2024/12/27 のログ
ご案内:「Free2 未開拓地区:汚染区画」に神樹椎苗さんが現れました。
ご案内:「Free2 未開拓地区:汚染区画」に藤白 真夜さんが現れました。
神樹椎苗 >  
 人や物資が慌ただしく行き来する、ゲート前の即席の臨時基地。
 その中では、問題の物質の研究や、けが人や病人の応急処置など多くの委員会やボランティアが合同で災害と闘っていた。
 そんな中、壁の内部へ入るための手続きや、装備の支給がされる場所がある。

「――だーかーらー、そういう余計なもんはいらねーって言ってんでしょう。
 余計な荷物ばかり持たせて、なんなんですか、新手の嫌がらせですか」

 カツ、カツ、と響く軍靴の音よりも大きく、幼い少女の高い声というのはよく響く。
 あれもこれも、と規定通りに装備を提供しようとしてるスタッフたちは、怒鳴られたり怒られたりと、困惑しておろおろとしてばかり。

「ああでも、これは貰っていきます。
 防護靴と手袋――あ?
 だーかーらー、そんな量の非常用品を持っていったらなんもできねーんですよ。
 お前、目は付いてるんですか。
 このクソ小せえ体でんなもん背負ったらどうなるか想像してみやがれってんです!」

 響く声は、とある少女のいる元へと、どんどん近づいてくるだろう。
 そして、最終的には理不尽にスタッフの少年がスネを蹴り飛ばされ。

「ったく、余計な物ばかり準備するくらいなら、荷物持ちの一人くらいでも――ぁ」

 そして偶然見つける。
 いつか、どこかで出会った祈りを捧げる少女。
 椎苗の起こした騒ぎはとっくに注目の的になっており、きっと、ばっちりと目が合ってしまった事だろう。
 

藤白 真夜 >  
 汚染区画を区切る、そのゲートの前。いわば、死地の一歩手前。その場所に死の存在自体は薄くとも、匂い立つものがあった。
 怪異めいた汚染個体との戦闘……無傷で済もうはずもない。
 物資を持ち慌ただしく駆け回る後方支援要員の姿に……ここもまたある種の戦場であり死地であることを、わたしにはありありと見いだせていた。

「……、……」

 言葉は無くとも、溜息が出た。
 苦手な場所だ。
 ……でも。避けられはしない。『無茶はするな』という約束は在れど……危険へ立ち向かうことのリスクを、わたしの異能は軽減してくれる。──あの、黒い泥に触れなければ。

(……まだ、いけるはず。
 動物の汚染個体とは相性が悪いけれど、それを避ければ──)

 各々が死力を尽くしている前線の光景に、疲弊と同時に賦活されながら。

 ──ふと、ある意味場違いな響きを伴って、少女の横柄なまでの言葉がその耳に届いていた。


「……椎苗さん?」

 ゲート内の、急造の休憩所。もっぱら、憩いではなく突入の準備をするための場所で、軍用手袋と丁寧に装備としてわけてもらった大量の非常用品を詰め込んだバッグを降ろしている最中のセーラー服の女が、ミリタリーロリータファッションの少女と、目が合う。
 『どうしてこんなところに?』という言葉は、出そうとしたけどひっこめる。
 納得(・・)できる。この人ならば、死が多い場所に居ても。
 ……そのかわり。

「……そ、そのお洋服もお似合いですね!」

 ちょっと間の抜けた褒め言葉が飛び出した。
 正確にはこの場所では浮いているのだろうけど、あの少女の折れてしまいそうな繊細さと図太さからはブレていないと思えたから。

神樹椎苗 >  
「ふむ――ああ、知人です、もうこっちの事はいいですから、他の連中の面倒を見てやれですよ」

 そう言いながら、小さな体は少女の元へと遠慮の欠片もなく近づいて。
 その伏されがちな目を、下から見上げるようにしっかりと見つめた。

「――久しいですね。
 ふむ、少し、雰囲気が変わりましたか?
 大人の階段でも登ったりとか」

 開口一番セクハラである。

「ふふん、しぃに似合わない服なんてもんは、この世に存在しねーですから」

 そして、相変わらずの強烈な自信。
 どんなものでも着こなす自信はあるのだが。
 目の前の少女が、椎苗の部屋着がネコマニャンのきぐるみと知ったら、驚くのか。
 それとも微笑ましく頬を緩めるのか。

