2024/09/07 のログ
アルターエゴ・サイキッカー >  
「……!」

 犠牲の上に成り立つ未来予測器。
 それを使わせずに断ち切る事が出来たのは、必然か。
 本来この時代に存在しない存在しないものを、正しく計算できなかったのだろう(ハレーション)

「そうかもしれない。不老不死はそれを実現するかもしれない。でも……」

 ワイズマンの言い分はもっともだ。
 例え非人道的な行為とは言え、その願いは共感してしまう。
 自分だって、やり直すように過去を遡っている。

「そんなわるいことは、させない……正義のロボットさん(ぼくたりしもの)が、ゆるさない」

 巨大なロボットを見据える。

「……ミュートスガイスト、トール。」

 第二の異邦覚醒異能。神秘覚醒異能。
 大鎌に神威の雷を宿らせる。今の感情は、正義と怒りだ。
 使い切りの神威──神罰の雷を、鎌に宿す。

「フロムロゥリス。」

 第三の異邦覚醒異能。技術覚醒異能。
 彼方より飛来した、名も無き魔技を身に付ける。

(ぜんぶ、借り物。ぼくじゃない。)
(でも、それでも。……必ず助ける。)

「その赤いロボット、おじさんの全力でしょ。
 心ごとへし折ってあげるから──おいで。」
 
 

ワイズマン > 未来測定器を起動させるには、人間の命が必要なのでそう安易に使えない。
また万能でもなく、何でもかんでも好きに予知できるものでもなかった。
正義のロボットさんの未来測定する前に、破壊されてしまったのだ。
どちらにしても、この時代の存在ではない正義のロボットさんの未来はどうあっても予測不可能である。

「そうだろう? 不老不死にさえなれば、いずれ余の天才的頭脳がこの世界を支配するのだ……!」

そう口にして、ワイズマンは不敵に笑った。

「かっはっはっはっは!! 未来測定器はいずれ必ず作り直してやる。誰も余を止められはせぬ」

正義のロボットさんが発動する異能を発動するのを神妙に見据えた後、高らかに笑う。

「素晴らしい……! よかろう……」

イーリス(4歳) > 「正義のロボットさん、必ず勝ってください……! 悪い科学者なんかに、世界を支配されたらだめです……! 正義のロボットさん……!!」

少女は両手をぎゅっと組んで、正義のロボットさんの勝利を願って祈りを捧げていた。
そんな少女と、そしてワイズマンが光に包まれる。

「な、なんですかこれは……!?」

動揺する少女。
少女を閉じ込めていた巨大な試験管の上部にある蓋部分が空いた。

ワイズマン > 光に包まれたワイズマンと少女が宙に浮き、そして神殿最奥にある巨大ロボットの顔の部分に吸収される。

少女「た、たすけて……!!」

二人が吸収された後、赤き巨大ロボが動き出す。

『余の《ゴッド・グレート・ワイズマン》がお主を亡き者にしてくれようぞ!』

その声は赤き巨大ロボから発せられるワイズマンの声だった。

アルターエゴ・サイキッカー >   
「……しまった。いや、仕方ない。」

 少女たちが吸収されてしまうとは思わなかった。
 顔を顰めながらも、赤き巨大ロボが起動する様を見届ける。

(いや、考えるのは後。どの道届かない……)

 呼吸を整える。
 その身に余る、宿った力と業を制御する。

 大鎌の刀身が、光によって拡張される。
 赤きロボットを断つには、十分。

 一撃で終わらせると、覚悟を決めて踏み込む。

「幾、にも…い、夢知るる、希、築く……!」

 特殊な軌道で描かれる、神罰を宿した大鎌の舞。
 属性は雷撃ではなく、神威。そこに彼方の剣技を乗せる。

 頭部の少女たちを傷付けぬ様に、赤きロボットの巨体を肩から斬り落とす斬撃を描く──。
 

ワイズマン > 『この《ゴッド・グレート・ワイズマン》を造るのに、数多の少年少女が犠牲になったものだが、それだけの力がある!』

ワイズマンは顔部分にあるコックピットに乗っている。
コックピットはある程度広く、少女一人程度なら床に放っておくことができる程度。
少女はワイズマンにより、両手を後ろに機械の手錠ではめられた。

『正義のロボットよ、粉々にしてやろう! 《ワイズマン・グレート・フィスト》!!』

《ゴッド・グレート・ワイズマン》の拳に膨大な魔力が宿っていく。
その強大なる質量と魔力をもって、赤きロボを斬りつける正義のロボットさんの神威を宿した鎌にぶつける。
特殊な軌道の鎌、その軌道に、拳の早さに加えて圧倒的な質量をもって強引に合わせた形となる。

イーリス(4歳) > 『負けません……! 正義のロボットさんは絶対、悪のロボットになんてやられるわけありません……!!』

少女の声が赤きロボットから聞こえる。

ワイズマン『黙れ、小娘が!!』

『い、痛っ! か、髪引っ張らないでください……』

アルターエゴ・サイキッカー > 「……ッ!」

 稲光と桜の花の二重奏。
 甚大な生命力と精神と引き替えに、超常を斬るための剣技。
 
 そこに神威を乗せた、必殺の一撃。
 
 そして、拮抗する鎌と巨拳。
 巨大な質量と、科学の合金に受け止められる。

 あと一歩、あと一歩が足りない。
 欲しいものがある。

 ずるいけどかもしれないけど、どうしても欲しいからこう叫ぶ。

『あと一歩で助けられる……だから、おねがい。』
 

アルターエゴ・サイキッカー >  
 
「頑張ってって、【正義のロボットさん】の事を応援して!」 
  
 

ワイズマン > 《ゴッド・グレート・ワイズマン》、お名前はともかく神を自称するその力は強大だった。

『ぐっ……。我がメカ自慢の《ワイズマン・グレート・フィスト》を受け止め、拮抗するか……! だが、さらに出力をあげたらどうなる……!!』

ワイズマンがレバーを動かす。
すると巨剣が強まり、神威を乗せた鎌に加わる力が増大する。

イーリス(4歳) > 髪を引っ張られる少女。
だが、正義のロボットさんがピンチだ……。正義のロボットさんがピンチなのに、こんなところで負けていられない。
自分も、頑張らなければいけないと、痛みや辛さに耐える。
少女はすぅーっと息を吸う。

