2024/09/01 のログ
『ラケル』 >  
『――では!』

騎士はにこやかに微笑み、立ち上がった。
信任を得れば、それに応える――誠実を絵に描いた人柄で。

『少々、お時間を拝借いたします。
 白大理石(ビアンコ)のアーチが渡された水の(みち)を通って。
 責任をもって、お送り致します。ところで、レディ。
 あなたの名前は――――』

これから。
ラケルは、しばしばコッペリアと出逢い、親交を深めていく。
おとなしい少女をほうぼうに連れ出しては、導いて、語らう。
それはほとんど、ラケルが自分を胸中を打ち明けるようなものであったのかもしれない。

惹かれ合う、というにはどこか片思いに似て。
少女の深淵に、半ば魅入られたように。
そんな穏やかな日々は、しばらくは続いたのだ。

『ラケル』 >   
――ラケルは脚本家(コッペリア)の、多方面への嫌がらせが凝縮された役柄である。

(じんましんが出そうだ……)

その嫌がらせの対象に役者(じぶん)も含まれているのが明白なのが困りどころだった。
てっきり自分は『団長』かと思っていた。公明なるヒーロー。あまりにも柄じゃない。
都合のいい偶像を演じるのは、昔取った杵柄ではある、が――

(……この一幕は、)

完璧に、騎士を演じきる。

(本当に、レイチェル・ラムレイにだけ向けられたものなのか?)

内心の追求は――無粋な話、である。
稽古の時にだけあった疑問は、本番中には萌芽しない。

『ラケル』 >   
 
 
――第三幕。

ここからは、有り得なかった過去/未来。
すべてが虚構(まやかし)の、物語。
 
 
 

コッペリア >  
――酸鼻があった
――惨憺があった
――猟奇があった

人々は悪夢にうなされた
人々は狂気に恐れをなした

再びのグランギニョルの怪演

妖怪が地の底より蘇り。
嫉妬が狂い咲き死を撒き散らし。
嬰児たちは厳かに並べて括られ。
人体は丁寧にその身を無数に分かたれ。
血肉は執拗に焼き焦がされて。
亡骸が這い出しては世を嗤い。
異文化をあらゆるものが打ち脅かし。
蒼白の騎士があらゆる地を奔りぬける。

人々は囁いた
魔女が戻ってきた 魔女は死んでいなかった
騎士は何をしている 騎士は無能だ

人々は、口々に >  
『ラケル様も、いまや見る影もないな』

『無理もなかろう。ご友人を立て続けに亡くされている』

『如何に騎士のご同輩といっても、心痛察して余りある』

『――しかし、あれだけ息巻いておいて』

『こうなってしまえば萎れるものだな』

『どれほど犠牲が出るのやら』

『もはや、あの燃ゆる鳥は、誰にも……』

『ラケル』 >  
偽りの雨が降り注ぐなか、弔問客はぞろぞろと帰路へつく。
親しいものたちの眠る棺をまえにして、騎士は呆然と立ち尽くしていた。
ともに轡を並べ青春を共にした、同輩、先達、後進、恩師。
物言わぬ過去となったものたちを前に、太陽に言葉はなく。

雨――役者(ノーフェイス)の憂愁を引き出すに十分な要素、だからこそ熱が籠もった。

輝かしい日々は一転して、冷たい地獄へと移り変わった。
舞台上にだけ注ぐ雨粒のなか、輝きをくすませた騎士はゆっくりと進んだ。

『あ……』

眼帯の側を、舞台に向けているから。
しかし、開いた唇が結ばれただけで、その想いはいくらにも伝わるだろう。

水の紗幕のむこうに、少女(コッペリア)がいた。
すがるように――手をのばした。

コッペリア > 『嗚呼、ラケル様。こんなところにいらしたのですね』

死が死を呼ぶ地獄の有り様の中。
今まで恩恵を受けていた者たちの蔑む眼の中。

少女だけは、変わらぬ瞳でラケルを見ていた。

『どうなさいましたか?』

微笑むでもなく、蔑むでもなく、常なる顔で手を伸ばしてきた騎士を見つめる。

『大丈夫、大丈夫ですよラケル様』

しずしずと落ち着いた足取りで、眼の前に立つ。
すっかり陰ってしまった太陽の前で、月は静かに薄い光をたたえていた

『ラケル』 >  
無我夢中に、少女の細い体をかき抱く有り様。
肩に顔を埋めて、すがりつく姿。
有り得ざる、虚構(まやかし)の一幕。

『……コッペリア』

その声は、雨のなかでも、その矮躯にぶつけられていても、よく届く。
疲弊し、崩折れた心に――優しさは、いたく効くのだ。
それがわかっているから、弱き騎士は、あまりに鮮明に在った。

