2024/11/01 のログ
ご案内:「未開拓地区-Assault Waves-」に橘壱さんが現れました。
ご案内:「未開拓地区-Assault Waves-」に鶴博 波都さんが現れました。
■ロベンツ・カーティマン >
常世島。未開拓地区路線。
各所を巡る常世路線の一つであり、現在路線を走る車両は一台。
堅牢なコンテナ車両を繋げ、先頭車両自体も強固な緑の装甲を身に纏っている。
所謂装甲車両と言われるものであり、各車両には勿論武装されている。
此処は次元が安定せず、『門』より多数の魔物が出揃う事も多い。
それこそ明確な目的がない限り、誰も寄らない危険地区。
そんな広大な荒野を風を切り、重厚な鋼が鉄を打ち鳴らす。
『────◯◯現在。運行に支障無し。次元状況も安定中』
先頭車両操縦席。
無数の電子機器パネルとモニターが点滅する最新鋭操縦室にて、
運行記録を定期的に取っているのは茶色のちょび髭に茶髪の青目の英国人。
ロベンツ・カーティマン。鉄道委員会所属の学園関係者だ。
様々な機械マシンに精通し、鉄道委員会では古株値するベテラン整備士だ。
今回は、未開拓地区の遺跡群の調査及び周辺調査をしている生活委員会を筆頭にしたチームへの物資補給だ。
特に此処は良く言えば異界の入口が広がりやすい場所。
そういうのの供給源となる地球にはない物資の確保等のため、
この危険地区に居座って作業をする各種委員会は少なくない。
そういった彼等を支援するのも、また各種委員会の役割だ。
「……装甲車両『緑桜』には慣れましたかな?鶴博運転士」
隣りにいる波都へと向け、ロベンツが尋ねる。
今回はその能力、運転能力を見込まれ、"実戦への慣れ"として、
彼女がこの装甲車両の操縦を任せている。ロベンツ含め、
この車両の管理等をしているチームも皆、波都を含めた新人と半々となっている。
「それとも、壱殿がいるからご安心でしょうか?
お二人の噂はかねがね聞いておりますよ。ふふ……」
なんだかわかってますよな雰囲気を出している。
■橘壱 >
『──────どんな噂ですか、ロベンツさん。波都先輩に失礼ですよ?』
運転席のモニターに呆れ顔の壱の姿が映る。
その素顔に眼鏡はなく、鋼鉄に覆われ顔はホログラム光に照らされている。
既にこの装甲車両の中央。格納車両にて自らの愛機を着込み、待機中だ。
壱を含めて、数名の風紀委員は万一に備え、待機している。
『そう言うんじゃないですよ。ねぇ、先輩?
ところで、本当に緊張してまんせか?