「しっかし、でもまあ、まだまだ『陰気巫女』ですね。
 どうしました、まるで死地にでも赴くような空気ですよ。
 師走ですし、仕事で無茶振りでもされましたか?」

 と、そんな事を訊ねながら、少女の隣で装備品の類をながめはじめた。
 

藤白 真夜 >
「お、大人の階段ですか?
 わたしは17ですから、登っている最中くらいのつもりなんですけれど……」

 それがセクハラかどうかあんまりわからず、困惑とともに素直に応えるものの。
 ……きっと、張り詰めた雰囲気が出てしまったのでしょうか……と真面目に考えこむ、陰気な女。

「……そうですね。
 椎苗さんはどこに居ようと、貴女の自我がその場所に相応しく根付いているように視えますから」

 胸を張る小さいけれど大きな女の子に、微笑ましげに目を細めた。
 彼女に、汎ゆる死が纏わりついているのは見ればわかる。
 だからこそ……だからこそ、この娘は少女らしく在るべき。そう、勝手に願っていた。
 ……きっと、少女らしい格好であればあるだけ、少女であると納得できるのだから。

「は、はい……わたしも、競合他社の見学に遣わされたんですけど、ある事件(・・・・)に巻き込まれまして……。
 ……陰気にもなります。椎苗さんも、……もし、向こう側に赴かれるならどうかお気をつけて。
 …………楽園の地獄に堕ちたような場所なのです」

 この場に不釣り合いなまでの、華々しい姿の椎苗さんを見れば少しは気が紛れていたけれど。
 ……思い返すと、自然と気が沈む。
 汚染された獣や植物を退けながら、汚染源を探る……。
 その最中、確かにあの施設で遭遇した黒い水と同じ、楽園のフラッシュバックと異能の不全が起きていた。それは、異能に頼る藤白真夜(わたし)にとって、これ以上ない忌避感を呼び起こしていた。
 ……あの施設。セカンドアークの名は、大きな声では言えなかったし、まだ彼女に知らせるわけにもいかない。……わたしはただ、あの場に居て逃げ出しただけなのだから。

神樹椎苗 >  
「じゅうなな」

 なぜかそこに食いついて反復した。

「――は~っ」

 そして大きなため息まで吐く始末。
 失礼千万である。

「十七でその色気のなさはなんなんですか。
 まったく、しかたねぇですね。
 今度、一緒に服を買いに行きますよ。
 気分というのは身なりが変われば、それらしく変わるもんですから」

 しれっと、そんな約束を一方的に取り付ける。
 本当に、止める人間がいないと、どこまでも傍若無人なちびっこだった。

「――あー」

 少女の話す様子だけで、十分に要点は理解できた。

「ま――方舟に関わるとろくなことにならねえですからね。
 大丈夫ですよ、しいもすでに何度か入っていますし」

 そう言いつつ、ふむ、と。

「さらに面白い事を言うと、しぃの仕事は、この元凶になった一次汚染源の発見、可能なら排除ってやつです。
 それでまあ、何度か来ては居るんですが、まとまった成果もないんですよね」

 そうして、暗くなりがちな少女を見上げながら、くす、と笑う。

「退屈な仕事だもんですから、ちょっとした荷物持ちや話し相手の一人でもいてくれると嬉しいんですがねえ。
 どこかに、しぃの寂しさを癒してくれる優しいやつはいねーですかねぇ」

 なんて、わざとらしく言うのだった。
 

藤白 真夜 >  
「いっ、色気ですか? そういうのは、まだ、……。
 い、いえ確かにわたしはセーラー服(これ)ばっかりですが……っ」

 ……ぐいぐいと言葉だけで引っ張られているのを感じる。
 色気を語る小さい少女は、一体何歳なのだろうと思うものの。そんな説得力と破壊力があるのであった。

 
「……!
 そう、だったんですね。椎苗さんも呼ばれるほどの……」

 ……あの施設の話は隠さなくて良い。そう思うと同時に、この一件の水面下での影響の大きさをどうしても感じていた。……神に触れるとは、どういうことなのかを。

「こ、こほん。
 ……寂しさを癒せるかはわかりませんが、荷物持ちならこの通りですので!」

 椎苗さんが断った補給物資も、しゃっきりと背にバッグ形式で背負っていた。汚染避け──効果が微々たるものの──の手袋にブーツもフル装備の。……実際のところ、すぐ脱げたりでやっぱりあらゆる意味でこの任務への相性は悪いのだけれど。

