2024/11/13 のログ
ご案内:「落第街地下 金物屋「韴霊」」に御津羽 つるぎさんが現れました。
■御津羽 つるぎ >
落第街大通りの程近く、遺棄されて久しいオフィスビル。
そこの、地下駐車場へのシャッターが開いていることが在宅の合図。
封鎖された正面玄関ではなくそこを下ると、昼でも暗い駐車場の奥に明かりがある。
管理室兼、エレベータールームのドア横にある看板には"金物「韴霊」"と。
透明ガラスの自動ドアからは明かりが覗き、その中は無味乾燥なオフィスだ。
適当な応接セットに棚。いかにも事務所。生活スペースでもあるのか奥へ続く引き戸。
「さいきん冷えてきましたねえ――堪えます、とぉっても」
その応接ソファに座って、湯呑みでお茶を啜っているのは和装の女。
エアコンつけて、あったかそうなブランケットを膝にかけて絶賛チラックス中。
そう、電気が通っている。明かりも空調もある。
ご案内:「落第街地下 金物屋「韴霊」」に緋月さんが現れました。
■緋月 >
――入院中の知己である教師のお見舞いに向かう予定日の、幾日か前のこと。
「……確か、この辺り、でしたか。」
落第街の大通りを、手書きのメモを参考に歩く、外套に書生服姿の少女。
その腰には刀袋、メモを持たない手には更にもうひとつ刀袋が。
更にその背には、全長120cm程の、鞘に収まった片刃の大剣が背負われている。
「確か、この辺りの…オフィスビルの……地下駐車場の…シャッター……。」
不届き者に絡まれないよう、素人にも分かる程度に剣気を放ちながら歩を進め、探していく内に、
「あ、もしかしてここですか…!」
見つけたのは一件のビル。
正面玄関は塞がれているが、駐車場に通じるシャッターは開いているのがすぐ分かる。
念の為覗けば、その奥には灯りが。
「――ここ、ですか。」
諸事情で、鍛冶に関わるモノの噂を探し回る内に見つけた噂。
落第街に居を構える、作刀も承るという金物屋の話。
「ここなら、もしかしたら――――」
一度深呼吸。吸って、吐いて。
よし、と軽く気合を入れると、灯りの方に向かい足を進めて行く。
エレベータールームのドア横の看板を一度見上げ、目的の場所だと確信を得れば、ドアを軽くノック。
「――もし、どなたかいらっしゃいますか?」
■御津羽 つるぎ >
「ちょうどお仕事も切れ間ですし。思いついた習作でも鍛ちましょうかねえ」
ほわ。温かいお茶をすすりながらのんびりしていると。
どうやらお客様のよう。委員会の来客予定はなかったはずなので。
『どうぞお』
打てば響く鐘の音の代わり、ガラス扉越しにのんびりした声が返ってくる。
見てみると糸目の女がソファにくつろいでいるのが見えるはずだ。
扉横にはセンサーが。学生証が入館証になっている。
正式に届け出がなされている部活だった。
■緋月 >
「あ、どうも。では失礼して――。」
学生証――オモイカネ8を取り出し、センサーに当てる。
勿論偽造の類ではない、真正の代物。
これで入る事が出来るようになる筈。
ドアを開けば、ソファで寛ぐ女性の姿。
この人が此処の店主、だろうか。
――何しろ様々な魔術異能が存在する常世島。見た目だけで判断するのはよろしくない。
「…ええと、こちらのお店で、刀などを作ってらっしゃると耳にしたのですが。
……不躾ですが、「折れた刀」の修復、などは可能でしょうか…?」
誤魔化す事でもない。訪れた用件をストレートにぶつけてみる。
■御津羽 つるぎ >
「こんにちはあ。制作ですか?研ぎですか?」
いろんな依頼者を見てきている九年生は、訪れた客が大荷物の少女であっても驚かない。
のほほんとした所作は事務員といわれてもおかしくないやわらかさ。
「ははぁ、修繕の」
振られた話には、ちょっと眉毛が不思議そうにひゅんと上がる。
「それではご相談とお見積りを致しましょうね。
そちらにおかけになってください。依頼の品は、本日は持参されてますか~……?」
どうぞ、と向かいのソファを掌が示した。
折れた刀の修復は難行であるものの、出来るは出来るらしい。
■緋月 >
「あ、はい、持って来ています。
では失礼しまして……。」
勧められたソファに素直に座ると、柔らかい雰囲気の…しかし、女性としては
結構な上背のある女性に改めて向き直る。
(……大きい方だなぁ。)
そんな事を頭の隅で考えながらも、手にしていた刀袋の紐を解き、中身を取り出す。
「ええと、こちらの刀、なのですが……。」
取り出されたのは白い柄巻に白い鞘というとことん白い外見が特徴的な刀。
刀身の長さは、凡そ二尺四寸五分といった所。
端正な金色の鍔も特徴的である。
少し躊躇いながらもその刀を抜けば――
「……このような、状態で。」
濤乱刃文の刀身は、半ば程から真っ二つに折れてしまっている。
この刀に一打を入れた者の腕がよかったのか、破片の類はなく、見事な程の「両断」だ。
■御津羽 つるぎ >
お茶はキャスターのついたサイドボードに乗せて、少しテーブルから離す。
諸の手をしっかり消毒しつつ、卓上の依頼品を覗き込んだ。
「あらあ…本当にぽっきりと折れちゃってますねえ」
ちょっと驚き半分。
扱い方がよくなかったから折ってしまったのかとばかり。
「?」
不意に首を傾げた。折れ様よりも何か別のものが気にかかったようだ。
「さておき……」
顔をあげると、もう一方の刀袋のほうに視線を向けたらしい。糸目だ。
「それと、同じものですよね?長さも。たぶん重さも?
