2025/03/15 のログ
ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」に御津羽つるぎさんが現れました。
ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」に青霧在さんが現れました。
■御津羽つるぎ >
暖房のよく効いた部室内は、どこかビジネスオフィスのような様相だ。
安価ながら頑丈な応接ソファセットで向き合い、白い床も壁も無味乾燥。
色んな意味で入口の地下駐車場とは別世界である。
「はるばるおいでいただきまして。
どうもぉ、御津羽つるぎです」
出迎えた長身の女は、ソファの片割れに座って、向かいの客に頭を下げる。
木箱から取り出した地味な名刺を差し出せば、
"『韴霊』部長"の肩書とともに、御津羽つるぎの名と、素性を示す数字が隅に並ぶ。
仰々しい二つ名も忌み名もそこにはない。
「粗茶ですが。ごめんなさいねえ、お料理ができなくて。
寒かったでしょう?ごゆっくり暖まってくださいね」
湯呑みに入ったお茶に、日持ちするタイプの饅頭が供される。
ちょっといい感じの白磁の器に、ちょこんとふたつ並んで。
褐色の、濃厚そうな――そう、よりにもよってのチョコレートまんじゅう。
皮にもふんだんに練り込んであり、中にもぎっしりだっった。
「――事前にご連絡頂けて、とても有り難いです。
突然押しかけてきたりする方も多いものですから。
さすが風紀委員さんともなると、そのあたりしっかりしてるんですねえ」
ほわりと笑ってみせる様には、さて、あなたが出会ったまた別の"監視対象"とは。
危険人物、強者――そうされるものたちとは、まるで異なる空気をまとっていた。緩く、穏やかだ。
だが、"普通"とは違う。こんな場所で、こんな状況で――柔和過ぎる。
■青霧在 > 落第街の廃ビルの地下。
下手すれば朽ちた亡骸でも放置されているような場所。
…にも関わらず庁舎のような室内と暖房で迎えられたのには少しばかり面食らった。
「初めまして。青霧在と申します」
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
ソファにはまだ座らず、こちらも頭を下げる。
名刺を丁寧に受け取り確認する。
表向きの名刺のようだ。当然か。
「お気遣いありがとうございます」
ソファに腰かけ、湯呑に視線を落とす。
……見覚えのある色だ。
しかし、あの日のように茶も用意されている。
これならば、甘味に飽くことなく楽しめるかもしれない。
「突然いらっしゃる方もおられるのですね」
「考えにも及びませんでした」
場所が場所だ。二級学生や違反組織も客に取る事があるのだろうか?
監視対象としてどこまで許容されているか分からないが、こんなところで活動を許されている辺り、そこまで厳しく行動制限を課されている訳ではないのかもしれない。
……それにしても
「正直、もっと堅い雰囲気の方なのではないかと思っておりました」
「知り合いの刀匠とは全く違って少し驚きました」
以前出会った監視対象とも全く違う。
監視対象だからと同じような人物ばかりだとは思ってもいないが、現状目の前のこの女性からは、全く危うさを感じない。
まるで普通の何の咎も無い一般の女学生…そう言われても騙されてしまいそうだ。
とにかく、不可解だ。
■御津羽つるぎ >
「そうですか?」
首を傾ぐ。
印象。刀匠――というよりも、自分が直接かかわらない業界のことは、普通は預かり知らないもの。
「お知り合いの刀工は、いったいどんな方なのでしょう。
青霧さんも、私の知っている風紀委員の方々とは…」
胸前で両手の指をちょんと合わせて、考えて。
「…いろいろな方がいらっしゃるので違うのが当たり前な感じなんですけれど……
あまりお会いしたことがない感じの方だなあ、とは思います。
私の工房を訪ねてこられる方としては珍しい、と言いますか」
そこまで言うと、両手を膝の上に休めて、わずかに身体を前傾させた。
ほんの少しだけ顔が近づく。
「むっ」
ぎゅっ、と眉根を寄せた。
「むむっ」
糸目のまま、表情を引き締めている…つもりらしい。
その目のせいであまり感情がこもらないのもあるだろうが、
精一杯、厳しい表情を作ろうとしている――らしい。あまり迫力がない。
■青霧在 > 「知り合いは…そうですね、言うことを最初に全部言って、後は必要な事だけしか話さない…」
「嵐のようとでも言うんですかね。余裕がない訳では無いと思いますが、余裕を好まない人です」
知り合いの刀匠はわざわざ応接間など用意しないし、あったとしてもどうせ散らかす。
初対面の客人相手でも世間話ぐらいはするかもしれないが、なるべく速やかに本題に入ろうとするだろう。
茶は出すかもしれないが菓子は出さない。
…流石に偏見が過ぎるか?
「俺ですか?」
愛嬌を伴う問いかけに首を傾げる。
他の風紀委員会と違うとは……何か失礼があっただろうか。勝手に座ってはいけなかったか?
それとも雰囲気に言及した事か?別の刀匠と比べた事か?
