2024/08/12 のログ
ご案内:「『数ある事務所』」にDr.イーリスさんが現れました。
ご案内:「『数ある事務所』」にエルピス・シズメさんが現れました。
Dr.イーリス > 「ただいま帰りました」

お昼頃。イーリスは、メカニカル・サイキッカーと共に帰還した。
今朝方修理が完了した右脚。イーリスは二本の脚で歩いている。
そんなイーリスは珍しく小太刀を腰に差していた。

メカニカル・サイキッカーはなんと、腕が四本になっている。
そのメカニカル・サイキッカーの腰には三本の鞘と剣。

「決戦は……今宵。ふふ、準備万端です」

エルピスさんとの鍛錬で、痛みを巡廻させるよう意識して炉でエネルギーに変える技術も大分ものにしている。
それに、エルピスさんの呪いを弱める術もある。

エルピス・シズメ >    
「おかえり、イーリス。」

 歩いて玄関まで歩いて出迎える。
 彼の左手には本が携えられていた。

 当たり前になったやり取りを交わした後、イーリスの変化を認める。
 改修された四つ腕のメカニカル・サイキッカーと、雰囲気の違う剣。
 よく見ればイーリスも一本、腰に差している。 

「準備は万端かな。鍛錬の方も……なんとかなりそうだね。
 それと、迷ったけど……ナナにも正直に話した。彼女にも協力して貰おうと思う。」

Dr.イーリス > 微笑みながら、準備万端であると頷いた。

「エルピスさんが鍛錬に付き合ってくださったお陰でございますよ。エルピスさん、呪いの方……大丈夫でございますか?」

心配げに小首を傾げる。
ひとまず、応接間へと移動した。

「その本は何でしょう? ナナさんのご協力、それはとても心強いです! 具体的にはどういった協力でしょう?」

きょとんと首を捻った。
エルピスさんが呪われて、状況は好転したり悪化したり、目まぐるしく変わっている。
ナナさんはとても頼りになる方。凄く、心強い。

エルピス・シズメ >    
「うん。痛む。……痛いものは痛いって、ナナに言われてね。
 慣れているとか耐えられるとかで、誤魔化さない事にしたよ。」

 今も尚、幸福に比例して苦痛を与える呪縛は励起している。
 痛みには慣れている彼ではあったが、昨晩のナナとの会話で認識を少々改めた。

「この本は……お義姉ちゃんから借りた魔王の力。」
「3回限定の強い力。これで呪いへの拮抗状態を作る予定でいたけれど……。」

 本が消える。
 出したり出来るタイプの魔道具らしい。

「ナナに呪いを断ち切って貰うプランを考えたから、これはバッファで残しておく。」
「……だから本番は、もっと楽にリソースの共有が出来ると思う。」

Dr.イーリス > 「そうですね、痛いものは痛いです……。痛みには……中々慣れないものです」

痛みの鍛錬をしても、痛みに慣れるという事はなく。
やはり、凄く痛い……。

「魔王の力……!? 気になってはいたのですが、あなたのお義姉さんはどのような方なのでしょう……?」

あまり、エルピスさんのお義姉さんのお話は聞いてなかった気がした。

「呪いを断ち切る、でございますか。ナナさんも、エルピスさんのために頑張っているのですね」

ナナさん、凄く頑張っている。
イーリスも、エルピスさんのために何かしてあげられたら、そう思って呪いを弱める方法は用意してきた。
いや、イーリスが用意したのではなく、湧梧さんが用意してくれたというのが正しい。

「エルピスさん、痛みと共に数多の呪いを私に流してください。今の私は、王熊の呪いはほぼほぼ効かなくなっているので、大量の痛みを流さなければ痛みも感じません」

王熊の呪いがほぼほぼ効かない。そうなったのに事情がある。

エルピス・シズメ >  
「でも、だからこそ……慣れすぎてもだめなのかも。」

 傷みは人間としての当然のシグナル。
 異能や感情として(リソースやドーパミン)それを良い様に扱ってきたけれど、
 実際に痛むイーリスと、客観的な常識として(いたいものはいたい)を忘れていた。

 もう一度、痛みに対して向き合った。

「切っ掛けは『生徒の身分をつくる方便』だけど、異邦の魔王様で、シズメのご先祖様を知っている人だった。」
「と言っても、力は回復していないし……この本も、かなり頑張って貸与してくれたと思う。」