代替があるのにこちらの修繕をなさりたいのはどうしてでしょう?」
■緋月 >
「――――!!」
指摘に対して、思わずぎょっとしてしまう。
刀袋から出していないというのに、「ある一点」を除いて、見破られた…!?
「……何故、その事を…いえ、人には事情もありましょう。
お話頂けるなら兎も角、深くは問いますまい。」
ふー、と大きく深呼吸をして、腰の刀袋を取り、紐を解いて中身を取り出す。
出て来たのは、白い柄巻に白い鞘、端正な造りの金の鍔、凡そ二尺四寸五分といった刀身の長さ――
全く以て「同じ造り」、否、「鏡映し」の如き、一振りの刀。
「……代替、ではありません。
「こちら」が元々私の刀――「そちら」は、私の友人が異能を以て「複製」した…言ってみれば、「姉妹」です。」
僅かに躊躇ってから、どうぞ、と、自分の物だという刀を差し出す。
鞘の中の刀身は――見立て通り、長さは全く同じ。
それどころか、刃文すら全く同じだ。
手入れもしっかりされているようで、刃こぼれどころか曇り一つない。
唯一の違いは「重さ」。
折れた刀が圧倒的に「軽い」のに対して、無事な方の刀は遥かに「重い」。
折れている方が通常の刀よりも明らかに軽いのに対して、
「本来」の刀の方は一般的な日本刀のそれと比較しても、更に重い。
■御津羽 つるぎ >
「ああいえ、同じ品物だなあ~って、歩いたりすれば袋の中も動くでしょう?
どういう刀かな、くらいは、眼で視ればなんとなくわかりますよお。
そちらの大きな逸品もですけれど、同尺の刀の二本差しはめずらしいな……って」
素性を割っているわけではないようだった。
職業病からなる洞察でしかない。種のある手品だ。
「……ぅや」
恭しく受け取ると、ずしりと来るその重みに、眉がきゅっと寄った。
「まだまだ未熟ですねえ、私」
むむむ……と唸るのは、奇怪なる重みの刀。
どうやらそこまでは抜けなかったらしい。ということは。
「この重さが苦ではないのですねえ。
……一体どんな材を織ったものやら、私、こちらにも興味が」
ほほお……。と、軽く佩いていた依頼者のように、ずいと少し食い入った。
とりあえず、重いほうはしっかり返却しておく。
「こほん。……ちょっと不思議な成り立ちの品だなとは思ってましたけど。
異能による複写とは。重さがここまで違うとなると……。
すこし、拝見させていただいても?」
視るだけでは限界がある。
引き出しから手袋を取り出し、繊手にはめ込むと、折れたその品、検めてもいいかしらん、と。
■緋月 >
「あ、ああ…そういう事だったのですか…。
てっきり千里眼…透視の業でもお持ちなのかと…。」
割と本気で驚いていた書生服姿の少女だった。
とはいえ、「経験」からくる「洞察」で其処まで見抜かれるというのは、それはそれで驚くべき事。
「……私の故郷の里の刀鍛冶が、私が生まれた折に鍛えた…私の、半身といえる刀です。
里から出てから分かった事ですが…里の鍛冶師達が扱う鉄は、一般的な鉄に比べて随分と重い代物のようで。」
それは果たして鉄と呼んでよいのか。
とりあえず、自身の刀についてはそう説明し。
「はい、構いません。検分のひとつも必要でしょうから。」
詳しく調べたいとの説明には、否もなくそう答える。
その手の質問が来る事も、予想はしていたらしい。
――詳しく調べれば分かるが、折れてしまった刀自体も重さの割には非常に丈夫だ。
それこそ、複製元…書生服姿の少女の言う所の「姉妹」ともまともに打ち合える程には。
折れてしまったのは…恐らく、使う側の問題。
剣士としての業――実力の違いが、最後に出たのだろう。
■御津羽 つるぎ >
「驚かせちゃいました?あったら便利でしょうね、千里眼。
欲しいものの所在がわかったりすると、とっても……。
でも、私に出来るのは、金物を作ったり研いだりすることだけですよお。
それもまだまだ未熟で、目標には到底……あっその話はあとで詳しく」
ぴくく、と特殊な鉄やら、刀の来歴やらにひどく興味を惹かれたようだ。
腰が浮きかけるほどだったが、仕事中だったことを思い出したらしい。
恥じらうように咳払い一つ、そこから布で丹念に刀を汚さぬよう、折れた先を先ず取り上げる。
「…………ふむむ」
眼を重たげに開く。
切れ長の、隠す理由もないような、黒曜石のような瞳だ。
刃の表面、裏返し、切っ先を自分に向けたり。
