2025/01/12 のログ
神樹椎苗 >  
「まったく、真面目過ぎるんですよ、お前は」

 そう、愛しそうな笑みを浮かべながら、頬をまた一度撫でて。
 名残惜しそうに絡めた指を離す。

「ん――さっさと片付けますか。
 ふふ、良い目が出来るじゃねーですか」

 助手の意識が切り替わったのを感じ、椎苗は満足そうに笑う。
 そして、椎苗もまた、ふぅ、と息を吐いて無表情に近い顔へと変わる。
 そして、膝を曲げて、足元の地面へと手の平を着けた。

「――『神樹椎苗(神木の端末)』として命じます。
 吾が敵、地に潜む異物を視つけ給え――」

 そう椎苗が言葉にすると同時に、地につけた手から、無数の細い根が波のように周囲へと、地中へと伸びていく。
 そして周囲一帯の植物と共振し、それらをハブにさらに遠くへ。
 そして小さな虫や動物までも感じ取りながら――それらと完全に異なる異物を見つけ出す。

「――いました。
 が、これは、くそデケーですね。
 観測通り手応えでは百――いえ、百五十?
 これは膨張、増殖?」

 手先から感じ取れる感触を元に、相手の大きさや性質を分析する。
 その結果わかったのは――

「こいつは――厄介なんてもんじゃねーですね。
 全身に汚染物質を纏っている、と観測情報にはありましたが、そんなもんじゃねーです。
 こいつは、無限に(・・・)汚染物質を産み出し続けています。
 地中、数メートルも穴を掘れば、黒い水の井戸が出来ちまいますよ」

 それだけ、地中は完全に汚染し尽くされていると言ってよかった。
 汚染源は地中を緩慢な速度で移動している。
 どうやら、地面の中を水のように泳げるようだ。

「これは、ちょっと気合を入れないとまずいですね。
 『第一助手』――少し気を緩めやがれです」

 椎苗がそう矛盾する言葉で、助手へと声を掛けると、細い無数の根が少年へと足元から絡みついていく。
 動きを邪魔するほどでもなく、拘束を感じるほどの物でもない。
 ただ奇妙な感触があるのであれば――そこになぜか、椎苗と同じような体温、命、生命力と言えるものの温かさが感じられる事だろうか。

「『第一助手』、これからお前に、神木(神性)の力を貸与します。
 しぃの呼吸と合わせて、しぃの事を受け入れてください」

 そう言うと、椎苗はゆっくりと静かに呼吸し。

「――『神性付与-完全同調(エンチャントブレッシング-シンクロニティ』)

 そして、助手の元へ、確かな力が流れ込んでいくだろう。
 それらは、『凡人』を自称する少年には、もしかすれば受け入れがたい物かも知れない。
 なにせ、神性そのものの力であるのだから。

 けれどそれは、『神樹椎苗』そのもののようにも感じられるだろう。
 助手の少年が、椎苗と呼吸を、感覚を、同調させ受け入れる事が出来れば――。

 それは過去に覚えのないだけの充足感と、開放感、そして他者と肉体以外で繋がる温かさ。
 全身を満たし、それでいて穏やかで強靭な力を感じ取って行けるだろう。

 無論――それらは、少年が椎苗の『祝福(愛情)』を受け入れる事が出来れば、の事だが――
 

蘇芳 那由他 > 「…僕は”凡人”なので…真面目なくらいじゃないと、こんな所でお手伝いなんて出来ませんって。」

軽口のように口にする。要するに無理やりにでも気を引き締めないと、命取りになると思っている。
薄っすらと蒼く光る目――そこに特殊性は無い。あくまで【槍】の力を引き出した際の副作用に近い。
左手一本で槍を握りしめつつ、ゆっくりと深呼吸をする――まだ投擲姿勢には入らない。
そもそも、彼女による位置特定など情報が出揃わなければ、ほぼ一発勝負に近い投擲は出来ない。

「…巨大…と、なると的確に急所を貫かないとあまり痛手にはなりそうにな――…は?」

続く彼女からの情報伝達に、思わずそちらを見た。…無限に汚染物質を生み出し続けている?
それは話が違う――いや、今さっき分かった情報だから誰も責められないが。

(――そんな存在が地中を自在に移動しているとなると…地中はもう殆ど”手遅れ”に近い…?)

