2025/02/24 のログ
ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」に御津羽つるぎさんが現れました。
ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」に緋月さんが現れました。
■御津羽つるぎ >
預け先からの招致は、彼の侠客、九耀からの言伝がなければ青天の霹靂であろう。
刻限の半年…明確に切られた日付には些か浅い日取りにて自分の領域に幼い客を呼び寄せた。
金回りの話を聞きつけるにも見咎められる程の羽振りの良さが在ったわけでもあるまいに、
然して少女を出迎えた刀工は、歓迎の茶も菓子もなく、
「どうぞぉ」
過日と同じ調子で応えながら、入口まで出迎える運びとなった。
糸のように細い目とゆるい空気のまま、深々と頭を下げる。
「ごめんなさいね、緋月さん。ちょっと伝えづらい事が起こってしまって…ええ…。
お仕事の話…なのですけれど…事務所の奥まで来てくれます…か…?」
入口にて済まなさそうに告げる刀工は切り出しから不穏当な物言いだった。
■緋月 >
「し、失礼します…。」
緊張の面持ちで以て「韴霊」を訪れたのは、暗い赤色の外套に、書生服姿の少女。
服装などこそ変わっていないが、以前とは随分と変わってしまった点が二つ。
「あ、その、この顔とかの事はご心配なく…。
特に何か病気とか、悪くなった訳ではないので。」
と、少し慌て気味に告げる少女の髪の色は、以前のグレーではなくより明るいライトグレーに。
赤かった瞳の色も、より鮮やかな血のような色に変わってしまっている。
其処を除けば、雰囲気等々は以前とまるで変わりがない。
「ええと…メッセージ、受け取りました。
至急お話したい事があるという事で、急いで来ましたけど…もしかして、何か不都合でもありましたか!?」
焦り気味に、そう訊ねる少女。
まるで事情が掴めていない様子である。
それもその筈――――
『――約束して貰いたい事がひとつ。
それは、あのお嬢ちゃんには俺の正体や存在について伝えないで欲しい、という事だ。
当然、お嬢ちゃんの方も俺の事は全く知らない。
以前に一度だけまともに顔を合わせた時は、顔を隠していたんでな。』
――工房の主たる女性に、黒いコートの男が最後に伝えた条項。
余剰分の代金を全額、書生服姿の少女の依頼に回す代わりに要求された、唯一の約束。
恐らく、それが最も工房の主の女性の頭を悩ます要求であろう。
何とかして、決して少なくない金額を肩代わりした人間の正体を隠さねばならないのだから。
■御津羽つるぎ >
(随分な無理難題を押し付けられてしまいましたねえ…)
仕事の報酬額としては多すぎるほどのミスリル銀のインゴット。
あれらを多方面への口止め料と考えることでようやく帳尻が合う。
久々能智と銘打たれた木刀の拵え改めは兎も角、預かっている品は公に引き受けた依頼。
委員会へ背を向けながら更には焦る少女を納得させる嘘を用立てなければならない…
(…、……、………、…………、)
様変わりした少女を眼前に世間話を切り出す事もできていない。
「ひ、一先ずですね…此方へおいでなさってください。
不都合はないのですが、ええ、と、そぅ…」
ひんやりした地下駐車場から暖房の効いた事務所へ。
更にその奥には廊下があり給湯室などがうかがえる中、更に地下へ降りる階段があった。
それは一つ踊り場を介して、わずか一階層分を降りるとすぐに扉がある。
「私の作業場です。普段は人に見せないのですが、ええ。
と、その…緋月さ…ん…は…」
歩む道すがらものすごく歯切れの悪い言葉を紡ぎつつ一縷の望みを託した。
「…いつぞやかその剣で、人を助くる因を果たしましたね」
(お願い~!そういうことしたことある人であってください~!)
玄妙な口調の裏で甲斐甲斐しく祈祷しながら、顔を向けぬ長身の背が問う。
■緋月 >
「は、はぁ……では失礼しまして。」
何やら困っているような雰囲気の女性の後に続き、書生服姿の少女もまた作業場へ。
何か口に出すのに困るような事でもあったのだろうか、と、長身の女性の様子に内心首を傾げつつ、
失礼します、と断りと一礼を持って入室。
「人を、助ける、ですか?」
少しばかり呆気にとられたというか、鳩が豆鉄砲喰らったような表情。
僅かに時間を置き、ああ、と、息を吐く。
「――――随分前になります。そう、昨年の6月頃でしたか。
もしかしたら、つるぎさんの方にも「機界魔人」のお噂は届いているかも知れませんね。」
最早、終結から時が大きく過ぎ去ってしまい、遠くなったかつての噂話。
その事件の、ほんの一頁の事。
「私がまだこちらに来て間もない頃、彼の者に襲われていた女性を助けた事がありました。
生憎と、逃げるように声をかけてその場から逃がし……その時限りの縁でしたが。」
遠くを眺めるような雰囲気で、そう答える。
かの魔人…だった人との縁は、今も尚続いている――と、ふと思ってしまうような記憶だった。
■御津羽つるぎ >
「ええ」
(きかいまじん…?)
