2024/09/01 のログ
■エルピス・シズメ > 「あ。ご、ごめん。気を付けるね。」
獣耳があったら項垂れてそうな雰囲気で、頭を。
ナナはナチュラルに受け容れていたので、自制を失念していた。
「そ、そうなんだ。噂ってやっぱり尾ひれが付くんだね。
とりあえず、気を取り直して……説明を続けて。」
冷静に話を聴く。
肯きなどで動作による反応はあれど、最後まで口を挟まずに聞き終える。
「話をまとめると……ギフトの黒幕……『ギフター』と呼ぶね。
その人と面識があって、集会でちょっかいを掛けて追い回されている。」
『ギフト騒乱』。彼は一連の出来事をその様に纏めている。
少しだけ集中して記憶を手繰って、情報を整合する。
「たぶんだけど、そこは気にしなくて大丈夫だと思う。
ナナはほら……あの気質だし、イーリスは……元々少なからず因縁があるみたい。」
事実を混ぜて伝える。
黒幕と思わしき人物とイーリス個人の関係、推定《ネオ・フェイルド・スチューデント⦆。
明確にはしないが、懸念するヘイトの増減は誤差だと案に告げる。
「だから、何かあっても赫さんのヘイトだけじゃないと思う。
むしろ、そもそもギフターさんは……。」
■赫 > 「いんや、別に悪い事じゃねーだろ。人生に潤いが出来るのは良い事だって。」
まぁ、それはそれとしてイラッとするけどな!…くそぅ、モテる男はいいよなぁ!!
…と、内心で軽く荒ぶっていたが直ぐに落ち着いた…モテないの今更だしね…。
「まぁ、お陰で魔力が増大したりメリットはあったけどさ。」
デメリットもかなりアレだが。何せじわじわ竜化していってるのである。参った。
とはいえ、ギフトの事もあるので自分自身の肉体の問題については後回しにする。
「あぁ、実際にギフターと名乗ってたぜその旦那。あ、外見は白黒の仮面に灰色の髪の毛だったかな。で、白だったかスーツ姿。
話し方も貴族というか紳士的な感じだけど、底知れないモノはあったなぁ。」
実際に本人に会って会話をした上での第一印象だ。
そして、彼は逃げも隠れもしているつもりはなく、堂々としている。
実際、あの感じでは本人は全くそのつもりはなさそうだ――むしろ。
(――ギフトを授かった連中の一部が無駄に旦那を神格化しすぎてる気もするよなぁ。)
だからこそ、軽い挑発で少年が異常にヘイトを買う結果にもなったのだが。
まぁ、どのみち少年のやる事は一つだ。連中の”敵”である事。以上でも以下でもない。
「――そっか。まぁ…。」
その先の言葉については口にはせず。
ただ、珍しく少し真顔で目を閉じて考えている様子だったが。
と、軽く一息零してから改めて視線を彼へと戻そうか。
「んで、こっちがある意味で本題。イーリスにもナナにもまだ話してない。
――俺は2年前まで正規学生だったんだ。ついでに風紀委員会に所属してた。
…ただ、まぁ”色々あって”当時の同僚を一人、再起不能にして逃げ出してる。
その際に、俺を追ってきた風紀委員の腕利きが数人…今も行方不明だ。」
死体は見つかっていない。そして少年がその追手たちを処した訳でもない。
ただ、状況的に少年がやったと見なされて罪状が上乗せされてしまっているのだが。
「…そういう訳で俺は今も手配されてる身だ。2年前だから当時を知らない連中も多いだろうけどさ。
少なくとも、風紀のデータベースやブラックリストみたいなのには俺の名前と顔はばっちり載ってる筈だ。」
今は偽名を名乗っているし、当時より顔つきも精悍になっているが、分かる奴が見れば分かる。
だからこそ、少年は迂闊に表を出歩けないのだ。二級学生の身分にすらなれない。
何せ、風紀で当時の自分を知る者がまだまだ在籍している可能性も高い。
「ま、誰一人殺しちゃいねーけど、かなりやらかしたのは事実だからな。」
■エルピス・シズメ >
「そうだね。イーリスと出会えなければ事務所は忘れ去れたままで、
僕が故エルピスを継いだ再現体であることに向き合うこともしなかったし、幸せにもなれなかった。」
記憶を思い返す。彼女がいなければここは無かった。
……ただ、そうはならなかったと、今は思いたい。
運命のお相手。僕にとっての煌めきで、@虹の根元;幸せ。
