2025/02/18 のログ
九耀 湧梧 >  
「ああ。造りそのものは、日本刀とほぼ同じだったお陰で、分解して部品に問題がないか確かめたり、
俺にも出来る範囲の整備をする事は出来た。
だが、流石に使っている時間が長くてな…。」

つまり、専門家の方で各種の部品にガタが来ていないか、その場合に修繕か、あるいは部品の取り換えが可能か。
それを確かめるというのが来訪の理由だった。

「ああ、実際其処らの鉄製品より余程重い。
一緒に残されてた書物から、緋々金樹という鋼より固い木を何とか削って、
更に呪術付与を重ねて作った刀身だというのが分かっているがな。」

似たような性質の品、と言われれば、微かに眉が動く。
とはいえ、あまり其処には突っ込まず、先ずは問いに。

「――刀を振るう為の技は、振るう刀の鋭さに左右されてよい物であるか
まあ、ざっくり言えば切れ味の良い得物に頼って、肝心の「技」が蔑ろにされてはいないか、って「問い掛け」だ。

本当に極まった技であるなら刃の有無に関係なく斬れるべきである
それが、この刀がこさえられた理由らしい。」

失礼、と刀を持ち直し、ポケットの中から懐紙を取り出す。
軽い呼吸音と共に「何か」を手にした刃の無い刀に込め、刃に当たる場所目掛けて懐紙を落とせば――

「……ま、こんな事位は出来るようにはなっている。」

その言葉と共に、刃がない筈の刀身に落ちた懐紙は、まるで業物の刃に触れたかのように真っ二つに。
息と共に気を抜き、その刃を撫でれば――その指には傷などつくはずもなく。

「神剣名剣魔剣――そんなモノに頼らずとも、修めた技があれば「斬れる」。
今は亡い先人諸兄に代わって、それを証明してみせたくてな。

まあ、下手に命を奪わないよう加減するのに、元々刃がないこいつはうってつけだった、ってのもあるが。」

最後は随分と俗っぽい、ものぐさな理由。
とは言え――どれだけ丈夫な代物に呪術付与を重ね、鍛えた所で、刃の無い刀では普通は「斬れない」。
尋常な剣客には、全く以て無用の代物。
だからこそ、「技のみ」で「斬る」事が可能か否かを確かめるには、これ以上に適した刀もない。

御津羽つるぎ >  
「鋼鉄に勝る霊木に大層興味はありますが、お譲り戴くのは難しそう。
 いつぞやの逸品も、どうにか買い付けられないかと苦心してはおりますけれど。
 …(こしらえ)の検めも勿論やってますからね。特異なものでない限りお代は安くあがるかと」

この奇怪な刃そのものでなく、剣という道具全体の点検。
専門家の目方が欲しいというのはよくわかった。
 
「……………(わざ)

男の語り口は確かな実感も含蓄も備わったものである。その言葉を聞き流したわけではない。
何気なしに成した事は、そも刃を備えた鉄剣でさえそう成せるものではない。
ある程度でも剣に覚えがあるのなら、木を刃たらしめた絶秘に何かしら感じ入るものがあろう。

「ですか」

薄く開いた瞳はそれをまじまじと凝視していた。
感嘆することはなかった。何故ならそれを測ることができなかったから。
恐懼することはなかった。男が語るにそういうものなのだろうと素直に解釈した。

「成る程」

それを見つめた瞳には何か然し、強い情念が宿った。
殺意や敵意に似て然し、非なるもの。ただただ『剣士』の在り方を見つめていた。
男の顔すら見ず、返された木剣の据えを、断ち切られた紙をその両手を。

