2025/01/11 のログ
神樹椎苗 >  
「――ええ、しぃでなくても、実体、非実体問わず動いていないのなら、とっくに見つかってるでしょう。
 となれば、見えず、痕跡も残さず、何らかの方法でこの区画を動き回っている、と考えるべきでしょう」

 満足そうに頷いて、椎苗は助手くんの鼻先に、細く小さな指先で触れた。

「さて、これで真っ先に、動かずに潜んでいるという仮説は排除できました。
 となれば――次に排除するべきは?」

 そう言いながら、小さな指が助手くんの唇に触れて、むに、と押し付けた。

「地上を痕跡も残さず動き回っている、という可能性です。
 しいは、主にその可能性を排除するために派遣されました」

 そう言ってから、助手くんの唇をなぞって、唇の端に付いていたココアを拭うと、自分の唇で咥えた。
 目を細めて、機嫌よく微笑みを浮かべる。

「――ですが、それだけじゃ面白くねーですからね。
 お前と一緒なら、汚染源を丸裸に出来ると、しぃは計算しています。
 というわけで」

 椎苗は、ポットとカップを仕舞うと、助手に向かって両手を広げた。

「ひとまず、この区画の中央に行きましょう。
 お前が迷ったら大変ですからね、しぃが付きっ切りで案内してやります」

 そう言って、寒さのせいか、ほんのりと赤く染まった色の微笑みで、助手くんに自分を抱き上げるように要求する。
 まるでそれが当然の事のように、『ん』とだけ小さく声を漏らして。
 それで少年に通じると、どこか確信している様子で。
 

蘇芳 那由他 > 「――目に見えない、動いた痕跡すら残らない。……まるでホラーかパニックモンスター物みたいで笑えないですね…。」

そもそも、少年は恐怖を一切感じないので、パニックとかホラーの醍醐味がよく分かっていないが。
そして、仮説を一つ排除したその次。二個目に排除すべき可能性を考えようとした矢先、唇にいきなり雇用主さんの指がむに、と押し付けられた。

(――び、びっくりした……えーと、つまり痕跡は必ずある、という実証も兼ねてる訳ですかね…。)

なんて内心で思っていたが、こちらの唇の端のココアの残りを指で拭って…そのまま口に含みましたこの人。
…偶に思うんだけど、仕草が女児だったり何か煽情的だったりで掴み所が無い。
まぁ、何か機嫌が良さそうだというのは、多少なりの付き合いもあり気付いているが。

「…僕、というか主に【槍】の力ですけどね…。問題があるとすれば、僕はまだ完全に認められてる訳ではないので。」

【槍】の力を引き出し切れない――という事だ。汚染源の居場所を特定するだけならまだしも。
と、そんなことを考えていたら彼女が両手を広げる――それだけで抱き上げの催促だと分かってしまうのが何とも。

「…付きっ切りで案内は僕が土地勘も何も無いので助かりますけど…。」

この人、自分で歩きたくないだけでは?もしくは甘えたい――…いや、それは無いかな。
ともあれ、仕草だけで催促を理解できてしまうのが何とも言えないものを感じつつ。
小さく吐息を漏らして、慣れた感じでひょいっと幼女さんの体を優しく抱き上げよう。
実は何度か既にやった事があるので、抱き上げ方とか力加減も心得たものである。

「――じゃあ、案内お願いします。僕は汚染区域に入るのもそうですが…転移荒野そのものが殆ど初心者なので。」

神樹椎苗 >  
「――ん」

 助手くんに抱き上げられると、満足そうに笑顔になり、その肩に頭を預ける。
 触れ合う事そのものが嬉しいかのように、見るからにご機嫌だ。
 そして、小さな手で助手くんの上着の襟元を掴みながら、ぴったりと体を寄せるのである。

「大丈夫ですよ、この辺りから中央付近は何度も調査されていますから。
 危険な個体も居ませんし、本能的に近寄りませんから。
 ただ、足元には気を付けるんですよ。
 黒い水溜まりはしっかり避けて歩く様に」

 そう言い終えると、二人が座っていた椎の樹は急速に枯れて、無数の実を地面に転がす。
 その無数の椎の実は、なぜかひとりでに転がっていって、小さく芽を出していく。
 それは真っすぐに一列に並んで、二人を案内するように。

「それでは、いきましょう。
 頼りにしてますよ、『第一助手』」

 そう、助手くんの耳元で甘えるような声を出しながら。
 その首元に頬を摺り寄せるようにして、安心しきった様子でその身を任せた。
 

蘇芳 那由他 > 抱き上げてから、しっかりとホールド。何度か抱き上げてる内にずり落ちないような抱き方も自然と身に付けた。
彼女に上着の襟元を掴まれてるが、それも支えになっているのでむしろ安定して抱き上げ続けることが出来る。
…ちなみに、さっきのおみ足はドキドキしてた彼だが、”これ”は慣れてるのであまり動揺もしていない。

「…黒いものは全て汚染されてると思った方がいいんでしょうね、やっぱり…。」

彼女は案外平気かもしれないが、自分はただの人間なのでひとたまりも無いだろうなぁ、と思いつつ。
椅子代わりになっていた椎の樹が一気に枯れたかと思えば、無数の実がコロコロ地面を転がる。
それを眺めていると、何故か勝手に意思があるかの如く転がって地面に小さな芽を息吹かせる。
…これ、もしかしなくても道案内代わりのアレなんだろうか?

