2024/09/04 のログ
バーチャル・エルピス > 「ううん。軽蔑しないよ。
 ……すごくすごくつらい思いをして、頑張ってきたイーリスだった。」

 エルピスもほぼほぼ元の姿に戻った。

 コーヒーを飲み終わった辺りで
 イーリスに向かっておいで、と両手を伸ばす。

 手の内に収まれば、そのままイーリスの頭を膝の上に載せて優しく撫でる。

「でも、殺しはしてなかった。愉しんでいなかった。
 ……凄く辛そうな目をしていた。軽蔑なんて、しないよ。」

 自分だって悪いことをしている。
 内心でそう思いながらも、おくびには出さずにイーリスのそのまま認めて、愛を向けた。

「そうだね。僕がイーリスの記憶を再現して、継いで(死んで)、再現して、継いで(死んで)……
 ……そうすれば僕だけは稼げるけど、僕じゃ100年あっても足りない。だから……」 

 意を決して、口を開く。

「……使うよ。タイムマシン、使う。
 僕の既視感かな。それがはっきり伝えてくれた。」

「僕なら使える、って。」
 

既視感? > スコーンーが一個、減った。
バーチャル・イーリス > ほぼ元の姿に戻るエルピスさんに膝枕していただいて、撫でてくだされば頬を赤くしたまま瞳がまたじわっとなる。
イーリスの体からなんだか無数のハートのエフェクトが浮かびあがっている。バーチャル・イーリスの感情はこうしてエフェクトで現れたりもする。
エルピスさんへの愛が《パンドラ・コアMk-Ⅱ》を稼働させて、それにより生み出されるエネルギーがちょっとイーリスの余命を伸ばしたりもしていた。だが延命するというだけで、それでは根本的な解決にはならない。

「エルピスさんは優しすぎます……。ありがとうございます……。エルピスさんがここに住まわせてくれた事がきっかけで、エルピスさんの優しさに触れられたから、私……もう……誰にも迷惑をかけずに暮らせます……。暮らせるはず……でした……」

過去形。
うまくいかなければ、もう命がない故。

「そんな事したら、あなたはいずれ廃人になってしまうではないですか……!?」

何度も継いで死ぬ……。
試験運用していないタイムマシンを使うよりもよっぽど危ないのではないかという方法にぶんぶんと首を横に振ってしまう。

「それも少し待ってください……。それも……いかれた方法です……。タイムマシンは稼働自体はできますが、試験運用すらしていないのですよ。危険すぎま……す……?」

スコーンが一個減っている事に、イーリスは目を見張った。

「す、スコーンが……!? な、何が起こって…………」

バーチャル・エルピス >  
「そんな運命は嫌だし、廃人になるよりかはいい。
 …………本当だ。僕は食べてないけど……。」

 スコーンが一つ消えた。
 誰か食べたか、そうでなければ……

「……空間が不安定なのかも。僕にはわからない。
 ここはとても居心地が好いけど、無限じゃない。だから、頑張ってくる。
 二人で食べるのもいいけど、みんなでもで食べようよ。だから……」


「そのタイムマシンで何処に行って何をすればいいか、教えて。」

 強いまなざしと強情にも近い覚悟。
 イーリスに再度、『すべきこと』を尋ねた。
 スコーンが一つ消えたことよりも、優先したいことがあると。 
 

バーチャル・イーリス > 「誰も食べていませんよね……」

イーリスが不安定なら、イーリスの中であるこの空間もそういった歪みが現れてしまう。
居心地の良いこの世界はあるけど、ここは楽園ではなくイーリスが造り出した“仮想”だ。
美味しいものを食べても、現実ではイーリスは死にかけているし、エルピスさんも弱っている。それは何も変わらない。無論、空腹なんて全く満たせない。

だからイーリスは、この仮想世界を逃げ場所になんて事は考えた事はなかった。今は、助けにきていただいたエルピスさんを持て成す“仮想世界”をつくりあげてしまっているが……。