「どれほど剣を振るったら、そこまでの技を会得できるのでしょう。
 …あっ、いえ、独り言です…、うん、詳しく知りたいとかそういうわけでも」

なんとなしに呟いた言葉を、慌てて手を振って取り消した。
女の両手の掌は、それこそ槌などの道具を握り込んだことで硬くなっていることが目視でもわかろう。

「翻って湧梧さん。
 "剣はその鋭きによって人心惑わすべからず"と、そう仰りたい。
 先ず、『技』がある…と、門外の私は解釈致しましたが…?」

問うは如何な剣士か。そういった話。
この(どうぐ)を以て如何に生きているかと。

九耀 湧梧 >  
「流石に「これ」と同じ物はな…。
呪術付与のされていない、数段格の落ちる代物なら、あの跡地に幾らか残っていたが。」

多分、まだ道場として機能していた時に練習用に使ってたんだろう、と言いながら、
刃の無い刀をすらりと鞘に収める。

そうして、店主の問い掛けには髭の生えた顎を軽くさすりながら一つ頷く。

「ああ。刀を振るう以上、「技」がなくては始まらない。
だが――なまじよく出来た名刀を、半端に修めた者が手にしたら。
何処までが自分の技で、何処からが「刀のお陰」かを忘れちまう。

何も未熟者に限った話じゃない。
剣を持ち、振る人間には…どれだけ技と腕を磨いた所で、ついて回る問題だと俺は思ってる。

剣は飽くまで「武器」でしかない。その領分を超えるのは…使い手の未熟の証左だ。
超常の力を持った魔剣の類なら猶更、な。

武器を使うのは「技を修めた者」だ。武器に「使われる」ようじゃいけない。

――ま、これも俺の出した答えに過ぎない。
他人にまで俺の答えを押し付ける気はさらさらないがな。」

そう、最後に飄々と言ってのけてから、再び鞘に収まった刃の無い刀を机にそっと置き直す。

御津羽つるぎ >  
「いえ、いえ!」

乾いた音。
胸前で打ち合わされた両手は、祈るように指を組まれる。

「明朗にて、素晴らしいお考えを頂きました。
 剣と技について一家言あられる。『剣士』さまと話をするのはとても」

糸の目は上機嫌に緩み、声弾ませた。
正否ならずそうして語る、剣への価値観を受け取ったことを有意義と測る。
視線に気づくならこの者、眼前の人間の顔を目をほとんど視ていない。
興味がない。他人に一切の興味がない。人間に微塵の興味もない。
ただ、語られた一つの、剣士の道を、子供のようにはしゃいで味わっていた。

「…とても、刺激になりますから」

嚥下するが如く頷き。

「道具であるなら、使い手が未熟であっても結果を齎すことが求められることも御座います。
 たとえば炊飯器、ですとか…あれ、火加減がわからなくても美味しいお米が炊けますよね。
 簡単にお肉やお野菜が切れる、刃こぼれしない、頑丈な手入れ要らずの包丁が、
 悪い剣かどうかというと難しいですけど…そう、道具はあくまで道具でしかないのです」

主体は剣ではなく、剣士。
そこにはただ楽しむだけでない共感のようなものをのぞかせたが、
剣士が語るその理念と、刀工が語るその理想とは、随分と何か遠い隔たりがあった。

「話が戻って来るんですが、それで斬りたいものがあるわけではないのですね。
 てっきり、話に聞くは刀を狩るもうひとり…
 あの女性に対する秘中の秘、頼みの綱として磨いて欲しいと仰るのかと…?」

戦闘が、剣士の華の咲き方のひとつと解するロマンチシズムは持っていた。
だからその剣、長く連れ添った道具にその女性がかかわらぬことが、少し意外だったと本心を明かした。

九耀 湧梧 >  
「む、確かにそう言われると少し反論に困るな。」

店主の語る「道具」についての論に耳を傾ければ、軽く首を横に傾げ、再び顎を撫ぜる。
何処かおどけたような雰囲気のある調子。

そして、もうひとり――剣を蒐める女の事となれば、また少し真剣な雰囲気。

「ああ、成程…そちらの方にも興味が。
いや、確かにあの女とまた事を交える時にはこいつを使うだろう。
その時になって、俺の見えない所でガタが来て不覚を取る…という真似は、みっともないにも程がある。

