2024/11/19 のログ
ノーフェイス >  
「サン・マルジェラ――新作のコートはワインレッドカラー。
 そんなボクもね、島を出てく手立てがまだないんだよ。
 可能ならすぐにでも渡米したいとこだケド、いろいろこっちにも事情がね」

肩を竦めた。なんでこんなところにいるんだ、という理由は、このようなもの。
先んじて商品としての価値を得たとて、デジタル&マジック全盛の社会故、である。
窮屈に感じているのはそうであれ、妙なところで律儀。

「あいつを買ってるのは将来性込みで、かな。
 現状だと先行投資になるケド、それなりに期待はしてる。
 ボクが事前に行動不能を予期してて、キミを手配したってコトがわかればいいの。
 ……絶賛あいつブチギレ真っ最中でね。いまへんな刺激与えたくないし」

コトと次第によってはキレた狂犬にぶつけることになるが、
そこは飲んでもらわなければならぬ部分。

「ンで――真夜は、まァ、第二方舟にいた……っぽい。
 たぶんね。あの格好が視えた気がするのと、嗅ぎ慣れた匂いがした。
 連絡先は持ってるんだけど、ボクの身分が身分だし。
 実際にいたなら、ヘンに足がつきそうだからいま接触は持てないワケ」

自業自得であろうとも、犯罪者である分だいたんに自分からあちらにはいけない。
聞く所によれば、彼女は祭祀局に所属している――というよりは監視されているような。
ヘンに関連性を疑われると、余計に動きづらくなりそうな。
いろいろ大事な時期なので、そのあたりはエゴイズム優先。

「ばーか。むしろボクのほうが金取るっての。
 若いカラダはすぐ凝ったり疲れたりしないんだぜ。
 マッサージなら可愛い女の子に頼むし、足腰にキてるなら踏んであげようか」

くっくっ、と笑ってから、扉から顔を離すと、紅い髪を揺らしてそちらを視た。
遊びのない顔で、唇のまえに人差し指を立てる。

「おっさんの心臓に悪いニュース」

伝えたいことは、凶報。
なぜ出口を塞ぐのかといえば、変な所で若い熱さを秘めた探偵が、
うっかり出ていかないように――だ。シャッターをぶち破れるラガーマンの肉体ではないと踏んだ上で。

「その、星護の肉体はおそらく方舟に返却されてる。
 いちおう、首だけになっても生きてはいる……っぽいケド。
 肉体の代替のアテはあるケド、そのためにいろいろ準備が要る――」

焔城鳴火の願いは叶う。叶える手立ては一応ある。
そのうえで。

「――アルカディア計画に必要な、人造の(カミ)の肉体。
 じゃあ、首から上は誰のを使うと思う?」

靴底がしっかりキープしている扉の開閉権と、まっすぐ見つめる黄金の双眸が。
言外に正解を言っているようなものだけれど。

挟道 明臣 >  
「まぁ、元より内と外との隔たりは良くも悪くも厳格だしな。
 裏技抜け道あくどい手段、どれも使わずってなると立場にもよるが難儀はつきないか」

大手三社が手を付けたとあれば他からの注目も厚いだろう。
明け透けに話されるわけでなくとも事情は様々ついて回る。


「……は?」

とんでも無い事を口にしたぞこの女。
回収でも強奪でも無く返却、と言った。
病院に安置されていると聞いていたが、そこまで手が回っていたという事か。

「……まじかよ」

足撫でて遊ぶ余裕なんか無かった。
見せつけるように向けられたハリのある太もも一発しばきたくなるくらいのバッドニュースじゃねぇか。

「っつーかその緋月って子がブチギレてんの原因そこだろ!?
 受けたからにはやるけどさ?」

鳴火は、どうなのだろう。
持ち去られたのはアルカディアの肉体ではあるが、とはいえ。
知らないなら伝える他無い。
接触は、既に行われていたのだから。
知っているなら、相応の用意と対策が急務か。

「ックソ!」

暗に示された答えがデカすぎてクイズにすらなっていない。
苛立たし気に頭を掻いて、むしゃくしゃしたからやっぱり太もも一発軽く掌で叩いておいた。
道を開けさせるための措置である。
そこまで言われてここで大人しくしているというのも無理な話だ。
優しくどけるという選択肢もあったのだが。
頭の中では、問題が渦巻いていた。

真夜に関してもそうだ。
落第街の連中から表の人間の動向を問われることはあるが、
生存を確認するったってあそこにいたなら話が変わって来るだろう。
周囲を気に掛ける余裕が無かったとはいえ、今さらその可能性を示唆されて急に冷や汗が出てくる。

駄目だ、やはり知った者の危険を知ると鼓動が早くなって息苦しくなるのは止められない。

「とりあえず、仕事は引き受けた。
 そんで、いざって時は手借りるからな!」

既に交通妨害は退けられていた。
平静保っている風に装うが、まぁバレバレだろう。

「さっきのは、手付金代わりな!」

乙女の柔肌をはたいた料金は果たして幾らになるのやら。
言い捨てるようにしてガレージを後にする。

ノーフェイス >  
「痛って。――あれ、火がついちゃった?
 キミから鳴火との接触は難しいんだったら、研究所のほうから手を回してもらっ、て――」

ひょいと足を退ければ、晩秋の寒風のなかを突っ走っていく者ひとり。
若々しさの抜けつつある元探偵も、導火線は存外短いようだった。

()けんなよー?超過分はあとで払ってもらうからなー!
 イザッテトキが来んならいつでも。ボクが時間余らせてるうちにね!」

ガレージの扉から顔を覗かせて、その後ろ姿に声をかける。
仕事を頼んだ上でだ。完遂するまでくたばられては困る。
追いかけることはしない。



「おお寒~ッ……」

ぶる、と体が震える。上着は室内だ。めっちゃ寒い。
冬になりかけの気候のなか、まだ明けぬ空の下で、後ろ姿が見えなくなる。

「――――」

息を吐くと、白く凍った。

星護の肉体の取引は、ずいぶん大胆かつ性急に行われていた。
すなわち、事前の取り決めのない焔城の頭部が最後のピースだとすれば。
たとえそこで何が起ころうと、重大な手がかりを掴む突破口になり得るのだ。
打つ手がそうそうないというのも事実だ。であれば、あちら側に早急に動いてもらう。
結果的に鳴火を囮に使う意図など、知られたら探偵に殴られかねぬ。
伏せておいていい部分だ。

「……ンじゃよろしく。タフで優しい探偵さん。
 派手にスッ転んでもタダで起きるなよ?」

ポケットから取り出した、孤児院の鍵をひょいと放ってまた掴む。
後手後手に回り続けるのは、どうにも面白くない。
倒されっぱなしのドミノでないことは、近々証さねばなるまい。

ご案内:「学生街 レンタルガレージ」から挟道 明臣さんが去りました。
ご案内:「学生街 レンタルガレージ」からノーフェイスさんが去りました。