2024/06/10 のログ
■ハイヒールの匿名モデル >
━━腕を伸ばす。その合図に合わせて、その手を首元へ。
虜囚を縛る首輪のような超軽量素材のシルバーチョーカー。
それを力任せに引きちぎるようにして、スピーカーから鳴る破砕音に合わせて腕の動きで解き放つ。
マグネット留め具の軽さを感じさせない重々しさで。
それを決められた演出通りに見せるのが、私たちの仕事。
振る舞いが、一変する。
振りまいていた笑顔を刹那の間に封じ込めて、凍り付くような冷たい視線で。
誰もを見ているようで、誰も視界に映していないかのように。
獄中の鋼の温度を、コンクリートの冷たさを感じさせる目力で、ねめつける。
ランウェイの先端、踵を返すその瞬間に後ろ手に手の内のチョーカーを客席に投げ捨てる。
それと同時に表示されていたホロが消える。
縛る物の無くなった小悪魔が背を向ける。
悠々と、無防備に大きく開いた背中を見せつけて。
導きの先にある物の一端を象徴するように、獣の僅かに後ろにつくようにして。
LIBERTYという名の光のなかへ。
■■■■ >
こつん。足音が響く。
冷たい廊下。
次の出番の誰かが引っ込むまでは、ふたりきり。
控室へも続いているが、二人が征くべきはそこではない。
演じ終えた役者は、そうしてそれぞれの日常は還るのだ。
■長身の匿名モデル >
「――あのさー。さっきすごく好みの娘がいたんだけど。
やっぱマズいかなあ。お持ち帰りするの」
知能犯は、口をひらけばそんなものだ。
なんとも観客が聴いたら落差で口を開きそうな俗っぽい声で、
だいぶ本気で名残惜しんでいる風体を、隣を歩く歌姫の顔をみずにぼやいた。
■ハイヒールの匿名モデル >
「あはー、前の方にいたちょっと気の強そうな子?
あーいう子好きだよね」
最後に見せた冷たさなどはどこへやら。
いつもの調子、ケラケラと愉快そうに笑う。
熱を吐き出すように、ランウェイの上と違って足を放り出すようにしてのんびりと。
「っていうか━━思ってたより結構テンション上がってたや」
テンション上がってチョーカー投げたけど、アレは予定になかったよね。
「ごめんね?」
手を合わせて通りすがり、舞台演出を担当した組の生徒に小首を可愛く傾げてみせる。
舞台袖、観客の目に映らない所。
すれ違う次の演者を振り返りもせずに、二人は歩き続ける。
■長身の匿名モデル >
「我が強そうなのがいい」
あと胸。とまでは告げずとも、鼻歌混じりだ。
学生証と連動する認証機能を搭載できるチョーカーも、やはり高級品だ。
それを肩越しに、眼鏡を外してしまい込む。
欺瞞用の魔術による着色はカメラ程度なら騙す。
「ボクを通して『LIBERTY』に売り込むとは考えたな」
しずかに。
冒険から帰還後、端末に残っていた連絡から始まった此度の悪巫山戯。
「古巣が恋しくなったの」
普段の調子を保ちながら、どこか鋭い色を帯びて。
返答を強制するものではない。手配してある運び屋の元へ征くまでの暇つぶしだ。
■ハイヒールの匿名モデル >
「得意でしょ? 連絡取れなかった時はどーしよっかなって思ったけど」
適材適所、マネージャーもいない今となっては悪巧みをするのも遊ぶのも一苦労。
「これを恋しいって言うのかなー。
見られて、注目されて、全部の視線がこっち向いてるのって最高じゃない?」
求めたのは刺激はモデルという立場そのものじゃない。
耳目を、視線を、熱狂を━━独り占めしたい。
周りも見れなくなるくらい、夢中にさせたい。そんな分かりやすい欲求。
「人に遠慮したり理由を付けて我慢するのは、もういいかなーって。
欲張りなんだ、わたし」
聴いて、見て、私を感じて欲しい。
その発露の際たる物は、今回の舞台で日の目を見る物ではないけれど。
■長身の匿名モデル >
「偶像らしい」
肩を竦めて、少し笑った。
「ボクは――刻みつけたい。惹き寄せた、その魂すべてに。
消えない疼き続ける傷を、極限の快楽を」
何よりも紅い、血の神話を。
それが、欲望――情熱。すべての原動力。
野望の第一歩を、確かに確かに踏みしめながら。
「劇場の跡目を引き継ぐヤツを探してる。
もしかしたらキミたちかもしれない。準備はしておいて、それと――」
ひとときの狂騒を終えれば、次の闘争の話。
「――いや。今はイイか。 次の公演も期待してる」
すぐそこまで来る運命は、彼女のモノ。背後に迫る死神も。
お節介をするつもりはない。すべてにおいて謹厳実直に。
ご案内:「「とこコレ!」会場」から長身の匿名モデルさんが去りました。
ご案内:「「とこコレ!」会場」からハイヒールの匿名モデルさんが去りました。
ご案内:「Free3」にハイヒールの匿名モデルさんが現れました。
■ハイヒールの匿名モデル >
「ん、またアガる話があったらね」
今回のランウェイは何処まで行っても特別公演。
利害と、人材と、機会が合致したから生まれた出演機会。
劇場のお話は、機会があれば巡りくる事。
熱と、欲。彼女と変わらぬ原動力を、私が絶やさなければ準備に不足も無いだろう。
元よりそれらが無くなるようならば、この温もりもとっくに手放している。
風紀委員に反抗して、逃げ出して。
多くの人を巻き込んで、死ぬほど怖い目にもあってきた。
それでも、まだ胸を打つ鼓動は止まってない。
「━━それじゃあ」
ばいばい。
手を振るでもなく、そう告げて。
会場の外に一歩出れば、歩いていく先はそれぞれ異なる。
目立ちたがり屋の表現者二人の悪戯は、ひとまず終わりを告げたのだった。
ご案内:「Free3」からハイヒールの匿名モデルさんが去りました。