2024/09/17 のログ
『凶刃』追影切人 > 「――何でも何もねぇよ。”雑念”が混じって斬り損ねただけだ。」

淡々と無感情に語る。…無意識だろうと、ソレのせいで刃が鈍ったのだと認めたくはない。
だから、余計な雑念があったのだと…己に言い聞かせるように。感情なんて刃に必要ないのに。

――【凶刃】の行き着く末路は鏖殺の刃。敵も味方も、思いも感情も置き去りに最後は全て斬る事に帰結する。
それは間違っていないし、男は今もその道を進んでいる…止まる事も逸れる事も無い。

「――うるせぇこの馬鹿女。…今更嘆いても遅いんだよみっともねぇ…。」

左手の刃を握り直す。ずるずると右足を引き摺ってゆっくりと進む。止まる事は有り得ない。
斬る事に変わりは無いしそこにブレは無い…だが、この結果を招いたのは己の無意識のブレ。
自分に芽生えたクソ甘さが憎たらしい。異能でもソレは殺せないのが腹立つ。

――彼が斬ったのは弟切夏輝の肉体ではなくその心。それを彼自身は気付いているだろうか?

そして、周囲から聞こえてくる喧騒に舌打ち。…余計な応援が来やがった。深見と吉崎が連絡したのだろう。
やがて周囲を取り囲むように現れた風紀の連中が銃などを構えてアイツを取り囲む。

「…おい、テメェらは手を出すな。そいつは俺が仕留め――…。」

体の力がガクンと抜けた倒れそうになる。が、反射的に左手の”七ツ胴”を地面に突き立てて凌いだ。

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
 
 
(――逃げたい
 
 
 

『逃亡者』弟切 夏輝 >  
ゆら、と動いた体は、懐から拳銃を取り出す。
量販品の自動式だ。弟切夏輝の早撃ちにはとうてい耐えられる代物ではない。
それでも――機械のような速射が、数珠繋ぎに銃声を響き渡らせる。
まず危険な風紀委員の持つ銃を瞬く間、叩き落として、

「……『アリアドネの糸』、わたしを、導いて……」

うめくようにして、呟く。
瞬間――地面が崩落した。生きている水道だ。水が間欠泉のように吹き上がり、がらがらと地下へ崩れていく。
迷路のように張り巡らされている落第街の地下。刑事部からすれば庭のようなもの。
巻き込まれていくものたちも、踏みとどまるものたちも、死ぬことはないだろう。

「―――――」

膝をふらつかせる切人に、水の紗幕ごしに向けられた貌。
掠れた血にべっとりと汚れたその表情は、
嫉妬と、羨望と、悲哀と、怒りと――友誼とが、綯い交ぜになった鬼相。

その体は迷わずに地下へと身を投げ、そして鼠のように逃げ果せる筈である。
急なる沈下の混乱に、対応できた委員もいようが――弟切夏輝は、此度も逃亡した。

ご案内:「落第街 廃墟ビル群」から『逃亡者』弟切 夏輝さんが去りました。
『凶刃』追影切人 > 「――ふざけんなテメェ……オイ。」

そんな表情を俺に向けるんじゃねぇ。舌打ちと共に、踏ん張って彼女に斬りかかる…事すら出来ない。この体たらくが…!!

「…テメェ、こら…待ちやがれ……夏輝…!!」

その声もむなしく、崩落した地面に彼女の姿と何人かの応援の風紀が巻き込まれる。
…死にはしないだろう。だが、彼女がそのまま逃亡におそらく成功はするのが馬鹿な男にも分かった。

崩落する地面に男も巻き込まれ掛かるが、その前に応援の連中が男の体を支えて落下を阻止した。
礼を言う気力も無い…むしろ邪魔だ。斬り殺し損ねたし逃がした。アイツは―――…

「あの馬鹿、もう逃げ道もねぇだろうがよ……。」

彼女の末路をぼんやりと悟ったように。それでも、周囲の気遣いを無視して刀を引っこ抜きつつ。

「――テメェらはさっさとあの馬鹿の後を追えよ。報告とか怪我の処置は自分で何とかする。」

そう、声を掛けつつ周囲の声も無視してズルズルと足を引き摺って歩き出す。

一度だけ、崩落した地面の辺りを隻眼で一瞥――その表情は陰に隠れて分からない。

「――悪ぃな……あの馬鹿の事は任せたぜ。」

この場に居ない、そして彼女を良く知る”誰か”に後は託すしかない。自分の出番はここまでだ。

「……本当、どいつもこいつも…俺自身も…面倒臭ぇ…な。」

そして、倒れた。慌てて風紀の何人かに担がれて医療施設へと運ばれながら、男の意識は闇に落ちる。

ご案内:「落第街 廃墟ビル群」から『凶刃』追影切人さんが去りました。