「…えぇ……え、第一助手?」

第二、第三の助手さんも居るのかな…違う、そうじゃない。
何時の間にか助手ポジションになっている!?…あ、そもそも雇用された時点で助手か。
基本、彼女から依頼を受けて単独でお仕事をこなす事が多かったのでピンと来ていなかった。
ちなみに、未熟もいいとこの少年が一人でこなせる程度の難易度の仕事だ。
正確には、【破邪の戦槍】だからこそ対処できる依頼という感じではあったが。

神樹椎苗 >  
「なに驚いてるんですか。
 しいの、今のところ唯一で最初の『第一助手』ですよ」

 そんな事を言いながらも、すっかり甘えたように助手くんへ身を任せてる様子は、ただの子供と変わりない。
 それだけ、彼を信頼しているのだが、それが彼の自信になっていないのは少しばかり残念ではあるのだが。


「――ふむ。
 掃除も随分丁寧にされているみたいですね。
 それだけ多くの人間が、この調査に参加してるという事でしょう」

 報酬がいいからか、仕事だからか、義務感からか。
 それぞれの理由で、この事故(・・)と向き合っているのだろう。
 そのおかげで、こうして椎苗は、悠々と目的地まで迎えるのである。

「ありがたい話ですね」

 この事故(・・)と闘ってくれた多くの島民に感謝すべきだろう。
 だからこそ、単純戦闘力の低いこの二人で、この時期に満を持して調査に来れるのだ
 協力した人々には、十分な褒賞があるといいのだが――そればかりは椎苗にはどうしようもない。

「――さて、中央は大体この辺りですね」

 椎苗が座標を確認すると、区画のおおよそ中央部分と言っていい辺りに到着する。
 この周辺は、まさに荒野と言った有様で、荒れ地の他にも戦闘の痕跡なども見られた。

「ふむ、この周辺はまだまだ汚染体が現れるようですね。
 守ってくれますか、『第一助手』?」

 そう言って、助手くんの胸元からその顔を見上げた。
 

蘇芳 那由他 > 「…いや、光栄ですけど…そもそも、椎苗さんなら伝手とか人脈みたいなもので、もっと優秀な人を助手に出来そうなものですけど…?」

別に少年は自分を卑下している訳ではなく、単純に疑問に思った事らしい。
とはいえ、少年の悪癖ともいえる自信の無さ――低めの自己評価も顔を覗かせている。
この辺りは思ったより根深い課題らしく、だからこそ【槍】もそれを見抜いて少年に【自信】と【強さ】を示せと言っている。

本人が何故か【凡人】である事にある種のこだわりがあるせいか、己を無理にそれに準じる――当て嵌めようとしている。
そんな歪さみたいなのが少々あるのは否めない。基本的には割と普通の少年なのだが。
さて、”道案内”もあるので迷うことなく目的地辺りへと少年は幼女を抱いて歩き続ける。

「――みたいですね。ゲート前で検査の時に聞きましたけど…。
むしろ、僕みたいなのがゲート内に入る方が珍しいのかな、と思います。」

基本戦闘能力は著しく低い上に、頼みの綱の【槍】も本来の力を発揮しきれていない。
そんな中途半端よりも、実力者の方々が仕事ををしてくれているので貢献度は激しく高いだろう。

「――そうですね…。」

彼女の言葉に同意をするように頷くが、矢張り自信の無さが足を引っ張る手前、思う所はあるらしい。
さて、目的地である汚染区域の中央区画と思わしき辺りへと到着する。
周囲を死んだ瞳で見渡せば、戦闘の痕跡もあるが矢張り荒野、といった感じの風景が広がる。

「――了解です、『雇用主』さん。」

小さく苦笑気味に頷いて、限定的に【槍】の力を解放する。
直接的な攻撃型の力はあまりまだ発揮出来ないが、補助や防御的な力はそこそこ扱える。
少年の周囲を薄っすらと蒼いドーム状の結界のようなものが展開。
少年の癖なのか、力を使う時はなるべく【槍】本体は出さないようにしているようで。
以前、交流イベントでつい【槍】の力の一端を使った反省もあるのだろう。

「――ちょっとまだ”精度”が甘いですけど――【能動浄威】(アクティブ)に設定して周囲の索敵と最低限の結界は張っておきます。」

少年の力の代償は【記憶】なのだが、これはそこまで致命的な記憶は喰われない。
とはいえ、時間経過でじわじわ記憶が削られるので長時間は諸刃の刃だが。

神樹椎苗 >  
「――――?
 なにを言ってるんです。
 だから、お前を選んだんですよ」

 きょとん、とした表情を助手くんへと向ける。
 椎苗にとって、信頼出来て、またこうして己の身を任せられる相手は、そう多くない。
 その中でも特に、危地に臨む際に選べる伝手も、そう多くはない。
 ――今も大切なあの『娘』が現役の風紀委員であれば、真っ先に頼ったかもしれないが、それはもう、もしもの話でしかない。

 そんな、椎苗の想いと助手くんの思考は絶妙に噛み合っていないらしい。
 椎苗としては、すでに全幅の信頼を置いているのだが。
 助手くんの凡人らしさ(・・・・・)への拘りは想像以上の強さのようだ。

「お前のような、と言いますが。
 むしろお前のように器用な能力があれば、稼ぎどころだと思いますけどね。
 調査任務においては、状況対応力の高さが求められますからね」

