2024/09/08 のログ
■Dr.イーリス > イーリスのエルピスさんを想う気持ちにより《パンドラ・コアMk-Ⅱ》から膨大に溢れ出るエネルギーがエルピスさんの《感情魔力混合炉》を通じて流れている。
「おねがい……します……」
エルピスさんには、《囚う心》の真相について話していないが、
《恋囚う乙女心》は、エルピスさんの《囚う心》がモデルになっている。
エルピスさんが想いを継ぎやすくなっている。
「……つぎあい……ましょう……。あな……た……と……わた……し……で」
苦し気に口にしているが、どこか幸せそうな表情でもあった。
エルピスさんがイーリスの胸部に触れ、そして継ぎ合った。
「……えるぴす……さん……!」
《恋囚う乙女心》は、それ単体では何の意味もない機能でしかない。
だがエルピスさんと想いを継ぎ合えば、《恋囚う乙女心》が可動する。
イーリスのエルピスさんへの想いにより生まれたエネルギー、それがエルピスさんへと流れていく。
そして流れていくものの中に、エルピスさんとイーリスの想い出の記憶があった。
イーリスの想い出、その記憶データがエルピスさんの自我を元の姿へと戻そうとしている。
(まだ試した事がない、エルピスさんの自我を安定させる方法……。《恋囚う乙女心》、エルピスさんを救ってあげてください……)
■エルピス・シズメ >
「いー、りす……!」
虹の奇蹟が持つ、感情魔力混合炉が励起する。
虹の奇蹟が持つ《感情魔力混合炉》は、虹の奇蹟としての身体能力に引っ張られている為、多少出力が落ちる。
反面、安定性は高い。
《パンドラ・コアMk-Ⅱ》を通じて継がれる膨大な出力を受け止め、込められた想いを継いで響かせる。
優しく響き合う力が、余熱で暖かな空気を作る。
相互に補完し合い、《恋囚う乙女心》を稼働させる。
…そして、その機能を保管する異能が、彼に産まれつつある。
だが、それを、彼の自我の補完を、妨げるものがある。
壊れた自我で詰まった輻輳。
想いの断片にして、壊れたデータ群。彼の致命的な欠けの証。
このままにしておいてはいけないもの。
彼自身にも、自覚がある。
「……ちょっとだけ、意識を落としたい。
あとひとき、ぼくのメンテナンス、お願いしてもいい、かな。」
継ぎ合う最中、欠けたエルピスの自我の断片が流れ込む。
彼には14歳から前の記憶は存在しないけれど、それでもいろいろな記憶がある。
散らばった無数の水晶。
多くは、修復の出来ない自我の断片。
巫女の似姿を、輪郭として捉える事も出来る。
そのイマージュ群が、データとしてイーリスの思考に流れ込む。
仮想にして空想。その断片群は、一つのヴァーチャルでもある。
「だいじょうぶなら、いーりすに委ねる……ね。」
このまま彼の記憶領域に入り込んでも良いし、電脳空間に戻って万全を期しても良い。
いずれにせよ、彼はイーリスに託した。
■Dr.イーリス > 「えるぴすさん……」
エルピスさんとイーリスが継ぎ合う。
《恋囚う乙女心》は無事に稼働した。
「ゆっくり……おやすみなさい……ませ……。おまかせ……くださ……い……」
イーリスは、目を細めて微笑んだ。
イーリスに、エルピスさんが有する記憶の断片がデータとして流れ込んでいく。
その断片は、一つのヴァーチャル空間でもあった。
委ねる、イーリスは彼の言葉に頷く。
「あなたのこと……かならず……おたすけ……します……」
そうして現実のイーリスは目を閉じ、意識を失った。
意識を失った理由は、現実の体から出てバーチャルの存在となり、エルピスさんの記憶領域にアクセスしたからだ。
ご案内:「『数ある事務所』地下の医療ラボ」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「『数ある事務所』地下の医療ラボ」からバーチャル・イーリスさんが去りました。
ご案内:「エルピスの記憶領域 / 想いを継いで」にエルピス・シズメさんが現れました。
ご案内:「エルピスの記憶領域 / 想いを継いで」にバーチャル・イーリスさんが現れました。
■過日の巫女 > 始めに見えるのは、水晶で彩られた湖。
散らばった彼の自我や想い出を示すように、欠けた水晶が舞っている。
メモリを読むと 【エンナイラムユリマフ殿神】とおかしな表記。
そして、どこかで見た青と白の巫女の似姿。
『────久しぶりですね。祈りが届けば、あの死の壁を壊せます。』
『あの死の壁が壊れるイメージを、強く抱いてください。』
『死を壊し、封印を乗り越える。そのイマージュが、希望への道を拓きます。』
湖の向こう。
『死』をイメージさせる空間と、真っ黒な水晶が道を塞いでる。
壊れた自我データが輻輳となり、死のイマージュとして道を塞いでいる。
今のイーリスなら、それが壊せるものであることを自覚出来るかもしれない。
祈りは届くと、覚えているのなら。
■バーチャル・イーリス > 光子が集まり、イーリスの姿を象っていく。
イーリスは肉体から再びバーチャル空間へと舞い戻ってきた。
自我が電子化されているイーリスにとって、現実でもバーチャルでも、両方変わらずイーリス自身。
目を開けると、そこは水晶で彩られた湖。
「この水晶は……」
舞っている水晶のメモリを読み込んでみる。
「エンナイラムユリマフ殿神……」
現れたのは、イーリスも会った事がある人物。
「あなたはファミマ様の巫女さん! お久しぶりです。元の世界に帰られたはずでは……。いえ、エルピスさんの記憶領域ですからね」
エルピスさんの記憶にあるものならこの領域で復元みたいな事ができる、みたいな想像をした。
「死の壁……!? 確かに、死をイメージさせる禍々しいものを感じますね。祈りを捧げてみます」
壊せなくはなさそうだ。
イーリスは跪き、両手を組んで双眸を閉じ祈りを捧げる。
■バーチャル・イーリス > 「エルピスさんを……死の絶望になんて飲み込ませません。エルピスさんはとてもがんばったんです……。エルピスさんには、いっぱい……幸せになってほしいんです……。エルピスさんに……救いあらんこと……。光あらんこと……」
■バーチャル・イーリス > 強く、強く願った。
エルピスさんはイーリスのために命懸けで頑張ってくれた。だから今度はイーリスがエルピスさんを命懸けで救う。
祈りによりイーリスから光が発せられ、その光が死の壁へと向かっていく。
■過日の巫女? >
──強い祈りが光となり、イーリスの想起する神々を映し出します。
それは破壊の神であったり、太陽のような神であったり、様々です。
イーリスが祈りを捧げたことのある神々のすべてが映し出されます。
それらは本物ではないかもしれませんが、力を合わせて死の壁を壊します。
それを見た巫女の似姿は、こう言います。
……実の所、それは巫女の似姿でありませんでした。
もしかしたら、気付けるかもしれません。
いずれにせよ、死の壁が破壊された先には光があり、道があります。
その光景を見て、巫女の似姿はこう告げます。
『最奥に行けば、彼の自我の核があります。
そこにある彼と、貴方の想い出を繋げば、想い出からデータを……
……いえ、貴方たちの想い出が欠落を埋めてくれます。』
野暮な言葉を、やさしい言葉に言い換えて告げます。
それは、このものの配慮だったのかもしれません。
『善き旅路を────なの。
わるものからの、奇跡と──スコーンのお礼なの。』
