2025/12/26 のログ
シャンティ > 「……そう、ねぇ……」

珍しい、と言われればそうなのだろう、と女は考える。
最近。特にアレと関わることになってから、自分の調子は乱されっぱなしという感覚がある。

「少し……恥、さらし、も……した、しぃ……その、せい……かも、しれない、わ……ね」

溜息のような吐息のような息が漏れる。それ自体も珍しいことだ。
これもまた、変化なのかもしれない。

「そう、ね……色々、な……表情、も……また、なにか……ある、かもしれない、わ……ね」

男に聞かせる、というよりは独り言のような言葉。
なにかの確信、というほどでもない。なにかを予期しているのか期待しているのか。
ぼんやりとしたなにかを帯びた声だった。

「ふふ」

男の質問に、くすくすと笑う。

「すく、なくと、もぉ……聞いた、時点……で、台無し……ね?」

くすくす、くすくす、と笑う。

「永遠ちゃん、に……聞いて、みるぅ?」

杉本久遠 >  
「たはは、そりゃそうだ!
 でも、オレらしいだろ?」

 こういうタイミングで、さらっと出来るなら、もう少し女性に縁があった事だろう。
 出来ないから、巡り巡ってこの婚約者と縁が出来たのだから、分からない物だが。

「やーめーてーくーれー!
 あいつに訊いたら、二人して進展度合いを根ほり葉ほり聞かれるぞ」

 想像しただけで頭が痛い。
 そして、その時、頭を抱えるのはきっと久遠だけなのだ。

「ただ、まあ」

 ぽりぽり、と頬をかいて。

「したい、と思いはするんだ。
 その、君は本当に、魅力的――いや」

 ぱん、と軽く自分の頬を叩いて。
 彼女の手に自分の手を重ねながら。

「君の事を心から愛しているから、な」

 真っすぐに、真剣な表情で言う。
 これだけは変わらない、出会った頃からときっと同じ、久遠の真っ正直な素直さだ。
 

シャンティ > 「そう、ねぇ……らしい、といえば……らしい、わ、ねぇ……」

初心。奥手。生真面目。
おそらく、男の状態を問えば数多の人が幾多の言葉を出すのだろう。
そしてそのどれもが正しく、どれもが当てはまらないのだろう。
それもまた、この男らしさ、ということだろう、と女は独りごちる。

「私、は……別、にぃ……ありの、まま……を、話す……だけ……だ、わぁ?」

おそらく本当に、そんな問答があれば宣言どおりにするのだろう。
結果、頭を抱えることになるのは男だけ、というのもまたそのとおりだろう。
そして、それを見ながら女は笑っているかもしれない。

「……ふふ。素直……ね、ぇ。だから、か、しら……ねぇ。締まら、ない……の」

くすくす、と女は笑う。

「久遠、はぁ……どこ、が……いい、のぉ……?
 ここ…? ここ…? ここ……?」

女の細い指が額を、頬を、首筋を、唇を、体を……一つずつ指し示していく
ゆったりと、しっとりと

「ふふ……で、も……泥沼、への……道……かも、しれない、わよぉ……?」

杉本久遠 >  
「締まらないのは、自覚はあるんだけどなあ。
 でもそこで、オレが半端にこざかしくなっても、君に手玉に取られるだけだろ?」

 なんとも情けない台詞ではあるけども、実際そうだろうという確信があった。
 続く言葉と仕草を見ても、手玉に取られる未来は変わりそうにない。
 きっとこのまま関係が進んだとしても、こうして彼女の手の平で転がされるんだろうなぁ、と久遠は苦笑し。

「なら――」

 とはいえ、こうして試されてしまえば、少しでも意地を見せたくなる。
 彼女の髪をそっと避けて、その額へと不器用に口づけた。

「――とりあえず、その。
 今はこれが精一杯かもしれん」

 顔を話してから、ふい、と顔を逸らす。
 その顔は久しぶりに、耳まで赤くなっていた。
 

シャンティ > 不器用にも、意地を見せた男。
その唇が額から離れ、顔が逸らされる。

「ふふ……賢しく……強か、に……でも、慣れない、こと……ね。」

くすくす、と女は笑った。
馬鹿にするでもなく、ただ楽しそうに。

「で、もぉ……意外、と……機先、を……制、する……ことは、できる、かもしれない……わ、よぉ?」

人差し指を、立てる。
まるでなにかの説諭か講義を行なうかのようにして。

「人、は……足掻く、からぁ……折れる、からぁ……立ち上が、る……からぁ……潰える、からぁ……
 そし、て……なにが、起きる……か、わか、らない……か、ら」

「ふふ……美し、く……面白、い……の、よ? 」

ゆるり、と男に近づく。達人でもなんでもない。ただ何気ない動きに思える。
その唇が、頬に触れる。

「ね? 世界、最高速……さん?」

くすり、と女は微笑んだ。


杉本久遠 >  
「――ぅ」

 彼女の言葉を聞いて、何かを応えようと思った矢先。
 柔らかな感触が頬に触れて、過去一番と言っていい程、湯気が出そうな程に顔が赤くなる。
 血圧が上がり過ぎて、若干、眩暈でふらふらしていた。

「し、知ってた、のか?
 む、むむぅ――」

 意外、だったのだろう。
 自分の頬を撫でながら、しかし、出てくるのは呻き声くらいだった。

 一応、マイナーとは言えプロスポーツの世界大会。
 世界配信は勿論、その記録も誰だって見れるよう公開されている。
 だから、彼女が知っていてもおかしくはないのだが。