ずば抜けて洞察力がある訳ではないが、直ぐにそれを連想したのか苦い表情を浮かべた。
…つまり、既に地中数メートルから下は汚染源のテリトリーという事だ。
しかも、この汚染区域の範囲の地下がほぼ侵食されている…と、見越してもいいだろう。

「…はい?気を緩める――って…??」

いきなり足元に植物が絡みつけば、少し慌てるが彼女の行動だと思い直せば、ゆっくり深呼吸。
気を緩める、という感覚は分からないがリラックスしろという事だと捉える。
一先ず、雑念を掻き消すように一度眼を閉じながら雇用主の言葉に、少しの沈黙。

――凡人を自称し、それに羨望を持つ彼にとって。
異物でしかない神性の力は自らの憧れから最も逸脱するものだろう。
だが、他に方法が無さそうだし事態が事態だ。自分の都合で取り返しのつかない事にする訳にもいかない。

「――了解です。」

そう、短く頷いて余計な力を抜いて”受け入れる”――不死の嫌悪感を克服するよりは簡単だ。
まるで雇用主と”同じ”ような感覚を受けつつも、それに同調していく――神性の力とはこういう感じなのかな、と漠然と思いながら。

流れ込む力は強力だが、これはちょっと自分一人では扱いきれない…当然だ。こちとら”凡人”である。

「―――椎苗さん、受け入れは問題無いですけど力の流れ?みたいなのは僕じゃ操作出来ないので、微調整だけ可能ならお願いします。」

受け容れたせいか、力そのものは順調に少年の前身を巡っている。
ただ、流石に細かく操作をする余裕が無い。妙な充足感と解放感、他者とつながる熱を感じるが頭は奇妙に冷静だ。

やがて、感じ取った力を――【槍】へと収束していく…正確には、【槍】と投擲する片腕に。

そのまま、ゆっくりと槍投げの選手のようにぎこちないが投擲の構えを取る。
蒼く輝く槍は、神性のバックアップを受けて最早眩しいくらいだ。

とはいえ、神性は神性。受け入れても生身の人間と思われる少年がずっと抱え続けられるものではない。
この一発を外したらおそらく二度目は不可能――やるとしても、日を改めないといけないだろう。

同調した事で、汚染源の潜む場所も正確に把握した。後は投擲するのみ。
ギリギリと、神性の力と破邪の力を上乗せした一発限りの一撃を――全力で投げる!!

蘇芳 那由他 > 「穿て――【浄滅神威・天降柱槍】(アメノミハシラ)。」
神樹椎苗 >  
「――ん、いい感触です」

 少年と自身の境界が曖昧になる感覚。
 そして、椎苗の中、その奥深くから少年へと流れ込んでいく力。

「ふふん、誰に言ってるんですか。
 最高の助手の、最高の雇用主(サポーター)ですよ」

 そう誇らしげに言って、共振する感覚へ完全に集中する。
 その感覚からは、地中数メートル先を汚染しつくしている、不気味な悪意(・・)のような濁った感触。
 地上に噴き出してこないのは、液体がゆえに、より地中へ深く沁み込んでいくからだろう。

 そして、なによりも異質であり異物の汚染源。
 それは椎苗が己に触れている事すら気づかないような様子で、無限に溢れる汚染物質を地中に垂れ流していた。

(――座標特定。
 距離、仰角、射出速度――同調)

 黙していても、互いの情報が交錯する。
 思考と感覚がシンクロして――一体となる。

 ――解き放たれるのは、蒼く霹靂く(はたたく)厳づ霊(いかづち)

 蒼雷は天を貫かんばかりに、立ち上り――そして、大地へと駆け降りる。
 大地に突き立った槍は、その表層を鋭く貫通し――その中に潜む巨体へ突き刺さった。

 着弾点から天高く立ち昇る、蒼い稲妻の柱。
 絶え間なく連続する雷鳴は、遥か遠くまで響き渡るだろう。

 ――そして。

 雷鳴とは違う、低くおぞましい咆哮が地面を揺らした。
 同調しあう二人は、近くの植物の感覚を借りて、着弾点至近からそれ(・・)を観測する。

 地中から現れる、黒塗りの巨体。
 しかし、その黒は、蒼によって瞬時に削り取られていく。

 無限増殖と、浄化寂滅――その力は、拮抗すらしなかった。

 蒼は地中から溢れ出す黒を、悉く消し飛ばし、あぶり出されたその巨体を丸裸にしていく。
 それは確かに巨体であったが――汚染物質の鎧を蒼雷に引きはがされたその正体は、予想外の姿であった。