 そう、評価してはいるものの。
 それが『第一助手』に届くかどうかは別問題なのだろう。
 椎苗にとっては、不可思議で、奇妙な、珍しい難問だった。

 ――まあともかく。

 そんなすれ違いがありつつも、二人は目的地に恙なく辿り着けた。
 やはりそれは、先人たちの勇気ある行動ゆえであり、それらを支えた人々のお陰である。

「――ふぅむ」

 助手くんの展開した槍の力に、小さく呻く。
 それは勿論、否定的な意味ではなく、以前とは違う力の応用に、感心したからだった。

「上出来です。
 頼もしくなってるじゃねーですか。
 ん――」

 そんな声に乗る嬉しさは、隠す理由もなく。
 助手くんの首筋に、躊躇なく唇を触れさせて、ひょい、とその腕の中から飛び降りた。

「――さて、ここからはしぃの仕事ですね」

 そう言うと、どこからともなく、椎苗の手に赤い細剣が現れる。
 それは、生命力と引き換えに――あらゆるものに死を与える、飢餓と死の神器。

「あまり時間はかけねーですから、安心すると良いです」

 そう言って、椎苗はその細剣を両手で握り、水平にかまえた。

 ――椎苗は剣士ではなく、戦士でもない。

 だからこそ、剣の扱いに熟達しているわけではない。
 しかし、この戦友(神器)の扱いにおいては誰よりも熟練していた。
 そして――、椎苗は様々な劣化コピー(模倣)()を得意としている。

「――すぅ」

 静かに息を吸い、吐く。
 全身から構えた剣の先まで、じっくりと神経を巡らせる。
 その恰好だけで言えば、立派な剣士のようにも見えたかもしれない。

「はぁ――」

 細く息を吐く。
 その瞬間、椎苗の裾がふわりと浮き上がった

 ゆるく、踊るように円を描く。
 そのたった一度の舞いは。

 ――地平線を超えるほどに伸びた剣閃によって、汚染区画全てを切り払ったのだ。

「――ふぅ」

 しかし。
 斬られた物も、死した物も周囲には一切存在しない。
 あるとすれば、そよ風が吹いたような感覚だけが残されている。

「こんなもんですかね」

 そう言って、椎苗は紅い剣を、地面へと突き立てた。
 

蘇芳 那由他 > 「……あ、はい…ありがとうございます…。」

戸惑いと嬉しさと、何とも表現が難しいがややぎこちない調子で少年は礼を述べた。
いまいち、彼女の想いと少年の思考はズレて噛み合っていない…が、通じるものはきちんとある。

【槍】も遠回しに、そして彼女もおそらく既に伝えているかもしれないが。
もう少しだけでも、己へ自信を持つ事。簡単なようで彼にはとても難しい…それが今の彼の最大の課題。

成功体験が無い訳ではなく、けれど矢張り凡人――普通へのある種の憧れと拘りもあるのだろう。
それは、無意識に自分が普通では無いときちんと認識している故でもあり。

「…状況対応能力も何も、僕も多少、椎苗さんが仲介してくれる仕事やあっちのボランティアで鍛えられてますけど…。」

今回はそれとはまた別。戦いの前にまず相手を見つけないといけない。
雇用主から見れば、少年の自信の無さは奇妙で難解に思える問題だろう。
何よりも、少年自身が己の実力…自分が持っているモノへの自負や自覚が無い。

忘却から始まった少年の第二の人生は、まだ積み上げてきたものがとても少ない

さて、地味に難解な少年の課題は一先ず置いておこう。
辿り着いた目的地――薄っすらと周囲に青い光を放ちながら、少年はその場から動かない。
と、いうよりこれを使っている間は動けない。まだまだ動きながらの展開は難しいのだ。

「…一応、僕なりに試行錯誤はしてますからね。ただでさえ、僕が引き出せる【槍】の力は一部だけですし。」

元々、全盛期ほどの力が無いであろう【槍】だが、現時点で出せるフルスペックに比べれば…
少年の扱える力はまだまだ一部に過ぎず、だからこそ試行錯誤を色々している。
特に、結界系――あるいはそれを応用した索敵などが少年的には扱いやすいらしい。

「――ただ、これを使ってるとまだ動けないのが難点――…ちょっ!?」

首筋にキスをされて、驚きのあまりに結界索敵が霧散しそうになった。
慌てて何とか維持を続けるが…この人はさらりとそういう事をするから困るし恥ずかしい。
…まぁ、嫌ではないのでそういう所は彼も彼できちんと彼女を信頼しているのだ。

…そもそも、信頼が無ければ頼みとはいえ今回のこれも引き受けてはいないだろう。

さて、腕の中から飛び降りた彼女の行動を見つめながらも、何時何があっても良いように。
彼女が彼女で集中するならば、こちらもこちらでその身に危害が及ぶ前に対処する構え。

「――さて、僕は…。」

彼女が赤い剣――少年の蒼い槍とまるで対照的なその神器を出現させ、集中をするのを見守りつつ。
薄っすらとした青い光がやがて渦を巻くように回転を始める。
もし、彼女が攻撃をした直後、あるいはその後に。何か起きても対処する為の処置だ。

「―――うわぁ…。」

思わず漏れる感嘆の声。自称凡人の彼ですら、彼女が何をしたか感覚で理解したから。
集中からの…たった一度の円を描くが如く剣舞にて。
この汚染区画全てを――”斬り払った”。何も傷付ける事は無く。
おそらく、斬るべきものだけを選定して斬ったのだろう…と、予測する。