こっちの線路を通るのは余り無いって聞いてましたけど……』
それこそこういう目的でなければ使われなさそうな路線だ。
今は状況が安定しているとは言え、何時覆るかもわからない。
緊迫とはいかないが、緊張感は車両全体に張り詰めているだろう。
気遣うような碧の双眸が、モニター越しに波都を見ていた。
■鶴博 波都 >
「声だけで失礼しますね、ロベルト先輩。今回はありがとうございます。
ちょっとやんちゃですけど、とても良い子です。」
操縦席から電子機器を見渡しながら応答する。
無数の計器を見つめながら、事前に読み込んだマニュアル通りに車両を操縦する。
極力マニュアル通りに動かすものの、時折それを外して路線の機嫌を伺う様に速度を弄る。
ほんの少しだけ、彼女の素養から来る手癖のようなもの。
「ふたりのうわさ……?あっ、今のは橘さんのことじゃなくて、この子です。緑桜。
根っこは素直……もとい、人の動かす設計とUIですけれど、初めて見るパラメータも多いですね。」
天然と言うよりかは操縦に気が行っているのか、揶揄うような素振りはさらりと流す。
『仕事』として車両を繰る鶴博の姿は、真面目そのものだ。
「ありがとうございます。橘さん。初めてですけど、路線は路線です。
ここに路線があって、この子が居る。その意味さえ理解すれば、運転だけなら大丈夫です。」
生きものの様に装甲車両を動かし、未開拓領域に敷かれた道の意図を汲みながら進む。
その横顔には、一点の不安や乱れもない。
集中とも自然体とも取れそうな平静な表情で、普段のなつっこさがなりをひそめている位だ。
■ロベンツ・カーティマン >
「流石の胆力ですな。
緑桜の運転士に選ばれたのも理解できます」
余程人材不足に喘いでいる組織ではない限り、
この運転士に選ばれるのは強制ではない。
能力はあっても、危険な仕事を、命をかけるというのは、
文字通り簡単なことではない。表に見えない彼女の緊張。
まるで車両と一体化しているような安定した操縦。
ベテランの眼にも、彼女の"才能"は確かにありありと見えていた。
「ふふ、ご冗談ですよ壱殿。
とは言え、現状現地の魔物影も無し。
このまま安全運転でも出来れば……」
\ビーーーーーーーーッ!ビーーーーーーッ!/
……無論、そうは問屋が卸さない。
全車両に鳴り響く警告音。敵影ありのALERT。
レーダーには複数の敵影。荒野の魔物を捉えている。
モニターに拡大表示されるのは頭部に王冠を模様を刻まれ、
強靭な鱗に包まれたヘビ型の魔物。
小さな王と呼ばれる事もある魔物だ。
その名前に似つかわしくなく、1m前後はある全長だ。
その凶暴性と毒性により、問答無用で襲いかかる。
蛮勇な気質でもあり、例え装甲車両でも関係なく襲いかかってくる。
「……とは、行きませんものですな。
第一種戦闘配備!各種砲座、機銃用意!
此れより緑桜は戦闘態勢に入る!!
全員、衝撃に備え!各防衛部隊は出撃準備!!」
鶴の一声のように車両に響く張り上げた声。
各員が忙しなく配置に付くと同時に、緑桜も姿を変える。
全車輪が横転し、路面を"浮く"磁力走行形態。
車両の足場から反発力の高い反磁力を放ち、より高速で動ける形態だ。
「早々に始まってしまいましたな、鶴博殿。
とは言え、ご緊張なさらずに。ただ、気をつけてください。
今の状態はより敏感となります。貴女の仕事は、
無事合流ポイントに到着すること。……この形態なら、多少の脱線はしても走行可能です」
「マニュアルに書いてあったとは思いますが、
電磁力計器には気をつけてください。
余りはしゃぎ過ぎると、横転します」
ホログラムモニターを指でなぞり、全車両の状況把握。
主な指示出しはロベンツが責任を取る形だ。
「運転士であれば、今更預かる重みを説きますまい。
鶴博殿。"特急"でお願いいたしますぞ」
一般車両も決して、"万一"が起きないわけではない。
そのハンドルの重みは、恐らく彼女が誰よりも知っている。
緊張を紛らわすためだろう。ロベンツなりに、冗談めいた和やかな指示だ。
■橘壱 >
『あ、はい。そ、そうですか』
自意識過剰だった。すげぇ恥ずかしい。
思わず引きつった笑みを浮かべてしまった。
落ち着け、そりゃそうだ。こんなもんだ。