突然、辺りが揺れ出した。
イーリスが不安定な状態もあるが、それにスコーンが消えた影響も重なり、この空間が崩れ始めている。
数ある事務所の応接間、その壁や天井、床に罅が入っていた。

「そうですね……。みんなで、現実で美味しいものを食べたいです……。ここは“仮想”でしかないのですから。エルピスさんはこんな所でお昼寝していてはいけませんね」

天井が少しずつ落盤していくが、その破片がエルピスさんとイーリスに当たる事はない。

「タイムマシンは私が遠隔操作で、明日までに十年前へととべるようにしておきます。マニュアルだけ軽く目を通していただきたいですが、詳しい操作は私が行います。マニュアルは、エルピスさんの端末に送っておきますね」

現実のエルピスさんの端末にマニュアルが送られる。

「タイムマシンは地下ラボにありますが、必ず地上階に持って行ってください。そのまま十年前に飛べば、十年前の数ある事務所がある場所の土の中に着地する事になってしまいますからね。要は、タイムマシンは時代を遡って同じ場所に飛ぶという事です」

間違っても、最近新しく掘った地下でタイムマシンを稼働させたら、えたいことになる……。
説明続く。

バーチャル・エルピス >  
「……イーリスも大変なのに、ありがとう。
 僕の為にもてなしてくれて……。」

 膝の上のイーリスを優しくなでて、強く抱きしめてから立ち上がらせる。

 この仮想も壊れかけている。
 スコーンが消えた理由は、後で分かることだろう。

「お昼寝はおしまい。ちゃんとやることやらなきゃ、ね。」

 立ち去る準備。
 何処かに帰り道はないかと、見渡す。
 ログアウトの方法があれば、想い返す。

「分かった、地上階で起動する。
 地上階の……新館のガレージかな。あそこなら動力も通ってる筈。あとは……」

 本館より広く、エレベーター用の動力がある。
 それを使うつもりでいるらしい。

バーチャル・イーリス > 「……持て成したかったですが……今の私は、不安定すぎました……。この空間は、もう崩れていってしまってます……」

エルピスさんのお膝の上でとても心地よくしていたけど、やがてエルピスさんに立てあがらせてもらった。
空間の維持すら出来ていない。イーリスの顔色が悪くなっている。

エルピスさんはこの後ログアウトはしなければいけないけれど、まだ説明は残っていた。

「私は一緒にいけません……。あなたの端末にお邪魔すれば通常なら一緒に出歩く事は可能ですが、それも出来ないという意味です。私は現在で、タイムマシンがこの時代にちゃんと戻ってこれるよう座標を管理しなければいけません。タイムマシンは一人乗りという事もあり、エルピスさん一人で過去に飛んでいただく事になります……」

一緒に行けるなら、当然イーリスもエルピスさんの端末にお邪魔する形でついていっている。
だがイーリスは現在にいて、エルピスさんが無事に帰ってこれるようサポートしなければならない。

「時代を変えてしまうような事は避けてください。時代改変の抑止力が働き、そのような行動を取ろうとした瞬間にあなたは消えてしまいます。これも、タイムマシンがちゃんと完成してないが故の……危険因子です……」

極端な例だと、イーリスの義母シスター・ヒガサに、これからずっとイーリスから離れないように仕向ける行動を取れば、時代改変の抑止力が働くだろうか。そんな世界線もあったらよかったかもしれないが、仕組み上イーリスのつくったタイムマシンは悪戯な時代改変を許してはくれない。
十年前のイーリスに会う、みたいなのは問題ない。

「医療室の棚にある《科学配合エリクサーエキス》の未完成品を忘れずに過去へと飛んでください。その《科学配合エリクサーエキス》を持ち、十年前のスラムの教会……つまり『故エルピス』さんが眠る墓地を管理している教会ですね、そこを訪れてください。私のお義母さん、シスター・ヒガサさんがいるはずです」

