2025/02/17 のログ
ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」に御津羽つるぎさんが現れました。
ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」に九耀 湧梧さんが現れました。
御津羽つるぎ >  
落第街の廃ビルのひとつ。
地下駐車場管理室を改造した空間に明かりが灯る。
無味乾燥なビジネスオフィス風の空間に、紅白装束の女ひとつ。

「ほぅ…」

湯呑みの中身を頂いて、応接用のソファでくつろいでいた。
安価な量販品だが、当世品の滋味は確かだ。

「お仕事のあとのおやつは染みますねえ。もう冬も真っ盛り…あら…。
 もう二月でしたっけ。そろそろ桜の季節。ううん、時の流れ、年々速くなってるような」

糸のように細い瞳が、壁掛け時計をちろりと伺った。
時の頃如何ほどだろう。地下からでは時刻も外の情景も伺えぬ。

九耀 湧梧 >  
こつり、こつり。
足音が落第街を往く。
足音の主は、黒いコートを着た男。
和の鎧を思わせる造形の、右腕全体を覆う装甲状の篭手が特徴的だ。

「……部活「韴霊」か。何とも大仰な名前だが。」

手にしたチラシ、其処に書かれた簡単な地図を参考に足を進め、
やがて見つけたるは目印となる廃ビル。

「此処か。さて、呼び鈴……なんて気の利いたものはないか。」

一つ白い息を吐き、地下の駐車場へと向かって一歩、また一歩。

こつり、こつりと足音が響く。

御津羽つるぎ >  
乗り入れ口のシャッターが空いているのが主の在所の報せとなっている。
傾斜した坂を下ってたどり着くは、等間隔に配置された柱の建つ捨てっぱなしの駐車場。
乗用車の類は一切なく、広々とした空間に何かが置いてあるわけでもなし。

無駄遣い甚だしい空間を入って側面側、非常口の誘導表示の下に、同様の看板と自動ドア。
ドア側面にあるセンサーが、学生手帳で解錠できる唯一にして絶対の関門。
こんな場所にあっても、いちおう正規に届け出て運営されている部活なのだ。

扉から覗き見られるのは、なんとも幸せそうにいちご大福を頬張る長身の女。
営業中であるらしい。少なくとも受け付ける人間に事欠く事態にはならぬ様。

九耀 湧梧 >  
「ふむ。」

遠目から、幸せそうに菓子を頂いている女性の姿が扉から見える。
目が良い。


「どうやら、営業中らしい。しかし、さて。」

ドアの横のセンサー。
恐らくは身分証か何かを使って開くタイプだろう。
一番のネックが此処に来て引っ掛かって来た。
そう、この男、身分証を持たない不法入島者なのである。

「――ま、考えても仕方がない。駄目だったらその時はその時だ。」

暢気に結論を出すと、ゆるりと自動ドアに向かう。
開かない事を確認したら、右の手で軽くこつこつとノック。

鍵がないなら開けて貰おうという、なんとも行き当たりばったりなやり方だ。

御津羽つるぎ >  
ノックされてようやく振り向いた。
強化ガラスの向こうにいる男に、開いているのかいないのか、はっきりしない目を向けて。

「あら…?」

のんびりと立ち上がる。スリッパが地面をもそもそと踏んでいた。
ガラス一枚隔てて相立ち向かう二つ。臆する様子も無いなれど、ただ不審と怪訝が寄った眉にのぼっていた。
内側の壁、外からは死角になる側を指先でふれると、センサーの下部からブツリと音が響く。

『どうされました?道に迷っちゃったとか…いやですよねえ、このあたり不親切で』

インターフォン越しに、音質の悪い女の声が苦笑混じりに投げかけられる。
如何にもよく迷ってますという物言いが響く場所には恐らくマイクもついていた。

九耀 湧梧 >  
「はい、どうもおはようさん。」

インターフォンから声が聞こえてくれば、至って普通にそんな挨拶。
それから、一枚のチラシを左手でひょいと見えるように持ち上げる。
「韴霊」の文字がばっちり書かれたチラシだ。