その位、大事な想い人。
今度は口に出さないようにして、話を戻す。
竜化の話も頷いて聞いた事を示して、続きを促す。
「そうなんだ。……うん。大体整合が取れた。
僕が聞いているギフターさんの人物像とも、大体あってる。
だから、赫さんのヘイトは気にしなくていいと思う。」
情報を整合する。
同時に、自分が認識しているギフターもそれであることも明かす。
名前の合致はたまたまではなく、わざと、だろう。
イーリスの言うギフターと、黒幕のギフターは同一人物。
イーリスを介して伝えられたメッセージも恐らく真。
目の前の赫さんが語る印象も、イーリスからの証言で抱いた人物像に通じるものがある。
ギフト騒乱への整合が終われば、本題を聞く。
風紀委員から逃げてお尋ね者で、二年経過。
それで表向きの場所には出辛い。
「……そういうこともあるよね。うん、直接的な何かはできないけれど、それとなく配慮は出来ると思う。
そんな大変な眼に遭っても不殺を貫いて退けて逃げ続けられる赫さんは、強いね。」
「ちょっと……羨ましいな。」
エルピス・シズメとして人を殺めたことはない。
故エルピスの記憶にも便利屋としては恐らく無く、
公安時代にも直接的な殺害はない。
それでも、今に至るまで胸を張って誰一人として殺してはいないと言える彼の強さに羨望を覚えた。
■赫 > 「――ま、”もしも”の事なんて考えてもしょうがねーよ。
今は今だ。オマエさんとイーリスがこうして一緒に居るのが結果で全てだろ。勿論ナナもな。」
もしもの事を考えなかった事は無い。だが、考えても何も変わらないのだから。
だったら今を考えろ、先を見据えろ、過去は思い返してもいいが振り返るな。
過去に囚われてる限り未来を見据えるなんて出来ないんだから。
(――ま、エルピス達の詳しい事情なんて俺はなーんも知らんけどな。)
ある意味で無知で無責任だから、こうして言いたい放題出来るとも言えなくも無い。
まぁ、ナナも含めてこいつらは良い人生をこの先も送って欲しいもんだと思います。
「――ふぅん?成程…まぁ、俺は俺で勝手に動くさ。
勿論、エルピス達に変に火の粉が飛ばないようには配慮するけどよ。」
【悪竜】は悪竜らしく、連中の”敵役”で居るべきだ。
どうせ何割かは勝手に”脱落”していくだろう。あの調子だと。
――問題は、ギフトを正しく己のモノにして、尚も己の為に反逆をする一部のやべー奴らだ。
「いやいや、配慮して貰えるだけマシだって。それに俺は別に不殺を貫いてる訳じゃねーさ。
そういうのはイーリスの方だろ。俺は殺すと決めたら迷いなく殺すから。」
ただ、殺すと決めた相手が幸運にも目の前に現れていないだけで。
イーリスのように不殺を貫くほどの”強さ”は少年には無い物だから。
「――だから、エルピス。俺を羨むのはお門違いだぜ。
そういう意味で眩しいのはオマエの大事な彼女さんだ。」
と、肩を竦めて笑って告げる。自分なぞ羨んでも彼にプラスになる事なんて何一つない。
■エルピス・シズメ >
「ん……うん。そう、だね。
今と未来は──大事。」
歯切れが悪いものの、前を見て頷く。
過去についてはともかく、今と未来は大事で、結果がすべてだ。
(僕にとっては、過去と、もしもは……。)
エルピスにとって、それらは切っても切れないものだ。
ほんのわずかに、気を落とした。
とは言え、含ませた身の上に反応する素振りもなかった。
特に踏み込んだり、興味を示す様子はなさそうと判断して感情ごと話題を流す。
(尚更、必要があれば迷いなく殺せるって言えるだけの強さがあるって、こと……だよね。)
出掛けた言葉を呑み込む。
些細な覚悟や力量の話で、感情をこじれさせるものでもない。
ただ……。
「イーリスが素敵なのは単なる不殺とかそういうものだけじゃなくて……
なんて言ったら、良いかな……恥ずかしいから、ないしょ。」
無邪気にくすりと笑って、惚気る。
イーリスの魅力は、主義主張や実力の話だけじゃないから。
もちろん、含まれてないとは言わないけれど──語り出したら止まらないから、歯止めをかけた。
■赫 > 「――っていうのはあくまで俺の他愛も無い意見だけどな!