「でも、とても面白いお義姉ちゃんだよ。」

 最後には一個人としての印象でしめくくる。
 色々あったけど、一番の印象はそうだったから。

「分かった。呪いを流すよ。」

 異能を起動して呪いを継がせる。
 『昼間故に月光を認識する』ことは困難だが、異能を伝って内にある呪いを与えることはできる。

 多くの呪いが、イーリスへと流れ込む。
  
 

Dr.イーリス > 「……慣れてしまう程に、痛みを味わうのも辛いものです……。エルピスさん……」

痛みに慣れるという感覚は、イーリスにはよく分からない感覚だ。
だが、痛みに慣れるというのは、想像を絶する痛みを経験したという事……。
エルピスさんを眺めるイーリスの双眸が少し潤む。

「二級学生として学園に通うという事ですね。エルピスさんは便利屋としての記憶もありますから、そういった事はお手の物なのですね。シズメさんのご先祖様……? それって…………」

イーリスの有する知識では、生徒の身分をつくるというのは学生証を偽造し、二級学生として学園に通う事だ。イーリスもそうして、生徒の身分を自ら作っている。
魔王、というのも驚きだが、魔王というぐらいなのだから長生きしている事は想像できる。
シズメさんのご先祖様と聞いて、イーリスは青ざめた。
エルピスさんには話していない。エルピス・シズメさんこと《囚う心》は、神魔の血筋を持つ人間の心臓を基盤とし、夥しい人々あるいは人外の血肉を混ぜ合わせたもの……。
シズメさんのご先祖という事はつまり、基盤となっている心臓の主あるいはそのご先祖、もしくは血肉を混ぜ合わせたもののどれか。

「いつか、お義姉さんの事を紹介してくださいね」

そう言って、微笑んでみせて。

エルピスさんからイーリスに流されていく呪い。
今のイーリスには王熊への耐性がある。それでも入り込んでいく呪いが多いと、それだけ痛みも感じてくる。

「……ッ!!」

伝わってくる痛みは、炉によりエネルギーに変わる。
そのエネルギーは、《パンドラ・コア》なるコンピューターの動力として働き、過酷な演算をも可能とする。

メカニカル・サイキッカーが携える三本の剣、その内の一本を手に取る。
端正な拵えの鞘に収められた直刀。どことなく厳粛な雰囲気を醸し出している。

「この刀は、《甕布都神(ミカフツノカミ)》。先日この事務所にお招きした湧梧さんより、“王”を滅するため借り受けた一振りです。古事記において、日本国の初代天皇である神武天皇が大和征服で力を発揮した、正真正銘神話の刀です。毒気を放つ悪神の大熊をこの刀で討ったとされていますね。また大熊を討つ前にはこの刀の力で、毒気にやられている神武天皇が起き上がったともされています」

神話の刀、その逸話を軽く話す。
つまりは、古事記において悪神級の熊を倒した逸話のある刀という事だ。
そして、“王”は熊である。

エルピス・シズメ >   
「異邦人保護と、義理の姉で通した(僕が身元保証人)から、実質一般。」

 条件が揃っていたので、書類を重ねて一般生徒として通した。
 手続きの困難さや制度への知識を要するため、誰でもそうできる訳ではない。
 福祉や制度を扱うにも、適切な知識と能力が必要だ。

「……今は気にしないで。僕も考えないから。」

 自身を構成する成果物──《囚う心》の詳細は聞かないことにしてある
 そう提案した辛そうなイーリスの顔は今でも思えている。

 声色から何かしらの引っ掛かりを覚えたであろうことを察して、
 気にしない様に慮る。

「勿論、紹介するよ。じゃあ……」

 練習も兼ね、呪いと感情、エネルギーの交流を異能を介して行う。
 異能による接続を介して、行ったり来たりを繰り返す。

 彼女を信頼して、加減はしていない。

「湧梧さん……あの時に湧梧さんから借りたんだね。
 ……あの王熊を退治するにはもってこいのルーツだ。
 ただ、油断はしないで。抗ウィルスみたいに、乱発すると対策されると思う。」

