこの落ち着かない喪失感の事を表していたのだろうか。

「ん、そうだな、それもある。
 オレのこの選択が、君にも関わるかもしれないからな。
 ――はは、そんなに弱っているように見えるか?」

 彼女の、冗談とも本気ともつかない言葉に、力なく笑う。

「そうだなあ、そうしてもらえるなら、嬉しいかもしれん。
 他ならない、君に慰めて貰えるなら」

 それは婚約者だから、愛しているからという理由だけではなく。
 彼女が歩んできた半生を以て、よくやったと肯定してもらえたなら、と甘えるように思わずにはいられない。
 腕を組んで、首を傾げる。

「うん。
 慰めてほしい、と言ったら、慰めてくれるのか?」

 どうなんだろう、と。
 気になるから訊いた、というような素朴な問いだった。
 

シャンティ > 「依り、所……心、を……かけた、もの……それ、を……失う、のは……大きい、こと……よ。魂、が……抜けた、かの、ように……ね。」

経験談なのか、一般論なのか。
ただ、どことなくよく知っているかのような口ぶりだった。

「そう、ねぇ……弱って、いる……といえ、ば……そう、かも……だ、けれ、どぉ……覇気……が、足りない……という、のが……いい、のかし、らぁ?」

なんとなくの所感を述べる。
普段通りといえば普段通りにも見える。ただ、そこかしこに"傷"のようなものが見えるのだ。もちろん、現実にはそんなものはない。ただ、雰囲気の中にある、なにか、である。

「ん……」

男の問いに、虚無の目が見返す。
光を帯びないそれが、何故か眼光を持って見つめてくるようだった。

「久遠、が……本当、に……望む……の、なら……考える、わ? 私、は……そういう……役回り、だ、もの」

笑いもせず、淡々と女は答えた。
全ては、久遠次第なのだ、と。

杉本久遠 >  
「そうか。
 君が言うのなら、そう言うものなんだろうなあ」

 大きな喪失感。
 決断によって、得られたものと、失ったもの。
 どちらが大きいのだろう、なんて考えてしまう。

「覇気が足りないのは、なんだ、おおめに見てくれ。
 理想的な成果とは言えんが、オレの持ち得る全てを出し切ってきた後なんだ。
 流石に色々と気力が足りん」

 彼女の言葉に肩を竦めて、光を映さない彼女の目を見つめ返す。

「はは――役回り、なんて言われたら甘えられないじゃないか」

 そして笑って、彼女に手を伸ばす。
 白金のリングを付けた手だ。

「まったく、オレの婚約者は厳しいな。
 これでも現実を思い知らされて、砕け散った後なんだぞ。
 オレだって、優しくされたいって思うんだぞ」

 姿勢を崩して、身を乗り出す。

「だが、おかげで一つ分かった。
 オレは、君のそういう所にも惹かれてる。
 こうして会いに来たのは、報告やクリスマスだから、だけじゃない。
 君とこうして言葉を交わしたかったんだ」

 彼女と言葉を交わす中で得られる、奇妙な安心感があった。
 婚約者同士というには、甘いやり取りではなかったが、確かに繋がりを感じられた。
 勝手な思い込みでないと、信じられるような。

