2024/06/27 のログ
ご案内:「病院 病室」に伊都波 悠薇さんが現れました。
ご案内:「病院 病室」に黒條 紬さんが現れました。
伊都波 悠薇 >  
「ご馳走さまでした」

少しずつ、少しずつ。身体がよくなっている気がする。

手を合わせて、ほんの少し。
遅い昼食を食べ終えた後、手を合わせる。

今日は、鮭の塩焼きだった。

骨が、少し多いような気もしたけど。
刺さって、痛かったけど。おいしかった。

ふぅと、息を吐いて。
下げ膳してもらった看護師に、頭を下げて。

また、ゆっくりとした昼下がり。

(…………ほね、か)

ぼーっと窓に顔を向けた。

黒條 紬 >  
「っと、お邪魔します」

扉の向こうから、声が響いてきた。
続いて、扉を小さくノックする音が、数度。

コンコン、というよりはこつこつ、と。
そのように表現すべきであろう。

柔らかで穏やかなノックが、
廊下の向こう側から響いてくる。

「連絡してた、黒條ですっ。
 悠薇さん、今入っても良いですか……?」

部屋の主に入室を確認するその声は、
先に連絡を渡してきていた、黒條 紬のものであった。

伊都波 悠薇 >  
びくぅ!

連絡は来ていた。来てはいたけど、跳ねた。
ベッドの上で間違いなく。

着地して、ぽよんとベッドに弾かれて、少し身体が痛む。

(どどどど、どうしよ。ほんとにきた。イタズラじゃなかった!)

ごごごご、と顔が強ばる。

意を決して。

大丈夫。いつもどーりに、ふだんどーりに。
していれば、だいじょーぶ。

「どうぞーーおっ」

最後、声が裏返った。

手で顔を覆った。

黒條 紬 >  
「あれーっ? あのー? 悠薇さん?
 だ、大丈夫ですか……?」

扉の向こうで微かに聞こえていた、同年代の女の声。
それが少しばかり大きくなった。
声量はありつつも、そのトーンはまた一つ落ち着いた、弱々しいような――
――要するに、とても心配している様子の声色であった。

「……は、入りまーす」

少しばかり緊張の色が見える声と共に、
その少女は入ってきた。

青紫の髪を揺らしながら現われたその少女は、
その顔を手で覆った少女を見るなり、小首を傾げた。
艷やかな青紫の糸の束が、ふわりと頬にかかる。
その表情は、すっかり困惑の色に染まっていた。

「あー、と?」

こういった局面で人間が取る行動は大きく分けて2つある。
距離をとって会話を続けつつ、様子を見る者。
すっと距離を詰めて、安否を確認しつつ声をかける者。

黒條の場合は、どうやら後者であったらしかった。

「そのー、大丈夫ですかっ?」

目線を合わせるようにベッド上の彼女の顔の近くまで頭を近づけて、
覗き込まない程度に首を傾げ、声をかけるのであった。
その表情はといえば……にっこりスマイル。柳眉は下がっているが。


そして、この状況。大分、距離が近かった。

伊都波 悠薇 > 「あ、はい。だいじょ…………」

顔を上げて一瞬の間。

ーーちっかい!!?

顔を背けるわけにはいかない。
いや、でも近い。女性だし、いい匂いがするような気もする。

でも近すぎないだろうか。
自分にはハードルが高い、コミュ力の高さを見せつけられている。

いやでも笑顔かわいいーって、そうでらななくて。


冷や汗が背を伝い。

「だ、だだだ、ダイジョーブデース」

外国人のような片言になりながら、強張った笑顔が出た。
悪い癖だ。

黒條 紬 >  
「あははー……大丈夫だったら良いんですけどっ」

強張った笑顔を見た紬は、頬に指を添えながら、少し困ったような、
安心したような。そんな微妙な色合いを唇に乗せて、微笑むのであった。

それを見ていれば、少しばかり心が和らぐように感じるかもしれない。

もしかしたら、その強張った顔を作り上げている、
固い緊張が、一枚一枚皮を剥かれるように、解けていくような――。
それくらいに穏やかの印象のある、笑顔だったろうか。

それもつかの間。
紬はすく、と立ち上がれば、
悠薇から少しばかり距離を置いた場所に立つ。


「これ、お見舞いの品です、置いておきますねっ。
 パイ生地サクッ、林檎がシャキッと。
 紬特製アップルパイ、いい感じに作れたので、
 また召し上がってくださいね~」