巫女らしくない語り口を最後に、消えました。
光の道の傍にある大きな看板のメモリには、『ベテルギ.ス』。
オリオン座の先の星の名前が、記されています。
■バーチャル・イーリス > イーリスの義母はシスター・ヒガサ。つまり修道女だ。
イーリスの無垢な祈り、それよって、神々が君臨する。
祈りを捧げた事がある神々。
破壊神であり、親しき神様である蒼先生。
さらに、湧梧さんから借りた剣、それに纏わる神々の姿もあった。
《不落ナル太陽》の太陽神、フレイ、ラー、アポロン、ヘリオス、ルー、八咫烏、スーリヤなどなど。
《加牟豆美之刀》に加護を授けているオオカムヅミ。
《羅睺・日喰月呑》の素材となっているインド神話のアスラのラーフ。またラーフの首を落とした維持神ヴィシュヌ。
《 甕布都神 》を武器にした神武天皇、神名神日本磐余彦。
人造神として尊敬してしまいそれが祈りに繋がった、リビド先生。
海底神殿に祀られしファミリー・マリア様。ファミマ様。
イーリスの義母、シスター・ヒガサの信仰はキリスト教系なので、ヤハウェ。また数々の天使。
他様々な神々が出現した。
「蒼先生! リビド先生! 色んな神様!」
豪華な神々オールスターズ、ラグナロクとかハルマゲドン起こりそうである。
本物ではないだろう……。本物だったら色々凄いことになる……。
ともかくそれらの神々は力を合わせて、死の壁を破壊した。
「エルピスさんの自我の核、この先にあるのですね。ありがとうございます! 私、エルピスさんを助けに行ってきますね!」
そう口にして巫女さんに微笑んだ。
「み、巫女さん……!? スコーン……?」
きょとんとした。巫女さんが記憶からの復元だとは予想しているけど、エルピスさんの別の記憶と巫女さんが混ざってしまったのだろうか。
ともあれイーリスは地面を蹴って、光の道へと飛び立つ。
バーチャルのイーリスは、バーチャルの中ならとても自在な動きができる。
イーリスは光の道の傍にある大きな看板に軽く触れた。
「ペテルギス……。えっと、ペテルギウスの事でしょうか。オリオン座……」
イーリスが思い出すのは、十年前に出会った正義のロボットさん。
あの時、おりおんざとはどのようなものか分からなかったけど、今は知識が増えて分かる。
「正義のロボットさんが見守ってくださってます。私、頑張らないとです」
にこっと笑って、高速で飛行しながら進んでいく。
■『アルターエゴ・サイキッカー』 >
圧倒的な神々の似姿に、だらしなく口を開いた巫女の似姿がありました。
イーリスに縁のある神々は、想像以上に多かったのです。
この巫女の似姿も、「想定外なの」と言葉を零していました。
そうして、次のメモリへ進みます。
懐かしき空気の、スラム街。
いまではなく、過去のスラム街の記憶です。
そこにいるのは、仄かに雰囲気の違う、全身義体のエルピスです。
それはイーリスを認めた直後、アルターエゴ・サイキッカーへと変化しました。
正義の、ロボットさんです。
「……嘘ついちゃって、ごめんね。痛い思いさせて、ごめんね。
信じさせちゃって……そばに居てあげられなくて、ごめんね。」
最も新しく、古い記憶。
彼が纏った正義の名残と、彼が過ちと感じたすべてへの悔悟。
今にも消えそうですが、それは確かに『アルターエゴ・サイキッカー』のデータです。
イーリスならば、このデータを想い出と共に回収する事は容易いでしょう。
……また、スラムの先には大穴があります。奈落の穴です。
棺のような形の看板が建てられ、【Pandora】と記されています。
……この領域は、比較的安定しています。
ここでは、急がなくてもよさそうです。
■バーチャル・イーリス > 超自我さんも想定外な神々により死の壁突破。
そうして突き進むと、スラム街にやってくる。
「スラム街……にしては違和感です。昔のスラム……ですね。懐かしいものいっぱいあります!」
イーリスに覚えがある、今はないけど昔はあった建物やお店の数々。
まるで昔にタイムスリップしたかのような感覚だ。
ただ、こうして昔のスラムの空を飛んだ事は、あの時であった正義のロボットさんの背中に乗った時しかない。
バーチャルのとは言え、今こうして自分で空を飛んで見おろしているのは感慨深くも感じる。
「エルピスさん……!」
エルピスさんを見つけて、スラムの地面に足をつける。
ここはエルピスさんの記憶領域なので、本人がいても不思議ではない……。
だが、昔のスラムにエルピスさんという組み合わせに違和感である。
エルピスさんが変化していく。
「え……?」
なんと、その変化した姿は、十年間イーリスが憧れて、想い続けて、待ち続けていた、正義のロボットさん。
イーリスは双眸を見開いた。
「正義の……ロボットさん……」
再会を喜ぶ、というよりイーリスの頭がこんがらがっていた。
ここはエルピスさんの記憶領域。記憶により再現された正義のロボットさんであると認識した。
イーリスを継いだエルピスさんの記憶領域に、イーリスの記憶が混ざっていてもおかしくはないだろう。
昔のスラムに正義のロボットさん、これはイーリスの記憶なのだと判断してしまう。
「私は……正義のロボットさんがエルピスさんだったらよかったと……深層心理で望んでいたという事でしょうか……」
そう思考して、自己嫌悪に陥り動揺してしまう。
正義のロボットさんがエルピスさんだったらよかった、そう深層心理で望んでいたから、この懐かしき昔のスラムで、エルピスさんが正義のロボットさんに変身した……。
(ずっと待ち続けていた正義のロボットさんを、深層心理では今の想い人で上書きしてしまおうとしていたなんて……私、最低ではないですか……)
ふらついてしまうも、イーリスは体勢を整える。
「正義のロボットさん…………! 私こそごめんなさいです……! 私……あなたが見守ってくださってるから、あなたと再会する日を夢見るって頑張るって、そう誓ったのに……! ううぅ、うわあああぁぁぁん!!!」
イーリスはまるであの頃に、4歳に戻ったかのようだった。
正義のロボットさんに抱き着いて、そして声をあげて泣いてしまう。
眼前の正義のロボットさんは記憶により再現されたもの、そう認識しつつも、罪悪感で負い潰されそうになって、無邪気に泣いていた。
今はデータを想い出と共に回収するとか、そんな場合ではない状態だった。
■アルターエゴ・サイキッカー >
『……泣かれるなんて思わなかったな……』
消え入りそうなアルターエゴ・サイキッカーは、
困った顔でしゃがみこんでイーリスの頭を撫でます。
『僕は正義のロボットさんだよ。
アルターエゴ・サイキッカーは、アルターエゴ・サイキッカーだ。
星の彼方からやってきた、異邦のロボットさんだ。』
優しい嘘を、伝え続けます。
『少なくとも、本物はそう。……アルターエゴと、エゴは別物。
強いて言うなら……メカニカルサイキッカーの、親……なのかな。』
アルターエゴ・サイキッカーは、メカニカルサイキッカーの現身です。
なのでエルピス本人ではないというのは、ギリギリ嘘じゃありません。
あの時に居たものが、どうかは別ですが────。
■バーチャル・イーリス > 正義のロボットさんに頭を撫でてくだされば、イーリスは幾分か落ち着いた。
「正義のロボットさん……。アルターエゴ・サイキッカーさん……? それが正義のロボットさんのお名前……」