他の依頼人と比較しても、本来なら菓子折りや金一封でも包んで来るのだろうか。
「……もしかして――」
逡巡の後、一筋の冷や汗を内心感じながら失礼があったか問おうとする
…が、言葉に詰まる。妙な表情を作ろうとしている女性に気を取られた為だ
……何か表情でも作ろうとしているのだろうか。
表情を引き締めて…も、何ら雰囲気の変わらない。
そんな少し呆けてしまうような様子に詰まった言葉をそのまま飲み込む。
「堅い雰囲気でない方が話しやすいですから、無理に堅く見せる必要はないと思います」
無意識のうちに膝の上で握られていた拳を解いた。
■御津羽つるぎ >
へにょ、と眉が脱力し、ハの字に垂れ下がった。
「てっきり頼りないと申されているのかとばかり…」
はにかむように唇を緩ませる。
仕事に餓えているわけではないにせよ、そうした理由で帰られることを歓迎しているわけではないのだった。
あらためて居住まいを正した。
「――さて。風紀の方がこういった形でいらっしゃる。
文に記されていた通り、仕事の話とわきまえておりますけれど。
なにぶん、ひとりで部活のほとんどを賄っておりますので、
内容次第ではお引き受け出来かねることは、先に申し上げておきますね」
そして、刀匠の数はこの島にもそれなりに多い。
そう、この島にも…現代において刀鍛冶は復活しているのだ。
大変容の後に歴史の影、世界の裏から。
「青霧…在さん。特攻課の、でしたね。
ごめんなさいねえ。世間に疎くて、はじめて聞き及ぶのですけれど…。
…お知り合いに刀匠がいるのに、どうして私のところに?
おはなしを聞いた限りですと、とても親しい方のように思えます。
信じて預けられるのは、そちらの方ではないのですか?」
所属から、武器を要していることは間違いないだろうが。
あえて自分を訪ねてきた仔細を、まずは問うてみることとした。
■青霧在 > ユーモアがあるというのか、天然というのか。
そういった表現や比喩は得意ではないが、とにかく感情豊かな人に見える。
「そういう訳ではありませんよ」
相手の様子が引き締まった事を感じ取り、こちらも気を引き締める。
「承知いたしました」
1人で、こんな場所で、刀匠を。
やはり不可解だが、今はいい。
「確かに、はじめはその知り合いに破損した刀剣の修復を依頼しようと考えました」
「ですが、損傷が酷くて鍛え直しに耐えられないとの事でした」
「これがその刀剣です」
持ち込んだ木箱…破損した《聖蛇》の入った札の貼られた木箱を隣から卓上に置き、差し出す。
開いても問題はないが、明らかに呪物の残滓が香る。
中には穢れ、疲弊した十五の刃が入っている。
「その知り合いが言うには、当世金屋子媛と呼ばれる御津羽さんであればどうにか出来るかもしれないと」
「ですので、縋る想いでこうしてお伺いさせていただきました」
嘘偽りない経緯を語る。
他の選択肢も一応探りはしたが、やはりここまでの状態になった刀剣を修復出来る刀匠はごく少数のようだった。
■御津羽つるぎ >
置かれた箱に、芝居でない様子でほんのわずか眉が寄る。
「失礼致します」
一礼、そののち糸目なのでわかりづらい視線で了解を取る。
手を伸ばす。札に失礼して、木箱に触れる。呪いが、…
…灼ける。その身を侵そうとするものが、何かに弾かれて焼け焦げる。
熱も香りもない燃焼ながら、触れるに躊躇しない何某かを纏ってはいるようだ。
「! これは…」
果たして丁重に開いた箱の中身、見る者からすれば"剣"の呼称も疑わしい品。
今度は眉がぴょんと跳ねる。それは、既知をその目にした時の、驚愕と好奇の色。
「《聖蛇》!実物ははじめて拝覧しました。
凄い。型を取ったように寸分たがわぬ十とんで五つ揃え。
ひとつひとつ丹念に、しっかりした作り…
発想からとてもおもしろくて、記憶に留めておりました。
そうですか、在さんが使っていらしたんですねえ」
両手をぱんと合わせて、楽しそうに声を弾ませる。
そして、テーブルの引き出しを引くと、その中にはいくつかの箱。
そこからひとつを開くと、白い手袋を両手に嵌めて。
「これがどの程度の状態かは、そちらの方から聞き及んでいるかと思いますので。
あえて言葉は重ねませんが…失礼しても?」
実際に、刃に触れて良いかどうか。そこは、確かな許諾が必要なこと。
軽く身をかがめ、すぐにも手を触れられるように準備を整えながらも、そのいらえを待った。
■青霧在 > 実物を見るまでもなく断られるのではないかと、内心怖れていた。
仮に呪いを恐れずとも、中身を見て突き返される可能性が常に思考の内を陣取っていた。
故に、その反応には意表を突かれた。
「はい、知り合いの刀匠が鍛えてくれたものです」
「まさかご存じとは思いませんでしたが」
炉神と呼ばれるぐらいだ。
刀剣との縁が深い人なのではないかと勘繰ってはいた。
まさか実物を前にして、ここまで前のめりになるとは……
「どうぞ、ご確認いただければ」
自由にしてもらって構わない。
含みなど何もない純粋な承諾を返した。
果たして、神とまであだなされる刀匠ならば修復出来るのか。
両の掌を祈る様に組んだ。
■御津羽つるぎ >
「剣においては、それなりに耳聡いんですよ~。
佳きものであればぜひ買い付けたいと常日頃から調べてるんです。
…ああごめんなさい、刀匠の方のほうは…存じ上げていなくて…」
剣に興味がある。作った者に興味がない。
わかりやすい性質を示した。
「では、失礼致します」
頭を下げてから、あらためてそっとその刃を摘む。
目の高さまで持っていき、裏面、刃面から覗き見たり。
光に透かす、じっと見つめる…。
「呪的にも、物理的にも。
随分とやってしまっていますね…」
独り言のようにつぶやいて、暫し。
顔を上げると、腕を組んでいるのが見えて、少し困ったように眉がきゅっと寄った。
そこが表情の起点だ。目は口ほどにものを言う。
少し悩む素振りを見せてから、つぐんでいた唇を解く。
「…えと、失礼ながら。
これは修繕するよりも、新しいものを誂えたほうが安く済む、かと。
その、お知り合いの方は…もう同じものはつくれない、だとか?
