2024/06/16 のログ
■焔城鳴火 >
「――お、さっそく返事、が」
『前のボタン締めといてくださいね』
「保護者かお前は!」
つい最近、散々呆れられた少年からの、至極真っ当な返信メッセージだった。
『よ け い な お せ わ よ !』
と、返して抵抗する。
しかし相手が悪いのである。
こういうところは、やはり亀の甲より年の功なのである。
「あ、また返事――」
『AV……ってなんですか?』
「oh――」
『保険の講義でやった事の、実践動画みたいなもんよ、フィクションだけど。
興味があったらPinkTtubeで調べてみなさい』
――教員にあるまじき返信内容だが、それでいいのか焔城鳴火!?
■焔城鳴火 >
――ぴろん☆
「あ~――」
『鳴火センセー、疲れてんでい?』
「むしろ疲れてないと思うのかお前は」
『あんたがサンドバッグになってくれたら、すっきりするんだけどね』
疲労よりストレスが溜まっていそうだ――!
「はあ。
――――ん?」
『調べたけど18歳未満禁止だったので見れませんでした!!!』
「――良い子か!!
いや、黒羽は良い子か――うん」
すん、となった。
「なにしてんだ、私」
座椅子にぐったりと凭れて、empty状態。
外からは楽しそうな声が続いている。
「――青春っていいわねぇ」
どろりと濁った眼で呟く、青春を混沌に過ごした鳴火であった。
ご案内:「Free2 浜辺/海の家」から焔城鳴火さんが去りました。
ご案内:「常世総合病院 異能封印個室」に葉薊 証さんが現れました。
■葉薊 証 > 「うん、大分動かせるようになってきた」
ベッドから立ち上がり、うろうろと歩き回る。
医者にも多少は動く事を許され、こうしてリハビリも兼ねて時折立ち上がっている。
入院したての頃は立ち上がったり動かすだけで激痛の走った右腕と左足も、今では随分とマシになった。
自分の身体をようやく思うように動かす事が出来るという事実に満足げに頷き、ぱたぱたと両腕を動かす。
とはいえ、まだ右腕のヒビは完治していない為、それもゆっくりではあるが。
「現代医学ってすごいな~こんなに早く治るなんて」
葉薊証は自覚こそないが、裕福な身分である。
おかげで、彼の治療は一般的な治療と比較し随分と高額がつぎ込まれている。
通常の施術や投薬、点滴などに加え異能や魔法も用いた治療が施された結果、彼の傷口は塞がり、その肉体は健康体に近いものになっていた。
「にしても、父さんと母さんも心配しすぎだよ。帰ってこいなんてそこまで言わなくたっていいのに」
親の心を知らない子供が苦笑いを浮かべる。
ここまでの金銭が治療に注がれたのには、両親の深い心配があった。
それこそ、常世島から彼を本土に連れ戻そうとするぐらいには…
少年はそれを断ったが、両親は未だそれを諦めていないようではある。とはいえ、彼の意思を尊重したいとは思っているようだが…
■葉薊 証 > 「退院は明日かー ちょっとだけ早くなったけどどのみち謹慎だからなぁ」
元々一週間の予定だった入院は一日短くなり、明日退院できる。
とはいえ、二週間の謹慎処分は短くならないだろう。
考え方を変えれば謹慎期間が長くなったとも言える。
通学は出来るし、自宅謹慎なだけましなんだけど、それでも退屈ではある。
「…まあ、償いの一つと考えれば…軽いぐらいかな」
脳裏に少女の顔が浮かぶ。
彼女に対する償いは別にあるが、正直それだけでは足りないと思っている。
だから、8日の謹慎程度、文句を言う訳にもいかないのだ。
「他の人に被害が無くて良かった」
あいつとの戦いで異能が暴発した時、体調不良を訴えた者が数名いたという話だが。
あれは、人込みに揉まれて気分が悪くなっただとかそういうものばかりであったようだ。