どういう事だろう……。
アルターエゴ・サイキッカーなんてお名前知らない……。十年前のあの日、正義のロボットさんは名乗らなかったからだ。
さらにである、アルターエゴとは別人格を意味している。極めつけに、メカニカル・サイキッカーを思わせるアルターエゴ・サイキッカーというネーミング。
アルターエゴという単語もまた、イーリスの記憶にある知識だ。
つまり、正義のロボットさんがエルピスさんの別人格であると深層心理で思っている事の補強……。
加えて、イーリスのメカニカル・サイキッカーはそもそも正義のロボットさんがモデルなので、その正義のロボットさんがイーリスの記憶でアルターエゴ・サイキッカーと名乗る事に然程違和感はない。
かつての記憶を今の知識で補強している……。
子供の頃、「あれはなんだろう?」と疑問に思っていた記憶、成長した後に思い返してその答えを理解する、という事もあるだろう。そういった感覚に近い。
エルピスさんが正義のロボットさんだったらいいな、とは思うけど現実を考えればあまりに空想的。
現実的な思考となれば、エルピスさんが正義のロボットさんではないという前提となってしまう。
つまりは空想や夢想で無意識に、正義のロボットさんの存在をエルピスさんで上書きしようとしている、とイーリスは考えてしまっている。
そういった思考に至れるまでに、4歳の頃に比べてイーリスは成長してしまった……。
「本物は、そうですね……。今もオリオン座のお星様で私を見守ってくださっています。メカニカル・サイキッカーは、私があなたに憧れて、ずっと想い続けて造りました。メカニカル・サイキッカーは、あなたの子になりそうです」
イーリスが正義のロボットさんに憧れて想い続けた事から、メカニカル・サイキッカーが生まれた。
「私、あなたとの再会、いつまでも待ち続けています。ずっと、ずっと……。私、待っていますからね……」
エルピスさんが正義のロボットさんだったなら、どれだけ素敵な事だろう。
でもちゃんと現実を見なければいけない。
イーリスはもう一度、正義のロボットさんを抱きしめた。
すると正義のロボットさんは光子となって消え、イーリスに取り込まれていく事だろう。
ここにあるのはデータ。想い出のデータとして、イーリスに回収されたのだ。
涙を拭い、イーリスはスラムの屋根に上り、屋根と屋根を跳び移りながら移動して先に進む。
バーチャル空間のイーリスは身体能力も高い。
やがてスラムの先、奈落の穴に辿り着く。
「パンドラ……」
神妙な表情で看板を読み上げて、大穴の前に立った。
■エルピス・シズメ >
「ひとつだけ……ほんとを教えてあげる。」
「僕はお星さまから見守っているけれど、実は──アルターエゴ・サイキッカーは、誰でもなれるんだ。」
「次のアルターエゴ・サイキッカーは……キミかもしれないね。」
そんな不思議な言葉にアルターエゴ・サイキッカーはデータとして、
イーリスの中に吸収されていきました。
奈落の穴。
故エルピスの死した場所。
そのイメージが、ここにあります。
奈落の底を覗くと、霧の掛かった丘と、赤色の月と嵐の夜。
霧と嵐と明確に分かれた異界が広がっています。
そこで、4つの影がイーリスを待ち受けています。
■過日の巫女? > 「アルターエゴ・サイキッカー……あれはひとつの英雄の形なの。」
「ちょっと欲しいけれど、今は自重なの……流石にこれが壊れたら元も子もないの……」
■バーチャル・イーリス > 正義のロボットさんの激励に、イーリスはぱぁっと表情が明るくなって瞳を輝かせる。
「私も正義のロボットさんに……!」
しかしイーリスは、静かに首を横に振る。
「素敵だとは思いますが、私は救世主になんてなれなかったんです。私はあなたを待ち望んでいます。同時に、私にとってのヒーローはもう傍にいます。私はその素敵なヒーローを助けるためにここにいます」
憧れた、というニュアンスはイーリス自身が正義のロボットさんみたいになれたらという願いではなかった。
イーリスの傍にいてくれるヒーローに憧れた。
そうした憧れから、メカニカル・サイキッカーが生まれた。
そして、イーリスにとってのヒーローを助けるために、今頑張っている。
そのヒーローはイーリスを助けるためにいつも頑張ってくれている。何度も命を救われて。十年前に赴いてまで助けようとしてくれた。
正義のロボットさんが、イーリスの傍にいるヒーローならよかった、という夢や願望を深層心理で抱く事自体にイーリスは違和感を覚えていなかった。
正義のロボットさんのデータを手に入れ、そして奈落の穴に辿り着く。
奈落の穴を覗いてみる。
「どうやら異界に繋がっているようですね」
警戒はしつつも突入する。
突入して待ち構える影に、イーリスは視線を移した。
「……どなたですか?」
■継ぎ終えた自我達 >
死と悲哀を想起させるそれらの気象は、
イーリスが足を踏み入れた途端、ぴたりと止まります。
そしてそこには、4つのエルピスが居ます。
『公安のカーテン』のエルピス。『数ある便利屋』の故エルピス。
既に死んでしまったエルピス達です。
「僕は死んでしまったけれど、あの子は救われた。」
「……あの子のことを、宜しくね。」
死せるものは、言葉を遺します。
次にイーリスの言葉を聞き届けた時には、消えてしまうでしょう。
一言だけ、何かを告げることができます。
……崩壊は進んでいます。
次に、消えていないエルピスたちはこう告げます。
『ロッソルーナ・エミュレイタ』。
『ワイルドハント』エルピス。
「……どんな運命でも、イーリスが生きているなら、僕は良かったんだ。」
棺型の盾を携えたボロボロの少年は、イーリスを見てそう告げます。
奇跡でも魔法でもなんでも、このエルピスはイーリスの生を望み続けます。
「私は……エミュレイタは甘やかさん。」
「……こんな時でも試練を課す。ここを無傷かつ無損傷で、通り抜けろ。」
赤きものは、エルピスの原型を留めていません。
辛うじてエルピスと分かるような、曖昧な姿です。
そのものは、ちょっとした怒りと共に道を示します。
赤きものの名残、ロッソルーナによって道が示されました。
怪物の胃の中のような、異界の空間。その先に『Elpis』と銘された扉があります。
……ただし、その過程には時計模様の蝙蝠が犇めいています。
それらに噛み付かれれば、奈落の大穴に戻されます。
一撃でも受けたら、やり直さなければなりません。
「時間は無いぞ。適切に力を使え。決して使い過ぎるな。」
■バーチャル・イーリス > そこにいたのは四人のエルピスさん。
「エルピスさん……! 四人……。それに、その武装……」
公安エルピスさんの武装は見覚えのある大砲。だが細部が違う。
イーリスがエルピスさんに造った《試作型感情エネルギー砲》及びその改良版である《《試作型感情エネルギー砲》0.8α》にそっくりだ。
細部の違いから判断するに、似ているのはおそらく偶然。
「あなた達は、公安時代、便利屋時代のエルピスさんなのですね。私は、あなた達とお会いしたかったです。お墓参り、頻繁にしてます。エルピス・シズメさんは、私が幸せにします。どうか安らかに、お眠りください……」
双眸から涙の雫を零しながら故エルピスさん達にそう告げる。
そして二人が消える時には、イーリスは瞳を閉じて両手を組んで祈りを捧げた。
故エルピスさん二人とは初対面だった。
