2026/02/07 のログ
ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」に御津羽 つるぎさんが現れました。
ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」に青霧在さんが現れました。
御津羽 つるぎ >  
「………………」

御津羽つるぎは、世事に疎い。
年がら年中、落第街の工房に引きこもっているからだ。
興味もない。ただ槌を振るい、刀を鍛え続けている。
だからとて……眼の前の状態に心が全く動かないわけではない。
その精神は冷血や鋼鉄とはむしろ正逆にある。

「それが…」

久方ぶりに会う。時間があいた。
作業自体は滞りなくとも、祈祷など含めれば祭祀との連携も不可欠。
長期間の仕事を経て、脳裏から面影が薄れつつあった相手でも、
万全……ではないことは伺い知れた。

「裁き、ですか?」

応接用の茶菓子……相変わらずのチョコまんじゅうと玉露を挟んだ相手に。
いつぞやの言葉を思い出した。
それがあなたの受けた罰ですか、と。
袖から覗く包帯。だけならず、歩き方から何から。
負傷があり、その状態で来ることが、ならばそうであるのかと、奇妙な生き物を見るような怪訝さで、両手に持った湯呑の近くの唇が間の抜けた問いを発していた。

青霧在 > 「これですか?これは…戦闘での負傷です」
「これが裁きだとは……あまり思いたくないですね」

限界寸前だった昨晩とはうって変わり、本日は快調。
そう思っていたのは自分だけだったようだ。
袖から覗く包帯もあるのだろうが、それだけで裁きとまで言われるだろうか。
自覚出来ていないだけで、今の自分は傍目から見るとかなり不調らしい。

袖から包帯が覗く右腕を正面にかざし、神妙な面持ちで答える。
名誉の負傷と言えるほど傲慢ではないが、役割と果たす過程での負傷だ。
それを罪への裁きとは……思いたくない。

「このような姿を見せてしまって申し訳ありません」
「あと数日もすれば完治の予定ですので、お気になさらず」

やはり、日程をずらすべきだったか。
自己管理の不出来さを恥じるべきだろう。
頭を下げて謝意を表した。

御津羽 つるぎ >  
「ははぁ、ご苦労さまで……。特攻課は、相変わらず大変そうなんですねぇ。
 はて、それは罰の重さでしょうか。それとも、裁きの内容(なかみ)でしょうか」

少し興味深そうに、彼の言葉に食いついた。
彼が求めていた裁きというものには……
何がしか条件や基準のようなものがあるらしい。
憐れみや心配の念は、薄かった。なんともそうして、こちらはいつも通りだった。

「はい、それでは(わたくし)は気にしません」

唇は微笑んだ。接客態度はサービスに含まれていない。
けれど、眉をハの字にすると、湯呑の表面を捏ねるようにしながら。

「でも、ご同僚にはいっぱい心配されたのでは?
 また"自分なんかに"と、思い患って居そうだな、なんて」

そういうことは覚えていたらしい。
心配ではなかった。あり方の問題で。
結局、頼みのひとつを持ち帰れなかった彼のことを、しかしそれは責めはしなかった。

青霧在 > 「…………」

刀匠の問いかけに、即答できなかった
自分が納得出来ていないのは、罰の重さか裁きの中身か。

――二択まで絞れる程単純な話ではない。

反射的に浮かんだその思考に、唇を硬く結んだ黙り込む。
治安維持活動での負傷。
償いの果ての罰とも、言い換えられるのではないかと。
臨んだ通りに与えられた罰、そう思っても良いのではないか。

