2025/01/14 のログ
ご案内:「金物屋『韴霊』地下工房」に御津羽つるぎさんが現れました。
■御津羽つるぎ >
時のいくらが流れようと、つるぎにとっては瑣末事。
作刀の納期と己の寿命以外に、日数を数える理由はない。
鍛えて鍛えて鍛えまくる。
而してこの御津羽つるぎ、剣や鍛冶を愛しているわけではない。
さりとて好きこそものの上手なればかりが世の倣いではない。
好きに比して勝る意がそこに在るなら全く以て差し支えない。
そうして今日という時にまたひとつ。
火之迦具土より産声を上げた刃金が闇のなか、炎を吸って妖しく揺らめく。
打ちっぱなしの一本限り。御津羽つるぎはそれでいい。
差し出されるすべてが唯一無二にて、商品として金銭あるいは物々交換でもって明け渡される。
そんなことを繰り返しているうちに年が明けていた。
いつものように。
■御津羽つるぎ >
「何処にや……」
青息吐息。
白鞘に込められる先行きを待つ刀を、まずは休める。
拵えは基本的に別の業者の担当だ。つるぎがそれを行うのはよほど特別な品だけである。
注文通り、それ以上のものを仕上げた。
だがこれは依頼主の意向であり、つるぎの顔は浮かばれない。
「喉が渇いてしまいましたね」
いろんな「できない」に日常を煩わされるつるぎも、茶を淹れることができる。
羊羹を切り分けることができないかわりに、冷蔵庫のいちご大福は格別の楽しみだ。
湯浴みをしたらちょっと休もう。夏場のように汗みずくの体は疲れを感じている。
そろそろお肌の曲がり角。もっといけばすぐに三十路だ。
そのときまで常世学園にいることになる気もしている。
道は、長い。長過ぎる。それは、それでいい。果てがある道ならば。
■御津羽つるぎ >
「さて」
時計を確かめる。正午も間近。地下工房は外を望めないので時計に頼るしかない。
「お昼寝はできそうですね」
予定を思うと、そんな言葉がまず。
監視対象と呼ばれる者たちに、いくらか縁はある。
とはいえ自分は風紀委員でもないし、監視対象だからと横の繋がりがあるわけでもない。
その枠組みによって自分を知ることができるわけだから、潜在顧客なのだった。
だから、自分はほとんどの監視対象との面識はない。
「やあでも、懐かしいですね」
遅れてちょっとした感慨があふれてきた。
最初は……そう……。
《幻想恐獣》と呼ばれるようになった女性が、初めて遭遇した監視対象だった。
否、出会いのしばらくあとにそうなった気がする。
どういう人間であったのか、どういう剣士だったのかは、殆ど覚えていない。
顔と明け渡した剣、それにまつわる人格評は思い出せるものの、
まあ、もう二度と会うこともない相手だ。
その剣について、人物について。聞き取りを行いたいという要請があった。夜には風紀委員がやってくる予定だ。
■御津羽つるぎ >
よいものをつくった。
いつもそうだ。
御津羽つるぎの産み出す道具は常々そうだ。
工房を出て、研ぎの場へ向かう。
そこにしっかりと守られていた、預かりものを一瞥する。
組成を調べたが、求めるものは得られなかった。
この贋作に対する真作への興味は尽きない。
ひとつ。
たったひとつ、御津羽つるぎという鍛冶師の中に在るこたえ。
剣に、刀に、道具に。
なにがしかの意味合いをもたらす《剣士》たち。
自分がそうはなれぬものたち。永遠の憧れ。
それらが思うことを問えば問うほど確かとなるもの。
問わず語るばかりでなし。
事のついでに説い申さん。
剣士よ。
■御津羽つるぎ >
什麼生――"よい剣とは何ぞや?"
ご案内:「金物屋『韴霊』地下工房」から御津羽つるぎさんが去りました。