残る二人のエルピスさんには、イーリスも覚えがある。
エルピス・シズメさんのまた別の姿。
「私はあなたの幸せを望みますよ、エルピスさん。二人で幸せになる事を、望んでます」
ワイルドハントのエルピスさんに、微笑んだ。
《月輪の王》との決戦で共に戦ったエルピスさんの姿、それがワイルドハントだ。
そして最後のエルピスさん……。
辛うじてエルピスさんだと分かる姿。
「試練……。あなたは“殺害欲”でしたね、ロッソルーナ・エミュレイタ。そして我が、“娘”。エルピスさんと私の“子”。私の中にも、あなたはいた事がありますからね」
母が娘にするように、イーリスはロッソルーナ・エミュレイタに優しく微笑み、そして抱擁して優しく頭を撫でようとしている。
「あなたが消える間際、エルピスさんを救ってくださりありがとうございました」
そうして娘を開放する。
「ご忠告ありがとうございます。それではお母さんは、その試練とやらに行ってまいりますね」
娘の頭をぽんぽんと軽く撫でた後、イーリスは空中に飛んで時計模様の蝙蝠達に突っ込んでいく。
イーリスの前、虚空にモニターが出現。イーリスはそのモニターをタッチ操作し始める。
「私は電子の存在。バーチャル空間では、結構様々な事ができるのですよ」
イーリスの眼前に光子が集まり《試作型メカニカル・サイキッカーMkⅢ》を象っていく。
メカニカル・サイキッカーの右腕が巨大な大砲に変形し、そして蝙蝠達に一直線にレーザー光線がぶっ放された。
■ロッソルーナ・エミュレイタ >
死せるものたちは、そのまま満足そうに消えていきます。
残るは、生きるもの。
まだ、エルピスの無意志の内に潜むものです。
「……応援、してる。しなない、でね。
僕が出てくることが、ないように。」
ワイルドハント・エルピスは優しく見送ります。
……このものは、この場から動くことはありません。
殺害欲。娘であり、子と呼ばれたものです。
ぼやけた輪郭が、白色の姿を形成します。
「それはそれだ。……だからと言って手は抜けない。幸運を祈る」
娘と呼ばれたものは、撫でられるとちょっとだけ相応のこそばゆさを見せました。
言葉も少し選んだようで、母として認め、試練に向かうイーリスを見送ります。
この空間においては、イーリスの電子の強みを存分に発揮出来るものです。
顕われた《試作型メカニカル・サイキッカーMkⅢ》の腕が大砲に変化して、
強力なレーザー光線で蝙蝠群を一層すれば阻むものはなにもありません。
後は、その『Elpis』の扉を開くだけです。
開いたとすれば、真っ白な空間で、地面に転がってるエルピス・シズメがいます。
ベッドも、クリスタルも、なにもない空間で、独り、転がっています。
■バーチャル・イーリス > 「ありがとうございます。ふふ、死なないように、私も強くならなければですね」
ワイルドハントのエルピスさんには微笑みながらそう返して。
「幸運を祈ってくださり嬉しいですよ、ルーナちゃん」
ロッソルーナ・エミュレイタ。
娘の本名長いので、ルーナちゃんと呼んだ。
メカニカル・サイキッカーは、イーリスがデータとして所有しているものなので電脳空間で呼び出す事は容易。
そのメカニカル・サイキッカーのレーザー光線が蝙蝠達をやっつけた。
役目を終えたメカニカル・サイキッカーは光子となり、消え去っていく。
『Elpis』の扉へと一直線に向かい、そして扉を開けた。
「エルピスさん!!」
そこにエルピスさんがいると思ったのは、扉に『Elpis』と書かれている事から明白。
ようやく、記憶領域でエルピスさんを見つけた。
真っ白な空間。地面にいるエルピスさんへと駆け寄る。
「エルピスさん……! エルピスさん……!」
軽くさすって目を覚まさないか様子をみる。
■ルーナ >
「……。」
名前を貰うと、どこか気恥ずかしそうにするルーナがいました。
先ほどまでの気取った口調も、すこしなりをひそめます。
ルーナちゃんは、娘として母を見送りました。
■エルピス・シズメ >
そして、最奥。
……静かに眠っているエルピスがいます。
さする度に、ノイズが走りますが───何とか、眼を覚まします。
「……ぁ……え、と……」
エルピス・シズメ。
純粋な自我を守るものはなにもなく、虚ろな彼がそこにいます。
でも、なんとか、イーリスを認めました。だけど、苦しそうです。
「い、……たすけて……。」
損傷が激しくて、上手くイーリスの名前を呼ぶことが、できません。
音が出ない、自我が欠落してる。そのことを自覚しているのでしょう。
エルピス・シズメの自我は大粒の涙をこぼしながら、イーリスに助けを求めます。
■バーチャル・イーリス > エルピスさんは虚ろだった。
とても苦し気なエルピスさん……。
「……今、助けます……。エルピスさん……。あなたは、必ず、救います」
地面にぺたんと座るイーリスはエルピスさんを優しく起き上がらせて、ぎゅっ、抱擁した。
「あなたは凄く頑張りました……。だから次は、私が頑張る番です……」
ここはバーチャル空間。データの扱いは得意だ。
イーリスの中にあるエルピスさんとの想い出、それら記憶のデータを元にして、演算。
抱き締めて触れ合いながら、エルピスさんの自我、そしてこの記憶領域のエルピスさんを修復していく。
イーリスの演算、それによる負荷で一瞬イーリスの姿がブロックノイズのように歪むが、すぐに元に戻る。
「大丈夫ですからね……。あなたには、私がいます」
抱き締めながらの高度な情報処理。
自我を復元させる演算なので、イーリスに負荷がかかる。
現実世界の体内コンピューターが熱くなっている事だろう。
■エルピス・シズメ >
───ここからは、懸命な救出活動が始まります。
想い出による、データの演算による補完。
高度な情報処理。それらは現実世界のイーリスに負荷を与え、熱を齎すかもしれません。
ですが、少しずつ変わるものがあります。
このエルピスが、無意識ながらにイーリスに身体を寄せます。
そうして、直接想い出を補完し合うようになったことで、強い自我が一つの異能を産み出します。
《恋囚う乙女心》。
《パンドラ・コアMk-Ⅱ》。
《感情魔力混合炉》。
《虹の奇蹟》。
《想いを継いで》。
これらを前提とした、
《恋囚う乙女心》に対応する異能、⦅とくべつないろ》です。
《恋囚う乙女心》を二人で補い合い、回復する力。
そのプロセスは特殊なものを多く含みます。多用出来ないものです。
ですが、結果としてあらわれるものは想いを継ぎ合って回復する異能。
シンプルで、優しい異能です。
イーリスから受け取った想い出が、彼の欠落を埋めていきます。
「……いーりすのきもちは、いつもすごくあったかくて、きもちがいいな。」
電子の空間でも、伝わる想いは変わりません。
演算を補助するように新たな異能が響き合い、彼を回復に至らせます。
「ありがとう……いーりす。助けてくれて。
これからは、あんまり無茶しないで……体力つけて、がんばるね。」
イーリスな懸命な演算と修復、そして強い想いと多くの想い出。
それらは、エルピス・シズメの消耗を完全に回復させていきます。
■バーチャル・イーリス > イーリスの、エルピスさんと過ごした想い出を注ぎ。そして高度な情報処理による、エルピスさんの自我の修復。
「まだ、耐えられます……」
負荷は大きい。
別に体内コンピューターの熱暴走で体が溶けたっていい。
それでも、必ず救う……!