「――この工房、地図で間違ってないなら、此処で合ってるかい?
刀の取り扱いがあるなら、部品にガタが来ていないか、点検と…
必要なら整備や交換を頼みたいんだが。」

と、インターフォン越しにそうお話。
どうやら迷子ではなく、お仕事を頼みに来た方の模様。
一見、刀の類は持っていないようだが…さて。

御津羽つるぎ >  
『ああ~!』

言葉に重ねるようにして、上機嫌な声が上がる。
広い裾から出た手を胸前に合わせ、ぱんと乾いた音もマイクが拾ったようだった。

『はあい。刃物・金物取り扱いの韴霊(ふつのみたま)です。
 制作も研ぎも承ってます。お代は内容と納期次第ということで』

その両手がスッ、と指し示したのは今しがた声が届いた側面の装置。

『そちらに学生手帳を翳して頂ければ入れますのでぇ』

学園の一部。正規の部活。あまりにも厚い壁が立ちはだかる。
腕利きなら薄紙同然のガラスであろうとも、物理的強度でない壁だ。

『…と言う訳にはいかないご事情がおありと見ます。
 刀剣工なら落第街にも数知れず、敢えての(わたくし)にご用命とは。
 ですが此方も立場と体面がありますので先ずは、立ち話からで?』

開けるか否かは要件次第だとのたまって薄ら笑みを浮かべる。
ふっかけ放題の物言いは腕も利いた自負そのもの、何だかんだ常世島が長い身だ。
清き水のみに生きる魚であろう筈もなし。

九耀 湧梧 >  
「察して頂いたようで、こちらとしては助かる。」

身分証がない、という事について、ある程度察しては貰えたようで、軽く肩を竦める。
説明の手間がある程度省けるのは有難い。

「お察しの通り、所謂不法入島者の身分さ。当然、公の身分なんて持ってない。
話せば長くなるからざっくり省くと……ま、アレだ。追っかけてる女の事で、な。」

軽く息吐き、また肩を竦める。

「…相手も不法入島者。それも、恐らく表じゃ手配がかかってるだろう身分。
追いかけて回るのには……少し、表向きの身分って奴が枷になっちまうものでな。」

追いかけている、とは言っても「捕縛」を目的とはしない。
そして、それを続けるには公の身分が邪魔になってしまう。
更に、「男と女」。
――其処までくれば、凡その事情は察する事が出来るだろうか。
何時の時代も、逃げる女を追う男は大変である。

「此処を選んだのは――単純に、噂で聞く数が一番多かったから、かね。
この位しか宣伝を出してないのに噂になる、って事は…つまり「アタリ」ってとこだろ。
命を預ける得物を任せるんだ、頼む相手は相応の匠に頼みたいってのが刀振ってる人間の心理さ。」

選んだ理由も至極単純。
此処が「一番腕が良い」と判断したから、という、ただそれだけの、しかし確たる理由。

御津羽つるぎ >  
『ふん、ふん、ふん…』

言葉の端々に頷く、聞いているのかいないのか。
問いは末尾まで差し挟むことはなかったが、色良く興が乗るには火付きの遅い性質(たち)らしい。

『風紀や公安となると枷もかかるようですからねえ。
 縁故からは遠ざけられる、私には縁遠い事、聞きかじるばかりの遠い国のことのようで…』

基本的な権利と天秤にかけなお傾く女を追う男を前にすらば一つ。

『創れぬものなしとは言いませんが、はい。
 この私めの手、神話や理外の利器(ぶき)だろうとも仕事に差し支えはございませんねえ』

驕り高ぶる事もなければ声弾ませる事もなし。評価に餓えた女でなし。
腕の利く刀工が此処に居る。明々白々たる事実に頷く。

『但し私は故あってたくさんのお金を必要としていますし。
 仕事を選んでしまってもなんとかなっちゃっている"おおあたり"が腕を振るう為には。
 研ぐ刀の使途を確かとしたうえで、提示された報酬次第でしょうか?』

興をそそるは男と女、追う側と追われる側に身をやつす男の在り方。
しかし恋物語に細目は輝かせずして、何ゆえ御津羽つるぎの腕を求めるのかを定めたがった。

九耀 湧梧 >  
「ふむ、其処まで言い切るなら尚良い。」

神話や理外の得物であろうと差支えなし、とまで言い切る様に、黒いコートの男は一つ頷く。
其処までの言葉を吐くなら、そしてその言葉に恥じないなら、然るべき報酬は提示するべきだろう、と。

「刀については――――何と言うか、少しばかり特殊なものでな。
こればかりは実物を見て貰わないと、説明が難しい。
なので、其処をすっ飛ばして報酬の話になるが。」

其処まで言葉にすると、チラシを折り畳んでポケットにしまい、代わりに黒いコートの中へと手を回す。
次の瞬間、まるでその裏地のポケットから取り出したように、ずるりと現れたのはジュラルミン製のケース。
中に札束辺りがよくつめられていそうな代物だが、

「生憎、此処で通用する現金がなくて、「現物払い」になっちまうのだけは謝っておく。」

その言葉と同時に、ロックを外して蓋を開けば――中に納まっているのは、インゴットが10本程。
銀によく似ているが…少し、色味が違う。もう少し、異なる色味を放つ、奇妙な金属。