刈り取るべきものだけを刈り取る――死神とはそういうものだろうから。

「…えーと…もしかして…これで仕事は終わり…ですかね?」

そうなると、安心なのだけど自分が同行するまでも無かった気がする。
やっぱりこの自信の無さは中々に根深いのであった。

神樹椎苗 >  
「――で、終わりならお前を呼びません」

 はあ、と息をつく椎苗だったが。
 む、と眉をしかめて。

「お前にまた不愉快な思いをさせます。
 ――悪いですね。
 先に言った通り燃料切れ(・・・・)です」

 そう言うと、椎苗は助手に振り向いたまま、珍しく申し訳なさそうな表情をうかべ。
 ぱき、ぱき、と草木が枯れるように椎苗は色あせ、ひび割れ、そして寒風に吹かれるまま塵となって吹かれ消えていく。

 そして――その場に、何事もなかったように、椎苗が複製(蘇生)された。

 その表情は明らかに居心地が悪そうなものであり。
 片手で赤い友を撫で、片手で横髪を弄りながら、顔色をうかがうように、助手の顔を見上げていた。
 

蘇芳 那由他 > 「――ですよね…汚染源がそう簡単にやられるなら流石に別の誰かに発見や討伐されてるでしょうし。」

苦笑いを浮かべつつ頷いたが、彼女の”燃料切れ”という言葉と態度に表情が固くなる。
――それは、つまり――何かを口にする前に、珍しく申し訳なさそうな表情をした彼女が塵芥になった――

「――――…!」

明らかに顔色を変える。恐怖ではない…ハッキリ示してしまうなら嫌悪感。
一度失われたものは二度と戻らない。それが少年の信念であり、だからこそ不死というものは――どうしても好意的になれない。
そんな自分に自己嫌悪もあるものの、どうしても”納得できない”のだ。

――だからこそ、霧散した直後に全く先ほどと同じ姿で蘇生――複製された彼女を見た瞬間。
色々な思いが渦巻いたが、ぐっ!と何かを堪えるように下を向いて。
…ややあってから、ゆっくりと息を吐き出してから顔を上げた。

お帰りなさい。…僕は大丈夫ですよ椎苗さん。」

せめて、それくらいの気の利いた言葉は掛けなければ。
どうしても拭えない不死への嫌悪感で信頼する彼女に接したくはないのだ。

――それはそれとして、やっぱり体は正直なので顔色が少々悪いのは隠せてなかったが。
彼なりに頑張って向き合ってはいるのだろう。少なくとも拒絶などは一切ない。それがせめてもの信頼。

ご案内:「Free2 未開拓地区:汚染区画/汚染源探査作戦」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「Free2 未開拓地区:汚染区画/汚染源探査作戦」から蘇芳 那由他さんが去りました。
ご案内:「Free2 未開拓地区:汚染区画/汚染源探査作戦」に神樹椎苗さんが現れました。
ご案内:「Free2 未開拓地区:汚染区画/汚染源探査作戦」に蘇芳 那由他さんが現れました。
神樹椎苗 >  
「――おかえり、ですか」

 助手が不死という存在に嫌悪を持っているのは、理解している。
 それでも、その上で椎苗を信頼し、かけてくれる言葉が――

「――ふふっ」

 顔色の悪い助手を見上げて、抑えきれない嬉しさが、笑みとして零れる。
 にこにことしながら、助手に近づき、その胸の中に体を投げ出した。

「ただいま、って言ってやります」

 そう言ってまた、甘えるように助手に身を任せる。
 こうして全身を使って触れ合うスキンシップ――それが、椎苗にとって、最大級の信頼の証であるのだが。
 それが助手の少年に伝わっているか、微妙な所なのは、これまでの触れ合いで哀しいかな、証明されてしまっているが。
 

蘇芳 那由他 > 「…えーと変でした…かね…?」

不死の嫌悪感は拭えないものだとしても、ちゃんと帰ってきたのだから。
だから、せめて信頼の証としてお帰りなさい、という言葉くらいは掛けてあげたい。

――と、いきなりこっちに飛び込んできた雇用主さんの体を慌てて受け止めた。
本人あまり自覚が無いが、抱き留め方とかかなり慣れているのは紛れもなくこの雇用主さんが原因だろう。

「――あのぉ…椎苗さん?いきなり抱き着かれると、僕も心の準備というものが…。」

などと血迷った言葉は兎も角として、ちゃんと抱き留めている辺りが少年らしいといえばらしい。
一先ず、暫くはそうやって彼女の体を抱きとめていたけれど…残念、ずっとこうしてはいられない。

「――それで…この後はどうしますか?今の所、僕の方は多少記憶が削れたくらいで支障は無いですが。」

ちなみに、削れた記憶は一週間ほど前の学園での記憶。…つまり、その分の勉学の記憶も抜け落ちている。
お陰で、少年は中々成績が向上しないのだけど…まぁ、それは今は些末事。
一先ず、雇用主さんにこの後の行動指針を尋ねつつ、念の為の先ほど展開した”結界”は最低限維持しており。

神樹椎苗 >  
「心の準備、なんていうわりには、ちゃんと受け止めてくれるじゃねーですかー。
 むふー、お前の心音(おと)は、やっぱり心地いいです」

 助手の胸に耳を押し付けるようにしながら、頬を寄せてたっぷりと甘えて見せる。
 これが恋愛感情であるのなら、助手の少年も少しは気にかけてくれるのだろうか、と思いつつ。
 今のところ、純粋な信頼関係――たとえるなら家族に寄せるものに近いのだから、難しい所だろう。