「……わたしも、何度か入りました。
 …………まとまった成果どころか、知り合いに無茶をするなとたしなめられるだけだったんですけど」

 しゅん。寂しさを癒やすどころか、またちょっと陰気具合が増す。
 嗅覚の鋭い獣とも、相性が悪い。異能を塞ぐ泥とも、相性が悪い。
 ……そういうことなのだ。

神樹椎苗 >  
「まだ?
 まだって言いましたか?
 そんな事言っていると、あっという間にしわくちゃの老婆になっちまいますよ」

 はい、これがしいのホットラインです。
 と、一方的に手帳へと特別な連絡先――盗聴探知妨害ほぼすべてに対策されている、超がつくプライベート回線だった。

事故(・・)は後で知りましたが、まあ、危険な組織として目は向けておきましたからね」

 実際に何が起きて、なにが変わったかは、椎苗と同じ研究室に居候している『元探偵』の証言以外からは何も得られていないのだが。

「ふむ、悪くねえですね。
 なら少しばかり仕事を手伝ってもらう事にしましょうか。
 邪魔なやつらはしいが相手しますし、お前の安全は保障しますよ」

 そう話しているうちに、また少女は暗くなっていく。
 やれやれ、と肩を竦めた椎苗は、少女のスネをしっかりと蹴り上げた。

「これまではそうでも、今日はちげーかもしれねえでしょう。
 そう暗い顔ばかりしてると、ほんとにあっという間に老け顔になっちまいますよ」

 遠慮も気遣いもあったもんではなかった。
 

藤白 真夜 >   
「……ふふふ。それはそれでいいかもしれませんね。
 老いるまで歳を重ねられるなら、それがいちばんです」

 ……暗い顔だったけれど、しわくちゃの老け顔と聞いてつい、笑ってしまった。
 苦労の積み重ねの結果であっても、流れた時がそこに刻まれるのなら、と。

「……ふ、普段ならもう少し、わたしが矢面に立つといえるのですが……」

 ……が。
 この現場では本当に物理的手段では役に立たないと思うと、また沈みこんだ。
 ……げし。そんなところに叱咤の蹴りが飛ぶ。
 痛くはないけれど、その部位は大分痛そうな位置ではなかろうか。

「い、いたいです……。
 …………でも、椎苗さんも、無理はしないでください。わたしも、約束(・・)をしているのです。
 あの探偵さん……あのひとは、貴女にもわたしと同じことを言うと……そう思います」

 痛みの嘘をつきながらも、……本当に思っていることを、告げた。
 探偵(あのひと)は、誰かが傷付くことを恐れている。それが誰かと重ねた結果か、誰かのトラウマを呼び起こすからかもしれなくとも。
 そういった、温かな人の思いやりを無下には出来ないから。
 
「……あの、黒い水。
 あれは……椎苗さんでも、触れてはならないと……そう、……強く思います」

 椎苗さんが何を宿し、何を為す力を持っているかは知っている。
 それでも、あの感覚を知ってほしくはなかったのだ。

神樹椎苗 >  
「なにがいーんですか。
 ったく、うら若き乙女だって事を忘れるんじゃねーですよ」

 と、笑う少女の頬を、少し強めに摘まんでやろうと手を伸ばした。

「――なーにが矢面に立つ、ですか。
 そういうのは、フロントに立って後方を守れるようになってから言うんですよ」

 はぁ、とまたため息。
 けれど、椎苗は少女の、身を挺しても積極的に誰かのために奉仕したい、という自己犠牲や贖罪を否定するつもりはない。
 それもまた、少女が生きていくのに必要な物であり、『生きる』というのは綺麗なだけでは成立しないと痛感したからだった。

「む――そこで『元探偵』を出してくるのはずりぃですよ。
 むう――」

 そう言いながら、どこかバツの悪そうに横髪を指先で弄る。
 あの『元探偵』がどんな人間か、よく知るようになってしまった。
 その上で同僚にもなり、仕事もするようになり、『元探偵』の人となりを理解してしまった。
 だからこそ、彼の事を出されると、椎苗は少しばかり、強気に出られなくなってしまうのだ。

