2024/06/23 のログ
ご案内:「麺処たな香」に田中 浩平さんが現れました。
田中 浩平 >  
「あざっしたー」

よし、昼のラッシュは乗り切ったな。
あとはのんびりとニュース番組でも見ながら業務だ。

とはいっても……ニュースは昼の13時20分になっても変わらない。
テンタクロウ逮捕のニュースだ。

ニュース >  
「テンタクロウと呼ばれていた指名手配犯、藤井輝の逮捕から一夜明け…」

「歓楽街の一部地域で彼と戦闘したと思われる跡地に」
「先日から行方不明になっていた風紀委員、天羽光さんが遺体で発見され…」

「関連性を調べると共に、余罪があるものとみて取り調べが行われるものと思われます」

田中 浩平 >  
「やばいっすね、テンタクロウのニュース」

常連さんたちに苦笑いを浮かべて見せて。

「逮捕されてくれて安心しましたよ、風紀委員の皆さんには大感謝だ」

それにしても、元風紀委員である藤井ナニガシは顔なじみと殺し合ったのだろうか。
ゾッとするなぁ。

ニュース >  
「藤井輝容疑者は島内某所の本屋で『冒険王ジャスティカ』『怪物ハンターの日常』など」
「複数のコミックを購入していたという話もあり……」

「続報が入りました、被疑者は風紀委員時代」
「斬奪怪盗ダスクスレイとの戦闘の後遺症で車椅子生活を余儀なくされていた模様です」

「また、彼の交友関係は……」

田中 浩平 >  
おいおい、そこまで放送して委員会(いいんかい)

報道系部活は超一流だ。
超一流だからこそ、これは引いちゃうぜ。

別に犯罪者に寄り添えとは言わないけどさ……

田中 浩平 >  
「オレンジジュースの氷抜きどうぞ」

注文通りにドリンクを置いて。

「なんか、フクザツな気分になっちまいますねぇ」

多分、視聴者がそう思うところまで計算づくだ。
ゆえに、報道系部活はキャスターに綺麗どころを揃え。
瑕疵のないニュースを作るために全力を出している。

これは島内の『知りたい』が生み出したグロテスクな芸術品だ。

ニュース >  
「また、亡くなった天羽光委員との関係について…」

田中 浩平 >  
ニュースのチャンネルを切り替えた。
このチャンネルはやさしいニュースだけやってる番組が13時くらいは流れている。

「見てる途中だったかも知れないけどごめんなー」
「でもラーメンが不味くなる、やめよやめよ」

新聞紙を開いて、同じような内容が書いてるのを見て苦笑いを浮かべた。

ニュース >  
「常世動物園でカピバラの赤ちゃんが生まれました!」

「現在はお母さんカピバラと一緒に飼育室にいますが」

「近日中に皆さんが触れる場所に他のカピバラと一緒にデビュー予定です!」

田中 浩平 >  
落差エッグいな!!

まぁ、犯罪者の過去を暴くニュースよりはずっと平和なラーメン屋向けだ。
明日からこのチャンネル多用してもいいかも知れない。

ラーメン、雰囲気、命!

ニュース >  
「話題のオモイカネ8、買えましたか!?」

「実はこのオモイカネ8、すっごい新機能があるんです!」

「使いこなせてるあなたも、そうでないあなたも!」

「今すぐ使えるマル得情報を試してみませんか!」

田中 浩平 >  
「はーい、僕はオモイカネ8でーす」
「みんな注文しないみたいだから携帯デバイスいじっちゃいまーす」

冗談っぽく店内に宣言して携帯デバイスを覗き込む。
ナユタはそろそろ退院したのだろうか。

MES:うっすナユタ、あれからお見舞い行けなくて悪いな。
MES:退院した? っていうか洗濯物とか溜まってねーか。
MES:困ってることがあったら言えよな、フレンド。

送信っと。

ニュース >  
「常世動物園の人気者、熊本弁で喋るマーモット、『オドン』くんの最新映像です!」
「彼一流の、『くマーモット弁』?をお楽しみください!」

マーモットが飼育員に真顔で洗われている映像が流れる。
あまりにも大人しい。

オドンくん(マーモット) >  
「えーもさいさい~~~~~~~!!」

もうどうにでもなぁれ、のテロップ。
スタジオから笑い声が響いた。

田中 浩平 >  
「いや熊本弁で喋るマーモットってなんだよ」

思わず笑っちゃうけど。
こういうニュースだけ見ていたい。

自分みたいな平凡オリンピック準優の人間には。
これくらいがちょうどいい。

田中 浩平 >  
お、ナユタからメッセージだ。

>MES:大丈夫、思ったより怪我の治り早くて無事に退院したよ。仮退院だけど。
>MES:ただ、両腕にちょっと傷跡が残りそうだって。まぁ勲章かなぁ。
>MES:困った事…あ、最近流行りの『オモイカネ8』だっけ?最新端末。
>MES:あれって今からだと予約でも厳しいかな?ちょっと興味あるんだけど。

やべーな。退院したのはいいけど傷残るんだ……
男の勲章にしたって悲しいだろそれ。

MES:マジかよ……その傷消せねーのか?
MES:まぁ本人が気にしないならいいんだ
MES:オモイカネ8はだいぶ入手競争が苛烈だぜ~?
MES:今度、入手作戦会議しようぜ!