オタクがそう簡単にモテるわけないだろ。
後ろの方で同じく待機している喜一先輩と伊達先輩が笑ってる。
人の失敗を笑うんじゃないよ、と肩を竦めた。
さて、ありがたいのやら面倒やら。
そんな失敗の空気は大量のALERT音にかき消される。
さっきまで妙な空気だったが、三人の風紀委員の表情は一瞬で引き締まった。
『────了解。波都先輩、お気をつけて。
大丈夫ですよ、僕等が必ず守りますから』
それだけ告げると同時に、モニターの向こう。
格納車両の隔壁が開き、暴風の音がスピーカーを劈く。
蒼白の鋼鉄の機人、パワードスーツ「Fluegel」。
企業の威信が詰まった最新鋭機。青白い一つ目を光らせ、
背面のメインブースターに徐々に青い光が灯り始める。
『橘壱、Fluegel。出ます!』
爆音と共にメインブースターが火を吹き、
青々とした荒野の空へと鋼鉄の翼が羽ばたいた。
同時に、小さな王の群れに、既に手に握っている大型火器。
筒状に黒光りする携行バズーカが爆音を放ち、乾いた大地に土煙と火が立ち込める。
開戦の狼煙だ。この分厚い走行の向こう側。
運転席に座る波都が、本来聞くことも無いような非日常の音が響き初めた。
■鶴博 波都 >
「これでも鉄道委員ですから。
みんなの役に立つことに、迷いはありません。」
一年半。
鶴博 波都が常世島で生活し、鉄道委員として日々を過ごしていた時間。
その期間で自身の才能を遺憾なく運転技術に注ぎ込みながらも、
憂い煩うことなく陽の当たる世界で過ごし続けてきたものが鶴博 波都。
恵まれてた環境で育まれた才能を遺憾なく発揮し、その片鱗を見せつける。
だが、事はそう易々と運ばない。警報機が『ビーーーーーーーーッ!』とけたたましい音を鳴らし、危機を報せる。
「!………っ。」
流石の彼女にも、動揺はある。鶴博 波都は一般の鉄道委員だ。
ただ、その動揺が運転に反映されていない。させていない。
才覚とも矜持とも言える気合で、警報を受けて慌ただしく動く状況に流されることなく運行を続ける。
全身から湧き出た汗は、間違いなく彼女の動揺と緊迫を示す現象だ。
「──わかりました。これより"特急"で運行いたします。
頼りにしていますね。壱さん。つるはく はと、行きます。」
冗談はあんまり通じなかったのか、緊張や動揺は解かない。
とは言え、頼もしい味方が居ることを自覚したのか、怯懦の感情は拭われた。
(だいじな機体、預からせてくださいね。)
大きな呼吸の後、"磁力走行形態"となった装甲車両を流れる様に繰る。
何故、緊急時のみこの形態を使用するかはマニュアルに書いてあった気がする。
少なくともそれだけの事態が起きていて、その必要性と重みを預かっている。
非日常、と言うのは、そういうものらしい。
「まずは焦らず。……これと、これ……センサーで状況を見て……」
AFの駆動音と戦火の音。
聞いたこともない轟音と鼓膜に響く振動で非日常を理解している。
過度の緊張と過度の集中を両立させながら、焦らずに路線通りに走る。
何がどう動くかは分かっていないから、まずは同じスピードで、変わらぬ運行。
バジリスクも、AFも、闘いも知らない。
何が起こるか分からないから、咄嗟の状況に対応出来るように車両を繰る。
■防衛隊 >
巨大な装甲車にさえ臆せず群れで襲いかかってくる魔物だ。
度重なる携行バズーカの砲撃程度で怯みはしない。
自分達の仲間が肉片に変わっても砂煙を上げて向かってくる。
寧ろ、足を止めてその肉片を貪り喰らう個体までいる。
『浅ましい程だが、返って狙いやすい』
風紀委員会所属三年生。喜一麻美は、ぼやくと同時に、
抱え込んでいる自身の愛銃から火を放った。
AFの持つ携行火器でないにしろ轟音と共に、獲物が見事な肉片に変わる。
大型の"対物"ライフル『スタッカート』。オーロラエンブレム社製の逸品。
ご覧の通りの重量であり、破壊力もそうだが連射も効く扱うものを選ぶ最早大砲。
左目に付けられたバイザーから送られてくる情報と、スコープを覗き込む右目が獲物を捉え、
一切の躊躇なく破裂音とともに魔物を肉塊へと変えていく。
吹きすさぶ車両の暴風が、彼女のブロンドヘアと制服を靡かせていた。
『喜一の姐さん、油断は禁物ッス!
