2024/09/25 のログ
ご案内:「ポイントK3-ビル屋上」にレイチェルさんが現れました。
レイチェル >  
屋上に吹く風はその冷たさを増して。
やけに肌寒く感じられる。
少し前までの暑さが、嘘のようだった。

その風の中で、クロークを靡かせて立つ、一人の女。
レイチェル・ラムレイの姿が其処に在った。
あたたかな女の眼が、冷たい機械の瞳が。
その、一部始終を見届けていた。

『上手くいった……ようですね……』

狙撃手は、構えていたスナイパーライフルから手を離すと、
安堵の息を漏らす。
まるで眼下の二人が話している間、ずっと息を止めていたかのような。
それ程までに大きく、深い息であった。

「ああ。
 危険な橋を渡る作戦では、あったがな。

 夏輝と、風紀委員個人を引き合わせる。
 
 立案した時は、流石に上も、渋い顔見せたもんだが……
 それでも、な。
 話がしたいって、凛霞(本人)たっての希望がありゃ、
 上も、オレ達の我儘を通してくれるってこった」

狙撃手へとその双眸を向け、
レイチェルはふ、と微笑んだ。

レイチェル >  
『これで、良かったんですね……きっと……良かった……』

撤収作業が始まる中で、レイチェルの隣に居る狙撃手は未だに手が震えているようだ。
当然だ。世話になった相手を照準に捉えて、冷静で居られる者はそう居ない。
どれだけ訓練を積もうが、人である限りは。

「良かった、か……」

レイチェルの通信機器にも、
各ポイントから歓声やら、安堵の声やら、様々な言葉が聞こえてくる。
眼を閉じた後、黒の眼帯を再び着ければ、いつも通りの彼女の姿が
次第に明るさを帯びてきた空に浮かび上がる。

「そう、単純な話でもねぇさ。
 こいつが良かったかどうかは、これから決まることだぜ。
 
 夏輝や、凛霞や――オレ達自身。
 そして、風紀委員会。
 この件に関わった奴ら、関わっていく奴ら。
 皆で、一緒に決めていくことじゃねぇか」

風に靡くクローク。
再び装着された眼帯のせいで、
狙撃手からは彼女の表情がやはり見えない。

レイチェル >  
『ところで、どうしてあの時……狙撃を止めさせたんです……?』

夏輝が、銃を抜いた時の話だ。

実のところ。
凛霞が制止を呼びかけるよりも前に、
レイチェルは既に狙撃へ狙撃を中止するよう連絡を飛ばしていたのだ。

その制止は、凛霞が重ねた力強い制止により、確実なものとなって
その場に居る全員に届いた。
結果的に、放たれる筈の弾丸は一発たりとも放たれることがなかったのだ。

「信じてたからだよ」

ただ一言、レイチェルは放った。

『信じてた、って……
 凛霞さんを? ……夏輝さん、を……?』

問いかけに対して、レイチェルは一つ、伸びをする。
その後に、一つ息を吐いて、こう言うのだ。

「……さぁて、な?」

レイチェル >  
「さ、こっちは撤収だ撤収。
 オレ達も橋の上に向かうぜ」

眼下の様子を見守りながら、
胸の下で腕を組むレイチェルは、穏やかな声でそう口にする。

「……迎えに行こうぜ、皆で。
 
 そろそろオレ達の功労者も、泣き出す頃だろうからな」

クロークを靡かせて困ったように笑うと、
レイチェルは屋上を去っていくのだった。

『レ、レイチェルさん……』

狙撃手の視線の先には、目を静かに閉じている女の顔。


眼帯の下の表情(感情)は――誰も、知らない。 
 

レイチェル >  
季節は巡る。
夏の音が去り、秋の風も過ぎ去り。
いつか、破滅的な贖罪はやって来る。

誰かがそこに置き去りにされても、世界はお構いなしだ。


それでも、残るものは。
残せるものは、必ずある。

そう信じている。

――だから、此処に居る。 
 

ご案内:「ポイントK3-ビル屋上」からレイチェルさんが去りました。