2024/06/16 のログ
ご案内:「常世総合病院-病室-」に蘇芳 那由他さんが現れました。
蘇芳 那由他 > 再び目が覚めた。相変わらずの無機質な天井だ…つまり病室である。
昼間、いきなり起き上がって激痛に苛まれていた事をぼんやり思い出し、慎重に体を起き上がらせる。

「…痛っ……って、あれ?」

サイドテーブルに、昼間は気が付かなかったが自分の携帯が置いてあった。
あの時、酸で半ば溶けたりして使い物にならないと思っていたが。
…置手紙らしきものも一緒にあったので、それを開いて読んでみる。

「……蘇芳さんから?…修理して貰った?…うわぁ。」

ただでさえ、後見人みたいな人なのにまた恩が出来ちゃったなぁ、としみじみ。
手紙を読み終えれば、軽く宙を拝むようにして今は感謝の意を示し。

「…中のデータは…うわ、本当に修理されてるっぽい…って。」

メッセージが2件ほど入っていた。差出人は――浩平から?

メッセージ1 > MES:あのエロゲー楽しかったでーす。
メッセージ2 > MES:それはそうと梅雨ちけーの憂鬱だよなー。
蘇芳 那由他 > 何だこの温度差凄いメッセージの2連続は。楽しかったのか憂鬱なのかどっちなんだ浩平。
蘇芳 那由他 > 「うっ…。」

思わず突っ込んでしまった…そして痛みにちょっと悶えた。
気を取り直して、メッセージを僕も打っておこうと思う。

「…いや、でもこれどう返信しよう。素直に化物に殺されかけて撃退したけど入院しました。とか?」

明らかに友人から突っ込み食らう事間違いなしの文面しか浮かばない。しかも本当だから困る。

「…どうしよう。変な心配は掛けたくないんだけどな。」

うーん、とメッセージを見返しながら難しい顔をする。
こういう時、おしゃれでウィットに富んだ文章が僕には浮かばない。

蘇芳 那由他 > 取り敢えず無難な返事にしておこう。出来るだけ心配掛けないように。
そもそも、まだ退院が何時出来るか分からないというのはあるが。
ちょっとだけ迷った末にメッセージを浩平宛てにしておこうかと。ポチポチ。


MES:それは良かった。今度僕もそれやってみたいです。


…考えたら、僕は暫定17歳でエロゲー無理なんだけど大丈夫かなって。
あれ?浩平って18歳になってたっけ?まぁいいか、今度聞いてみよう。


MES:食べ物も傷みやすくなりますからね。浩平はラーメン屋経営してるから色々気を配らないとだね。


…うん、食品を扱ってる彼の事だから梅雨の時期は食中毒とか気を配らないといけないかもだし。
飲食関係の人達には頭が下がる。それはそれとして暫くは病院食になるのか…少し憂鬱だ、僕も。


MES:あ、ちょっと僕は怪我して入院中だけど退院したらラーメン食べに行くからよろしくです。


と、最後のメッセージも追加。矢張り怪我で入院は誤魔化したくはなかった。詳細は書いていないが。

ご案内:「常世総合病院-病室-」に神樹椎苗さんが現れました。
神樹椎苗 >  
 ――こんこん、と病室の戸を叩く小さな音。

「『非凡人』、生きてやがりますかー?」

 そんな幼い少女の声が扉の向こうから聞こえてくるだろう。
 そして、返事を待たず開けられる扉。
 傍若無人は相変わらずだ。

「ん、なんだ元気そーじゃねーですか。
 随分とヤベーやつとやりあったみてーですから、ふくりこーせーのために顔くらい出してやろうという試みでしたが」

 左手の袖からは植物の枝が束ねられたように伸びていて、その先には大きなバスケット。
 中には沢山のフルーツが入っている。
 バナナ、マンゴー、メロン、洋梨、ドラゴンフルーツ――ドラゴンフルーツ?

「で、どうでしたか。
 ほんもののバケモノとやりあったカンソーってやつは」

 勝手に椅子を引っ張ってきて、ベッドの横に座る。
 小粒のメロンを手に取ると、絶妙にぶさいくなネコのポシェットからナイフを出して、カットしはじめた。
 

蘇芳 那由他 > ドアをノックする音が響いた。慌てて携帯をサイドテーブルに置いて返事…する前に扉が開いた。
そこに居たのは、僕がやっている”お仕事”の雇用主である。

「…どうも、椎苗さん。元気…って、言っていいんですかね…地味に重傷ではあるっぽいですが。」

少年の意識などはっきりしているし、体中に包帯があちこち巻かれてはいるがそれ以外は何時もの少年。
ただ、時々身動きをするたびに痛そうに、耐えるような表情を僅かに浮かべるが。

「福利厚生が充実している職場で何よりです…って。
あー、まぁ僕に何かあれば椎苗さんにも何かしら情報行きますよね、そりゃ…。」

後見人の蘇芳氏以外でいち早く連絡が飛ぶとすればこの人だろう、多分。
それには納得しつつ、ふと彼女が持っている大きなバスケットに気付いた。
それも気になるけど、あの植物の枝みたいなのも気になると言えば気になります。

(…フルーツの詰め合わせ?…バナナ、マンゴー、メロン、洋梨……最後の何だっけ?)