隔絶された庵に暮らす刀工に、かの暴虐を報せられる伝手は無かった。
だがこの少女がそうした事件に行き当たっていた事実は僥倖である。
内心ガッツポーズを取りながらも言葉を続け、木戸に指を触れると扉が不意に浮くような感触。
「ふふふ、語って頂いた通り…ですねえ。
出自から何から、まさしく剣士らしい在り様!
そちらの女性…かは私には判らないのですが、不思議な依頼を受けてしまいまして。
恐らくその件で助けられた…と感じ入った御方、かと思われます、はい」
物語の妄想には一日の長がある。
とは言え語りすぎても襤褸が出よう、誤魔化し誤魔化し踏み込んだ。
「あ、居心地は良くないと思いますが此方へ」
くつろぐスペースなどない。
広々としてはいるが、冷たい床に置かれた様々な仕事道具。
鉄粉の匂いが舞う其処はまさに刀を磨く場である。
巨大な樽が壁沿いに無数に積まれている。棚には壺から何やら。
そして奥には何か、布を被せて保存してある長物の影…
少女の帯びる月白が何らかの反応を示すやもしれない、預けた贋作の所在だ。
「是非あなたにひとつ鍛ってほしいと。
秘蔵していたというものを、半ば押し付けられてしまって」
棚に収められていた重厚な木箱を、作業台に乗せて開いてみせる。
内張りにおさまった、薄明かりに眩しく輝く銀のインゴットたち。
由来が伝わらぬよう手製の箱へと移し替えてある。
「お返しするも勝手するも困り果て、連絡先も判らぬものですから。
此方、希少なものでして…その、…」
ちょっと苦しいかなとは思いつつも。
「これを作業の代価とするというのは如何でしょう、と。
あ、あ!勿論、お金が用意できたという事でしたらそちらでもね!
えへへへ…いやこれの処遇に困り果てていたものですから。
ご相談ということで…どうでしょうね…?タダでは私も受け取れませんので…」
■緋月 >
「はあ…そんなに私、有名ですかね…。」
長身の女性が語った事に思わず首を傾げ、
「…………有名かも知れませんね、風紀委員内では…。」
思わず冷や汗が流れてしまう。
長身の女性は知らぬ事だが、何しろ件の機界魔人捕縛に大きく関わったのが、
他ならぬ書生服姿の少女だったのである。
風紀委員会でしか、しかも当の委員であっても一般的な役目の人間には
決して知られないよう、秘密裏に扱われている一件である。
そんな事はさて置きつつ、様々な道具に足を引っかけたりしないように気を付けつつ奥へと進めば、
「……?」
腰に差していた刀袋…その中身から、僅かに震えるような反応。
同じモノが呼び合うような、奇妙な感覚。だが、それを少女がまだ知る筈もなし。
「はあ…つまり、私に刀を鍛ってくれ、と何某かを提供してくれたという事ですか?
折角ですけど――」
長らく共にあった愛刀があるから、と断ろうとするより先に、開かれた木箱の中身に思わず目を向く。
木箱の中身がただの鉄の延べ棒でない事は、鍛冶の事には無知…とこそいかないが、
あまり聡くない方である少女でもすぐに分かった。
「こ、これは……銀、ですか!?
いや、何かもっと違う…ただの銀、貴金属の類では、ない…!?」
ぶるり、と思わず背筋が震える。
まさかこんなものを気前よく出して貰えるような徳を積んでいたなど、全く以て思いもよらない。
「め、滅相もない…! 私には過ぎた代物です! これほど見事な鋼は見た事も無い!!