送信っと。

ニュース >  
「次は……なんと、じゃんけんができる猫ちゃんの登場です!!」

「なんとこの猫ちゃん、じゃんけんを理解してるんです」

「ただパーとグーは出せてもチョキは出せません……」

「飼い主がパーを出すと猫ちゃんは悲しそうに鳴きます……」

猫(トウフちゃん) >  
「なぁん」

下のテロップに『反則でしょ……』の文字。

田中 浩平 >  
「いや可愛いな……!」

猫の悲しげな顔は、どこか愛嬌があった。
わざと負けてやれよ飼い主!

今日も平々凡々なラーメン屋の営業は続いていく。

ご案内:「麺処たな香」から田中 浩平さんが去りました。
ご案内:「常世の病院 病室」に伊都波 悠薇さんが現れました。
ご案内:「常世の病院 病室」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 悠薇 >  
泣いている姉の姿は、珍しい。

でも。

「うん。ちょっと、失敗、しちゃった」

いつも通り。
こんなことも、ある、という意味も込めて。
力なく笑った。

「姉さん、みたいに。やっぱりうまくできないみたい。私」

伊都波 凛霞 >  
「いいよぉ…。何だって‥。生きてるなら……」

震えて、喉に詰まるような声。
ぼろぼろとこぼれ落ちる涙はベッドのシーツを濡らしてゆく。

生きている。でも、まだまだ絶対安静…。
無理するから。無茶するから──。

「私みたいに…なんて、考えなくていいから…。
 もう無茶とか無理、しないでよ……」

成長は、少しずつでだっていいから。
心が握りつぶされる思いだった。悲痛な声で、縋る様に。

伊都波 悠薇 >  
頷くのに、抵抗があった。
無茶しない、とは言えなかった。

無理しない、とは言えなかった。

「姉さんは、そう、するのに?」

何故。

「私は、ダメ?」

確認するような、言葉。

伊都波 凛霞 >  
「………」

口を噤み、目尻を拭う。
小さく息を吐いて…少し、落ち着こう。

「…悠薇はまだ、未熟だからね」

ゆっくりと、頭を撫でる。
宥めるように、よく聞いて…と。

「身の丈が合うかどうか…。
 合わないものに手を出すのは…危ないよ。
 焦らず、ゆっくりでいいんだから」

伊都波 悠薇 >  
「……」

無言、と、思考。
もやが、掛かったように、何処か、納得できない。

「でも。姉さんが届かない場所に、手を伸ばすことは出来るかも、しれないよ?」

身の丈に合わない、ことはするべきじゃない。
理解はしてる。

「姉さん、が無理しても届かない場所にそれでも?」

伊都波 凛霞 >  
「悠薇…」

妹が、ここまで突っぱねたことは過去にはなかった。
だkら…今回の行動がただの好奇心と、無謀じゃなかったことはわかる。

「それは…」

「悠薇が危ない目に遭うなら、私はヤダよ…。
 ──今回だって、死んじゃってたかもしれないんだよ!?」

「…危ないから、絶対ダメって、言ったのに……」

再び、ぽろぽろと涙が溢れる…。

伊都波 悠薇 >  
「うん」

言われた。理解している。

「でも、姉さんも無茶、してる、よね?
きっと、もしかしたら、紙一重で死んじゃうようなことも、してる」

昔なら。

姉ならば、負けはしないと言えた。
でも、今は……?

「姉さん『だから』?」

妹は、確認するように言葉を、重ねる。

伊都波 凛霞 >  
「…私は無茶はしないよ。
 ちゃんと、可能な限りリスクを廃して…。
 勝算があること以外は、ちゃんと回避してる」

小さく、首を左右に振る。

「…だから、悠薇も無理はしないで。約束して」

縋るような眼。
お願いだから、二度とこんなことはして欲しくない。

伊都波 悠薇 >  
「……そう、なんだ」

でも、リスクは0じゃ、ないよね?

そう、浮かんだ言葉は。
飲み込んだ。

「頑張る」

約束するとは言わなかったのは、抵抗の意志が見え見えだった。