2024/09/03 のログ
ご案内:「数ある事務所 / 医務室」にエルピス・シズメさんが現れました。
■エルピス・シズメ >
「やっと起きれたけど……事情は、こう、か。」
痛む頭を抑えながら、届いていたMessageを読み込む。
内容を数度反復して読み込めば、両のこめかみを右手で抑える。
「……この世に居ないなんて、縁起でもない。」
眼から涙が伝う。
とりあえず"死んでいない"事だけは理解していても、
その文字だけで心が不安の海に沈潜する。
「大丈夫だ。それより中身……。
……呪いを持ち出したのもそう言う理由なのは、分かったけど……」
言葉に詰まる。
彼女の選択だと思えば、言うに言えない言葉を呑み込んだ。
■エルピス・シズメ >
「……これは、僕もどうしたらいいか分からないや。」
誰に伝えるべきかも分からない。
択んだ道とは言え、イーリスを傷付けた彼女に対しての接し方が分からない。
あの子を闇から救う。
その為には彼女の妄執から救い、妄執の下手人を見つける。
そうでないなら心神喪失であることを立証する。
それを、戦闘を行いながらやる。
「退治や捕縛まで出来そうな人は浮かぶけど、救うとなると……。」
視えない妄執を断つ何かが必要だ。
言葉か、異能か、魔法かは分からない。
■『虹の奇蹟』エルピス >
医務室にけたたましく響く警報。
この調子で、命の危機を報せ続けている。
「……アンプルの投与、しないと。」
継いだ遺志を使い、イーリスの知識と記憶をオーバーライドする。
生命維持のアンプルと彼女の回復を行っているカプセルの調整。
知識の重さに頭が痛む。……どうにか作業を終える。
■『虹の奇蹟』エルピス >
「……このままだと、ダメみたい。
何か、手は────。」
オーバーライドを解かずに、重い知識を手繰る。
何か手だてはないかと、掘り下げている。
■エルピス・シズメ >
一つ、脳裏に過ったものがある。
それを使えば、少なくともあの時みたいに彼女の安否は確認できる。
イーリスを継いでオーバーライドした状態を戻し、
彼女が電脳空間へ出入りする為の装置へと足を運び、
(昔は怖かったけど……今なら。それに、イーリスのためなら。)
エルピス・シズメの人格を装置に身を委ね。
電脳空間へと飛び込む────。
■■自我 > ……ほんの少しの違和感と、共に。
ご案内:「数ある事務所 / 医務室」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「イーリスの《体内超高性能コンピューター・イリジウム》内にある電脳世界」にバーチャル・イーリスさんが現れました。
ご案内:「イーリスの《体内超高性能コンピューター・イリジウム》内にある電脳世界」にバーチャル・エルピスさんが現れました。
■状況 > 『数ある事務所』地下の医療ラボ。
イーリスは未だに、カプセル型医療機器の治療促進をする液体の中で目を覚まさずにいる。
医療機器が頻繁にけたたましいアラーム音を慣らしては、イーリスの命の危険を知らせていた。
つまりは、常にエルピスさんが落ち着けない状態になってしまっている事になるだろうか。
一応、今のところはカプセル型医療機器がイーリスの死亡を知らせる事はない。
あまり回復しているようには見えない様子だった。
カプセル型医療機器の治療促進薬がやっている事は、イーリスを回復させる事による延命処置。
本来イーリスは既に死んでしまっていたはずだけど、カプセル型医療機器の治療によりちょっと生きながらえたというのが現状。
つまり、このままではしばらくすると死亡する事を意味する。
■状況 > エルピスさんは、医療室の机にあったヘルメット型VRデバイスを使って電脳空間に訪れる。
ヘルメット型VRデバイスの操作法はそう難しくはなく、傍に説明書なども置いていたりするので少なくともそれを読めば問題なく扱える。
そうしてエルピスさんは机の椅子にゆったり座って、イーリスの体内コンピューターにある電脳空間へとダイブしていったのだった(という流れでお願いします)。
そしてエルピスさんが今いるのは、広大な白い地面が広がる空間。
あたりには「0」と「1」という青白い表記がそこら中に飛び交っている。
見上げると真っ暗ながら、「0」と「1」が眩く青白い光を発していてあまり暗さを感じない。
■バーチャル・エルピス >
電脳世界への介入は、すんなりと出来た。
少し身体に違和感を感じるけれど、気にしている場合じゃない。
0と1の文字の羅列。
二進数の処理として顕されている白い地面に暗い世界。
電気信号をコンバートが出来ない程に、状況が悪いと認識した。
(……不味い、のかな。)
ここから出来ることはあまりない。
より先へ、より深くへと、本を読む様に進んで行く。
■状況 > エルピスさんが先に進んでも景色は変わらず。
だが、ある方角の「0」と「1」がなんだか点滅している。
エルピスさんをそちらに誘導するように。
エルピスさんがそちらに走り出すとすれば、一時間ぐらい走らされるかもしれない。
■バーチャル・エルピス >
「こっち……?」
何かしらのシグナルが発されている。
誘導されるがままに走り出す。
(急がないと……!)