 それは、白骨。
 あらゆる肉を、臓を失った、巨大な骨格。
 胸郭の中に四つ(・・)の奇妙な光を内包した、巨龍の成れの果てだった。

(こいつは――大きさは三十メートルほどですが。
 胸の中のアレ(・・)は――?)

 椎苗も知らない、恐らくあの屍を動かしている何か(・・)
 そして汚染物質を無限に溢れさせている源。
 それは、得体のしれない不気味な力のように、神性の力(・・・・)で武装している二人を直感的に恐怖で震わせた。

(――っ、観測完了、情報取得、共有完了っ。
 逃げますよ、『第一助手』っ!)

 言葉よりも早く伝わる、同調に感覚共有。
 それが突然ぷつりと途切れると、椎苗は青ざめた顔で少年の腕へと抱き着いた。

 助手の少年が、同調した共振能力で得た最後の感覚は、津波が迫ってくるような恐怖。
 そしてそれは、感覚だけでなく、現実にも顕れる。

 蒼雷に浄化される黒は、しかし、穿った地面から噴き出した。
 地割れが蒼き御柱の影響の外まで広がり、そこから汚染物質が吹き上がったのだ。
 そして、それらの汚染物質は意志を持つかのように、明らかに椎苗と少年の方向へと収束し、津波となって迫ってきていた。

 目視できる高さの漆のような津波は、十メートルは越えているだろう。
 幸いなのは幅が数メートル程度である事だったが――狙いが二人であることを考えれば、あまりにも巨大だ。
 呑み込まれれば、ただでは済まない事は直感で分かるほどだ。

 ――走って間に合うか。
 判断が着かないほどの、文字通り怒濤の勢い。
 少年の身体がどう動くか――その判断、行動、速さ、それらが二人の命運を分かつことは明確だった。
 

蘇芳 那由他 > (――う、わぁ…。)

ただ一発、たった一度投擲しただけでごっそりと体力や気力が削られたのを感じる。
そして、これだけの一撃となると【記憶】も相応に削られてしまう筈だが――…その感触が無い?

(…あ…これ…”同調”してるから…代償も椎苗さんの方に流れてる…のかな…?)

危うく地面に前のめりに倒れ込みそうになるが、まだ終わってはいない――むしろここからだ。
思い切り、足を踏ん張って倒れ込みそうになる体を強引に持ち直す。
やがて、雇用主と同調した少年の目に飛び込んで来たモノは――…

(巨大な骨――龍…?…それに――…)

あの、胸部辺りにある4つの光みたいなものは何だろう?
――だが、直感で”アレ”がこの汚染源の正体である巨竜の慣れ果てを動かしている元凶だと気付いた刹那。

得体のしれない”何か”が自分と彼女に襲い掛かる。
――少年に流れ込み同調している神性は、確かに恐怖を覚えていた。おそらく雇用主たる彼女も。だが――…

「―――???」

”ソレ”ですら少年に恐怖を与える事は不可能だった。少年本人は疲労しておりフラフラだが…平静なままだ。
とはいえ、恐怖以外は普通に感じる身の上。アレが”脅威”なのは流石に分かる。

――と、そこで雇用主の言葉に我に返る。青ざめた表情の彼女を不思議に思いつつ。
何せ、恐怖を一切感じないので…彼女が何に怯えているのかがよく分からない。
ただ、同調が切れた事と――今すぐ逃げないとマズいのは何となく分かった。

「…正直、結構限界ギリギリなんです…けど…ね!」

これは不幸中の幸いなのか、恐怖を感じない性質が初めて明確に役に立った。
普通なら異常でしかない、精神的欠陥であろうソレも、恐怖を感じない事で身が竦む事も無く判断が早い。
とはいえ、これは――…

(10メートルは超えてる…黒い汚染物質の…津波…!?)