僕の異能による影響ではなかったと、あの後先輩から教えてもらった。
それは、本当に良かった。
■葉薊 証 > 「退院したら何しようかな…筋トレとか…は出来ないか」
しばらくは学校と自宅を往復する生活になる。
趣味と言えるものと言えば読書ぐらいなもので、最近は風紀委員としての活動に重きを置いていた事もあって何をすればいいか分からない。
入院中は繰り返しとはいえ体温を測ったり病院食を楽しんだりなんて少しワクワクする日々だったが、退院してしまえばそれも無くなる。
自宅で筋トレをしようにも、腕はまだ治っていないし。
大人しく読書するか、勉強…も利き腕が折れているからあまりしたくない。
「…学校でも大変だなあ」
タブレットの操作とか、ノートをとるのとか、普段通りに出来るだろうか。
それに…
あの時、おかしくなった僕はとんでもない事を叫んでいたと聞かされている。
それを、噂にされたりしていないか。それも不安だ。
少女はああ言ってくれたが、皆がそうとは限らないだろうし…
■葉薊 証 > 「不安がってても仕方ないよなぁ うん!きっと大丈夫!」
少年は強い。
その程度で折れるようなメンタルではないのだ。
…とはいえ、少年にとって確かな不安ではある。
少年が暴言を吐くのは人生で初の経験であった。
それほどの激情に身をゆだねた事は初めてであった。
喉と脳を焼くあの感覚は確かにこの身体に残っている。
あの感情が具現化し、周囲の人の身を焼いていたら…
「…」
そっと、両手を水を掬うような形で差し出す。
一昨日から異能抑制薬は飲まされていない。必要ないと判断されたのだ。
フラッシュバックによる異能の暴走を危惧して投与されていた異能抑制薬だったが、その危険性はないと判断されたのだ。
「心象…具現」
今なお、思い出せば喉が焦がれるような感覚があふれてくるこの感情を。
具現化する。
器のようになった手のひらに、どす黒い何かが溢れ出す。
深淵のように黒く、覗き込めば黒と赤がお互いを喰らい合う煉獄のような記憶。
手のひらから溢れ出しそうなそれをゆっくりと両手で覆い、ぎゅっと固める。
「これは…」
漆黒の鞭。
閉じた手のひらを再び開けば、瘴気のような煙と共に、漆黒の鞭が現れた。
触れているだけで身も心も黒く染まるような、そんな害意と憤怒に満ちた…恐ろしい武器。
「…!」
黒い感情が迫ってくるのを感じ、それを慌てて仕舞いこむ。
ふっと消えて思い出の中へと帰って行く漆黒の鞭。
そして、その場にへたり込む少年。
■葉薊 証 > 「…ハぁ…」
汗が額を伝う。
息が乱れているのを感じる。
まるで自分でないような、それでいて馴染むその心象に飲み込まれかけていた状態への恐怖がふつふつと湧き上がる。
馴染むのは当然だ、それは自分の抱いた心象なのだから。
それを受け入れ切れていない事は、少年が未だ自分を知らず、自己を確立できていないから。
「決めた…しばらくは勉強に没頭しよう…」
この数日、あいつの事を思い出す事は何度もあった。
怒りや憎しみ、後悔など何度も感じたが、それは所詮過ぎ去った事への感想のような、他人事にも似たものだった。
だが、先ほどの心象に触れてわかった。まだ、自分は忘れていない。あいつへの害意を、憎悪を。
だから、しばらくはそれを忘れる為にも勉強することにする。
幸い…と言っていいのか、入院していたから勉強は遅れている。
丁度いいと言えば丁度いいだろう。
「寝よう…」
もぞもぞとベッドに入り込み、個室の入口に背をそむける。
今日はもう誰も来ないでほしい。今の自分は、きっと酷い顔をしている。
生活習慣がしっかりしている少年は、結局いつもの時間まで寝る事は出来なかった。
それまで、あの心象を忘れる事は出来なかった。
ご案内:「常世総合病院 異能封印個室」から葉薊 証さんが去りました。