オマエにはオマエなりの譲れない過去だとか思いがあんだろ?多分。ならそれは大事にしとけ。」
興味は示さない、踏み込みもしない、と見せかけて不意に笑ってそう付け加えた。
何処か悪戯顔なのは、彼の態度から過去やもしもの事は自分自身と切り離せない何かがあると察したのだろう。
あくまでただの居候の個人的な意見。彼には彼なりの考えや思いが当然あるんだから、それを否定なんて出来る訳もない。
「――あと、一つ釘を刺しとくけど。俺は三流剣士なんでそこはよろしくな。」
彼の思考を見抜いた、訳では無さそうだが小さく苦笑い気味にそう告げる。
迷いなく殺せるという覚悟がある”だけ”で、それを実行する強さが伴うとは限らない。
彼が自分を三流と評する自己評価の低さは、そもそも自分の強さを信じていないに等しい。
「あーはいはいご馳走様だよ本当に。俺にゃ多分分からない事だからな。」
肩を竦めて吐息を零す。少年にはそういう存在が居た事が無いし、これからもおそらく居ない。
だから、惚気も多分に交えたそれを理解する事が出来るかは怪しいもので。
■エルピス・シズメ >
「むー……赫お兄ちゃん、変な所で察しが良いんだから。
それはそれ、これはこれでいるつもりだけど、中々難しいね。」
わざとらしく頬を膨らませて、態度を軟化させる。
何はどうあれ慮って貰えるのは、嬉しいこと。
気の配れるお兄さんのように思えたから、ふざけ半分でお兄ちゃんと呼んでみた。
その一歩は、大事なもの。エルピスは、そう考えている。
一歩が前でも後でも、近づくものだと考えている。
「気持ちは分かるけど……。
それなら、僕は九級便利屋……いや、68級ぐらいにしちゃおうかな。」
釘を刺されたので、非現実な数字を出してそんな冗句を飛ばしてみせる。
自己評価の低さそのものには共感を覚える。自分も弱いなりに頑張って、
そう思って半ばで死んだ故エルピスの継承された子として、ここまでたどり着いたと思ってる。
「きっと、誰も分からないよ。分からない事を知ってるから……
一生かけてイーリスの事を愛し続けながら、理解をしようと思ってる。
……出来るかどうかじゃなくて、頑張る。」
年にそぐわぬ、感情への彼なりの覚悟と哲学が伺える。
道半ばで死んだ故エルピスからとして継いだ遺志と知識と、
年若きエルピスとしての強い想いが合わさった覚悟。
エルピスが、この事務所を存続させ続けられるだけの知識を実力を動員できるだけの理由。
本心としては自己評価が低く、性格が甘い。
そんな彼に動機と理性を与え、多くの課題や危機に手を打ち、
時には格上相手でも怯まず立ち向かい、追い払う。
自己評価は低くとも、やる時はやる。
彼もまた、そのようなものの一人だ。
■赫 > 「そりゃ人間だからな…別に人間に限った事じゃねーか、この島じゃ。ともあれ色々悩んで選んで後悔して、それでも生きてくしかねーんだよな。…つーかお兄ちゃん呼びは何で!?」
と、そこはきっちりツッコミを入れるのがこの少年らしい。
まぁ、何だかんだ彼なりにこの家主を気遣ってはいるのだろう。
「――いや、この稼業だとオマエさんの方が俺より先輩じゃねーかな多分。何か貫禄が違うというか。」
