2024/07/19 のログ
エルピス・シズメ >  
「そう。それが成ってしまったんだ。それが現実。」

 驚くイーリスの声に、顔を合わせづらく思ってしまった。
 それが辛く思えて、瞳を瞑ろうとしたが……落ちた涙がエルピスの頬に当たれば、思い止まる。
  
 瞑りかけたそれを開き、向き合う。
 
「……うん。僕も『エルピス』も、きっと"そう言ってくれる"ことを望んでいる。
 だから、聞いてくれて──僕が本物だと言ってくれて、ありがとう。」

 彼/エルピスからも涙が零れる。
 "ちゃんと希望を継げた/継いで貰えた。"
 "本物の想いを継げた"

 喪った自我の代わりに継いだ希望は、彼を蝕んでいた喪失感を埋める。
 消えた自我を埋めきる程にはならないけど……元気は出る。

「だから、ちゃんと生きている。……イーリスのエルピスは、ここにいるよ。
 大事な友人は、ここにいるから。改めて聞いてくれてありがとう、イーリス。」

 柔らかく笑い、頬を伝う涙を拭おうと手を伸ばす。
 喪失や不安はゼロではない。それでも、『僕の異能』と『エルピス』と向き合うことに、躊躇いはなくなった。

「少しでも脅威を減らせたならよかったし……『僕が純朴な一生徒だから』かな、
 歓楽街で夏休みに浮かれる生徒が少なくなるように先生も見回りを増やせないか検討してくれた先生もいた。
 それに何より、『僕が啖呵を切ったことを教えてくれたイーリスの知り合いやその知り合い』もきっと頑張ってくれた。
 僕一人の力でもないし、イーリスは一人でもないんだよ。」

 強く抱きしめられると視線を戻す。
 嬉しさと恥ずかしさの混じった瞳と声で、イーリスが一人でないことを告げて、励まそうとする。

Dr.イーリス > ……過酷な現実だった。
自分の人格がコピーだと気づいてしまったエルピスさんは、どれ程苦しんだのだろうか……。
いや違う……。
コピーなんて言葉で終わらせてはいけない。きっと、かつての『エルピス』さんが、今のエルピスさんに託したんだ。

「エルピスさん……。かつて無念に穴へと落ちてしまった『エルピス』さんも分も、あなたが幸せになってください」

きっと、かつての『エルピス』さんも、今いるエルピスさんのように温かい心を持った人だったんだ。
かつての『エルピス』さんから、今のエルピスさんに受け継がれたものがある……。

「はい……エルピスさんは……私のエルピスさんは……とても、温かいです……」

生きている、肌の感触。
その温かさを感じていると、エルピスさんは涙を拭ってくれた。
イーリスは、双眸が潤みながらもエルピスさんに笑顔を見せた。

ただ、もう一つの疑問があった。
『エルピス』さんの人格が塗りつぶされているという事は、元の人格があったはず……。
イーリスからは、いつ元の人格が『エルピス』さんに塗りつぶされているのか分からない。塗りつぶされた元の人格もどうなっているか不明だ……。

「……エルピスさんには、塗りつぶされる前の人格があったという事になりますよね。その人格はどうなっているのでしょう……」

今聞くのは酷と思いつつも、それでもエルピスさんと向き合うには聞けないと思った。

「とても親切な先生がいるのですね。そうですね……エルピスさんの啖呵を広めるという形で私を守ってくださった人達もいたのでしょう。私が受けた呪縛は、下手をすれば感染を広めてしまうものです……。だから私は、出来る限り被害が大きくならないようにと考えていました。呪いの時限爆弾が爆発しそうになれば、この事務所からも立ち去って、誰もいないところで一人ひっそり……ゾンビとして蘇らないよう爆弾で体を粉々にさせるつもりでした……。しかし……エルピスさんや、こんなにも……えぐ……私を助けてくださる方がいるのですね」

拭ってくれた涙が再び溢れ出てくる。
イーリスは、一人じゃない……。
エルピスさんがいてくれる……。スラムには、配信を見てなおイーリスを助けようとしてくれる。
それがとても心強く感じられた。

エルピス・シズメ > 「"幸せ……"になる。
 イーリスといれるこの時間はとても幸せだけど……"僕の幸せ"って何だろう。
 あんまり前を向いたことがないから、わかんないや……。」

 いまいち実感が浮かばなかった。
 後ろを向いていたばかりの僕には、荷が重い。
 『エルピス』としても、幸せについて考えたような感じはあまりしない。

(だから、僕に託したのかもしれないけれど。いずれにしても……)

「うん。温かい、とても温かい……。」

 涙を拭い/体温が伝わる。
 熱や体温だけではない、生きた温もりが仄かに伝わる。

「本来の『分からない』……のが正直な所。僕の記憶も自我も無いから。
 ただ……『こんな異能を持っている』から、あんまり良い予感はしないけれど……」

 人為的に指向性を持った『僕の異能』。
 『死んだエルピスの意志を継ぐ』状況。
 終了した『英雄開発プロジェクト』。

「……エルピスの痕跡でもあれば、あるいは……」

 思考に耽っていたからだろう。
 無意識に、可能性を口にした。

「大丈夫。そんなことは僕も、みんなもさせない。
 ……だから、王と向き合って、闘おう。イーリス。」
 
 再び涙を拭いながら激励の言葉を向ける
 王についての情報は、あまりエルピスは集めていないが、続いてこう告げる──。

「イーリスなら、きっと勝てる。」

Dr.イーリス > 「……こう言っておいてあれですが、私も自分の“幸せ”なんてあまり見えていません……。生きるのに必死でしたからね。ゆっくり、二人で幸せを探していきましょう」