ひとまず説明しなければいけない内容はこれぐらいだろうか。

「質問はないでしょうか?」

小首を傾げる。

バーチャル・エルピス > 「でも、嬉しかった。」

 へにゃりと笑う。
 少しの無理であることは理解しつつも、美味しかったし安らげたから咎める気にはなれなかった。

「……そうだね。変なことはしないよ。
 過去が少し変わるだけでどうなるかは、僕の異能に教えてくれている。」

 想いを継ぐ異能による再現は、継承した記憶・記録を基盤にイフを計算して自身にオーバーライドするもの。
 時代改変を行わずに、継承の形を以ってイフを成立させる未来の技術によって造られたAFを由来とする異能。
 イーリスの制止によってAFの詳細は聞いていないが、そういうものであること位は分かる。

「うん。質問は無い。でも行く前に、これだけ言わせて。」

「愛してる。──だからイーリスも、生き延びて。
 もっといっぱい、聞きすぎて当たり前になっちゃうぐらい、言いたいもん。」
 
 抱きしめて、口づけを求める。
 愛を伝え、好意を確かめ終えれば──名残惜しそうにログアウト。

 ラボに戻って、タイムマシンを地上階に設置する。応接間だ。
 『いってきます ごはん代もおいておくね エルピス・シズメ』
 と書き置きを付けて付近に張り紙を張る。

 未完成の《科学配合エリクサーエキス》は医療室の棚から取り、
 継承した記憶を基に、関連しそうな資料をコピーして持ち出す。
 端末に届いた情報を読み込んで、あらかじめ日付をずらしておく。

 最新のオモイカネ-8や学生証は置いていき、最低限の端末だけ持っていく。
 金銭も10年前の硬貨だけ持っていく。新しい硬貨や紙幣はナナと赫の食費にして貰う。

 少しでも時間が惜しい。ここから先は駆け足だ。

 タイムマシンに乗り込む。遠隔からモニタリングできたのならば、
 『エルピス・シズメ』が持つタイムマシンへの適正は100%かそれを超えると示される。

 これは決して感情や意思の力ではなく、エルピス・シズメそのものの成り立ちと異能を由来とする(エルピス・シズメは架空の存在で、記録の継承・再現を行う未来技術のAFを基盤とする)

 未来の技術で作られた成果物を由来とする異能力。
 想いを継ぐ異能に含まれる、過去を選んで再現する順応性。
 再現体であるが故の、空白の過去。

 @明らかに、時代改変への抵触を認知したものの造り@。
 

バーチャル・イーリス > 嬉しかった、と言っていただけてイーリスは目を細めて嬉し気に微笑んだ。
仮想世界そのものがまだ崩壊するというわけではないけど、それでもイーリスが用意したこの『数ある事務所』はどんどん崩れていく。

「なら、安心ですね」

一応、時代改変はしてはならない、と伝えたけどエルピスさんならば問題ないだろう。

「……エルピスさん、ありがとうございます。私も……あなたの事……すごく愛しています……。必ず……この時代に帰ってきてください……。絶対にですよ……」

抱擁し合って、イーリスはエルピスさんの首を抱きしめ、身長差を背伸びで埋めて、口付けを交わした。
イーリスの周囲に、ハートのエフェクトが散らばっていく。エルピスさんへの愛で、《パンドラ・コアMk-Ⅱ》がエネルギーを生み出し、それがイーリスに生命力を与えて余命を僅かに伸ばす。
エルピスさんがログアウトして、この世界から消えた瞬間に、応接間の天井が完全に崩落した。
イーリスは崩落した天井の下敷き……にならず、イーリスもこの空間から姿を消していた。


タイムマシンは、地下ラボ4Fにある。見た目は高さ二メートル程の柱時計。
柱時計が棺桶のように開いて、中に入る事で過去にいけるようになる。
タイムマシンや《科学配合エリクサーエキス》が具体的にどこにあるのかなど細かい事は、バーチャル・イーリスが現実世界の端末にお邪魔してエルピスさんに伝えた。
バーチャル・イーリスはタイムマシンのコンピューターに入り、直接調整したりと準備を進めた。