「ん~、近くの汚染体はとりあえず還し(・・)ましたが。
 案の定といいますか、汚染源らしいものに触れた手応えはなかったですね」

 お互いに代償を払い合って、得た情報。
 ――つまり、汚染源はこの地上には存在しない(・・・・・・・・)という事実だった。

「となると――『第一助手』、汚染源が潜むならどこだと思いますか?
 一つ、地上にはいない。
 二つ、自由に動き回れる。
 三つ、人の目に付かない」

 そう助手の上着の下に細い腕を滑り込ませ、上着の中に一緒に包まれるように背中に手を回す。
 完全に抱き着いているうえに、恋人にしたって近い距離すぎるが。
 それが、椎苗を人間らしく(・・・・・)してくれていると思うと、恋愛感情でなくとも――愛しくなってしまうのは、正常な心の動き、なのかもしれない。
 

蘇芳 那由他 > 「…そ、そうなんですかね?自分ではよく分からないんですけど…。」

自分の心音とかあまり気にした事無いので、きょとんとした表情を浮かべる。
…いや、それはそれとして!椎苗さんスキンシップ好きだとは思ってましたけど!
滅茶苦茶甘えられてませんかねこれ!?いや、別に悪い気は全くしないんですけども!!

「…汚染源探査が僕らの今回の仕事ですからね…居場所と姿と…後は、行動…あるいは攻撃パターンとかは情報として持ち帰るのが最低限…でしょうか?」

幼女を抱き留めたまま、生真面目な表情で呟くように口にするがちょっとシュールである。
…さて、先ほどの椎苗さんの一撃は、もし仮に地上に居るなら確実に当たっていた筈――が、手応えは無かった。

…と、なると。

「――もしかして、地下に潜んでいる…?」

考えられる可能性は、空か地下か。彼女が挙げた3つの情報を元に少年の推理はそちら。
何より、姿は消せても空だと何かしら目撃…察知される可能性がある――地下ならそのリスクはかなり少ない。

…あと、とんでもない密着度合いなんですけど!!流石に少年も意識はするが、場所と状況がコレなので何とも大変である。

「――あ、椎苗さん…【槍】が何か”真面目にやれ”みたいな空気感を出してます…。」

己の中の神器の意識を感じ取ったのか、申し訳なさそうにそう伝える。
彼の持つ神器は、お喋りではなく寡黙な部類だが…おそらく、神器の中でもトップ3に入りそうなくらい捻くれている。
少なくとも、少年が対話したり感じ取った限り、かなり少年には厳しい目線である。
何だかんだきちんと助けてくれたり力は貸してくれるのだから、素直じゃないとも言えるが。

神樹椎苗 >  
「そーなんですー。
 んふー――久しい心地です」

 心から安心できる、穏やかな音。
 そして、動揺しながらも受け止めてくれる助手の優しさに、愛しさが募るのは仕方ない事だろう。

「ん~、ですねー。
 やっぱりよくわかってるじゃねーですか」

 褒める――には、手が届かないので、その胸に頬ずりして愛情表現をする。
 密着度合いがとんでもなくなるが、椎苗としては何の憂いもないので遠慮の欠片もなく。
 ただ、もし互いの知人に見られていたら、関係を勘違いされても、弁解のしようがなさそうだが。

「――『第一助手』」

 そして、助手の答えを聞けば、抱き着いたまま、その顔を見上げた。

「お前を連れて来たのは、正解でした。
 雇い主として――神樹椎苗個人としても。
 誇らしいですよ、『第一助手』」

 その見上げる表情は、嬉しさを全く隠す様子もなく、どこか子供らしくもある、満面の笑みだ。
 ただ、その少年を褒める声は、年齢不相応に艶があり、とても甘い声ではあったが。
 
「んー?
 わかってますよ、なんですか、嫉妬ですか?
 ふふん、お前の契約者である以前に、『第一助手』はしぃの助手ですからね。
 お前は自分の出番まで鬱憤でも溜めてりゃーいいんです~」

 なんて言いながら、再び少年の胸元に頬ずり。
 背中に回した手にもほんのり力を籠めたりして、しっかりと抱きしめたりと。
 なお、赤い剣からは、生暖かく優しい気配がするあたり、主人の幸せそうな様子が嬉しいようだった。
 

蘇芳 那由他 > 「…えーと…それは良かったです…?」

正直、心音を褒められた経験なんて記憶がある限りでは一度も無い。
なので、戸惑い半分恐縮半分ではあるが。まぁ悪い気はしないのは確かで。
問題は、このすごーい密着度合いなのだけど…知人友人に見られたら色んな意味で詰みそうだよこれ!

「…ど、どうも…と、いうか椎苗さん?一応ここ危険地帯の筈なんですけど…。」

こんなにノンビリした感じでいいのだろうか?と、少し気にもなる。
元々、こういう緊張が敷かれる状況にあまり慣れていないのもあるが。
実際、雇用主さんはめっちゃリラックスしてる一方で、少年は気が気でない。
…二重の意味で。主に周囲の警戒とこの密着度合い両方である。

あと、何か改まって凄い褒められてるんだけど…どうしよう、嬉しいけどこそばゆいぞ!!
ゴホン、と軽く咳払いをして動揺を誤魔化そうとしつつ。

「…ま、まぁ仮にも助手なので…最低限、雇用主の手伝いは出来ないとですし。」

相変わらず控えめ、というか自分への自信はいまいち感じられないが、これが今の少年の精一杯。
そもそも、先ほどからずっと気を張っているので自信どころではないのだろう。
――あと、椎苗さんに妙な色気というか艶?を感じるんだけど、これは僕の認識がおかしいのだろうか…?