イーリス(4歳) >  
 
 

 
      『正義のロボットさん!! 頑張ってください!!』
 
 
 
 

 
 

アルターエゴ・サイキッカー >  
「ありがとう!」

 声援に応じて、命脈が鼓動する。
 届けられた言葉が、【正義のロボットさん】のかたちを鼓舞する。

 つまるところ──すごく元気が湧いて、勇気付けられる。
 だから、この刃は、こう確信できる──。

「この刃は悪いものを────断つ刃!」
 
《ゴッド・グレート・ワイズマン》を、
《ワイズマン・グレート・フィスト》を、 

 悪を断つ、刃になれる。

 桜花と稲光の混じった、煌めく太刀。
 ──それは、巨大な悪を、斬る。(斬機を、成し遂げる。)

ワイズマン > 少女の声援で、明らかに正義のロボットさんの異変を感じたコックピットのワイズマン。
悪の科学者は、驚愕の表情を浮かべる。

『な、なに……!?』

《ワイズマン・グレート・フィスト》を放った巨拳が、悪を断つ刃により斬られる。
それだけにとどまらず、悪の科学者が操る悪の巨大ロボット《ゴッド・グレート・ワイズマン》もが、正義の刃により断たれていく。

『ば、ばかな……。こ、こんな事があって……!! 我が自慢の《ゴッド・グレート・ワイズマン》が……』

《ゴッド・グレート・ワイズマン》の各部位で小さな爆発が起こる。

『ありえぬ……。な、なんなんだ……あの正義のロボットは……!?』

コックピットでワイズマンは冷や汗をかきつつ、正義のロボットさんを見ていた。

イーリス(4歳) > ワイズマンは茫然としていて、少女の髪から手を離していた。
少女は痛みに耐えて涙目。
だがすぐに満面の笑みになる

「正義のロボットさん、やりました……!! 悪いロボット、倒しました! わあぁい! わわっ!! 痛ッ……!」

明るく喜んでいたが、少女とワイズマンがいるのは今まさに滅ぼうとしているロボットのコックピット。
激しい揺れに、手を後ろで拘束された少女は壁に軽く頭をぶつけてしまう。
このままでは、コックピットも危ないだろうか。

アルターエゴ・サイキッカー >  
『お前まで正義と言ってくれるのは、こそばゆいね
 ────お前の末路を決めるのは僕じゃない。だから。』

 軽快に飛んでコックピットの外へ到着すれば、大鎌で砕いて入り込む。
 拘束も器用に鎌で斬って解き、役目を終えた大鎌を捨て、
 少女達を両手に抱えて(救うべきものすべてを手にし)
 ワイズマンをコックピットから蹴り出す。

『僕はお前を殺さない。
 お前のことは、運命に委ねる。』

 この場に忘れものはないか。
 改めて確かめて、ない事を確かめた後、空けた穴へ跳んで辿る。
 そのままだ脱出を目指すだろう。

ワイズマン > ワイズマンに関しては、もはや正義のロボットさん正体不明すぎて、少女がそう呼んでいて自らもそう名乗っていた《正義のロボット》としかもはや呼び方がなかった。

『ぐ……』

コックピットは顔部分にある。《ゴッド・グレート・ワイズマン》に少女とワイズマンが吸収される時、顔の部分に入り込んでいったので分かりやすい。
正義のロボットさんにコックピットへと侵入されると、ワイズマンは瞳を大きく開けて悔し気に歯を食いしばる。

『いずれ余がお主を殺してやるぞ……! ぐわあああぁぁっ!! ぐげっ!』

ワイズマンはコックピットから蹴り出されて、そして地面に情けなく頭から激突して倒れ込んでしまった。

イーリス(4歳) > コックピットに乗り込む正義のロボットさんに、少女の双眸はきらきらと輝いた。

「わあぁ!! 正義のロボットさん!! 助けにきてくださってありがとうございます!! 私、正義のロボットさんが大好きです!! 正義のロボットさんは悪でも命を取らない優しさもあるのですね!」

横抱きにしてくだされば、にこっと無邪気に笑った。
強くて優しくて、そして例え悪であっても命を取らない。
少女はそんな正義のロボットさんに憧れた。
悪であっても殺さない、その正義としての生き様がとても素敵と思えた。
自分が正義の味方みたいになって悪と戦う事が万が一あったとしても、絶対に悪を殺したりなんてしない、そう心に決める程に。

「クマさんも助けてあげてくだい!」

コックピットの床に、機械のクマさんが落ちている。
少女がいつも抱いているクマさん。だが、少女は機械の手錠で拘束されているので、クマさんが地面に落ちてしまった。

正義のロボットさんが少女とクマさんを抱えて《ゴッド・グレート・ワイズマン》から脱出。
その直後、正義のロボットさんの背後で、《ゴッド・グレート・ワイズマン》は大爆発してしまうのだった。

状況 > 《ゴッド・グレート・ワイズマン》の大爆発。
それが原因なのか、けたたましい警報音が鳴る。

警報『緊急装置作動。まもなくワイズマン研究所を爆破します。緊急装置作動。まもなくワイズマン研究所を爆破します』

アルターエゴ・サイキッカー >  
『わかった!』

 爆風を背に受けながら滑り込み、機械のクマさんを助ける。
 少女達を庇いながら、上へ、上へ。

『お前たちの親玉は下だ! 僕は知らない!』

 純粋な瞳から目を逸らしつつそう告げて、救うべきものだけを研究所から救って逃げる。
 あのワイズマンがどうなったかは、因果が応報するだろう。

 何とか研究所から、少女とクマさんを抱えて救い出す。
 救出劇をこなして、逃げ切って乗り切る。
 
『あつつ……』

 疲弊した身体を繰って、
 研究所痕から離れた所で手錠をちゃんと外して、クマさんを渡す。

『……ほら、クマさんも無事だよ。
 いっしょにかえろ。僕の背中に、乗って。』

 ────再び、彼の声色に優しさが戻ります。
 正義を守ったロボットさんの、優しい声です。
 
 