逡巡のうちの自問。
ただ、今出すべき答はそこに非ず。

「中身、でしょうか」

やっと開かれた口から出た答えは、少し掠れているように感じた。
それほどまでに、納得のいかないものであった。

「……確かに、何度も静止を受けました」

退院した当日に、職務に復帰した。
現場(あの日の歓楽街)を知る者ほど、急速を強く勧めていた。

そして自分はその全てに問題無いと言い切った。

「自分なんか…というよりかは、挽回に必死でした」
「なにせ四日も空けてしまいましたから、その穴を埋めなくてはならないと」

風紀委員会は自分一人が抜けた程度で滞る程、杜撰な組織ではない。
とはいえ、四日も突然空けてしまえば各方面にかかった迷惑を無視出来る筈もなかった。

御津羽 つるぎ >  
彼の言葉を受け取った。
真面目すぎるほど、真面目な受け答えである。
口元の笑みはなくなって、湯呑を静かに置いた。
 
「はじめて遭った時から、なんとなくこう思っていたんです」

立ち上がる。
壁際にはいくつも棚があった。ファイルなどがしまわれているものから。
どこか厳重そうな戸棚には鍵が。

「やっぱり、在さんはとっても我儘な人ですね。
 そんなことであなたを責められるのは…
 居るのかわかりませんけど、あなたを罰する権利がある被害を受けた方と…」

鍵は……鍵穴に指を押し当てると、ひとりでに回った。
戸棚を開けば、厳重に封をされた木箱が鎮座している。
来客のためそこに移していたらしい。

「あなただけ、だと思います。
 たとえあなたが特別じゃなくったって、心配する人はたくさんいますよ。
 (わたくし)風紀委員(そう)だった頃も、そんな感じでしたから」

組織ってそういうものなのかも。そんな、ふわっとした感想だ。
言葉の苛烈さに対して、語調はまんじゅうより、マシュマロのように柔らかかった。
対面ソファに戻れば、膝の上にそれを落ち着けたまま、改めて向き合う。

青霧在 > 「我儘……なのでしょうか……?」

我儘という言葉はしっくりこない。
しかし、刀匠の言い分に否を突き返すことは出来なかった。
まるでミルクパズルの余りのひとかけ。
自力で埋められなかった一部分に綺麗に収まってしまった感じがした。

ぼんやり脳裏に浮かぶのは、あの日あの場所(この島に来る一年前)
向けられた視線は哀れみや同情ばかりで、責めるようなものは無かったと。

―――突如浮かんだのは、また別の場面。
此方に向いた四つの瞳。
強化ガラスの越しに向けられた二つの罵倒が再生され―――

「そう、でしょうね」

心ここに非ずとはならないように、刀匠の姿を目で追いかけていた。
しかしながら、意識の大半はどこか遠く(過去の記憶)にあった。

幸いだったのは、含蓄のある言葉を投げかけられなかったこと。
正直当然も同然のことに、漠然とした同意を返しただけで済んだ。

ソファに腰かけた刀匠の様子に、ふと意識を正す。
ゆっくりと瞬きをして、ここでようやく膝の上に置かれた木箱に気が付く。
恐らくは、依頼の品だ。そう思うと、自然と視線はそこに向いていた。

御津羽 つるぎ >  
「…………」

何を考えているのか…までは見て取れない。
彼は咎人なのだという。外だけでなく、常世島でも重罪を犯した自分とは違って……。
学生としては、まともだ。ずっと風紀委員を続けてきた人だ。
すぐ懲戒免職(クビ)になった自分とは違って、組織に属することができて、活躍している。
同じ職人とすら、時々意思疎通がうまくいかない。わかるはずもないので…少し待って。

「ご依頼の品です」

彼の集中が戻ったのを確認して、一つ頷く。
卓の上に、ごとり、と木箱が置かれた。

「ご確認ください」

古めかしい重厚な蓋を開くと、そこには布張りに並べられた同型の"刃"が複数。
特殊な形状ゆえそうした形での提示になる。
手品のように。昔日の……明け渡された時の《聖蛇》そのままだ。
まるで毀れたその出来事がなかったことになったように
二つ名に恥じぬ神業であった。

「自分がどんな人間か。
 それを問うた結果を、万全に持ち帰れなかった……。
 それもまた、私があなたに架した条件に対しての、返答のひとつでもあります。
 点数をつけるようなことではないので、お気になさらないでくださいね。
 "可能な限り元通り"――代価に対し過不足なく、此処に仕事を致しました」 