「慰めてくれとは言わんが、そうだな。
 少しだけ、君を抱いてもいいだろうか。
 君の、シャンティの事を、腕の中で感じたい」
 

シャンティ > 「あ、ら……誤解の……ない、ように……言って、おくけれ、どぉ……別に、覇気、が……なく、て……悪い、とは……言って、ない……わ、よぉ?」

単なる客観的に見える事実を述べたに過ぎない、と女は言う。
そこに、いいも悪いも存在はしない。大目に見るも、なにもない。
そこからどうするかも、自由だ。

「そ、ぉ?」

くすり、と女は笑う。
優しさというのなら、きっとその笑顔は優しさに満ちている、ように見えるかもしれない。

「厳し、く……した、つもりは……ないの、だけれ、どぉ?」

本心なのか冗談なのか。女は笑顔のまま、そういい切った。

「あら……被虐、趣味……じゃ、なければ……いい、のだけれ、どぉ?」

それはちょっと専門外かもしれない、と冗談めかせて笑った。
相変わらず、不思議な感性をもっている男だ。

「ふふ……別に、いい……わ、よぉ? それが……貴方、の……結論、なら……ね?」

虚無の目が、また男を見ていた。
他は、自然体。特に力も入れず……触れれば折れそうなほどの体で、ゆったりと構えていた

シャンティ > 【一時中断】
ご案内:「通りのどこかにある古ぼけた古書店」からシャンティさんが去りました。
ご案内:「通りのどこかにある古ぼけた古書店」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「通りの何処かに在る古書店」にシャンティさんが現れました。
ご案内:「通りの何処かに在る古書店」に杉本久遠さんが現れました。
杉本久遠 >  
 とても優しさを感じる笑みに、苦笑を浮かべた。

「相当に厳しいぞ、君は。
 君が見せる優しさは、オレからすれば底なしの沼みたいに思える。
 そこに甘えて溺れきったら、興味を失われるまであるだろうな――なんてな」

 珍しく、率直な物言いをする。
 ただ、それが久遠から愛する女性に感じている印象の一つではあるのだろう。

「一応その、なんだ?
 被虐趣味はないが、君の厳しさを感じると、地に足を着けて貰えるというかな。
 うーん、難しいな」

 そう言って笑いながら、そっと彼女の身体を抱き寄せる。
 その細い体を腕の中に収めて、彼女の肩に顔をうずめた。

「――ああ。
 すまん、今はその、独り占めさせてくれ」

 そう言った声は、少しだけ震えていた。
 彼女には、久遠が静かに涙しているのも全て分かってしまうのだろう。
 それが喪失からなのか、こうして触れ合った安堵からなのか。
 まじりあった感情の中から、彼女はどちらを強く読み取るのだろうか。
 

シャンティ > 「あ、ら……どう、かしら……ね、ぇ?」

率直な物言いに、くすくす、くすくすと女は笑う。

「堕落、も……享楽、も……ふふ……ぜん、ぶ……愛せる、わ、よぉ……?」

くすくすと笑う声が、小さな部屋の中に小さく、しかしどこまでも響く。
妖しく、怪しく、耳朶を打つ。

「……ん、なるほ、ど……ねぇ……」

地に足をつける。男には、そう思えるらしい。
なるほど、それが彼の感性か。

「………」

震える声が、震える体が、読みまでもなく様々なことを女に伝える。
女は黙ったまま、男のするままにさせている。

「独り、占め……ね、ぇ……」

薄く笑うでもなく、ただそのまま抱きしめられる。
細く、薄く、柔らかく、折れてしまいそうなその身で男を受け止める。

「好き、に……する、と……いい、わ……よぉ?
 ふふ……あなた、が……なにを、選ぶ、のか……どう、歩く、のか……ね」

杉本久遠 >  
「たはは、なにを選ぶか、なんてもう決まってるんだ」

 彼女の髪にそっと、武骨な指を通しながら。
 若干、湿った声で答える。

「君と一緒に、ゆっくり歩いて生きていく。
 それがオレの今の夢だよ。
 ――まあ、今のところは」

 そう言って、体を離すと、目元をぐりぐりと擦った。
 自分が泣いていた事、それ自体は隠すつもりもなかったらしい。

「でも、それだけじゃ、君を飽きさせてしまいそうだからな。
 オレも新しい目標をまた見つけるさ。
 ただそのなんだ、しばらくは、君の事を優先したい。
 今まで君に使えなかった時間を、君に使いたい。
 オレの夢を静かに見守ってくれた、君の夢だって知りたい。
 ――なんだかんだ、さ。
 オレはまだ君の事をまだ、ちゃんと知れてないと思うんだ」

 それはあえて、今まで踏み込んでなかった事の一つでもある。

「だから、これからはもっと君に対して、心を割きたいと思ってる。
 今の内は、だけどな?
 きっと新しい目標でも見つけたら、またそっちに一生懸命になっちまうだろうからさ」