エルピス・シズメさんのタイムマシン敵性が100%を超えて測定不能になった事には、イーリスは物凄く驚く。
タイムマシンの置き場は応接間にしてほしい、とイーリスは頼んだ。応接間ならば、バーチャル・イーリスがPCから見送る事ができる。

「いってらっしゃいませ、エルピスさん。どうかお気を付けて……!」

柱時計型タイムマシンに入ろうとするエルピスさんをPCのモニターに映るイーリスは見送った。

そして、エルピスさんは十年前へと旅立つ──。

バーチャル・イーリス >  
 
 
        Continues 10 years ago.
 
 
 

ご案内:「イーリスの《体内超高性能コンピューター・イリジウム》内にある電脳世界」からバーチャル・エルピスさんが去りました。
ご案内:「イーリスの《体内超高性能コンピューター・イリジウム》内にある電脳世界」からバーチャル・イーリスさんが去りました。
ご案内:「【10年前】常世島 タイムマシンで過去へ」にイーリス(4歳)さんが現れました。
ご案内:「【10年前】常世島 タイムマシンで過去へ」にエルピス・シズメさんが現れました。
状況 > 十年前の常世島。
落第街路地裏の一角、現在では『数ある事務所』がある場所。
この時代は空き家だった。
ただの空き家ではない。落第街の不良が勝手にたむろしている空き家だ。
現在では『数ある事務所』の応接間にあたる一室に、柱時計型タイムマシンが出現。
その一室で不良達が集まっている。とんでもない現場にエルピスさんは来てしまった。

不良A「こんな所に、こんな立派な柱時計あったっけか?」
不良B「この時計、突然現れたよな……? なぜ……?」
不良C「風紀の奴等に追い回された腹いせで、潰してしまおうぜ」
不良D「おらぁ!!」

エルピスさんが入っている柱時計型タイムマシンを不良達は外側から蹴ったりどついたりしていた。
もしタイムマシンが壊されでもすれば、無論現在に帰る手段はない。さすがにちょっと蹴ったりどついたりされたぐらいでタイムマシンがそう簡単に壊れたりはしないが、あんまりどつかれすぎるとまずい。
今も昔も落第街はロクでもない。

エルピス・シズメ >  
──時を超えたひとりのエルピスは、柱時計を内側から開いて周囲を見ます。

訪れた場所は今ではないけれど、既視感を覚える建造物。
ここが10年前の数ある事務所だと気付いた彼は、
郷愁に近い感情を覚えながら過去に想いを馳せて、目を細めます。

しかし、感傷に浸る時間はありません。
目の前にには見知らぬ落第街の不良達が、
自分と時計に敵意を向けていることには気付いています。

「ごめんね。」

一言だけ感情を口にしたエルピスは、一陣の風が吹き抜ける様な自然させ不良達の間隙を抜けます。
交差する際に手刀を以って急所を打ち据え、群がる不良達を一撃の下に意識を刈り取りました。

状況 > この場所、十年後は事務所の応接間。
エルピスさん、ナナさん、赫さん、イーリスの四人で団欒する場所。
だがこの時代は、不良のたまり場……。

不良A「この時計、開いたぞ……!?」
不良B「な、なんだこれは……!?」

不良C「人が出てきたぞ!?」
不良達「ぐわああああぁぁああぁぁぁ!!!」

エルピスさんの素早い手刀により、不良達は次々と気絶していく。
そうして、タイムマシンを破壊する者達はいなくなった。
万が一彼等が起き上がったら、またタイムマシンを破壊を試みないとも限らないだろうか。

エルピス・シズメ >    
「少し……やりたくないけど。」

 不良すべての両腕両足の関節を一つ一つを外し、
 両腕と両足の骨を丁寧にへし折って、建物の地下に放り投げます。
 後に響かぬようにしていますが、独りの彼は、ほんの少しだけ容赦がありません。
 