『力が及ばなかった。
 私の正義は、未だ至らずに……彼の魔女の再来の、影すら踏めない……』

輝きを――喰らわせた。
雲間に覗く、妖しき月を満たすために。

『それでも、あなただけは絶対に守り抜いて見せる。
 コッペリア……もう、あなたに悪夢は見せぬと。
 優しい眠りに誘ってみせると、決めたのだ。だから……』

哀切の騎士を受け止める少女は、聖母か、或いは――

コッペリア > 『嗚呼――嗚呼、ラケル様、ラケル様。
 そんなに悲しんで。そんなに苦しんで。』

すがりついた騎士の頭を少女は優しく撫でる。
まるで、聖母のような姿で

『ですが、大丈夫です。安心してください。
 貴方は、今、掴んだのです。』

するりと
まるで空気のように抱擁から抜け出た少女は、くるりくるりとその場で舞う。

『黒髪の獣のような騎士は、貴方の名を叫びながら千切れていったわ。
 銀髪の知恵者の騎士は、影を掴みながら炎に巻かれて逝ってしまったわ。
 理を大事にする騎士は、卑劣な、と罵りながら潰れてしまったわ。
 和を尊ぶ騎士は、悲しい目をしながらなぶり殺されてしまったわ。』

歌うように謳うように
しかし、その言の葉は惨劇に満ちていた。

『嗚呼――とても、美しい死だったわ。怒りに、哀しみに、悔しさに……激しい感情に彩られていたわ。
 ええ。だから……安心して、ラケル様』

少女は、正義(ラケル)を見つめる

『討つべき魔女の影を、貴方はとっくに手にしているのよ?
 もちろん――』

少女は後ろに小さくステップを踏んだ。

『貴方は、何を為すべきか……ご存知でしょう?
 あとは、踏み出すだけ』

『ラケル』 >  
両の(かいな)は、そこから少女のかたちを失った。
それだけで前へつんのめるほどに、すがって、傾いていた。
だから―――、

打ちのめされたように、呆然と。
片方だけの紫色が、みつめていた。
ほんの僅かにのこった希望すら握りつぶされた――

『なぜ』

少女の言葉は棺を暴いた。
朋友の死を前に誰がいたかを識らされた。

『なぜ……』

重ねることしか、できない。
立ち尽くしたまま、舞い踊る『 』を視る。
どこまでも華麗に愉しげに、求めていた姿であるはずなのに。

清らかで、まっすぐで、疑うことを知らない――その愛情を、
絡め取っておきながら。

『……なぜだ……?』

それでもまだ。
正義に手を、かけることのできぬままに――

コッペリア > 『なぜ?』

ぴたり、と少女は止まる。
その視線は、再びじっと再びラケルを見つめていた。

『嗚呼、嗚呼。ラケル様、ラケル様。
 それを聞いてしまうのですね。とても誠実で、とても勤勉なご質問です』

清らかで、まっすぐで、疑うことを知らない……そう、見えた少女が。

『お答えいたしましょう、ラケル様。
 それは――』

『貴方が』

コッペリア >  
 
『「君のやりたいことをしてごらん」と言ってくださったからです』 
 
 

『ラケル』 >  
肩を矢で射られたように、正しき姿は一歩を退いた。
自分から離れてしまった
いまこの瞬間まで、理解もできていなかった少女の内心にふれて。
その真偽がいかばかりではなく。