エルピスさんの自我を修復して、必ず助ける……!
演算しながら、エルピスさんとの想い出、それらの記憶のデータを今度はエルピスさんに注がれていく。
そんな時に、エルピスさんの新たなる異能。
《恋囚う乙女心》と対なる《とくべつないろ》が開化。
今、《パンドラ・コアMk-Ⅱ》が稼働していて、イーリスのエルピスさんへの想いをエネルギーに変えて桃色に輝いている。
その想いのエネルギーもがエルピスさんに注がれている。
その影響は、この空間も少し桃色に輝いているだろうか。
「ふふ、そう言っていただけて嬉しいです。私も、今とても温かい気持ちになっておりますよ。エルピスさん……。愛しています……。あなたがいないと私はどうにかなってしまいそうな程に……」
エルピスさんの唇に、自身の唇を重ねようとする。
そうして想い出をよりエルピスさんに注いでいく。
エルピスさんを回復させるよう、温かい想い出でエルピスさんを包み込んでいく。
■エルピス・シズメ >
「僕も……もうイーリスのこと、好きすぎて……
愛も恋もいっぱいで……しあわせで……」
強い自我から見えた異能の兆しは、
イーリスを想うとくべつないろへと変わりました。
桃色の煌めきが、白い景色を照らします。
この場は、完全に安定しました。
「ん……っ」
抱きしめて、唇を重ね合います。
寝転がったままから、ゆっくり上身を起こして口づけを交わします。
そうして注がれて、継ぎ合った思い出は、
すべてのエルピスの記憶を彼に注ぎます。
「えへへ……いーりすのきす、やさしくて、きもちいい、ね。」
別の意味で、熱暴走で身体が融けるかもしれません。
強く熱い想いが、エルピスからもイーリスに伝わります。
そして、一つの罪悪感を覚えます。
イーリスが救うまでに歩いてきた、自分の欠片の視点のひとつ。
そこで一つ、向き合わなければいけないことがありました。
正義のロボットさんの、正体です。
アルターエゴ・サイキッカーが、エルピスであるということです。
『正義のロボットさん』としての側面は、優しい嘘を付き続けました。
ですが、それはどう取り繕ってもいつか、バレます。
「……ひとつ、おおきなわるいこと、イーリスにしてたんだ。
とんでもない嘘を、かっこつけるためについちゃって。」
「そのことを打ち明ける準備をしたいから……先に、目覚めて、いいかな。
……いーりすが戻ってくる頃には、たぶん、わかるとおもうから……」
他我は嘘を選びました。
自我は、打ち明けることを選びました。
■バーチャル・イーリス > 「エルピスさん……。……ん……っ」
交わされた口付け。
イーリスの頬が染まる。
そして、エルピスさんへと流れる想い出。
エルピスさんの唇は、とても幸せな味がする。
彼との口付けはイーリスをぽかぽかと温かい気持ちにしてくれる。
イーリスの周囲にハートのエフェクトが飛び交う。
「えへ……そうですね、エルピスさんとの口付けは、いつでもとてもきもちがいいです。温かいです」
エルピスさんへの想いが強まって、この空間の桃色が濃くなる。
とても心地いい、きもちいい。
「わるいこと……でごおざいますか?」
小首を傾げる。
エルピスさんの自我は回復したので、イーリスの目的は達成された。
先に目覚めてほしいという事で、イーリスは首を縦に振った。
「現実の私の体も既に回復したみたいです。あなたの自我の回復も確認できましたので、私は一足先にログアウトしますね」
エルピスさんをそっと立たせようとし、イーリス自身も立ち上がる。
「それでは、現実でお待ちしております」
そう告げると、イーリスの体が光子となり、そしてこのバーチャル空間からいなくなった。
ご案内:「エルピスの記憶領域 / 想いを継いで」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「エルピスの記憶領域 / 想いを継いで」からバーチャル・イーリスさんが去りました。
ご案内:「『数ある事務所』地下の医療ラボ」にエルピス・シズメさんが現れました。
ご案内:「『数ある事務所』地下の医療ラボ」にDr.イーリスさんが現れました。
■アルターエゴ・サイキッカー・エルピス >
場面は再び現実に戻ります。
言葉通り、『先に目覚めた』彼は急いで準備を始めます。
隣で寝ているイーリスより先に、済ませないといけません。
(身体が重い、けど。できる。)
意志を込め、再びアルターエゴ・サイキッカーとしての鋼を身に纏います。
それは偽物でも、再現の再現でもなく、
正しく『正義のロボットさん』としての、アルターエゴ・サイキッカーです。
「いーりす。」
目覚めを促すように、声を掛けます。
顔のバイザーと右腕の装甲を解除して、エルピスであることも示します。
■Dr.イーリス > 手術台のイーリス体は五体満足。修復されていた。
先程いたのがエルピスさんの記憶領域。
イーリスが先にログアウトしていても、エルピスさんの方が先に目覚めてしまうというのも不思議ではない。
(エルピスさんの声が……聞こえます……)
目を瞑っているイーリスは、自分のからだがちゃんと修復されているのを感じる。
四肢が自由に動かせるし、痛み何て全くない。
ついでに、《パンドラ・コアMk-Ⅱ》が温かい。エルピスさんにいっぱい愛情を注いだからだ。
イーリスはゆっくりと目を開けて上半身だけ体を起こす。
「おはようございま……」
寝ぼけた様子でぼんやりと、目の前にいる人物を見る。
何秒か茫然とその人物を見て、そしてある瞬間で一気に目を覚ます。
「わわっ!?」
あまりの驚きに、イーリスは手術台から転げ落ちてしまった。
「痛いです……」
コミカルに泣きながら立ち上がり、そして再び視線を戻す。
「正義の……ロボットさん……! 正義のロボットさんです……!! あなたと再会できる時を……ずっと待っていたのです……! ……ひぐっ……オリオン座のお星様から、私に会いにきてくれたのですね……! 正義のロボットさん……!!」
十年前、イーリスは正義のロボットさんと出会い、憧れ、救われ、そして一緒にいたいという願いも空しく別れた。
十年間ずっと待ち続けていた。いつか会えると言ってくれたから。遠くのお星様から見守ってくださると約束してくれたから……。