「……いそがないと……。」

 建物の地下室に放り込んだ後は、
 へし折った彼らを廃材のケーブルで簀巻きにして鍵を掛けます。
 そうして、外に出ました。
 

状況 > 気絶している不良達は四肢の両腕を外された上で、四肢を折られて地下に投げ込まれた上で、ケーブルで拘束され閉じ込められた。

これは、この時代に来る前にイーリス(14歳)から説明した事だがエルピスさんにはあまり時間がなかった。
例えばこの時代で十時間過ごして元の時代に帰った場合、元の時代も十時間過ぎている。そういった時代の座標指定をしなければ、時限空間の狭間に飲み込まれてしまいかねない……そんな不安定なタイムマシン……。まだテストもまともにしてない試作であるが故。

現在のイーリスの余命は明日だ。
仮に完成した《科学配合エリクサーエキス》を余命ギリギリに持ち帰っても、お薬が効く前にイーリスが尽きるかもしれないので、ある程度時間の猶予がいるだろうか。

外に出ると、十年前の落第街路地裏。
そこに一人の少女が歩いていた。

少女 > 「……こ、ここはどこですか。にゃんちゃんと遊んでいたらスラム街から随分と離れたところにきてしまいました……。こ、怖い雰囲気です……」

金髪で青い目をしており、複数の縫い目と継ぎ接ぎがある白いワンピース姿で、機械のクマさんを抱いている少女。四歳ぐらいだろうか。
少し涙目で、がくがく怯えながら歩いている。

アルターエゴ・サイキッカー >  
 怯えた様子の、震える少女が視界に入ります。
 多分あの子だから、このまま出会ってよいものか──そう、だと。

 そう考えた彼は、一つの記憶を基にして、ある一つのイフを形成しました。

『……こんにちは、お嬢さん。迷子……かな?』
 
 青を基調とした2m程の強化外骨格。
 もしも彼のすべてが鉄で出来て、メカニカル・サイキッカーのようなものであったのなら。
 イーリスから継いだ記憶と知識と、自分の記憶から再現した一つのかたち。