あるいはあまり、にんげんかんけい…みたいなのがうまくいっていないとか、そういう…?」
修理して、結果的に費用が浮くならいざ知らず、である。
刀剣。命を預ける用途。それに対し、ここまで破損した状態で直すなら、
新たに作り直したほうが余程効率的である。つい先日も似たことを言った気がした。
■青霧在 > 「……なるほど」
刀剣に聡くとも、刀匠には興味がないか。
それがどこまでのものなのかは分からない。
しかし、これが行き過ぎれば異常者としてとらえる事も出来るのだろうか。
…仮にそうだとして、どれほど行き過ぎれば良いというのか。
邪推を振り払った。
しばし眺める。
零された呟きに不安が募るも、黙って待つ。
人の仕事を邪魔してはならないものだ。
つるぎの眉の動きにつられる様に口角が歪む。
「新しい武器を用意する話は知り合いからも提案されています」
「どういった武器になるかはまだ決まっていないようですが、もっと頑丈なものを作ると意気込んでいました」
「ですが、これをこのままにしておく訳にはいきません」
「いくらかかっても、…最悪、実用に堪えずとも、このままには出来ないのです」
人様からの貰い物だ。武器といえど、このまま廃棄するのも放置するのも到底許される事ではない。
文字通りとまではいかずとも、いくらでも出せるというのは偽りではない。
殆ど移ろわなかった表情だが、眉間にしわが寄る。
思いつめたように穢れた刃を見つめ、重々しく言葉を紡いだ。
■御津羽つるぎ >
少し前にも、似た依頼があった。
個人情報保護の観点から口をすべらせることは出来ないものの。
「なるほど」
受け合ったその反応は、よくある類の依頼だということを物語る。
日本刀の修繕は、非常に難易度が高い――というよりも理論上はほぼ不可能だ。
日本古来からの打ち方によって複雑に折り重なった鋼は複雑な組成を持ち、
形だけを修繕したとて、それは単なる見た目を取り繕っただけの張りぼてに過ぎない。
だからこそ、折れてしまった、毀れてしまった。
その武器に対する"愛着"――あるいはそれに類する感情を、
幾らでも見てきたと、どこか冷めた様子で頷いた。
「鋳溶かしてお守りにするですとか。
そういうのもお嫌だとおっしゃいますか」
それなら、別の刀匠にもできるだろう。
あえて自分を頼ったのは、その結果では満足できないと。
「なぜです?」
問いは単刀直入だった。
壊れて使い物にならなくなった道具に、何をそこまで入れ込んでいるのだと。
手立てを持つ者はしかし、聞き捨てならぬ放言を吐いた青年に、静かに問いを重ねた。
■青霧在 > 今度こそ何か本当に失礼を働いたのではないかと、背筋が凍る感覚を覚える。
その瞬間、青霧は自らに二択を強いていた。
謝罪か、回答か。
選ばれたのは、求められている通りの回答。
「……大切なものだからです」
「自分の為に鍛えていただいた大切な戴き物をこのまま放っておくのは良くないと思ったのです」
嘘も誇張もない。故にこそ、不適切な回答になるかもしれない。
緊張に口元が僅かに震える様子が見て取れるかもしれない。
「溶かしてお守りにするという発想はありませんでした」
「知り合いもそのまま破棄してしまうつもりだったようですから…」
知り合いはおそらくその通りにしただろう。
彼女は使用者を守るために刀剣を鍛えている。
何を間違えたか分からない。
今だ夢に見る恐怖にも似た雰囲気に、手のひらに爪が食い込むほど、拳を握り込み備えた。
■御津羽つるぎ >
「…ううん」
その解答に、否定を重ねることはしない。
疑うことはない。ただ、その質疑に難しい顔をする。
胸の下で腕を組み、眉をねじるような思案に耽った。
「不躾な問いになりますので。
言いたくない、というのならそれで構いません。
私どもは未だ何の約も交わしていませんからね。
なにかあれば、決裂したというよくある話で帰って頂いても大丈夫ですから」
何かあっても気に病むことはない、と告げる。
「私も気にしませんから」
引きずることはない、と補足をする。
「…この《聖蛇》。在さんのための誂物だったんですね。
異能を前提とした刀剣。まさに現代刀らしい在り方と感服したのを憶えています」
