2025/02/26 のログ
緋月 >  
「……っ!」

かっ、と目を開き、予め指示された通りに。
手にした月白の刀身を素早く、躊躇いなく、湯舟へと、半ば突っ込むような勢いで差し入れる。

「ふ……っ…!」

頭が痛みを訴えるが、極まった精神がそれを無視する。
祈りに歪みは無く。その集中も、まるで解ける事を知らず。
…鼻の小さな血管が破れ、ほんの少し鼻出血を起こしていたが、少女自身もそれには気が付いていない。

御津羽つるぎ >  
赤熱した鋼を押し込まれた湯船の水は蒸発して鳴いた。湯気が濛々と立ち上る。
刃の周囲に黒黒とした何かが散って泳ぎ、水底へと沈んでいった。
真っ直ぐな形をしていたそれは瞬く間に反り、形を変えゆきながら土の鞘を破断させたのだ。
痛みのなかのものの数秒がどれ程の時間に感じたか、満たされた水はその多くを残したまま生まれたばかりの剣を抱く。

「もぅ大丈夫ですよぉ」

間延びした声が傍らより届くや否やに、周囲に配されていたらしい篝に火が灯り、周囲がぱっと明るくなる。
夜火を灯した程度であるが、様々な作業台や道具、恐らく水に満ちた樽やらと鍛冶場の情景が詳らかになりゆく。

「あら、血が…緋月さんが大丈夫じゃないです?」

頭の覆いを取って、覆面も外すと、それで汗を拭ってようよう…
明るくなったことで気付いた。紅白衣装の袖口で少女の鼻血を拭う。

緋月 >  
極限の祈り。それがどのような効果を齎したのかは、未だ知れず。
されど、極まった集中は、時に弊害も生む物で。

「――――え、あ、はい?」

大丈夫、の声が届いてから、頭がそれを理解し、返事が口から出て来るまで。
実時間としては大したものではないが、明らかに遅れが出てしまっていた。

「あ、もう終わり、なんですか……え、血が?」

気が付いた時には、周囲に篝火が灯り、鍛冶場の情景が明らかになっていた。
自分が大丈夫でない、と言われ、覆面を外され、鍛冶師の女性に鼻を拭われて、

「――痛っ。うわぁ…いったいいつの間に……。」

頭痛の痛みを理解した事で、自分の身に何が起こったか、ようやく理解した。
深く呼吸をすれば、赤い燐光が収束するように少女に集い、閉じるように消え去る。

「す、すみません…祈りに集中し過ぎて、蓮華座…ええと、一般的にはチャクラと言うのでしたか。
それを開いてしまったようで…一つだけだったので、頭痛と、ちょっとした鼻血だけで済んだみたいで。」

紅白衣装が血の紅で汚れるのは、少しばかり申し訳ない気持ち。
兎も角、本当に小さな出血のようで、直ぐに鼻血は収まった。
年頃の女子が、少しとは言え鼻血を出している絵面については、兎も角として。

御津羽つるぎ >  
「内気功の技芸でしょうか?それならすこしだけ憶えはありますよ。
 でも、鼻血が出てしまうくらいなんて…ははあ~。
 妙に明るいと思ってたんですけど、緋月さんが光ってたんですねえ」

明るくなったからだろうか、眼はいつもの糸状に伏せられていた。
のほほんとしながらも、倒れてしまわないように気遣いつつ…。

「この周りは危ないですから、あとで保健委の救急車を呼びましょうね。
 これから磨きの工程もありますし、ご自宅に確かに届けさせますので…あ、ほら」

そこで…両者が掴んだままの作業用の長柄、それをつるぎの力が引き上げる。
毅く握ったままの緋月の手に手首に力がかかりながら湯船より持ち上げられる。
刀身はとても軽い。水を切り裂いたように、両腹より滝と落ちながら。

滴る水の向こう、火に照らされる剣身は見事な、見覚えのありすぎる濤乱の紋。
寄せて返す波の有り様、尺は短かれど新たに生まれた一振りの剣…銘刀月白の写し。
祈祷を受けて願われ生まれた一つの器物。

「うん、良い仕上がり。
 使途が後ろ向きな作は、あまり乗り気にはなれないのですが。
 報酬を頂いておりますし、良い経験と、もしかしたら良い知見を頂けそう。
 その分の仕事は出来たと思うのですが!どうでしょう?」

そう振り向いた。つるぎにとっては何時もの事。鍛えて鍛えて品を仕上げて渡す。
剣は道具。剣士に使われる物。彼女が二振りに抱く特別な想いは…
正直理解には至らないが、満足いく出来栄えだといい。

緋月 >  
「はい、凡そそれに近いもので。
経絡を開いて……一言で言うと、身体強化が出来ます。
頭などに回すと思考力や集中力が上がるんですが…長時間使うと、頭痛が来たり、鼻から…こうなったりで。」

鼻血の跡を小さく擦り、苦笑。少量とはいえ流石に絵面がひどかっただろう、と思う。
救急車については、素直に好意に甘えることにした。

「すみません、何から何まで…お世話になります。っと…!」

ざぁ、と水音と共に引き上げられる月白の刀身。そうして、その刀身越しに見えるは――

「……雪白…。」

炉の火の光の照り返しを受け、その身を見せるは見慣れた濤乱刃文。
間違いなく、月白を写して生まれ、一度は折れた筈だった、その姉妹とも言える刀の姿だ。
思わず、視界が感涙で霞む。

「――すみません、あまりに…前と、同じ姿だったので…。つい、目が…。
折れる前と、まるで変わらない姿……。

……つるぎさんに、お仕事を、お願いして…本当によかった…!」

ぐす、と小さく鼻を鳴らし、頭を小さく下げる。
鍛冶師の女性には理解し難いものかも知れないが、少女にとっては
単純な満足感以上の感情がある出来栄えであった。
無論、文句のつけようなど何処にもない。

「…では、磨きの方もよろしくお願いします。
それと――」

水の中から引き揚げられた月白を、そっと鍛冶師の女性に。
本来であれば手放す事すら考え辛いが――小さく震えながらも、その刀身を任せる形に。

「救急車を呼ぶ前に終わるような工程であれば、どうぞ、如何様にもお調べください…!」

調べ終わったなら、拵えを戻して持ち帰る事になるが、その前の段階であれば、構わないと。
一時の間、半身たる愛刀を鍛冶師の女性に預ける事に。


そうして上に戻り、鼻血がしっかりと止まるまでと女性の調べが終わるまでを待ち。
拵えの戻った愛刀を受け取れば、保健委員会の救急車にお世話になって工房を去る事になるだろう――。
 

ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」から御津羽つるぎさんが去りました。
ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」から緋月さんが去りました。