状況 > 緊急装置が作動してカラス仮面の黒服達は阿鼻叫喚。
急いでワイズマンの救出に向かう黒服も一部いた。
爆破まではある程度猶予がある。
少女を抱える正義のロボットさんは無事に研究所から無事脱出。

加えてワイズマンは黒服に救出され、黒服達は全員脱出に間に合った。
ワイズマン一派により捕らわれた少年少女については、一派に潜入していた公安委員により救出されていた。
公安委員は、潜入したはいいもののワイズマン一派に酷く疑われまくって身動き取れずにいた。正義のロボットさんが侵入した騒動、そして研究所の爆破により研究所内が阿鼻叫喚とした事で、少年少女を助ける事ができたわけである。

地下の研究所、そして地上の廃工場が木端微塵に爆発した。
その後、潜入した公安委員の通報や情報提供もあって、ワイズマン一派は数日以内に全員風紀委員に捕まるわけになるのだが、誰がワイズマン一派を追い詰めたかは謎に終わった。
ワイズマン一派に潜入した公安委員によれば『正義の味方がワイズマン一派を滅ぼした』との事。謎の正義の味方である。

イーリス(4歳) > そして研究所跡から少し離れた場所。

「わぁい! クマさんも助けてくださりありがとうございました! 正義のロボットさんのお陰でお外に出られました! お家に帰れます! 正義のロボットさん……大丈夫ですか……? 私のために……無理……させすぎてしまいましたよね……」

満面の笑みでクマさんを抱き、そして正義のロボットさんの背中に乗る。
だが疲労している正義のロボットさんに少女は心配げな視線を送っていた。

正義のロボットさんは、本当に凄い。
一人で開くの研究所に突入し、一人で強大な悪のロボットを撃破し、そして一人で少女を救い出した。
おりおんざから訪れた英雄、正義のロボットさん。それは、4歳の少女を救い、そして夢を叶えた。

「正義のロボットさんは、私の……正義の味方さんです」

アルターエゴ・サイキッカー >  
(あんな奴でも、慕われてはいたんだな。)

 脱出劇の最中、下に向かうものが居たことに正義のロボットは呟きます。
 その先のことは、知りません。ただ、悪や我欲にも慕うものがいたことを、認めました。

『……そう言ってくれて、嬉しいな。でも、僕が居られるのは今日まで。
 教会について、お義母さんからお薬を貰って、星の彼方に、帰らなきゃ。』

 少しだけ速度を緩めて、空を翔けます。
 それでも、お別れの時はやってきます。

『……ここまでかな。降りて大丈夫だよ。イーリス。
 大丈夫、正義のロボットさんはまだ頑張れる。』

 イーリスをゆっくり降ろして、おうちへ届けます。

 そのまま、歩いて、地下聖堂へ向かいましょう。
 振り返ると寂しくなりそうなので、我慢します。 
  

イーリス(4歳) > 夜が明け、朝日が昇り始めている。

正義のロボットさんがいるのは今日まで。
そんな言葉に、笑顔だった少女は茫然としてしまう。

「え……」

正義のロボットさんとお別れ……?
どうして……。

「いや……。いやです……! ひくっ……。せっかく正義のロボットさんとお会いできたのに……お別れなんて……。どこにもいかないでください……。お星様に帰ったらいやです……。いやなんです……。ずっと、私の傍にいてください……」

正義のロボットさんと離れるなんていや……。
降ろされた少女の瞳から、涙が溢れ出てくる。

「いかないで……! お願いします……! 正義のロボットさん……! へぐっ……。一緒に、いたいんです……!!」

地下聖堂へ向かって歩き出す正義のロボットさんに駆け寄り、後ろからぎゅっと抱きしめる。
少女の身長では、正義のロボットさんの脚を抱きしめる形になる。

アルターエゴ・サイキッカー >  
 縋る手に足を止めて、振り向いてしゃがみます。
 優しく撫でて、あやすように伝えます。
 
『ごめんね。……でも、待っている人がいるんだ。
 だから、帰らなきゃいけないんだ。』

 かえるための理由を、不器用にも優しく伝えようとしています。
 ほんとうのことを、矛盾なく伝えます。

『……でも、いつか会えるよ。それまで辛いこともは沢山あると思うけど、 
 星の向こうから見守っているから。』
 
 ……正義のロボットさんは、どうしても足を振りほどけません。
 なので、こう提案しました。

『いっしょに、シスター・ヒガサさんのところまで行こう。 
 それなら、ほんの少しだけ長くいられるね。』

イーリス(4歳) > 「待っている人……。あなたの大切な人……」

正義のロボットさんには、どうしても救いたい人がいた。
その人のために遠いお星様から遥々ここまできた。

「……あなたの大切な人……救われてほしいです……。とってもとっても、救われてほしいです…………。えぐっ……」

溢れ出す涙。
正義のロボットさんと別れたくない……。一緒にいたい……。
でも、正義のロボットさんには大切な人がいる。少女も、その人に救われてほしいと、そう願っている……。

わがままな子供のままではいられない。

「……正義のロボットさんは嘘言いません。待っていれば……いつか、またあなたに会えるのですね。私、辛い事があっても耐え抜きます。正義のロボットさんとまた会いたいから……私、どんな事にも耐え抜いてみせます! だから私の事、見守っていてください! 約束ですよ、正義のロボットさん」

少女は泣きながらも笑みをこぼし、そして指切りげんまんしようと右手の小指を正義のロボットさんに伸ばした。
シスターのところに一緒にいく、それにはもちろん笑顔で頷いていた。

