2024/10/31 のログ
ご案内:「常世渋谷 トコヨ・ハロウィン・ナイト」にリリィさんが現れました。
ご案内:「常世渋谷 トコヨ・ハロウィン・ナイト」に武知一実さんが現れました。
リリィ >  
――人、人、人! 人だらけ!

若者の街は今宵一際多くの人々を呑み込んで賑わっている。
知識として知ってはいたが、実際目の当たりにすると先ず驚愕が先立った。遅れてじわりと染み出す興奮を抑える為に、両手を拳の形に握る。

「すごいですね、かずみん様!わたし、こんなに人がいっぱいいるの見たの初めてです!」

つば広の帽子の、更に前髪の下で瞳が爛々と輝く。
果たしてこの賑わいの中、何割が仮装で、何割がホンモノなのか。
喧噪に負けじと声を張っては拳を解き、少年の袖と気を軽く引っ張って群衆を指差した。

ただ祭りの中で立っているだけでも周囲の熱気に煽られてワクワクとしてくるが、ようく見れば人だけでなく、建物もハロウィンカラーにめかし込んでいる様子。
出店みたいなものもちらほらと見つかるようだ。

大層な賑わいの中懸命に声を張り上げているのは風紀委員だろうか。
心中で労うと同時に、ハメを外し過ぎないようにしっかりと心に刻んでおくとする。

武知一実 >  
「ああ、そうだな。
 ある程度予想はしてたんだが、こんだけ多いとはオレもさすがに思わなかった」

予想に超えての人の多さに、微かに眩暈すら覚える。
そしてそのほとんどが仮装だったり、仮装せずとも異装めいていたりと様々だ。
オレと同じようで違う狼男もわんさか居るし、隣の淫魔と同様に魔女の仮装に身を包んだ奴もわんさか居る。
とにかく、人がわんさか居る。

「ホント、この島のどこにこんなに人が居たんだっつーくらいの賑わいっぷりだな。
 リリィ、人波に飲まれてはぐれたりすんじゃねえぞ?」

これだけ人が多ければ見失えば見つけるのは簡単じゃなさそうだ。
学生服の中に紛れれば目立つ淫魔の特徴も、今日この場においては同じ様な出で立ちも多くて紛らわしい。
既にはしゃぎ始めてる気配のするリリィへと声をかけ、さて何からすればよいのやら、と辺りを見回してみた。

――話に聞く縁日とはまた違うみてえだが、出店やら露店やら出てるみたいだ。
ええと、とりあえず菓子でも買いに行きゃ良いのか?

リリィ >  
「島中の人が集まっているんじゃないでしょうか。」

半ば本気でそう思うくらいに人が多い。あの人は人。その人も人。あっちの人は多分違う。――自然とそんな風に分別してる自身に気付いてポンコツ淫魔はひっそりとかぶりを振った。

ぱ、と顔を上げて少年に向けるのは拗ねたような膨れ面である。

「そんなに子供じゃないですぅ!
 もしそうなったら……空から探しても難易度ルナティックでしょうね。気をつけます。」

被り物だったり被り物じゃなかったりするだろう狼男の数は膨大。魔女もだけど。
大人しく忠告胸に先走ることのないよう努めるとして。

辺りを見回し物色する少年の姿に、ピコン!と頭上に豆電球が瞬く。

「ね、“トリックオアトリート”!」

呪文を唱えて両手を揃えて差し出す。
頭の中は既にどんな悪戯をしようかと考えを巡らせているので、浮かべた笑顔はにんまりとしてたかもしれない。

武知一実 >  
「かも知れねェな。
 ……学園の全生徒よりも多いんじゃねえか」

実際のところどうなのかは知らねえが、いい勝負はしてんじゃねえかと思う。
横目でリリィを見れば、ああ、何だか余計な事考えてんなって感じで。難儀なもんだな。


「おう、まあお互い注意してりゃ逸れる事は無いだろ。
 あんまり離れんじゃねえぞ、あとそうだ……さすがに日が落ちると冷えるだろ」

そう告げてリリィの肩に商店街のブティックで買ったストールを掛ける。
防寒というのももちろんだが、ちょっと露出を抑える目的の方が大きい。
人混みに紛れて変な気を起こす輩も減るだろうしな。

