2024/08/12 のログ
九耀 湧梧 > 「――分かった。
繰り返すが、これがどれだけ"王"とやらに通じるかは俺にも分からん。
敵の力と剣の力…そのぶつかり合いになるだろう。
くれぐれも過信し過ぎるなよ。」

そう釘を刺し、霊刀を取り出した時と同じ動作を取る。
墨絵と名が消え去り、現れたのは全長90cm程のタルワール。
その名が示すかのような、真っ黒な鞘に収められている。
浮かび上がるそれを手に取ると、黒いコートの男はそれを少女に改めて差し出す。

「……さて。
次は、こいつだったな。」

少女がタルワールを受け取ったなら、あまり気の進まない様子で、頁を捲り直す。
出てきたのは、まるで太陽のような形状の鍔を持った大振りな西洋剣。
ちょうど、鍔の中心に珠のようなものが嵌るデザインだ。
銘は――《不落ナル太陽》。

「……こいつの元になったというのは北欧神話の豊穣の神・フレイが持っていたという「勝利の剣」だ。
フレイは太陽との関りも深い神。その剣も、太陽の力を受けていても何の不思議もない。

余談だが神々の黄昏(ラグナロク)でフレイが命を落とした理由については知ってるか?」

Dr.イーリス > 「少なくとも、月を呑み込む行為そのものは“王”に有効である事はデータが取れています。《羅睺・日喰月呑》も、“王”に通用する可能性は結構高いと思います。無論、完全にというわけにもいかないかもしれませんが……」

月を消す、その行為自体は“王”に有効である事は確か。
だが“王”は、その月を消すという行為そのものに対策してくる。
湧梧さんの言う通り、敵の力と剣の力のぶつかり合いになるかもしれない……。
過信しすぎないように、とイーリスは首を縦に振った。

「《羅睺・日喰月呑》、有効に使わせていただきますね。ありがとうございます、湧梧さん」

笑みを浮かべて《羅睺・日喰月呑》を受け取り、そして両手で抱える。
月を呑み込む、その特性にイーリスは希望を見出していく。

続く武器。湧梧さんがあまり気が進まない様子で、束の間やや首を傾げる。
そのページに描かれているのは、太陽を連想する剣。

「フレイの勝利の剣……。え!? あの勝利の剣ですか!?」

神様のご加護のある刀やアスラの体から作った武器、というのも凄いは凄いが、フレイの勝利の剣は正真正銘、神話の有名な剣である。
神話の剣、イーリスは目を見開く。

「ラグナロクにおいて、フレイは巨人スルトにより倒されましたよね。勝利の剣をその時にフレイは持っていなかったが故に、ラグナロクにおいてスルトに勝てなかった……」

九耀 湧梧 > 「そう、その勝利の剣だ、と言われてる。」

目を見開く少女に、難しい顔を隠さぬまま頷くコートの男。

「そもそも何故フレイは勝利の剣を持たず、スルトに負けたのか。
最も有名な逸話は、美しい巨人の娘ゲルダに求婚する為、己の召使だったスキールニルに
与えてしまった、という酷い話だ。

そのせいか、ラグナロクで勝利の剣は失われず、この形に加工されたと…そう言われてるのが、これだ。」

たん、と、右手の指が墨絵の刀身を叩く。

「こいつを鍛えたのがどれだけ酔狂な奴かは分からないが、兎に角、集められるだけの「太陽や太陽神」に関わる
物品を集め、勝利の剣と共に鋳溶かして新しい剣に鍛えたという話だ。
ラー、アポロン、ヘリオス、ルー、八咫烏、スーリヤ――。

オマケとばかりに、極小の太陽まで造って埋め込んだというから、偏執的にも程がある。」

そこでひとつため息。

「――だが、流石に欲張り過ぎがよくなかったらしい。
イカロスの逸話、お前さんなら知ってるだろう。

…過剰に太陽の要素を詰め込んだせいで、全力を引き出すと「太陽の熱」が持ち主を焼きにかかるのさ。」

それはまるで、文字通り太陽に近づきすぎて翼が溶け墜落したイカロスの如く。

「…だから、この剣の使用はかなりリスキーだ。
俺個人としては、効果は兎も角安全性から勧めかねる。」

Dr.イーリス > ラグナロクとは、北欧神話の最後の戦争。神々と巨人の戦い。
両者悲惨な結果となる戦い……。
そのような戦いに関して、フレイはあまりに致命的なミスをしてしまったという。