現代刀。五十年程までは侮蔑と後悔の色を混じらせざるを得なかった言葉は、
異世界の技術も取り込み、刀剣を要し、帯びることすら出来るようになった今その意味を大きく違えている。
公になった異能と魔術。そのために鍛えられる剣。この時代の作刀は非常に上質で自由だった。
「これ…もらったんですか?」
問いは、それだ。
不躾というのは、そうだ。たとえば、特別な間柄だから授かったとか。
事情に踏み込むものではなく、質問の要訣はこうだ。
売買契約のもとに手元に渡ったものではないのか、と。
■青霧在 > つるぎの言葉に小さく頷きながら聞き進める。
一体何を言われるのか、問われるのか。
分からない、恐ろしい。
「自分は貰ったものだと、思っています」
ニュアンスを察した上で、そう伝えた。
「思っているというのは、購入したものではあるのです」
「ですが、これだけの品に見合わないような僅かな額しか渡せていませんので、自分はそれを購入したものだとは思っていません」
知り合いに半ば押し付けられるように贈られた武器。
不快だとか、困った訳ではない。
いや、困惑はあった。何故自分にこんな良いものを、と。
それでも、《聖蛇》には随分と助けられた。
「助けになると渡され、正当な対価も受け取って貰えていません」
「なので、貰ったものだと、思っています」
信頼とか、疑問とか、そういったものは関係なく、全て話した。
■御津羽つるぎ >
「…その刀匠の方、御本人がいない場ですから、想像で推し量るしかないのですが。
在さんは常々、我が身を省みない振る舞いをされていたとか。
いつも怪我をたくさんされるとか、そういうお人だったりします…?」
もちろん、親愛の類で贈ったものかもしれないが…
それにしては実用重視の奇剣の類だ。渡したくなったのはなぜか?
心情を慮るのは苦手なので、単純な思考になった。
「私には、在さんがなにか、後ろめたさに突き動かされているように見えます。
この《聖蛇》、私の目から見てとても見事な品です。
もちろんこれを佳き刀とするかは、使い手次第ですけれど…
在さんにとっては、素晴らしい利器であり、それ以上の思い入れがある…」
箱のなかに戻してあった聖蛇のひとつを、宙空で撫でる。
決して易々と触れはせぬ。まだ預かる約もしていない。
「…自分なんかに勿体ない、とか考えていたりしますか?」
この逸品も、あるいはそれを誂え、ほとんど代価を貰わなかった厚意、人情、友誼。
ずっと暗い顔をしている青年は、もしや己に脅されているのでは。
■青霧在 > 始めの問いへの恐怖故に青霧の口は正直になっていた。
聞かれた通りに答えねばならないという、強迫観念によって。
「…そのように言われる事はあります」
それを自分が認識しているかしていないかは別として。
友人や同僚には時折そう言われる。
《聖蛇》を受け取ったあの日、抜けきらない呪詛の影響で目が惑わされていたあの日。
鍛えたばかりだという《聖蛇》を持ってきた知り合いの目元に浮かぶ深い隈ははっきりと見え、今でも覚えている。
今もその時も、何故そこまでするのか、されるのか。
俺には分からなかった。その時もあいつの武器をダメにしたばかりだったというのに。
「……仰る通りです」
「俺にはここまでされる理由が分からない」
単純に不可解だった。
何故これほどの品を、対価も無しにと、不思議で仕方が無かった。
未だに理解出来ない。
「これほどの品、俺には勿体ないと、今でも思っています」
《聖蛇》も、心配も、怒りも、メンテナンスも、手間も。
俺には勿体ない。
■御津羽つるぎ >
「私が鍛える剣は」
述懐した青年に、少しの間沈黙した刀匠は口を開く。
柔らかな声音はしかし、情誼に揺るがない、惑わされない。
鍛打の要訣、不純物の排除。
「実用刀です。目的をもって使われるものを作ります。
在さんはさきほどおっしゃいましたね。実用に堪えずとも、と。
これは私の信条であり拘りですが、剣は剣士のためにある道具なのです。
使い手にとって実用性がない剣は剣ではないんです」
湯呑みを手にして、ひとくちすすった。
少し喉がかわいた。
「使いこなし、目的を遂げるための愛好ならいざ知らず。
ただ心を慰めるための観賞刀には時間は割けません。