『……………』

なにかを言おうとした唇を、噤んで。奥歯をきしませて。

『―――――』

勢いよく、顔をあげた。
悲痛の表情。すべての輝きを月に奪い去られた日食の有り様は。

『―――――コッペリア……!!』

吠えた。
ふらつく足取りで、しかし。追いすがる。追い駆ける。
いつぞやか輝かしい日々に、眩い都に彼女を連れ歩いていた時とは。
まるで逆の――

コッペリア > 『嗚呼 嗚呼 嗚呼』

少女は逃げる
舞うように、華麗な足取りで
惨劇の跡を追うようにして

『素敵 素敵です ラケル様
 貴方の 貴方の
 燃えるようなお気持ちが
 逆巻く心の叫びが
 貴女の全てが美しく輝いています』

ふらつく足取りに合わせるかのように、付かず離れず
ラケルは追いつけない
ラケルは離されない

『嗚呼 あなたの人生のものがたりに祝福を。
 嗚呼 わたしの人生のものがたりに祝着を。』

少女は街を踊るように抜けていく

『ラケル』 >  
この物語は、 
単なる露悪趣味かもしれない。
あるいは無軌道な感情の発露。
もしかしたら、昔日の復讐か。

そのどれもが事実とは異なるかも知れない。

だが――たとえありえざる虚構(まやかし)でも。
真如と異なる創作(つくりもの)でも。
現に劣るだなどと言わせるわけにはいかない。

芸術家(われわれ)は、
みずからの手で『常世国(りそうのせかい)』を降ろせるのだと、
――――明かさねばならない。

命を賭して、心を燃やして。
いま舞台上をこそ戦う場所と定めたならば。
なによりも、誰よりも、熱く――

『ラケル』 >    
コッペリア――シャンティ・シンの前に。
荊棘に彩られた邪道(ランウェイ)が口を開く。 

奈落の底は、この先か。それともシャンティ・シンの現在地か。
駆け上がるべき比良坂の先に、
背に追いすがる断罪の刃と、未だ色濃く残る魔王の掌握を前にして、
一瞬でも――一瞬だけでも、すべてを凌駕せねばならぬ試練

ひとの一生が、一幅の絵画であるとするならば

如何に生き抜くかが存在証明となるはずだ

その背を、ほんの僅かだけ――押して。

最後の一幕。

コッペリア > 舞台の中央に、少女が立つ。

『貴方は後悔していますか?
 貴方は懊悩していますか?
 貴方は忘却していますか?
 貴方は矜持としていますか?』

「貴方は、討ち倒した悪を覚えていますか?
 美しい輝きと対峙した、悪の輝きを。
 人とは相いれぬ、己の信念を貫き散っていった許されざる悪たちを」

静かな声が不思議に遠くまで響く

コッペリア > 「清く、正しく、美しく。
 人を尊び、平和を望み、愛を信じ。
 悪に鉄槌を下す、正義(あなた)に私は憧れました。」

静かな声が、朗々と語りあげる。

「泥に塗れた 人を汚す 闇に満ち。
 正義を嘲笑い、己の心に忠実に、世を混沌に陥れる。
 (あなた)に私は憧れました」

少女は、全体を見回すようにくるりくるりと舞って回る。

コッペリア >  
「嗚呼――私は、どうして、ああなれないのか」
 

コッペリア > 見えるはずのない目は、どこかの一点を見つめていた
コッペリア > 「羨ましい! 妬ましい! 苦しい!

 私には 貫けるだけの 芯がない!

 私は あなたのものがたりを覗くだけ

 己を持った、あなたの人生の浮き沈みのすべてを!」

コッペリア >  
かきむしる
かきむしる
宙を、己を、あらゆる物を
激しい声が、劇場(セカイ)に響いた

コッペリア >  
「嗚呼――」

「だから、これはみっともない執着。」

少女は、大きく手を広げる

コッペリア >  
「私は、わたしのものがたりを紡いでみたい。
 矜持を持って、貫き通して――認められて終着を迎えたい。」

視線がぐるり、とすべてを見渡す。

コッペリア >  
 
 
「さあ、近づいてくる。
 私の終わりが。すぐそこまで――」
 
 
 

『ラケル』 >  
 
 
その胸を、白銀の刃が貫いた。
 
  
 

『ラケル』 >  
告白(なげき)を終わらせ。
観客の声を奪い。
管弦楽は止んだ。

刃のふるえ――甲高く細い残響を残して。

誓いは、結ばれる。
その背に追いすがった、落日の正義が、
これこそが、至高至極の画竜点睛――シャンティ・シンの、理想の終幕(おわり)