青霧在 > 「ありがとうございます。確認させていただきます」

木箱が開かれ依頼の品、《聖蛇》の姿が露になる。
そして、その様子に思わず呆けた声が漏れる。

「……マジか」

依頼料は安くなかった。
前評判も非の打ちどころがなく。
それでも全幅の信頼を置けるかと言われれば、中々難しい。

目の前に示されたのは、全幅の信頼を示すに足る出来栄えの品。
あの日、知人の刀匠()に渡された日のままの姿の《聖蛇》。

ふと伸ばした手で刃の一つを持てば、あの日あのままの触り心地・重量・光り方。
切れ味は試すまでもないだろうと思わせるほどの感触。

「……えぇ、これは……本当に……」
「ありがとう、ございます」
「あなたに依頼して、良かった

思ったままの言葉。
支払った対価は非常に高額だ。その上で過剰に思えるほどの出来栄えに、思わず素が出た。

「契約のことは、改めて申し訳ありません」
「何か今からでも出来ることがあれば、仰っていただければ…」

恐らく出来ることは無いだろうが、あるのであれば何なりと。
そう思ってしまう程の出来栄えだった。

御津羽 つるぎ >  
「あくまで元通り、ですからね。
 つまり同じようにしたら、同じように(こわ)れるということです。
 使い潰すように使いたくないなら、くれぐれもご注意ください。
 ……本末転倒な感じは、しますけどね」

当人を守るために差し出されたものを、慮るように扱う。
つくづく奇妙な話だ。また新しく仕立てればいいじゃないか、と思うが……
そういう話ではないのだった。

「次があるなら作刀の依頼がいいなぁ、なんて…えっ?
 …………ん~……うーん……」

特にないです、と言ってもいいのかもしれないが……。
そう言われるとなにか頼みたくなる。

「……そうですねえ、ちょっと考えます。
 お帰りまでには考えるので……あ、そうだ……」

胸の前で指をちょんちょんと触れ合わせて考えながら。

「まず、あの依頼の理由(いみ)を、お伝えしましょうか」

彼がそれを不足と感じてしまっているのなら。
そこを説明しておく必要はあった。

青霧在 > 「肝に銘じます」

多少乱暴に扱ったとしても壊れるようなものではないが、形ある以上壊れる。
二度とあのようなことにはならないようにしなくてはならない。

とはいえ、《聖蛇》を振るいたい相手は既にいる。
その機会が訪れるかどうかは分からないが…
最も馴染む武器の一つがあの日の姿で帰って来たのだ。
振るいたいと思わずにはいられない。

「…聞かせていただけますか?」

出来る事は無いと思ったが、考えてくれるらしい。
ありがたいことだ。

《聖蛇》を預けたあの日の言葉は今でも覚えている。

『"在さんがどんな方に見えているのか"。
 その方々に訊いてみてほしいんです。』

『あなたが思う在さんと、周りの見る在さんは、
 ひょっとしたら大きく違うのかも。』

その真意を聞けるのであれば、聞きたい。
先程の、すんなりと受け止められた言葉と併せて
何か、得られるものがあるかもしれない。

御津羽 つるぎ >  
「在さんは……えっと……そうですね……」

両手は忙しない。
あらためてこうなると、動機の言語化は生業に含まれていない。
糸のように細く伏せられた眼の奥で、あちこちに視線が動いた。

「…………物語、って読まれますか?」

切り出したのは、少しだけ不思議な問いかけである。

「どんな媒体でもいいんです。
 小説とか……ドラマ、映画。
 漫画……に……テレビゲームにも、ついてるのでしたっけ……」

例示されるものは、後になっていくにつれてつるぎにとって馴染みのないものになっていく。

青霧在 > 「物語は……多少は読みます」
「それ程詳しくはないですが」

一時期、ソシャゲのシナリオを読んでいた時期もある。
ただ、それほど愛着が持てず、次第に読まなくなっていった。
それ以前も、物語に触れる機会はあまりなかった。
時折周りが懐かしい絵本などで盛り上がっていても、自分はそれに参加出来ない。

「物語と、何か関係があるのでしょうか」

どう関係するのか、まだ想像できない。

御津羽 つるぎ >  
「大変容が起こる前は《空想》の物語に、いたく需要があったようですね」

変容前後で、ブームが大きく変わったというが……
それなりに年長の部類のつるぎも、生まれた時は既に変容が起こってだいぶ時代を経ていた。
魔術、異能、人外、異世界……それらがすべて非実在ということになっていた。