大仕事になりますから。なにぶん、ひとりでやっておりますので」
希少な鉱物を報酬とされれば頷かざるを得なかったこともあるが。
まさか風紀委員を前にそれは言えない。渡した相手も受け取った自分も。
「ですから、着手するとなれば元通りに致しましょう。
…修繕はあまり気が進まないのですが。出来れば新たに作刀をしたい。
けれど、報酬は頂けるということですし、その分は問題ございません」
結論から言えば、彼の注文に応えることは、技術的には可能。
《聖蛇》に至る発想のない己ではあるが、しかし鉄と火を究めた腕はある。
「…捜査情報の漏洩にならない程度でいいので。
あなたはなぜこの剣をとって戦うのでしょう。
風紀委員として実績も信頼も、あなたは積み重ねてきている人なのでは?」
だからこそ問うのは、これは如何に使われるのか。
如何に剣士で、如何な剣士かを、事の次いでに問い申さん。
「自分も相手も信じられていない程に、自分を卑下されるのはどうしてでしょう。
あなたは私と違って、その身体に烙印も枷も押されていないのではありませんでしたか?」
小首を傾ぎ、真っ直ぐな黒髪が流れた。
変わらず柔和なままに問う。
自分が監視対象であることなど、相手は割り切ってここに来たと判っている。
■青霧在 > やはり目の前の女性も職人なのだと感じる。
浅慮かもしれないが、依頼の目的を不満に思い、その動機を知ろうとしたのだろう。
つるぎが茶を口にしたのを目にして、自分も口内が乾いている事に気付いた。
嫌な渇きだ。落ち着いて湯呑に手を伸ばし、お茶を啜る。
突然温かいものが胃に落ち、温度差に身震いする。
温まった気がしないし、乾ききった口内はすぐには潤ってくれない。
気持ち悪い。
「……ありがとうございます」
「よろしくお願い致します」
意にそぐわない依頼だというのに、これだけの無礼を犯したというのに。
それでも依頼を受けてくれるという。
頭を深々と下げた。そして、ようやく恐怖がひき始める。
かつての恐怖には幸いにも至らなかった。それだけで安堵してしまう自分は子供のままに思え、伏せたままに唇を噛んだ。
「俺は…そんな立派なものではありませんから」
実績も信頼も人脈も金銭も武力も。
そんなものがあったからと言って
「俺に出来るのは戦う事だけです」
「だから戦い続ける…それだけです」
それが償いになると縋っているだけ。
顔をあげて。
「烙印と枷が無いからと言って、咎が無い訳ではない…それだけしか言いたくありません」
「俺にはその枷と烙印がむしろ羨ましく思える」
穏やかな問いかけに引け目でも感じたか。つるぎの目が見れなかった。
以前監視対象と出会った時と同様の過ちを犯しながら、湯呑を手に取り、飲み干した。
■御津羽つるぎ >
細かいことを問い質す理由も、資格もない。
ともすれば興味もなかった。事実である必要すらなかった。
その時、胸踊れば。物語を覗くように、他人の人生を眺めるのだ。
それがどれほど苦悩に彩られていようが、他人の人生だ。
「そうでしょうか……賠償金の返済義務は羨むような枷でもないと思いますけど…
身体がうごくうちに、返しきれるかどうかもわからないですから。
だからお金や報酬は、ちゃんと取っているんです。なにせいろいろとうるさいので…」
どこか抜けたような返答だった。
格好のつく枷でも烙印でもなければ、それを卑下することもない。
罪人であっても目的の達成を一切諦めていない。
明確に罪業を、法律という規則のもとにくだされたにも関わらず。
「でも」
湯呑みを傾ける。こちらはのほほんと、どこ吹く風だ。
「あなたは、とても失礼な人です」
静かに。
「恩を感じている相手に、見る目がないと言外に言っている。
受け取らないという選択肢もあったはずです。
私に言わなかったことを打ち明けることもできたはずです。
裁きを羨むなら、なぜ過ちに繋がりそうなことを重ね続けるのでしょうか?」
率直な疑問だった。
責めるのではない。なぜと問うのだ。
自分に正直過ぎる、純粋な心は真っ直ぐに突きつけた。
苦しむなら、枷が欲しいなら、裁かれればよい。
打ち明けてしまえばいいのに。そうすればきっと楽になる。
かかわらなければいいのに。そうすれば罪は増えない。