「ここぞ、がいいのかな。」

Dr.イーリス > 「異邦人保護の制度はありますからね。一般生徒で通える条件が揃っていたのですね」

イーリスは正式な入学が叶わなかったという事もあって、生徒の身分をつくると聞いて学生証の偽造という方向で考えてしまっていた。

気にしないで、という言葉に今は頷く事にした。
そしていずれエルピスさんのお義姉さんと出会うのを楽しみにして。

「……ッ!」

エルピスさんから巡廻する呪いの痛み、感情といったものが《パンドラ・コア》の動力に変わっていく。巡るエネルギーもまた、《パンドラ・コア》を激しく動かす。
そのエネルギーは《パンドラ・コア》の冷却装置にも働き、熱暴走もしていない。

「そうですね、油断は大敵です。大熊の毒気にやられた神武天皇がこの《甕布都神(ミカフツノカミ)》の力で起き上がったと言いましたよね。目を覚ました神武天皇はそのままこの《甕布都神(ミカフツノカミ)》で大熊を討ちました。毒気、“王”の場合は感染や呪いにあたります。この刀がある限り、私に王熊の呪いは通用しません」

悪神なる大熊から放たれる毒気からの克服の逸話、それが王熊からイーリスを守っている。神話の加護だ。

「《神話型魔術生成AI》!!」

それは神話を学習した魔術生成AI。
神話に連なる武器から、その逸話に由来する強大な能力や出来事などを再現させる。
元からある神話の武器の、その神話の力をさらに引き出し、概念的に再現してその効力を引き出す。
そして《神話顕現》と呼ばれる現象を起こす。
その代償として演算の負荷がとてつもなく大きいが、それはこれまでエネルギーを集めた《パンドラ・コア》がカバーした。
エルピスさんから想いと呪いを受け取ったからこそ、《神話再現》のリスクを押さえられる。

イーリスは、《甕布都神(ミカフツノカミ)》を鞘から抜いた。

「……が、ぐ…………あああぁぁあぐぐああぁ!!」

鞘から刀を抜けば、イーリスは悲鳴を上げる。これは《甕布都神(ミカフツノカミ)》のあまりに高い神性によりその神氣にあてられた事による苦痛だ。
だがやがて肩で息をし、落ち着かせる。

「はぁ……はぁ……。大熊の毒気にやられた者が刀の力で起き上がった逸話、つまり毒気──“王”の感染や呪いを消し去る効力があります」

イーリスは刀を振り上げる。

「エルピスさん、避けないでくださいね」

エルピス・シズメ > 「好い刀だよ。……そうだね。イーリスにあの王の呪いはもう通用しない。
 科学・異能・魔術・神話──全方面から対策し尽くされた王の呪いに妬いちゃうよ。」

 徹底した対策。
 イーリスがその境地に至る事が出来たのは、呪いに向き合い続けたからに他ならない。
 そんな気持ちで、軽口を叩いた。

 《想いを継いで》いる状態も安定している。
 事前準備は整った。ここから先は、その上のプラン。

 
 ──イーリスが神話型の魔術生成AIらしきもの起動した。
 異能を通してその事実と、漏出する負荷を受け留める。
 
(……神話には共通事項(mythology)がある。)
(共通性による概念の補強、幾多の伝承から最適を導く分析。)

(人と神の歩んだ道は大変容以前から記録に残る。)
(確かにAIと神話は相性がいい。だからきっと、細部まで演算できてしまってる──)

 それでも過度な負荷を堪えるイーリスを信じる。
 負荷を超えたイーリスが鞘から抜いて、切っ先を向ければ。

「分かった。イーリスも僕を信じて──ちゃんと振り切ってね。」
 

Dr.イーリス > 「呪いの対策にはとても苦労してしまいましたね。あらゆる手を尽くして重ね合わせ、ようやくここまできました。科学・異能・魔術・神話、それに加えて絆も合わさりますね。あなたの継ぐ力、その繋がり、絆が私を呪いから助けてくれました」

そう口にして、イーリスは微笑んでみせた。
科学・異能・魔術・神話・絆、様々な人達の力を借りた。
いくら“王”の呪いが強力と言えども、これだけの力が合わされば耐性もついてくる。

両手で振り上げた刀が眩く輝きだす。

「“王”の呪いを滅します。やああああぁぁ!」

あまりに素人な剣の振り方だが、そこはあまり関係ない。
それは神話型の概念能力。
その刃がエルピスさんの身体を斬る事はない。
代わりに、王熊の呪いを斬り、その効力を大幅に弱める。

呪いによる苦痛もかなり軽減されるはずだ。
それでも、呪いを解くには叶わないだろうか。“王”の呪いは強力だ。

(私が出来るのはここまでです……。あとは、ナナさんに任せます)