たとえ、虚構(まやかし)でも――

コッペリア > 『あ……』

少女は血を吐く

『そう……そうです。
 正義は、そうすべきなのです。
 苦しみに耐え、憎悪を殺し、理ではなく……愛と正義のために』

少女の顔に満面の笑みが浮かぶ。

『忘れてはいけません。
 正義を貫くのであれば。悪を貫くのであれば。
 最後まで、手抜かりなく手を抜かず。
 貫き通さなければいけないわ」

くすくすと死の間際に、少女が笑う。

「正義無くして悪はなく、悪無くして正義はなし。
 一度踏み入れれば、抜け出ることはできない底なし沼。
 ゆめゆめ、忘れずに。きっときっと、生きてね?』

くすくすくすくすくすくすと。
少女の笑いが響いていく。

『嗚呼……さようなら、愛しい貴方。
 さようなら、私。さようなら……みんな……』

『ラケル』 >  
――斯く、少女のままであった乙女の自叙に。
自叙に用意された都合のいい偶像、望まれた過去と未来の姿は。
絶えた命の骸を、貫いたままに――……背後から抱きとめる。

その顔もまた、伏せられていた。
愛し合うようでもある、ふたり。
震える手で、悪の顔を包み、撫でる。愛しむようでもある手つきで。

……その末期の(かお)を、確かめる。

『ラケル』 >  
この死もまた、偽りの結末。
未だ動く心臓に、どうしようもなく逃れ得ぬ我執が付きまとう。
なれど――

(……感じるだろう、シャンティ)

視えぬその目に、しかし、耳目より悟れる世界を与えられた少女であれば。
彼女自身の領域である、この灰の劇場を満たす愛のベクトルを。
観客を魅了せしめた、一瞬でも魔王を凌駕し得たみずからの存在を。

(キミという存在(にんげん)が、嫉妬と羨望の化身であっても)

みずからの根幹を成す、()
それは往々にして醜く、薄汚れているもの。
源点をたどり、みずからと向き合えば向き合うほどに
耐え難く受け入れがたき()をまざまざと見せつけられる。

(成し遂げてみせれば、英雄なんだよ。……まえから、言ってるだろ?)

――無人の劇場(ここ)で、出逢った時から。

うなされるような苦しみと、血を吐くような痛みからしか、
導けなかったものが、ここにある。

善や整ばかりが尊ばれるべきだなどと。
悪や否がすべて拒まれるべきだなどと。

――だれが決めたんだ。

(いちばん大切なのは……)

『ラケル』 >  
 
  
――そっと……
死に顔を撫でる手は、上に。
その美しい髪に指を通し、額へ。

死の静寂のなかで、観衆に晒される。
 
 
 

コッペリア >  
薄汚れた想いと、濁りきった悪行に染まりきり
最早物言わぬ姿と成り果てた少女

その顔は
やり遂げた満足と
たどり着いた得意と
すべてを出し切った安堵で

笑顔で満たされていた

その死は美しいといえるのか
答えは、貴方の胸の内に――

『ラケル』 >  
――そして。

静寂を突き破るオーケストラ・ヒットとともに。
少女を繋ぎ止めた白銀の楔が、勢いよく引き抜かれた。
鮮紅の飛沫とともに、ぐらりと傾ぐその亡骸も。
愛しい面影の傷を宿すばかりの、正義の偶像も。

倒れ伏す姿は、映し出されることはなく――

すべての照明が落ちる。

『ラケル』 >   
一瞬のうち、数百年の時が流れたように。
闇に呑まれた劇場は荒廃していた。
いつしか欠け落ちた天井から滑り降りる、かそけき月明かりだけが、
演者たちが忽然と消えた劇場に、観客を取り残した。
余韻の残響のなかで――

ぎぃ、と静かにきしむ扉が、ただただ悲しく終演を告げる。

『ラケル』 >  
 
 
 
Il morte di Coppelia(人形の終幕)
 
 
 
 

『ラケル』 >  
 
  
その生き物は死してのち、灰より再び生まれ出でる。
あらたなはじまりは醜き(むし)の有り様で。
しかし眩き宝石をその身に宿しているという。

みっつの夜を経て、それはふたたび舞い上がる。
 
 
  

『ラケル』 >  
 
  
最後の不死鳥(フェニーチェ)の再誕をもって、
『灰の劇場』はその役割を終えた。
 
 
 

『ラケル』 >  
 
―――――。
 
 