「し、知ってたなら、先に言ってくれても、よかったじゃないか」

 赤い顔のままそっぽを向いて、拗ねたようにむす、と唇を尖らせる。
 そんな子供っぽい仕草。
 それが、彼女に知られていた事の嬉しさと照れ、納得はいっても理想には遠い成績を見られた恥ずかしさとむず痒さ。
 そんな感情が入り混じった結果――久遠は拗ねたのだった。
 

シャンティ > 「エアースイム、は……見て、る……もの」

おかしなことはないでしょう?と言わんばかりに、小さく首を傾げる。
事実、女はエアースイムを妙に気に入って"ただ浮く"というだけのために装備すら購入していた。
当然の如く、試合も追えるものは追っている。

「あ、ら……褒めた、方が……よか、った?」

また、小さく首を傾げる。
世界記録を出したと言っても肝心の試合は振るわず。
男は納得と失意の狭間にいるであろうことは想像に難くない。

「美し、い……記録、だわぁ……人、の……意地の、果て……
 たと、え……踏み、超える……人が、いて、も……
 新雪に、足跡、を……つける、よう……に。
 未開の、地を……拓く、よう……に。
 初め、て……そこに、立つ……こと、は。ええ……」

くす、と微笑む

「美しい、わぁ?」

そっぽを向く男に、語りかけた

「……とは、いえ……思う、ところ……も、ある……か、しら、ね?」

そしてまた、小さく首を傾げるのだった。

杉本久遠 >  
「ぬ、ぬぬぬぅ」

 彼女の言葉に、両手で顔を覆いながら呻く大男。
 それが、とにかく嬉しくて仕方ないという感情が溢れた結果ではあるのだが。
 やはりどことなく情けない。

「美しい、か」

 それでも、その言葉はすんなりと。
 久遠の胸に空いた穴に納まったような気がした。

「――いや、おかげですっきりした。
 誰かの記憶に残る泳ぎが出来た、それは間違いなかった。
 才能が無くても、努力でたどり着ける場所があった。
 それだけで、ああ、十分すぎる」

 ふ、と憑き物が落ちたかのように、気負いのない表情で笑う。
 本当に、心から満足できたかのように。

「それと、君に言われて、一つ気づいた事もある」

 抱き寄せていた彼女の隣に、今度は寄り添うように収まって。
 手を重ね、彼女の細い指を優しく包む。

「ずっと、オレは自分のためだけに泳いでいた。
 そう思っていたんだが。
 ――いつの間にか、君に誇れる自分になるために、泳いでいた。
 オレの夢に、君の存在が重なっていた。
 だから、君の記憶に残るだけの何かを残せたなら、今は、それで」

 誇らしい、とまではまだ言えなかったが。
 それでも愛する人に、自信をもってやり切った、と。
 そう胸に抱いて接する事が出来る。
 それだけでまた、強く歩きだせそうなくらい、気力がわいてくるような心地だった。
 

シャンティ > 「そ、う? もっと……悩んで、も……いい、のよぉ?」

憑き物が落ちたかのようになった男に、女はくすくすと笑いかける。
本気なのか、冗談なのか。
少なくとも笑いからは伺いしれない。

「自分、を……誇れ、るように……それ、も……利己、よ。
 結局……自分、の……ため、なのは……変わら、ない……わぁ?
 け、ど……人、は……そういう、もの、よ。
 どこ、を……向いている、か……な、だけ……だ、もの」

くすくす、と笑う。

「巡り……巡って、ぇ……自分、に……還、った……なら。
 よかった、のでしょう、ね」

どこかドライな物言い。
励ましているのか、水を差しているのかわからない。
ただ、女はいつもの笑いを浮かべている。

「あぁ……」

ふと、思い出したように

「そう、いえば……まだ、あれ……着て、なかった……わ、ねぇ」

杉本久遠 >  
「巡り巡って、還ってくるか。
 そうだな、おかげでこうして、君に寄り添える自分になれたのかもしれん」

 彼女の言葉は、いつも心情を読み取るのが難しい。
 だが、彼女が笑っていて、その隣に居られるのなら。
 今の久遠にとって、これ以上ない、我武者羅な努力の結果だと思えた。

「――ぶふっ!?
 なにかと思えば、シャンティ、あれは」

 と言って、言葉が止まる。

「あれは、まあ、その、出来れば、後で見せてくれ。
 今はそのなんだ。
 そこまでされると、嬉しすぎて倒れそうだ」

 たはは、と笑いながら。
 着て見せてほしいと正直に言いながら、恥ずかしそうに。

「ん、んっ!
 今はケーキでも食べてゆっくりしよう!
 うん、そうだ!
 今日は君と、静かにゆったりとクリスマスを過ごしに来たんだからな!」

 なんて、衝動的に飛び出してきたくせに、それっぽい事を言って。
 「お茶を入れよう! ケーキに合うやつを!」なんて自分から率先して立ち上がる。
 まあ当然、お茶の場所も、あるのかも分からないのだが。
 彼女に教えられながらお茶を用意するのも、きっと久遠には幸福な時間となるのだろう。
 

シャンティ > 「ふふ……そ、お?」

後で、と欲望とその他の気持ちとせめぎ合っている男。
それをからかうように、くすくすと笑う。

「ケーキ……そう、ね。
 もう、すっかり……置きっ、ぱなしに……なって、いるもの、ねぇ……」

すっかり話し込んで忘れられていたケーキに同情を示し。
誤魔化すかのように、ケーキを、お茶を、という男に茶器をどこからともなく取り出して渡す。
始終、いつもの笑いを浮かべながら。

「新しい……一歩……ね」

そんな中、ぽつり、と女は漏らすのであった。

ご案内:「通りの何処かに在る古書店」から杉本久遠さんが去りました。
ご案内:「通りの何処かに在る古書店」からシャンティさんが去りました。