さてひとまずはカボチャの飾りのある店を……と思った矢先にリリィから声がかかる。
早速か。まあ準備が無いわけじゃねえが……

「何か買ってから、かと思ったんだけどよ。
 ……何も無ェから、どんな悪戯してくるのかお手並み拝見と行こうじゃねェか」

よし、受けて立とうじゃねえか。
菓子よりも悪戯目的だってのが顔にありありと書いてあるリリィに向けオレは大仰に頷いて見せた。

リリィ >  
「ん、でも皆さん熱気がすごいですし、思ったほどでは……、」

問題ないと告げる最中、露出した肩回りをふわりと覆うストールの柔らかさを知った。
ぱちぱちと瞬きを繰り返して少年を見、次いでストールへと視線を落として、もう一度少年を見上げる。

「もしかして、買ったんですか?わざわざ?今日の為に?」

パーカー愛好家、それ以外ならジャージが楽だと告げていた少年が、こんなお洒落にステ振りしたアイテムを所持していたとは思えず。
また、触れた手触りの真新しさに気が付いたら、無意識のうちに問うていた。

我が身を心配(ある意味で心配)してくれている少年に、自分は悪戯する気満々で呪文を唱えてしまったんだが??
後悔先に立たずとはこのことかと実感をたわわな胸に潜ませて、ストールの前を合わせて塞ぐ。

まあでも言っちゃったもんはしょうがないと開き直ることにするが、それはそれとしてなんだその受けて立つみたいな漢気ムーヴは。

「ぬぅ、余裕綽々で受け入れられるとそれはそれで悔しみが募りますね……!」

軽く擽ってやるくらいの想定だったがさて。
下唇を突き出して、腕を組んで、考える、考える、考える。
悩み過ぎて上半身がクネクネと変なダンスを踊ってるようだ。

「そうだ、学生手帳……じゃないんでしたっけ、スマホ!スマホ貸してください。」

ギブミースマホ。

武知一実 >  
「気にすんな、そんな大したもんでもねえからよ」

実際思ったほどの値段じゃなかったし。
まあ安物だと言い張るつもりも無いが、気を使われるほどでも無い。
衣装のオマケだと思えば然程懐も痛んだ気もしねえし。

リリィの問いに答えつつ、さてどんな悪戯をする気かと身構える。
身構えると言ってもそんな大袈裟なもんでもなく、ある程度の予測をしとくくらいだが。
こんな人混みの中で思い切ったことが出来るとも思えんし、そもそも外で出来る悪戯なんざたかが知れてる。

「……は? スマホ?」

悩んだ挙句に変な踊りまで始めたリリィが、唐突に要求をぶつけて来た。
スマホ?……まあ持ってはいるが、スマホで悪戯って何するつもりなんだコイツ……

「ほらよ。落としたりすんなよ、本体はともかくカバーは特注なんだからよ」

仮装のポケットに突っ込んでいたスマホを取り出し手渡す。
特殊な絶縁加工カバーに収められた、変哲もないスマホだ。

リリィ >  
真新しい柔らかな手触りを再度確かめる。
おかげで肩も首回りも冷たい風に晒されることはなくなった。

「そっかぁ……ありがとうございます。」

にまっというか、によっというか、そんな感じで頬を柔らかく崩してからお礼を告げる。
スカートが不自然に膨らんだりなんだりしているのは、きっと内側で尻尾が暴れているからだろう。