少年、ドラゴンフルーツだけは知らなかった模様。
椅子を拝借して少年が居るベッドの傍に座る幼女さんの問いかけに、僅かに沈黙をしてから。

「…いや、普通に死んだと思いました。僕は槍以外は何の戦闘能力も無いので。」

本当に、槍を除けば正真正銘の凡人レベルである。肝心の槍も彼がその力を引き出し切れていない。
そもそも、特級の危険怪異にど素人の少年が相対する、なんて無茶どころではない。

(…あ、カットしてくれてる……何だあの猫のポシェット)

ブサ可愛い……のか?個性的なデザインだな、って。
口には出さないけれども。一先ず大人しくしてる少年。

神樹椎苗 >  
「生きていりゃぁ、大体元気ですよ。
 怪我は大抵のもんは治りますからね」

 そんなふうにさらっというものの、少年が痛そうな顔をすれば眉をひそめる。

「まあ、しぃの場合、少しばかり情報の経路が特殊ですからね。
 大抵の事はおおむね、把握できます。
 一応は入院費、危険手当、その他諸々と、正当な臨時手当は振り込んでおきました。
 あとで確認しておくといいです」

 なんて、ビジネスな話をしつつも、メロンをカットして一口サイズにすると、ナイフで一切れ刺して少年に差し出した。

「槍が役に立ったなら何よりですよ。
 それで――お前が相手にしたのはどんなやつでしたか?
 それとなく情報は得てますが、お前から見た感想ってやつを聞きたいです」

 そう言いながら少しだけ少年に向けて身を乗り出す。
 相変わらず距離は近い。
 

蘇芳 那由他 > 「…まぁ、死ななければ御の字…みたいなものでしょうか。」

少年には恐怖が無い。だから死ぬ時は死ぬとあっさり達観している。
かといって、死にたがりではないから抵抗はするし足掻く。
…今回の怪我の経緯は、まぁ不幸な事故みたいなもの…かなぁ?
ともあれ、椎苗さんの表情に気付けば、慌てて取り繕うように落ち着いた顔に。
…既にバレバレだとしても、男の子なのでやせ我慢くらいはしないと。

「…私生活以外はほぼ筒抜けになりそう…あ、はい。本当すいません色々と。」

律義にぺこりと頭を下げる。…それだけでもあちこち痛むけど我慢、我慢である。
さて、ビジネスライクな会話を交えつつも、一切れ差し出されたメロン。

…正直地味に恥ずかしいんだけど。でも、努めて平静を装って口を開けてメロンをぱくり。

「ん…えーと、一言で言えば大きな『紅い鮫』でした。
地中に潜伏したり、あと…酸?こう、溶かす液体を噴射したり連射してきたりします。
僕の怪我は大半がその酸の飛沫が降りかかった奴ですね。
…槍のお陰で直撃だけは避けられましたが、飛沫だけでもこの有様なので地味に厄介です。

…あと、最初に僕が引っ掛かったんですが地面に『穴』を設置してそこに落とす罠も用いるみたいです。
穴の底は多分、その酸が満たされていて落ちたら最後、溶かしつくされる…と、思います。」

思い出すように時々視線が上の空のように宙を向くが、出来るだけ無駄を省いて要点を掻い摘んで話す。

「…あと、今思えばあれは…槍も反応していて、それでいて実体が確かにあったので。
化物というか――怪異?その類なのかなぁ、と僕は思ってます。」

蘇芳 那由他 > (あと、前々から感じてたけど椎苗さん近い、近いですよ!距離感おかしくないですか!?)
神樹椎苗 >  
「ふふん、その気になれば私生活も覗けます。
 ただ、もちろん、同意もなくやりませんが」