「――黒い水、ですか」

 少し考えてから口を開きかけ――

「――ここで話す事でもないですね。
 心配しなくていいですよ、アレに関してはちゃんと『付き合い方』があるんです」

 そう言って、椎苗は本当に着の身着のまま、大した荷物も持たずに、区画内部へ向かうゲートへと向かっていってしまうだろう。
 

藤白 真夜 >   
「うっ。す、すみまふぇん……」

 むに、と頬を摘まれながら、しんなり。むしろ椎苗さんのほうがちゃんと目的意識がある分、いろんな意味でえらい。逆らえずにほっぺがむにゅーと伸ばされて、痛くはないけど痛いところを疲れた顔をしていた。

「……椎苗さんも、嫌と言うほど解っているでしょうけれど。
 わたし達から見た損傷と、周りの人の目に映る致命傷は、重さが違います。
 ……ああいう方には、とくに」

 椎苗さんも、わたしも。ある意味で死が軽く、だからこそ損傷を恐れない。
 だから──

「──だから。ああいう方に無理をさせないよう、わたしたちが矢面に立たなくては。
 ……ふたりでなら、無理には入らないよう、できるはずですし。ね?」

 ……ここでは異能(わたし)は活かしきれていなかったけれど……。一つしかないかけがえのない命を差し出すより、ずっと、無理はしてない(・・・・・・・)のだから。

「……し、椎苗さん? ま、待って、くださ……よいしょ」

 指摘の通りちょっと年寄りっぽい声をだしながら、荷物を背負ってそそくさと歩き出した椎苗さんの後を追う。……椎苗さんの言ってたとおり、地味に重い。が、その分然るべきものが入っている。
 鞄から取り出した小袋の密封を切る。ぷしゅ、と音が漏れミントと洗剤と紅茶を混ぜたような薫りが漂い出した。強めの芳香剤に近い。
 ……ある種の獣避けの香だった。本当に汚染されきった獣には通じないだろうけれど、少なくとも獣性を残したものを多少は遠ざけられる……はず。たぶん。

「……『付き合い方』……?
 あ、あれと……ですか……」

 あの黒い水の、概念的にだけ正しい場所へ導きそうな幻覚と、生理的嫌悪感。
 なにより、異能に根を下ろすものとしての根源的忌避感が、顔にあらわれていた。
 ……(天敵)に睨まれたカエルみたいな。

神樹椎苗 >  
「――だからこそ。
 しいたちは誰よりも『生きて』いなくちゃならねーんですよ。
 ただ『死なない』んじゃなくて、『生きる』んです。
 それこそ、どこの誰よりも、活き活きと」

 死が軽く、そして生すらも軽い。
 だからこそ――そこに、普通の人間たちよりも大切な意味を見出さなければならない。
 それは、終わらない命を持つ者としての義務であり、椎苗のような存在が『生きる』ための大切な指標なのだと、椎苗は考えられるようになった。

「ま、お前の言う事はわかります。
 ですがまあ、ちゃんと矢面に立てるように、少しばかり鍛えてやった方がいいかもしれねーですが」

 くすくす、と少女の言葉に笑う。
 異なる性質の『不死身』の二人。
 恐らく、今この瞬間の常世島で、最も無茶をやれてしまう二人だろう。
 だからこそ、なのだ。

「はいはい、置いていきはしませんから、ちゃんとついてくるんですよ」

 そう、荷物を背負ったり、下準備をする少女を見守りながら、少女の半歩先を小さな足で歩く。

「ええ、付き合い方です。
 アレがなんなのか、本質を知ってるのは方舟でも一握りでしょうしね。
 それが分かれば、お前も変な悪影響ばかり受けないようになりますよ」

 そう話しながら――不死の二人はゲートを出た。

 天候は快晴。
 冬空は非常に美しく、ただ、吹きすさぶ風はさすように冷たい。
 ゲートの出口付近は常に掃討が行われているのだろう、非常に安全だ。
 けれど、椎苗の歩いていく先は、少し薄暗い、森林の中だった。

「――さ、て。
 ここならもういいですね」

 森の中に入ると、椎苗は懐から二つの『妙な物』をとりだした。

「ほら。
 こっちはおまえの分です。
 外れないようにしっかりクリップもつかって止めるんですよ」

 それは、それだけで見ればどことなく愛らしい、『ネコミミのヘアバンド』だった。
 椎苗は自分に黒い耳を、少女の方には茶色の耳を差し出した。