ふくふくとした上機嫌な笑みはしかし、悪戯が思いついた瞬間に別種のものに塗り替わるのだが。

「ええ、スマホです。持ってるんでしょう、出してください。」

片手はストールの合わせ目を握り、もう一方の手が掌を上に向けた状態で寄越せと強請る。カツアゲジャナイヨ。

「はぁい。
 えっと……カメラ起動して……あ、うぅん……折角だし、こう、かな?」

落とすなよ、の一言のみで入手したスマホをたしたしと操作して、カメラを少年へ向けようとして、はたとしたら、一旦端末を下ろして少年のより近くへと身を寄せる。
インカメにして、めいっぱい腕を伸ばして、

「はい、チーズ!」

カシャリ。
自分は笑顔で画角におさまるが、果たして少年はどんな顔をしていることやら。
確認しながらまた何やら操作を済ませた後に「ありがとうございました。」とお礼と共に返却。


さて悪戯されたスマホはといえば――ロック画面がツーショットに切り替わっている。
うっかり友人前で起動したりした日には恥ずかしい思いをすること請け合いだ!

武知一実 >  
リリィの反応を見るに、どうやらストールは気に入って貰えたらしい。
まあこれからどんどん寒くなっていくようだから、普段使いもしてくれたら買った甲斐があったというもんだ。

「我ながらよく似合ってんのを選べたと思うわ」

礼を言うリリィを見て、オレも満足げに頷く。
本当、その場にリリィが居なかったにも拘らず、ちゃんと合うものを選べたもんだ。
……まあ、ここんとこ数日おきに顔合わせてたから、ってのが大いにあったとは思うが。

「特に漁っても面白いデータ(モン)は何も入ってねーぞ」

そもそもあまり普段からスマホ使う方じゃねえからな。
そんなことを言いながら、スマホを操作するリリィを眺めていたが、
何やらスマホを此方へ向けたり、かと思えば止めて身を寄せてきたりとして忙しない。
何する気なんだコイツ……本当に。

「ん?……お、おう」

ああ、なるほど。写真、撮りたかったのか。
とは言えあまり写真に撮られることはねえから、どういう風に写れば良いのかいまいち分からん。
元から写真写りの良い顔だとは思っちゃいねえから、良いか。

「……おう、満足したか? というか、今は悪戯なのか……?」

ただの記念撮影では?と返されたスマホを仕舞いつつリリィへと訊ねる。
何となく腑に落ちねえ感じはするが、本人が満足げなので良しとしよう。

なお、帰ってから寝る前にスマホを開くまで、ロック画面が今撮った写真になっていることには気付かなかった事は置いておく。

リリィ >  
「う、ウワー! それ素で言って……るんですよね、知ってます。」

思わずウワーとか言っちゃうくらいに心臓がかゆくなる心地。
自然と赤らむ頬を手で隠しながら向けた丸い瞳は直ぐにスンとする。
ポンコツ淫魔とて自身が大概な自覚はあったが、本当にこの少年は酷い。

駄目だこいつ…早くなんとかしないと…。
の顔をするが、そんな顔してるポンコツ淫魔も淫魔でツーショ撮ってロック画面に設定するという思春期の少年には中々に悪逆非道な悪戯を仕掛けるのである。
いや、ちがうんす、ツッコミ待ちだったんす。ていう心の声は恐らく若者たちの歓声に掻き消されてしまうのだろう。

「立派な悪戯ですよー。」

確認しないようなので悪戯に関して触れるのはその程度。
驚くのか怒るのかしれっとするのか、リアクションを見れなかったのは残念だが。

まあいいやとすぐさまに思考を切り替える。

「さ、何食べます?催し物もあるみたいですよ!
 あ、ねぇ、ジャックオランタン彫り体験ですって。すごい作品がいっぱいあります!」

気軽に指差した体験コーナーでは各々が彫った南瓜頭が煌々と照っていた。
可愛らしいものやおどろおどろしいもの、或る意味で芸術点高いものなんかに紛れて、本職か?ってくらい精巧なフルーツカービングめくランタンもある。
南瓜の皮すごく硬いのによくやったなぁ、と感心頻りで唸った。