そう言ってベッドの脇にある机に、紙袋を置いた。
言われれば確かに、香ばしいバターの、甘い香りがするような気もする。

「……で、本当に大丈夫ですか?
 何か、お困りのようであれば、いくらでもお手伝いしますよ……?」

伊都波 悠薇 >  
女性だから、というのもあった。
これが男性だったら、もうスッ転んでいたことに間違いない。
が、表情や、声音から、気遣ってくれているのも感じたからか、少しだけ、落ち着いて。

(なんか、落ち着いてきた)

バターの香りを感じることができる程度には。

「ありがとうございます。その、わざわざ」

風紀委員。一緒なだけで、見舞いまでしてくれるひとは多くなくて。

「だ、大丈夫です。あの、姉さんのお友達、ですか?」

そっち関連だろうかと。
自分が仲の良い、友人だと感じるほど関わりがあった人物でなかったのは、事実。

「それとも、テンタクロウさん、関連のこと、でしょうか」

『落ち着いてしまえば』、すんなり、とんとんと話題がでてきた。

黒條 紬 >  
「んー、凛霞さんとお友達……という関係ではないのですが、
 仕事で少しご一緒したことがありまして」

んー、の声と同時に顎に手をやって、
視線を左に――先ほどまで悠薇がぼう、と見つめていた
窓の外に視線を移す。

「って、あ゛っ……!
 そっか! 私、何でここに来たのか連絡してないじゃないですかっ!
 こんなだから私はぽんこつ黒條って言われるんですよね……」

可憐な鈴の音を奏でていた声帯から一瞬、濁った声が出た。
同時に、白い両拳をきゅ、と顔の下辺りで握って。

「実は、テンタクロウ周りの事件を追っていた際、
 凛霞さんと協力関係を結ぼうという話になりまして……。
 
 さぁ頑張りましょー、って時に凛霞さんが、
 いきなり飛び出していってしまって……。

 その時に知ったんですよ、悠薇さん。
 貴方が、大怪我をしたってこと」

紬は、こく、と。真剣な表情で小さく頷いた。

「ここに来たのは別に、テンタクロウのことを聞きたいからだとか、
 そういった訳じゃありません。

 偶々その時に知って、まぁ……同じ委員会ですし、同級生ですし?
 協力者の妹ですし? 大怪我したって話ですし?
 というわけで、まぁいろいろな縁や、私の気持ちが重なりまして、
 こうして悠薇さんの所へやって来たわけですよ」

そうして、両手を腰にやり、そのようなことを口にした。

伊都波 悠薇 >  
絵になるな、と思う。
凄く、美人であるのは姉で慣れてる。
でも。目の前の人は別な意味で絵になる。
ひとつの所作、言動が、『嫌じゃない』。不快にならない。

そういう性分なのか、それともくんれんされたものかわからないけれど。それがより、話しやすくて。

「大丈夫ですよ。多分、私のほうがポンコツです」

くすりと、笑みがこぼれた。

「姉さんが協力をお願いするってことは、すごいひと、なんですね。少なくとも私視点だと、そうなります」

大怪我。そう、大怪我だ。
本当は嫌うべき、結果。だけど、どこか自分は満足感を感じていたから。

「わざわざ、ありがとうございます。姉さんは心配性ですから。びっくりしたのでは」

どこか、他人事な言葉が出てきた。

黒條 紬 >  
「あっ? あわわ、違います違いますっ!
 私から! 私から凛霞さんを見込んでお願いしたんですよ~っ!
 直前でテンタクロウと交戦していたのはあの方だったので……!
 
 凛霞さんからお願いされるほど?
 できる女だったら? 

 ポンコツだのお騒がせだの、言われてないですよ~。
 
 ……ま、このやり取りはここまでにしときましょう。
 
 謙遜といえば聞こえは良いですが、
 ぽんこつの競い合いなんてこれ以上、悲しいことないですからね……。

 少なくとも、そういうことがあった縁です、ということで」

これが一昔前の漫画であれば、
『とほほ』なんて言葉が最も似合うであろうその表情。

「そりゃまぁ、びっくりしましたけど……。
 正直、私はここに来て、悠薇さんにも驚いていますよ。
 
 テンタクロウに骨を折られた生徒には、肉体だけでなく、
 精神的にも追い詰められている方が少なくありませんでした。
 
 正直なところを申し上げれば、
 ここまで落ち着いた様子を見られるとは思っておらず……。
 
 あっ、いえ、元気なのは良いことなんですけどねっ!」

そこ大事です、と人差し指をピンと立てて、たはー、と
困ったように笑う紬。

伊都波 悠薇 >  
「そうですか?」

姉はそういうとき、妥協しない。
できない人はできないと切る。悪意がある人間には疎いが、こういう人物であるのなら……悪意を隠しているわけでないのなら、能力は有していると、そう思う。