「……北欧神話は、そういった酷い話がいくつかある覚えがあります」

北欧神話に限らないかもしれないけど、神話というのはわりとその手の酷い話がある印象もある。

「様々な神話の太陽神に纏わる物品が合わさったもの……。そんな物まで湧梧さんは所有しているのですね。凄いです……」

正真正銘の神話の剣、そこから様々な太陽神に纏わる物品が合わさっているのだとすればその神性は凄まじいものになるだろう。

イカロスの逸話を知っているかという問いに、イーリスはこくんと頷いた。
イカロス……蝋の翼を持ったが故に、天高く飛び立ち、そして太陽に翼が溶かされて落ちていった青年。

「太陽の熱が持ち主を焼く……。あまりに、太陽という象徴を取り込みすぎてしまったが故に……」

それもそのはず……だとイーリスは思った。
神性はおそらく、凄く高いのだろう。だが、あまりにその太陽神としての神性が高すぎるのかもしれない。
それはイカロスの逸話のように、人が扱いきれない程に……。

だが、イーリスはその剣に活路を見出した。
相手は“月”だ。
月は元々、太陽の光で輝き、そして太陽が出れば地上に姿を現さなくなる。
イーリスの瞳は太陽の如く、輝く。

「とても凄まじいです……。凄まじさ故、とも言えましょうか。この勝利の剣が、《月輪の王》にだって勝てます……!!」

イーリスの体が焼き切ってしまう……。そのリスクは恐ろしい。
勝てる、そう思った後に、目線を下に落とす。
様々な太陽神の力が込められているのだから、その神性が身を燃やすというのは想像に難くないのだ。

「勝てる、そう思わせるに十分なものです。しかし、もしその剣を扱えば私の体は焼かれてしまいます……。ただでは済まない……いえ、死んでしまうかもしれません……。《加牟豆美之刀》と《羅睺・日喰月呑》のみで決着をつけられるなら、それが理想です」

アンデッドに有効な刀、月をも呑み込むタルワール。この二本でどうにか出来るなら、そうしたい。
だが──。
イーリスは、凛とした形相となる。

「私はリスクを取っても、“王”には負けられません。最後の手として、《勝利の剣》を頼らせていただきたいです。《勝利の剣》を使った時……あなたとのギアスが果たせる可能性がどれだけあるのか正直分かりません……。それでも出来る限りは、生きて剣をあなたに返せるよう、励みます……!」

そう覚悟を決めて口にする。
《勝利の剣》を使えば、“王”を仮に倒せたとしても、湧梧さんに剣を返しにいけるかは不安定になる……その可能性は告げなくてはいけない。
様々な太陽神の力が込められた《勝利の剣》は文字通り勝利を齎すのだろうけど、使った後にイーリスが助かっているかどうか、その確信が当然持てないため……。
それでも、出来る限り生きて返しにいく、という意思は湧梧さんに伝える。

九耀 湧梧 > 暫しの間、赤黒い瞳が少女の青い瞳を見据える。
その奥の覚悟を見極めんとするかのように。

幾許かの時間が流れたか。折れたのは、男の方だった。

「……決意は固い、らしいな。全く、頑固なお嬢ちゃんだ。」

出来れば使わせたくなかったのが、沈んだ表情からも伺えるだろう。
だが、最後は少女の覚悟に折れ、その意思を尊重する事にした。

「……俺が見つけたというより、この本を俺が見つけた時に既に封じられていた剣だがな。
あんまりおっかないんで、俺も使った事がない。」

言いながら、すい、と指を剣の墨絵の上で滑らせる。
光と共に出現したのは――全長1メートルは超えようかという大剣。
逸話に反し、その刃が納められている鞘はごく簡素な装飾しかされていないものだった。
鍔の中央に嵌め込まれた黄金の宝玉が、太陽のように光を反射する。

「……くれぐれも、取り扱いには気を付けろよ。」

両手で大剣を手にし、男はそれを少女に差し出す。


「……せめて、"王"とやらがどんな姿か、具体的に分かればな…。
それが分かれば他に効果的な代物も絞り込めたかも知れんし、お前さんにこんな危ない剣を
使わせる覚悟をさせる事もなかっただろうに。」

小さくため息。

Dr.イーリス > 湧梧さんとイーリス、互いに見据え合い、時間が流れる。

「……この身が焼き焦げても負けられない戦いですから。ご心配していただけるのは、とても嬉しく思います。私、太陽神に焼かれても頑張ります。それ以前に《勝利の剣》を鞘から抜く必要ないようなんとかしてみます」