幅はせいぜい数メートル程度だが、その高さがマズい。
上に逃げるのは無理なので、左右に飛んで――いや、間に合わない。
回れ右をして全力疾走!!するにも、少年の今の状態ではすぐにバテてしまう。


(だったら―――!!)

無茶をするしかないだろう。もう一度神性のバックアップを頼む余裕も受ける時間も無い。
咄嗟に、彼女の体を片手で抱き寄せつつ、左手に瞬時に蒼き槍を呼び戻し――

「――頼むよ…!!後で僕がぶっ倒れても今は形振り構ってられない…!!」

彼女が何かを口にするよりもおそらく早く、【槍】の穂先を後ろに向けて――出力全開

まるで、ロケットエンジンに点火したかのような勢いと速度で、黒い津波にそのまま突っ込んでぶち抜く!!
当然、そのままだと汚染どころではすまないが…先ほどの彼女の言葉を思い出す。

(【槍】の浄化能力を僕にも適用される…!なら、椎苗さんと密着してればそれも伝播する筈!そして…!!)

ただ、無謀に突っ込んだ訳ではない。汚染の津波に激突する直前、分厚い青き浄化の結界を今できる限界の密度で展開していたのだ。

――槍の穂先からの出力全開によるロケットスタート。
――超高密度に圧縮した青い浄化の結界で汚染を防ぐ。
――そのまま、最短最速で津波を貫いて一気に安全圏まで離脱する。

少年がやろうとした事は、これだけなのだが…普通に無謀であり無茶であろう。
だが、四の五の言ってられる状況でも無かった。そして、彼女が言っていた”反発”。

「―――――…!?」

津波をぶち抜く寸前、浄化と汚染の反発作用が発生し、汚染はされずとも激痛に苛まれる。
更に、精神にも反動が及んだのか、急激に意識が飲まれそうになるが――ギリギリ踏ん張る!!

やっている事はもはや”凡人”ではないのだが…恐怖を感じない特性と、なりふり構わない無茶。
それでこの危機を強引に突破し――青い流星の如く、意識が保つ限界ギリギリまで一気に抜けようとするだろう。

だが、それも限界だ。やがて、徐々に青い光が弱まっていき――…

「……すみませ…そろそ、ろ…限か――。」

雇用主に詫びる言葉も途切れ途切れに、やがて彼女を庇いながら地面に叩き付けられて転がっていく。

神樹椎苗 >  
「――『第一助手』!?」

 その判断の早さは、椎苗の演算速度に匹敵していた。
 そしてその行動は、椎苗が最速と計算した上で、不可能だと判断した物だった。

(っ、――恐怖を感じない(フィアーレス)、こう働きますか!
 この、馬鹿助手――!)

 少年の腕の中に抱えられたまま、津波を突き抜ける――その時。
 椎苗が感じたのは、悍ましいまでの悪意、そして――そこにある確かな神性(・・)だった。

「――ぅぐっ、えふっ、は、ぁっ」

 意識を失いかける少年の腕から這い出し、見上げる。
 視線の先には、うねりながら向きを変える津波――いや、もはや黒い蛇とでもいうべきモノだった。

「敵と認識すると反応する、自動防御、と言った所ですか。
 ほんとに――クソ、笑えねーんですよ」

 助手が、少年が男を見せたのだ。
 なら、その雇い主(パートナー)が踏ん張らないでどうする?