武知一実 >  
「何だよ、事実似合ってんだから良いじゃねえか」

何がウワーだ。そんなに変な事言った覚えはねえぞ。
ただオレの見立ても中々捨てたもんじゃねえな、って自画自賛しただけじゃねえか。
まあ、本人がその場に居たらもっと良いのが選べたかっつーとそうでもねえ気がするが。

非常に納得いかない感想を抱かれてるのは置いといて。
この数時間後、リリィの悪戯の真相に気付いたオレは……まあ、小さな驚きと納得はあれど、大したリアクションはしなかった。
ダチと撮った記念写真を設定する。まあ誰でもやってる事だしな。
むしろ本当に悪戯がこれで良かったのか、と改めて思ったりもした。

そんな悪戯タイムを終えて、次は何をと問うよりも早くリリィが提案してくる。

「初っ端何を食うかなのは、さすがってとこだな。
 ジャックオランタン掘り?……カボチャは埋まってるもんじゃねえ……ああ、彫る方か」

中身の抜かれたカボチャの皮を抉って刳り貫き、ランタンにする。
言葉にしちまえばそれだけの事だが、掛かる労力は比じゃねえだろう。

「リリィもやってみたらどうだ? アンタの腕力なら、カボチャの皮も大したことねえだろ?」

リリィ >  
「ヤメテ……ヤメテ……モウヤメテ……。」

両頬をむぎゅうと押し潰して不細工になりながら、消え入るような懇願を繰り返す。
が、居た堪れなくなってきたしさっさと場所も場面も移してしまわん。
だから切り替える声は殊更明るく大きかったかもしれず。

「どういう意味ですか!ハロウィンと言えばお菓子!悪戯!お菓子!お菓子!でしょう!」

ふぬすふぬすと鼻息を荒くしながらずらりと並ぶランタンの方へ。
内側で燃ゆる橙色の光が揺らめいている様子がよく見えた。
端の方では蠟燭が燃え尽きた順から捌けていっている様子。

「む、そりゃ力は問題ないですが……。」

ふむと息を一つ吐いて考える。
刃物、刃物か……扱えるかな。
簡易テントみたいな作業スペースを覗けばそれなりに賑わっているようだが。

「うーん、じゃあかずみん様がカボチャの顔を描いてくれるならやります。」

武知一実 >  
解せぬ。これじゃあ何かオレが酷い事をしたみてえじゃねえか。
まあ、この事は後でリリィをとっちめるとして、だ。
今は、今夜のこの祭りを楽しもう。そうしよう。

「いや、あんだけ吸っといてもまだ腹減る余裕があるんだと思って……」

万が一でもハロウィンナイト中に“空腹”にならない様にと直近の吸精ではだいぶ(無理やりに)吸わせたのだが。
それでも食い気は残るらしい。ここまで来ると最早食い意地な気がしないでもない。まあ人的被害が出ないなら可愛いもんだが。

居並ぶカボチャランタンを眺めながら、そういやこういう彫刻系の事はやってみた試しがねえな、と思い返す。
大抵の事は研究施設に居る間に経験したが、絵画とか彫刻とか……いわゆる芸術系の事はほぼ何もしなかったと言っていい。
異能を無能力者に植え付けるうえで、精神の豊かさはあまり重視されていなかったのかもしれない。

「……え、オレが顔描くのか?
 あんまり絵とか描いたことねえから、上手く描ける気がしねえんだがよ……」

まあ、やれと言われりゃやるけどよ。
作業スペースに置かれていたマジックペンを手に取り、手近なカボチャに顔を描き始める。必要なのは目と口か。


ん、んー……そもそも上手さの基準が分からねえが、まあそこそこ描けた方なんじゃねえだろうか。描いた人間と比べだいぶ人(カボチャ?)相も良い。
あとはリリィが巧く刳り貫いてくれるかどうかだが。

リリィ >  
ストールが冷たい風を遮ってくれているはずなのにぶるりと一度震えたのは何故か。
何故とっちめられることになるのか。
なんにも知らないポンコツ淫魔は今はただ呑気にハロウィンの夜を楽しんでいる。

