2024/10/19 のログ
ご案内:「Free2 第二方舟」に挟道 明臣さんが現れました。
■挟道 明臣 >
【9/25 10:23】【適合値:002%】【浸食値:2】【警備室~】
ノブも取っ手も無いその扉は、リストバンドの認証を得て僅かな音と共に開かれた。
ランクD、黒い水に変貌したであろう職員から拝借した遺品。
セキュリティクラスが何分割されているのかは定かで無いが、
順当に頭から数えるならそう自由の利くものでは無いのだろう。
「これ適当な奴引っ掴んでも別に変わら無かったんじゃねぇの……」
ふと徒労感にも似た感覚に襲われて独りごちる。
が、状況が状況なのだから確実な選択をするに越したことは無いのだろう。
適当に掴んだものがゲストキー、なんてことがあったら目も当てられない。
「ま、何処まで行っても結果論……と」
敷居を跨ぐ。
居並ぶ大量の小型モニターに映るのは施設内の監視カメラの映像だろう。
それらが見渡せる位置の簡素なテーブルには、生活感のある軽食の跡とメモの束。
それから────地に広がる2つの黒い水。
二人分の、命の跡。
「……すまん」
その傍らに膝をつき、短い言葉と共に乱れ落ちた衣類に手を伸ばす。
謝罪の言葉など誰にも届かずとも。
自己満足に過ぎない形ばかりの礼節。
ただそんな自己満足が、未だに自分を人たらしめている。
■挟道 明臣 >
【9/25 11:39】【適合値:002%】【浸食値:2】【警備室~】
随分と時間を食った。
が、その割には結果は芳しくない。
黒い水の中から拾い上げたリストバンドはいずれもDランク。
辛うじて使えそうな物といえば高出力のフラッシュライトくらいのもの。
一緒に出てきた物に職員証明もあったが━━
「警備員は内部職員、自販機も標準搭載機能すら意図的に外されてっし。
物資の調達なりはさすがに外部頼みだろうけど、管理は見事に身内完結ってか」
……真っ黒な気しかしねぇんだよなぁ。
うちも他所の事を言えたような所じゃないけど、だからこそ感じるこの異質さ。
本命とばかりに外部への通信を試みたが、これがどうにもならない。
システムが施設内の限定されたネットワークの内で完結している。
いや、しすぎている。
思い当たる限りの手段で一方通行の救援要請も試してはみたが、恐らくこれも無駄だろう。
手持ちの端末があったとしても、完全に電波が遮断されている可能性すらある。
ほぼ収穫無しと言っても差し支えない。
視線をモニターに移せば、エントランス周辺には変わらず人の群れ。
騒いでも助けは来ず、職員を問い詰めようにも真っ先に溶けて黒い水になり果てていく。
時間が経つにつれ打開策を求めて行動する者と、現状維持の為に集団で残る者がはっきりしていく。
何かあったかと頻りに問われもするが、こちらとしても首を横に振る事しかできない。
試行錯誤も虚しく、じれったい時間だけが過ぎていく。
その間も別のエリア、本格的な施設内部の映像は静と動を繰り返す。
逃げ惑い、あるいは打開策を模索する職員と思しき人影。
いつの間にかゲートを突破して単独行動を取る幾人かの生徒。
そして━━
「何なんだアレ……」
通路を徘徊する人の形をしたナニカ。
百足じみた無数の小さな脚で地を這う者、頭部が肥大化して獣の口のように開いた者。
それだけではない。
もはや原型を留めていない、異形としか形容できない者すら時折映りこむ。
たまたま映った職員との接触を見る限りでは、殺意100%の殺戮ぶり。
いや、そもそも意思という物を感じない。
区別も差別も無く、シンプルな暴力で地面に赤い水溜まりを残していく。
■挟道 明臣 >
【9/25 11:52】【適合値:002%】【浸食値:2】【休憩スペース~】
適当な椅子に座って天を仰ぐ。
リスクも取らずに早々に脱出してしまうのが理想だったが、総崩れである。
暫しの熟考。
お手上げ宣言で出口が開くならそれでも良いが、そうはいかないなら思考の整理だ。
「職員達も血は赤い……んだよなぁ」
映像の中で無残に刈り取られた命は、黒い水になることなくそのまま転がっていた。
黒い水へと変化する前であれば、俺たちと何ら変わらないただの人だと主張するように。
不可逆のラインが、あるのだと。
認証キーも兼ねている辺り、リストバンドのメモリは平時からその致死圏を超えるような事は無いのだろう。
だとしたらあの黒い水は何だ?
