2026/01/22 のログ
ネームレス >  
「うん、良い仕事だ。
 キミに二回ほどボコボコにされたときよりも、
 ずいぶんスマートなやり方になったんじゃないか?」

冗談めかして微笑んだ。刺されるはずだった場所を掌で撫でて見せる。まったくの無傷だ。
もし気づいていたならば、対応は可能だったろう、が。

地に足がついていれば、少女は護衛で、自分は護られる側。
だから、動かなかった。何もしなかった。少女が遅れれば負傷する。あっさりと死ぬ。
それだけのことだった。信用であった。信頼であった。あっけなく、少女に命を預けていた。
その契約の上で、この存在の義務は、護られる価値がある存在であり続けることだ。
……いつか庇われた屈辱を前にして、この存在はそれを改めて覚悟したのだ。
いざとなっては、花火のように消えかねぬ、燃えるいのちは道化のように、

「うっかりキミの思い出だけになっちゃうトコだったな」

肩をすくめた。
この存在は読心する異能は持たない。
だから、少女がさっきがた口にしようとしていた"前の事"は知らない。死が重なるのは偶然だ。

「知らないコだ。 …………たぶん」

連れて行かれる下手人を見送り――振り向いて恨めしげな視線を向けるのは二人のうち、どちらに対してであろう。
怨恨ではない。対人における、無関心なものへの記憶と執着が酷薄な人間ではあるからあてにはならない証言。

「――ああ、騒がせたね。
 空港の委員たちの迅速な対応に。そして我が頼もしき護衛(ボディガード)に。
 どうぞ、喝采をくれ。キミたちの旅程が快適なものでありますように!」

緊張をほぐすようにして、朗々とそれは声をあげた。
両腕を大きく広げて、仰々しい演説のようにして。
苦笑と安堵、言葉通りの拍手も呼びながら、やがては自分たちも委員に呼び止められる。

「臨時ボーナスは弾んであげよう。蕎麦もうどんも出てくるかもよ。
 ボクはうどんかな――……ところで、なんでカツ丼なの?」

伴われ、聴取のために誘導に従いながら。
首を傾いで、興味を引かれた猫のように瞳を大きくして問いかける。
日本の取り調べのお約束を、遠い国の星は知らないようだった。
言葉は通じる。……言葉が通じているだけかもしれない。世界の広さに対し、彼我の距離はどれほどだろう。

緋月 >  
「…縁起でもない事、言わないで下さいよ。
そう簡単に、思い出にはさせませんから。」

その言葉が、暗にどれだけの覚悟で以て少女が麗人を守りに掛かるかを示している。
手の届く所ならば、それこそ身を挺しても。
簡単に思い出の中でじっとしていられる存在にはさせないように。

「……私も知らないです。
其処の所も含めて、後は専門の方々にお任せしましょう。」

場の空気を己のモノにするのは上手いものだ、と感心しながら、自身もぽつりと言葉を漏らす。
記憶を出来る限り探ったが、やはり思い当たる節はない。
気が付かない間に、怨みか何かでも買っていたのだろうか。

委員に呼び止められる声で、思考をやめた。
それこそ、探るのはそういった事に長けた専門の方々にお任せするべきだろう。
自分達は此処で起こった事について、隠す事もなく事情を伝えるだけだ。

「取り調べの最中の食事はカツ丼が定番らしいですよ。
私もテレビのドラマで見ただけですけれど。」

そんな言葉も、少女なりの空気を解すための冗談だったのかも知れない。
ともあれ、任意同行を求められれば素直に同意し、取り調べの為に委員についていく事になるのであろう。

ご案内:「空港」からネームレスさんが去りました。
ご案内:「空港」から緋月さんが去りました。