「うーん……」
続いた唸り声は断面を覗いた時に。
「鍔元も剥いちゃっていいです?」
布のうえに、あらためて刃をそっと横たえると、巻かれたまま、刀としての体裁を整えている柄のほうに。
■緋月 >
「あっ、はい。私も検分を頼んでいたのに失礼して…!」
少しだけ赤面。
自身の刀に興味を持たれた様子を見れば、ちょっと体が硬い雰囲気に。
まあ、金物を扱うなら普通の鉄とは異なった鉄に興味を持つものなのだろうかと思い直し。
「――――。」
刀を検める和装の女性の一挙手一投足に少し緊張している風な書生服姿の少女。
直るかどうかも心配そうだが、それよりも検分の邪魔をしないようにとして、却って緊張してしまっている様子。
「あっ、はい、どうぞ。
確かに、詳しく見ないと分からない事もありましょうから。」
柄の方を指されれば、素直に首肯。
自分とは違い、そちらを見る事で分かる事もあろうか、と。
鍔と柄を取り外し、露になった茎には、見事に何も刻まれていない。
磨上げで失われたり、摩耗したという訳でもない。
献上品として敢えて銘を入れないというタイプの刀、と見ていいだろう。
…そして、柄を取り払った事で、頑丈さの正体の一端が分かるだろう。
覆い隠すものが無くなったので見えて来た、というべきか。
刀身そのものに、祈祷の痕跡。
最早呪法といっても良い程に偏執的な祈祷術による、概念的な「強化」だ。
それが「複製」の際にこちらにも反映された、という事になる。
複製であって「これ」なのだ。その元となった刀の方にも、同様の祈祷術が
掛けられていると見て、まず間違いはない筈である。
■御津羽 つるぎ >
手慣れた様子で目釘を抜き、握り手に向けて拳で衝撃を与えて柄を緩める。
流れるような作業だが、扱いは非常に丁重。
愛情といった気遣いよりも丹念な業務として、質実に仕上げられた動作。
あられもなく剥き出しになった茎の部分に、柄を緩めたあたりからなんとなく違和感はあったものの。
「ははあ。なるほどぉ~……」
両手でそっと目線の高さまで持ち上げて、しげしげと観察。
「真作と違って、軽いのに頑健なることの不可解がありました。
もし、これがほつれていたら祭祀にお願いしなければならないところですが……
……うん……うん。 だいじょうぶそうかな……?」
なにやら奇妙に頷きと納得を繰り返しながら。
やがて、分解された刀が綺麗に卓上に並べられることに。
「請願、祈祷の類が、そうとう入念に鋳込まれておりますね。
異能による複製で発生したもの、ではなく……おそらくこちらも模されたもの。
鏡にうつしたような違和感が、すこしばかり見て取れます。
単なる組成だけに依らない、無毀の護り……ですとか。
真作にも、おありでしょうか?お心あたりとかってあります?」
■緋月 >
慣れた手つきでの刀の分解作業。
流れるような、しかし傍目にも丁重だと分かる程の扱いで以て柄を取り外し、
観察する様子を固唾を飲んで見守る少女。
やがて、何某か分かったかのような言葉。
それに続く、見立てについて訊かれれば、
「祈祷の類――ですか。」
一度小さく首を傾げ、続いて顎に軽く手を当てて暫く考え込み――
あ、と思い至った点があった模様。
「…そういえば、子供の頃に聞かされた事が。
里の剣士の為に鍛たれる刀には、刀身が出来た所で里の呪法師が祈祷を込めて頑丈さを増すのだ、と。
特に――当主の家に生まれた者の為に鍛たれる刀には、それこそ数日単位で、途切れることなく
祈祷を込め続けるのだ――と、聞かされたことが、ありました。
間違ってなければ、それの為…だと思います。」
心当たりはそのものずばり。
しかも、数日単位での祈祷ともなれば、偏執的と思える痕跡も当然だろう。
常識的に見て、刀ひとつに対する執念が凄まじい。
■御津羽 つるぎ >
「……………」
眼を閉じてうんうんと話を聞いている。
胸前で腕を組み組み、依頼主の来歴を咀嚼する。
「ああ…………なんて……」
ぽつ、と呟きが零れた。
両手を解くと、頬に片手をあてて、溜め息。
「なんて劇的なんでしょう………!」
恋物語でも聞かされた乙女のように、もじもじと体を揺らしていた。
「特異な金属を使う里に生まれ育ち。
曰く在りの血筋に剣への強烈な執着を抱く一派。
ましてやそんな家の当主の血筋にあるだとか―――ああ、ああ!