……少なくとも、自分よりは。

「追い詰められはしませんでしたから。逆に、テンタクロウさんのほうが追い詰められているようでした」

思い返してみて。

「私には、テンタクロウさんが悪い人には見えず、スゴい人に感じたので。精神を病んだりすることはなかったですね。

…………大怪我をさせなきゃいけないと目に留まれただけ、ありがたい、ことでしは」

どこか、クライ。
なにかが、覗いた気もするが。

「…………風紀委員のお荷物ですし」

どこか、自嘲気味な言葉が、それなのかもと判断を鈍らせたかもしれない。

黒條 紬 >  
「ええ、まぁ……私はそう考えてますけど」

先ほど少しだけ置いていた距離。
その距離を、一歩分だけ、自然な形で近づけた。

 
「一応世間的には凶悪犯罪者とされているテンタクロウに
 スゴい人なんて言葉が、しかも悠薇さんから
 出てくるなんて、正直かなり驚きですね」

もう一歩、近づく。
 
「でも、まぁ少しだけ、理屈は分かる気もします。
 
 いえ、せっかくお話いただいたのだから、理解したい。
 そう思うから、私なりに無い頭を捻って考えるだけなのですが……」

むー、と。思案顔。視線は、清潔感のある真っ白な天井へ。
眉間に皺を寄せて、かなり考え込んでいる様子だ。
4,5秒ほど経った辺りで紬はその固い表情を解いて、
悠薇の方へ向き直った。

「真っ黒な人間なんて、この世には居ないですよね。
 
 世間で極悪非道とされていた人物が、逃亡先で
 一生懸命働いて、愛する奥さんの誕生日に花を買っていた、なんて。
 そんなエピソードを聞いたことがあります」

そう口にして、窓際に置かれた時計の方を見やる。
白い時計は窓から差す光を受けて、こちらに影を落としている。

「悠薇さんはきっとテンタクロウが持っていた筈の、
 黒でない、の部分に惹かれたのでしょう。
 
 常人であれば、暗い部分にばかり目がいってしまう筈です」

こつこつ、と軽い靴音。
ベッドの上の彼女の横まで向かえば、そこで失礼します、と。
近場の椅子に腰を下ろして。

決してバターの香りではない、また別の甘い香りがする。

黒條 紬 >  
「当然です。
 ネガティブなものを優先して見るように、人間はできている。
 聞いたことがあります。 
 心配だ、危険だ、このままではマズい――怖い。

 そういった感情は生き延びる為には必要だから、
 現代の私達に今まで受け継がれた機能だと」

椅子に座った紬は悠薇と横並びの形になる。
視線を彼女に合わせて、語を紡いでいく。

「でも、そういった機能(ほんのう)に、
 黒い感情に囚われてしまう方は本当に多くて。
 
 そんな中で、悠薇さんは。
 
 テンタクロウの中にを見た。

 あれだけ恐れられている彼に。
 
 そう仰るのであれば、それは悠薇さんの持つ、
 優れた能力だと私は思います」

にこり、と笑う。穏やかで、何処までも包み込むような微笑みだ。
そして眼差しはと言えば、爛々と輝いている。

「風紀委員は、
 そういった影を抱える人達に向き合うのが仕事だと、私は思います!
 
 なら、悠薇さんのような人間は、風紀委員に必要なのではないでしょうかっ」

ぐっと握った両拳を、紬は悠薇へ向けた。

「だから、そんな悲しいこと、言わないでくださいねっ」

伊都波 悠薇 >  
言葉遣いが、うまい人、だと思う。
気遣ってそうしてくれているのか、それたも思惑があるのか、また、素でこうなのか、どれかはわからないけれど。

ーー無礼ている?