アルターエゴ・サイキッカー >  
『必ず、救ってみせるから。』

 幼きイーリスの髪を撫でて、微笑みかけます。
 涙もそっと、鉄の手で拭います。

『……うん。見守っているよ。
 助けに行けなくても、辛い時は、僕も、祈ってる。』

 誰か、そばにいて。
 たすけてあげて。
 
 ──見守ることしかできなかったけど、
 それでも約束をします。このくらいなら、大丈夫と。

 ゆびきりげんまん。 
 指を合わせて約束を交わしてから、共にゆっくり地下に向かいます。

『シスター・ヒガサさん、なんとか、できました。
 ……ご飯は買えませんでしたけど、イーリス、無事です。』

 地下聖堂に辿り着き、そこにシスター・ヒガサがいるのならば、
 報告と共に小銭入れとスマートフォンを返します。

イーリス(4歳) > 「ぜったいぜったい、救ってあげてくださいね……! それも約束です……!」

髪を撫でてくださり、鉄の手で涙を拭ってくだされば、少女はにこっと満面の笑みになった。

「ありがとうございます、正義のロボットさん。私、あなたに会うまで頑張ります。あなたが見守ってくださっているから……」

どんなに辛い事があっても耐え抜こう……。
正義のロボットさんが見守ってくれていて、そしていつか会える……そう信じていれば、きっと頑張れる。

ゆびきりげんまん。
互いの指を合わせて、そして約束を交わすのだった。

それからずっと、少女は正義のロボットさんとの再会を待ち続ける。


正義のロボットさんとの出会いは、少女に大きな影響を与えた。

少女の不殺主義は、悪を殺さぬ優しき心を持つ正義のロボットさんに憧れたところから始まった。
五年後、少女は正義のロボットさんへの憧れから、それをモデルにして《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅰ》出した。
さらに七年後に《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅱ》、九年後に《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》と改良を重ねた。少女の憧れる正義のロボットさんは、とても強くて優しいから。


──少女はこの先に待ち受ける過酷な運命を乗り越えて、そして十年後に──……。


「ここから先はあんまり行かないようにお義母さん言われていたのでした。私が行けるのはここまでです。さようなら、正義のロボットさん!」


地下聖堂を隠す石碑がまだ見えていないあたりの場所にて。
手を大きく振って、正義のロボットさんと笑顔でお別れ。
お別れするの悲しいけど、正義のロボットさんはずっと見守ってくれているし、またいずれお会いできると言ってくれたから、笑顔でお別れ。

シスター・ヒガサ > 地下聖堂にて。

「イーリスを無事に救い出してくれたのね。ほんとうにありがとう……」

シスターは目を細めてから、深々と頭を下げた。

「お薬は、ちゃんと調合に成功して完成させているわ」

シスターは小銭入れとスマホを受け取り、そして《科学配合エリクサーエキス》の完成品が入った試験管を正義のロボットさんに渡した。
祭壇の上の《ラファエル結晶》は調合に使われて、もうなかった。

「あの子、貴方に凄く懐いていたからさぞ分かれる時に大泣きしていたでしょうね。私は、貴方のお薬を完成させるお手伝いが出来てとてもよかったとおもっているわ。貴方の大切な人を救ってあげなさい。またいつか、あの子に会う事があったなら(・・・・・・・・・・・・)、その時はあの子の事よろしくお願いね。お星様に帰るのだったかしらね。帰り道、気を付けてね、正義のロボットさん」

お星様とは冗談げに口にしていた。
そして、シスターは穏やかに微笑みながら、正義のロボットさんと別れの握手をしようと手を伸ばした。

アルターエゴ・サイキッカー >    
 こうして、過去と今を強固に結ぶものがありました。
 それが偶然だったのか、定めだったのかは誰にもわかりません。

 正義のロボットが懸命に動いたことだけが、事実です。

 幼きイーリスと別れ、地下聖堂。

 完成した《科学配合エリクサーエキス》の試験官を受け取れば、
 最初に入れていた容れ物に丁寧に封をします。
 背中のマウントに格納し、保護します。

『ありがとうございます。……うん、ちょっと泣かれちゃいました。
 そして、見知らぬ僕の過ちを赦して、大切な子供を託して、願いを叶えてくれて。
 …………本当に、本当にありがとうございます。』

 膝を付き、祈りを捧げる様に両の手を合わせます。
 
 よほどの慈愛がなければ、出来ないこと。
 正義のロボット(エルピス足りし彼)は、シスター・ヒガサの慈愛に感謝を捧げます。

『そう、ですね。お星さまの先に……いかなくては、なりません。
 いつかあの子にあった時も、ちゃんと……大事(幸せ)にします。』

 差し出された手を取り、握手を交わします。
 熱や体温だけではない、暖かさを、感じました。

『では、僕は行きます。大事な人が、待っていますから。』

 そのまま立ち去り、走ります。
 独りになったはずみで緊張が途切れ、身体は疲弊を覚えているけれど、走ります。

 そうして、タイムマシンの前まで戻ってきた、ことでしょうか。
 

エルピス足りしもの >  
 そこには、確かに完成した《科学配合エリクサーエキス》を手にした彼がいました。
 鋼を纏っていない、普段の彼です。

「……あと一息」

 ただ少し、無理が祟っているのでしょう。
 多少の呼吸の乱れと、不安な汗と、焦点の安定しない瞳があります。

 

エルピス・シズメ >  
 
 それでも、彼は確かにエルピス・シズメです。

「まっててね、もう少し、だから。」

 長期に渡る上書きで希薄された自我を引き戻します。
 希望()を手にして、タイムマシンを起動させ、時を進めます。
 
 ……不安を覚えながらもイーリスの発明を信じて、正しい時に戻れること祈ります。

 ────そして、現代へ辿り着きました。
 

状況 > そうして、正義のロボットさんは過酷な使命を果たした。
困難を乗り越え、
別れを経て、
そして完成した《科学配合エリクサーエキス》を持ってタイムマシンに乗り、
そしてイーリスが待つ現在へと帰ってくる。

バーチャル・イーリス > ──現在。
バーチャルのイーリスは、応接間のPCでエルピスさんの帰りを待ち続けていた。
エルピスさんなら必ず成し遂げられる、そう信じて。