しかし、返す宛てもないというのでは――――。」
そして其処へ、渡りに船と言える提案。
確かにこの金属は相応の高額で売れるであろうとは察しがつく。
自分の為に供されたというのなら――提案に、否はない。
「……そうですね、私には過ぎた代物といえど、提供された物に罪はない。
では、こちらを代金代わりにつるぎさんにお譲りするという事で、お話を進めて貰ってもよいですか!?」
ある程度慣れたとは言え、やはりまだまだ世間知らずの少女。
提示された延べ棒をまるっと残らずお譲りして、依頼の代金代わりにしようと心が決まったらしい。
――貴重な代物を得られた長身の女性にはほくほくものであろう。
■御津羽つるぎ >
「多種多様に呼ばれる品ですが、私の周囲では真銀と。
ミスリル銀でも通っていますね。金額もですがそれ以上に、希少なので。
手にとることが難しい…というような…これならひとふりの修繕代には足りるかと」
にこにこと口に微笑みを浮かべ、商談が成立したことに一つ安堵する。
得難い機が巡ったことに昂ぶる気持ちはあれど、委員会の調査が入ると面倒なことになる。
どこから得たのか、誰から得たのか、公ではないが脛に傷ある身は怪しまれやすい。
提示連絡と調査までに、形にして何処かへ秘め隠さねばなるまい…。それに…
「あなたのいままでと前途、剣士としての生の一つの因果!
と受け取ってみれば、ここで巡ってきたのも縁でございましょう。
やっぱり巡ってくるんですねえ、そういう生き方をしていると…それに。
ちょおっとお高いとは思ってますので、大丈夫かな~~とは…
けっこう心配していたんですよお」
引き換えに、彼女の半身を要求するという目論見は絶えてしまったのが、
少しだけ口惜しくもあるものの…。
姿を晒さず託すのも、人を助くるのも剣士の生き様、なのかもしれない。
剣士であればそういうことができるというわけでもないのかもしれないけれど…。
「…というわけで、仕事のお話!
こちらの書類に署名を頂けましたら、早速作業に取り掛かりますのでっ!」
箱を棚に戻すと、隣に仕舞われていたファイルを引き換えに。
ペンが添えられていて、書面には「技術習熟」を目的に無償で成されること。
そして月白の組成を分析する情報提供を行うこと…。
学園に提出するための方便がこの書類上でまかり通る事になる。
非常によろしくない契約だが致し方ない事だ。ささどうぞ、と両手で促しながら見守る。
■緋月 >
「真銀…初めて聞きます。
希少、ということはそれだけ出回る数が少ないのですね。
――ますます数奇な縁です。
見返りを求めた訳ではないのですが、まさか、半年以上も前の出来事がこうして返って来るとは。」
こちら、長身の女性の話を完全に信じている少女。
希少性には小さく頷いたものの、それを惜しむ風でもなく。
そして、依頼のお値段の事を言われれば、うっと小さく唸りながら汗。
「…先日、護衛の仕事が入って、その分の支払いは入って来たんです。
高額ではありましたけど、何分見積もりには簡単に届きそうにはないので…
もっとお仕事を斡旋して貰えるよう頼むべきか、悩んでた所でした。
まさか、そんな時にこんな縁が降ってくるとは…世の中や人生の巡りというのは本当にわからないものです。」
有難い事、と軽く合掌しつつ、書類を渡されれば几帳面に目を通す。
「ふむふむ…「技術習熟」に、月白の組成の分析、ですか。
確かに、表向きは「部活」でしたね、こちら…。経営も、大変なんですね…。」
と、「無償」の方には何かしら事情があるのだろうと心を配るような雰囲気。
本当に人の良い少女であった。
さらさら、と添えられたペンで「緋月」のサインを行い、
「――と、これでよろしいですか?」
書面が長身の女性の方に向くようにお渡しの姿勢。
サインの方は中々の達筆だった。
■御津羽つるぎ >
他人を騙す事に一切の躊躇はなくとも、其れが運ぶ面倒と災いはなるべく遠ざけたかった。
過日の侠客は学園にまつろわぬ身、いざとなればあちらに追っ手が向くのは仕方なくも。
報復を企てる人間でないとは判ってはいるが、仕事は仕事、此処に嘘はつけない。
一先ず危難は去ったと見た。三方よしが成立し、先までの懊悩も棚に仕舞い込む事とする。
「もっともらしい口実ですが、何か訊かれることがあればそういう事に。
私は変わった刀剣の修繕という経験をあなたに積ませていただき、
そしてそこに携えた異邦の剣を調べることを代価としたということになります。
…ほんっっとうはだめなんですけど、内緒ですよ…?だめなんですけどね」
罰されるのは自分だけではない。由来定かでなし金属を使うというのはそういうこと。
即ち此れを齎した、恩に報いんとした何者かにも追及の手がかかる。
ことまで仄めかしてしまって丸め込もうとする、誰も損はせず傷つきもしない嘘。
「剣を調べさせていただきたいというのは本心ではありますが…
お嫌でしたら、そういうことにしたという事で済ませても問題はありません。
未知の材質、知らない流派と製法…私の求める佳き刀へ至る一助となるやもしれませんから。
でも、まずはお仕事から!はい、確かに頂きまして…あ、相変わらずお綺麗ですね」
以前も見た筆致。確かにと確かめて、二重になった片割れをファイルに、もう片方を封筒に。
恐らく後から封筒は控えとして手渡される段取りだろう。そこで
「相変わらずと言えば緋月さん。
いめちぇんしましたよね。思い切って脱色したなあ~って思ってました!