 どことなく自慢げに言うが、プライバシーを尊重するという観念はあるらしい。
 メロンを食べさせると、満足そうに、むふーと鼻息一つ。

「『赤い鮫』ですか。
 ふむ――やはり直接聞くに限りますね。
 どうやら、文面で見る以上に、高い知能があるみたいですね」

 そう言いながら、自分もカットメロンを一口食べて、幸せそうな表情。

「お前の槍が反応したとなれば、怪異の可能性は非常に高いでしょう。
 そして――病毒にも似ていますね」

 乗り出した身体を、少年のすぐ隣、ベットの上へと乗り上がって。
 枝のような触手が、サイドテーブルにメロンとバスケットを置き。
 フリーになった両手が少年の胸にそっと重ねられるだろう。
 ――距離感?
 当然の如くバグってますね。

「ん、やはりお前の中に何か『異物』が混ざっていますね。
 少し大人しくしてるといいです。
 今、しぃが取り除いてやります」

 そう言いながら、少年に体を預けるようにして、胸に耳を当てるように頭をくっつけるだろう。
 

蘇芳 那由他 > 「…あ、やっぱり覗けるんですね…。」

この人本当にヤバ…訂正、凄いな…。
人は見た眼で判断してはいけない。常世島では特にそうだ。
けど、それはそれとしてやっぱり凄い。
幸いなのは、この人にもプライバシーを尊重するという考えはきちんとあるという事だ。
メロンの味は…美味しい。美味しいんだけど味どころではない僕の心境。

(まぁ、椎苗さんが満足そうだしいいか。)

むふー!としている幼女な雇用主さんを眺めつつ内心でそう思う。

「…知恵は人間レベル…と、言えるかは分かりませんが狡猾なのは確かかと。
少なくとも、僕みたいな一般学生は対抗手段が無いと普通に殺されますね。」

死神の神器の一つに選ばれていなければ、少年はとっくにお陀仏だっただろう。
同じくメロンを一切れ食べて幸せそうな彼女を見遣りつつ思う。
…最初はどうなる事かと思ったけど、あの槍は自分にとってまさに”命綱”だ。

「――怪異…かぁ。毒…病毒……あ、」

そこで思い出した。あの傷を負わされた直後から感じていた謎の衝動、みたいな感覚。
それを報告したいが、あれを言葉にして説明するのは難しい。どう伝えたものか。

「…って、椎苗さん?え?何?何ですか?」

バスケット等を置いていきなりベッドに身を乗り出してきた彼女に面食らう。
何が始まるんです?…と、いうか今、医者の回診とか来たら色々と洒落にならんのですが?
フリーになった幼女さんの手がこちらの胸へと重ねられる。
ちょっと傷の痛みもあるが、今の少年はそれどころではない。え?触診ですか??

(…って、この人やっぱり距離感がバグってるよ…!)

かといって拒否も出来ずなすがままの少年。硬直したようにじっとするしかない。

「…『異物』ですか?…あ、そういえば傷を負わされた時から、こう、変な衝動じみたものを感じていたんですよ。」

それが具体的に何かは分からないが、一応肝心なので報告はしておく。
衝動は殺戮衝動なのだが、少年はその精神の欠陥が故にまだこの程度の違和感で済んでいる、

――ところで、胸に耳を当てるのは良いとしても僕の心臓の鼓動がマッハなのバレそうなのですが??

神樹椎苗 >  
「動物並み、どころじゃないとは思っておくべきみてーですね。
 ふむー――衝動ですか」

 そう言いながら、そのまま少年の体に身を預ける。
 異様なほどに小さく軽い体は、それほど少年の怪我に負担をかける事はないだろう。
 ――精神的な部分はともかく。

「ん、これは――おまえ、鈍感でよかったですね。
 そうじゃなかったら、今頃、殺人鬼の仲間入りですよ」

 そう言いながら、そっと胸を、少年の身体を撫でる。
 そうして密着して触れ合っているうちに、少しずつ妙な衝動は治まっていくだろう。

「む――ふふー。
 脈拍がはえーですね?
 なんですか、しぃみてーな子供相手に緊張してるんですか?
 それとも――」

 触れ合ったまま、少年の顔を見上げて。

「――欲情してるんですか?」

 幼さに似合わない蠱惑的な笑みを浮かべた。
 

蘇芳 那由他 > 「えぇ。こう、ハッキリと何かに突き動かされる感じ…ではないんですが。渦巻いているような感覚?みたいな。」

精神的に特殊…恐怖心など一部が欠落しているからこそ、この程度。で済んでいる。
それはそれとして、基本正常なので精神的にはとっても緊張しております。どうしよう。

「殺人鬼ですか……は?殺人鬼?」

何ですかその物騒な単語は。殺人衝動みたいなもの?
そんなものに苛まれているとは思っておらず、思わず聞き返してしまった。
だが、彼女の処置…密着して触れ合っている内に、少しずつ少しずつ、衝動は消えていく。