イーリスは、にこりと笑みを浮かべてみせる。
《加牟豆美之刀》がイーリスを守りながら“王”を絶ち、《羅睺・日喰月呑》が月を呑み込む活路を開く。この二本は積極的に使いたい。
だが、《勝利の剣》は使う事を前提に“王”に挑むわけではない。《加牟豆美之刀》と《羅睺・日喰月呑》は強力な刀剣なのだから、この二本で決着をつける事がまず大前提だ。
《勝利の剣》は強力だが危険すぎる、故の最後の手。切り札があるだけでも安心できて心に余裕が生まれる。

「本に元々あった剣なのですね。これだけの剣があるとなると、その本にも興味が湧いてきますね。私が“王”に勝利した後にでも色々聞かせてほしいです。《勝利の剣》は……そう簡単には使えないものではありますよね……」

使った事がない、という言葉にイーリスも凄く納得していた。
“王”との決戦は負けられないので切り札になる。湧梧さんの説明を聞いても、その“王”との戦いですら、他の手段で済むならそれが良いと思ってしまう程。

鍔の宝玉が輝かしき大剣。
刀剣二本既にイーリスは抱えていたので、代わりにメカニカル・サイキッカーが《勝利の剣》を受け取った。

「ありがとうございます、湧梧さん。あなたへの恩義、忘れません。あなたのお陰で、私は“王”に立ち向かえます」

凛と微笑んだ。
“王”に有効な武器、強力な武器を湧梧さんは貸してくれた。
感謝の気持ちがいっぱいだ。

必ず、“王”を倒してみせる。

「ごめんなさい、そのあたり詳しく説明できていなかったですね。“王”という呼び方だけでしたからね。《紅き輪月の王熊》、“王”以外に私はそう呼んでいます。生前は《三大獣害事件》の一つ、永遠の月夜《永遠夜》を起こした熊ですね」

元は熊だった。
多分だけど霊獣みたいな類なのだろう。おそらく。

九耀 湧梧 > 「――ああ、出来ればその剣を抜かないでケリを
着けてくれれば、俺としても助かる。」

覚悟を見定めたとはいえ、やはり危険な代物をまだ年若い相手に渡した事はやはり堪えるらしい。
少し陰のある表情で、男は少女の笑みを見つめる。

「こいつについては無事に貸した物を返しに来てくれた時にでも、興味があるなら話してやるさ。
今は兎に角、生きて勝ってくる事を考えておいてくれ。」

最初に「生きて」という事をしっかり釘刺し。
相打ちでは敗北も同然だという事を、暗に語っておく。生きて帰ってこその勝利だ、と。

「《三大獣害事件》、とはまた…。
確かに熊の害という奴は侮れない――――――」

其処までを口にした所で、はっとした顔になる。

「……熊、呪詛、感染――――。」

次の瞬間、だん、とテーブルに手を付き、大急ぎで開かれた頁を更に捲り始める。

「――どうして最初にそれを確認しなかった…迂闊にも程がある…!
疫病じみた呪詛を放つ熊――「うってつけ」が、一振りあっただろうが…!!」

己の迂闊さを呪うかのように吐き捨てながら捲り続け、手が止まった先にあったのは、
柄に細やかな細工が施された一振りの直刀。

隣に記された銘は、

九耀 湧梧 > ――――《甕布都神(ミカフツノカミ)
Dr.イーリス > 「ありがとうございます。生きて、剣を返しにきますね。例え《勝利の剣》を抜いた時でも、頑張りますから……!」

例え、太陽の力に焼かれようとも、湧梧さんはイーリスを信じて剣を貸してくださるのだ。
勝って、剣を湧梧さんに返しに来る。エルピスさんやナナさん、イーリスを待ってる人達の元に、生きて帰って来る。
“王”を滅する。その上で、生きて帰る。そう、心に強く決める。
湧梧さんとは、剣を収納している本であったり、剣を愛するお嬢様との恋の行方だったり、生きて帰ってお話したい事がいっぱいある。

「……うってつけ? も、申し訳ございません……! 私も伝え忘れていました……!」

“王”と呼んでいたのが、ここでは痣になっていたかもしれない。
アンデッドではあるが、熊という情報は大事なはずだ。《紅き月輪の王熊》と言えば、アンデッドの“王”や《月輪の王》、それ等自体も大事な情報だが、熊である事も重要な情報だった。
ぺこぺこと頭を下げている。

本のページにあるのは、直刀。
イーリスはその刀に、目を丸くしてしまう。

「《甕布都神(ミカフツノカミ)》……。古事記において、毒気を放つ悪神なる熊を倒した伝説がある剣でしたか……!? これもまた由緒正しき古事記の武器……! それも《紅き月輪の王熊》のような邪悪なる熊を滅した逸話のある刀……!」