「物語の主人公。
 自分から遠く、自分が持ち得ないものをもつ憧れ。
 そこに自分を重ねて、まるで実際になにかを手に入れたかのような……
 そういう《空想》に浸るのが、私の趣味なんです」

頬に朱がのぼった。
小さい子供のようなもので、少し気恥ずかしげに語る。

「………私が重ねるのは。
 あなたであり、此処に多く訪れる剣士の方々です。
 その方々が歩んでいる物語を、頭のなかに描いて。
 まるで自分が剣士になったかのように空想して……気持ちを紛らわせてるんです」

顔をあげた。

「勝手なことですけどね。
 主人公の解像度をあげたくて、お願いしてました。
 ……怒られたことも多いんですけど、やめられなくって。
 だから、まともに取り合わなくていいんですよ。
 私の一人遊びのお手伝いをしてください、というだけなんです」

少し歪んだ趣味だ。
提供されるコンテンツに飽き足らず、生物(なまもの)を求めている。

青霧在 > 「……なるほど」

つまり俺はコンテンツとして消化されたという訳だ。
御津羽つるぎの内にある青霧在の解像度を上げ、その物語を空想する。
馴染みのない趣向だが、何となく理解出来た。

「聞いたことない趣味ですが確かに、嫌がる人もいるでしょうね」
「俺は構いませんが……好き好んでされたいとは思いませんでした」

依頼の対価ということもあって、拒絶も否定しない。
ただ、悪癖の類だとは感じる。

「御津羽さんの中で、俺は剣士でしたか」
「俺は何を手に入れていたか、聞いても?」

しかし、聞いてしまったら興味が沸く。
剣士を自認したことはないし、剣士と呼ばれた事は無いが。
聞いてみたい。

御津羽 つるぎ >  
「不思議なものですよね」

在の言葉に苦笑して、首を横に振る。

「私を鍛冶師であるかのように消費しておいて
 自分が消費されることを厭い、嫌うばかりか、
 道具である剣すら、まるで消費するものではないかのように振る舞う人が大勢いるんですよ」

少しばかり、言葉に熱が滲んだ。
眼の前の青年は、程度は軽い。受け容れてもくれてはいる。
歓迎はされない。それはそうだろう。

「剣に生きるというのはさぞ楽しいのでしょう。
 誰かのために剣を振るうのはそれだけ尊いのでしょうね……」

喉のかわきを潤すために、湯呑をとった。
ぬるまった茶をひとくちすすって……

は……」

少しだけ、なにもない天井を仰いだ。

「無私の正義のように周囲に持て囃され。
 決して裏切ることのない、それに足る人間と信を預かり……」

ぽつぽつと、呟くようなものだ。
そこに熱はない。

「戦って、戦って、戦って。
 傷ついて、傷ついて、傷ついて。
 しかし誰も彼の求めることを知らない。
 正義の戦いの中に、求めているものがあることを知らない」

迷妄の物語だった。
裁きを求めることを知る自分は、登場人物とは扱わない

「……裁きを褒美だと希求する物語。
 しかしあなたは戦えば戦うほど、
 信じられ、讃えられ、英雄へと近づいていく……」

顔は、正面に。

「たどり着くことはないとしても?」

自認と現実の差異(ギャップ)
頭のなかに思い描いた、紋切り型の荒唐無稽は、そういうものだった。
結末は遠く、ともすれば打ち切りやもしれない。
そう語る語り口に、苦々しいものが滲んだ。

青霧在 > 「……」

何も言わない。
心を打たれたとか、図星だとかそういう訳ではない。
全てがという程ではないが、かつてなく浮いた様子の彼女を理解出来なかったのだ。

その上で、《御津羽つるぎ》を刀匠(鍛冶師)として扱い(消費し)
(《聖蛇》)を道具以上に扱った自分が口にするべき言葉が見当たらない。

「そう、か」

俺と《彼》は別人だ。
《彼》が彼女から見た俺だとしても、その事実は揺るがない。
俺と《彼》は別の物語(人生)を紡ぎ、別の結末を迎える。
《彼》が英雄に近づいていくのと異なり、俺は別の結末を得るだろう。