2年前から始めたこの仕事だが、未だに零細何でも屋である。たまーに依頼は来るが割とグレーなものばかりだ。
まぁ、そもそもスラムに暮らしている時点でグレーなのは当たり前ではある。
まぁ、お互いどうにもそれぞれの理由で自己評価が低め、というのは共通点ではある。
こう考えるとこの事務所、女性陣の方が色々と逞しいのでは?と、思わなくも無い。
――一つだけ。少年は彼と違って受け継いだものが殆どない。唯一受け継いだものは…。
(…”善悪正誤より己の筋を通せ”って教えと…変な剣術だけだもんなぁ)
そういう意味では、過去と”もしも”と、そして受け継いだものがある彼は十分に強い。
単に戦闘能力という意味でもなく、精神がタフとも違う…それとはまた違う強さ。
(――本当、エルピスもイーリスもナナも。どいつもこいつも強くてたまんねーな。)
半ば自嘲気味に漏らす心の声。口に出すと嫌みや僻みになってしまうから思うだけに留めて。
「んーと、それで他に何か聞きたい事があれば遠慮なく聞いてくれ。
期間は未定とはいえ、それなりに長く居候させて貰う事になりそうだからさ。」
懸念などがあれば今のうちに彼の口から聞いておきたい、というのもある。
■エルピス・シズメ >
「貫禄は……なんていえばいいのかな。
伊達にあの世は見てないと言うか、何と言うか……。」
身の上と異能を凄く含むことなので、説明が少し難しい。
一方的に話したら困る類で、留意事項もないので、どこかで聞いたフレーズを引用する。
「……赫お兄ちゃんも考えるのだめ。仲良くしよ?
たぶん、みんな羨むものがあると思うから。」
さっきのお礼と言わんばかりに、沈潜思想な赫の思考に待ったをかける。
そんなことで隔意を作るのは本意ではないと、テーブルから身を乗り出し、笑ってじっと見つめる。
先ほどの赫が見せた表情に倣ったような、いたずらげな笑顔。
表情と仕草一つでここまで変わるものか、と思わせるような無邪気さと幼さ。
「っとと、そうだね……。
料理の材料費、赫さん自分で出してるところあるよね。
経費で落としつつ、仕事と見做して1割上乗せして返すから、きっちり計上して欲しいな。」
■赫 > 「…えー臨死体験でもしたのかよオマエさん……。」
もしくは、何か特殊な事情があるのか…まぁ、何かあるだろう多分。そんな気がする。
そこを深く尋ねる事はしない。それが少年のスタンス。
いずれ必要な時がくれば彼の口から語ってくれるだろうという判断だ。
「――いや、だから何でお兄ちゃん呼びなん!?…ま、無い物強請りなんて誰にでもあるわなぁ。」
あれもこれも羨ましい、妬ましい、なんて。誰にだって当たり前にあるものだろうから。
それはそれとして、やっぱり呼び方にはツッコミを入れるのは忘れない。
(と、いうかそういう仕草や笑顔されるとマジで男女分からなくなりそうなんだけどな!!)
あぁ、これはナナとは違う意味で性癖曲げられる男子とか出てきそうだな、という悟りの気持ち。
…考えたらイーリスも何かママみあるな…おい、性癖拗れさせそうな面子ばかりじゃねーか!!