お目々も…こんたくとれんず、ですかね?」
胸のつっかえがとれたので、様変わりした髪色目色にようやく言及できた。
洒落には覚えもあるらしかった。紅白装束は仕事衣だ。
■緋月 >
「成程、そういう「事になった」と。分かりました、ではそのように。
元より仕事をお願いしている身分です、否はありません。」
中々にグレーなゾーンのお話。
しかし仕事を依頼したのはこちら。請け負った相手の都合なども考えるのが筋であろう。
そんな事を考えている書生服の少女であった。
「ふむ、雪白や月白の事を調べたいのでありましたら…敢えてこちらの要求が通るのであれば
せめて雪白の刀としての体裁が整ってからにお願いしたく。
月白は兎も角、雪白は折れてしまったままでは流石に可哀想ですから…。」
刀を調べたいという言葉には、こちらも仕事を頼んでいる関係上、払える代価は払っておきたいと言う所。
調べる位ならば特に問題もなかろうと判断。
そして、髪の色について話題が及べば、ぎくりとばつの悪い表情。
ちょっと汗が額に浮かんでいる。
「ああ……ええと、その…出来ればここだけの話、内密に。
先程話した、護衛のお仕事で…少しばかり、無茶をして。
その影響で、こんな髪と目になってしまったのです。
色は、もう元には戻らないと言われましたが…幸い、髪と目の色が変わった以外は、特に後遺症はないと。
暫く前まで、顔を洗う時など鏡を見る度にぎょっとしてしまいまいました。」
今は何とか慣れて来ましたけど、と話を畳む。
…どうやら、何事かの事件の影響で変わってしまったようである。
幸い、色以外は後遺症もないようなので、こればかりは慣れか。
「――そういえば、つるぎさんの服、巫女の衣装ですね。
確か、「韴霊」と言えば神の剣。さしずめ、鍛冶仕事はかの神格へ奉納する神楽舞のようなもの…でしょうか?」
もしかしたら違っているのかもしれないが、そんな推測を口に出す。
■御津羽つるぎ >
「…はあ。白髪になってしまった…とかそういうのではなく?
色が変わってそれだけ、っていうのも…なんだか不思議な話ですね」
無茶を徹したなら、極度のストレスによる老化現象と言うと頷けるものの。
総白髪というには艶のある髪色はやはり脱色のそれを思わせたものだ。
お洒落ではなかったらしい…追及はせなども、しかし。
「成る程、成る程!
これが噂に聞く名誉の負傷…というもの!
ああいいですねえ、一度言ってみたい!無茶をしてみたいものです…」
意識がどちらかに行ってしまって、なにやら上機嫌だった。
心配はしていないようだった。その言葉に情を通わせることはなかった。
酷く朗らかながらにその一連の受け答えに、酷薄な冷たさが覗いた。
「? ああこれですか」
ひょいと広がった袖を摘んで手をあげてみる。
「…。 ううんまあ、そうですね、企業秘密のようなものなんですが。
鍛冶場に来て頂いたときに、詳しく説明させていただきましょう」
足を向けたのは覆いがされた長物のほうだ。
その袖口が動いて覆い布を取り払うと、そこには剥き出しの鋼が刀掛けに一つ休められていた。
無地の茎より伸びる、鑢のかけられた一本の直刃。
刃渡りは一般的な打刀と比べて短くなってはいるものの…
「というわけで!