とても急いだのだろう。頁を捲る様に電脳世界を駆け抜ける。
1時間掛かる道を、少しでも早く辿り着けるように全力で走る。
頭を抑えながら到達した。
実際にどれ程掛かったかは定かでない。
■状況 > エルピスさんは同じ風景が続く空間を走り続ける。
景色が変わらない空間は、普通に一時間程走るよりも苦に感じやすいかもしれない。
そしてエルピスさんが辿り着いた場所。
そこにあるのは、無数の「0」と「1」で構成された青白いリング。
そのリングの中心に、いるのは──。
■バーチャル・イーリス >
──体の所々がブロックノイズのように安定せず歪なモザイクのようになっているイーリス。
イーリスは空中に浮かび、背中を丸めて両腕で両膝を抱えた状態で、両目を閉じていた。
■バーチャル・エルピス > このまま何も変わらないのではないか。
変わらぬ景色と異常が不安を掻き立てるが、その苦痛を乗り越えて辿り着く。
(どう考えても、不味いよね……。)
自分の姿を見る。
彼女ほどではないが、自分の姿も安定していない。
「……いーりす。」
声を掛ける。
迷ったが、モザイクのイーリスに僕を伝えようと触れようと手を伸ばす。
■バーチャル・イーリス > エルピスさんがイーリスに触れようとした時、無数の「0」「1」リングがイーリスを守るように妨害……するような素振りを一瞬見せたが、エルピスさんを素通りさせた。
電脳空間で安定しないエルピスさん次第ではあるのだが、通常の人がこの電脳空間に訪れイーリスに触ればその感触が伝わる。
イーリスの眉が少しだけ動くが、その後は特に何もなく動かない。
■バーチャル・エルピス >
(……足りないデータは、僕が持っている。)
継いだイーリスの遺志。
仮想世界に於いても再現されている。
むしろ、仮想世界での方がより強く作用しているとすら思える。
;
不足する記録を補う様に、継いだイーリスの記憶を継がせて@転送;@する。
0と1に拒むものがないのなら、転送と同期を転送を繰り返す。
■バーチャル・イーリス > 現実の体はもう余命数日。
その影響は、バーチャル・イーリスにも表れる。
バーチャル・イーリスとは、そもそもイーリスの電子化した自我が電脳空間にいる存在。
現実のイーリスが亡くなれば、エルピスさんの眼前にいるバーチャル・イーリスも消滅する。そうなれば、ついでにこの電脳空間も崩壊する。
エルピスさんがイーリスの記憶を転送していく。
その効果は目に分かる形で表れている。
バーチャル・イーリスを構成する電子の体が、だんだんと元の形に戻っているのだ。
ブロックノイズが少しずつ安定してくる。
ぴくり、バーチャル・イーリスの両腕が動いた。
■バーチャル・エルピス > 異能、《想いを継いで》。
その異能の元となった、成果物としての、⦅囚う心》。
感情を根源とする能力であるが、仮想世界に於いては記憶と情報。
単純強固なデータの送受信であり、思考のもとによる同期と再現。
現実世界で行うよりも、融通は効かないが遥かにやり易い。
「これで、合ってるはず。このまま……」
転送と同期を続ける。
エルピスへの負荷はあるのか、疲労のようなノイズが見える。
■バーチャル・イーリス > 元より、自我が電子化されているイーリスの感情は、身も蓋もなく言えばほとんど情報で構成されている。
情報ではあるものの、それは人と同じ感情である。人の感情をそのまま電子化している故。
エルピスさんから送られるデータ。エルピスさんがイーリスに同期、転送を続ければ、エルピスさんがノイズ化していくのと対照的にイーリスの電子の体はどんどん安定していく。
やがて周囲に無数にある「0」「1」リングがイーリスの体内に取り込まれていく。
その直後、背中を丸めていたイーリスは直立し、白い地面に足をつけた。
■バーチャル・エルピス >
「……いーりす。」
彼女の名を呼ぶ。
例え0と1にしか過ぎなくても、彼との彼女の自我と感情はここにある。
そう確信して、声出す。
ザザッ──ザザザッ──。
エルピスの身体からは、ノイズが響いている。
■バーチャル・イーリス > イーリスはゆっくりと双眸を開ける。
瞳を細めて微笑んでから。
「……痛いです、痛いです! 苦しいです……! これは、あれですね……! 現実の私の体、凄く酷い事になってますね……!」