(あかんこの事務所、早く何とかしねぇと…。)
でも俺一人じゃどうしよもないので、まぁ諦めるしかありませんね。うん。
「―――うわぁ、そう来たかよちくしょう。」
思わず渋い顔になる。確かに食費は自腹で出していたけれど。
居候だからそのくらいは、と思っていたが彼の方が上手だったようだ。
少し悩んだ末に、「わかったよ、正直俺の持ち金ギリギリだしな。」と、渋々了解した。
■エルピス・シズメ >
「エルピスは一回死んだよ。ここにいるのは、子として継いだエルピス。
イーリスと話して、そう思うことにした。」
ぢっと見つめる。
少しだけ真面目な視線だ。
「親近感沸くかなって──お兄さんの方がいい?
足りないものを補い合えたり、認め合ったりできたら平和なんだけど。
ここだと少し、難しいよね。」
故エルピスの事務所を継いでから、ほぼほぼ落第街で生活している。
時折男子寮に戻ってはいるが、生活の拠点は大切なものがあるこの事務所だ。
「……それともお兄様? は、流石に恥ずかしいかな……。
うん。赫お兄さんが一番しっくりくるかも。」
赫の内心はつゆ知らず、そんな風に言ってみせて。
「案外、こっちの方でも稼げるからね。
教養や事務、福祉や規則。そしてそれらの抜け穴と破り方。
知識と制度を叩き込んでおけば、破らなくても結構済むよ。」
「ここの人や迷い人にとって必要なものは、公安委員時代からよく見てきた。
それを仕事に活かせるようになったのは、暫く後だったけどね。」
少しだけ得意げ。
知らないものに制度を紹介するだけでも、ちょっとした仕事になる。
勿論、それを求める人を探す必要もあるのだが。
……半分ぐらい生活委員の仕事の横取りと中抜きみたいな側面はあるが、それはそれ。
「だから、食費もちゃんと処理するよ。これからよろしくね?」
にこりと笑い、座席とテーブルから離れて正しく近づき、握手を求める。
「赫さんも、困ったことや言いたいことがあったらいつでも教えてね。
僕もイーリスもナナも、きっと聞くよ。」
■赫 > 「ふむ…ま、俺が知り合ったのは今のエルピスだから”親”のエルピスの事は何も分からんけど…。」
肩を竦めて。「ま、それが過去と”もしも”を忘れず大事にするオマエさんらしいわ」と、笑った。
「いや、まぁ呼び方は余程変じゃなきゃ好きにすればいいけどよ…俺が反応できるかが問題だな…。
――難しい、かどうかはその時のあれこれによるけど基本はそうだろうなぁ。」
少年にとって、拠点を潰されて表にも出られないので今はこの事務所しか拠点が無い。
今の状況だとセーフハウスを確保する余裕も資金も伝手もないのだし。
「お兄様!?…俺は何処ぞの貴族様にでもなったのか。
まぁ、お兄さんとかなら…。」
お兄様は流石にぎょっとするが、お兄さんについてはまぁ、多分平気かなって。慣れんけど。
「――あー元・公安だったのか。そりゃ色々と法や抜け道にも詳しいわな。」
そして表や裏の事情にもそれなりに詳しいし情報収集も早い、と。成程、俺より全然何でも屋に向いている。
握手を求められれば、軽く頭を掻いてから右手を差し出して握手を交わそう。
「――ん、善処はするぜ。どのみち、暫くここに世話になる身だからよ。」
彼の言葉に、少々困り笑いでそう述べて。今の少年はそう答えるのがギリギリなのだろう。
■エルピス・シズメ > 「了解。今日の夕ご飯、期待しているね。」
善処すると答えた少年へ向けたエルピスの顔は、
これでお財布を気にせずにご飯を作れるよ、と、期待していそうな顔だったらしい──。
ご案内:「数ある事務所」からエルピス・シズメさんが去りました。
■赫 > 「へいへい、気合を入れて作ってやるよ。」
なんて、軽口を返しつつ。結局俺が料理当番で固定かよ!!