(…あ、凄い。僕でも分かる。何か渦巻いているものが霧散していくみたいな。)

ど素人の彼でもはっきり感じるレベル。本当にこの人は凄いなぁ、と改めて思った。

「いや、子供とかそういう以前に距離が近――はいっ!?」

欲情…欲情と言いましたこの幼女さん!?思わず素っ頓狂な声が漏れて唖然とする。
しかも、からかうように訪ねてくる彼女の声は何処か蠱惑的で見た目不相応。

少年、思わず心の中で叫びましたとも。

蘇芳 那由他 > (助けて浩平(エロい人)!!こういう時はどうすりゃいいんですか!?)
神樹椎苗 >  
「おー、脈拍が跳ねあがりましたね。
 健康な男の証拠です。
 ――ふむ、こんなところでしょうか」

 たっぷりと少年の反応を楽しんでから、少しだけ真面目そうな顔をしてゆっくりと身体を離す。
 小さな手で、少年の胸元をぽんぽん、と叩いた。

「槍の力を活性化させて、余計なもんを祓いました。
 お前も槍の力に慣れれば、そのうち自分で出来るようになりますよ」

 事実、槍の力は今回の怪異に対してはむしろ『相性がいい』と言えただろう。
 もちろん――少年が使いこなせるようになればという前提があるとはいえ。

「さて。
 とりあえずこれで、後は怪我さえ治れば大丈夫でしょう。
 もっと大怪我でもしていたら、ちょっと荒療治が必要だったかもしれねーですが」

 少なくとも手足がくっついていてよかったと思うのだ。
 五体が無事で、死が遠ければ、椎苗の出番は大してないのである。

「まあ今後はうっかり、向こうの街にいかないよう気を付ける事ですね。
 なんて、どうせまた迷うんでしょうけど。
 ただ今回は――ええ、とてもよく頑張ったと思います」

 そう言いながら、手を伸ばして少年の頭を撫でようとする。
 それは、椎苗なりに少年の健闘を称えているつもりなのだろう。

「お前は――流石に、数日は入院するハメになりそうですね。
 時々面倒を見にきてやりましょーか?
 まあ動けないわけでもねーでしょーし、大丈夫だとは思いますが」

 そして、少年の近くて少しだけ気遣うような表情を見せた。
 

蘇芳 那由他 > まぁ、記憶喪失で一部精神衝動を失っているとはいえ、基本的に普通の男子である。
つまり、そっち方面も健全だ。まぁ本人は初心といえば初心だが。
だが、どうやら”処置”は滞りなく済んだらしい。すっかり胸に渦巻いていた衝動は消えている。
ほッとしたような、少し残念…待て待て残念がってどうするんだ僕は。落ち着け。
胸元をぽんぽんと軽く叩かれて、やっと我に返るというか平静に戻り。

「…破邪の戦槍の力…ですか。まぁ、確かに名前からしても浄化とか、そういう特化型の力みたいですしね。」

あの時は、防御結界みたいなものも不完全だが展開して少年の怪我を結果的に減らしてくれた。
使いこなすにはまだまだ遠いが、槍との同調や共存は及第点ではある。

そして、一番の幸いは矢張り『相性が良かった』という事になるのだろう。
もし、槍の力をきちんと引き出せれば強力な特効効果を発揮するに違いない。
まぁ、そもそもの大前提――槍を使いこなせるか。それが大きな壁でもあり。

「……荒療治、というのも何か不吉というか怖いんですが。
僕も迷い込みたくてそうしてる訳ではないんですよね。」

空間認識の一部もどうやら異常があるらしく、正しい位置関係や地理の把握が彼は苦手だ。
だからこそ、落第街に迷い込む、という事が既に何度も起きている。
流石に雇用主さんだけあって、この少年の地味な難儀さをよく理解している。

それはそれとして、頭を撫でられれば大人しく撫でられてはいるが気恥ずかしそうでもあり。

「…えーと、ここの治療も優秀らしいですからそこまで長く入院にはならない、とは思いますが。
…まぁ、うん。えー……長引きそうならお願いします。」

迷った末に、あまりお世話になりすぎてもと思いつつ素直にそうお願いした。
実際、何処か欠損したり身体に致命的な異常があるでもなし。
そう長くはここの世話になる事は無い。それでも1週間以上は病院暮らしだろうが。