現実の苦痛は、バーチャル・イーリスにもある程度影響する。現実程の苦痛はないが。
目を開けたイーリスはそう叫んでしまうも、ひとまず苦痛は我慢して落ち着く。
そして、眼前のエルピスさんへと視線を送る。
目を覚ます直前、つい先程まで感じていた温かく心地よい気持ち。そして、この空間自体イーリスが文字通り全て自由自在にできるという事もあり、何があったのかを瞬時に把握する。
「ようこそ、私の中へ。このような所まで私を助けにきてくださり、ありがようございます。エルピスさん」
にこっ、と笑ってから、エルピスさんの状態に慌てる。
「て、エルピスさん、酷いノイズです……! 電子の私を回復してくださる時に、ご無理させてしまったみたいですね……」
■バーチャル・エルピス > 「じょうきょうは、ななめ下を行ってたけど……。」
10歳ぐらい、だろうか。
ノイズそのものは収まったが、エルピスの姿は、10歳の少女のようになっていた。
少年かもしれないが、とにかく幼い。
服も、最低限の身を覆う白いワンピース。
その白すら、エラーを示すマゼンタ色が混ざったものだ。
「もどればなおるから、大丈夫。
それよりも……どうしようか、いーりす。」
肉体に戻れば修復される。そう言い聞かせる様に伝える。
その一方で、諦観を込めてこの様にも告げた。
「……あきらめてほしくないけど、あきらめるなら。」
「ここで一緒におひるね、しようか。」
「みけちゃんもきめちゃんも、ふたりが面倒みてくれる。」
■バーチャル・イーリス > やがてエルピスさんのノイズが収まり、もどればなおると伝えてくださった事もありイーリスはひとまず安堵の息を漏らした。
「エルピスさん、なんだか幼いですね。幼いアバターにしている……というわけでもなさそうですね」
目が覚めたばかりで、状況を全て把握しているというわけではない。
けれど、エルピスさんがイーリスの中まで助けにきてくださった。
その事が凄く嬉しくて、イーリスは幼いエルピスさんに両手を回してぎゅっと抱きしめる。
「エルピスさん……。ひぐ……。電脳空間にまで私に会いにきてくださり、とても嬉しいです……。私……エルピスさんがここに来てくださらなければ……きっとこの空間でも目を覚ます事なく、死んでいたと思います……」
エルピスさんが会いにきてくださった事が凄く嬉しくて、イーリスは双眸から涙が溢れた。
セキュリティ突破するのも大変だっただろう……と一瞬考えたけど、どうやら体内コンピューターAIはとても気を利かせてくれて、全てのセキュリティを解除してくれたようだ。
さらにAIがエルピスさんをこの広大な電脳空間からイーリスの元に誘導したようだ。
どうしようかというエルピスさんの問いに、イーリスはひとまず自身の余命を診断。
「明後日の午後二時頃に私お亡くなりになります……!? 現実の私の体も、エルピスさんが必死に救ってくださったのですね……。ナナさんも、もう死にゆくだけだと思われた私を助けにきてくださったのですね」
エルピスさんがカプセル型医療機器に入れてくださったから、余命が増えた。
その余命が明後日の午後二時……。
「ナナさんと赫さんにも、凄くご心配かけてしまっていますね……」
エルピスさんを抱きしめながら、イーリスは視線を落とした。
「私が亡くなれば、この電脳世界は崩壊します。ここに明後日まで私と一緒にいたら、エルピスさんも電脳世界の崩壊に巻き込まれてしまいますよ……。少なくとも明日には戻るべきです……」
■バーチャル・エルピス > 能力を止めて異常が止まったが、
資源が不足している分幼いものとして反映されている。
「……怖がってもいられなかったから。
そうじゃないとメタラグだって、出来ないし……。」
まだ少し、彼には『今の自分の自我』を情報化することには抵抗はあった。
……どうなるか分からない未知とイーリスの危機。
天秤に掛ければ、怖がってはいられなかった。
今は背丈も同じぐらい。
抱きしめるのも簡単だろう。
一方のエルピスは、手でイーリスの涙を拭う。
「想った以上に短いね。つらい、ね。
……『諦めるなら』一緒にお昼寝しょう。
いーりすがいないなら、僕の自我もいらない。」
「でも……諦めないなら、ギリギリまで一緒に考えよう。