此処までは私一人の仕事で漕ぎ着けましたが。
此のままではただ体裁を整えただけの器に過ぎません。
此れを真に写し、蘇らせるには…緋月さんと、その月白の力添えを頂きたく」
預けられていた雪白の姿だった。
折れた剣をひとつに戻す…それも瑕疵なく。まさしく人間の手を離れた神業である。
継ぎ目も綻びもなく、ひとつの刀としての姿を取り戻している。
鑢刃は明確に未完成で、反りも刃紋もなく、粗がみえている。
「ここより深くに鍛冶場が御座います。
依頼の通りに仕上げん為に、最後のひと仕事に帯同して…くださいますね?」
■緋月 >
「ええと……話せる範囲で話すと、依頼人を庇って、ある「幻」に捕まって…下手をすれば、
そのまま二度と目覚められずに終わっていた処でした。
その「幻」に捕まった影響だろう、と、診て下さったお医者様は。
名誉の負傷…といえば、まあ、そのようなものなのかも知れません。」
ある意味、髪の色が変わってしまうような目には――精神世界で遭遇してはいた。
その事件の詳しくについては、裏で手を回して貰って表には出ないようになっている。
ここだけの話という事で割と踏み込んだところまで話したが、学園では適度に言い訳を考えていた。
「企業秘密、ですか…? はい、ではそちらで詳しく。」
そうして、巫女装束姿の女性が布を取り払えば――其処には一振りの刀の身。
「雪白……ここまで、戻って来たんですか…!」
折れた刀を、その痕さえ見せずに此処まで見事に。
これだけでも、神業と称して差支えの無い、驚くべき仕事ぶり。
しかし、この工房の主が語るに、まだ「足りない」という。
「私と、月白の――――。」
ぐ、と、左手が腰の刀袋に伸び、その中身を袋越しに掴む。
僅かに間を置き、するりと刀袋を腰から取り外し、その紐を解いて、唯一黄金色に輝く鍔以外は
鞘から柄巻に至るまで真っ白な刀を取り出す。
――相応の修羅場を潜って来たであろうその刀に、しかし汚れのようなものは一点とて見えない。
「――承知致しました。私と、この子の力が必要ならば、断る理由はありません。
よろしく、お願い申し上げます。」
白い刀を手に、書生服姿の少女は深々と頭を下げる。
■御津羽つるぎ >
「では、まずこれを!」
佩剣取り出し勇む少女に、畳まれた衣服を突き出した。
白と紅の和装。つるぎと揃えの…巫女装束である。
「あとこれも!」
そしてその上に乗せられたる布。目元から下を覆い隠す覆面。
臨むにあたって着替えてくれとそう言う意図。
「お着替えはあちらで!」
ちょうど積まれた樽の向こう、死角になる場所がある。
にこにこと仕上がりを待つつもりだ。有無を言わせるつもりはない。
さあさあ、とずいずい突き出すのだ。
受け取らば、その布に籠もる霊気、あるいは神気…に気づけるやも知れぬ。
■緋月 >
「わ、あ、わかりました!?」
説明なしに突き出された、白黒の巫女装束。
それと、目元から下を覆い隠す覆面。
説明がないのでさっぱり意図が分からないが、工房の主である女性がそれを求める以上、
相応の理由があるのだろうと書生服姿の少女は素早く判断。
何も訊ねず、大急ぎで樽の向こうに身を隠す。
しゅるしゅる、と衣擦れの音が少しの間。
書生服が普段着だけあって慣れているのか、思ったよりも早い時間で樽の向こう側から姿を見せる人影。
「ええと…これで、大丈夫ですか?」
バッチリと巫女装束に着替え、覆面も付け直した少女である。
割とよく似合っていた。
(……何だろう。厳粛な、気を感じる。
この服自体に、何か気を込めているんでしょうか。)
そんな疑問は喉元に飲み込みながら。
■御津羽つるぎ >
「よくお似合いで!」
手を合わせてにこやかに出迎える此方も、着替えの間に覆面を身につけ、前髪も上げていた。
いよいよ仕事。となると、こうして色気のない装いになっていく。
「鍛えほどではないですが、一千度近く熱された鉄粉が舞うこともありますから。
それがお洋服に触れたら穴になっちゃいますし、肌に当たろうものなら」
防火の加護がある。
言葉からはそう受け取れるかもしれない。何せ同じ布だ。
着てみれば随分厚手であることが知れよう。鍛冶場で共同作業を行う事があるようだった。
「そちらに。鞘を払って、水平に…刃の腹を天井に向けておいて頂けますか?」
そして一つ作業台を挟み、向かい合う形になるように指示を。
作業台には液状の泥が複数種類と刷毛が用意されている。
波紋を定める、土置きの工程…見事な濤乱刃を写すためには実物が必要。