『ラケル』 >  
そうして。
一夜限りの影の劇団は、這々の体で倉庫街へと落ち延びる。
ド派手な脱出マジックも、種も仕掛けもある手品。
この時代における基準の奇跡と魔法などではない。

今宵の仕掛け人は、ざわざわと後始末にどよもす集団のなかで、
わずらわしげに眼帯を外して、髪をほどいた。
毛先からもとの紅に染まっていくそれをゆすり、出入り口を振り返る。
玉の汗と火照った体をしずめるために、頭からペットボトルの水をかぶりながら。
今宵の主演の帰還を待った。

コッペリア >  
「……ふ、ぅ……」

ふらり、ふらりといつもよりなお覚束ない足取りで、女は現れた。
先程までの人形でもなく、悪の魔女でもなく。

唯一人の人として

「……あぁ……」

どこか遠くを見つめる女。
その視線の先は、先ほどまであった劇場の跡地の方面

「終わ、って……しま、った、わ、ね……
 貴方、は……よか、った、の……? あれ
 ま、だ……使う、道も……あった、はず、だ、けど」

『ラケル』 >  
「…………」

ぽたぽたと、雫がコンクリートの床に落ちた。
熱帯夜に染みる冷たさに、前髪を雑にかき上げながら、彼女のほうに。

「そりゃあ……使い道ならいくらでも思い浮かぶケド。
 いつまでもしがみついてるわけにもいかないだろ?」

並び立って、あちら側を観る。
名残惜しむという感情はなく、誇らしげに。
今や居心地のいい古巣だ。だからこそ――留まってはいられない。

「十分世話になったし。『灰の劇場(あそこ)』のおかげで、ボクもここまで来れた。
 だから最後くらいは、真の主役を迎えて全うさせてやりたいっていう……
 ……まァ、ボクなりの恩返し、かな」