残酷な童女のような問いが飛ぶ、そして矢継ぎ早、返答を待たず、
「それと…」
湯呑みを置いて、両手の指がふたつ。
「条件が、ふたつございます」
■青霧在 > 「……」
言葉にこそしなかったが、羨む内心は変わらない。
動けるうちに返せるかどうかもわからない賠償金の返済ですら、羨んでしまった。
目標があるだけ、ゴールが決まっているだけ羨ましかった。
そして、続く言葉に大きく揺さぶられる。
俺はそんなつもりはない。相手に見る目が無いなどと思ったことは無い。
……無い筈だ。無いと思っている。
受け取らないという選択肢だって、それこそ失礼だと思って生きて来た。
言えるわけもない。過ちは別に繰り返していない。
裁きを受ける機会は―――
だが、それらを口にする猶予は与えられなかった。
「条件とは、何でしょうか」
重ねられた問いもあり、余裕がないままに尋ねた。
■御津羽つるぎ >
「まずひとつは、《聖蛇》を創り上げた刀匠に許可を取っていただきたく」
右手の指が、ゆるりと揺れた。
「この島にいる御方で、現職の刀匠であるのなら。
筋を通さないとね、その… 生活委員会の、
私がお世話になっているところが、そういうところ厳しくて。
職人には、面子というものもあるようで。勝手は出来ないのです。
これは、いちおう学生の身分であるがゆえの制約…ですね」
きちんとした証明として許可を取ってきてほしい。
要するに、着手するための事務的な書類手続きだと。
「そこが不成立となると、お引き受けできかねます。
…あとあとが面倒なので、時間をとられちゃうと、ちょっと…」
たはは、と苦笑する。書類仕事が得意なほうでもないのだ。
それがひとつめの条件として提示された。
■青霧在 > 「ここに来る時点で当人に確認はしてきた」
「準備が出来次第すぐに手続きを済ませましょう」
そもそもつるぎの存在に触れたのは刀匠の方だ。
《聖蛇》の修復を委託する事を相談した時も、粘ることなく承諾してくれた。
この後連絡をとって、遅くとも三日程度で手続きが完了する筈だ。
あいつも書類仕事は苦手だった筈だが、幸い生活委員会には知り合いが多い。
スムーズに事は済むだろう。
「二つ目は、何でしょうか」
一つ目は大した条件ではない。
二つ目は…
■御津羽つるぎ >
「それは重畳。
ひとによっては少し拗れることもあるので、有り難いことです。
他人の業を識れる良い機会でもありますから、御礼を伝えておいて頂ければ」
そう、にこやかに頭を下げた。
足取りが軽いほうではないので、そういうことがスムーズだととても嬉しい。
「ふたつめは、そうですね。
少し時間を要することですので、お引渡しの際に完了報告を頂く形になります。
在さんは、その刀匠の方以外に、ご友人とか、親しい方。いらっしゃいますか?
に…三人ほど、思い浮かべることができますか?」
続いた問いは、なんとも不可思議な問いだった。
ふたつめの条件、その前提になるものだということは、言うまでもなく。
■青霧在 > 「……」
特に根拠はないが、考えたくは無かった。
理由は未知。何をされるか、する気なのか、言う気なのか分からない故の恐怖。
「思い浮かべられるが…どうしてだ?」
新宮と、同僚を思い浮かべる。
友人はともかく、他の2人は親しく接してくるという程度。
こんな状況で巻き込んでもいいのか、分からない。
恐ろしい。何故か、今とても強い恐怖を感じていた。
■御津羽つるぎ >
「あ、交友関係はお広くいらっしゃるんですね。
私はあまりお友達が多くないので、少し羨ましいです」
問いを向けられて、まずはそう笑った。
「"在さんがどんな方に見えているのか"。
その方々に訊いてみてほしいんです。
人数は、多ければ多いほどいいですね」
時間がかかる、事後報告。
それは関与する人数、交友関係の広さによって変動するが、概ね、
組織人ともなればそれなりに関わる人間は多いと見てのこと。
「さっきがたの、刀匠のかたの目の話…。
あなたの戦う理由は、聞こえて参りました。
しかしどうやら、あなたが思う在さんと、周りの見る在さんは、
ひょっとしたら大きく違うのかも。
そう思いまして、そうしたらもっと素敵な物語がきけるかな、と」
だめでしょうか?