イーリスの瞳から、涙が溢れ出してくる。十年間の想い……その涙……。
「私……辛い事いっぱいあっても耐え抜きました……。悲しい事……いっぱいありましたけど……正義のロボットさんが見守ってくださっているから……ひくっ…………また再会できる日がくると言ってくれたから……がんばって……これました……」
正義のロボットさんと別れた後、義母がどこかに行っていなくなった。ひとりぼっちになって、流星にお義母さんが帰ってくるよう願っても、未だにお義母さんは帰らない……。
落第街の人達に殴られ、蹴られても耐え抜いた。とても痛かったけど、正義のロボットさんと会いたいから、頑張って、生き延びた。
エメラルド田村達と不良集団《常世フェイルド・スチューデント》を結成した後は仲間が増えた。同時に、この島の闇、落第とスラムの闇に触れて……明日に生きるのが必死で……とても苦しくて……イーリスは正義に憧れる心を濁らせかけてしまっていたけど……それでも正義のロボットさんと会いたいという気持ちは保ち続けた……。
紅き屍骸の戦いでは、《月輪の王》に苦しめられて辛い思いいっぱいしたけど、色んな方々の力を借りて頑張ってこれた……。
魔法少女との戦いで臨死になったけど、それでもエルピスさんが必死に頑張ってくれて、だからイーリスも生きるのを諦めずにいられた。
辛い思いいっぱいしてきたけど……がんばってこれたんだ……。
■Dr.イーリス >
「がんばって……きました……。正義のロボットさん…………。うぅ……うぐ…………ううぅ、うわあああああぁぁああああああぁぁああぁぁん!!!!」
■Dr.イーリス > イーリスはこれまでの過酷な運命を耐え抜いて、その緊張の糸が切れたかのように、正義のロボットさんに抱き着いて、声をあげて無邪気に泣いていた。
その時の14歳の少女は、あの時の4歳の少女に戻っているかのように──。
■アルターエゴ・サイキッカー・エルピス >
「……」
彼が事実を口にしようとして、止めました。
今はあふれ出した感情で止まらないイーリスをなだめる方が先。
この姿に夢を見て、頑張ってきたイーリスを認めるのは、やらなきゃいけないこと。
そう考えたエルピスは、静かにイーリスを支えます。
記憶を覗き見てしまったエルピスは、今に至るまでのイーリスの旅路を見ています。
……今は正義のロボットさんとして、10年を耐え抜いたイーリスを癒すことに決めました。
「4歳の時……あの後、ひとりになっちゃったの、辛かったよね」
「5歳の時、とっても辛かったのに、いてあげらなくてごめんね。」
「6歳の時、痛い目にあったのに……優しさを忘れなかったの、頑張ったね。」
一番、イーリスが大変だった時期。
独りで力も無くて、虐げられていた、苦痛の時期を慰めます。
「7歳の時、エメラルド田村さんに会えてよかったね。とても、良かった。」
「9歳の時、メカニカルサイキッカーを作れたね。あの子は、イーリスを守ってくれたかな。」
「でも……それと同じぐらい、寂しい目に遭わせっちゃったね。」
イーリスの才能が落第街が通用する様になった時期。
同時に、現実の冷たさに心が擦れていた時期を、認めます。
「10歳の時、自分を改造したんだったね。そのおかげで、今まで生きてこれたのかな。」
「12歳になると、現実を見始めたのかな。……寂しい目、してたよね。」
「……ごめんね。会えなくて。それと、嘘を付いちゃって……いーりす。」
そうして今、自分が嘘をついていたこと。
アルターエゴ・サイキッカーであったことを、伝えます。
「僕、なんだ。……タイムパラドックスを避けるために、ついた嘘で、
イーリスの夢……ずっと、抱かせて、今、壊しちゃうことに、なっちゃう。」
「……うん。頑張った。イーリスはとても頑張った……辛い運命を、乗り越えた。
……僕が、エルピスが、アルターエゴ・サイキッカーが、認めるよ。」
■Dr.イーリス > 「ほんとう……に……。……遠くのお星様から……私を……見守ってくださっていたのですね……。ずっと……私との約束を守って……」
正義のロボットさんが口にするのは、正義のロボットさんと別れてからのイーリスの十年間だった。
見てくれていたんだ……ずっとずっと……。
十年も約束を守ってくれたんだ……。
「……あなたは約束を全部果たして、こうして会いにきてくださいました。私はあなたを会える事を夢見て頑張ってきましたから……とても嬉しいです。私、成長したんですよ。背もあの頃より高くなったでしょう? 10歳の時の改造で成長が止まって、バカみたいな事してしまいましたけどね」
微笑みながら、溢れ出す涙を少しずつ拭い始める。
「……お義母さん、いなくなってしまったんです……。十年経っても帰ってきてなくて……。今も待ち続けています……」
義母の話をする時にイーリスは悲し気に視線を落としてしまう。
それでもすぐ顔を上げて泣きながらの笑みに戻る。
「エメラルド田村さん、最近は先生にこらしめられた事で優しくなったんですよ。近況で少し失敗した事もあったのですが、根はとても良い人です」
にこっ、と泣きながら満面な笑顔。
「あなたの事を想い続けて……そうしてやっと完成したのがメカニカル・サイキッカーなんですよ。メカニカル・サイキッカーは、正義のロボットさんがモデルのスーパーロボットなんですよ。何度も改良を重ねて、今はなんとMk-Ⅲです! あなたのように、メカニカル・サイキッカーは私を守ってくださいました」
笑顔を浮かべていたけど、再び申し訳なさげに視線を落とした。
「しかし、あなたがモデルの強いメカニカル・サイキッカーは戦いに負けて……今は、バラバラになって故障してしまいまってます……」
再び顔をあげ。深々と頭をさげる。
「正義のロボットさん……ごめんなさい……。私……正義の心、弱くなっていた時期ありました。不良になって……随分と人に迷惑をかけていた時期、ありました……。今は、エルピスさんや色んな人達の優しさに触れて、闇から這い上がる事ができました。私……これからいっぱい、罪を償っていきます」
嘘をついちゃって、そんな言葉にイーリスは小首を傾げる。
ずっと約束通りにイーリスを見守ってくださっていた正義のロボットさんが何の嘘をついたのだろう……?