そして、ようやく柱時計型タイムマシンが過去で起動させている事感知した。

「エルピスさん、うまくやってくれたのですね! 座標、現在に安定させます!」

イーリスが映っているモニターに数多のプログラミング画面が表示される。
タイムマシンが帰ってくる座標を現在に安定。

エルピスさんを乗せたタイムマシンが応接間に出現した。

「おかえりなさい、エルピスさん。あなたなら必ず無事戻ってきてくださると、成し遂げられると、そう信じていました」

イーリスは、現在に戻ってきたエルピスさんが乗るタイムマシンの内部に通信を送った。

『虹の奇蹟』エルピス >   
 現代。
 通信が届いたということは、今に戻ってこれた証。

 声に気付いて朦朧した意識を戻し、イーリスへの通信に応えようと、する

「ただいま。あと少し、頑張る………
 ……いーりすの意志を継いで、あの状態になって、それから……
 ……ごめん、身体は動くけど、すこし、ぼんやりしてて……」

 少しばかりの、無理が隠せない(過度な力を、使い続けた)
 自我がぼやけているような、ふわふわした声。
 普段なら可愛いものかもしれないが、状況が状況だ。

「……いーりすの声なら、分かる。
 この状態になったから……ラボにいって……それから……
 この薬を差し込んで……操作の方法、おしえて。」

 タイムマシンから出て、背後から、何かが壊れる音がした。
 振り向いている暇は、あんまりない。

バーチャル・イーリス > 「エルピスさん……! 過去で凄く……頑張られたのですね……。お疲れ様です……。そのお姿は私……? それが私を継いだ姿なのですね」

タイムマシン内部の小型カメラから、エルピスさんは、イーリスとそっくりな姿をしている。正確には、エルピスさんとイーリスを混ぜ合わせたかのような姿だ。
エルピスさんと自分が混ざり合った姿を見るのはなんだか不思議な気分。

十年前で、エルピスさんは相当過酷な使命を果たした。
あまりに過酷だったのだろう……。満身創痍だ……。

(自我が安定していないのでしょう……? エルピスさんは凄く頑張りました……。今は休んでくださいと言ってあげたいです……)

だけどそれは出来ない。
イーリスの余命がもう迫っている故。
もしイーリスが亡くなれば、エルピスさんの苦労は水の泡……。

エルピスさんが柱時計型タイムマシンから降りた瞬間、十年を往復したその負荷に耐えきれず、煙をあげた後パーツがどんどん外れていき、そしてがしゃっと破裂するようにして柱時計型の原型から崩れて壊れてしまった。
タイムマシンが壊れた事に一瞬驚くも、元々試作段階でテストもなしに使ったもの。むしろ、エルピスさんがを十年往復させてくれた後で壊れてくれたならよかっただろう。もしエルピスさんを過去に残して壊れてしまっていたならばと思うとぞっとする。

「分かりました。キメちゃんが、エルピスさんをラボの私が治療している場所まで乗せていってくださいます」

キメちゃん狼「わううううぅぅ」 キメちゃん狐「コンコン!!」

キメラ型メカのキメちゃんがエルピスさんをゆっくり背中に乗せるよう誘導。

「ゆっくり乗ってください。そこにキメちゃんがいますからね。キメちゃん、ゆっくりラボまでエルピスさんを乗せていくのですよ」

そうしてキメちゃんがエルピスさんを背中に乗せる。
エレベーターで地下三階の医療ラボへ。
イーリスが治療しているカプセル型医療機器までやってくる。
カプセル型医療機器はちょうど、イーリスの命の危機を知らせる警告音が鳴っている最中だった。

医療ラボにあるモニターの一つに、バーチャル・イーリスが映る。
そうしてイーリスはエルピスさんに操作方法を指示したり、自我がぼやけているエルピスさんをキメちゃん経由で物理的に助けたりした。
やがてカプセル型医療機器に《科学配合エリクサーエキス完成品》を注ぐ事ができた。
カプセル型医療機器が示すイーリスの容態がみるみる内によくなり、警告音も鳴りやむ。

「やりました……! 間に合いました。あなたのお陰で、私は生きながらえる事ができます。本当にありがとうございます……。本当に……私、ひぐ……まだ生きていけるのです……。あなたと一緒に生きられます……」

モニターに映るイーリスは涙を溢れさせていた。
エルピスさんのお陰で、イーリスは生き続けていられる。
過去までいって、自我がぼやけるまでに疲れ果ててまで《科学配合エリクサーエキス》を完成させて持ち帰ったエルピスさんに、イーリスはいっぱい感謝した。

『虹の奇蹟』エルピス >    
 
 《想いを継いで》
 《囚う心》
 
 そして、そもそもの彼の感受性。
 誰かのものを借り続けていたせいで、自我が安定しない。
 複数のものをひとつで演算し続ける無茶とも言い換えられなくもない。

 だからこそ正義のロボットさんとして過去に行けたのかもしれない、なんてことも考えた。
 なにものでもなくなれるから、一往復がゆるされた。ぼんやりしたあたまで、単なる偶然を紐づける。

 万能にも見えるポテンシャルを発揮したのは、彼の根気とイーリスへの愛情。
 そして、正義のロボットさんを願う無垢なる感情
 
 本来は万能に程遠い力を、使い続けて万能にさせた。
 故に代償としての負荷が大きい、辛うじて意思疎通が出来るのが、奇跡に近い。
 自分が誰かすら分からなくなりかけている。
 
「うん……ありがとう。」

 キメちゃん達の背中に乗って、僅かばかりでも意識を休める。
 渦巻いている感情の一押しもあり、ほんの少し回復する。
 これが平和な日常なら、姉か妹のような、微笑ましいものだったかもしれない。

「だいじょうぶ……だよ……」

 キメちゃん達の保護と、イーリスの指示に従い、《科学配合エリクサーエキス完成品》を差し込み注ぐ。
 ……注入に成功して、状態か急速に回復に向かったところで、緊張の糸が途切れた。