…と、内心でツッコミを入れる少年が居たとか何とか。
ご案内:「数ある事務所」から赫さんが去りました。
ご案内:「廃墟」に里中いのはちさんが現れました。
■里中いのはち >
その廃墟は、今にも無頼漢が飛び込んでくるような、スラムだ落第街だの場所にあるのかもしれない。
或いは、一般人が迷い込んでもおかしくないような平和な地区にあるのかもしれない。
或いは、異邦人だの魔物だの、そういった存在が現れる可能性があるような未開発地区にほど近い場所にあるのかもしれない。
兎角、人気のない何処ぞにて。
広げた懐紙を敷物代わりに、仄かに黄色みがかった粉が入った袋と、竹で出来た水筒を並べて座す忍びの男の姿があった。
■里中いのはち >
先日闇市で出会った女曰く、“その粉”は「きわめて中毒性が高く」「一舐めすると最後、その虜になってしまう」「数多の者どもがその材料を解明しようと挑んだが誰一人戻ってこぬ」のだそうだ。
聞くだに危険な粉だ。その女は後にこれを何故か幼気な子らに配り歩いたが。流れで手伝いはしたものの、忍びもびっくり仰天の所業である。
「然し、斯様なモノが存在すると知り、現物が手元にある以上……耐性をつけぬという択はなし。」
――恐らくは此方の世にのみ流通する特殊なモノなのだろう。
そうアタリをつけて腕を組み唸る男は知らないが、此の粉は、所謂ハッピーなパウダー……国民的お菓子にまぶされてる唯々おいしいだけの代物だ。耐性もなにもない。
否、粗食に慣れきった忍びの舌にはある意味で正しく危険な粉に違いなかろうが。そうとは知らず、頭巾の下では酷く真面目くさった面をしている。
■里中いのはち >
袋を摘まみ上げ、目線の高さで軽く揺らす。
眉間には深く皺が寄っていた。
「あ゛~……嫌でござる嫌でござる。設備無しに耐性付なぞするものではござらんよ。
だがまあ、幼子らの様子を見るにすぐすぐ廃人と化すほど悪辣なものではないようでござるし。」
袋の端を軽く千切って掌に少量盛ってみる。
口布を下げ、匂いを嗅ぐと、なんとも言えぬ馨しさである。
意を決し、舌先に極少量を乗せて待つ。違和感はなし。
伸ばした舌を口内へしまって味わう。
「……!」
墨色の目を軽く瞠った。
気付けばもう少しと求める自身を諫め、待つ。待つ。待つ。
■里中いのはち >
粉が溶けて唾液と共に染み渡ろうが、特に自覚できる変化はない。
強いて言えば、多少の昂揚がある……か?
「ふむ。」
竹筒の水を含んで流し、もう一口舐めてみる。
先程よりも量が多いように見えるのは気のせいではない。
「…………これは……なんとも、ううむ……甘じょっぱくて……。」
気付けば出していた量を舐めきっていた。
ぺろりと唇を舐めあげて余韻を楽しむ。げに恐ろしきは企業努力よ。
「成る程、確かにこれは危険でござるな。斯様に美味なるものがあろうとは。」
しかめつらしく唸り、残りの粉を睨む。もっと舐めたい。
しかしこの欲望こそが握るべき手綱に違いない。それに、大量に摂取して害がないとも言い切れぬ。
…、
……、
………。
「も、もうひとくち……。」
■里中いのはち >
手を伸ばしかけて、ハッとした。
慌て引き寄せた手で拳を成し、我が身の頬を強かに打つ。
「こうも見事に敵の術中にハマるなぞ、なんたる不覚……っ!未熟極まりないでござるッ!」
※敵などいない。
のは置いておくとして、苦々しく顔を歪めて射抜くが如く鋭い眼差しをハッピーなパウダーへ向ける。
じゅる……。
「……ではござらーん!」
唾を飲んで目を逸らし、直視しないように気をつけて袋を手に取り口を紐で括って懐へ。
そう、懐へ。
刀印を結び、「臨兵闘者(ry)」と九字を切る。滝行もおこなうべきか。
今後忍びのプロフィールに好物を記載するようなことがあらば、はっぴぃぱうだぁと記すべきやもしれぬ。おしまい。
ご案内:「廃墟」から里中いのはちさんが去りました。