「僕……。タイムパラドックス……。そういえばその声……。髪……」
イーリスはお目めをぱちぱちさせた後、目を丸くした。
「えええええぇぇえええぇぇええぇ!!?」
エルピスさんの記憶領域で、エルピスさんが正義のロボットさんに変身した。
一部イーリスの記憶も混ざる領域だったので、正義のロボットさんがエルピスさんだったらよかったらと、深層心理でそう願っていた事に気づいて自己嫌悪に陥っていた。
十年間待ち続けていた正義のロボットさんを、エルピスさんで上書きしようとしていたのだと感じた……。
そんなの、最低だ……。
だけど同時に、今のイーリスにとってのヒーローはエルピスさんなのだ。十年前の正義のロボットさんと、今のイーリスさんが同じであるなら、それはとても夢があって、素敵であるとも思ったのだ。
そして実際に、正義のロボットさんの正体はエルピスさんだった。
「エルピス……さん……!! 正義のロボットさんは、エルピスさんだったのですか……!? わわわっ!! えぇ、うう。わわ……!」
嬉しさも混ざっているが、理解が追いついていない様子。
「えっと……つまり、えっと……こういう事でしょうか。タイムマシンで十年前に行ったあなたは正義のロボットさん、アルターエゴ・サイキッカーとなり、そして十年前の私と出会ったという事に……?」
■アルターエゴ・サイキッカー・エルピス >
ひとつひとつを聞き届けます。
イーリスにとっての空間の十年を、せめて聞き届けることで埋め合わせようと、聞き届けてました。
"いなくなってしまった"の言葉には、強く胸を痛めます。
言葉に含まれた意味を考えれば考える程、苦しくなりました。
そうして全部を聞き届け────た、ところで響く絶叫。
「うん……僕と過去のイーリスが直接会うと……たぶん、変な事になると思って。
……だから、こうしたんだけど……もっと大きなことに、なっちゃった、ね……。」
苦笑気味に、それでもどこかくすぐったそうに、口元を緩めるエルピス。
致命的なタイムパラドックスは起きてないと思いたいけど、少なくともイーリスに混乱を与えてしまっている。
落ち着くまで待つしかないかなと判断して、混乱が収まるまで、ゆっくりと待つ。
「誰でもないアルターエゴ・サイキッカーとして動くことで、
パラドックス避けのつもりだけど……たいへんなことになっちゃったね……ううん……」
そのまま会うのとどっちが良かったのか。
今はちょっと分からない。
■Dr.イーリス > 「それは確かに……タイムパラドックスを出来得る限り避けるには、そうなりますね。私のお義母さんに会いにいくのですから、十年前の私と会うのは必然ではあります。大きな事なりましたね、私の人生変えてます。いい方向に変わりましたけどね」
よもや、タイムマシンでエルピスさんを過去に送り出した時は、知らない間に人生を変えられてしまう事になるとは思わなかった。
混乱はしているけど、ひとまず落ち着く事にして。
「エルピスさんにとっては一昨日の事になります。しかし、私にとってはですね……十年も憧れて想い続けてきた正義のロボットさんでございますよ……! うぅ、わわわわっ!!? え、エルピスさんに凄く恥ずかしいとろこ見せてしまってます……! こ、この気まずさ……どうすればいいのですか……! 私、エルピスさんが正義のロボットさんだと知っても、未だにこの想い変わらないですよ……! 十年間も待ち続けていたんですから……!」
やっぱり、落ち着くのはちょっと無理だった。
恥ずかしいところ。
十年前はともかくとしよう。あの頃は幼かった。
今さっき、まるで4歳に戻ったかのように無邪気に大泣きしてしまった。あの頃の事思い出していたんだから……。
恥ずかしすぎてお顔赤くなって、ぷしゅーと湯気とか出てしまう。
そして十年間待ち焦がれた正義のロボットさんが、普段共に寝て食べて過ごす想い人である。その十年間の想いは未だに全然変わらない。凄く嬉しいけど、気まずい。
■エルピス・シズメ >
「えっと……うん。よかった。けど……時間跳躍の技術……
ほとんど実用化されない理由が分かった気がする。」
何と言うか、大きなことになってしまった。
たぶん良い方向に向いたからいいのだが──深く考えない事にする。
あるいは、もともとこう帰結するものがあった。と祈る。
多分変わってしまってるけど──深く考えない事にした。
(少なくとも、イーリスを助けるのに、必要だったから。)
同時に痛感した。僕が科学者だったら、多分、タイムパラドックスは、極力避ける。
良くも悪くも、変わってしまったものがあるとしたら戻せない。
ワイズマンが時間跳躍や運命改変でなく、不老不死を選んだのも、もしかしたら──。
……それは流石に考えすぎな気がした。首を横に振る。
「そうだね、僕になった……みたい。
それに、ほら、いーりすを助けるときに、過去、見ちゃってるから……。」
とは言ってみるものの、本心まで覗けてしまった訳ではない。
むしろ知ってしまっているから引き出してしまったものもある。
気まずく、気恥ずかしい……。
「と、とりあえず落ち着こ、いーりす。
その、ほら……二人とも元気になったし……壊れたメカニカルサイキッカーの事と、
その、イーリスが言ってた、マリアって人の事も……考えなきゃいけないけど……
少し休憩してから、状況、整理する……?」
外から犬の鳴き声が聞こえた。
いつの間にか朝を超えて昼過ぎになっていたらしい。
「あと、その……アルターエゴ・サイキッカーでもあったけど……僕は、僕だよ。いーりす。
だから……えっと……どんなイーリスも好きだから、安心して、欲しいな。」
■Dr.イーリス > 「タイムマシンは、あんまり造ってはいけない物のような気がしてきましたよ……」
造ってしまった……。
頑張って修理、とかもしない方がよさそう……。というか修理は大変すぎるし、うまくいくかもわからない……。
何なら仮に修理したとして同じように稼働するかもわからない……。
実はワイズマンああ見えて不老不死という手段を選んだだけ、タイムマシン造っちゃったイーリスより科学者としてまともな部分もあったのかもしれない……。無論、少年少女を人体実験として犠牲にしまくる部分などは全然まともではないが。
「ああぁ!! 見守っているというのは、そういう事だったのですね……! オリオン座のお星様って、今この時代でございますか……!?」
驚きの声をあげてしまう。
確かに遠くと表現できるこの時代から、見守ってくれていた。
約束は果たされている。
「そ、それでは……あ、あの時……正義のロボットさんが必死で命を救おうとしていたのは、わ、私ですか……!? わわぁっ!? それは何がなんでも十年前の私に別れを告げて帰らなければいけないわけですね……!」
さらに恥ずかしさが込み上げてくる。
正義のロボットさんが物凄く必死に救おうとしていたのが、まさかの十年後の自分である。
イーリスは正義のロボットさんの大切な人が助かる事を強く願っていた。まさかの、十年前の自分の命が救われる事を祈っていたわけである。
「あのですね、エルピスさん。私、あなたの記憶領域でも正義のロボットさんと会ったのです。それもあなたから変身した正義のロボットさんです。あれは、あなたの記憶領域に流れ込んでいる私の記憶だと思ったんです。記憶領域での私の出来事だと思ったので、私の深層心理では正義のロボットさんがエルピスさんである事を望んでいる……そう解釈したんです」
十年待ち続けた正義のロボットさんがエルピスさんだったという事を望んでいるという事は、正義のロボットさんの事を今の想い人であるエルピスさんで上書きしようとする最低な行為だと思えた……。そんな深層心理を抱いている事に気づいて、自己嫌悪してみたりもした。
だけど、そうじゃなかった。
エルピスさんが正義のロボットさんだったのだから、あれはイーリスではなくてエルピスさんの記憶だったんだ。
「だけどその時思ったんです。本当に、私の憧れた正義のロボットさんが、私の傍にいてくださる私の“希望”であるあなたであったなら、とても素敵な事であると……」
そう告げて、イーリスは柔らかく目を細めた。