助かる方法……一緒に考えて、ダメならいっしょにお昼寝しよう。」
■バーチャル・イーリス > 「……勇気を……出してくださったのですね……私のために……えぐ……」
嗚咽をあげる。
仮想空間のダイブは、エルピスさんにとっては自我を保てるかどうか、という賭けもあっただろうか……。
バーチャル・イーリスすら目を覚ましていない状態で、この仮想空間でエルピスさんの自我が情報と共に崩れ去ったとしたら……恐ろしい。
それでも、エルピスさんは仮想空間の中にまでイーリスを助けにきてくれた……。
エルピスさんが涙を拭ってくだされば、イーリスは少し微笑んだ。
だが、一緒にお昼寝という提案に、イーリスは首を横に振る。
「助かる方法は考えたいと思います……。しかし、もしそのような方法が何もなかった場合……明日、私があなたを強制ログアウトすれば……あなたはどうしますか……?」
一緒にお昼寝してくださるというのはとてつもなく嬉しい事。死ぬまで、一緒にいてくれる……最後まで……。
《月輪の王》との決戦でもそうだった。
エルピスさんは、イーリスと一緒に死ぬ事を選んでくれる……。
嬉しいけど……エルピスさんには生きてほしい。
イーリスには、電脳世界が崩壊する前にエルピスさんを強制ログアウトさせるという方法もある。
エルピスさんの意思を拒んで、エルピスさんが生き続ける事を願い、電脳空間の崩壊に巻き込まないように追い出す事はできる。そこまでしかできない……。
■バーチャル・エルピス >
「なんどだって、いつだって。
助けるって、言ったから。」
身体を寄せる。
彼女の死が近づいていることが何より恐ろしい。
それに比べたら、他の事は些細なものだ。
強制ログアウト。
その可能性を例示されれば……。
「……最後の最期が意地の張り合いで終わるのは。やだ。
ねぇ、本当に、何かない……なんでも、する。」
その前に自壊する、なんてことは言えなかった。
彼の顔はとても悲しそうで、今にも泣き出しそうだ。
「……何か、今のイーリスをどうにかできるもの。
御伽噺でも有り得ない話でもいい。探してみるから、なにか浮かばない?
僕も今考えているけど、……やっぱりあきらめないで、イーリス。」
「こんなことで死んだら……お義母さんが、泣いちゃうよ。」
記憶を頼りに、揺さぶる言葉を絞り出す。
自分で言ってても、ずるいと思った。
でも、それでも、僕の言葉だけじゃだめなら、それ以外で何とか希望を見出して欲しかった。
■バーチャル・イーリス > 「エルピスさん……。えへ」
何度でも助けてくださる。
そんなエルピスさんに甘えるように、無垢に笑った。
そうして体を寄せ合って。
「……うっ。わ、私もそんなの嫌です……。うわぁあぁぁん!!」
迫る死期。エルピスさんと最後に、意地の張り合い。
言葉にしてくださって、エルピスさんがとても悲しそうで、そんなの嫌すぎて……イーリスは声を上げて大泣きしてしまった。
「ごめんなさい……。考えましょう、助かる方法……。諦めたくないです……。このような場所では、少し味気ないですね」
イーリスがパチンと指を慣らす。
すると、風景が数ある事務所の応接間に変わった。
テーブルにはコーヒーが入ったコーヒーカップやケーキスタンドに乗ったドーナツやワッフル、スコーンがある。
「このいつもの場所の方が落ち着いて考えやすいですね。お昼寝するにしても、ここの方がいいです」
エルピスさんと体を寄せ合いながらソファに座ろうとしている。
「ありえない話……。せめて究極の治療薬《科学配合エリクサーエキス》が完成していれば、どうにかなったのでしょうか……。未完成なものを候補にあげても意味はない……と思いつつも、未完成品でも試すだけ試してみる価値はあるかもしれませんね。調合に苦労して、材料も中々手に入らないものでそんなに造れないお薬ですが、今こそ使い時……」
完成品ならともかく未完成の《科学配合エリクサーエキス》を試しても、おそらく一日余命が伸びるだけだろうか……。
口にしてから、そのような使い方をするのはあまりに勿体ない、とも思うようになる。
なにせ、《科学配合エリクサーエキス》は未完成品でも調合が大変で材料も手に入らず、試験管一本分しかないのだ。