手を合わせて、お願いのポーズ。
裏があるようではない。ただ気になった部分を解決したい。
ともすれば、仕事をする後押しが欲しい――そういったものだ。
■青霧在 > 「最初からそう言ってくれ……」
つるぎの話を最後まで聞いた上で、最初に出て来た言葉はそれだった。
一体どれほど恐ろしい条件を突き付けてくるのかと、戦々恐々していた自分がバカみたいではないか。
脱力し、項垂れる。
数秒で体を起こし、一度呼吸を整え。
「分かりました、その条件でよろしくおねがいします」
受けると決めた。
正直軽い条件ではない。しかし、それはあくまでも自己完結する負担で周囲には迷惑をかけない筈だ。
これなら何とかなる。
覚悟を決めた。
■御津羽つるぎ >
「滅相もない…!その、おともだちがいない、と返されると。
とっても申し訳なくなってしまうので…
剣が入り用でこちらに来られる方には、たまにそういう方も…ね…?」
成立しなくなる話でもある。
裏表のないような。無垢なような。無害なような。
――第一級監視対象。
「はい、確かに。
それではこちらの書類に署名を。内容は、よく考えられてください。
支払いの額は――……相当張ってしまうのですけれども」
ともすれば、宮仕えの年収にもかかろうという額が提示される。
在銘の重文刀一本分に迫る値となれば法外だ。
しかし十五本でひとつ――小型の刀ともなると、時間も手間もかかる。
――そうだ。
《聖蛇》には、それを一から削り出した業と時間には、それに比肩する価値がある。
現代に生まれた、業物。打ち下ろしの一品もの。
支払った分と支払えなかった分の、その差額に何を思うか。
「あの……おかね、持ってます…よね…?」
テーブルに置いた書類から、遠慮がちにおそらく上目遣いの角度で見るのは、そう。
代価を持たずに依頼に来るものも、それなりに多い、ということらしい。
■青霧在 > 「……」
友人と呼べるのは一人しかいない。
流石にここでそれを口にしない方が良い事は分かっている。
「………」
差し出された書類に記された額はかなりのもの。
これまで増える一方だった貯蓄に使い道が出来たと思えば、覚悟こそ必要だが惜しむ程の物ではない。
それよりは、本来《聖蛇》が持つ筈の価値がこれほどであるという点に目を奪われた。
これほどの価値を持つ武器をあんな安価で引き渡すなど…
「どれほど……」
どれほど俺に信頼を寄せているのか。
どんな感情を持っているのか。
しばしの間、考え込んでしまった。
「…あ、ああ」
「金はある。覚悟もすんでいる。…電子決済は可能か?」
つるぎの声に我に返り、書類に目を通す。
騙すような真似は出来ないだろうが、念のためだ。
最後まで確認を終えれば、胸ポケットから取り出したペンと印鑑で、サインを済ませる。
「これで大丈夫か」
■御津羽つるぎ >
答えは持たず、言い添えることもしない。
――人それぞれだ。
《聖蛇》が特異な剣であり、その性能に、意味合いに、剣士は千差万別の感慨を持つだろう。
人間も同じ。
その眼の前の刀工は、人間への関心や興味が薄い。
優しい言葉を持ち合わさず、柔和なようで冷たくある。
だからとて…他の関わる者、血の通う者は、青霧在をどう見ているのか。
技術、能力という、確かな判断基準を、性能を、この刀工は備えていた。
それだけで十分であるというように、辺鄙な裏通りの地下に居を構えて。
ひとつ、ひとつ、鍛えていた。
「現金で持ってこられると、ちょっと困っちゃいますね。
銀行までがねえ~、遠いので…。
ですので、はい、こちらで大丈夫ですよお。
高額になりますので、たくさん確認と注意書きが出ると思いますけど…」
それがワンタッチで決済できてしまうと、セキュリティ上も大変だ。
とはいえ、それだけで高額を抜き取る電子犯罪も横行している。
自前の学生手帳で専用のアプリを立ち上げ、宙空に描かれるホログラフィックパネルが、
支払い手続きを案内してくれることだろう。
認可の有無も、その真贋も、風紀委員であれば確かに見極めることができるはずだ。
「少しお時間はいただきますが、必ず元通りに致しましょう」
■青霧在 > 「この手の作業は嫌いじゃない」
促されるままにアプリを立ち上げ、操作を進める。
元生活委員会、次いで刑事課、特攻課となった今も書類仕事とは仲良くやっている。
故にこの程度でへこたれることは無い。
金額、振込先、アクセスリンク、認証項目、ワンタイムパスワードと進めていく。
額が額なだけに時間こそかかったが、それでも明らかに素早い。
両目を別々に動かして、ものの数分で手続きを完了させた。
「確認お願いします」
手続き完了につき、じき入金されるはずだ。
■御津羽つるぎ >
「…確かに。ありがとうございます
それではこちらの控え、いちおうデジタルでも送付されていますが、
持ち帰って保管しておいてください。もしなにかがあったときに必要になります。
……このあたり一帯が焦土になったりしたら。ええ、ないとは思いますけれど」
落第街だ。絶対にない、とも言い切れない。
曰く作業場は更に地下にあるため、品の安全は保証できるものの、
納期通りに届けられなくなる可能性がある――といったもの。
そういった要項も、しっかり書類にはまとめられていた。
二枚重ねになっているほうの裏面、筆跡が写し取られる控えをファイルへ、そして封筒へ。
丁重に封をして差し出せば――
「――お疲れさまでした。御津羽つるぎ、《聖蛇》の沙汰、謹んでお受け致します。
おまんじゅう、よかったらどうぞ。落ち着かれたら、お見送りさせていただきますねえ」
訪客の予定はないものの、多忙を極める風紀委員はこれ以上の長居は望むまい。
