2024/06/22 のログ
■伊都波 凛霞 >
「───……」
……病院に駆けつけた時には、既に"手術中"のランプが点灯していた。
この時期には珍しくない大雨に降られる中、何を考える余裕すらもなく走り…病院についた頃の姿はずぶ濡れで。
取り乱したまま、看護師の言葉も満足に耳には届かず。差し出されたタオルすら気づかずに、その姿を探した。
その内に数人がかりで抑えられ、落ち着くよう諭されて──。
手術中のランプが消えて、
ストレッチャーの上に乗せられ、手術室から出てきたのは……紛れもない、本当に、本物の……。
傷ついた…妹の姿だった。
手術を担当した医師は手を尽くした、という。
もう大丈夫、とは言ってくれなかった。
みっともないことなんて気にもかけず、縋るように喰ってかかった。──泣きながら。
もう数時間。
漸く少しだけ落ち着いて、
心配する父や母に"悠薇は大丈夫だから"、"私がついているから"と説得して、帰宅してもらった。
父も、母も、普段からそれなりに忙しい。その顔には当たり前のように、疲労の色が見えていた。
だから今は一人。
死んだように眠る妹の前で、座っている。
もう日はとっくに暮れて、看護師さんの持ってきてくれたタオルケットを受け取って、
ありがとうございますとまるで気持ちの籠もっていない言葉を返してしまいながら……・時計の針の音を聞いていた。
涙って枯れるんだ。なんてどうでもいい真実を知りながら。
■伊都波 悠薇 >
目が、開く。
開いて、身体が、動かないことに違和感。
そして、見覚えのない、天井。
ようやく、事態を飲み込む。
あぁ、ここは、テンタクロウがいた場所とは違うところ。
そこまで思って。
「……いたい」
頭の痛みにぽつり、声が零れた。
■伊都波 凛霞 >
このまま一生意識が戻らなかったら…。
そう思うと、震えが止まらなくなる。
あの話をされた時にもっと本気で、絶対にダメだって、声を張り上げてでも言っていれば。
彼に興味を持っていしまった妹を、他のことなんてどうでもいいから、しっかり見ていれば。
何より──彼を取り逃がしていなければ。
ああしていればこうしていればと、思考のルー王が止まらない。
『───お前が選んだ道を、正解にしてみせろ』
無理だ。
妹が傷ついた結果を、このままいなくなってしまうかもしれないことを。
何をどうやったって、自分の中で正解になんて出来るわけが───
俯いて、ループし続ける思考を途切れさせたのは…小さな、声。
自分以外の声がするわけがない空間での、声だった。
「───っ」
立ち上がる。
勢いで、パイプ椅子がガシャンと倒れた。
──落ち着いて。
もう、一生分以上取り乱したでしょ──。
自分に言い聞かせてすぐにベッドの脇のナースコールのボタンを押す。
「悠薇───」
名前を呼ぶ。
すぐに駆けつけた医師達はが慌ただしく心拍数、血圧…あらゆるバイタルの検査がはじまる
それをただ、不安げな顔で見ていた──。
■伊都波 悠薇 >
ひとまず、安静に。
そう言い付けられ、身体を動かさないよう厳重注意。
どうやら、助かったのはわりと、幸運なレベルらしい。
それもそう。なにせ、直撃だ。
よく、生きている。
「…………姉さん」
一息、ついて。
また、二人。
「お水、もらえる?」
喉が乾いたと、気休めに口にしてみる。
決して、空気は軽くなることはないのだけれど。
■伊都波 凛霞 >
「……ん」
呼ばれ、不安げな視線を向ける。
……随分泣き腫らした顔。とても学校の皆には見せられない。
「うん」
お水は、飲みすぎなければ大丈夫と言われている。
部屋に備えついた冷蔵庫から水筒を出して、紙コップへ。
あまり冷えすぎてはいないミネラルウォーター。
注ぎ終われば、紙コップに蓋をして、ストローを挿す。
「…はい。顔、動かせる…?」
溢れないように少しだけ傾けて、そのストローを妹の唇へと寄せて。
■伊都波 悠薇 >
「ありがと」
そのまま、口をストローにつけて吸う。
一口、飲めば、身体に沁みる。
「姉さん、泣いてるの?」
口を離して、ぽつりと。
■伊都波 凛霞 >
「泣いてないよー。
これから悠薇を思いっきり怒らなきゃいけないんだから。
絶対ダメ、って言ったのに、危ないことして───」
して───死にかけて。心配を、かけて。
「───……、ぅ…」
コップを持つ手の甲にぱた、ぱた…と温かい雫が落ちる。
「…もう、目を覚まさないかと思った……。
このまま…死んじゃうかも、…って………っ…」
枯れちゃったと思ったのに、そんなことはなかった。
ぼろぼろと泣き始めた姉は、そのまま妹の横たわるベッドに縋り崩れ落ちる。
一度零れ落ちればそれは…。
「うぐっ…ひぐ、よかった…っ…良かったよぉ~…っ。
ほ、ほんとに、このまま死んじゃったら…どうしよう、ってぇ……っ」
止まらなかった。
あられもなく、しゃっくりあげながら…きっとみっともない泣き顔を。
ただ一人、妹だけがそれを見れる空間で…。
■伊都波 凛霞 >
──お小言も、お説教も、今はいい。
ただ二人だけの空間で、妹が生きている、その事実だけを抱き留めていた───
ご案内:「病院 病室」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「」に伊都波 悠薇さんが現れました。
ご案内:「」から伊都波 悠薇さんが去りました。