壱さんがいるし周辺の次元状況は安定してても、
どっから魔物が来るかわかんねッスよ!』
一方でくりくり坊主の男子生徒伊達永吉は声を張り上げる。
彼の手元にあすノートパソコンは、周囲に飛ばしてあるドローンの遠隔操作。
並びに逐一喜一のバイザーに情報を伝え続けている。
二人は同級生であり、狙撃手と観測手のコンビだ。
この三年間ずっとコンビを組んでおり、息のあった連携により魔物を近づけさせない。
何時も通りと油断せず、緊迫の空気を保っていた。
■ロベンツ・カーティマン >
外では戦闘の音も激しくなってくる。
装甲車両にも武装はついているが、小回りの効く武装は殆ど無い。
周辺の防衛機銃を使うのは事実上の危険領域だ。
だからこそ、一切の油断はない。敵を近づけさせない。
此れは第一であり、狙撃手のAFのよる遊撃。そして……。
「一番二番副砲用意。撃ち方、初め!!」
前後車両に設置された二連装砲が轟音を立てる。
着弾と共に砂嵐が巻き起こり、
無数の爆風と弾幕により魔物は近づくことすらままならない。
此処を通る上で設計された車両。当然の火力だ。
砲撃の衝撃は車両に"直"に伝わり、
それは運転士である波都にも直にその操作盤を通じて伝わってくる。
「鶴博殿。もう少しスピードを出して結構です。
無論、無理のない範囲でお願いします。一番大事なのは、
横転を避ける事です。わかりますな?バランスを保つよう、お願いします」
普通の車両なら先ず無い戦闘、砲撃による衝撃。
勿論この程度で横転などするはずもないが、
車両のバランスは砲座側の命中に大きく関わってくる。
大げさな言い方ではあるが、車両への理解力がある彼女なら、
きっと"直"にそれを理解してくれるはずだ。
「(とは言え……現状は小物ばかり。このままならば切り抜け……、……!)」
それは、ほんの一瞬モニターに映った光だった。
本当に見逃しても仕方ないほどの一瞬だったが、
ベテラン鉄道委員会のロベンツはそれを見逃さなかった。
まさに、刹那の判断。間に合わないと悟った。
「左側に大きくハンドルをッ!!うおおおッ!?」
波都へと飛ぶ怒声。
瞬間、大地震と思えるほどの衝撃と爆音が車両全体を襲った。
■橘壱 >
モニターの向こうに映る魔物目掛けて、躊躇なくトリガーを切る。
携行バズーカ砲の重々しい砲撃。脚部コンテナについているミサイルポッド。
爆創兵器による絨毯爆撃による制圧。細かい部分は狙撃手に任せ、
車両の大型兵器と合わせた純粋な爆撃暴力だ。
圧倒的な火力を前に、目の前の魔物の群れは接近すらままならない。
『(……しかし、味気ないな。いけない、集中しないと……)』
淡々とトリガーを切る一方で、
此れは自らの望む闘争ではない。
内心何処か飽き飽きとした気持ちを押し殺し、
職務だと言い聞かせバーニアを前進させた。
砲撃では届かない細かい機動力を使い、砲撃を埋めるための弾幕だ。
合流ポイントまで半分を切った。このまま行けば……。
『……!?高熱源反応!?何だ!?』
不意に響くALERT音。
モニターの向こうで何か光ったと同時に、
既にFluegelは旋回し回避した。
同時に、空気を焼く赤い光。高エネルギーレーザーによる超長距離狙撃。
自然のものではない、人工的なものだ。一体何処から。
そう考える前に、レーザーは緑桜に直撃し、爆炎が燃え広がった。
『!?しまった!?』
前方の副砲及び主砲車両が派手に吹き飛んだ。
連結式の列車だ。あの衝撃は横転する。
事前に衝撃に対して緊急運動を取っていれば、横転は免れるが──────……?