「…椎苗さん!あんまり挑発されるとこの【槍】捻くれてるんですから、後が怖いんですって!!
肝心な時に力を貸してくれなかったら僕の人生詰むかもしれないんですが!?」

さらりと自分の神器をディスりつつも、慌ててフォロー?をしようとしている少年。
そもそも、まだ真に認められてはいないので引き出せる力も限定的なのだ。

ついでに、彼女の相棒たる赤い剣からは生暖かい見守り視線を感じる…フォローしてくださいよせめて!

「と、兎に角!汚染源が地下に潜んでいるとして…正確な居場所をどう探査します?」

神樹椎苗 >  
「んぅ~~」

 散々やりたい放題しながらも、慌てる助手にも遠慮なく、すりすりと、身体を寄せて満足げ。
 フォローも助けもない、ある意味、孤立無援の助手くんである――不憫だ。

「んに、そう言えばお前にはまだ詳しく話していませんでしたね。
 しいは、生物学的に言うと――人間よりも植物に近いんです。
 そして、しぃは神木(神性)とされている樹の力を、直通のラインで引き出せます」

 そう、自分の能力――いや、一部、自分の異様さの一端を話しつつ。

「なので、しぃは多くの植物と共振、共感、または支配が出来ます。
 いくら荒野とはいえ、完全に植物が存在しない場所は、そう無いでしょう。
 そして、植物の根というのは、実は非常に敏感です」

 そう言いながら、ますます少年に身を摺り寄せて――なんなら、全身を押し付けて、細い脚を絡ませるような。
 コミュニケーションが徐々に激しくなりつつ。
 そんな行為からは、いくら少年が鈍くても愛情の欠片くらいは感じざるを得ないだろう。
 それと、あからさまな、『仕事したくないなぁ』という、意思表示とか。
 

蘇芳 那由他 > (ここに人が居なくて良かった…!居たら色んな意味でマジで僕の人生が詰んでたよ…!!)

『むしろ詰んだ方が汝の為じゃね?』みたいな投げやりな【槍】の思念を感じる。
少しは所有者のフォローをしてくれるとか無いのかこの方は。
何か、もう密着どころか明らかにやべぇ感じになってる気がしないでもなく。
風紀の人達が居たら、まず真っ先に僕が御用になりかねない…!!
尚、密着とか好き放題してるのは全部彼女からである…理不尽すぎる…!!

「…えーと、つまり植物操作みたいな事が出来ると。
…いや、支配も出来るとなると操作どころじゃないですね…。」

一瞬、ぽかんとした表情を浮かべるが気を取り直す。
彼女がタダ者ではないのは、ずっと前から分かっていた事だ。
つまり――植物と同調して、その根をセンサー代わりに地中を探る、とかそういう感じだろうか?

「…あと、椎苗さん…何で足までがっちりホールドしてるんでしょうか…?」

最早スキンシップとかそういうレベルじゃないよ!流石に少年も愛情表現?みたいなものは感じてはいる。
が、それと同時に仕事したくないオーラを感じたので、「いや、しっかりしてください雇用主さん」とジト目。

神樹椎苗 >  
「んふー、百点中、五百二十点くらいの正解です」

 駄々甘々の採点だった。
 まるで少年の想起した手法を、読み取ったようなタイミングでの高得点。
 なお、少年の心音や思考速度、声音などから演算して、答えを予測しただけである。
 幸いにも、心を読む能力までは持っていないのであった。

「むぅ――働きたくねーです。
 しぃはこーしてるのが、幸せなんですー。
 仕事終わったら、助手を接種できねーじゃねーですかー」

 ぶーぶー、と文句を言いつつ。
 完全にホールド状態――だが、当然力は見た目通り非力。
 助手くんの力には抗えないので、引きはがすこと自体は容易だろう。
 

蘇芳 那由他 > 「何か凄い駄々甘な採点来ましたね!?」

えー…という表情。何だろう、もっと緊張感がある現場だと僕は覚悟していたのだけど。
本当にこんな調子で汚染源の情報をばっちり持ち帰れるのだろうか…?不安だ…。

「…いや、僕に言われましても…と、いうか椎苗さんのご指名じゃないですか、僕が今回同行してるのは。
別に、仕事関係なく何かあれば僕に出来る範囲で手助けくらいはしますって。」

完全に子供や妹を宥める兄みたいな感じの調子である。
彼女が非力なのは分かっているが、強引に引き剥がさないのは彼の甘さだろうか。
ともあれ、そろそろ仕事の方も進めたいので彼女には申し訳ないが…

「――兎に角。仕事が嫌なのは分かりましたから、尚更さっさと汚染源の情報を取得して持ち帰るべきだと思います。」

生真面目な性分でもあるので、仕事は未熟なりに出来る範囲でしておきたい。
なので、ぶーぶー文句を垂れ流している雇用主さんを宥めつつ思考を切り替えていきたい。
…うん、密着されまくった状態で切り替えとか中々厳しいけど…やる事はやっておかなければ。