 自我がないこと以外は自分とそれは通ずることが多かったから、再現することが出来ました。

 あるいは、潰えた可能性にそのような可能性があったのかもしれません。
 例えば、英雄開発プロジェクト(英雄開発科)がより強固な組織の下で行われていたら──。

 ──ですが、それは些細な事です。
 髪と声以外を隠したその姿で、覚えのある少女にしゃがみこんで、優しく声を掛けます。
 

イーリス(4歳) > 話しかけてくるのは青いメカ、に見えるもの。
いや、髪があるのでパワードスーツなのだろうか──という思考は、4歳にはできない。

「ロボットさん……ですか? 正義のロボットさん……? 私、ひぐ……どこにいるか分からないです……。正義のロボットさんなら……帰り道分かりませんか……?」

正義のロボットさんだと判断して表情が少し明るくはなったが不安がまだあって泣き止まなかった。

「私、イーリスっていいます。スラムに住んでます。ロボットさんのお名前はなんですか?」

無垢に小首を傾げた。

アルターエゴ・サイキッカー >     
『イーリスちゃん、だね。……
 それは……ひみつ。だから、好きな名前で呼んでいいよ。』

 名前を言う事はしませんでした。彼女の想像に任せます。
 彼の声は若く、男にも女にも聞こえます。

 ただ、何かに属する腕章も、腕輪もありません。 

『スラム。……丁度よかった。
 僕も用事があったから、道案内をしてくれると嬉しいな。
 ……急ぎで、困ったことがあってね、教会に、用事があるんだ。』
 
 優しく、彼女に尋ねます。
 しっかりしゃがみこんで、目線を合わせて壊さを覚えない心遣いも、忘れていません。
 

イーリス(4歳) > 「ごめんなさい。正義のロボットさんだから名乗ってはいけないのですね」

ぺこりと頭を下げた。

「え……!? 正義のロボットさんも迷子さんなのですか……!? もう私達、お家に帰れないのですか……。そんなの……。うわああぁぁぁん!!」

正義のロボットさんが助けにきてくれたと思ったら、同じく迷子さんだった。
お家に帰れないと思い、少女は大泣きしてしまっている。

アルターエゴ・サイキッカー >  
『……そっか、迷子さんだったよね。』

 失念していたのでしょう。
 安心させる材料が、彼女に不安を与えてしまいまいました。

 本当は、大まかな道は覚えているのです。
 悪いことをしてしまったと思いながら、あやしながら背中に乗る様に促します。

『なかないで。僕の背中に乗って、一緒に探そう。
 たぶん、すぐ見つかるから。』
 

イーリス(4歳) > 少女はこの辺りに来るのが初めてで、猫を遊んでいたらうっかり迷い込んでしまった身。
東がどっちで西がどっちかも分からない。何なら、東西南北の概念もあんまりわからない。
お箸を持つ方が右。地図を見れば、東ではなくお箸を持つ方の右と考えてしまう。4歳だからね。

「正義のロボットさんと一緒に、お家探します! わぁい!」

泣き止んで無垢に明るく笑って、正義のロボットさんの背中に乗った。

「高いです!」

アルターエゴ・サイキッカー >   
『しっかり捕まってね。』

 背中に、ちょうど良さそうな掴む所があります(ガンマウント)
 幼きイーリスが掴んだことを確かめてから、空を飛びます。

 風を切る感覚と、空から見る光景は新鮮かもしれません。
 上を見れば、空が見えます。

『……あっちの方に、建物がいっぱいあるね。
 あっちに行ってみようと思うけど、大丈夫?』
 
 手で行き先を指し示しました。
 違いなく、スラムにある教会です。
  

手配書 > 空を飛ぶ前。
正義のロボットさんの目に、ある指名手配犯のポスターが目に入るかもしれない。
悪の科学者ワイズマン。この時代のスラム及び落第街で悪名を轟かせるS級犯罪者で、その影響力は大きい。罪状は様々で、例えばスラムの少年少女を攫って非道な人体実験をしているらしい。

このワイズマンは有名なので十年後でも知っている人だろう。
(現在視点で)十年前に〇〇された人物とされている。
十年後の時代では、既に過去に人物。だがこの時代では、凶悪犯として世を騒がせていた。
巨額の賞金首である。

イーリス(4歳) > 正義のロボットさんの背中にあるつかむところ(4歳の少女、難しい名称はよく分かりません)を掴み、そして正義のロボットさんは大空に飛んだ。

「お空飛んでます! 正義のロボットさんだから、お空も飛べてしまうのですね。あははっ」

少女は楽し気に笑っていた。

「町いっぱいよく見えます! あの建物いっぱいある場所がスラム街です!」

こくこくと頷いた。

アルターエゴ・サイキッカー >     
(ワイズマン──?)

 移動中、彼の目の前一つの手配書が視界に入ります。
 そのものはワイズマン。彼は手繰り寄せて、断片的な記憶を拾います。
 彼の時代に於いては終わった人物なので、あまり気には留めていませんでした。既に──。

 ──いやなものを感じましたが、気に留めている暇はありません。
 スラムの手前まで進み、騒がせ、目立たないように人気のない路地裏に着地します。

『もうちょっと、待ってて。』
 

イーリス(4歳) > 少女を乗せた正義のロボットさんが路地裏に着地
待ってて、と言われて小首を傾げた。

「どうしたのですか、正義のロボットさん?」

どうしたのだろうか……。

アルターエゴ・サイキッカー >  
『スラムの真ん中にいきなり僕が降りたらびっくりするから、ここから先は徒歩でいくよ。もうちょっと捕まっていてね。』

 なんでもないと言い聞かせ、路地を抜けて通りに出て、そのままスラムへと向かいます。

(何事もないと、いいんだけど。)
 