 そう言いながら、自分のその不器用な性格を笑う。
 少し赤くなった目元で、彼女を見つめながら。
 そっとその額に自分の額を寄せた。
 

シャンティ > 「……」

男の言葉に、ほんの一瞬だけきょとん、とする。
そのまま、無言で何事か考える。

「私……ね、ぇ……」

普段から気だるげなその声は、いつもよりも更にゆったりとたどたどしくも聞こえた。

「面白、くは……ない、わよぉ……?」

女は、額合わせになった男の目の方を虚ろな目で見る。焦点は合わない。
ある程度は、ある意味恥とも言える例の劇でも晒している。
アレ以上は……本当に、面白みのないことしかない、と女は思っている。

「ま、ぁ……別に……いい、けれ、どぉ……
 新し、い……ことを、見つけ、た方が……面白み、は……ある、と……思うわ、よ?」

男の言葉通り、打ち込むことを見つけさえすれば一生懸命に突き進むことだろう。
そうならなかったとしたら、それは彼の堕落だろうか。
それはそれで、趣深いものだ、と女は心の内に思う。

「そう、ねぇ……指導者……って、いった、かし……らぁ……
 何か……新し、い……ものが、見える、かも……しれな、い……わ、ね。
 あぁ……教わ、るのも……いい、か、しらぁ。本式、のは……無理、だ、けど……ね」

くすり、と女は笑った。
言葉通り、女自身は運動神経もなにも壊滅的で試合に出るなど不可能であろう。


杉本久遠 >  
 今度は、久遠の方がくすくすと笑う番だった。

「これは、そうだなあ、面白いかどうかじゃないんだ。
 あの劇で少しは教えて貰えた、って思っちゃいるんだけどな。
 こういうのも、少し恥ずかしいんだが」

 距離の近づいた彼女の頬に手を添えて。
 虚ろな瞳の、その奥を覗き込むように。

「愛してる人の事を知りたい、って当たり前の事だろ?
 そこに面白い、面白くないは関係ないさ」

 なんてことを、赤くならずに言えるようになったのは。
 久遠が少しは一人の男として成長したのかもしれない?

「まあそうだな、コーチングの練習に付き合ってもらうのもいいかもしれないか。
 んん?
 いや、君ならその気になれば競技も出来ると思うぞ。
 ただそれよりも、向いてる泳ぎ方があるだろうが」

 そう言いながら、少しは未練を拭えたのだろうか。
 いつものやたら情熱のある雰囲気とは違うが、先ほどよりも落ち着いた、穏やかな調子になっている。
 もしかしたらこれが、久遠が彼女に言った『地に足を着けてもらえる』という事なのかもしれない。
 

シャンティ > 「……そ、う」

まだどこか困惑したような様子を見せながら、女は頷く
虚ろな目は、何者も映さないまま、彷徨う

「あなた、が……そう、思うの、なら……そう、でしょう……ね」

これもまた、未知というものだろうか
女はそんなことを心に思う

「……なる、ほどぉ」

そして、吐息のような言葉が漏れる。
それは、男が穏やかに言葉を紡いでからで

「すく、なくと、も……気持ち、は……決まった……みたい、ねぇ……?」

その様子を読み取ったように、確認するように口にする

「元気、は……戻った、かし、ら……?」

見えない目が、男を覗き込むように見つめる。
彼我の距離が近いままに。

「さし、あたって……どう、しよう……か、しら……ね?」

そして、首を小さくかしげた

杉本久遠 >  
「――なんか、珍しい気がするな」

 彼女の様子を見て、うっすら微笑む。

「君がそう、戸惑うような様子を見せてくれるのは。
 もっと色んな表情を見せて貰えるようにならないとな」

 なんて、少し格好つけた事を言ってみたりもするように。
 一つの事を納得いくまでやり切った。
 それが少なからず、久遠という男を成長させたのかもしれない。

「そうだな、おかげさまで」

 そしてどうしようかと言われたら少しだけ悩んで。

「ケーキでも食べようか。
 ああ――これ、キスの一つでもして見せた方が男らしかったりする、か?」

 額を離しながら、ふにゃりと緩んだ表情になりつつ。
 ふと、大真面目にそんな事を訊ねてみたりした。