神樹椎苗 >  
「むふー、その時は存分に頼りやがるといーです。
 まあこれだけ元気なら明日にでも追い出されてるかもしれませんが」

 流石に冗談ではあるが、それくらい無事そうで安心したのは本心だった。
 ――それだけ、死んでもおかしくない相手だったのだ。

「しかし、ふむー、そうですねえ。
 長引くなら当然、しぃとしては助けてやらないわけにはいきませんし、その時は――」

 そして、そっと少年の耳元に口を寄せて――

「――下のお世話もしてやりましょーか?」

 そんなとんでもないことを、妙に色気のある声で言うのだった。
 

蘇芳 那由他 > 「…いやぁ、流石に酸の怪我というか火傷?があちこち地味に酷いので明日追い出されるのは辛いですね。」

実際、あまり動いていないつもりだが現在進行形であちこちに痛みが走っている。
それでも、多少なり余裕がありそうなのはきちんと治療されている証拠だ。
――本当、何だかんだでよく生き延びたものだ。
ふらっと死地に迷い込む…そんな危うさがこの少年には付き纏う。

「あ、じゃあその時はお言葉に甘え――…。」

言い終わる前に、そっと耳元でささやかれた言葉に一瞬だけ思考停止。

妙に色気のある声とその内容。それが冗談だと分かっていても、だ。

蘇芳 那由他 > 「椎苗さんっ!!ここ病院ですからね!?」
神樹椎苗 >  
「――ぷっ、あはは」

 顔を離した椎苗は、少年の反応に我慢できないというように、笑いだして。

「焦り過ぎじゃねーですか、『非凡人』。
 あんまり慌てると――」

 にやり、と、明らかに悪だくみにでも成功したかのような、悪い笑顔。

「――期待したみてーにみえますよ?」

 そう言って、ぴょん、とベッドから飛び降りる。
 そして軽い足取りで扉へと向かい――

「ま、流石に『お世話』は冗談って事にしておきますが。
 ――お前が『世話』になった礼くらいはしておかねーといけませんね」

 ずず、と病室内の影と言う影から、黒い霧が集まる。
 そして、少女の手の中に、巨大な紅い剣が現れた。

「『死神』の不興を買うとどうなるか、思い知らせてやるのも悪くねーですね」

 そう、どこか怒気の宿った言葉を放った直後。
 黒い霧も紅い剣も、まるで幻影だったかのように霧散して消えてしまった。

「――さて、それじゃあ、精々、お大事にするといいですよ。
 ああ――」

 病室の扉から出て、くるり、と振り向く。
 その表情は、子供の様にどこか無邪気で――

「――ほんとに『お世話』してほしくなったら、いつでも呼びやがれですよ」

 そう言い残して、軽く小さな足音は、病室から去っていくのだった。
 

蘇芳 那由他 > 「ああああああ…!!」

幼女な雇用主さんの言葉と、悪だくみを成し遂げたかのようなわるーい笑顔。
それを見て思わず項垂れて嘆いた。掌で弄ばれている感覚ってこんな感じなんだね…!!
むしろ、期待したら色々と駄目でしょうよ!僕の中の何かが終わる気しかしない!!

そんな少年の複雑な葛藤とかそういうのは置いておき。
軽やかにベッドから飛び降りて軽い足取りで扉に向かう彼女に視線を向ける。
ちょっと恨めしそうな視線になってしまっているが、それはまぁしょうがない。

「――――っ!?」

一瞬で、そんな気持ちは霧散した。恐怖は感じない、それでも脅威は朧気に感じた。
黒い影が寄り集まって、取り出された紅い大剣。…彼女が扱う神器。
それと彼女の何処か怒気を纏った言葉にぽかーんとしていたが、直ぐに我に返り。

「…いや、椎苗さんならどうにかしちゃいそうですけどね?
僕みたいな凡人が言う事ではないのは承知ですが、無理はいけませんよ?」

と、嗜める事くらいはする。舐めてる訳でなく、単純に心配なのだ。無用だとしても。
そして、瞬く間に幻のように消えた紅と黒。思わず肩の力を抜くように吐息を漏らし。

「はいはい、大人しくしてますよ――だから椎苗さんっ!!」


最後の最後までこの人は本当に…っ!!と、憤りつつもきちんと会釈をして見送るだろう。
その姿が扉の向こうに消えた後、そのままベッドに倒れ込んで。

「…本当、色々な意味で自分の未熟さを痛感するよね。」

僕は凡人だ。それでいいけど今のままではきっと駄目だとも思う。
どうしたもんかなぁ、と悩みながらも今は大人しく回復を第一に考えるしかない。

――彼女が去って数分後には、少年の静かな寝息がまた聞こえてくるだろう。

ご案内:「常世総合病院-病室-」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「常世総合病院-病室-」から蘇芳 那由他さんが去りました。