「……うん……うん……また、あそびに……いこうね」
  
 声が聞こえる。姿が見える。大好きな人の声が聞こえる。
 だからぼんやり、こたえた。 

バーチャル・イーリス > 正義のロボットさんを願う無垢なる感情は、現在でも存在した。

ぎりぎりで意識を保ち続けるエルピスさん。
本当は休ませてあげたい。だが、無事に《科学配合エリクサーエキス完成品》をカプセル型医療機器に注ぐまでは、イーリスは緊張感を保ち、エルピスさんに指示し続けた。

そして、《科学配合エリクサーエキス完成品》が医療機器に注がれ、イーリスの存命が叶った。

「エルピスさん……それ程傷ついて……。私のために……。ありがとうございました……。はい……! いっぱい遊びにいきましょうね! 今は……おやすみなさいませ……エルピスさん……」

キメちゃんがエルピスさんを医療ラボのベッドまで乗せていこうとする。
そして、キメちゃんは四足歩行ながらなんとかエルピスさんをベッドに寝かせた。

今は、エルピスさんにゆっくり休んでほしい。
エルピスさんは、いっぱいいっぱい辛い想いして……いっぱいいっぱい頑張った……。
だからその分、エルピスさんがいっぱいいっぱい──。

(──幸せでありますように)

縲手匯縺ョ螂?ケ溘?上お繝ォ繝斐せ >  キメちゃんにより、ベッドの上へ乗せられる。
 声に反応して、虚ろな瞳に微かな光を宿して声のする方を向く。

「うん。ちょっとだけ休むね……すぐ、良くなると思うから。
 そしたら、また、。」

 もう、身体が動かない。じぶんがじぶんでいいのか、分からなくなる。
 限界を迎えた。だけど、やさしい声が何とか僕を繋ぎ留めてくれる。

 だから、安心して休める。

エルピス・シズメ >  
 
 
「おやすみ……いーりす。
 起きたら……しあわせに、なろうね。」
 

 ……安心して、ひと時の幸せな眠りを得る事ができた。
 
 
 

ご案内:「【10年前】常世島 タイムマシンで過去へ」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「【10年前】常世島 タイムマシンで過去へ」からイーリス(4歳)さんが去りました。
ご案内:「『数ある事務所』地下の医療ラボ」にバーチャル・イーリスさんが現れました。
ご案内:「『数ある事務所』地下の医療ラボ」にエルピス・シズメさんが現れました。
バーチャル・イーリス > エルピスさんが現在に帰って丸一日。
『数ある事務所』の地下三階。

今もイーリスの体は、カプセル型医療機器で治療を行っていた。
エルピスさんが過去で凄く頑張ってくださったお陰で《科学配合エリクサーエキス》が完成した。
それにより、イーリスの命が助かった。

ラボにあるモニターの一つに、バーチャル空間にいるイーリスが映っている。
命はひとまず取り留めたが、懸念事項は複数……。

イーリスの体とメカニカル・サイキッカーの修復……。
破損が酷すぎてかなりの難題……。

そして、エルピスさんの自我……。
十年前で相当な無茶をしたのだろう……。
エルピスさんの自我が不安定になっている……。

「エルピスさん……」

ラボにあるカメラ越しに、今も医療室のベッドで眠るエルピスさんを心配げに眺めている。

『虹の奇蹟』 >  
 エルピスは眠り続けている。
 身体的には癒えている筈だ。

 ……だが、精神と自我が擦り切れている。
 それは、アルターエゴサイキッカーとしての強力な異邦覚醒異能(エグゾ・サイキック)ではない。
 それは、時空移動の反動でもなく、戦闘による負傷でもない。

 長期に渡る異能による、オーバーライド(継いだものの再現)
 そこに精神的な緊張と負荷が重なって、自我が壊れた。

 簡単に言えば、頑張りすぎて擦り切れた。
 喪失はしてないが、自我データが破損している。
 それでも、彼は……眼を覚まそうとする。

 「おはよう。いーりす……げんきに、なった?」
 

バーチャル・イーリス > エルピスさんが現在に帰還した後も、最後の力を振り絞ってカプセル型医療機器に《科学配合エリクサーエキス完成品》を注いでくれた。
もうエルピスさんが眠って丸一日。
人型メカ《ジャンク・アーミー》の一機を起動させて、エルピスさんの診断及び治療は行った。いかんせん、助手として造ったメカニカル・サイキッカーよりは、助手としての用途を想定してない分不便な《ジャンク・アーミー》だが、バーチャルな存在が現実に干渉するにはメカを介する必要がある。メカニカル・サイキッカーは今酷い損傷状態なのだ。

エルピスさんの症状は、表面的な治療ではどうにもならない。
ずっと、エルピスさんの様子を電脳空間から見守っていた。

エルピスさんが過去に行きそれを待つ時間も長く感じられた。そしてエルピスさんが眠るこの一日もまたとても長いように思えた……。
無事にエルピスさんは目を覚ましてくれるだろうか、そんな不安がイーリスを襲った。

永遠とも思える長い時間。それは一日の出来事。
やがて、エルピスさんが目を覚ました。

「エルピスさん……! おはようございます……! あなたのお陰で、私、元気になりました! ありがとうございます! エルピスさん……気分の方はどうですか……? 何か気持ちがぼんやりとしていたりなどはございませんか……?」

モニターに映るイーリスは、エルピスさんが目を覚ました事で表情を明るくするが、すぐまた心配げな表情に戻った。
自我は未だ安定していないと思われるエルピスさん……。
むしろ、自我の破損状態はかなり酷そうだ……。

『虹の奇蹟』 >   
「いーりす、おはよう。……げんきに、なった?」

 壊れた機械のように繰り返す。
 その後、数十秒の思考を経て……。

「ん……いーりすが元気になってよかった。
 みんなの……おかげ。感謝しなきゃ、ね。ファミマ様はどうなった……?
 じゃなくて、フェニーチェ……ちがう、クロノス……ううん……
 ワイルドハントは過ぎて……ちがう……。」