ならば、イーリスが亡くなってももっと助かる人に使った方がいいのではないか、という思考にもなる……。
という事で、イーリスは迷う仕草。
「お義母さん……。そうですね……私、ずっとお義母さんがこの島に帰ってくるのを待っていて……」
そこでイーリスふと疑問が浮かぶ。
「私、エルピスさんにお義母さんの事を話していたでしょうか……?」
お義母さんの事をエルピスさんに話していなかったと思う。
しいて言えば、《月輪の王》との決戦で、太陽の中にて幻影で現れたお義母さんとの会話が聞こえてたのだろうか、程度。
■バーチャル・エルピス >
笑ったイーリスを認める。
そして、泣き止むまで待つ。
再現された事務所 なつかしさを覚えるそのカタチに、ほんの少しの安堵を覚える。
隣り合って寄せ合いながら、軽食を取りつつ話し合う。
その食事が彼の身体を補填する。現在、12歳ぐらい。
「ごめん。……助ける過程、此処までくる過程で、
どうしても、見えちゃって。イーリスの記憶。」
素直に白状する。
少しの時間を使って、どのようなものが見えたか説明する。
「断片でも、勝手に見られたく、なかったよね。
《科学配合エリクサーエキス》は、出てなかったけど……
本当に、ごめん。……でも、あんなに辛い思いをしてここまできたんだから。」
「やっぱり、もうちょっと頑張ろう。
……《科学配合エリクサーエキス》を完成させるのは、無理、かな。
どのくらいの知識と、どれくらいの時間があれば、良い?」
俯く。見えてしまったもののこともあり、意気消沈。
「あるいは……1日でお義母さんを、探す……」
現実的ではない。
でも、それしか浮かばなかった。
■バーチャル・イーリス > 大泣きして、少しして落ち着いた。
急成長した事にちょっと驚いてしまうが、食事がエルピスさんを補填したのだろうと理解する。
このコーヒーやお菓子もデータながら、ちゃんと食感もあり美味しい。
イーリスはコーヒーカップを口につける。
「そういう事でしたか。私を助けるのに医療知識と、あと医療機器の扱い方も必要だったでしょうからね。私のためになされた事ですから、とても嬉しく思いますよ。それはそれとして……私の記憶……エルピスさんに知られてしまいました……ね……」
記憶が知られるというのは、やはり恥ずかしい……。
お義母さんとの思い出、お義母さんがいなくなって流星に祈った事、イーリスが弱い少女でしかない事、《常世フェイルド・スチューデント》での日々、イーリスがかつて悪い子な不良だった事……。
知られてしまい、イーリスは頬を赤らめてしまう。
「いえ、どうか……私の記憶を見た事はお気になさらないでくださいね。私……過去には悪い事してました……。スラムのストリートチルドレンな不良として、罪のない人からお金を奪って……生き延びてました……。そんな私の事……軽蔑しませんか……?」
イーリスは暗く視線を落とす。
かつてイーリスは、闇の中にいた……。
イーリスはエルピスさんを始めとした色んな人達の優しさに包まれて、闇から這い上がる事ができた。
犯した罪は償っていきたい……と思っていたけど、それには生き延びる事を考えなければいけない。
「ひとまず、未完成の《科学配合エリクサーエキス》は医療室の棚にありますね。普通にやったら、完成前に私の命がもたないですね……。優れた回復魔術を有して私に技術を教えてくださったお義母さんなら、確かに未完成のエリクサーエキスを完成させられる可能性はあります。そこに賭けるにしかないですが……。十年ですよ? 私、十年も待っても、お義母さんが帰ってこなかったのですよ。一日でどうにかなるわけないではないですか……」
可能性は低いかもしれないけど、お義母さんを頼るのが一番現実的な方法。それには賛同したい。
でもどうやってたった一日で、お義母さんを見つければいいのだろう……。
「十年……」
そこでイーリスは、ふと思いつく。
「最近、私が試作したタイムマシンをつかって十年前に飛べばあるいは…………」
(そ、そんなの……いかれています……。テストなんて全くしてないタイムマシンを使うなんて……)
言い出してから、イーリスは瞳を見開いてから首を横に振った。
エルピスさんに、試験運用もしていない危険なタイムマシンで過去にいかせる……? 危なすぎる……。