■鶴博 波都 >
「わかりました。ロベンツ先輩。やってみます。」
音と振動にも集中して順応しながら、速度を上げる。
内心の緊張は、集中によって麻痺している。
(リニア車両。ただ普通のリニアとは全然違う運用と状況。応戦・防衛の振動も考慮。)
(地面でも、飛行機でもない。近いのは水の上。モーターボートで川を下るとしたら、こんな感じかな。)
(たぶん止まっちゃいけない。一度止まったら、動かし直すのにどれだけ時間が掛かるか分からない。)
少しずつ速度を上げながら、磁力走行形態の緑桜の性質を掴んでいく。
(磁力の範囲なら少し脱線しても補正が効くけど、外れすぎるとアウト。)
リニア駆動によって路面を浮き、その磁力の中でならヤンチャが赦される。
行き過ぎた動きをすれば横転するのも中型モーターボートのそれに近い。
問題はモーターボートとは比較出来ない繊細さとリニアの加速力。
「こちら、はと。現在問題ありません。もっと加速していきます。」
馴染んだ所で、更なる加速を行う。だいたいの勘所は掴んだ。
戦闘音は、"何が何だかよくわからない"。なので深くは気にしない。
磁力によって浮いた緑桜に、路線と言う形で見える磁力の流れ。
どこまで自由が効くかは走りながら覚えるしかない。迂闊に磁力の路線から外れればあっと言う間に横転だ。
大きな装甲をヤンチャさせるにはそれなりの勘所が居る。
感覚を掴んだとしても調子に乗った行動は出来ない。
少しでも早く、少しでも正確にこの子の特性を掴まなければいけない。
そう思っていたところでモニターに何かが映ったが、
それを理解するより早く、ロベンツ・カーティマンの怒声が飛ぶ。
「!」
咄嗟に言葉通り、左に切って車両を寄せたものの、体験したことのない外部からの衝撃で意識が揺れる。
強い振動と、このままだと横転しかねない事実を理解するよりも先に直感で動く。
反発力に沿えるように車両を倒す勢いで反対方向に切って傾け、強引にバランスを取る。
「……このくらいなら……!」
自発的な揺り戻しによる二度目の衝撃音。
加速しながら揺れる車体は、容赦なく乗組員に負荷を掛ける。
「なんとかしましたが、怖いですね……
……今の点滅が来たら、マズイってことでしょうか。」
■ロベンツ・カーティマン >
けたたましい衝撃と負荷が、車両全体に、
乗組員に大きく掛かる。初体験者の大半は、
動転しているか気が気じゃないと言わんばかりの状態を、
ベテランの鉄道委員がフォローに回る。最早手慣れた光景だ。
「く、うぅ……!お見事です……!