「その、彼は」
「英雄に近づいていくそいつは……どんな顔をしてる?」

別人だ。別人の物語だ。
多少似ていても、近しい点が多少あっても、関係ない話だ。

彼女の後ろの棚。
その隙間から、4つの眼が此方を覗いている。
否、幻覚だ。ここには二人しかいない。
居ない、筈なのだ。

御津羽 つるぎ >  
「苦しそうです。楽しくはないでしょうね」

迷わず、応えた。
《彼》は空想上のものであり、御津羽つるぎの主観が解釈したものだ。
――御津羽つるぎだけではなかった。

誰も《俺》を見ない。
誰もの心に《彼》がいる。
《俺》にそんな価値がないと思っていても。
《彼》に価値を見るものがいる。
……世界は、そうやって残酷に成り立つ。

だから、求めた。多くの《彼》の視点を求めた。
それを得られなかったこともまた、《彼》の解像度を高められた。

御津羽つるぎは、《俺》に興味がなく、《彼》があればよい。
だれも御津羽つるぎを《■■》とは見ず、《鍛冶師》としか見ない。
当たり前のことだ。

「存在するかもわからないものを求め続けてるんですから、そりゃそうですよね」

溜息をついた。
だって、裁きの内容ははっきりしていないのだから。

「なのに、それを諦めて楽に生きることができない。
 周りのことを顧みず、自分の人生に我儘になって。
 それを手に入れる以上の結果などないとわかっているかのように。
 そこがよく共感できてしまうので、正直私も苦しいです」

憧れを投影するはずが、生身の自分に似たものを感じてしまう。
完全なる他人として娯楽を楽しみたかった筈なのに。
そこが凝りになって、考えれば考えるほど苦しいのだ。
へにゃりと力なく笑う。

「"やめちゃえば"?」

何度も言われてきた言葉だった。
《彼》はそう言われたことがあったのだろうか。
苦しみ求め続けるなんて不毛だ。
それに、《俺》はどのように応えるのだろう。

青霧在 > 「そう、だろうな」

ズレたような感覚がする。
生きている世界から、普段在る世界から外れたような感覚。

右手が気づかぬうちに己の胸にあてられる。
大凡心臓の上、しかしそれに気付くことはない。

視線は目の前の刀匠の奥へとくぎ付けになる。

『存在するかもわからないものを求め続けている』

更にズレたような感覚。
幻聴、心が軋むような音を出している。

勝手に右手に力が籠る。
身体に巻かれた包帯ごと、制服を握りしめる。

我儘、なのだろうか。
俺の求める裁きは、償いは
このどこに居ても睨みつけて来る目から逃れようというのは
我儘なのだろうか。

「やめられるか……!」

即答だった。
乱れた心拍を押しつぶそうと自ら心臓の辺りを握りしめ、眼を大きく開いたまま。
その視線が向かう先は刀匠ではなく、その奥の棚の隙間。何もない場所。

「俺が俺を拒絶するには……青霧在と決別するには……!」
「裁きが……償いが……!」

苦悶の表情を浮かべ
息も絶え絶えに吐いた言葉は青霧在当人へと向いていた。

御津羽 つるぎ >  
それはどういう?

問いを重ねることもできただろう。
より解像度を上げることもできたろう。
だが……これは、あくまで娯楽だ。
羨望という淀みを消化し昇華するための遊びだ。
御津羽つるぎはとても打算的で、冷静でいられていた。

現実として眼の前の青年は怪我人だ。
ここで倒れられると――監視対象である自分としては、とても困る。
追及を受けるのはあまり好きではない。それを楽しむことができない。

だから軽く前のめりになりながら両腕を伸ばし、青年の頬を軽く叩くように包んだ。
いくつもの鍛打、年輪を重ねた掌はしかし、硬くもたおやかだった。

「思いつきました、在さん」

静かに言葉を垂れた。
さっきから考えていたこと。

話は、ここまでだ。
……今日は。
惜しむ気持ちはあっても……。

青霧在との決別。
物語の伏線が見えただけ、無聊の慰めのための――収穫と考えよう。
回収は、また何れ。

青霧在 > 青霧在の目に刀匠は映っていなかった。
何もない筈の棚の隙間から見える四つの眼に釘付けだったためだ。
おかげで、頬に触れた手が刀匠のものであると気づけなかった。