順当に発表されている通りのモノであれば、神性研究の副産物かあるいはそのものか。
安全に管理する手段の確立できていた物が何らかの要因で暴走したのか。
何にせよ、好き好んで触るもんでも無い。
現状を見る限り、職員側からしても明らかに非常事態なのは間違いないのだろう。
なら、そもそもこの現状は何処から何処までが施設側にとっての想定通りだ?
これだけ厳密に外界と隔たりを持つ施設が、様々な理由を付けてまで人を招く理由は何だ?
治験、成果発表、その他諸々。
それらの全ての人間に徹底してリストバンドを装着した、その意味。
ただの許可証にしては手が込み過ぎてるだろう。
「適合値……」
恐らくは、研究対象に対してなのだろう。
幸い俺の場合は大した事ないが、これが高かったらどうなる。
いや、違う。
高い人間を、どうする?
実験への適正ありとしてスカウトでもするのか。
あるいは━━
「いや、無いな……」
この手の研究に狂った奴らが上物の材料をみすみす帰すとは思えないとはいえ、
流石に考えすぎ。タチの悪い妄想が先行しすぎているだけだろう。
万が一。万が一にもそうで無ければ、そう。
そんな奴らはいない方がいい
物騒な思考が頭を過ったその瞬間。
ヒタリと、背に何かが触れたような感覚があった。
跳び起きるようにして確かめるが、手に触れる物は何も無い。
ただ眼を塞がれるように無窮の闇が広がって、ブラックアウト。
━━そこには数多の星があった。
■挟道 明臣 >
【9/25 12:16】【適合値:002%】【浸食値:3】【休憩スペース~】
「繧「繝ャ縺ッ譏溘↑繧薙繧縺倥縺縺」
……駄目だ、思考が繋がらない。
整理するどころか、積み重ねた端から崩れて発話すらままならない。
掲げた掌を握ってみる分には身体機能に異常は無し。
何かを考えていた。
気がする。
何かを許しがたいと
断じタ。
気が🅂る。
眩暈がする。立ち上がった筈なのに揺れて、揺れて。
酷い偏頭痛に似た感覚に、自販機から吐き出させた飲料を氷嚢替わりに頭に押し当てる。
気が付けばリストバンドのメモリの表記が一つ増えていた。
■挟道 明臣 >
【9/25 12:30】【適合値:002%】【浸食値:3】【休憩スペース~】
呼吸を整えて、一つずつ。
散らばった思考と記憶を拾い集めていく。
(これは、大人しくここらで待ってりゃどうにかなるモンではないか)
連絡が取れなかった以上外からの救助はあてにならない。
施設丸ごと蓋して焼却処分して綺麗さっぱりオールグリーンって言われても不思議はない。
嫌すぎる経験則だが。
自力で出るなら高ランクのセキュリティをどうにかして拾う他無かろう。
元凶を叩く、ってのは文字通りの殴る蹴るが通じる相手ならともかくとして、
単独で成し遂げるのは現実的とも思い難い。
そもそも、それで既にぶちまけられたこの被害が収まるかと言えば恐らくNO。
「あ、あー」
徐々に、繋がっていく。
言語と、思考と、感覚と。
吐き出す音と、思考したセンテンスが合致し始める。
一時的な麻痺。妙なモンを受けて脳がショートしたような感じが徐々に薄れだす。
「……行くか」
足を向けるのは研究エリアに繋がる唯一の通路。
警備員でランクがDなら、どこまで潜る必要があるやら。
膂力だけで人を捻りつぶす化け物が闊歩している危険地帯。
だが、寧ろ目に見える脅威なぶん幾分かやりやすくもあるだろう。
扉越しに聞こえてくる悲鳴と破砕音。
「━━楽しくなってきた」
溜息を飲み込み、代わりに強がりを一言吐き出して。
可視光線の申し訳程度の消毒作業を受けて男は歩き出す。
【9/25 12:56】【適合値:002%】【浸食値:3】【~研究エリア】
ご案内:「Free2 第二方舟」から挟道 明臣さんが去りました。