 ゴミや土埃で汚れた道を、一歩一歩歩いて進み、目的地へで向かいます。

イーリス(4歳) > 「正義のロボットさんは、ひとしれず正義を成すのですね! 分かりました、正義のロボットさん!」

お空を飛ぶのも楽しかったけど、正義のロボットさんは、正義の味方だけにあまり見られてはいけないみたい。
そうしてスラムへと向かっていく二人。

「正義のロボットさん、凄く速いです! あはは! 風になってるみたいです!」

今のところ特に何事も起こらなかった。

エルピス・シズメ >   
『そうだね。知られざる英雄さんだよ。』

 本当はそんなものではないけれど、彼女が喜ぶのならと英雄を名乗りました。
 気を配りながら、そのままスラムまでたどり着きます。

(スラムは、ほとんど変わらない。)

 背中に乗せたまま、降ろすことを忘れて周囲を見渡します。
 警戒と言うよりは、郷愁に近いものを覚えているのかもしれません。

 空の色は、昼とも夕ともつかぬ曇った色をしていました。
 
 

イーリス(4歳) > 「わあぁ! 英雄さん! ロボットの英雄さん!! 正義のロボット英雄さんです!」

少女は瞳をきらきらさせながら、明るく無垢に笑ってみせた。
正義のロボットさんは、迷子から少女を救ってくれた。とても英雄なロボットさん!

「正義のロボットさん、なんだか思い出に更けているように見えますね? あなたもこの辺りに住んでいるのですか?」

正義のロボットさんの背中から、少女は首を傾げた。
この辺りまで来ると、少女もある程度道を把握できていた。

アルターエゴ・サイキッカー >  
 郷愁に気が緩んで、彼の姿が戻りかけました。
 気を引き締め直して、スラムに踏み込みます。

『ううん。ちょっと遠いところからきたんだ。
 ……遠いお星様から来たって言ったら、信じる?』

 10年後。未来からの来訪者とは言えません。
 言っても信じて貰えない気がしつつも、安全を期します。
 何気なく脳裏に浮かんだ言葉を、そのまま冗談のように口に出しました。

(確か、教会は……)

 10年後と変わっていないなら、こっちだった。
 記憶を手繰り寄せて、どんどん進んで教会まで向かいます。

イーリス(4歳) > 「正義のロボットさんは、遠いお星様からこの星を救うためにやってきたのですね! すごぉいです! わあぁ!! なんていうお星様からきたのですか! お星様にお願い事したいです!」

正義のロボットさんの背中で明るく自身の体をゆらゆら揺らしつつ、喜んでいた。
教会もだんだん近くなってくる。

「私のお家の近くです! 正義のロボットさんは私のお家もわかるんですね!」

教会は住む場所ではないけど、教会近くに住んでいる。
教会に向かう事で、自然と少女のお家に近づいていた。

アルターエゴ・サイキッカー >  
『それは、えーっと……とおくだよ。オリオン座の方……?』

 首を傾げます。咄嗟の言葉なので、自身がありません。
 ただ、星から来た英雄ならオリオン座の方だろうと、なんとなく思いました。

 星の英雄がオリオン座の先からやってきて、悪いものをやっつける。
 そんなお話があったような、なかったような。

『そっか、イーリスちゃんのおうちだったんだね。僕が用事があるのもここだから、偶然(必然かな)。』

 笑いかけながら、スラムの教会の戸を叩きます。
 当然ながら、故エルピスの墓はまだありませんでした。
 

イーリス(4歳) > 「おりおんざって何でしょう? とおいお星様……。おりおんざはどれぐらい遠いのでしょうか……」

星座の事をよく分かっていない少女。おりおんざと聞いてもあまりピンときていなかった。
お空を見ても、まだお星様見えない。

「私のお家にご用なのですか? という事は、お義母さんにご用? お義母さんにご用という事は、教会を探している迷える子羊さんですね! 正義のロボットさんも私と向かう場所が一緒だなんて、奇跡ですね!」