まるで小説のようではないですかぁ……~~!
そう、剣士たるべく生まれたかのような……
うふ、うふふふ………ふふ……っ……ふへ……」
途中から、意識が奇妙なところに向いていたらしい。
危うい段階まで陶酔してしまった様子で、意識が妄想の世界に囚われているかのような。
■緋月 >
「………!?」
突然もじもじし始めたかと思ったら、何やら意識が妙な方向に向かったような言葉を
口から漏らし始めた和装の女性。
端的に言ってヤバイ。
流石に其処までの感情を書生服姿の少女が持つ事はなかったが、
それでもちょっと意識が変な方向に向かったのでは、と危惧してしまう。
見立ては凄いが…性格も何だか凄そうな。
「あ、あの、えっと…大丈夫ですか?
その――それで、こちらの刀は、直せますでしょうか…?」
とりあえず、一番重要な点を確認。
――剣士として生まれたか、についてはどう答えるべきか迷うが、「斬る」為の業――それを
剣士の技といっていいか自身はないが、それを幼少の砌より文字通り体に叩き込まれてきたのは事実だ。
兎も角、今は問題の女性に正気に戻って貰わねば。
(――しまった、名前を聞いておくことを忘れてました…!)
名前を聞いておれば呼びかけやすいのに、と、ちと後悔。
■御津羽 つるぎ >
「へはっ?」
緩みきった表情に声をかけられると、間の抜けた返答がかえってくる。
「――あっ! ああ……!
私ったら、すみません、すみません!
剣士への憧れが、たまにど~~しても抑えられなくってですね……」
顔を真っ赤にして、ぺこぺこと頭をさげた。
他人の人生への感情移入……なんていう。ちょっとよろしくない趣味の持ち主。
「そういう星のもとに生まれついてみたかったなあ……ああ、えっと。
そうですね、刀の修繕のご依頼でした――私ったらお客様にとんだご無礼を……」
けふん、と咳払い。
さてとあらためて両手を見せ、卓上に広げられた一振り。
「はっきり申し上げます。
"完全に元の姿に戻す"、という形の修繕は私には不可能です。
綺麗に断ち割れてはおりますが、その事実を覆すことはできません」
ぴったりとあわせれば隙間なく繋がるような綺麗な折れ方ではある。
だが、接着剤をつけてどうこうという単純な話でもない。
「その旨を、まずご承知くださいまし。
この刃物は一度折れた。その痕跡はどうしても残る。
人間でいえば傷痕のように、ですね」
刃は研げば痩せていく。
「承知頂けるのであれば、こちらからの提案は三つ程。
承知頂けないのであれば……申し訳ないのですが、私ではお力にはなれないかと」
■緋月 >
「あ、ああ――そういう…。」
何となく納得。つまり、剣を振るう者への憧れというか、何と言うか。
…まあ、そういう「憧れ」を持つ者がいるのは、わからないでもない。
「……私事ですけど、やってる事は地味ですよ。
刀を振るう身体作りとそれの維持、技の習得に文字通り体に叩き込まれて覚える…
流石に後者については木刀で、でしたけど。」
華麗…に見えるかも知れない外面の裏は、そんな地味な経験の積み重ね。
そればかりは、何処も同じだろうか、と思いながら。
「………。」
「完全に元に戻す事が不可能」と分かれば、流石に少しだけ沈んだ雰囲気。
とはいえ、そこも覚悟はしていたらしい。深い沈み込み…ショックは、ないようなものだった。
「――重々、承知しています。その刀を折ったのは…他でもない、私自身ですから。」
ただ一言。懺悔するようにそう告げてから、改めて向き直り。
「…今までは、刀の形に戻す手掛かりすらなかったのです。
一度折れたもの…傷跡が残るのは承知の上。
何卒、お願いしたく――!」
がば、と深々と頭を下げる。
放っておけばソファから降りて土下座しそうな勢いだ。