純度99オーバーのミスリル銀のインゴットだ
出す所に出せば……そうさな、一本で最低でも100万そこらは下らないと思うが。」

とんでもないものを持ち出して来た。
一本で最低100万近い代物。出す所を考えて出せば…それ以上の値が付くだろう。

「勿論、必要なら懐にそのまま入れて貰っても構わんぜ。」

御津羽つるぎ >  
『ぶっ』

がん、と強化ガラスが衝撃を受けて鈍い音を立てる。
前進しようとしてガラスに阻まれたのだ。それ以上進めないことを遅れて理解して離れる。

『…こほん!おほん!
 これはまた随分と希少な品。まさしく!私にとっては値千金では御座いますね』

架空の金属…と言われていたミスリル銀鉱、それも高純度となれば値段以上に希少性に重きが置かれる。
金があっても買おうと思って買い付けられるものでなし、在庫無しの常連である。
言うが早いか解錠せんとする。話は聞く構えを見せた。成約するかは不透明。
然して報酬額は何するにも十分な備えがあると見た。素寒貧の相手をするつもりはなかったのだ。

『…念のために訊いておきますが、盗んだものとかじゃないですよ…ね?』

停止。大事なことだった。犯罪の片棒を担がされてお縄となるのはもう御免。
なにぶん、品が品、人が人。そこにあったものが札束であっても同様の反応はしただろう。
希少金属は札束よりは足元を辿りやすいものではある。

九耀 湧梧 >  
「ああ、其処(出所)については後ろ暗い物じゃない事は保証するぜ。」

盗んだものではないか、との問いには言いよどむ事もなく、すらりと返事。
これが盗品だったらとんだ根性の持ち主だが、此処まで自信を持って言い切る以上、
逆に盗品や出自の暗い代物でない事を本人が自信を持っているとしか思えない。

「此処に来るより前…前にいた世界で色々仕事をしていた時に、専属で雇われてた雇い主から
仕事の報酬で頂いたものだ。
この手の貴金属類なら、世界を跨いでも金になるだろうってな。

勿論、その雇い主も後ろ暗い所はない。材料から集めて、自分で精製してるそうだ。」

こんなものを精製して、しかも報酬、場合によっては活動資金ともなる形で渡してるとは、どんな相手なのか。
兎も角、言葉を信じるならまっとうな手段で作られた代物と見て間違いないだろう。

「流石に身分証がない人間が貴金属店に持ち込んでも怪しまれるだろうからな。
此処に来てからも使い道が中々見つからなかった。」

最もである。

御津羽つるぎ >  
『ははぁ。世界によってはこの地球よりも採掘されるとは聞き及んではいますけどぉ…』

盗難事件の類の報は、故あって自分の耳に届きやすい。
肝要なのはこれが後々の問題に繋がらない事。火種とならぬならたとえ血が散っていても良しと心得る。
暫しの勘案ののち、短い電子音が鳴った。丁度扉の中央の切れ目から、ガラスが左右にスライドする。
暖房の風が押し出されるようにして、男のほうに吹き付けた。

「では商談と致しましょう。此方へどうぞ、ええと。
 あっ。(わたくし)、名を御津羽つるぎ。業の由来は伏させて頂きまして。
 ここ韴霊、唯一の部員にして、一端の金物工としてご飯の種を頂戴しております」

一礼ののち案内するは零細企業の応接室…白い壁に天井、かけごこちのいいソファセット。
机の上に乗っていた湯呑みと大福を片付けながらに、応対の支度にほんの僅かな時間を乞うて奥へ引っ込む。
戻るなり、暖かな茶と菓子が供されよう。一応の体裁だ。

九耀 湧梧 >  
「はいよ、それじゃ失礼。」

スライドするガラス扉には特に驚くでもなく。
姿こそ異邦人ではあっても、根本的な文化常識などはこちらの世界に近いのかもしれない。
そのまま、お邪魔しますよっと入店すれば案内に従い、応接室に。
蓋が開いたままのミスリル銀入りケースを邪魔にならないように置くと、やってきた茶と菓子に軽く謝意。

「ご丁寧にどうも。
九耀湧梧だ。今更だが、所謂異邦人で…今は不法入島者の身分。

廃業してから随分になるが、以前は落第街(ここら)で【刀剣狩り(ブレードイーター)】なんて呼ばれてもいた。」

少し噂に詳しければ、耳には届いていよう。
『落第街で魔剣は持つな』の噂。
身の丈に合わぬ剣を持てば――それを奪いに現れる剣士の話。

最も、その噂もぷっつりと途絶えて久しい。
昨年の秋ごろには、既に聞かれなくなった名前だ。

「で…整備を頼みたい代物だが、こっちになる。」

再びコートの裏地に手を回し、するりと取り出したのは…刃渡り三尺と言う所の鞘に収まった刀。
見る者が見れば、使いこまれた跡が目立つのが分かる。

「自分でも手入れはしてたんだが――それでも限界はあってな。
そんな時に此処のチラシを手に入れて、折角だから部品の点検や交換について、
「専門家」の見立てや、必要なら整備も頼もうかと思ってな。」