 明確な記憶の混濁。
 自らの意志で正そうとしているが、少々苦しそうだ。

「それで、そうだ。……いーりすの、保護……
 内部パーツをもってくるよ。パンドラコア、付けても大丈夫?」

 ふらふらしながら、イーリスの部品を探そうとする。
 

バーチャル・イーリス > 繰り返される挨拶にイーリスは目を見開き、絶句してショックを受ける。

「エル……ピス……さん……」

モニターに映るイーリスの双眸から涙が頬をつたって零れてしまう。
エルピスさんの自我が壊れていて、それはイーリスがエルピスさんに無茶させてしまったから……。
その自我の損傷は、もはや一日休むという程度で全然どうにもならない……。
罪悪感が募っていく……。

エルピスさんは数十秒もどこか茫然としていた。
その後に発したエルピスさんの言葉は要領の得ないものだった。

「エルピスさん……。どうすれば……。リビド先生にご相談した方がいいでしょうか……」

エルピスさんは、イーリスの部品を探し始める。
イーリスを継いだエルピスさんなので、正確な場所を探せているかもしれない。

「パンドラコアにつける装置……。《恋囚う乙女心》の事でございますか……!? 私を継いでいますからね、それについても把握しているのですね」

《恋囚う乙女心》。エルピスさんの《囚う心》を参考に造られた、《パンドラ・コアMk-Ⅱ》に組み込むための機能及び装置。
《恋囚う乙女心》を使えば、エルピスさんの自我が回復する可能性はある。さらに、イーリスの体を修復できる。それ単体では何の意味もないけど、エルピスさんの補助があってやっと機能する装置。
だが《恋囚う乙女心》は、正常に機能するかまだ試していない代物。それにイーリスを継いだ状態とは言え、今の自我が損壊しているエルピスさんで《恋囚う乙女心》をイーリスの《パンドラ・コアMk-Ⅱ》に装着した上で正常に扱えるだろうか……。

(エルピスさんの自我を取り戻すために……やるしかないですよね……。私がしっかりサポートすれば出来るかもしれないです)

「お願いします、エルピスさん。《パンドラ・コアMk-Ⅱ》内部機能の《恋囚う乙女心》は、エルピスさんが今探している棚の奥の方にあります」

やがてエルピスさんが見つけ出すであろう装置は、ハート型の機械。《パンドラ・コアMk-Ⅱ》に搭載するものなので、それよりも大分小さいもの。

「私の体をカプセル型医療機器から手術台に運びまして、手術で一旦《パンドラ・コアMk-Ⅱ》を摘出。《恋囚う乙女心》を《パンドラ・コアMk-Ⅱ》の内部に装着した後、《パンドラ・コアMk-Ⅱ》を私の体内の元の位置に戻すという作業になります。《パンドラ・コアMk-Ⅱ》は私の心臓近くにあります。もし摘出に失敗して心臓を傷つけた場合は大惨事です……。気を付けてくださればと思います……」

イーリスがメカニカル・サイキッカーを使ってやる分にはリスクはあまりない作業。
だが、イーリスの意思を継いだとは言え、エルピスさんにとっては初めてのオペになる……。
注意点を述べた。

『虹の奇蹟』 >  
「………そう、だっけ……?
 じゃあ、ご飯を作るね……あ、古戦場から……逃げないと……」

 それは既に付いている。
 出発前の電脳空間で、それが励起して彼女の余命を延ばした。
 
 いつかの記憶と混同しているのか、要領を得ない。
 ────ひとつの言葉を聞くまでは。

「《恋囚う乙女心》……?」

 散らばった記憶を辿る。
 あったような、なかったような。
 聞いたとしたら最近だけど、記憶が引き出せない。

 イーリスが何かを開発していたのは、覚えている。
 でも、どの自分でも成果物の囚う心については、聞かされていなかった

『虹の奇蹟』エルピス >  
 だからたぶん、最近まで表に出てこなかった開発品。
 ……きっと、秘密に、大切に作ってくれたんだと思う。
 その事実で、少しだけ意識がはっきり、してきた。

「……ん、わかった。」

 棚の奥を、丁寧に開ける。
 ハート型の機械。どことなく、やさしいものを感じる。
 
 イーリスの身体をカプセルから取り出して、手術台まで運んで、
 丁寧に手術台に乗せてイーリスの記憶を頼りに手術の支度を整える。

(虹の奇蹟なら、大丈夫。)

「────まかせて。」

 手術を開始する。
 そこに混濁した意識はなく、『虹の奇蹟』と『便利屋』の両面から改造手術を行う。
 混濁してるから、両方使える。都合が良い。

 ────的確な手術によって、《パンドラ・コアMk-Ⅱ》を摘出。
 《恋囚う乙女心》を内部に装着した後、《パンドラ・コアMk-Ⅱ》を私の体内の元の位置に戻す。

 一つの互いも無く、オペを終える。
 暫くして、イーリスが落ち着いた辺りでこう告げる。

「がんばったよ、ほめてほしいな。」

バーチャル・イーリス > 「ご飯は……赫さんに任せましょう。ここは古戦場ではないですよ」

ちゃんとエルピスさんのサポートして《恋囚う乙女心》を扱えるところまで導けるだろうか、と少し不安が募った。

「《恋囚う乙女心》とは私が開発した、《パンドラ・コアMk-Ⅱ》に一度は搭載しようとしたけど断念した装置ですね」

《虹の奇蹟》としてのエルピスさんの記憶を呼び覚ましやすいよう意識して、《恋囚う乙女心》についてどういった経緯を辿ったのかを軽く説明した。
だが、《恋囚う乙女心》が造られたのはつい最近の事……。
そして、《恋囚う乙女心》については誰にも言っていない事で、表に出していない。
開発されてから保管されていたものだ。