――危害を加えられた、排除しなくてはならない。

正に盲目的な妄想に支配され、異能を行使しようと対象を探した途端。
その手が刀匠のものであることに気付いた。
寸でのところで、留まった。

刀匠の掌は、雰囲気に反して硬かった。

目は見開いたまま、しかしその視線は確かに刀匠(現実)に向いている。
数秒時間を置き、胸元から手を降ろし、何度か瞬き。
大きな深呼吸を数度重ねて、心拍を落ち着ける。

そうだ、知り合いの刀匠もこんな手をしていた。職人の手なのだろうか?
それを思い出した途端、少しだけ心が凪いだ気がする。…何故だろうか。

「……何を、でしょうか」

契約の代わりのこと、だろうか。

幸い、身体的なダメージを負った訳ではない。
深呼吸を重ねるうちに、ズレた感覚(心拍の乱れ)も収まっていく。
ただ、完全に収まるには数時間はかかるだろうという嫌な確信があった。

御津羽 つるぎ >  
戦闘者に対して、あまりに蛮行であろうその挙措。
しかし青霧在に臆する素振りは見せなかった。
鈍感か、あるいは自信か、何れにせよ、今応えは出ない。
《私》と《彼女》は違うものだった。

事は起こらなかった。故に、咎められる理由も、どちらにもなかった。

「…………落ち着くまでここで休んでいても大丈夫ですよ。
 私は地下に籠もっていますので、ええ。
 無事に帰れますように。私に、あらぬ疑いがかかっちゃいますから」

ただごとではない。
手を触れているからだろうか。脈拍が、なんとなく伝わる。
早く出ていけという程の理由も嫌悪もない。
彼の顔を解放した。

「少しお待ちくださいね。いま持ってきますので」

そう言うが早いかするりと立ち上がり、御津羽つるぎは奥へ引っ込んだ。
数分は戻らない。
一人になることは、青霧在にとってどんな影響が出るかも考えない。

青霧在 > 「…取り乱してすみません」
「落ち着きましたので大丈夫…です」

自信はない。
つい先ほど、反射的に危害を加えようとしたばかりだ。
悟られてしまったのだろうか。いや、そうでなくともあんな様子では不安を与えてしまったかもしれない。
何せ、ここで不祥事を起こしたとて処罰を受けるのは俺ではなく刀匠だろう。
そんな事態は望んでいない。

「……分かりました」

添えていた手を放し、何かを取りに行く刀匠の後ろ姿を見送る。
刀匠で一部見えなかった棚の全貌が明らかになる。
全貌が明らかになった棚をどれだけ見つめても、眼などどこにもない。
一人の部屋では、誰も此方を見ていない。

当たり前のことだ。
そんな当たり前に酷く安心して、脱力したまま刀匠を待った。

御津羽 つるぎ >  
暖房の暖かさはあっても、無機質な空間だ。
誰もいない。いるはずもない。
飾りもない。殺風景な事務所だった。
拘りもない。壁掛け時計は針を刻む音を立てないものだ。
そこに、奥からまた足音が戻って来る。数分ののち、ようやく。