エルピスさんもイーリスも、“幸せ”というものが分からない者同士。
“幸せ”という宝物を手に入れるなら、まずは見つけるところから始めなければいけないようだ。
触れあうエルピスさんの肌を感じながら、“幸せ”について、少し考えてみたりして。

「……そう……なのですね」

人格が塗りつぶされているのならば、確かに今のエルピスさんでは分からないという事にはなる……。

「『エルピス』さんの痕跡……。かつての『エルピス』さんの事について、調べてみてもいいですか? そうですね……まずこの事務所にも、『エルピス』さんの情報が残っているかもしれません」

調べるとすれば、まずこの事務所だろう。
あとは、エルピスさんはかつて公安に所属していたらしいのでそのあたりの情報をどう調べるか……。
エルピスさんの口から、英雄開発プロジェクトという言葉も耳にした。そちらについても調べられるだけ調べてみたい。

「ありがとうございます、エルピスさん……。はい……! 私は……“王”に引導を渡すと決めましたからね……!」

再度涙を拭い、激励してくだされば、エルピスさんを抱いていた両腕を解いて、凛と頷いた。
エルピスさんから借り受けた《感情魔力混合炉》、そして“希望”があればきっと負けない。

エルピス・シズメ > 「そうだね……この一件が済んだら、二人でゆっくり探してみよう。」

 同意を示す。
 そうそう"幸せ"見つかるものでもなさそうだが、
 焦らず探していけばいい。

 涙を拭い終わった手を、ゆっくり離す。
 改めて手をどかして、イーリスの顔を見つめた

「異能や魔術でなら、塗り潰された僕の過去や人格を暴く手段はなくはないのかもしれないけれど
 ……リスクは、高いから、調べられる所から調べる方がいいね。まだ無意識に避けてしまうかもしれないけど……」

 受け止められが、まだ拭いきれていないものがある。
 弱気な姿勢だ。

「とりあえず、僕の事務所の資料は好きに読んでいいよ。
 コンプライアンスは……この際だし、今更だからね。」

 便利屋稼業は閉じている。
 他人の詳細な情報も大して残っていないだろう。

 緩いかなとも考えながらも、イーリスに許諾を出した。

「……うん。応援してる。
 『王がどんな気持ちでイーリスに執着してるか』は分からないけれど──狙い打てる隙はあると思うから。」

Dr.イーリス > 二人でゆっくり探る、そう決めて笑みを浮かべた。

「そうですね……。リスクの高い手段は極力とらないようにした方がいいです……。エルピスさんの安全、そして気持ちの整理が大事です」

エルピスさんの精神に負荷をかけたり、危険な方法は無論用いるべきではない。
ひとまず異能や魔術に頼るという手段は端に置く。

「コンプライアンスもあるのですね……。守秘義務は必ず守ります。ありがとうございます、資料の方読ませていただきますね」

顧客の情報らしきものは見つけても読まない。もし調べる上で読む必要があっても、秘密にしよう。

「……本当に、変な王に執着されてしまったものですね。私を王女にするだとか、幾度もふざけた態度を取ったり……悪趣味な呪いをかけてまで私を蝕んだり……。勝算はあります。準備も大分進みました」

その執着のされかたに不満げ。
このような不満げを堂々と口に出来ているのは、精神的に落ち着いたからでもある。

「さて、それでは私は借りていた発電機をつけにいきますね。これまで不便をかけて申し訳ございません。先程も言ったように、地下ラボでやるべき事は終わりましたからね。例え出掛ける事はあっても、夜はこの事務所にいます」

エルピス・シズメ >  
「とりあえず、前を向けただけでも前進だからね。」

 くすりと、嬉しそうに笑いながら起き上がる。
 寝起きたばかりの彼と比べても、凄く元気そうだ。

「一応ね……と言っても大した仕事はしてないはずだけど……」

 エルピスの記憶を辿ると、猫探しとかが多かった気がする。
 後ろ暗い案件も、そもそも顧客が正体を明かさない場合が多い。

「まるで小学生の男の子みたいだ。……と言ってられる相手でもないんだけれど。
 本来ならばずっと隔離・封印で済ませていた手合いだ。」

 イーリスの不満に軽く乗っかり、口を尖らせた。

「うん、お願い。『エルピス』の事を考えると、この事務所は暫く使う事になりそうだからね。」

 発電機の設置に向かうと聞けば、素直に任せる。

「僕はもう少し寝ようかな……
 私室に戻るよ。おやすみ、イーリス。」

Dr.イーリス > イーリスも笑顔で頷いて、前進という言葉に頷いた。

「主に、過去の『エルピス』さんに関する情報集めでございますからね。エルピスさんが、心の準備が整ったならば調べた情報をお伝えします」

イーリスがやろうとしている事は、エルピスさんの向き合いたくなかった記憶を暴く事だ……。
だから、過去の『エルピス』さんを調べていいか今のエルピスさんに確認を取って、そして快く受け入れてくれた。
エルピスさんにとって、過去の自分を知る事は勇気のいる事になるだろう……。

「心底可愛げのない小学生の男の子でございますね……」

辛辣に吐き捨ててしまう。相当、“王”を嫌っている様子で。
あのふざけた態度がなければ、不良仲間を殺害された怨恨はあろうとも、変質者を蔑むに近い嫌悪まではなかっただろう。

「今日まで発電機を貸していただきありがとうございました。おやすみなさい、エルピスさん」

イーリスも立ち上がって、発電機を設置しに地下へと向かっていった。

ご案内:「薄明りの数ある事務所」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「薄明りの数ある事務所」からDr.イーリスさんが去りました。