イーリスは震えた。
まさしく、《紅き月輪の王熊》を滅する神刀ではなかろうか。

九耀 湧梧 > 「いや、構わない…!
気が回らなかった俺の方も迂闊だった…!」

言いながら、指を描かれた直刀へと滑らせる。
光となった墨絵から浮き上がって来るのは、端正な拵えの鞘に収められた直刀。
その状態でさえ、どことなく厳粛な雰囲気を醸し出している。

「博識だな。お言葉通り、悪神退治の霊剣…具体的にはその分御霊になるが、元の剣にも引けは取りはしない。
…こいつも、《不落ナル太陽》程じゃないが扱いは難しいだろう。
だが、抜いた時の神氣にあてられないか、それを凌げるだけの意志を保てれば、恐らくは――!」

ぐ、と霊剣を掴むと、躊躇いなく少女へと差し出す。

「《不落ナル太陽》の事で、既にお前さんの覚悟は見せて貰った。
伝える事は一つだけ。使い処はよく考えろ。確実に「決められる瞬間」を見逃すな。

――遠慮はするな、持っていけ!」

Dr.イーリス > 悪神なる大熊を滅した

「お褒めいただき感謝です。分御霊であろうとも、邪悪なる熊を滅した逸話がある霊剣です。あの“王”に、とてつもなく有効である事は想像に難くありません」

もう、物凄く心強い武器だ。
“王”に対して有効、しかし強力な分やはりリスクもある……。

「神氣には、耐えてみせます……! “王”を倒したいという覚悟は、決して小さくないつもりです! 大熊の悪神を滅した霊剣です。この霊剣に神氣に耐えられないなら、私は“王”を滅する資格すらないのでしょう」

古事記において大熊の悪神を滅した逸話のある霊剣を扱えないなら、それはもうイーリスに《紅き輪熊の王熊》を倒す資格すらないも同義ではなかろうか。

イーリスは《羅睺・日喰月呑》をメカニカル・サイキッカーに預け、力強く頷きながら《甕布都神(ミカフツノカミ)》を受け取った!

そして、“王”を滅する資格を試すため、イーリスは《甕布都神(ミカフツノカミ)》を抜く。

「……う……ぐ……ああああぁぁああぁぁっ!!」

神氣にあてられ、イーリスは悲鳴をあげる。
苦しい……予想以上に……。さすがは悪神を滅した霊剣だ……。
ただ鞘から抜くだけで、これほどまでに、意志を貪る……。

だが、“王”を倒すため、そして“王”を滅した後に、湧梧さんやみんなの元に生きて帰ってくるため……。

「負け……られません…………!! 《甕布都神(ミカフツノカミ)》!! 近々、大熊の悪神を討ちます! 私に、力を……貸して……ください!!」

そう凛と口にし、悪神殺しの霊剣を掲げてみせた。

「はぁ……はぁ…………」

荒くなった呼吸を整えつつ、凛々しく微笑んだ。
油断したらきっと神氣にあてられて、意志を保てなくなるだろう。
だが、今この瞬間は耐えていた。

九耀 湧梧 > 「――いい気迫だ。
その意地を、忘れるな。意志の力は、いつの時代も人間の最大の武器だ。」

武人でもなく、そもそもまだ年若い。
神剣の氣が放つ威圧感は並大抵の圧ではなかっただろう。

それでも、少女は躊躇いなく神剣を抜き、そして消耗したとはいえどその神氣に耐えて見せた。

「流石にもう辛い所だろ。甕布都神(そいつ)も充分納得した筈だ。

――ギアスの施術もしないといかんからな。
ま、そいつからの神氣を喰らってそうしていられるなら、羽根箒で撫ぜられるようなレベルだ。」

年季と戦歴の違いか、神氣の直撃にもコートの男は然程堪えた様子も見せない。
軽く、甕布都神を鞘に収めるように促す。

「…施術は簡単だ。
右手の甲に、ギアスの印を刻ませて貰う。
先に右手の甲を出してくれ。」

言いながら、軽く左手を動かす。
炎の灯るような音と共に、剣を意匠化したような赤い光の印が中空に浮かぶ。

「――改めて、確認だ。
お前さんが「完全に目的を達成した」と心から認めた時。
その時に、「貸与した剣を返却する意志」を刺激させて貰う。

この内容に、異論はないな?」

Dr.イーリス > 「はい! ありがとうございます、湧梧さん!」

未だに神氣の威圧感がイーリスの気力を奪う。
甕布都神(ミカフツノカミ)》を扱える、“王”を滅する資格がある事は分かった。
湧梧さんの言う通り、凄く辛い。今すぐ気を失いそうでもある。
甕布都神(ミカフツノカミ)》に認められる資格を試すならともかく、自傷行為そのものは全くの無駄なので、湧梧さんに頷いてゆっくりと神剣を鞘に戻した。
《勝利の剣》程のリスクがない事もあって、《甕布都神(ミカフツノカミ)》は“王”との戦いでは惜しみなく使っていく所存。むしろ、《勝利の剣》を抜く事なくこの《甕布都神(ミカフツノカミ)》で決着をつけたい。
しかし、気力を削られるリスクは決して無視できないものにはなるだろう。