どこか、そんな言葉が浮かんだ。
そんなわけ、ないのに。

何故か自分の腕の骨が傷んだ気がした。

「最初から、白であるだろうと思っていたわけではないんです。ただ、ちょっと、ほんのちょっとだけ。骨に拘っているのが気になっただけで。

そこに意味があるのなら話を聞いてみたいと、思っただけで」

その思考にいたったのは、悪いことばかり考えてし、姉に意地悪をする、悪い人、のせいだった。

「私の経験が活きた、だけです」

にへらと、力なく、笑った。

「でもほら、私が残念なのは、ご存じの通りですし」

悲しいこと、といわれると、そうなのかなと疑ってしまう。
社会への抗議。自分の抗議。ずっと抗議しているけれど、なかなか実を結ばない。

「テンタクロウさんは、方法が間違っていただけで、声をあげられる、逃げないスゴい人ですよ。だって風紀委員から、逃げなかったじゃないですか」

黒條 紬 >  
「なるほど、なるほど……」

興味深そうに、顎に手をやりながら。
紬は悠薇の言葉を聞いていた。真剣な表情だ。

「私は悠薇さんではないので、どれだけ考えたことを伝えても、
 思ったことを話しても、それはただの第三者()の言葉でしかありません。
 
 でも一つだけ伝えたいのは、
 悠薇さんはお荷物なんかじゃないってことです!
 話そうとする姿勢だって、大事な風紀委員の能力で!
 
 っていうか、私の方がポンコツで……って、
 これ、また同じ流れになるやつだ~……ここまでっ!」

頭を抱えこむ紬。

「でもまぁ……そうですね。
 風紀っていう組織から逃げずに居た、という点では確かにそう言えるかもしれません。
 お話すると、見えてくるものですね。
 
 私の頭の中だけでこねていた悠薇さんの考え方、ほんの少しだけ分かった気がします」

伊都波 悠薇 >  
「ふふ」

ループしそうになったやり取りに笑みがこぼれ、少し首を右に傾けると、前髪で隠れていた左目が、覗く。

左目が、アナタをまっすぐ捉えて。
泣き黒子、が妙に印象的だった。

「話をすることに意味がない、そういうひともいますけれど、話をすることで手を伸ばせるかもしれない。上でも下でもなく、隣で。

そうしたい、そうしていきたい。

そして、そうしてほしい。そう、私は『ずっと』思っていますから。

黒條さんは、そういうの、ない、ですか?」

黒條 紬 >  
「ま、色々言いましたけど……。
 
 難しいことは、私達がこの学園の風紀委員である以上特に、ですけど。

 どれだけスゴイと感じることがあったとしても。
 
 そこに善性や、白を見出したとしても。

 飲み込まれすぎないようにしなくちゃいけないのは、大切ですからねっ」

テンタクロウのことちょっと擁護しすぎましたし、と。
腕組みして、その言葉を言い放った。

――ま、悠薇さんに本当に伝えなきゃいけないのは多分、@こっち;@ですよねぇ。

彼女のことを深く知っている訳ではない。心の内など、読めよう筈もない。
しかし、紬の内心は――何処か彼女に、危うさを感じてはいた。

彼女の真意、そして現在の心境。それを掴む為に此処へやって来た。
そうして掴めてきたことがあったからこそ、紬はそのことをしっかりと伝えたのであった。


「私は風紀委員として、ちゃんと話を聞いて頑張ることは大切だと思っていますよ?
 ですが、私個人として、具体的にこの人! 
 みたいなのは、私の場合はちょっと浮かばないですね~。
 
 でも。うーん、強いて言えば、今は……悠薇さん(あなた)ですかね?」

悠薇の顔を見つめ返して、そう口にした。

「ポンコツだのお荷物だのお互いに言い合ってました、けど。
 
 悠薇さんのそれは、その……何と言いますか、凄くちゃんと受け止めなきゃいけない
 
 気がしていて。私みたいなお気楽者の考えているそれとは違う気もしていて」
 
そうして、一呼吸。

「私個人としては、ちゃんと向き合いたいなって、思えるように感じてしまって」

真剣そのものの眼差しを向けて、問いかける。

「隣でお話しちゃ、駄目(失礼)ですか?」

伊都波 悠薇 >  
「大丈夫ですよ。もうそれよりも、沼ってますから」

すぅっと、目を細めた。
そして思ったのは、姉。自分にそう、『まだ』言い聞かせる。

「ふぇ?」

まさか、このタイミング。対象に自分の名前が出てくるのは想像できなかった。

だから、変な声が漏れて。
バッテンを指で作り、口許に。なんでもない、アピール。

顔は真っ赤だけれど。

「わ、私ですか。受け止めるっていっても…………

姉が優秀で、妹は0点をとったりしてしまうほどの、愚妹、ってことより、深くってことですか?」

目線を下に。そして、チラチラと様子をうかがう。

「しつれいって、ことは……えと、ない、です、けど」