「お待たせしました。
 いえね、習作を引き取っていただきたくて」

歩きながらだから、奥から声が近づいてくる。
扉のない仕切りの暖簾の下をくぐってくると、
白鞘をひとつ抱えていた。形状も尺も通常の日本刀のそれだ。

「片端から作り続けているとね、かさばってしまって。
 使うあてのないものは、特に処分にこまるんです」

対面に座る。

「これ、使ってください。
 壊しても大丈夫です。いらないからあげるだけですので。
 放って置くよりは、消費するほうが良いですからね」

どうでしょう?
そう、首を傾ぐ。
白鞘は抱えたままだ。彼の返答次第で、それを明け渡すかを決めるようだった。

「在さんなら使えると……思うんですよね。
 《聖蛇》を扱えるということは、念動力のような異能か魔術をお持ちだと思うので」

青霧在 > あの眼だ。
眼とは限らないが、あれが無いだけで何と気が楽か。
リラックス出来るような状況ではないが、かなり心を落ち着けられた。

「習作…日本刀ですか?」

刀匠が持ってきたのは、日本刀らしき長物。
日本刀については無知だが、
同僚の何人かが扱っているため見た目で何となく予想がつく。

「はい、その通りですが……」
「これを俺に…?」

《聖蛇》の刃の一つを浮かせて見せつつ、尋ねる。

「どういう刀か、お聞きしても?」

どういうことだ。
使うあてがないのなら売るなりすればいいだろうに。
そもそも使うとは何に?
それ以前にどんな刀かもわからない。
呪物の類…なんて直接的なことはしないだろう。

とはいえ、契約の代わりということであれば、断れない。
そうなれば、受け取らざるを得ないが。
一先ず、どんなものなのかを聞くことにした。

御津羽 つるぎ >  
絶対に毀れない刀()

返答は、淀みなく。

「……を、目指した習作です。
 はい、言っちゃうと、失敗作です。
 というか、いままでのわたくしの作品……
 直接の注文品以外は全部失敗作(そう)

要するに、毀れるもの。
少し恥じ入るようにはにかんだ。
作りたいものを作れない。技術を売りにするものとしては情けない限りだった。

「こちらを訪ねてきたとある方の得物がですね。
 とても重く堅い……という特性を持っていたんです。
 おそらく材質から普通ではなさそうだったのですが……
 それを突き詰めればあるいは、と思ったんですが」

応接テーブルの空いたスペースに、両手で水平に掲げ持った刀を移動させ、

「だめでした。
 ただ重いだけのものが出来上がってしまいました。
 よほど特殊な材を使っていたんでしょうねぇ…よいしょっ」

どずんッ――!
二尺四寸五分の刀が出してはいけない音を立てる。
テーブルが、棚が振動する。
肉体の修練で、ダンベルやバーベルを床落とし(ドロップ)したかのような衝撃が地面をどよもした。

「試してはいないんですが、これだけ重いと振り回すだけで一苦労ですし。
 そのくせ剛性は駄作同然で……どうしたものかと思ったんですけど……。
 砲弾としては、結構いい線行くんじゃないかなぁ……と……?」

青霧在 > 絶対に毀れないと聞き微かに身構え…る前に、打ち消された。
絶対に、と付くものは大抵が呪物の類であるゆえだ。

「…なるほど」

あれ程の神業を見せた(《聖蛇》を直した)刀匠の失敗作。
形あるものは壊れる。多少の例外はあれど、それは大原則だろう。
それを逸脱するとなると、極めた刀匠と言えど容易ではないらしい。

相槌をうちながら、話を聞く。
重く堅い刀を参考にした失敗作。ただ重たいだけのもの。
つまり……

「確かにこれは…」

普通の人間には容易には扱えないだろう。
置くだけでこの衝撃。
とてつもない重量だ。
…どちらかといえば、こんなものを平然と持ってきた刀匠の力の方が驚きだった。

「俺なら確かに……扱えますね」

なるほど、砲弾として。
この重量を、俺の異能で。

「本当に壊す前提で使うことになってしまいそうですが…」
「これを俺がいただいても…?」

あの怪人にも、通用するだろう。

御津羽 つるぎ >  
「譲渡契約書に確認と署名は頂きますけれど……?」

流石に、失敗作であっても凶器だ。
出所不明の武器を風紀委員に渡すのは、様々な問題に発展しかねない。
それでも、いただいても?と言われれば、そこに何の懸念もないので、首を逆に傾げた。

「刀は器物(どうぐ)
 使ってこそ意味があります。使途に応じて用いられてこそ刀だと私は考えます。
 むしろ壊れてしまえば、その分の場所も空いて一石二鳥ですね」

両手を合わせて、朗らかに笑った。
刀を産み出す存在は、その神がかりである故に、神を越えぬものに価値を見出さなかった。
使うために引き取られる。職人は、それを是とした。
これによってこの失敗作に、刀匠の名以上・以外の価値が生まれたのだ。