そこへの備えもあって、この刀の点検整備を頼みたいと思ってな。
あの女の刀とまともにやり合うには、やはりこれ位しか適した得物がない。

ただ――もしもあの女が「本気」を出し始めたら……」

ひとつ、考えるように息を吐く。
返事は少しばかり重く。

「……その時は、また「奥の手」を引っ張らないといけないか、とは思っている。
こいつの出番がなくなるし、外法も良い所だから、あまり使いたくはないんだがな。」

詳細については躊躇いがちに。
訊ねられれば、答える準備はありそうだが、さて。

御津羽つるぎ >  
「どんな御方なのでしょうね。
 剣について如何に考えておられるのか。
 剣でもって如何なことを成されるのか。
 そういう興味はございます…生きておられるうちに一度お会いしたいのですが。
 なにぶん、風紀委員会にやるなと言われたことには逆らえないものでして…」

回らぬ縁もあるのかもしれない。
 
「…(わたくし)は、剣術のことがとんとわからないのです」

男の言葉に、重ねたるはそもそもの部分。
技芸に反応をしなかった。戦いに胸踊らせることもしなかった。
まるで物語を読むようにして男を通して二人の剣士の逢瀬を思い描く。

「剣のこともわかっているとは言い難いところです。
 剣を愛していたり、剣を好んでいるから、剣を作っている…訳ではないんですよね。
 それでも私は、剣は『使い手の要望に応える』必要があると考えております。
 願望ではなく要望を…道具として必要最低限と十分の機能を備えている品が」

作刀者として、必要以上の力を授けることもない。
語るは自分なりの結論と思想。剣という存在への認識と向き合い方。

佳き剣であると考えております」

そうして築いた刀塚が一廉の刀工を磨き上げた。

「この剣は何に扱うものなのか。この剣を如何に使う剣士なのか。
 仕事をする上では肝心要のことですので、問いを重ねさせて頂きました。
 これは、彼の女性を殺す為の(どうぐ)ではないこととは判りました」

ゆったりとした紅白装束に隠れた肩が、わかりやすく上下した。

「秘中の秘を取り扱ういろはも刀工(わたくし)にはありません。
 ですので、詳しいことはあなたがたの因縁(ものがたり)がほどけた先で。
 仔細を訊けるだけ、何れかの言の葉から伝え聞くと致しましょう。
 一度見せた奥の手を、返して見せるのも物語の大一番、何が起こったかはその時に」

この木剣を手入れするにおいて、両者の因縁は自分は踏み込めない領域。
翻っては仕事に望むための不純物。くすぶる興味は"いずれ"に託し。
今は男の「技」を託される、鋼の如きこの剣に向き合う心算。

「さて!というわけで此方、まずは裸に剥いて拵えを確かめさせてくださいな。
 末永く、佳ーく使えるよう、私なりの心尽くしを致しますので…そうですね、まずは…」

手袋を嵌め直し第一段。色々中身を見るつもり。
柄巻などは在庫もあるが、交換するにも換える前との違和を完全に排除しなければならない。
"複製"も"模倣"も十八番。おお仕事になる。その前にも問わねばならない。そうまずは、と。

九耀 湧梧 >  
「――そうだな。俺から見た事は語る事が出来るが…いや、やめておこう。」

どんな相手なのだろうという店主の言葉には、敢えて明言を避けた。

「どうにも、あの女の事を語る時は主観が入り過ぎる。
きちんと、出来るだけ主観を排した「あの女」の事を語れるか、自信がない。
――ま、何だ。どんな危ない相手とはいえ、惚れちまった弱みって奴だな。」

そうして、今度は店主の語る言葉に一通り耳を傾けて。
口を挟まず、ただ静かな表情で、その言葉を聞いている。
否定も肯定もする事はなく、ただ静かに聞き終えれば、1つ深々と礼を。