「それはそれ、これはこれ。別腹なんですよー。」

困ったことにね、とは言わずにむくれた顔を直ぐ笑みにする。

やると決まったからには早速と受け付けを済ませ、空いたスペースへ並んで座った。
目の前には既に中身をくりぬいてある状態の小振りな南瓜と彫刻刀各種。
少年の方へマジックへ押しやって、それが握られたことを認めたら、少年の手元を窺いつつ彫刻刀のチェックでもしていよう。

「いいんですよ、へたっぴでも。楽しむことが大事なんですから!」

笑顔でサムズアップ。さて、少年はどんな顔を描くのか――。



「……意外と、ていうか、普通に描けてますね?ちぇー。」

顔が描かれた南瓜を受け取る。普通に、というか、存外まろく可愛らしい顔つきだ。
さてこれを台無しにしないように気をつけながらマーキングに添って彫り進めていくことにする。
硬い皮を削るパワーに問題ないが、逆に力を入れ過ぎないようにするのが大変だ。
ちまちまちまちま削いでいく。

武知一実 >  
「そういうもんなのか……難儀だな、淫魔ってのも」

まあ人間でも甘いものは別腹扱いすることもあるらしいから、淫魔に限ったことでも無いのかもしれねえが。
そういう意味だと、普通の女子らしいと言えば女子らしい、のだろうか。

そんなことを考えながら、カボチャに顔を描く。
そもそも紙に絵を描いた記憶もあんまり無いが、そんな奴がこんな球体に近い立体に絵を描けるのだろうかと、
自分に対して半信半疑だったが、意外とうまくやれるもんだと正直驚いた。


「まあ、あんまり歪なもん描いてアンタに手間掛けさせても悪いしよ」

意外とは余計だ、と思いつつ作業者をバトンタッチ。
リリィがカボチャを削っている間、周りのカボチャを眺めたりしていたんだが。

……何と言うか、こういう形状……どっかで見たような。

引っ掛かりを覚えつつ、他の完成されたカボチャランタンや、よその作成中のカボチャランタン未満を一通り眺める。
そろそろ目の一つでも開いただろうか、とリリィの方へと戻ってくれば、存外力加減がいるらしく、鋭意製作中だった。作業中って、あんまりじっくり見られてても集中できな―――あ。

「……リリィ、ジャックオランタンの顔の描かれたシャツとか似合うんじゃねえか?」

既視感の正体に気付いて、思わずそんなことを口走っていた。

リリィ >  
極々普通に、本当に何の気なしに告げられたから、ふ、と吐いた息が揺れる。
「そうですよ。」と返す言葉も何処か可笑しそうだった。


さて、削って削いでアウトラインを定めたら小刀を使ってちょっとずつ繰り抜いていく。
南瓜が小振りなこともあって然程苦労のある作業ではない。力加減さえ間違わなければ。

「へ?そうですか?」

目を二つとも繰り抜き終えて、口に差し掛かっているところだった。
牙部分の出っ張りが存外細かい。南瓜の角度を変えながら少しずつ繰り抜いていく中で、少年の言葉にキョトンとした。
どうしてその発想に至ったのか分からずに、素っ頓狂な声色だったかもしれない。

さてそうこうする間に共同制作のジャックオランタンは完成した。
ふぅ、と汗を拭う手がほんのりと南瓜くさいが、まあ出来は悪くない。たっぷり吸精させてもらってたのが功を奏したんだとおもわれる。

係の人に出来上がったものを手渡すと、ジャックオランタンの群れの中に仲間入りさせて頂けるようだ。
手を拭いて立ち上がり見に行こうと誘う。

武知一実 >  
オレに何か力になれることがあれば、と思うものの。
現状以上の協力は思い付かず、リリィの返答に曖昧に相槌を打つに留めた。


カボチャの刳り貫きも残すところ口の部分だけだったので、そのまま作業を眺めていく。
オレだったらもう少し時間を要してたんじゃねえか、と思える辺り、やっぱりリリィの腕力あってこそだろう。