「それに……また《聖蛇》を毀して持ってこられたら困りますので。
 仕事は致しますが、修繕は私の専門外なんですからね!
 これの真作を持ってきた方もそうだったんですよ。
 頼まれればやりますけどぉ……出来れば鍛造のほうでお願いしたいところです。
 経験を積みたいですし、だいたいのものは造れると思いますので、ええ」

少し不貞腐れたように言い添えて。
それきり、その刀に触れようとは思わない。
彼が扱うのなら、それはもう彼のものだ。

青霧在 > 「それは勿論」

お互いの立場を考えれば、自然なことだ。
何かあった時に、面倒ごとを招きかねない。

それより、壊れてしまえばと語る刀匠の様子に、未知の価値観を見た。
職人という人種は、皆こうなのだろうか。
いや、知人は少し違っていた。個人的なものかもしれない。

「もうここには持ってこなくても済むようにしますよ」
「鍛造…考えておきます」

壊したくないし、直したくもない。
そこは合致している。
それに、あの額を何度も用意できる程の貯金はもうない。

鍛造の依頼は、今の所考えていない。
何か切っ掛けがあれば、と言ったところだ。

…依頼で思い出したことがある。
記憶が正しければ、目の前の刀匠は賠償金を支払う為に依頼を受けていると話していた。
であれば、依頼以外の目的で作られたこの刀。
その資金の出所はどこなのだろう。
採算が取れないのではないだろうか。

そんな疑問が沸いたが、忘れることにした。
プライバシーの詮索は趣味じゃない。

「契約書は…用意など、ありますか」

一先ず目の前の日本刀のことから。
《聖蛇》の受け渡しもまだ済んだ訳ではない。

御津羽 つるぎ >  
「はい、用意がございますよ。
 仕上がるたびに仕立てています――あ、と……。
 《聖蛇》の分も。しっかり書かないと、怒られてしまうので」

既に用意していたらしい。
ひょいとテーブルの下の小さな棚から取り出した封筒から、紙束。
それを差し出した。契約がなされれば、その刀剣で起こった如何なる事態も所有者の責任となる。
折れようがどうしようが、振るうものの責となる。
……書類上は、だ。それを納得せず、自責する刀匠もいるのだろう。
こちらは――

「この世に求めるものが存在しないなら、
 そうだ、自分で創ろう――
 そう思っていま、私は刀を鍛え続けています」

出し抜けに言葉をかけた。

「そう思い至るまでに苦心もしましたし、気づけば重犯罪者になっていましたけどね。
 やめちゃえばと言われても、やめられないんだからしょうがないです」

裁きはどこにあるのでしょう。
探し方は間違っていないか?
生き方の是非ではなく探し方の是非を問う。

「ご武運を」

そう《青霧在》ではなく、《彼》に微笑んだ。
署名と譲渡をもって、一旦、取引は終了となろう。

青霧在 > 「準備がいいですね。ありがとうございます」

差し出された契約書を手に取り、目を通す。
わざわざ目を通さずとも問題ないだろうが、
全てに目を通すのは契約書にサインする上で欠かせない順序だ。

そうしていると、不意に言葉をかけられた。
一旦契約書から面を上げて、耳を傾ける。

「自分で創る…ですか」

少なくとも、目の前の刀匠は創ることを選んだらしい。
ただ、重犯罪者になったと言う辺り、それが正解だと言いたい訳ではないのだろう。
…自分の場合、今更という気もするが。

「ありがとうございます。覚えておきます」
「ご武運を」

見つからないのなら、作ってしまえばよい。
その通りに出来るか、選べるのかは分からない。
ただ、きっと道しるべにはなるだろう。

そう思いつつ、目の前の刀匠に言葉をかけた。

書類にサインをして、取引を終える。
晴れて《聖蛇》はかつての姿を取り戻し、
加えて新たな(選択肢)まで得ることとなった。

ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」から御津羽 つるぎさんが去りました。
ご案内:「作刀部活「韴霊」事務所」から青霧在さんが去りました。