2024/09/01 のログ
ご案内:「帰路」にレイチェルさんが現れました。
■レイチェル >
「ったく……そりゃ、招待状が来る訳だぜ」
差出人不明の招待状。
誘いに乗って久方ぶりの落第街へと訪れてみれば、
劇場の上に立つのはコッペリア(見知らぬ女)と――
己の姿を模した騎士であった。
月光を浴びながら半吸血鬼は一人、
劇場に現出した景色、そして去来した感情を思い起こしていた。
「最高の嫌がらせだ」
重なるのは、かつての不死鳥達との戦い。
見知った顔になぞらえた騎士達。
そこに悪趣味な心の介在があったことは、疑う余地はなかった。
で、あるならば、自然と。
この仕掛けを仕組んだ者。
その人物と背景の見当も、ある程度つこうというものだ。
少なくとも。
レイチェルの思考は観劇の中で、その思考を巡らせ、一つの答えに行き着いていた。
■レイチェル >
物語のラケルは、最後まで刃を握っていた。
己はといえば、彼とは違う道を歩んでいる。
不死鳥との戦いの中で抱いた苦悩は、
一つ、彼女の内に実を結んだ。
「否定される者」との対話。
そして、彼らをできる限り沼から救い出す道だ。
レイチェルも風紀も、学園も。
誰もが、何もかもが、完璧ではない。
救えないものもある。
ただそれでも、ただ剣や銃を握っているよりはずっと、
良い結果を招く筈だとレイチェルは信じている。
それこそが、今の己の信じる正しい道の形であるが為に。
――オレは正義の騎士様にゃなれねぇが。
オレはオレなりのやり方で、大事なもんを守らせて貰うだけだぜ。
黒髪の女――園刃華霧の姿が浮かぶ。
白髪の女――月夜見 真琴の姿が浮かぶ。
先輩や後輩たち、そしてこの学園で出会った、多くの人間の顔が浮かぶ。
■レイチェル >
改めて、己の姿を模倣したラケルの悲しみを、喪失の念を想う。
仲間を失う苦しみは、己自身も何度も味わってきた。
振り返ってみれば、失ってばかりだ。
家族も、故郷も、そして仲間も、後輩も。
翳した手からすり抜けていったものは数え切れない。
ただ、そのような悲しみが己だけに降り掛かっているものでないことは、
当然理解している。
己もまた、悲しみを生み出している。
戦いの内に銃を握った者であったが為に。
己もまた、怒りや憎しみを生み出している。
学園の風紀を保つ存在であるが為に。
撃たねばやられていた、だの。
多くの被害が出ていた、だの。
そんな言い訳は、幾らでも思い浮かんでしまうだろう。
特に、正義とされる(風紀)側に居れば。
大義名分など幾らでも作り出せてしまう。
その仮初の安寧の中にこの身を委ねることだってできるだろう。
■レイチェル >
――戯言にもほどがあるぜ。
それがたとえ事実であろうと、
そんな仮初の花畑に身を沈ませるつもりなど毛頭なかった。
『最後まで、手抜かりなく手を抜かず。
貫き通さなければいけないわ』
女が口にしていた言葉を、思い起こす。
正しい道。
その意味は各人によって如何様にも変化するものであるが、
少なくともレイチェルにとっては。
一人でも多くの者を掬い上げる道に、他ならない。
たとえ剣を、銃を、握らなくなったとしても。
誰かに己を失う悲しみを与えない為に。
華霧との約束を違えない為に。
変わらず、己の信じる道を進むのみだ。
完璧でなくても。
乾いた血に汚れた道でも。
学生。ニ級学生。違反部活生。つまりは、この島の人々。
それら、守るべき者達の為に、手が届く範囲で手を伸ばすまでだ。
背伸びはしない。全部は救えない。
やれることを、着実に積み重ねていくだけだ。
それこそが、今のレイチェルの道だ。
もう一度、劇の内容を思い返して。
これまでのことを想う。
騎士のことを、コッペリアのことを想う。
そうして――
■レイチェル >
――仕掛け人のことを、想う。
何か歯車が一つでも違っていれば、在り得たかもしれない未来。
それでも。
コッペリアもレイチェルも、未来を生きている。
■レイチェル >
「お前がそこに居るってこと、確かに伝わったぜ」
コッペリアの魂は、確かに其処に在った。
夜道に、誰が居る訳でもない。
名も知らぬ脚本家に、
レイチェルは言の葉を渡すのだった。
そうすればクロークを翻し、無言の内に去っていく。
■レイチェル >
地を照らすのは決して、太陽だけではない。
夜道を照らす月は、黄金色に煌めいていた。
あの日々の、虚構の劇場の、情熱を思い起こさせるかの如く。
薄暗くも、光り輝いて――。
■レイチェル >
――やがて、太陽が昇れば、
黄金の色は、終わりを迎える。
今年も、夏が終わっていく――。
ご案内:「帰路」からレイチェルさんが去りました。