2024/06/01 のログ
ご案内:「【ソロール用】商店街の路地裏」に夜合 音夢さんが現れました。
夜合 音夢 >  
「買い出しは……こんなものでいいかな」

ある日の放課後。
スマホ片手に商店街を練り歩き、食材やお菓子、動物用のエサなどを買って帰ろうとしていた。
4人分+αとなると、流石に買い物袋が重たく感じる。
同室の誰かに手伝ってもらえば良かったかな……と思いつつ、わざわざ誘うのも億劫だったのだ。
事前にリクエストは聞いてあるから、買うものは間違っていないはず。
後は寮に帰るだけ……というところで、ふと足を止めて細い路地に顔を向ける。

「………………」

傍から見れば道端で立ち止まっている奇妙な光景。
しかし、少女は路地の奥からこちらへ向けられた気配を感じ取っていた。
周囲を見回し、誰も居ないことを確認して、建物と建物の間へと身体を滑り込ませていく。

夜合 音夢 >  
ふだん人が通ることなど滅多にない路地裏は、薄暗く埃っぽい空気に満ちている。
コートの袖で鼻と口を覆いながら、買い物袋を提げたまま気配のした方へと歩を進めた。

『チチチッ……』

「…………!」

不意に聞こえた物音に警戒を強め、そちらを振り返る。
怪しい人影は無く、代わりに地面の隅を何か小さな影が駆け抜けていくのが見えた。
こんな場所だしネズミの一匹や二匹いてもおかしなことはない。
小さく息を吐いて、再び歩き出そうとした―――その時。

『キィッ!!』

別な物陰から現れたネズミが、真っ直ぐ音夢に向かって飛びかかってきたのだ。

「っ……!?」

咄嗟に身体を捻って回避を試みたものの、狭い路地では躱しきれず買い物袋の持ち手を掠める。
すると、まるで鋭利な刃物で切り裂かれたかのように持ち手が千切れ、袋の中身を地面にぶち撒けてしまった。

『チチッ、キィキィ……』

集中して周囲を探れば、あちこちからネズミ達が目を光らせているのが分かる。
そして、それらは全て半透明の影のような姿をしていた

夜合 音夢 >  
「(……こいつら)」

間違いない。
これらは意思を持って音夢に危害を加えようとしている存在。
それも恐らく―――刺客の放ったものだ。
となると逃げるわけにはいかなくなったが、いかんせん場所が悪い。
買い物袋の回収は一旦諦め、目を伏せて意識を集中させた。

「(ネズミの相手をするなら、やっぱり……)」

音夢の身体を覆うように青白い光が生じ、頭の上で猫の耳を、腰の後ろで猫の尻尾をそれぞれ形作る。
彼女の異能『百獣憑き』(ハンドレッド・リトル・ライヴズ)による降霊。
見開いた瞳は獣のように鋭く、暗闇の中で光りながらネズミ達を威嚇し、怯んだ隙を突いて包囲を抜け出した。

夜合 音夢 >  
猫はヒゲを使って空気の流れを読み、空間を把握するという。
今の音夢にヒゲは生えていないが、似たような芸当は可能らしい。
後方から追いかけてくる無数の気配を振り切ってしまわないよう注意しながら、駆け抜けた先は僅かに開けた空間。
ここなら四方を警戒しつつ、ある程度 自由に動くことができそうだ。

「……にしても、ネズミの霊をけしかけてくるだけなんて。
 今度の刺客はずいぶん臆病者なんだね」

足を止めた途端に周囲を囲まれ、今にもまた飛び掛かってきそうなネズミ達に気を配りながら吐き捨てる。
すると、意外なことに反応が返ってきた。

『チチッ、なんとでも言うがいいさ。
 これがオレ様の十八番、縦横無尽のネズミ軍隊!
 今のテメェはまさに"袋の鼠"ってワケだァ!』

路地に反響するような男の声。
どうやら、ここにいるネズミ達を介して喋っているようだ。
本体は安全な場所から遠隔で操作しているというなら、間違いなく脅威ではあったが……

「黙ってればいいものを、わざわざ煽りに来るとことか……小物っぽいよ、すごく」

『ンだとゴラァ!? ネズミども、やっちまえッ!』

案の定、安い挑発に乗って攻撃を仕掛けてきた。
お世辞にも高度な術を扱う相手とは思えない。
本体はどこか近くに身を隠し、こちらの様子を窺っているのだろう。
それならば、いくらでも手の打ちようはある。

「お言葉に甘えて、私もネズミになることにする」

猫の降霊を解除(リリース)。次いで、飛び掛かってきたネズミの霊を奪取(キャッチ)
耳の形は丸く、尻尾は細長い鞭のように変化する。
これといって今の状況に役立つ能力は得られないが、ネズミでしか得られない情報がひとつ。

『なっ、テメェ……!?』

―――そう。
このネズミ達を操っている信号の出所だ。

夜合 音夢 >  
「……見つけた」

降霊中は降ろした霊と同種の動物と意思疎通ができる。
それはつまり、その動物にしか伝わらない音などを感じ取ることもできるということで。
ネズミとしての聴覚が、左奥……路地のさらに奥から聴こえてくる、形容しがたい音色をキャッチした。

『くそっ、アイツを近寄らせるな!』

男の声の焦りようからも答えは明白。
意識が(ネズミ)側に偏って指令を受け付けてしまう前に再び解除(リリース)し、次に降ろしたのは―――

バサッ!!

街のどこにでもいるカラスの霊。鳥類の基本スペックとして、飛行能力を得られる。
漆黒かつ半透明の翼を広げ、地を這うだけのネズミ達の群れを悠々と飛び越えていく。
路地の角を曲がったところで、こちらに背中を向けて走る男の姿を視界に捉えた。
ホームレスのような装いの、薄汚れた小男だ。
素の身体スペックは常人並みかそれ以下のようで、頭上を追い越す黒い影に、怯えた表情で空を仰いだ。

「―――さよなら」

男が最期に見たものは、はためいたスカートから覗く薄い水色と、己の喉元めがけて迫る苦無だったという。

夜合 音夢 >  
後始末を終え、路地裏を出ようとしたところで。
道中に放置していた買い物袋が生きたネズミに荒らされている、凄惨な光景を目にしてしまった。

「はぁぁぁあ……」

こればっかりは仕方無い事とはいえ、腹の底から搾り出したような溜息が漏れる。
今から買い出しをし直そうにも、この時間では閉まってしまった店もあるだろう。
なんて言い訳しようかな、なんて考えながら、手ぶらのままとぼとぼと帰路に就くのだった。

ご案内:「【ソロール用】商店街の路地裏」から夜合 音夢さんが去りました。