「私は、正義のロボットさんをモデルにメカニカル・サイキッカーを造りました。ふふ、もしかしなくともアルターエゴ・サイキッカーは、メカニカル・サイキッカーを継いだ姿でしょう? エルピスさんお願いがあります。正義のロボットさんのお力をお借りして、メカニカル・サイキッカーの修復のお手伝いをお願いしたいです。メカニカル・サイキッカーは私の体内コンピューターのと同期している事もあって、正義のロボットさんのお力で《恋囚う乙女心》を使って修復する方法を思いついたのですよ。基本は、私を継いだあなたが、わたしを《恋囚う乙女心》で修復した方法の応用です」
アルターエゴ・サイキッカーの姿で《恋囚う乙女心》を稼働させ、そしてイーリスと同期してあるメカニカル・サイキッカーにその効力を及ばせるようにして“再現”し修復させる方法。
別途、メカニカル・サイキッカーのパーツが必要になるけど、そこは予備を準備している。
「そうですね、マリアさんの事を考えないとですね。私、こうして復活できたのですから、またマリアさんに会いにいきます。心配はいりません、私にも策はありますからね」
この前はマリアさんに酷くやられて死にかけた。
だけど、無策で挑むわけではない。ちゃんと考えが合って、マリアさんに再び会う。
「分かっていますよ。エルピスさんはエルピスさんです。十年間、正義のロボットさんを想い続けたこの憧れは止まらないですけど、それはそれとしてエルピスさんはエルピスさん。私もあなたを愛してます。私の大好きなエルピスさんです」
そう想いを告げて、頬を染めながら微笑んだ。
■エルピス・シズメ >
思想と手段。
それらは必ずしも同じ方向性を向いていない。
正しき思想でも、その手段は外道なものである。
エルピスは自身を構成する成果物に関して詳細を知ろうとすることはない。
だが、その思想と手段の在り方は、ワイズマンと通ずるものがあった。
エルピスは成果物の製作者を知ろうとはしないし、
イーリスはワイズマンの思想を覚えているかは定かではない。
手段と云うものは、行うもののの倫理を映すもの。
この場にいるものはかの二体を意識はしないが、善悪を分ける一つの指標。
「そういうこと……になるね……えっと、元気になるかな、ってつい……。」
あれやこれやと想い返す。
傷付けまいと必死だったが、今に至るとなればイーリスが覚えているのも当然だ。
自分の言った言葉が復唱されると、顔を真っ赤にしてイルカのような鳴き声を漏らした。
「……う、うん。イーリスのおかげで、イーリスの願いはかなえられたけど……その……」
おもむろにベッドに飛び込み、枕に顔を埋める。
すごく恥ずかしくなってきたらしい。「あぅぅぅ」と声がもれる。
お互いに恥ずかしくて、顔が真っ赤で溶けてしまいそう。
感情魔力混合炉も妙な駆動を始めている。
気を取り直して、ベッドから起き上がる。
「あの僕は、たぶん僕の中のほんとうのいみの……他我だから。
……純粋なアルターエゴ・サイキッカーとして、振舞ったんだと思う。
だから、重ねちゃったのも、無理は無くて……」
「……僕が希望になれたのは、イーリスのおかげ。
イーリス似合わなかったら、今頃ただの学生で、履修する科目を悩むような、些細な学生だったと思う。」
そう考えると、不思議に感じる。
矛盾と言うよりは、輪のように紐づく何か。
「……だから、とても不思議で、とても素敵って、僕も思う、かも。」
少し恥ずかしがりながらも、ありのままの形を受け容れる。
僕はイーリスの希望になって、イーリスはパンドラの箱からエルピスを取り出した。
その過程には、沢山の人と神が居る。
上から降りてイーリスを思い返すと、多くの縁を背負って降って気がする。
「そっか。イーリスのその……《恋囚う乙女心》……で……あの、その名前って……僕のこ……」
その名付けに、顔を赤面させる。
多分でもなく僕の事だから、凄く嬉しくて凄く恥ずかしい。
そのあとの説明は恥ずかしくて完全には耳に入らなかったけど、
メカニカルサイキッカーを応用で修復出来るところまで、理解できた。
成果物の名前が砂糖を吐き出して吹き飛ぶぐらい、強い想いの名前。
そのことに気付いて、心臓が高鳴って顔も紅潮する。
だけど、ちゃんと受け留めたいから大きく息を吸って、呼吸を整える。
「ありがとう。僕も、イーリスのことは愛してるじゃ収まらない位、大好き。
……これからもずっと、いっしょにいたいな。」
■Dr.イーリス > 「凄く助けられましたよ、正義のロボットさんであるあなたに。お星様からずっと見守ってくださっていると信じてたのですから。正義のロボットさんの優しい嘘、というよりちょっとした比喩表現という事にしておきます」
そう言って、イーリスは微笑んだ。
「あの時の私の願いが叶った事自体はとてもよかったですね……!」
恥ずかしさでベッドに顔を埋めるエルピスさん、イーリスももう恥ずかしさでまたバーチャル空間にでも引っ込もうとしたけど、それはやめた。
「エルピスさんの記憶の中では、様々なエルピスさんの自我があるという事ですね。確かに、色んなエルピスさんとお会いしましたし、正義のロボットさんはその中のエルピスさんの一人ではありますね」
公安エルピスさん、便利屋エルピスさん、ワイルドハント、そしてルーナちゃん。様々なエルピスさんがいた。
ルーナちゃんに関しては、イーリスの自我も混じった、エルピスさんとイーリスの娘なる存在になる。
「私達、あの時自動販売機の前でお会いしてから、随分と色々な事ありましたからね……」
目を細めて感慨に耽る。
学生であるエルピスさんが、ただの学生ではなくなって色んな事に巻き込まれていくようになったきっかけはイーリスが《月輪の王》に敗れて死にかけていた時になるのだろうか。学生だったエルピスさんに、イーリスはSOSを送ったのだ。
「ありがとうございます。元は、私の事情にあなたを巻き込んでしまう形で始まりましたからね。申し訳ないと思っているところもありましたが、素敵だと言ってくださってよかったです。私はこれまで、あなたと歩んできてよかったと感じておりますからね」
イーリスは、にこっと笑みを浮かべた。
「え……!? あの、《恋囚う乙女心》は……ですね。うぅ……考えてみればとても恥ずかしい名称……。そ、そうですよ……! 私の……あなたへの想いですよ……! あなたへの恋に囚われている私の心です……!」
かあぁっと耳まで赤くしながらも、やけになった感じでそう口にした。
恥ずかしい……。凄く恥ずかしい……。やっぱり、バーチャル空間に引っ込もうかな……と思った。
イーリスの、エルピスさんへの想いが必要で、さらにエルピスさんしか起動させられない《恋囚う乙女心》。
その《恋囚う乙女心》は、イーリスの心臓近くにある。
「エルピスさん……ありがとうございます。ずっとずっと、一緒にいましょうね。エルピスさん、大好き、です」
顔を赤らめながらも、イーリスは満面の笑みを浮かべてみせた。
そしてイーリスはエルピスさんを抱きしめ、今度はこの現実で、エルピスさんと口付けを交わそうとする。
その後、ちょっと休憩してから前述(というより前ロル)の通りの手筈でメカニカル・サイキッカーを修復する事になるだろう。
エルピスさんの自我は回復し、イーリスとメカニカル・サイキッカーも完全復活を果たす。
イーリスがマリアさんに敗れて死にかけてから、エルピスさんはイーリスのために凄く頑張った……。
体内コンピューターにイーリスを救いに行き、タイムマシンで十年前に行ってぼろぼろになりながら《科学配合エリクサーエキス》を完成させて余命僅かなイーリスの命を助けた。自我が崩れたエルピスさんを、今度はイーリスがエルピスさんの記憶領域に救いにいった。
エルピスさんとイーリスそれと《恋囚う乙女心》により、エルピスさんの自我、イーリスの体が回復した。
幾重もの過酷を乗り越えて、エルピスさんとイーリスは幸せを取り戻して、より愛を深め合うのだった。
ご案内:「『数ある事務所』地下の医療ラボ」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「『数ある事務所』地下の医療ラボ」からDr.イーリスさんが去りました。