2024/06/14 のログ
ご案内:「常世総合病院・病室」に先生 手紙さんが現れました。
先生 手紙 >  
「――――微妙に知ってる、天井だ……」

頻度で言えば《大変容》以前の日本として、お盆に祖父母の家に行って泊まった時に見上げるような程度の。

『清潔』を具現化させたような白い天井と証明。

心電図は平常な数値を、眠くなるようなリズムで唄っている。

先生 手紙 >  
「――…、……」

記憶に断裂や混濁はみられない。“あの後”どのように事が運んだかを、きちんと理解している。

音を立てず落ちる点滴は涙のようだ。上体を起こし、首を鳴らす。ごきり、とあまり褒められたものではないが小気味いい感触と音を鳴らして、ため息をついた。

「……復帰までのモラトリアム。条件が病院送りとか、ワリとブラックよな」

それも長くは取られまい。今すぐにでも抜けだしたって良いのだ。治療自体は終わっている。ただ、まぁ。「休め」を守ることも、立派な職務だと、センジョーは思うンですよ。

先生 手紙 >  
うーん孤独。差し入れのフルーツ盛り合わせも無ければ見舞客もいない。そもそも表立っての入院ではなし、話し相手は偶然病室に訪れるような顔見知りか――ワケ知りくらいか、後は何かの奇跡みたいなもんだろう。異能と魔術を扱ってるくせに『奇跡』は笑っちまう表現だが。

ふと、端末のロックを指で解除する――最終履歴は『送信済』の三文字。昨日のおれは、きちんとやることはやったらしい。

消去、と。

それだけでワリとデカいヤマを片付けたような達成感。ぶっちゃけるとダルさがつよつよなので、このくらいの作業がとてもえらいぞ、ってなってるのが現状だ。窓を開けたいが、おろそしく手間に感じてしまう程度に、億劫だった。

くそう。そういう力があれば、便利なのになァー。

先生 手紙 >  
とはいえ。今できることはするべきだろう。鏡は手元にないのでペタペタと顔を手で触る。頬に綿。額は無事。耳のピアスは……取られたな、クソ。退院時に返してもらおう。

僅かな荷物の入った鞄。隣には普段、入れていない雑多なモノが押収された証拠品のように陳列されてやがる。

その中からワイヤレスのイヤホンを取り、耳に装着。端末から『資料用』と味気ないフォルダを開いて、その音楽を流し始めた。

「……、――――」

聴いている。音漏れはすまい。そもそも個室である。かといってスピーカーで流すのは気が引けるジャンルだし。看護師、ないし医師が唐突に部屋に来ても対応できるようにはしています。

先生 手紙 > 「……名盤だな」

ダウンロードコンテンツにその評価は時代錯誤だが、あいにくと一番しっくりくる言い方なので仕方なし。先生手紙の音楽シーンからはズレがある。それを差し引いても、持った熱を放つような音楽だった。

……鬱屈の発露。或いは、美しく掠れたビブラートに乗るその感情は……郷愁か。悪いクセが出ている。単純に音楽を楽しもうとしているのに、作者の気持ちを答えなさいみたいなことを自分でやっている。美味い食い物の成分分析を行うような無粋さだ。

やれやれ。小粋に生きたいのが指標だが、どうにもソレを欠いた行動に慣れてしまった。

先生 手紙 >  
こと表現力、に絞れば島外にだって引けを取るまい。「異能」の一言で片づけるにはあまりにも魅力的で、人間的だ。にもかかわらず、こうして客観的に「いい曲だァ」で済んでいるのは――済ませているのは。

偏に、自身にかけた自身の魔術故である。手放しで称賛できないことを申し訳なく思いながら、放たれる言葉と音に、せいぜい拍手するくらい――感受性を、殺しながら聴いている。

先生 手紙 >  
「……や、ほんとにいい曲だ。プライベートで聞ければ最高。特に三曲目の『free』と『please』を掛けてるとこ、最高にエモかったぜ」

……拾われないであろう独り言の感想。だから落とした。イヤホンを外す。

何故だかそれが、とても気恥ずかしいことのような気がして。無意識に煙草を掴む仕草の後――当たり前に取り上げられている事実に嘆くなどした。さっさと帰りてェー。

先生 手紙 > ……窓、開けるかァ。

緩慢に。億劫さと戦いながらベッドからまず、下半身を放り投げる。

座った体勢でしばし。点滴がゆらゆら揺れて、これなら倒すこともないだろうと立ち上がり……カーテンの閉め切られた窓辺に向かう……

シャァー……

開く。

先生 手紙 >  雨 降 っ と る
 
 
 

先生 手紙 >  
とりあえず、何かこう、癪だった。行動に対して成果がないことへの理不尽な不満。雨が降っていれば窓を開けることなど愚考に等しい。

等しいが。せっかくベッドから降りてまで動いたのに、何もせずに戻るのが癪だった。

かちゃり、と鍵を外す。

…………そっと。窓を少しだけ開く。

先生 手紙 >  

入ってきたのは湿度の高い、それでも涼しさを覚える空気と。

風はなく、粒も小さいからか。囁くような雨音だった。

……それほど短気ではないので、その風と音で気候へ対するヘイトは、一応収まった。

先生 手紙 >  
ややあって、窓を閉めた。カーテンも閉める。

のそのそとベッドに戻り、端末を気だるげに持つ。

こうして無為に消費していた時間にも、変化があった。通知が一件。

先生 手紙 > 「はぁー…………」

天井を仰ぐ。やあどうも、さっきぶり。お変わりなくて何よりですよ。

おれ?

おれもまァ、やることに変わりは無ェンだわ

ご案内:「常世総合病院・病室」から先生 手紙さんが去りました。