神樹椎苗 >  
「むう~――はぁ。
 しかたねーですねえ」

 そう言って、ゆっくりと、と~っても惜しむように、恨めし気に、明らかに不服そうに、身体を離していく。
 互いの身体が離れると、

「むふ~」

 などと、非常に不満そうな鼻息を鳴らしたりするが。
 その上、しっかりと片手て助手くんの手を握る――どころか指を絡めようとしたりしていたが。

「――聞きましたからね、『第一助手』。
 仕事関係なくても良いって言いましたね?
 今の言葉、録音もしてますから、言い逃れさせねーですよ」

 と、ふくれっ面になりながら、助手くんの顔を、じぃっと見上げていた。

「――お前が約束してくれたら、さっさと終わらせます。
 そうですね。
 初詣――は人が多くてめんどくせーですから、春節の祝いに、節分に、後はひな祭りと。
 ああ、バレンタインもありましたね。
 それはまあ、お前に良い想いをさせてやりましょう。
 しぃはお菓子作りには、自身がありますし。
 それと年度末にはデートに連れてってもらいましょう。
 そうそう、ゴールデンウィークには泊りで出かけるのもいいですね」

 などなど。
 止まらない欲望を垂れ流しつつ。
 ふくれっ面で目を細めて、じとーっと助手くんの顔を見上げるのだった。
 

蘇芳 那由他 > 何か滅茶苦茶不満そうではあるが、まぁ何とか体を離してくれたので一安心。
別に少年も何も思っていない訳ではなく、内心で結構ドキドキものだったのだが、そこは頑張りました。

――と、思ってたら何か手を繋がれた。まぁ先ほどの密着ホールド態勢より気持ち的には落ち着くが。

「……録音……録音!?そこまでします!?というか何でそんな用意がいいんですか!?」

…え、どういう事なんですか本当に、といった感じでギョッとしたように雇用主さんを見る。
膨れっ面の雇用主さんと目が合うが、今の少年はそれどころではなかった。

「――あの、季節のイベントとか全部網羅する気ですか貴女…?」

あと、最後の泊りは色んな意味で危険を感じる!主に僕の方が!!
そもそも何かあったら周囲にもだけど保護者の蘇芳さんに合わせる顔が無い…!!

「…幾つかは付き合いますけど、全部は無理ですって。
僕だって(数は少ないですけど)友達付き合いとか色々ありますし…。」

あと、泊りだけは本気でいかーん!!と、思っているのでそこだけは死守したい。
別に雇用主さんが嫌だとかは欠片も無いのだけど、そっち方面は異様に初心というか慎重派である。

(…おかしい…まだ汚染源と対峙すらしてないのに凄い疲れた気がする…!!)

先ほどとは別の意味で顔色がゲンナリ気味である。とはいえ、油断も出来ない。
片手は彼女と繋いでいるので、もう片方の手に改めて青い槍を具現化させつつ。

「――確認ですけど、あくまで汚染源の居場所や姿形、能力の特定だけでいいんですよね?」

まさか自分たち二人で『討伐』なんて事は無いとは思うが。流石にそれは戦力的にもきついだろう。
…いや、下手したら椎苗さんなら単独で出来る気がするけど、リスクもかなり高そうだし…。

神樹椎苗 >  
 少年の指に指を絡めつつ、ふふん、と鼻をならした。

「電子機器の操作も、しぃの右に出るものは――まあ、そう多くはねーですからね!」

 なんて言いながら、椎苗の学生手帳から再生されるのは、助手くんの先ほどの言葉。
 有言実行どころか、無言実行だった。

「イベントごとくれー全部付き合う甲斐性くらい見せやがれってんです~。
 でもまー、仕方ねーから半分くらい付き合うなら許してやります。
 約束!」

 そう言いながら、繋いでいない方の手の小指を、助手くんに突き出す。
 我儘ここに極まれり、と言った風情になってまいりました。

「ん、まあそうですね。
 簡単にこれからやる事をせつめーしてやりますが」

 小指で少年の胸元をぐりぐりとしつつ。

「まず、しぃが地中に潜んでるだろう汚染源の座標を特定します。
 で、その座標目掛けてお前が槍を投げて地中から叩き出します。
 そのまま、お前の槍の浄化能力を最大にして、一時的に汚染物質を完全に排除。
 汚染物質に隠れた中身を観測、可能なら、しぃが一撃かまして様子見しつつ――そこまでやればこっちが捕捉されるでしょーから、全力で離脱します。
 まあ、相手が多少とんでもなくても、逃げる分には何とかなるでしょう」

 と、若干の早口で話す。
 早口な当たり、本当に働きたくないんだろうという気持ちが滲み出ていた。

「あと、お前の代償はしぃが肩代わりします。
 ですから、遠慮なく全身全霊を込めて構わねーですよ」

 と、おまけのように付け足した。
 

蘇芳 那由他 > 「……最悪だよこの人…!!」

思わず暴言を吐くが、どちらかというと嘆きに近い。
まぁ、ある程度気兼ねなく言いたい事は言えるくらいに信頼関係があるという事だろう。
そもそも、勝手に録音とかこう、何か刑法とかそういうのに引っ掛からないんですかね!?
…仮に引っ掛かってもお構いなしにやりそうだけどこの雇用主さんは!