そっと机の上に、音を立てぬように置く。
それでも、どこかずしりと重そうな雰囲気。見た目通りの重さ、とは思わない方が良さそう。

御津羽つるぎ >  
「ああ…ああ~」

自分の分の新しいお茶を啜りながら、聞くだに零れた吐息は滋味ゆえではない。

「風紀委員会からきつく言われておりますよ。
 啖劍の男に女、それぞれにはくれぐれも関わってくれるなと。
 なるほどなるほど、湧梧さんがそうだったんですね……しかし何処かで倒れられたとばかり。
 壮健だったんですね。こうしてお仕事をくださるのですから有り難い事で」

邪魔にならぬサイドボードに茶を休めるなり、依頼の品を覗こう。

「まるで手品のよう。魔剣の数々を持ち運んでいる種がそれなのですね。
 蔵荒らしに困らせられることはなさそうで…あら」

長尺ではあるが、大柄な人間が増え、日本人でない者も刀を握る当世で三尺刀は珍しくない。

「………」

この品に覚えがある気がして言葉が止まる。

「こちらの品は?
 随分と長く使っておられるご様子で。
 あなたが刀剣狩り(あなた)となるまでの噂の落ち葉の一枚のような、
 誰かから狩ったものでは無い…ような…気がします」

九耀 湧梧 >  
「おっと、やっぱり届く所には届いていたか。
ああ、そっちの「女」の方が俺が追っかけてる女さ。
半分は「仕事」もあったが、あの女を引っ張り出すには、興味を惹きそうな刀や剣を先に奪ってしまえばいい。
ま、お陰でしっかり目もつけられたし、公安委員の怖いお兄さんから釘も刺されたからな。」

つまり、最初から追いかけていた相手狙いの所業。
刀剣狩りの手にかかって、剣は奪われても命を奪われる者がいなかったのも、それが理由だろう。
何とも不器用な真似をする事である。

「そっちについては仕事の上での秘密、という事で。
まあ、直ぐに出せないと困るものは基本的にこちらに仕舞ってあるがな。」

と、そこで店主である女性からの疑問の声。
誰かから狩ったものではない、と言う見立てに、軽く口笛。

「――中々目が良い。

確かに、これは「狩った」ものじゃない。
俺が此処に来る以前…別の世界で拠点にしていた、ある剣術を伝えていた
総本山の跡地で、偶然発見した物だ。
残っていた型やら何やらを記した技術書の他には、もう誰も滞在した様子の無い、遺跡同然の場所だった。」

言いながら、失礼、と改めて刀を手に取り、すらりと引き抜く。
鞘の中から現れたのは――奇怪極まる刀身。

見た目はまるで黄金、あるいは伝承にあるヒヒイロカネの如く輝いている……が、その刀身には、
はっきりと、見て分かる程に「木目」が現れて見える。
木を削って作った、竹光にも見える刀身。当然ながら「刃」などついてはいない。

「随分前に一度戻った時、前は見つからなかった隠し部屋に置かれてたモノだ。
どうも、「皆伝」となった人間の手に渡る代物だったらしい。
少し烏滸がましい気もしたが、今は預かって使わせて貰ってる。」

御津羽つるぎ >  
「…確かに、これは…」

木刀だ。
金物屋に出す代物では到底ない。
剣の形をしているだけと判ずる事も出来ようとも。
 
「私に手入れを依頼するということは、取り扱いは遺されていなかったんですね。
 …武器というよりは、その一門の証書代わりなのかもしれません」

よく斬れる刀というならほかにいくらでも心当たりがありそうだ。
その外套の裏地に一山いくらで転がっていそうなのに。

「まるで鋼よりも重いかのようですね。
 先日似たような性質を備えた品を見て、いたく興味をそそられまして。
 製法も材質も未知の逸品という意味では同一ですが、もしかしたら…いえ……さて…」

矯めつ眇めつ、如何に?見定めんとする目も一旦、乗り出した身を戻した。

「…先ず、湧梧さんはこれを何に?そして、これで何を成されようと?」

武器の使途の話だ。
報酬額は見合ってはいるが其処が肝要。この奇劍を振るう由や如何に。