「――引き受けて貰い、感謝する。
いずれその時が来たら、その時は俺の方から語れるだけの事を語ろう。」

ごく短い、しかし深い謝意の籠る言葉。
そうして仕事前の拵えの確認に移れば、

「っと、それならまずは――――」

と、こちらも中身の分解に自身の整備経験からの証言を開始。

そうして拵えを確かめれば――拵えは、ほぼほぼ打刀のそれと同じである。
茎には、随分と刻むのに苦労したであろう薄い刻み文字で「大金剛久々能智」の銘が刻まれるだけ。
作った者の名前などは何処にもない。
名を遺す事など考えず、鋼よりもなお固く、重く、頑丈な妖木で出来た、
刃の無い刀身だけを作る事のみに全てを捧げたのか。
それを知る者は、もう何処にも居ない。

刀身以外の部品については、確かに手入れをしっかりしている痕跡が見て取れるだろう。
だが、それでも消耗・劣化は避けがたいもので。
特に、柄の目釘周りと柄巻が弱っているのが分かるだろう。
鍔にも幾らかの傷みが見える。こちらは許容範囲といえば許容範囲であるが。

肝心の刀身については、「緋々金樹」なる代物で出来ているというのは盛った話でもないようで、
傷もなければ擦れた痕もない。
重ねた年月の重みこそあれ、傷みの類はまるで見つからないだろう。

御津羽つるぎ >  
「それはしたり。すべてを訊いていたら、ひょっとしたら浮気でした…?」

冗句か本気か驚き混じり。剣士同士のむくつけき関係と思っていたらしい。
恋情の色が混ざるならなおのこと、知り得ぬ遠い世界のように意識が遠ざかるようだった。
自分の恋に踏み込まれたくないから他者への野暮も控えているし、鈍ちんだ。

「いえ、いえ。作刀ひとつよりは、よほど負担の軽い仕事でございますよ。
 危うい橋でもありますから、もし詰められれば素直に白状してしまうことはご了承くださいませね。
 湧梧さんも長居も出来ないでしょうから、一晩で済ませてしまいましょう」

丁重に丁重に剥がしていく。拵えの使い込みに対して、刃の活き活きぶりは恐るべきもの。

久久能智(くくのち)…)

打たれた銘は先ず問いたかったこと。無銘でなくて良かったと思う。
よもや神木、ないし木神そのもののように思うこの剣は…そう…。

「それと、よければこの刀身、あとで検めさせて頂ければ。
 あ、物体の材質をある程度まで調べられる設備が工房のほうにありまして。
 機械に通すだけなので、お時間は頂きますけども~…削ったり叩いたりはしないのです、が…?」

仕事以上の接触干渉を行うということは、契約に反する狼藉である。
特殊な物質であれば尚も尚。なのでこれにかこつけデータくらいは取っておきたいと言う。

「私が佳き剣を創るために」

九耀 湧梧 >  
「はは、さてな。
ま、そういう訳で何とか振り向いてもらおうと、顔を合わせれば刃を交える日々という訳だ。」

そんな事を宣いながらからりと一笑い。
銘については、手入れの中で既に知っていたのか特に驚く様子もなく。
刀身の材質調査については、こちらも一つ頷く。

「ああ、構わんよ。俺も何度か、知人の伝手で調べて見た事もあったが、
どうにも分からない部分が多かったらしいからな。
科学方面で結果が出るなら興味深くはある。勿論、答えたくないなら否はないが。」

佳き剣を作る為。そうして得られたデータが如何なるものか、そしてどう反映されるのかは、まだ分からぬ事。
――機械に通して出たデータは、植物のようでありながら鉱物・金属類に近しいという、
ある意味とんでもない結果である事は、まだ先の話である。

「――ああ、それと。さっき言ってた、似たような性質の刀、だが――――」

そうして、コートの男の口から出て来るのは、その刀を預けに来たのが書生服姿の少女ではないか、と
いう問いかけと、もし今回の仕事の代金代わりに引き渡す事になるミスリル銀が
仕事の手間賃より高額だったら、その差額分を全額少女の依頼した仕事分に宛てて欲しい、という頼み事。

店主に理由を訊かれれば、こう答える事だろう。

『――流れは違うが、元が同じ流派の技を学んだ同士の誼って奴と、
将来性豊かな若人への先行投資…って奴だ。』

ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」から御津羽つるぎさんが去りました。
ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」から九耀 湧梧さんが去りました。