エルピスさんの雰囲気が変わった。
とても頼もしい雰囲気に──。
イーリスの瞳が希望に輝いたりもした。

エルピスさんはイーリスの体をカプセルから手術台へ。
そして施術を開始した。
あざやかな手術で《パンドラ・コアMk-Ⅱ》が摘出され、《恋囚う乙女心》が装着される。
《パンドラ・コアMk-Ⅱ》も元の位置に戻され、手術を終えた。

その手際は、イーリスだけのものではなく、おそらく『故エルピス』さんのものも含まれていたのだろう。
カメラ越しに見ていたバーチャルのイーリスは、にこっと笑みを浮かべた。

「ありがとうございます! 見事ですよ、エルピスさん! エルピスさんのお陰で無事に《恋囚う乙女心》を私の体に搭載できました! エルピスさん、えらいです!」

モニターに映るイーリスは、ぱちぱちとエルピスさんを褒めたたえていた。
自我が壊れて、子供のような印象の精神になっているエルピスさん。イーリスは、子供を相手するような感じで褒めている。

「エルピスさん、続けてお願いがあります。私は自分の体に戻ります。その後に、その……ですね……。私を抱きしめて……『好き』って、言ってください……」

そう口にした後、モニターからイーリスの姿が消える。
そしてイーリスの自我は、数日ぶりに自らの体に戻る。体内コンピューターの電脳空間内にはいたけど、自分の体に直接戻るのは、マリアさんに敗れて以来だった。

Dr.イーリス > 「う……ぐぐっ…………。あああぁぐ…………」

自身の体の酷い損傷。その苦痛により、意識すら飛びそうになる。
だがなんとか耐えて、エルピスさんを見上げる。

「えるぴす……さん……。あなたの事……愛して……ます……」

そう口にして、四肢で唯一生き残った右腕をエルピスさんに伸ばした。

『虹の奇蹟』エルピス >  
「ありがとう、いーりす────意識がはっきりしてきた。
 ここはロゥリスの古戦場でもない。ごめんね、ぼんやりしてて。」

 手術を終え、意識が覚醒する。自我を寄せ集める。
 霧渓谷を彷徨っていた自分は居ない、やるべきことを意識する。

「分かった、大丈夫。抱きしめるよ。それで、ちゃんと言うね────」

 イーリスの自我は、モニターから現実へ。
 ただ、死の淵から起き上がったばかりのイーリスだ。

 壊れそうな自我は三度、覚醒した。
 苦しそうなイーリスを抱き上げて、耳元に口を寄せて、やさしく囁く。
 

 

エルピス・シズメ >  

  「大好き。愛してる。愛し続ける。」
  「時には大変なことも、一緒に悩むこともいっぱいあると思う。」

  「一緒に居られないことも、助けが遅れることもあると思う。」  
  「ちょっとしたことから、喧嘩しちゃうこともあるかもだけど、それでも大好きで、仲直りできる。」

  「だから。大好き。────ずっと愛してるし、愛し続ける。」
  「大好きだよ。イーリス。何度も言っちゃうけど、愛してる。」
  「何度でも言うし、何度でも助けるし、何度でも支える。」

 

バーチャル・イーリス > 「ロゥリスの古戦場……」

何を表しているのか、少し考えてみるけど分からない……。
フェニーチェやクロノス、ワイルドハント、フェミマ様も含めてエルピスさんの自我が混雑している事によるものだろうか……。
ちなみにフェミマ様とワイルドハントについてはイーリスは何の事か把握しているけど、フェニーチェとクロノスに関しては分からない。

「ぼんやりしているのは、エルピスさんが疲れているからです。私がエルピスさんに、辛い頼み事をしてしまいましたからね……。だから、謝らなくて大丈夫でございますよ。むしろ、私の方こそ無茶な事をお願いしてごめんなさい」

Dr.イーリス > そうしてイーリスは自分の体に戻り。

体の半分以上が壊れたイーリス。
その苦痛は酷いものだったけど、エルピスさんが耳元で囁いてくださった愛の言葉により、その苦痛をも忘れてしまうような幸福感に包まれる。
その言葉が嬉しくて、痛みなんて吹き飛びそうな程幸せで。
壊れた体。だが頬と、そして耳まで赤く染まる。

Dr.イーリス > 「える……ぴす……さん…………。えへ。わた……し……も……えるぴす……さん……すき……。これから……も……ずっと……いっしょ……に……いて……ください……」
Dr.イーリス > 左側の目はない。だが右目から涙の雫が頬を伝って零れ、そして満面の笑みを浮かべた。
すると先程、エルピスさんがイーリスから取り出し、《恋囚う乙女心》を装着して元の位置に戻した《パンドラ・コアMk-Ⅱ》が桃色に輝く。
その輝きはイーリスの体から溢れ出て、辺りを眩い桃色で照らす。
イーリスのエルピスさんへの愛情が、《パンドラ・コアMk-Ⅱ》でエネルギーに変えられていた。

その桃色の輝きが、エルピスさんの方へと流れ込んでいく。
イーリスは右手で緩慢に、エルピスさんの右手を掴んで自身の胸部、桃色に輝く《パンドラ・コアMk-Ⅱ》のある部分に触れるようもっていく。

「えるぴす……さん……。あなたの……つぐ……のうりょく……ここに……はつどう……してみてください……」

『虹の奇蹟』エルピス >   
 痛々しくも、それでも喜んでくれることが分かる。
 ここまでしてくれて、しあってくれて。凄く嬉しい。

「うん──分かった。想いを、継ぐね。」
「……いーりす、一緒に継ぎ合おう」

 虹の奇蹟としての自身の維持。
 その状態で、想いを継ぐ能力を行使する(ちょっと大変な、応用技。)

 二重起動はちょっとだけ大変だけど、イーリスのためなら頑張れる。
 継ぎ合う指向性を、すべてイーリスに向ける。

「想いを継いで。想いを継ぎ合って、がんばろ。」

 この気持ちは僕の気持ちだ。
 何に由来していようと、この力は僕のもの。

 確かな確信をもって行使し───暖かな右手を掴んでイーリスの胸部、
 桃色に輝く《パンドラ・コアMk-Ⅱ》へと向けて、合わせる。