「確認も取らずに神剣の鞘を抜いてしまいましたが、神氣は湧梧さんの気力も奪いにかかっていましたよね。気が回らずごめんなさい……! あの神氣で何事もないのはさすが《刀剣狩り(ブレードイーター)》でございますよ」

歴戦の猛者たる故なのだろう。
改めて、湧梧さんの凄さが感じられた。

「ギアスの施術、お願いします」

頷いてから、右手の甲を湧梧さんに差し出した。

「誓います。“《月輪の王》の討滅、その目的を完全に達した時、あなたから借りた剣《甕布都神(ミカフツノカミ)》、《勝利の剣》、《羅睺・日喰月呑》《加牟豆美之刀》を必ずあなたに返します”。加えて、以下の内容も誓いますのでギアスに加えてくださって構いません。“あなたの借りた武器は、あなたが貸してくださった意図通りに扱い、悪用や解析などはしません”」

凛と言い放った。
この言葉をそのままギアスの契約としていいという意志。言葉も含めた同意があるなら、ギアスの契約は成立しやすいのだろうか、という考えも含め、誓いの言葉に強く意志を込める。
さらに、いかなるギアスをも受け入れる意志。どれだけ強烈なギアスでも構わない。強力な武器を借り受けた恩義はとても大きい、元より誓いを破る気など微塵もない。

九耀 湧梧 > 「はは、ま、そこは年季の違いって所で。
これでもそれなりに長く冒険者をやってるからな。若い奴らにそうそう遅れを取る訳にはいかんさ。」

軽く流しつつ、誓いを聞き届ければ、中空に浮かぶ印にまるで文字でも記す様な動きを取る。

『――我、九耀湧梧の名の下に、汝、Dr.イーリスの誓いを聞き届けたり。

誓約は制約となり、汝が身に。以て盟約の完成と成さん。』

その詠唱と共に指と同時に光の印を動かし、シールでも貼り付けるように少女の手の甲へと押し当てる。
瞬間、手の甲が軽く熱を持ったような感覚があり――それが収まれば、少女の手の甲には
剣を意匠化したような痣のような印が刻まれているだろう。

「ふー…待たせたな、施術完了だ。
……条件付けを増やしたから、もしも追加した誓約に反すれば、戒めが飛ぶ。といっても、腕が痺れる程度だが。
印が残るのは、まあ許してくれ。誓いが達成されれば、消えるようになっているからな。

――後は、お前さんの意志次第だ。頑張れよ、イーリス。」

そう、背中を押すかのように励ましの言葉をかける。

そうして、互いに幾らかの世間話を躱しながらお茶とお茶菓子の羊羹を頂くと、暇乞いを告げて
黒いコートの男は事務所を後にする。
若き少女の勝利を願いながら。

ご案内:「『数ある事務所』」から九耀 湧梧さんが去りました。
Dr.イーリス > 「ふふ、とても立派です」

その言葉に込められているのは湧梧さんへの尊敬だった。

「ぐ……!!」

ギアスの施術で、手の甲に熱を感じ、苦し気に声を上げる。
そして剣を意匠化したような痣が刻まれ、施術が完了する。
イーリスは自身の手の甲を眺める。

誓約の証。
ただ湧梧さんに剣を返すのではない。返すという事は生きて戻ってくるという事でもある。
イーリスは、目を細めて微笑んだ。

「戒めを受けないようにするまでです。素敵な印でございますし、それにこの印が刻まれているからこそあなたとの誓約──“生きて”あなたに剣を返す事を強く心に刻む事ができます」

そもそも死んでしまったら、誓約は果たせない。
この誓約の印は、イーリスにとって強みになる、そう感じられる。

「ありがとうございます。“王”を倒すため、頑張りますね!」

笑みを浮かべつつも、力強く首を縦に振ってみせた。

その後は世間話をして、お茶を飲みながら羊羹を美味しく食べ、事務所を後にする湧梧さんを見送ったのだった。
湧梧さんにとても感謝しながら──。

ご案内:「『数ある事務所』」からDr.イーリスさんが去りました。