少し照れくさい話だが。そう語った後、ひょい、と手のひらをさらした。

「ん」

コッペリア >  
「……」

汗一つかかない女は、涼しい顔で立っていた

「そう……

口にすれば、いくらもの言の葉はあろう。

そのどれもを口にせず、ただ一言を紡いだ。

「……あら」

くすり、と笑って手を差し出す。
小さく、ぱちり、と乾いた音がした

『ラケル』 >  
一夜限りの共闘相手(ダンスパートナー)に。
敬意とねぎらいの表明は、しかし軽く。

「……フフフ」

おかしくなって、肩が震える。
ずいぶんハイになっている。
まあ、そこらがすでに酒臭いし、魔王様もとっくに出来上がっている有り様だ。

「それで?」

視線を向けて、合わせて。

「満足した?」

導くように、すい、と一点を促した。

コッペリア >  
「……」

視線を向けた先に、それはいた
極星 傑作 魔王
あらゆる賛辞が あらゆる畏怖が指し示すそれ

「ほん、と……嫌味、もなく、嫌味、な……人。」

小さく肩をすくめる

「貴方、付き、あう……人、は……考え、た……方、が……いい、わよ?
 だい、たい……脅、かされ、てる……じゃ、ない」

くすくすと笑った

『ラケル』 >  
「なに言ってんの。
 想像の上を行ってくれるヤツと付き合うのが面白いんだろー?」

なァ~?って、その鼻先を指さして。

「またくれよ。
 今日みたいな、今日以上の、ビビっちゃうほど眩しいヤツ。
 ボクは待つことはしないケド、まだいけるんじゃないか」

ぐっと伸びをした。
ひとつを超えれば、また次に。
進み続ける人間は、そんなふうに物を言って。

「じゃないと、ミカエラに一芝居打たせた甲斐もないしな?」

コッペリア >  
「どうやら、私の敵は貴方のようね?」

虚ろの少女が凄惨な顔をする。
魔女もかくや、というその表情も一瞬で消えた。

「なん、て……」

鼻先を指差す

「ね?」

くすくすと笑った

『ラケル』 >  
ざわりと周囲を騒がすほどの、役者ぶりに。
ぱちりと面食らってから、獰猛な肉食獣の笑み。
 
「……おや今更?」

おっと、指にはと顔をのけぞらせたりして。

「この世界は、全員(ライバル)だぜ。
 座る卓は違えども、パイとケーキの奪い合い。
 せいぜいお互い喰われないように、貪欲にいこうじゃないか」

――さて。
その細い肩をぐいと抱いて、輪のなかへ。
賑わしいのもこういうのも得意ではないだろうが、これは勝者の責務。

「――ほら!未来の悪の華(カリスマ)のお出ましだ。
 シャ~ンティ、キミも今日くらいは飲んだり食べたりしなってば!」

悪ふざけは、未だ止まらず。

コッペリア >  
「私……乗る、とは……言って、な……いけれ、どぉ?」

そういいながらも、女は輪の中へと連れ込まれていく。
悪の華は、いつか花開くことがあるのだろうか。

「こう、いうの……得意、では……ない、の……だ……」

抗議の声もどこかに消えていく。
その日の喧騒はどこまでも賑やかで華やかであった
そして幼気で、悪ふざけのすぎる時が過ぎていった

ご案内:「『Il morte di Coppelia』」から『ラケル』さんが去りました。
ご案内:「『Il morte di Coppelia』」からコッペリアさんが去りました。
ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」にDr.イーリスさんが現れました。
Dr.イーリス > 新しく風紀委員会ゴミ処理係となったイーリス。
今朝に《フェイルド・スチューデント組》を率いて落第街のとあるごみさん(超常犯罪者)を捕えて、そして今は昼間。
イーリスは、ゴミ処理係の仕事場のPCの前に座っていた。

「手付かずの案件……結構あるではないですか。やってる感……確かにちゃんと処理されている案件もありますけどね」

ゴミ処理係は、超常犯罪案件をかなり押し付けられているみたいなところもある。
一つ一つ処理していくのも大変なので、やってる感を出す方向になるのも理解できなくもない側面はある。

Dr.イーリス > 「超常犯罪案件だけに、結構酷い事する方々ばかり……むむ」

コーヒーカップにお口をつける。

「この案件、人が凄く亡くなってます……。こっちの案件、風紀委員の被害が凄いです……。あの地区で火事が多発していたのは、この方の仕業ですか……。この案件は紅き屍骸、こちらの案件はギフト騒動に関連していますね」

なんとかしたい案件中々多い……。

Dr.イーリス > モニターに映る資料を見ていると、イーリスはある人物に目が止まった。

「指名手配犯……元風紀委員の朱宮蓮雅さん。罪状、同僚への殺人未遂、加えて風紀委員が数名行方不明。この方、赫さんですよね。落第街で暮らす方々は何かしらご事情があったりしますからね。幸い、ゴミ処理係の案件として取り扱われているわけでもないです」

イーリスは、法より人情で風紀を正す風紀委員。赫さんとは『数ある事務所』で共に暮らしていて、人となりはよく知っている。元より、『数ある事務所』は匿うという役目もある場所だ。
風紀委員の立場から、それとなく赫さんをフォローできる方法もあるかもしれない。
とりあえず今は見なかった事にして、閉じた。
ドーナツを美味しく齧った。

Dr.イーリス > モニターを見つめて、また少し気になる人物。
これはごみ処理係の案件だ。

「魔法少女マリアさん……。落第街にて、不良や風紀委員問わず魔人扱いして襲撃した疑惑……。と、とんでもない魔法少女さん……。これはあれですね、お薬きめてしまって妄想にとらわれているみたいな感じかもしれません」

イーリスには医療知識があった。
内容を見てまず疑ったのは、薬物。本人に会ってみない限りは、何も分からないけれど、案件でもあるし出動してみようか。
落第街には、薬物の類がとても出回っている。最近も、蒼先生とイーリス達《フェイルド・スチューデント組》で《廃品神隠(ディスポータル)》なる麻薬王を捕まえている。

Dr.イーリス > 「さて、そろそろ『数ある事務所』に依頼なされた依頼人さんに会う時刻が近づいてきましたね。お屋根の修理でしたか」

スマホを取り出して、予定をチェック。
イーリスには風紀委員会ゴミ処理係としての顔だけではなくて、便利屋『数ある事務所』としての顔もある。
今朝処理した案件の報告書も提出済み。

「お屋根修理の依頼を達成した後に、魔法少女さんの調査を始めてみましょうか。少し忙しい一日になりそうです」

魔法少女さんの案件に関するデータをイーリスの体内コンピューターにダウンロードしてからPCをシャットダウンし、風紀委員会本庁を後にするのだった。

ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」からDr.イーリスさんが去りました。