「――虚空蔵書!
 解放――第三定格出力(模倣-疑似神器)!」

 椎苗の前に現れた、黄金の四角形は、瞬時に金色の槍となって、椎苗の右手に納まる。

「お前も寝てねーで力を貸しやがれ、糞槍!
 戦槍、第六定格出力――!」

 左手に納まる蒼い槍。
 その双方が、輝いて力を発揮する。

「浄化寂滅――疑似・天降柱槍(模倣-浄化結界)
 死を想え――吾は、黒き神の使徒也!」

 二本の槍を地面に突き立てる。
 金と蒼の輝きが二人を包むように結界を作り――漆黒の蛇を真っ向から受け止めた。

「――代償転換、持っていきやがれ、腐れ神器共っ!」

 そして、数秒の衝突の後、結界は黒に呑み込まれ――
 

xxxxxx >  
『――二名とも意識はありませんが、バイタルに異常ありません。
 汚染された様子もありませんし、しばらく安静にしていれば目を覚ますかと』

『運がいいよな、あんな量の汚染物質に浸かってなんともないなんて。
 なんだっけ、申請にあったのだと浄化能力と、死神の使徒?
 よくわかんねーけど、すげーよな』

『はいはい、意識が無いからって、患者の前で不躾な話をしない!
 二人とも、他にも巻き込まれた人が運ばれてくるかもしれないんだから、しっかり準備して!』

 ――そんな保健委員たちの声が救護室に響く。
 二人は無事に救助され、大きな怪我もなく、汚染もなく、ベッドに寝かされていた。
 もし、本当に少し、問題があるとすれば。
 少年の腕の中に納まるように、小さな身体がすっぽりと収まって寝息を立てている事だろうか。
 

蘇芳 那由他 > 薄っすらと意識が浮上する。ぼんやりと、何やら青い輝きのようなものが明滅して”不満”を訴えて来る。

――いや…アレしか咄嗟に思いつかなかったんですって…。

蒼い輝き――【破邪の戦槍】の自我へとそう言い訳をかろうじてする。
自分に出来る範囲――を、半歩飛び越えて力を振り絞った上にかなりの無茶をした。
幸い、精神や肉体に致命的な後遺症や反動は無いようだ。

ぼんやりと目覚めた意識――見知らぬ天井、見知らぬ部屋、見知らぬ光景。
――いや、ちょっとだけ記憶に或る。――ここは救護室の筈だ。つまり…あれから何とか助かった?

「…う…何か気持ち悪い…。」

どうやら、五体満足で無事だったものの、多少なり不調はまだ残っているらしい。
逆に言えば、あの汚染源の正体を看破し、更にあの津波から逃げ切ったにしては軽いものだろう。

「――…と、いうか…。」

何か腕に抱いているのか僕は。そちらを見た――そして固まった。何で椎苗さんがひっついて寝てるんですかね!?

「ちょっ、どうし――あ、痛ったぁ!?」

身を起こした瞬間に激痛。…訂正、どうやら反動はしっかりあったらしい。
おそらく、あの津波を神器の力で強引に突破した際の”反発”による肉体への副作用だろう。
筋肉痛と似ているが、何というか骨まで痛い。逆に言えばそれ以外は何ともない。

「――痛てて…お互い生きてて何よりですけど…これはなぁ…。」

もう救護の人達にばっちり見られてるだろうし、何て言い訳しても墓穴掘りそうだ。
そのまま、疲れたようにまた目を閉じる。雇用主さんを抱いたままだが、まぁいいか。

「…報告は…椎苗さんが…起きたら…提出…しようかな…。」

汚染源の正体が一先ず判明したから、対策なども立てやすいだろう。
問題は、あの”四つの光”…自分は平気だったが、アレは神性や彼女にまで何か影響を与えていた。

――その一端が【恐怖】だと彼は理解できないまま、意識がまた自然と落ちていく。

蘇芳 那由他 > ――ちなみに、余談ではあるが起きたら救護の人達にからかわれたのは言うまでもない。
>  
「――まさかこんな結果になるとはね。
 輸送されていた星核(せいかく)は四つあった。
 一つは『流動』、もう一つは『浮生』、それに『堅牢』」

 青年の薄っすらと開いた赤い瞳が、モニターの中に転送された映像を見つめていた。
 そして、気遣うように、隣へと視線を向ける。
 首の後ろで細く束ねられた、長い鉛色の髪が揺れる。

「――それに」

 そこには桃色の髪を靡かせ、長くとがった耳と空色の瞳をモニターに集中させる、少女の立体映像。
 その視線はモニターの四つの光、更にその一つに釘付けになっていた。
 

エデン-H-プランク >  
「――ああ、そんなところにいたのね」

 なつかしさと愛おしさで、感情が溢れんばかりの声が零れる。
 無意識にその白く長く、美しい手がモニターへと真っすぐ伸ばされた。

「――『無限』の星核」

 その表情は切なそうにも、嬉しそうにも見える。

「――メビウス」
 

ご案内:「Free2 未開拓地区:汚染区画/汚染源探査作戦」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「Free2 未開拓地区:汚染区画/汚染源探査作戦」から蘇芳 那由他さんが去りました。