にこにこっと少女は明るく笑みを浮かべた。
そうして辿り着いた教会。
この教会の敷地にある墓地に故エルピスさんが眠るのは、あと十年も先のこと。

正義のロボットさんが教会の扉を叩くと、少ししてから扉が開く。

シスター・ヒガサ > 扉を開けたのは、赤い髪で修道服を着た女性だった。

「ごきげんよう。て、イーリスじゃないのよ」

シスターの女性は、背中のイーリスを抱える。

「もしかしてこの子、迷子だったのかしら? この子を送り届けてくれたのね。とても感謝するわ」

イーリスを抱えたまま、シスターは正義のロボットさんに一礼した。

「ひとりで遠くに行ったらだめじゃないのよ。知らない人にまでご迷惑かけて……」

と少女を軽く叱り。

「私はシスター・ヒガサ、この子の義母で、この教会を管理しているわ」

穏やかに笑って、自己紹介するシスター。

アルターエゴ・サイキッカー >  
『あはは、また今度、かな。』

 幼きイーリスを屈んで降ろし、開く扉を認めます。
 イーリスを送り届けたことを認めてから、夜明けの様に赤い髪の修道服の女性に目を向けました。

(シスター・ヒガサ。この人が……)

 この女性が過日のシスター・ヒガサであると認めた彼は、こう応えます。

『こんにちは。僕は……理由があって、名乗れません。
 けれど、覚えていないと思いますが、貴方にお世話になった人の一人です。』

 彼の答えは、そのようなものでした。
 イーリスの育ての親であるのです。

 間接的に、お世話になったというのもの間違いではありません。

『……そして、お願いがあります。
 ある人の命を救うために、大急ぎで完成させてほしいものあるのです。』

シスター・ヒガサ > 正義のロボットさんは、見覚えある人物になるだろう。
正義のロボットさんが見た十年後のイーリスの記憶。三歳と四歳のイーリスがお義母さんと呼んでいた人物。
それがシスター・ヒガサだった。

「理由……。パワードスーツで姿を隠している事も含めて、深い訳があるのね。けれど、貴方からは悪しき心は感じられないわね。お世話になった……私、過去に貴方とお会いした事があるのかしら?」


イーリス「正義のロボットさんですよ、お義母さん。おりおんざ?というとおいお星様からきたみたいです」


「そうなのね。うふふ」

シスターは、少女の頭を撫でる。少女は明るく笑った。
本気でオリオン座から来たとは思っているわけではなく、子供にはそのように伝えているだけだろうと解釈。
人の命を救うため、と聞いて穏やかだったシスターの瞳は険しいものにかわる。

「重傷者がいるのね。すぐに向かうわ、案内してちょうだい。完成させてほしいもの……?」

自身の治癒魔法を頼られたのかと思い、少女を降ろしてすぐ出向こうとしたシスター。だが、完成させてほしいものと聞けば首を捻った。

「単純に怪我人を治してほしい……という話ではないのね。では、中で聞こうかしら」

シスターは、正義のロボットさんを教会の中へとお招きする。
そして信者達が礼拝する席がある身廊、その最前列の木製のベンチに座り、正義のロボットさんにも隣に座るよう促す。
少女は祭壇の近くで、持っていた機械のクマさんを動かして楽しそうに遊び出した。

アルターエゴ・サイキッカー >  
『……。』

 彼は黙秘を選びました。
 答えられないことが、ある種の答えです。

『……オリオン座の方から来たって言えるほど、大それたものではないですけれど。』

 オリオン座の方から星の戦士が悪しきものをやっつける。
 御伽噺や、御伽噺の元となったある種の神学知識(クトゥルフ)があれば、類似する逸話を基にした嘘であると見抜けるかもしれません。

 彼は幼きイーリスの夢を壊さないように、ほんの少しだけ、カッコつけていました。

 促されるままに中に入った彼は、座った上であるもの内部の収納機構からを取り出します。 

 未完成の《科学配合エリクサーエキス》を、差し出しました。

『これを……完成させてほしいのです。
 ……どこから持ってきたのかは、言えません。』

 これの元となった、資料もあります。
 ただ、それを出すべきかはどうか迷ったのでしょう。
 まずは何重にも梱包して厳重に保管した現物を取り出して、起きました。