「…僕だって自分の時間くらい欲しいんですよ!!半分…半分…かぁ。」

流石に、これも断ると彼女のご機嫌が急降下しかねないので渋々了承する少年。
さっきから振り回されっぱなしだが、悲しい事にそれが妙に似合う少年でもあった。
ともあれ、こちらも小指を差しだして指切りげんまんをしておこう。

「――全力…ですか。」

流石にちょっと神妙な表情になる。投擲、それも全力となると一発勝負だ。
【槍】そのものは手元に直ぐ戻るが、仮に外すとどうしてもタイムラグが生じる。
作戦としてはシンプルだが、懸念点が幾つかある。一番の問題は――…

(…現状の不完全な状態で、【槍】の浄化能力が汚染源相手にどこまで浸透するか…だけど…。)

おそらく、浄化に関しては神器でも最強…かもしれないが、使い手が僕なのが一番の問題。
何せ何度も言うがまだ真に認められていないので、引き出せる力に制限が掛かっている。
何より――少年は戦闘経験が圧倒的に足りない。勝負勘などもさして無い。

「――いや、それは聞き捨てならないですって。【記憶】が代償なのは重いですけど、肩代わりはマズいです。」

と、難色を示すが、仮に肩代わり無しだと…下手すれば数日分の記憶が一気に吹っ飛ぶ事になる。
何より、不完全な状態で全力を出せば、削られる記憶の度合いも増える可能性がある。

「――取り敢えず、ぼちぼち始めましょうか。汚染物質にもし接触してしまった場合は?」

最終確認をしつつ、左手の蒼い槍を握り直す。流石にさっきまでと違い表情は硬い。

神樹椎苗 >  
「――てへ♪」

 可愛らしく舌を出して見せた。
 やってる事は全く可愛らしくないが。

「んふふー、お前なら承諾すると思ってました。
 まあ、お前の時間を全部寄こせとまでは言わねーですから。
 ただ、しぃみたいなめんどくせー女に気に入られたのが災難でしたね」

 自覚はあるらしい。
 とはいえ、男女の関係を意識してはいないので、女と言ったとは言え、今の関係以上を要求はしなかったが。
 それでも、愛情と言って差し支えない感情で接しているのは間違いないのだが。

「ん?
 ああ、安心するといーです。
 しぃにとって『記憶』はほぼ――いえ、まったく代償にならねーんです。
 そうですね、例えるなら――完全記憶能力、それらと似たようなものですよ」

 そう、少年を安心させるようにくすくすと笑う。
 正確には、椎苗は常に『記憶』をバックアップされ、バックアップからいつでも『同期』する事が出来るのだ。
 それによって、疑似的に完全記憶と同じ結果を得られるのであった。

「そうですねえ、始めますか――はぁ」

 あからさまに嫌そうだった。

「ん、汚染物質に接触した場合でも、お前は問題ないです。
 槍の浄化能力がある以上、所有者として契約してるお前が汚染されることはあり得ません。
 ――ただ、汚染を弾く時に何らかの反発があるかもしれねーですから、そこだけ気を付けた方がいいですね。
 汚染されないにしても、何かしらの影響を受ける可能性はありますから」

 そう補足説明のように、早口でなくしっかり聞かせるように話しつつ。
 もし、助手くんが汚染されるような事があれば、汚染物質との繋がりを、椎苗が斬る(殺す)事になるだろう。

「む、『第一助手』、表情が硬いですね。
 これからの作業は、リラックスしねーとやってらんねーですよ。
 安心すると良いです、ほら、しぃが一緒にいますから」

 そう言いながら、背伸びして助手くんの頬に、指切りした手で触れる。
 そのまま、小さな手で優しく強張っている頬を撫で、微笑む。
 指を絡め合った反対の手も、優しく少年の緊張をほぐすようにしっかりと繋いで。
 

蘇芳 那由他 > (可愛いけど全く可愛くない…!!)

思いっきり相反する心の呟き。仕草は可愛いんだけど、やってることが地味にえげつない!
あと、「あ、自分で自覚はあるんですね…」と、思わず口走りそうになったがギリギリで堪えた、セーフ。
そもそも、少年自身がやたらと自己評価が低いのもあり、彼女に気に入られている理由があまり分かってない。

「…完全記憶能力、というのは何か聞いた事ありますけど…。
…とはいえ、何か自分が負うべき代償を肩代わりして貰うのも気が引けるといいますか…。」

遠慮も無い訳ではないが、そこは生真面目な気質から来る責任感に近い。
自分が負うべき負債は自分が負わなければ、という”固さ”もあるのかもしれないが。

あからさまに嫌々そうな雇用主さんに、まぁまぁと苦笑気味に宥めつつも。
どうやら、【槍】の浄化能力は所有者である自分にも自動適用される仕組みらしい。
その辺り、いまいち自覚が無かったが――要するに、生半可な汚染は自分には効果が無いという事だろう。

「…反発…拒絶反応みたいなものでしょうか?いまいちピンと来ませんが了解しました。」

小首を傾げつつも了解の意を示し。汚染物質…との反発による影響。念頭には置いておこう。

「…あのですね。僕はこういう鉄火場はド素人なんですよ?リラックスしろと言われても中々難しいですって。」

その割に、危険地帯に迷い込みやすい特殊な方向音痴だったり、とある怪異と死闘を繰り広げる羽目になったり。
何かと災難に引っ張られがちな少年ではあるのだが。
そもそも、”恐怖”を感じないのが一番の問題点なのかもしれない。

まぁ、でも背伸びした彼女の手で硬い表情を揉み解されてちょっと落ち着いた。
が、緊張は矢張り残るものだ。この辺りの度胸を身に付けるには場数がどうしても必要となる。
片手は繋いだまま、ゆっくりと深呼吸をして一息。――よし、覚悟完了。

切り替えは割と早い方なのか、少年の黒い瞳が薄っすらとだが蒼く染まる。
本人もよく分かっていないが、一定以上の力を【槍】から引き出すと目が勝手に青く光るようだ。

「――始めましょうか。汚染源の座標特定はお任せします。」

流石に、手を繋いだままだと投擲が出来ないので名残惜しい気持ちはあれど、そっと一度離そうと。

【破邪の戦槍】現・所有者――《恐怖知らず》(フィア―レス)、蘇芳那由他…今日の正念場である。