咄嗟の判断、初めての戦闘経験とは思えませんな」
車両、物資の為ならば遠慮のない運転。
まさに天賦の才を感じざるを得なかった。
如何なる負荷が掛かろうと、既に乗員は皆命を預けている。
この程度、無事に切り抜けられたのであれば些事だ。
風紀委員の二名も、無事であることは確認できた。
「損害はありますが、現状走行可能です。
……ええ、しかしこの車両では回避は難しい。
魔物ではない者の攻撃ですが、此の質量で二度目は恐らく無いかと」
憶測だ。絶対とは言い切れない。
ただ、既に合流ポイント間近だ。
後はこのまま加速し、戦闘エリアを抜けてしまえば……。
そんな安堵を許さないかのような、二度目のALERT音。
「!?生体反応!?正面に、まさか……!?」
間違いなく正面にはなかった。"転移してきた"。
砂を大きく巻き上げ、路線を簡単にひしゃげさせ、
飛び出してきたのは超巨大な一本の触手。
否、触手ではない。気胞を脈動させ、
先端に無数の牙と大口を持つ魔物は砂蟲、
或いは未確認生命体と称される巨大な魔物だ。
潜伏する魔物とは言え、生体反応の網を潜り抜ける潜伏性能力はない。
作為的にも思えるような、文字通り特大の不運が現れる
目の前に現れた、"非日常の光景"が雄弁に現れた。
蠢く牙、避けようのないもの。大口が開けてそのまま先頭車両から───────……。
■橘壱 >
『───────やらせるかよッ!!』
不意に、青白い光が先頭車両の防弾ガラスに乱反射した。
一直線に飛び込んできた鋼鉄の翼が展開した電磁シールド。
最大出力により強引にその巨体を受け止め、全面にバーニアを全力放出。
最大出力限界とエネルギーの限界ギリギリまで吹かし、巨体を浮かした。
即座に背部に装着されていた折りたたみ式グレネードキャノンの砲身が、
携行バズーカ、マウントしていた大型ガトリングをそれぞれ両手に構え、
全身に外付けされたコンテナミサイルポッドも展開した一斉掃射。
空気が破裂したかのような爆音と無数の銃口炎。
人間サイズに押し込まれた最新鋭機の最大火力が、無数の爆煙が巨体に打ち込まれ、
徐々に、徐々にと魔物の体を押し上げていくが……壱には限界が既に見えていた。
『(大きすぎる……!弾が足りない……!けど、車両さえ逃がせば後はなんとかなるはずだ……!)』
現実はゲームとは違う。あんなあり得ない弾数入り切らない。
この巨体を破壊することは愚か、抑え続けれても数十秒と持たない。
物凄い勢いで、モニターに表示されている残弾数が減っていく。
そう、此れは囮だ。大丈夫、自分なら逃げ切れる自信がある。
『……緑桜は今のうちに!!大丈夫!守るって言った!』
運転席のモニターに映る壱が、運転士へと声を張り上げる。
この数秒、緑桜のスピードがあれば問題なく抜けれるだろう。
その間にもモニター越しに見えるFluegelの弾薬状況は刻一刻と減っていく。
決断は迫られている。迷っている暇はない。
■鶴博 波都 >
「……ありがとうございます。」
声を返すが、賛辞を嬉しく思える余裕がない。
まだ仕事は続いている。何が起こるか分からない。
才覚こそあれど、鶴博 波都はこれまで一般鉄道委員だったものである。
今の彼女は目的を達することと、操作に集中することに意識を割き続けた。
「分かりました。他の事は皆さんを信頼して、走行を続けます。」
魔物ではない攻撃。
その意図を深く考えることはしなかった。
無心で走る所に、二度目のアラート音。
先端に無数の牙と大口を持つ魔物。
ゲームの画面でしか見たことないような、大きな砂蟲。
その怪物が突如として顕れ、大口を開けて車両を──
(前線の委員の皆さんって……こんな大変なお仕事をしていたんですね。)
諦めたような顔で、緑桜の加速度を最大限にセットする。
後はセーフティも外して、限界を超えた加速と駆動で自壊で一矢報いよう。
そう思ってセーフティの解除に手をかけた所で──
──頼もしい声と、音と振動の洪水にその手を止める。
「壱、さん。」
状況は良く分からないが、何らかの手段で路を空けてくれた。
守ると告げる声が頼もしく、鶴博 波都に正気と平常を取り戻させる。
「今度お礼させてください。」
短く告げて、セーフティが許す限りの最高加速で突き抜ける。
そのまま突撃するつもりだったのではと思わせる、迷いのない最高加速だ。
鶴博 波都がお礼を言い切る頃には、緑桜の姿は目視出来ない程遠くへと離れていた。