2024/09/13 のログ
ご案内:「麺処たな香」に田中 浩平さんが現れました。
田中 浩平 >  
「あざっしたー」

会計を終えた客を緩く見送って。
あとはピークタイムの夕飯時まで少しのんびりだ。

「山田も休憩入っていいぞー」

バイトくんに声をかける。
一年生、働き者の良いヤツだ。

山田 >  
「いっすよまだ、皿洗っておきますんで」

そう言って据え置きのテレビのチャンネルを変える。

「そんなことより第三演劇部のドラマ始まりますよ」

田中 浩平 >  
「ああそっか、見逃すところだった」

最近、金曜日に放送している怪異たちをテーマにした特撮ドラマを見ている。
『此岸町幻想録』というタイトルだ。

主人公の青年が街の様々な友好的怪異たちと一緒に怪物と戦う。
筋としてはそんな感じだが、常世学園第三演劇部の部員たちの怪演が良い感じだ。

「お、始まった」

山田 >  
「やべ、先週の金曜シフトじゃなくて見忘れてたんすけど」
「あらすじ教えてくださいよ田中先輩」

田中 浩平 >  
「ああ……主人公たちとグレーター八尺様との決戦で」
「喋る人形いたろ、髪が伸びるヤツ。太郎坊人形」

「前回そいつがやられる衝撃的展開で続いたんだよなー」

太郎坊人形 >  
「へへ……イイところでドジ踏んじまったぜ…」
「お前ら、先へ行け……この煙草吸い終わったら追いつくからよ…」

血を流しながら壁にもたれ掛かってその言葉をかける。

山田 >  
「マジか……! 衝撃の展開じゃないっすか…」
「え、死ぬの? 真夜中に血を流す怪奇人形が?」

「好きなキャラだったのに」

田中 浩平 >  
「これもう助からないヤツのセリフだもんな……」
「メインヒロインのメリーさんが悲壮な顔で見てるし」

うわーという顔をしながら皿洗い続行。
ドラマから目が離せない。

メリーさん >  
「私、メリーさん」
「今……格好つけでどうしようもない酒好きで」
「女の扱いが下手だったアナタの前で泣いているの…」

メリーさんが感情を一滴残らず絞り出すかのようなセリフを口にした。

田中 浩平 >  
「やめろメリーさん……!!」
「死亡フラグを押し付けるのは殺人だぞ……!!」

ドラマに夢中になりながらほぼ無人の店で食器乾燥機に皿をセットする。

田中 浩平 >  
衝撃の展開が続く。
クライマックスに次々と敵も味方も死んでいく。
やべえなこのドラマ。後でSNSチェックしないと。

「あっ……山田くん今ッ!」
「口裂け女が撃たれた……!」

「どうしよう、今から局に電話入れたら展開変わんねぇかなぁ!?」

山田 >  
「田中先輩静かに……!」

口裂け女 >  
主人公の胸の中でマスクの女性が血を流しながら涙を一筋流す。

「ねぇ、私キレイ?」

「って……答えはわかってる…」
「最期だからキレイって言ってなんて……口が裂けてても言えないよ……」

メリーさん >  
主人公が声をかける前に息を引き取った口裂け女を前に立ち尽くす。

「私、メリーさん」
「今、口が裂けててもずっとずっと綺麗だったレディのために泣いているの」

田中 浩平 >  
「やっべぇぇぇぇ……!!」
「このドラマ人気あったのに続編作る気のない殺戮っぷりだよ脚本…」

ハラハラしながら味玉の在庫をチェックする。

山田 >  
「第二冷蔵庫にもまだ味玉ありますよ」
「っていうかちょっともう泣きそうなんですけどこの展開…」

田中 浩平 >  
「俺? もう泣いてるけど?」

ぐすぐす言いながら店の冷蔵庫を漁る。
これなら夜の営業でも足りるやつか。

メリーさん >  
「私、メリーさん」
「あなたの後ろが私の居場所」

「必ず追いつくから……行って…!」

儚げな美少女は決死の覚悟で主人公を先に進ませる。
自分がどうなっても、全てを終わらせるために。

ドラマ『此岸町幻想録』 >  
最終回、『あるいは、怪異でいっぱいの街』に続く。

山田 >  
「え、ここで続くの!?」
「これネット荒れません? 俺の推しが全員死んだんですけど」

田中 浩平 >  
「口裂け女役の人すげぇ好みだったし、演技も良かったよな…」
「っていうか最終回でメリーさん死んだら俺、来週の土日シフト入れられないかも知れない」

ショックで。

田中 浩平 >  
その日はドラマの話をしながら店を回した。
ドラマのファンも結構、来客にいて。

そんなこんなで、平和な毎日を過ごしている。

ご案内:「麺処たな香」から田中 浩平さんが去りました。