イーリスは慣れない素人の手つきで刀を鞘に戻す。

エルピス・シズメ >  
 不格好ながらも懸命な太刀筋でイーリスがエルピスの呪いを断ち切り、
 呪いの力を大幅に削いだ直後。
 
 まるで待ちわびていたかのように、たった一つの"慈悲"が浮かび上がる。

 例外処理;愛することは幸福に属せない

 彼方に消え去ったものが(無意識の奥底に持ち去ったものが)最後の呪縛として立ちはだかる(無意識で生き続けると示す)

「──ありがとう。すごく、楽になった。」

 最早例外処理は『意味を為さない』。 
 それは呪いを断ち切り弱めた故でもあれば、彼が不安や不信を乗り越えている故でもある。

 例外処理は弱めた呪いの核として、
 彼の胸に三日月の紋として集約され、現実に表象された。

 『最後の心残り(あと一押し)』の、顕れ。

「後は僕とナナでなんとかする。」
「決戦でも、イーリスは一人じゃない。僕が……ううん、僕とナナが居ることを、意識して。」

 イーリスに近づき、両手を伸ばす。
 拒まないのなら、抱きしめる。
  

Dr.イーリス > 呪いを斬り、そして弱める事ができた。
それでも、エルピスさんに呪いはまだ残っている……。
イーリスは今宵決戦だから、後の事はナナさんに任せたい。

エルピスさんのお礼に、イーリスは微笑んでみせた。

「《甕布都神(ミカフツノカミ)》は湧梧さんから借りたもので、その力をさらに引き出せたのはエルピスさんから借り受けた《感情魔力混合炉》、そしてあなたから継いだ想いや痛みのお陰です。私はそれ等を扱っただけでございますよ」

この解呪は、エルピスさんと湧梧さんのお陰。
湧梧さんから借りた剣の力を使っているが、エルピスさんは自身の想いと痛みをイーリスに循環させて、それが解呪に繋がっている。
これは、イーリス一人の力ではない。

エルピスさんが抱擁してくださった。イーリスも《甕布都神(ミカフツノカミ)》を壁に立て掛けた後、エルピスさんの背中に両手を回す。
エルピスさんの温もりが肌で感じられて、イーリスはにこっと笑みを浮かべた。

「ありがとうございます、エルピスさん……。必ず“王”を滅して、生きてエルピスさんとナナさんがいるここに戻ってきますね。私の帰りを待っていてください」

エルピス・シズメ >  自分の言葉を信じられるかどうか。
 この要素は、彼の人格の根幹に関わる大切な要素。
 根幹を揺るがす例外処理は、呪い以上に致命的なものであった。

 それが故に『防衛機制』が働き、形成されたばかりの彼の他我に役割を与え(ロッソルーナ・エミュレイタ)
 無意識に持ち去る形で『抑圧』されていた。

「じゃあ、皆の力。……湧梧さんにはお礼も兼ねて暑中見舞い、送らないとね。何が良いと思う?」

 "素麺とかじゃなくて、手間なく食べられるものがいいのかな。"
 恩人である客人への謝礼を考える。

 傷みなく、誤魔化しもない『幸福感に満たされた』抱擁を受ける。
 これが正常な幸福感であると、強く嚙み締め。

「帰りを待ってるし、応援している。」

「行ってらっしゃい。」

 接吻と共に、送り出す。(いってらっしゃいのきす)

Dr.イーリス > 「“王”を討てば、湧梧さんに剣を返す約束をしています。暑中見舞いに、そうですね、何がいいでしょうか。残暑見舞いになりそうですが、いずれ遊びに行く時に決めてもいいかもしれませんね」

笑みを浮かべつつ、そんな提案をしてみる。

呪いを弱めた。
安心して、エルピスさんを愛する事ができる。
もうエルピスさんを愛して、傷つける事もない。
それがとても嬉しい。

エルピスさんと唇を重ね合わせる。
とても温かい、エルピスさんの唇の感覚。

「行ってきます、エルピスさん」

エルピスさんに満面の笑みで手を振り、壁に立て掛けていた《甕布都神(ミカフツノカミ)》を持って、メカニカル・サイキッカーと共に外に駆け出した。
帰ってくる場所がある。力を貸してくれた人達がいる。

──“王”に、負けるはずがない!

ご案内:「『数ある事務所』」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「『数ある事務所』」からDr.イーリスさんが去りました。