特攻課とはいえ帰り道も落第街、帰るまでが依頼だといえる。
■青霧在 > 「こちらこそ、よろしくお願い致します」
大切な武器だ。それを考えれば、金額など些細な事だ。
大金には違いないが、金ならまた貯めればいい。
立ち上がり封筒を受け取れば、深々と礼。
失礼な事も言ってしまったが、精いっぱいの敬意と言ったところか。
「それではもう少しだけ」
チョコレートまんじゅうを前に座りなおし、茶を飲み干した事を後悔しつつも手に取り一口。
…流石にバレンタインももう先月の話だ。
甘味への飽きなど忘れていたようで、美味しく味わえそうだ。
甘味は特別好きという訳ではないが、脳の栄養だとも言う。
脳の栄養を取った故だろうか。
答えられていなかった問いを思い出した。
「なぜ過ちを繰り返すような真似を繰り返すのかという問いだが…答えてもいいか?」
何ともなしに、まんじゅうを一つ食べ終えた所で尋ねた。
■御津羽つるぎ >
「甘いんですけど、甘い!というわけではないといいますかねえ。
お気に入りなんです。また新しいのを仕入れてこないと」
こちらも摘んで、お茶と一緒に味わった。
渡してしまった。けれど、客人はもてなすものだから。
これを受け取ることに妙な負い目は、持ってはいないだろう――と思う。
そんなことを考えてすぐ頭の隅に追いやったものだから、
問いを向けられると、不思議そうに手を止めて。
「どうぞぉ」
そんな穏やかな声が返る。
もう契約は結ばれたのに、とも思う。
けれど、明かしたいなら拒む理由もない。
湯気の薄くなった湯呑みを手に、その言葉を鷹揚に受け止める形を取る。
■青霧在 > 「そもそも、俺が過ちを繰り返す事は無い」
「この島に来る前にすでに終わっているからな。この島での生活とは一切縁がない話だ」
青霧の過ちと咎について知る者はこの島に居ない。
知る者が居る可能性は0ではないが、少なくともこの四年間で出会ったことは無い。
「その時俺は裁きを受けられなかった」
「俺以外は裁かれたというのにな」
裁きから逃れた訳ではない。にも拘らず、裁きはくだらなかった。
「そして今後裁かれる事も無い」
「……バカな話だが、俺はお前たち監視対象に引け目を感じている」
「正しく裁きを受けて枷を課されたお前たちにな…」
そこまで言って封筒を脇に挟んで立ち上がる。
「さっきは羨ましいなんて言ってすまなかった」
「…嫉みのようなものだ、妙に聞こえるかもしれないが」
自分に呆れてしまう。
枷を羨むなど、到底普通じゃない筈だ。
そんな事で妬み嫉むなど…規範としてあるまじき発現だ。
■御津羽つるぎ >
捜査の手が及ばなかったということではあるまい。
裁かれたいのなら自首をすればいいだけ。今はその仔細を問える身でもない。
疑問は浮かぶ。でも、問われたいわけではないと思う。
そこまで親しくもない。仕事上の間柄。
「私は…」
述懐できることがあるとすれば。
「生まれついたことで、納得のいっていなかったことがあったんです。
そのために刀鍛冶なんて始めちゃったりなんかしたりして」
立ち上がり、入口のほうへと誘おう。
「色々考えて、色々あって、納得というか、覚悟はできたんです。
そうなると自分のまわりへの、世界への見え方が変わったっていうんですかね」
とどのつまりは、
「いつか、納得できるといいですね」
気持ちの問題なのだろうと。
罰されない悔いに理解が至らぬ以上、そして裁きは法の下にのみ成される。
ならば彼は裁きを受けることは永劫なく、納得を如何に得るかだろう。
刀工の領分ではないので、そんなことしか言えないのだが、いつまでも柔らかく。
「羨ましいといえば、私のほうもですよ」
■青霧在 > 「…おかしな話を聞かせてしまってすまない」
むしろ仕事上でしかない関係だからこそ逆に話せた部分もあるのだろうか。
もしそうだとすれば、猶更哀れでみじめな話だ。
加えて身勝手でもある。
これ以上の自分語りは身勝手極まりないだろう。
誘導され入り口へと向かう。
「改めて、《聖蛇》をよろしくお願いします」
出入口から一歩出れば、もう帰路の場所で、改めて首を垂れる。
「賠償金の返済…終わるといいな」
「……今のは秘密にしておいてくれ」
「失礼します」
軽く会釈し、別れを告げる。
次ここに来るのは修復が完了した時だろう。
そのままいつも通りの歩調でその場を去った。
帰り道は何事も無かった。
■御津羽つるぎ >
「ええ、お気をつけておかえりくださいね。
引き受けた以上は満足していただけるお仕事を致します。
ですので、無事にお渡しできますよう…」
深々と頭を下げて、去っていく後ろ姿を見送る。
自由だ。枷もない。鎖もない。自分でつけたもの以外は。
だが――
「羨んでいるのは」
そんなことではない。
すでに訪客は去って、扉越し、無人の地下駐車場に向けて。
「自分のための剣を、誰かがつくって差し出してくれるなんて」
妬みと、
「当たり前のように、剣を振るうことができるなんて」
嫉みなど、
「それがどれだけ幸せに見えているかなんて、
あなたにはきっとわからないんでしょうね」
相手に聴かせる必要はない。
枷を羨む心が自分には判らなかったように。
大人だなんていうよりは…余分を排除しただけだ。鉄を打って鍛えるように。
寒い季節に、隣の芝は青かった。
ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」から青霧在さんが去りました。
ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」から御津羽つるぎさんが去りました。