「……ん、ああ。ふと思っただけだから、忘れてくれていい」

そんな最中に何を口走ってしまったのか。
少し落ち着いて考えてみれば、だいぶ問題発言だったのでそっと忘れる様に進言しておく。
相手がリリィじゃなかったら、意味を察せられて文句の一つでも飛んで来ていたところだったろう。


そんなやりとりを経て、刳り貫き作業も完了した。

「おお、綺麗に描いた通りに抜いてくれたんだな。
 サンキュー、リリィ。上出来だと思うぜ」

汗を拭うリリィにねぎらいの言葉を掛けて、ある意味共同制作のジャックオランタンを見送る。
とはいえオレは目と口描いただけで、大半はリリィの努力の賜物なんだが

そんなランタンが他のと同様に展示されると聞いたリリィの誘いを受け、断る理由も無いと頷きを返す。
どんな風に明かりが灯るのか、興味が無いと言えば嘘になる。連れ立って展示場所へと向かうが……
いやホントいっぱいあんなぁ、カボチャ。聞いたところによると全部農業地区で収穫されたものらしい。

リリィ >  
「?」

怪訝そうに片方の眉を吊り上げて首を傾げながらも作業に戻るポンコツ淫魔――の、繰り抜いた破片が胸元へ飛んで跳ね返る。
南の瓜よりも西の瓜よりも、ポンコツ淫魔のたわわは柔らかいのであった。まる。



「ふふん、ちょっとは見直しましたか?」

ドヤ!ばいんっ!
とお約束の流れをこなして場を移す。
たくさんの灯りの中に紛れた自分たちのジャックオランタンは、可もなく不可もなくといった出来だろうが、一際輝いて見えたのかもしれない。

きれいですね、なんて一頻り鑑賞した後。

「隣で繰り抜いた中身を使ったお菓子が売ってるそうですよ、行きましょう!」

少年を誘って更に移動。
隣なのですぐだけど、作業スペースにいる人たちよりもこっちでお菓子を吟味している人たちの方が明らかに数が多い。やはりハロウィンと言えばお菓子なのだ、きっとそう。

クッキー、プリン、ケーキにパウンドケーキ、タルトやどらやきなんてものもある。
どれもハロウィンらしく飾られていて可愛らしい。

「いっぱいありますね!どれがいいかなー!
 ね、かずみん様はどれが食べたいです?」

ポンコツ淫魔は目移りし過ぎて選択肢を絞れない様子。涎垂れてるかもしれない。じゅるり。

武知一実 >  
咳払いをしてごまかす。
詮索されなくて助かった、と思いつつリリィの作業を見ていれば。
破片がバウンドする瞬間を目撃してしまった。……ストール着けさせて正解だったな。



「見直すも何も、これくらいは出来ると思ったから話振ったんじゃねえか」

まあでも頑張った頑張った、とドヤ顔で胸を揺ら――張るリリィを労いつつ展示場へ。
幾つものカボチャの中にあっても、自分たちで作ったものは一目で見分けがついた。
特別上手いわけでも、下手というわけでもないが、やっぱり自作したからすぐに見つけられたのだろうか。

横で感想をこぼすリリィに全面的な同意を返し。

「……ああ、そうだな。行こう」

リリィに誘われるままに移動し。
並べられたカボチャを使ったお菓子……スイーツ、って言うんだっけか。
大量に並べられたスイーツと、吟味する人だかり。この分じゃどこに行っても人は多そうだ。

「あー……オレは、どらやきかな。
 リリィも早く決めろよ、他を見る時間が無くなってくぞ?」

せっついておかないといつまでも選びそうだ。
並べられたスイーツの中から、どらやきを一つ手に取り、目移りしているリリィを見守る。
ああは言ったものの、気の済むまで選べば良いとも思っちまうな、この横顔は。